侍(浪人)と人造巫女   作:空気読めドーザー

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1話 『修羅の行く末』

断末魔と震え交じりの呼吸が驟雨と雷鳴の下に響いている。

 

その中で眩い光が咲く。

鞘走りと共に、黒石目の鞘から二尺五寸八分の刀が滑り出る。

厚い重ねを持つ刀身は、重心を前へ預けた実戦本位の一振り

斬る為だけに鍛え上げられた鋼が、降りしきる雨と男の腹を裂く。

 

そして、撃鉄を落とす。

直後、腹の底を叩くような轟音を吐き出した。

筒先から噴き上がった白煙と橙色の火花が夜を裂き、悲鳴が響く。

その直後、血に彩られた右腕が反動を呑み込み、骨まで響く衝撃を僅かに肩で逃がしながら短く息を吐く。

男は片目を細めたまま次の標的を見据えていた。

またもや闇を裂いた火花と同時、先程まで狙いを定めていた男の頭を穿った。

糸が切れたかのように体勢を崩した男が、血だまりにまた一人沈む。

 

「あれだけの数でかかっても尚立っているとは…」

 

侍を始末する為だけに集められたのはおよそ40人。

恨みを持つ浪人から京都見回り組、幕府の者、そして侍が生まれ育った藩まで。

決して頭数だけを揃えた訳ではなく、確かに腕の立つ、名の通った剣客。

それなのに今息をしているのはたったの3人のみ。

 

こぼれ出た男の呟きに横に並ぶ男も呟く。

「流石、修羅と呼ばれる男よ…あそこまで傷を負わせてもまだまだ健在というわけか。」

 

「我らがそうあるべしとして育てたからには、我らが始末をつけねば道理が通らぬ…

しかし、これ程までとは……」

 

男たちの前には、血濡れの侍。

歳の頃は20も半ばほど。

だが、その姿はまるで修羅。

血と雨に濡れて襤褸の様な黒羽織、それに包まれる体躯は他の侍より頭一つ抜けている。

低く垂れた総髪から覗く目は大量の刀傷を負っているのにも関わらず息一つすら乱すことなくこちらを見据えていた。

 

まるで雨で流れる血が修羅の傷を癒しているように錯覚を覚えたその時、続きを天が催促するかの様に雷鳴が轟く。

それを皮切りに三人が同時に駆ける。

「囲めッ!!もはやそれしか道は無い!」

 

前と後ろから剣客が斬り込む。

前は袈裟、後ろは刺突。

 

どちらも腕の立つ侍であり、修羅を相手取ってここまで五体満足なのがその証拠。

並の侍なら反応すらできずに、骸を晒している。

 

しかし、侍たちが向かうは修羅。

上からの刃を受け流す訳でなく、弾く。

返す刀で相手の崩れた太刀筋へ自分の刀を差し込み、上に弾き返す。

 

「ッ──⁉」

剣客の姿勢が大きく崩れた瞬間、強烈な前蹴り。

同時に、後ろから鋭く走る刀を肘で叩き落とし、柄頭で剣客の顎を砕く。

 

その瞬間、最後の1人が雨に濡れた手で拳銃を構える。

この大雨に火薬は湿り、撃てる状態ではないはず、それでも刺客は文字通り命を削ってできた隙に引き金を引く。

 

次の瞬間、耳を劈く雷鳴と同時に轟音が響く。

弾丸が修羅へと迫る。

 

だが、修羅は臆することなく動いていた。

甲高い激突音、雷光の下で振り上げられた刀身が弾丸を弾き、火花を散らす。

逸らされた弾が後方の地面に飛び、土が跳ねた。

 

「な………」

 

刺客が有り得ないものを見て呆然とする。この雨と暗闇、しかも二人掛かりで切り結んでいたというのに、弾丸だけを正確に切り払ったというのか。

 

修羅はその一瞬の隙を逃すことなく、刺客に向かって半ば倒れ込むような姿勢で駆け抜け間合いを詰める。

そのまま速度のまま、刺客は声を上げる間もなく顎から頭蓋まで刃を生やして絶命する。

 

残るは二人。だが、戦意を失ってはいなかった。

肋骨を折られた男が諸手突き、顎を砕かれた男が上段に構える

 

短筒を弾くなどという離れ業をやってのけた相手に恐怖が無いと言えば噓になってしまう。しかし、ここで退くことは仲間の死すら無意味なものになってしまう。

 

「参る…!」

顎をやられたからなのか、極度の緊張の為なのだろうか横の男の掠れた声を

剣客は何処か遠いところから聞いている気がした。

 

再び雷鳴が轟く。

その白光の中、修羅がゆっくり刀を下げた。

切先が泥水を掠める。

 

次の瞬間。

地を砕くような踏み込み。

修羅の巨体が、雨を引き裂きながら突っ込む。

 

「ォォオオッ!!」

 

二人も同時に吼えた。

 

右からは袈裟。

左からは突き。

挟み込むような同時斬撃。

 

だが修羅は止まらない。

 

振り下ろされた刀を自らの刃で跳ね上げ、火花と共に軌道を逸らす。

そのまま肩をぶつけるように間合いへ侵入。

 

肉同士がぶつかり合う鈍い音と共に吹き飛ぶ。

後隙を縫うようにもう一人が神速の突きを放つ。

修羅は半歩分だけ躱し、刃が黒羽織を裂き、血飛沫が散る。

だが、修羅を止めるには浅すぎる一撃。

 

そこから修羅は更に踏み込んだ。

重心を乗せた打刀が風を切って首を刎ねようとする。

 

その瞬間、空が裂けた。

視界が真白に潰れる。

 

続いて、轟音。

世界そのものを叩き割るような落雷が、三人の中央へ叩き落ちた。

爆発じみた衝撃と共に泥と雨水が散り、地面が砕け飛ぶ。

 

二人は吹き飛ばされ、泥だらけの地面へ叩き付けられた。

 

数瞬。

いや、数秒たったのだろうか。

 

やがて痛む体に鞭打って顔を上げた時。

そこにはもう血も、死体すらも無かった。

 

ただ雷に穿たれ、黒く焼け焦げた地面だけが雨の中に残されていた。

 

 




侍っていいなぁ
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