おじさん(真) in 牢屋敷   作:ちょっと待って!

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ちょっと忙しくなるので投稿頻度が著しく下がると思います、申し訳ない…!

お詫びとして今回はほんのちょっと長めです。


おじさん(真)詰問される

「はぁ…」

 

訳あって、二階堂ヒロは頭を抱えていた。

その訳とは

 

「シェリー…随分と、随分なことを……」

 

先日、シェリーが起こした凶行が原因だった。

 

橘シェリーという少女は空気を読めないが、察しが悪いわけではない。

きっとミリアが例の男、先生のことを好意的に思っていることなど分かっていたはずだ。

 

そこで「空気を読めない」という欠点が牙を剥いた。

 

自分が抱いているのが異性に抱く好意、つまりは恋だとか愛というものに属するかを理解できなかったシェリーは、それを理解できる、しているであろう人に聞こうとした。

 

それが先の悲劇を引き起こした。

 

 

シェリーからの質問にフリーズしたミリアは、ショックのあまり気絶した。

その後シェリーは一時的にハンナ預かりになって、今頃説教…というほどでもないが、懇切丁寧に今回の行動の問題点を教えられているだろう。

 

とはいえ、先生が様子を見に来る頃には大方解決していた。

 

問題はそこではない。

それによって起きた副次的なところにあった。

 

(…浮ついている)

 

ここにいるのは皆年頃の少女ではあるため、仕方がないことではあるが色恋だとかそういうものに目がなかった。

実際自分も気になってミリアをからかう側に回っていたのだから、あまり責められることではない、ないのだが。

 

耳に入るのだ。

 

「先生ってカッコよくない?」だの、「おじさん、意外とタイプかも」という言葉が。

 

先生が好印象を抱かれるのは、まぁ基本的にはいいことだ。

しかし何事もすぎるとよくはない。

 

実際、彼の人柄は好ましいと言えよう。

少女たちに丁寧に寄り添う姿は確かに好印象を与えるものだ。

見た目も、当然年を重ねているため年相応と言えるほどではあるものの整っていると言えるし、身だしなみに気を使っているからか悪印象はない。

 

にしたってモテすぎである。

 

ミリアやシェリーを除いた少女たちはまだ冗談の域であるが、何かきっかけさえあってしまえば落ちかねないのではないか?とさえ憂いている。

このような閉鎖環境で、たった一人の異性であるのだから、仕方なくはある。理解できる。

女子校の男性教師は似たような状況になりうると聞いたこともあるし、そういうものだ。

 

それだけならば、歓迎できた。

我々が普通の少女であるのならば、誰に恋をするも自由だ。

事実魔法を失った私たちは普通といえるだろう。

 

 

しかし、過去の経験までは消えていない。

 

私は、最後の魔女裁判を思い出す。

あの時、朧げながらも過去の少女たちの経験、【トラウマ】とでも言うべきものを共有した。

あまり鮮明なものではないが、それでも私たちが抱く心の傷を理解した。

これはここにいる少女の多くが持ち得ているのではないだろうか。

魔女になるために、感情が揺さぶられらなければならず、そのために【トラウマ】が必要だった。

ならばこの屋敷にいる魔女候補であった少女たちには、【トラウマ】が存在する。

 

その上で、こう考える。

 

もし恋愛という戦争の末、トラウマが刺激されてしまったら、どうなる?

 

 

もし、刺激された少女がその衝動のまま行動してしまえば。

最悪の場合、考えたくはないが裁判を起こさなくてはならないかもしれず…。

 

今の私たちはいわゆる保護観察処分のような状況なのだから、外に出ることは叶わなくなるかもしれない。

 

杞憂かもしれないが、あり得るのならば対策しなければならない。

幸い、先生は少女たちと自身を分けている、というよりある程度は壁を作っているように見える。

 

少なくとも、欲に溺れるようなことはないだろう、と思える。

私は短い付き合いではあるが、先生を信用していた。

 

 

色恋沙汰が刃傷沙汰にならないように、先生を説得しよう。

きっと理解を示してくれる──、そう信じて先生がいる場所を訪ねるとそこには二人いた。

 

ここに来た目的である先生と、もう一人。

長く無造作に伸びた白髪と、パジャマのようにも見えるフリフリとした服。

自身もよく知る少女である夏目アンアンが──

 

「……う、うぅ…」

 

「こ、困ったなぁ…」

 

──瞳に涙を浮かべながら先生に抱きついていた。

 

「…」

 

胃が急速に痛くなるのを感じる。

…屋敷内に胃薬はあっただろうか。

 

思考が別方向に飛ぶほど、私の精神は限界を迎えていた、

 

〜〜〜

 

ヒロが男のもとに訪れる前。

 

二人が一堂に会したのは偶然だった。

しかしお互いに別のことをしていたため、会話はなかった。

図書室に男が入ると先客がいたため、挨拶を交わした程度。

 

「こんにちは、アンアンちゃん」

 

「…!?…こ、こんにちは」

 

驚いた様子ではあったが、挨拶は返してもらえた。

確執と言ったものはないようで一安心である。

 

していることといえばアンアンは執筆、男は調べ物。

お互いに別のことをしていると察しているからか近くには寄らなかった。

 

ほしてアンアンは少しの気まずさから押し黙り、男はこちらから踏み込むのはいかがなものかという気遣いから沈黙を保った。

 

幸いと言うべきか、二人とも沈黙を苦にはしない性質であったためさしたる問題はなくお互いがすべきことに没頭した。

 

 

ある程度調べ物にカタがつき、肩を伸ばし首を回す。

こういった作業でも以前より疲れてしまうのが年の嫌なところである。

 

ふとアンアンを見やると頭を抱えながら唸り声を上げていた。

よほど執筆作業が進まないのだろう。

 

腕を組み、少し考える。

 

…このくらいなら、いいかな?

 

そのように考えて、男はアンアンに近づいて行った。

 

「むむ、む…」

 

「やっ、アンアンちゃん。進捗どんな感じ?」

 

「!?」

 

アンアンはひどく驚いたようで、執筆途中の小説を落としてしまっていた。

あまり驚かさないよう気をつけたつもりだったが…きっと繊細な子なのだろう、と独り言つ。

 

「ごめんね、アンアンちゃん。驚かせちゃったかな」

 

謝意を口にしつつ、落としたものを拾う。

ふと小説に目をやってみるとあまり進捗が芳しくないように感じる。

何度か書いて消した跡が残っていた。

 

「あんまり書けてないようだけど…どうかしたのかい?」

 

「…うぅ」

 

問うてみると、肩を落としてしまう。

どうやら相当に煮詰まっている様子だった。

 

「…わがはいは、台本を書かなくてはいけない、のに…」

 

「台本…?」

 

もう一度小説に目を落とす。

 

…ふむ。

確かに状況説明が多いため、台本のようにも見受けられる。

小説を書いて大筋を作ってから台本として仕上げるのだろうか。

 

「…そうだ!息抜きがてら、少し話をしようよ。お茶持ってくるね」

 

アンアンがゆっくりと頷くのを見てから、お茶を準備しに行った。

 

〜〜〜

 

それから、口数の少ないアンアンを促す形で話を聞いた。

 

以前に劇をしようと計画していたが、日の目を見ずに終わってしまった。

だからもう一度…という経緯で台本の作成者としてアンアンに白羽の矢が立ったそうだ。

ならば以前のものをもう一度書けばいいと思うのだが…。

 

「それでは、ダメだ…前はヒロに大半を書いてもらってしまった、から」

 

「…だから、今回はわがはいが。わがはいの力だけで書いてみせる」

 

…立派なものだ、と素直にそう思う。

なんでも、夢は文豪──夏目の名に恥じないな、なんて思ったのは言わないでおくが──だそうだし、苦しい思いをしても自分の意思を貫き通そうとするのは簡単に真似できるものではない。

きっと、強く聡い子なのだろう。

 

…それはそれとして、執筆は滞っているようだが。

 

茶を啜る。

少しの間沈黙が場を支配した。

アンアンは少し考えたような仕草を見せた後、意を決して話し始める。

 

「…わがはいだけ話すのは不公平だと思わないか?」

 

「へ…?」

 

「ミリアとどういう関係なのか、聞かせてほしい」

 

ミリアとの関係。

この牢屋敷に来てから何度も言われた言葉だった。

まぁ色恋に興味津々な年頃だから揶揄いたくなるのは少し分かるが、揶揄われる側としてはたまったものではなかった。

 

なかった、のだが。

 

アンアンはこちらをまっすぐ見つめていた。

少なくともからかい半分で尋ねてきた少女達とは違うように感じた。

 

何かを見極めるような、確かめるような…そんな見定めるがごとき視線をアンアンは送ってきていた。

まぁそんな目で見られても…。

 

「ちょっとしたことで話す機会があってね。知っているかもしれないけれど、ミリアちゃんは弁護士を目指しているらしくてね…その関係で話すことがあったんだよ」

 

嘘ではない。

ミリアは現在弁護士を目指していると聞いたし、それ関連の相談を受けたこともある。

 

「…嘘だ。ミリアは先生みたいになりたくて弁護士を目指す、と言っていた。先生は"私"を救ってくれた恩人である、とも」

 

…うぅむ。そこまで言われると小っ恥ずかしくなるが、素直に嬉しいな、と感じる。お褒めの言葉はいつだって嬉しいものなのだ。

 

しかし、そうなるとミリアはかなり深いところまで打ち明けているのでは、と推測できる。

確かにアンアンとミリアはよく一緒にいた気がするし、打ち明けることもあるか…と納得できるし、そのような深い関係の友達ができるのはこちらとしても嬉しい限りである。

 

「…そこまで言ってるなら、良いか。

うん…とある事件、というか…まぁトラブルにミリアちゃんが巻き込まれることがあってね?それで少し力添えさせてもらった、ってだけだよ」

 

多少ぼかすが、これ以上はミリアから聞いてほしいと思う。

こちらとしてはミリアの負担になってしまうことを考えると下手に発言できないのだ。

こんなにも弱い社会的地位を許してほしい。

 

「…それで、【入れ替わり】の魔法はどうだった?」

 

「…え、え?!それも言ってたのかい!?」

 

それはあまり言わないでほしい、とお願いして……いや、魔法という秘密を共有できる相手が居たら、つい言ってしまうのも理解できる。

あたふたと慌てていると、ニヤリとアンアンの口が弧を描く。

 

「いや…これに関してはわがはいの憶測だ…ふふん」

 

アンアンは勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

年下の女の子に手玉にとられて、年長者の面目丸潰れである。

 

「いや、まぁその…トラブル解決のために一時期交換してはいたけれど…それ以上のことはなにも」

 

「お風呂はどうしてたのだ?一々入れ替わるわけでもあるまいし」

 

「…」

 

これに関しては本当に黙秘権を行使したかった。

無論やましい気持ちなど一切なかったが、それでも人間社会に関わる以上、やらなければならなかったのだから…。

 

ミリアのお目汚しをしてしまったとも思うが、その頃は精神に余裕がなかったであろうし、中年の裸なんぞに興味はないだろうからおそらく全く目を向けていないだろうことだけが救いである。

 

「いや…ホント、やましい気持ちとかは全く無かったことだけは信じてほしい…!」

 

「普段を見ていれば分かる…」

 

良かった、本当に良かった…!

やはり普段の行いはお天道様に見られているのだ…実際見ていたのはアンアンちゃんだったが、気をつけるに越したことはなかった、本当に。

 

「…まぁ、分かった。ミリアとそういう関係じゃないということは」

 

「分かってもらえたならなによ「ならばシェリーは?」うぐぇ」

 

一番今突かれたくないとこを突かれた。これに関してはこちらもあまり事態を飲み込めていないから言い訳も思いつかない。こんなおじさんのどこが良いのか、甚だ理解できない。

 

「噂になっている。シェリーを口説いた、と」

 

「えぇ?!そんな事実無こ──」

 

ふとよぎる、シェリーに放った一言。

 

 

『シェリーちゃんは普通の、ただのかわいい女の子だよ』

 

 

…あれか!?

 

「──ん!事実無根!事実無根です!少なくともおじさんはそんなつもりじゃなかったよ!」

 

そう捉えられてもおかしくない発言かもだけどそんな意図はない!

そう思いながら必死に弁明する。

 

「…そうか、わかった」

 

「ほっ…分かってもらえたなら良かった…」

 

「なら、シェリーが何を言われたのか本人に確認してくる。わがはいは言った側より言われた本人がどう思うかが大事だと思う」

 

「ちょ…!?」

 

まさに正論…!いや、ほんとその通りではあると思うんだけど…!

ま、まずい…このままでは無自覚口説きマシーンとしての悪名が広まって今まで築いた皆との信頼関係が…。

 

「ふふん、焦ってももうおそ…?…わ、わ…!」

 

「アンアンちゃん?!危ない!」

 

急に立ち上がったせいかアンアンちゃんが躓いて転びそうになっていたため怪我してはいけないと思い、庇うように手を伸ばす。

 

「ったた…大丈夫?アンアンちゃん」

 

「…」

 

アンアンは黙りこくっていた。

急なことであったため、抱き抱えるような姿勢になってしまっていたので、それが癇に障ったのだろうか。

 

「わ、ごめん!すぐ退くね?!」

 

そういって離そうとすると、逆にアンアンが服を掴んで離れないようにしてくる。

弱々しい力ではあるが、しっかりと握られている。

 

「あの…?アンアンちゃん…?」

 

「…おとう、さん……」

 

おとう、さん。お父さん…。

 

「…お父さん???」

 

年的には一児の父であってもおかしくはないが、娘を育てた覚えはさすがになかったしそも相手すらいなかった。

ともすれば…まぁ、ふと口から漏れ出ただけだろう。

政府の人間から聞いた話ではあるが、ここにいる少女達は何かしらの問題──家庭的なもの、友人関係など様々ではあるが──を抱えていると聞いていた。

具体例を知っている身からすれば、あり得る話だとは思っていた。

 

だから、そのメンタルケアをするのも役目であると言えるだろう。

…仕事としても、一大人としても放っておけない案件ではあった。

 

「……う、うぅ…」

 

しかし、まぁそれはそれとして。

 

「こ、困ったなぁ…」

 

困るものは困る。

知っていることを知識として出力して話すのと、行動に移すのとでは難易度が違う。

年頃の少女の慰めなど、中年からしたら一番困る事案であった。

手持ち無沙汰であったため、落ち着かせようと背中と頭を撫でる。

 

ふと視線を感じたので、そちらに目を向ける。

するとそこには唖然とした表情のヒロがいた。

 

…なんだか、すっごく勘違いをされている気がする。

 

「先生…

 

 

 

三人目か?」

 

「ちがうよ?!?!」

 

どうやら三人の少女を誑かす最悪の男として認識されてしまったらしい。

 

「流石に見境がなさすぎると思うぞ」

 

「ホントにちがうからね?!?!」

 

この子楽しんでやがる!!!

 

〜〜〜

 

転びかけたところを先生に抱き寄せられて、助けられる。

とてもビックリした。ビックリしたけど、それ以上に。

 

──暖かった。

 

これを感じたのは、多分今よりもずっと昔。

お母さんとお父さんをわがはいが壊してしまう前。

 

わがはいが怖い夢を見てしまった時に、お父さんに一緒に寝てほしい、とねだったことがあった。

それをお父さんは断らなかった。断れなかったのかもしれない。

 

それでも、安心できた。暖かった。

怖い夢を見ることはなかった。

 

それと同じ。

 

安心できて、暖かく、守られている。

 

気付けばわがはいは泣いていた。

 

先生は、突き放すことはしなかった。

頭と背中を撫でてくれていた。

泣くのを止めることはできなかった。

 

どうしようもなく、懐かしくて悲しくて、それ以上なにも、なにも…。

 

 

ヒロの声と、なにやら叫ぶ先生の声が聞こえたが、わがはいが泣き止むまで撫でる手が止まることはなかった。




アンアンちゃんがスケッチブックで会話してるから口頭で会話してるかは各々の解釈に任せます。
少なくともこちらが表記を分けたりすることは多分ないです。
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