緊張感漂う装甲車の中、先生は窓の外を眺めながら、ここに来て体験した様々な事を脳裏に巡らせていた。
様々な困難に巻き込まれて、葛藤してどうにか生徒達と乗り越えて来た。
カイザーPCMと黒服に捕まったホシノを奪還しても、エデン条約でベアトリーチェを倒しても、もう一人のシロコと自分との問題が解決してもあの時の後悔が消えることはなかった。
当然だ。他の成功体験で過去の過ちを払拭できるわけじゃない。
しかし、こんな形で過去と対峙するとは思いもしなかった。
「ユドル」
かつての生徒の名前が口から溢れる。彼の記憶の中にいるユドルは幼くて、純粋に彼を慕ってくれていた存在だ。
あの頃の彼は十一歳。ゲヘナのイブキや山海経のココナと同じ年齢だ。そんな子を守れず、文字通り奈落の底に落とした。
自分の責任だ。そうとはいえ、このキヴォトスを陥れると言うのなら止めなければならない。それが先生としての勤めだからだ。
ヒマリが指定していた場所に着くと見覚えのある巨大な機械仕掛けの竜と青年がいた。車の外に出た瞬間、異様な圧迫感を覚えた。
「ユドル……」
「拉致された日もこんな感じだったな。阿鼻叫喚と鳴り止まない爆撃音。まぁ、今ではそれが日常になったけどな」
ユドルが懐かしむように遠くで起こる自分の兵隊と生徒達の姿を眺めていた。
「どうやってこのキヴォトスに……」
「数ヶ月前、ベアトリーチェとかいう女からここに来る鍵をもらったんだよ? それでここに来た」
黒服の言う通り、彼女が一枚噛んでいた。彼と顔を合わせていたのはおそらくエデン条約の途中辺りだ。
「何故、各学園を襲撃したんだ?」
先生の問いかけにユドルが人差し指を向けて来た。
「あんたを確実に仕留めるため。だからまずあんたとも親交が深く、キヴォトス内でも特に力を持つ学園を襲撃した。
ブラックマーケットで雇った不良生徒に武器とアリウスのマスクを提供させて、ゲヘナとトリニティを襲撃させた。あとは兵器の威力の確認だね」
「何故こんな事を?」
「勘付いてるだろ?」
ユドルの目は肝が冷えるほど冷たかった。先生への復讐。理解はしていたが、事実を突きつけられるとやはり胸の奥に重くのしかかるものがある。
「ユドル。君の私に対する恨みはもっともだ。何も間違っていない。だけどここにいる生徒達や住民。キヴォトスには罪はない!私にできる償いならどんな事だってする! どんな罰だって受ける!だからもうこれ以上、他人を巻き込むのはやめてくれ!」
先生は心からユドルに訴えかけた。己の無知無力さゆえに、彼を地獄に引き入れてしまったのは事実だ。
しかし、この行動だけはなんとしても止めなければならない。ユドルが両肩を小刻みに揺らしながら、微笑を浮かべた。
「関係ならあるさ。僕が壊したいのはあんたの全てだ。あんたが慈しんだ存在、あんたが愛した世界。あんたが関わった全てのものが憎いんだよ! 憎くてたまらないんだ!だから壊すんだよ! あんたが僕から奪い、虐げたようにな!」
彼は先生への呪詛を吐いた後、懐から何かを取り出した。見覚えのある輪っかのようなものだった。
「ヘイロー?」
先生は目を疑った。黒服から提出された書類には記載されていなかったものだった。黒服の懸念は当たっていたようだ。
「その通り。人工ヘイローだ」
彼が頭の上に持っていくとヘイローは数センチ浮いて、固まった。ヘイローの影響を受けているのか、呻き声を上げながら、肩を鳴らし始めた。
「さて、始めようか。先生」
ユドルが踏み出した瞬間、目にも止まらない速さで先生とアビドス勢の元に駆け出してきた。そして、彼に連れ添うようにラードーンが翼を広げた。