おじさん(真) in 牢屋敷 作:ちょっと待って!
ただ早く書きすぎてキャラの解像度が著しく低くなっていると思うので、解釈違いが怖い人は目を逸らすことをお勧めします。
「私の体の状況、ですか?何も問題なんてありませんよー!」
「あなた、よく言えますわね。さっき筋痛めてる、って言われてたばっかじゃねーですの」
「うーん…でも、それって先生が言ってるだけじゃないですか?しかも専門じゃないんですよね?なら間違ってる可能性だってあると思います」
「確かに…見ててもそうは感じないかも…?」
シェリーは何事もないかのように一日中動いていた。
たとえ隠そうとしていたとしても、周りからの目がある限り何かしら勘づかれてもおかしくはなかった。
「確かにおじさんの勘違いかもしれないね。なら…シェリーちゃん、少し片足立ちしてもらってもいいかな」
「片足立ちですか?そのくらいシェリーちゃんにかかればちょちょいのちょ、わぁ!?」
「ちょ、シェリーさん?!」
片足立ちをしてから一瞬でシェリーがバランスを崩し、倒れる。
シェリーはどこか気まずそうにしながら、恥ずかしそうに立ち上がる。
「えへへ…自信満々だったのに、失敗しちゃいました」
「シェリーさん…あなた…」
「これだけで決めきるものでもないと思うけど、少なくとも不調だ、というのはわかってもらえたかな」
「一体、いつから…?」
「それが、分からないんですよね。体の不調だってさっき気づきました」
「「…」」
今になって、言葉の重さが理解できる。
どこか軽く感じていた『痛みを不快と感じない』ということ、その意味が。
「さっき、この屋敷に入る前。聞いたことがあったね」
「…ありましたっけ?そのあとが濃すぎてあんまり覚えてないですね」
「そっか、おじさんはこう聞いたよ。「治せるものなら、治したいか?」って」
「でも、私はずっとこうなんです。小さいころから、ずっと。だから──」
「それはなにも特別なことじゃない」
話を遮り、強い口調で言う。
今までの男と比べ物にならないほどの雰囲気に、シェリーの肩がびくりと震える。
「…ごめんね、怖がらせるつもりじゃなかったけどそれでも大切なことだったから」
「大切な…?」
「きっとシェリーちゃんは、それを魔法の後遺症だと考えているんだろうし、実際そうなんだろうね」
「なら」
「それでも、結局は人の体だよ。発端は魔法でも、その過程には人体のメカニズムが結局関係している」
シェリーが目を瞬かせる。
本人にとって考えもつかなかったことなのだろう。
「無痛症、という病気があるんだ。これは言葉の通り痛みを感じなくなる病気でね、先天性のものが多いけれど後天的になる場合もある。シェリーちゃんと似た症状の人も、きっといただろうね」
「…」
「シェリーちゃんの場合だと神経の損傷か、ストレスとかの心因性も考えられるかな?」
「先生ってお医者さんじゃないんですよね?なんでそんなに…?」
エマが質問する。
無痛症という単語はどこかで聞いたことがあるかもしれないが、それでもその症状や詳しいことなんて知らなかったエマからすれば、専門でないのに知識を持つ男が不思議に見えたからだ。
「もちろん、専門的なことは何も言ってないよ?知っている表層の知識を当てはめて言ってるだけ。それでも0と1には大きな差がある」
「…なら、治せるんですか?」
「断定はできないけれど、可能性はあるよ。それを調べるのはおじさんじゃなくてお医者さんだけどね」
「…私は、普通じゃないのに?」
「なんども言うようだけど、君の立場はなんら特殊なものじゃない。シェリーちゃんは普通の、ただのかわいい女の子だよ」
そこまで言うと、シェリーは押し黙る。
その様子を見た男は、慌てて口を開く。
「あ!いやその、か、かわいいというのはその、セクハラとかじゃなくてね?!その、率直な感想というか、世間的に見てそうというだけで…」
「台無しですわね…」
「いくら弁護士といってもおじさんである以上、社会的地位の低さからは逃げられないんだよ…」
落ち込み始めそうになった男は頬をぱしんとたたき気合を入れなおす。
シェリーはまだどこか放心しているような様子だった。
「それで、どうかな?治したいというならそのお手伝い…お医者さんを探したり、制度とかを利用できるようにおじさんが手配するけれど、結局はただの提案だからシェリーちゃんの好きなようにして大丈夫だよ」
「私は…」
シェリーが思い悩む。
男はそれを優しい目で見ていた。
「……お二人は、どう思いますか?」
「自分で考えろ、と言いたいところですけれど…」
「ボクは、なにがあってもシェリーちゃんはシェリーちゃんのままだと思うから」
「そうですわね…わたくしも同意見ですわ。何があってもシェリーさんはシェリーさんのままで、きっと空気も読めないまんまですわ」
エマは思うままに、ハンナはいつもと同じように軽口を叩きつつ、シェリーの言葉を促す。
「私、私は──」
一瞬、口ごもる。
しかし、すぐに口を開いた。
「私は、私を治したいです」
「皆さんと、同じようになりたいです」
「…何度も言うようだけれど、確約はできない。魔法による無痛症の発症なんて、前例がないだろうからね」
「それでも、お願いします」
シェリーは男をまっすぐ見据えて、男はそれに呼応するように頷く。
「わかった!なら、いろいろ下調べしなくっちゃね」
これから忙しくなるぞ、と気合を入れる男を横目に三人は話し始める。
「頑張ってね、シェリーちゃん。ボク応援してるよ」
「まだ詳しいことも分かってないですからあれですけど…治せるといいですわね」
「ありがとうございます!二人とも!」
元気に挨拶を返したのち、シェリーはまた再び頭を悩ませ始める。
「…どうしたんですの?悩むようなこと、まだあります?」
「うーん…悩むようなこと、というかわからないことなんですけど…」
「わからないこと…?先生に聞いてみる?」
「その先生についてのことです!」
そこまで言って、また頭を悩ませ始める。
言ってもいいものか、これで合っているのか、と考えているようにも感じた。
「……まぁいいです!言っちゃいましょう!」
「なんですの、急に。やけに勿体ぶりますわね…?」
今まで見たことがないくらい緊張している、というか戸惑っているように見える。
緊張という言葉がやけに似合わないシェリーにとって、その姿がひどく新鮮に映った。
深く息を吸って話し始める。
「私!先生のこと好きかもしれません!」
「…はぁ!?」「えぇ?!」
「確信はまだないですけど、たぶん好きです。いやー、シェリーちゃんちょろすぎない?とは自分でも思うんですけどね」
「ちょ、ちょろいなんて話じゃねーですわよ!まだ一日もたってねーですわ!」
「つ、つまり一目惚れってこと…!?」
「エマさんあなたすっごく興味津々ですわね?!あなたもツッコミなさい!一目惚れですらねーですし一日で惚れるのはちょろすぎますわよ!」
「まぁまだ勘違いの可能性もありますけど…あ!」
シェリーは「閃いた」とでも言わんばかりにぽんと手を打つ。
それを見たハンナは顔をヒクつかせながら問いかける。
「イヤーな予感しかしませんけれど…一応聞いておきますわ……なんですの?」
「私はいま私が抱いている感情が考えているものと同じかどうか判別できません!」
「そうだね」
「なら、同じ感情を持っているであろう人に確かめてくればいいと思いませんか?!」
「…!ちょ、ちょっとお待ちなさい!あなたまさか…!」
制止も聞かず、シェリーは止まらなかった。
「というわけで!ミリアさんに確認してこようと思います!」
「マジでなに言ってやがりますのコイツは!!!」
本来あり得ないことである。
いくらそれしか思い浮かばないとはいえ、恋敵(になるかもしれない相手)に自身の抱く感情が恋かどうか聞きにいくなどおかしいにも程がある。
しかしシェリー、という一点においてその波乱万丈さが受け入れられそうになっている自分に、エマは驚いた。
「じゃあ行ってきますね!」
「はやっ!?ちょ、ちょっとお待ちなさ…待ちやがれですわ!」
「嫌です!…っとと」
急に減速して、考え事をしていてこちらに耳すら傾けていなかったであろう男の方へと走り出す。
もう何をしでかすか分かったものではなかった。
「先生!」
「ん?どうかし──「私!先生のこと好きかもしれません!」──え?」
「なので、確認してきますね!あっ!さっき「普通」、「かわいい」って言ってくれたのうれしかったですよ!また言ってください!では!」
そう言って、走り去っていく。
そのあとをハンナが少し遅れながら追走していくが、追いつくには時間がかかりそうだ。
男は放心していた。
「えっと…先生?」
「………はっ!?な、なにかな?」
「大丈夫ですか…?」
「うーん…うーーーん……まぁ…冗談…かな?流石に…おじさんだよ?」
そういいながら、思い悩んでいるのを見るに、嘘ではないことが分かってしまったのだろう。
切り捨てられていないところにお人よしさがにじみ出ている。
「…女たらし…?」
「ちょ!?その不名誉なあだ名の贈呈はちょっと待ってほしいな!おじさんはそんなに誑し込めるほどモテないよ!悲しいけど!そ、それに恋に恋するお年頃だしね!きっといつか冷める時が来ると思うな!」
「うーん…」
そう、そうだろうか。
ミリアも、シェリーも、そういうタイプには思えないのだが。
初恋がかなわなかったとして、そのまま後生大事に抱えるタイプではなかろうか、あの二人。
…まぁ、どちらにせよ。
「がんばってね、二人とも」
どちらの恋が実るにせよ、実らないにせよ、友を激励するだけだった。
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「だ、だから…おじさんと先生はそんな関係じゃないよ」
「うふふ…そうなの……それはそうと、どうして自分の一人称を隠そうとなんてしたのかしら…?}
「それは、その…」
言い淀んでいると、シェリーが走り寄ってくるのが見える。
後ろからハンナも追ってきている。
何かあったのだろうが、今ではそんな二人も救いの手に見える。
「あ…!シェリーちゃん!たす「ミリアさん!ちょっといいでしょうか!」うえ?!ま、まぁ大丈夫だけど…」
何かあったのだろうか。
自分にしたい質問なら…先生に関することだろうか?しかし、それなら自分でなく先生に直接聞く気がする。
なら、なんだろうか。
自分と先生の関係に対する邪推でないことを願いながら耳を傾ける。
「シェ、シェリーさん!あなたちょっと待ち──「私、先生のことが好きかもしれません!!!」──お、遅かったですわ…!」
自分含めた周囲の少女たちが唖然とする。
すき。だれを?せんせいを?だれが?
シェリーちゃん?
え
「ええええええええ!?!?!?」
流石にシェリーちゃんちょろすぎない?という意見もあると思います。
ただ周りから変だとずっと言われ続けて来て、自分でも異常だと思っていた女の子が年上の大人に「普通」、「かわいい」って言われたら気になっちゃうと思いませんか?
にしても流石にちょろすぎ…?はい…。