ミレニアムで死闘が繰り広げられた同時刻、ゲヘナ学園の正門前には無数の風紀委員軍勢が武器を構えて、臨戦態勢に入っていた。
その先頭には風紀委員長。ゲヘナ学園最強の少女。空崎ヒナが目の前の敵を睨んでいた。
彼女の眼前には夥しい数のオルトロスとそれらを見下ろすほど巨大な三つの首の犬がいた。
「あれがケルベロスね」
ヒナが全身の意識を眼前の怪物に向ける。周囲の風紀委員達の表情がとても険しい。今回は未知の敵だ。
「ゲヘナ風紀委員会。これより掃討に入る」
空崎ヒナが抑揚のない声で宣告し、周囲の風紀委員も一糸乱れぬ動きで銃を構えた。
「オオオオオオ!」
ヒナ達を動きに対応するようにケルベロスが雄叫びを上げた。瞬間、オルトロス達が雪崩のように押し寄せて来た。
銃声と雄叫びが飛び交う中、ヒナはオルトロス達を間引きながら、ケルベロスの元に向かっていく。
「ここで早急に片をつける。そして、先生の元に行く」
ヒナはマコトから今回の敵の正体について聞いていた。先生の最初の生徒。事情がどうであれ、先生を傷つけることは許さない。
ゲヘナ地区に散っているオルトロスに関しては温泉開発部や美食研究部が掃討に行っている。万魔殿や風紀委員会に感化されたからではない。先生の頼みあっての事だ。
「こんな形であの子達と協力するなんてね」
ヒナは妙な感慨深さを覚えて、ため息を漏らした。いち早く討伐するために巨大な獣に向かって走り出した。
事前に聞いていた弱点を狙うために接近していく。長距離で狙いたいところだが暴れ狂う三つ首の巨獣に当てるのは困難に近いのだ。
「これ以上、好きにはさせない」
ヒナは距離を詰めて、左端のケルベロスの両目を撃った。視力を奪われた左の頭が暴れ狂い、それに他の頭が影響されて混乱が生まれていた。
ヒナは冷静にもう一度、撃とうとした次の瞬間、左の頭がヒナに襲いかかってきた。
間一髪で躱したが、ケルベロスに突撃された建物の箇所は抉り取られたようになくなっていた。巨大な牙からの噛みつき。シンプルだが体格もあり、威力は絶大なものだ。
「そういえば鼻も聞くんだった。次はやる」
改めて攻撃を仕掛けようとした時にケルベロスの体に向かって何かが飛んで来た。
よく見るとミサイルだった。そのミサイルは凄まじい轟音とともに息でケルベロスに着弾して、爆炎を上げた。
ミサイルの飛んで来た方を見ると万魔殿のロゴマークが刻まれた飛行船が飛んでいた。
「あの子達」
ヒナは彼女達の行動にため息をこぼしていると、インカムから連絡が入った。
「ハハハ! 待たせたな! !ヒナ!どうだ! マコト様の勇姿を!」
インカムの向こうから万魔殿の議長。羽沼マコトが己の存在を誇示して来た。
「だからといっていきなりミサイル飛ばすのはどうなのよ。私がそばにいることを考慮しなかったの?」
「うるさい! ダメージを与えられたのなら良いだろう!」
「まあいいわ。マコト。作戦通り」
「分かっている」
マコトからの返答とともに飛行船から数発のミサイルが発射された。ケルベロスが避けて、地震のような地響きを鳴らしながら、飛行船に向かった。
「隙あり」
ヒナはガラ空きになったケルベロスの後頭部に照準を合わせた。彼女が放った紫の閃光がケルベロスの首筋に着弾していく。
「ガアアアアア!」
ケルベロスの喉から断末魔のような叫び声が吹き出る。ヒナはこの機会を逃すまいと銃撃を次々と繰り出していく。
さらに追い打ちをかけるように飛行船から放たれたミサイルがケルベロスに直解する。ヒナとマコト。普段は水と油のような関係性の二人が見事な連携で巨大な敵を翻弄していく。
先生から受け取った情報を元に弱点を撃っていく。ヒナ自身これ以上、戦闘を長引かせたくはなかった。早くこの怪物を無力化して先生の元に行きたい。彼女の中にあるのはその一心だ。
「オオオオオ!」
飛行船への憤りが止まらないのか、ケルベロスが前足をあげて、飛行機を噛み付こうとした。ヒナは見逃さなかった。ケルベロスが見せた胸部。左胸に狙いを定めた。
「これで終わり」
ヒナは静かに一発の銃弾を放った。その弾はヒナの目論見通り、怪物の心臓を撃ち抜いた。心臓部分を撃ち抜かれたケルベロスが悪あがきと言わんばかりに奇声を上げながら、暴れ狂っている。その影響で校内の建物や各処が破壊されて、瓦礫が飛散していく。
瓦礫をかわしながら、止めにもう一発打ち込もうとしたが、そのままゆっくりと地面に倒れた。数秒間ケルベロスを観察して後、インカムを全ゲヘナの生徒に繋いだ。
「ケルベロス討伐完了」
ヒナの言葉にゲヘナ中から喜びの声が上がった。しかし、発信者の彼女は安堵していなかった。本当の仕事はここからだからだ。
「待っていて、先生」
砂漠の地にいる恩師を思い、ヒナは彼の元に足を進めた。