先生は作戦会議を終えた後、各学園の生徒達を作戦の準備に取り掛かるため、学園に向かわせた。
騒動の規模で言えばキヴォトス全土だ。より厳重に敵勢力を警戒しなければならない。
彼はアビドス廃校対策委員の面々と行動を共にする事にした。
ヒマリの調査によるとラードーンは砂漠中から突然現れたという事だ。
そして、ユドルは言っていた。また来ると。
他の存在もそこから姿を表す可能性があるため、こちらから敵陣を叩く選択を取ったのだ。
トリニティ総合学院の上層機関。ティーパーティーのメンバーを乗せたリムジンの中は静けさが漂っていた。
「そう言えば私。先生がここにくる前、何してたか何にも知らなかったな」
聖園ミカは静寂を切るように口を開いた。
「先生自身もあんまり話すことなかったからね」
「そうですね。先生はいつも自分の事は二の次ですからね」
同乗していた桐藤ナギサと百合園セイアが彼女に目を向ける。
「うん。先生いつも優しくて、私達の前でずっと笑顔だったから。どこか当たり前に感じていた。そんな確証どこにもないのに」
ミカは小さな声でせき止めていた言葉を口にした。聖園ミカにとって彼は頼れる大人だ。
自分を信じ、時に叱ってくれる。理想の大人を体現したような存在だったのだ。
「……あんなに悲しそうな先生の顔。初めて見た」
過去を話す先生の顔を思い出したのか、ミカが右手で胸を押さえていた。
「いつも、助けてもらっていたのに……」
ミカの声は感情を抑えきれずに震えていた。エデン条約の一件で彼女は先生に多大な恩義を感じている。
だからこそ彼の心の奥に巣食う闇に気づけなかったことが悔しかったのだ。
「君のせいじゃないよ。ミカ。先生自身も打ち明けたくなかった事だったんだ。彼の顔を見ただろう? 自分で自分を許せていないんだ」
彼女の隣にいた百合園セイアが優しく諭した。
「彼は自分の問題を私達に話してくれた。それは私達を信頼してくれた何よりの証拠だ。だから私達も力を尽くそうじゃないか。先生への恩返しだ」
普段どこか遠くを見る彼女の目はとても真っ直ぐだった。
「セイアさんの言う通りです。先生に恩義を返しましょう。今、こうして私達がいるのは先生のおかげなんですから」
横で静かに聞いていたナギサが首肯した。今の彼女からはティーパーティーのホストとして、トリニティの長としての風格が際立っていた。
「必ず今回の作戦を完遂しましょう」
ナギサの言葉にセイアとミカが頷いた。
装甲車で移動する先生とアビドス対策委員の一同。小鳥遊ホシノは先ほど先生の話の内容を思い出していた。
今回の敵は先生の初めての生徒。大人でも預言者でもなく、自分と同じ立場の存在。
何より記憶に残ったのは話をする先生の目だ。ホシノは思い出していた。かつての記憶を。
大事な先輩を救えなかった事を。いつだって自分達を導いて来てくれた先生が初めて見せた虚ろな目。
彼の底知れない絶望と無力感が痛いほど伝わってきた。
同時に何故、彼が自分たちのために心血を注いでいるのかも理解できた。
懺悔だ。生徒を助けたいという想いも決して、嘘ではない。
しかし、それと比肩するくらいには贖罪も行動原理になっているのだ。
今日で彼が背負う重荷を少しでも軽くしてあげたい。それがかつて救われた自分に出来る事だ。
突然、ホシノ達の行く手を阻むように地面が大きく揺れ始めた。
「なっ! 地震!?」
「どうしていきなり!?」
あまりの振動の強さに車を止めて、車内で手すりや椅子にしがみついた。
その勢いに任せて、何かが出て来たように砂漠の砂が噴水のように噴き上がった。
砂漠の中から巨大な卵のようなものが吹き上がったのが見えた。
それも一つではない。三つだ。その三つの卵型の物体が流星のようにどこかへと落下していく。
「先生。球体の落下速度と角度から座標を推測するとミレニアム、ゲヘナ、トリニティになります。三校に警告するよう通達します」
「ありがとう。プラナ。おそらく失敗作達だ」
先日戦ったラードーン以外の存在が解き放たれたのだ。
黒服の言う通り、彼は全てに多くの失敗作の実用化に成功したのだ。
「これは!」
先生はもう一つ身の毛のよだつようなものを目撃した。
球体が飛び出した穴から数えきれないほどのオルトロスが這い出て来たのだ。
「オオオオオ!」
オルトロス達が我先にと狂ったように仲間達と押し合いながら、飛んで行った球体を追っていく。
おそらくあの巨大な兵器の兵隊として用意されたのだ。
「アロナ。プラナ。みんなに作戦開始を知らせて」
「はい!」
「かしこまりました」
先生がアロナとプラナを介して、全ての生徒達に作戦開始の知らせを送った。
争いの火蓋が切られた。