普段以上に慌ただしいミレニアムサイエンススクールの中、生塩ノアは友人の早瀬ユウカとともに作戦を実行するべく動いていた。
今回の敵の詳細はキヴォトスの全学校に通達された。
無名の司祭の残した兵器とそれを操る者。しかし、それが彼の教え子という事実は会議室にいた面々とその他学園の上層部メンバーしか知らない。
生塩ノアは今日という日を忘れないと強く感じた。今日という騒動。そして、もう一つは先生のことだ。数日前、ユウカが見つけた写真。
それを見つけられた時の先生は少しバツが悪そうな表情を浮かべていた。
それは普段、ユウカに説教を受けている時のいたずらが見つかった子供のような表情ではなく、隠していたものを暴かれた人間の顔に近かった。
「ねえ、ノア」
「はい」
「これから戦う相手ってあの時の写真の人なんだよね?」
「ええ」
ユウカの言葉にノアの心臓が強く跳ねた。
「自覚がなかったとはいえ、先生の過去に土足で踏み込むような真似しちゃった」
「ユウカちゃん」
ノアは罪悪感に沈む親友の方に寄り添った。 敬愛する人が憔悴した顔を見て、落ち込んでいるのだ。それはノアも同じだった。
いつだって自分達を導いてきた先生が過去を語るときに見せた虚無の瞳。記憶力の良い彼女はそれが今でも烙印のように脳裏に焼き付いているのだ。
この作戦の結果が良い結末をに迎えたとしても、彼彼の虚ろな目を決して消して忘れることはない。直後、凄まじい轟音ととに何かが落下したように地面が揺れた。
アリスとケイは戦闘準備に備えていた。敵の兵器が起動した直後、強烈な違和感を覚えた。おそらく同じ創造主に造られた物だからだ。共通の電磁波のような感知したおかげで悲劇を免れたのだ。
「ケイ。今から戦う相手って」
「アリス。言いたいことは分かりますが、相手はみんなを脅かす存在です」
そう言ったケイの顔もどこか諦念めいたものだった。
同じ存在に生み出されたと言う事はある意味、兄弟姉妹のような関係なのだ。失敗作の烙印を押されて、日の目を見ることがなかった存在。一度も感情を共有しなかった兄弟姉妹と死闘を繰り広げるのだ。
その時、大きな衝撃音とともに地面が激しく揺れた。
「敵襲ですね行きますよ。アリス」
「はい!」
アリスはケイとともに音がした方に足を向けた。現場に着くと既にミレニアムの制圧部隊。clean&clear。通称C&Cの面々がいた。
「おう! チビ共!」
C&Cの隊長。美甘ネルが既に銃を構えて、臨戦態勢に入っていた。彼女達の前には普段は存在しないはずの巨大な球体が堂々と存在していたのだ。落下してきたそれは真っ白な鉄球のようだった。
「なんですか。あれは」
「先生が言っていた失敗作ね」
装着していたインカムからミレニアムサイエンススクールの生徒会長、調月リオの声が聞こえた。
「みんな気をつけて、失敗作とはいえ、無名の司祭の産物。どんな能力を持っているのか、予測がつかない」
リオの言葉にアリスは警戒心を強める。目の前の球体は徐々に変形を始めて、機械の獣へと姿を変えた。顔が獅子。体は山羊のように細く、尾が蛇の頭の姿をした怪物だった。
「あれがキマイラ。中々にアヴァンギャルドな見た目ね」
「んな事言ってる場合か!」
モニターからC&Cの部長である美甘ネルが声を荒げる。
「無名の司祭が残した失敗作とはいえ、オーパーツである事には変わりはないわ。気をつけて」
「失敗作? へっ。ようはゴミだろ? ゴミ掃除は得意なんだよ。私らは」
ネルが肌がひりつくような暴力的な雰囲気を纏って、銃を構える。
「行くぞ、おめえら!」
コールサインダブルオー。勝利のダブルサインを背負った彼女が仲間達と共に敵の軍勢めがけて飛び込んだ。
突然、キマイラの口から凄まじい勢いで炎が放たれた。アリスはすんでのところでかわして、近くの建物に身を隠した。炎を受けた場所を見ると塗りつぶしたように黒くなっていた。
「チビ共聞こえるか!? 作戦通りに行くぞ」
「はい!」
インカムから聞こえるネルの荒々しい声にアリスは反応した。アリスとケイは事前に知らされた作戦通りに動くことにした。
美甘ネルは後輩達に指令を飛ばした後、仲間とともに異形の怪物に飛びかかった。先生から受け取った情報を元にキマイラの弱点をついて行く。
「アカネ! 膝裏に爆弾ぶっこめ!」
「はい! お任せあれ」
室笠アカネが衣服に仕込んでいた爆弾をキマイラの後ろ足の膝裏に投げ込んだ。キマイラの膝部分を破壊した。
「アスナ! カリン!」
「了解!」
「はーい!」
金髪が特徴的な一之瀬アスナと褐色肌の女性と角楯カリンが一糸乱れぬ、連携プレイで怯んでいるキマイラを襲撃した。
そして、ネルは畳み掛けるようにC&Cの新参者。飛鳥馬トキとキマイラに鉛玉を撃ち込んだ。
「やったか!」
「それフラグです」
ネルを突っ込んだトキの言葉通り、そんな状況でもキマイラが立っていた。
「やっぱり弱点以外は装甲が硬えな」
「ゴオオオ!」
キマイラが雄叫びを上げて、前足に生えた鋭いを爪を振り回した。地面や周囲の建物が大きく抉られていく。しかし、アカネが後ろを足を爆撃したおかげで先ほどより動きが遅くなっていた。
「動きはトロくなったけど火力が足りない!」
「続けて弱点にぶっ放していくぞ。まだ時間が足りねえ!」
ネルは仲間達に檄を飛ばして、機械獣に猛攻撃を仕掛けていく。
キマイラの確実を倒す秘策を実行するために出来るだけ自分達だけで体力を削っていきたい。
ネルは改めて、弱点部分まで距離を詰めた。
「オラオラオラ!」
鼓膜が痙攣する勢いで弾丸を放っていく。キマイラが不愉快なものを見るような目で彼女を捉えた。そして、再び燃え盛る炎を吐き出した。
ネルが炎に触れる寸前で躱した。キマイラの炎が触れたところがあまりの高熱のせいか溶けていた。
「肝冷えんな。あれは」
「部長大丈夫!?」
インカム越しからアスナの声が聞こえる。
「心配すんな。オラ! デカブツこっち来いよ!」
ネルが闘志を宿した目でキマイラに小指でこちらに来るように示した。激昂したのか、キマイラが目を血走らせながら、ネルに向かってきた。
「こっちだよ! トロいな!」
「オオオオオオ!」
ネルはキマイラの動きを確かめながら、攻撃を受けないように走っていく。床を削り、建物を壊して巨大な獅子が迫ってきた。
ミレニアムの中心地から外れた時、ネルは足を止めた。全ての準備が整ったからだ。
「残念だな。おめえにとどめを刺すのはあたしじゃない!」
ネルは勝気な言葉とともに笑みを作った。
「いけ!チビども!」
額から血を流しながら、ネルはがアリスとケイに向かって叫んだ。それに反応するように近くの建物の一室から眩い光が漏れた。
「光よ!」
アリスとケイが手に双方の武器からキマイラの頭頂部に向けて、眩いばかりの光線を打ち込んだ。彼女達が立てていた作戦とは開けた場所で疲弊したキマイラをアリスとケイの高出力エネルギーで消し炭にするという作戦だった。
「オオオオオ!」
重なり合った高出力のエネルギーで体の焼かれたキマイラが鼓膜を破るような叫び声を上げた。削れゆく体力に抗うように頭を左右に振り乱したが、そのままゆっくりと地面に倒れた。
「グルル……」
地面に伏したキマイラが攻めての抵抗なのか、ミレニアム最強を恨めしそうに睨みつける。
「ガンつけてんじゃねえよ」
ネルは引き金に指をかけた瞬間、キマイラの眉間に穴が空いた。ミレニアムでの掃討が完了した。