あべこべ世界のいじめっ子(男)がいじめられっ子(女)に下剋上される話   作:フェルナンデス

5 / 5
蛇喰の世界が壊れる前日

 

 

カフェをでたあと、私は一人と悪魔一匹で駅に向かった。

夜風が冷たい。いや、冷たいのは心かもしれない。

さっきまで蛇喰といたはずなのに、隣には誰もいない。あの蛇喰とデートみたいなことをしてたなんて夢みたいだった。

 

スマホを取り出すと、画面には新しい通知が一件。

蛇喰からだ。胸がどくりと鳴る。何度か躊躇いながら通知を開くと、ゲームセンターでとられた写真が送られていた。

 

ぬいぐるみを抱えた笑顔の蛇喰と、顔を真っ赤にしている私。

消そうと思った。でも指が動かない。迷いながらも、私は写真を保存した。

 

『未練たらたらだね(笑)』

 

「違う」

 

『じゃあなんで写真消さないの?保存までしちゃってさ』

 

言葉がつまる。返す言葉がなかった。

 

蛇喰の笑顔を思い出し胸が痛む。そう、分かっていたんだ。からかわれているだけだって。傷つけられるだけなんだって。

 

でも、もしかしたらと思ってしまった。

ぬいぐるみを抱えた姿、猫の動画を見せてきた時の顔、プリクラで嬉しそうな顔。

 

全部、全部嘘だった。

 

「…最低」

 

思わず呟いてしまった。

 

『でも、楽しかったんでしょ?』

 

「…うるさい」

 

『傷ついた?』

 

「…うるさいって」

 

『好きになりかけた?』

 

「うるさい!」

 

夜道に声が響いた。慌てて周囲に誰もいないことを確認して、私は深く息を吐いた。

蛇喰は最低だ。人を傷つけて楽しんでいる。利用して笑っている。それを分かっていたはずなのに。私は騙された。蛇喰が憎くて、それ以上に自分が情けなくて悔しかった。

 

そして同時に、別の疑問も残っていた。

 

「なんで効かなかったの?」

 

『ん?』

 

「…催眠が。私はちゃんと目をみて念じたよ?泣いて謝れって」

 

あの時、確かに私は蛇喰へ催眠をかけようとした。目をみて集中して念じた。

 

でも失敗した。なんで?

 

『ああ、その話?ごめんごめん、私も予想してなかったんだけどさ、蛇喰くんって思った以上にめんどくさいタイプだったみたい。多分、警戒心が強いんだろうね。いや、そもそも他人に興味がそこまでないみたい。そういう人間って催眠が効きにくいんだよね。まあ私がやったら間違いないんだけどね!』

 

「…警戒心?」

 

『催眠は心の隙間に入り込むものだから』

 

「…私がやっても効かないかもって、なんで始めに言わなかったの?」

 

『聞かれてないもん』

 

思わず額を押さえた。そうだった。こいつは悪魔だった。日常に溶け込みすぎて忘れていた。しかし、そんな大事な話をなぜ最初に言わない?

 

『でも、私は君を褒めてあげたいよ』

 

「え?褒める?どういうこと?」

 

『だってあの時、蛇喰くんに少し効いてたよ?ほんの一瞬だけね。君、気づかなかった?蛇喰くん、少しだけ君を怖がっていた』

 

その言葉に胸が跳ねた。怖がった?あの蛇喰が?警戒心が強い?じゃあ、少し警戒を解ければ?油断させることができれば?

 

…勝てるかもしれない。

 

『あ。』

 

悪魔が笑う。

 

『今の君、すごく良い顔した』

 

私は返事をしなかった。

 

 

それから数日、学校は地獄だった。

最初は机の中にゴミが、次は教科書への落書き。ロッカーには潰れた虫が入れられていた。上履きは隠された。体操服は隠されて見つからなかった。机にはマジックで落書きされた。

最初は腹が立ったし、怖かった。でも、私はなにも反応しない。反応したら喜ばせるだけだ。ただ受け流す。そうしてるうちに、逆にあいつらのほうが苛立ち始めた。

 

『つまんなさそうだねぇ』

 

昼休み。私は机に突っ伏したまま聞く。

 

「誰が?」

 

『いじめてる側だよ。だって反応がないじゃん』

 

確かにそうだった。

朝倉たちは露骨に苛立っていた。

もっと怯えてほしい。

もっと泣いてほしい。

もっと壊れてほしい。

そんな空気が伝わってくる。

 

でも、私は別のことを考えていた。

 

蛇喰巳波。

 

あいつは今日も取り巻きを侍らせている。

優しい顔をして笑っている。誰かの相談にのっている。誰かを励ましている。完璧な人気者で善人。

 

『蛇喰くんって、やっぱりすごいね。関係ない顔をするのがうまい』

 

悪魔が感心したように言うが、私は黙って蛇喰を見る。そのうち蛇喰と目が合い、奴はうっすら微笑んだ。

 

…くそ、やっぱり可愛い…。でも今に見てろ、余裕ぶることができるのも今のうちだ。

 

その時、机の横に影が落ちた。

 

「ねえ」

 

聞き覚えのある声だ。顔を上げると朝倉だった。その後ろにはいつもの取り巻きが、ニヤニヤしながら立っている。

 

「最近さ、反応薄くない?前はもっと面白かったじゃん?最近全然普通じゃん!つまんないって!」

 

周囲は笑うが私はなにも言わない。というのも、最初に朝倉くんの、ちょっと可哀想な姿を見てしまったから少し罪悪感がある。

 

しばらくして、朝倉くんはつまらなそうに舌打ちをした。

 

「ほんっとつまらないね」

 

朝倉くんはそう言って笑った。

私は何も言わない。

 

だって。

もう少ししたら、その顔は笑えなくなるから。

 

 

放課後、誰もいない渡り廊下の前方から声が聞こえてきた。朝倉くんがスマホで誰かと話している。私は反射的に足を止めた。

 

「だから大丈夫だって!小鳥遊なんて全然平気だし!いや、最近反応薄いけどさ、巳波も気にしすぎなんだって!」

 

その名前を聞いた瞬間、無意識に拳を握り込んだ。朝倉くんは私に気づかず話を続ける。

 

「もう少ししたら潰れるって!うん、平気だから任せといてよ!…分かった、じゃあね」

 

通話が終わったようだ。朝倉くんは面倒くさそうに頭を掻いた。

 

「…ちっ、めんどくせえな…ん?」

 

その時だった。朝倉くんが振り向き目があってしまった。

 

「あ」

 

一瞬空気が止まる。

 

「…聞いてた?」

 

私は答えない。

 

『ほら。誰もいない。せっかく向こうから目を合わせてくれたんだから』

 

悪魔の声に心臓が跳ねた。

 

怖い。失敗したらどうなる?…でも。

 

蛇喰の顔が浮かんだ。あの顔、あの嘘、あの言葉。

 

…悔しい。その瞬間、迷いが消えた。

 

朝倉くんの顔をはっきりと見て、静かに言った。

 

「…朝倉くん」

 

「なに?」

 

私は目をそらさない。ただ見つめる。

 

次第に、朝倉くんの顔がぼんやりとしてきた。

私は唾をのみ込み、思いきって言ってみた。

 

「…今から三秒後、笑って」

 

一秒。二秒。三秒。そして…

 

ふっ。

 

朝倉くんが笑った。なにも面白くないのに。ただ命令されたから笑ったように。

 

ぞわり、と鳥肌が立った。

 

『おー』

 

悪魔が楽しそうに声を上げた。

 

『かかったね。初催眠おめでとう』

 

そうか、これが催眠か。初めてかけることができた…!

ただ同時に恐ろしくなって慌てて言った。

 

「も、もういい!笑うのをやめて」

 

ぴたり。

笑顔が消える。

まるでスイッチが切れたみたいに。

本当に。

本当に効いている。

 

「あのね、朝倉くん」

 

「……なに」

 

「みんなをここに呼んで」

 

朝倉くんは迷わなかった。

スマホを取り出し、取り巻きたちへ連絡を始める。

私はそれを見ながら、小さく息を吐いた。

手が震えている。

怖い。

でも。

もう止まれない。

 

 

数分後。

使われていない空き教室に三人の取り巻きが集まっていた。

 

「なんだよ急に」

 

「珍しいな」

 

「蛇喰は?」

 

いつも通りの顔で何も知らない顔だ。

私は教室の奥に立っていた。

朝倉くんが振り返り、そして言った。

 

「目を見ろ」

 

三人が反射的に顔を向ける。

 

その瞬間、私は一人ずつ視線を合わせた。

心臓の音がうるさい。でも目は逸らさない。

朝倉くんの時と同じだけど、今度はもっと簡単だった。

 

数分後。

四人が並んでいた。

誰も喋らないし、誰も動かない。

ただ静かに立っている。

 

『へぇ。人間相手なら十分じゃん』

 

悪魔が感心したように言う。

 

私は四人を見た。

朝倉くん。

取り巻きA。

取り巻きB。

取り巻きC。

みんな無表情だった。

 

「明日」

 

私はゆっくり言う。

 

「明日の授業で――」

 

四人が静かに頷く。

私は命令を続けた。

四人の瞳は空っぽだった。私はゆっくりと、間違いのないように口を開いた。

明日。蛇喰の世界を破壊するために。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

あべこべ和風オスガキ剣士(作者:耳野笑)(オリジナル歴史/コメディ)

「僕に勝てたら、一晩抱かせてあげるよ♡」▼ 佐々木小次郎は、五十四の異能を持つ最強の少年剣士である。彼は、同門の女剣士・宮本武蔵との決闘に勝利した際、女を負かし、揶揄い、煽り、辱める喜びを知ってしまう。▼ そして、オスガキとして覚醒した小次郎は、武蔵を弄び始める。▼・貞操観念逆転ものです。▼・男女比は1:1です。▼・美醜観念は逆転していません。▼・時代の矛盾…


総合評価:1112/評価:8.74/完結:5話/更新日時:2026年01月25日(日) 11:05 小説情報

貞操逆転した戦乙女学園の一般男子は、エロい目で見られていると気づかない(作者:マテリ-AL)(オリジナルファンタジー/恋愛)

ラノベとかでよくある学園に男は自分一人ってシチュ、▼あれ、主人公が女の子とラッキースケベするより先に……女の子たちが主人公をエロい目で見るのでは?▼これは、そんな発想から生まれた作品。▼魔力を持つ少女たち――戦乙女が通う学園に編入した唯一の魔力持ち男子・羽坂蓮が、周囲からエロい目で見られていることにまったく気づかないまま頑張る、現代ファンタジー入り貞操逆転系…


総合評価:285/評価:8.8/短編:1話/更新日時:2026年05月12日(火) 20:18 小説情報

あべこべ逆転異世界で孤児院の頼れるお兄ちゃんになるため奮闘する(作者:あに)(オリジナルファンタジー/日常)

身体がちょいとガタつくけど、大丈夫。▼僕はみんなのお兄ちゃんだからね。▼カクヨムの方にも投稿してます


総合評価:3329/評価:8.31/連載:20話/更新日時:2026年05月16日(土) 17:04 小説情報

貞操逆転世界でクールな先輩にオスガキムーブかましてたら普通に押し倒された(作者:しゃふ)(オリジナル現代/恋愛)

残念でもないし当然。


総合評価:4984/評価:8.68/連載:8話/更新日時:2026年03月24日(火) 12:04 小説情報

プリムラの花束(作者:貞操逆転すこすこ侍)(オリジナルファンタジー/恋愛)

男女の貞操観念が逆転した中世西洋風異世界ってこんな感じかなって話


総合評価:619/評価:8/連載:4話/更新日時:2026年04月03日(金) 12:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>