先生は驚愕していた。目の前に禍々しい光の塊が出現したからだ。色彩。もう一人のシロコと自分が狂わされた悲劇の象徴。それが今、教え子と接触しようとしている。
「ダメだ!ユドル!」
先生はユドルを止めようと叫んだが、もう遅かった。彼は禍々しい光にその手をかざした。
色彩が消えた後、そこには異形が立っていた。
頭部からは長く白い二本の角。肩甲骨辺りからはコウモリのような黒い翼。尾骶骨の部分から蛇の頭が生えていた。ユドルは人ならざる怪物に変貌していた。
「ユドル……」
「死ね」
ユドルが一言呟いて、先生に向かって銃口を向けた。次の瞬間、爆音とともに銃弾が放たれた。
先生はホシノに庇われて、躱した。弾丸は地面に当たった。その部分が激しく抉られており、銃撃の威力が桁違いに上がっている事が目に見えて理解できた。
冷や汗をかきながら、彼に目を向けると尾の先にある蛇の頭が口を開けていた。口の中には緑色の光が溜まっていた。肝を掴まれるような感覚を抱いた。
「先生! 逃げるよ!」
ホシノとヒナとともにユドルから走って距離を置いて数秒後、轟音と共に光が放たれた。
光線は一つのビルを貫通して、周辺のビルや光線の威力と風圧で窓ガラスが音を立てて、崩れた。
「嘘でしょ」
彼は額から一筋の汗を流した。
「先生は離れた場所から私達に指令を送って!」
「分かった! 二人とも気をつけて」
先生はホシノとヒナに言う通り、離れた場所に移動した。しかし、彼は不安だった。キヴォトス最強クラスの二人でも色彩を接触したユドルを止める事が出来るのか。
「失せろ。小娘」
ユドルがホシノとヒナに向かって銃口を向けた。再び、耳をつんざくような音とも銃弾がいくつも発砲された。
空気を切り裂きながら、飛んでくる弾を二人が的確に躱していく。ホシノとヒナが駆け出しながら、彼との距離を詰めていく。
す
制御が効かなくなった機械の様に彼は動き始める。
「なっ!」
尾骶骨部分から出た蛇の頭がヒナに向いた。次の瞬間、緑色の光線が目を見張る速度でヒナ目掛けて、飛んできた。
「ヒナ!」
先生の叫びを掻き消す様な速さで空気を割り、地面を削り迫っていく。しかし、ヒナに光線が当たることはなかった。ホシノが盾で彼女を守ったからだ。
「小鳥遊ホシノ!」
ホシノが盾が防いでいたが、あまりの威力で二人は後方に吹き飛んでしまった。
「いてて、かなりきついね」
ホシノがユドルを注視しながら弾を装填する。ユドルが鋭い目で作り、銃口を向けて来た。
いくつもの光芒を描きながら、迫りくる弾丸。それらをかろうじて躱していく。
先ほどまで優勢だった二人が色彩の影響を受けたユドルに圧倒されている。ユドルが絶えず、連射攻撃を続けていく。一つ一つが風を切り、当たれば命を刈り取るのに十分な威力だ。
「アロナ。プラナ。彼の動きを止めるにはあの人工ヘイローを破壊すれば良いのかな」
「肯定。あれはあくまで外付けの兵器。色彩の影響もあの人工ヘイローに限定されているのでしょう」
「あれを剥がせれば、この騒動も治るんだね。でも問題はどう間合いに入るかだよね」
「はい。無尽蔵の連射攻撃とあの尾骶骨から生える蛇から放たれるレーザー放射。間合いに入るのは極めて困難かと」
プラナが冷静にユドルの動きを分析した。素早い動きが特徴のホシノですら、容易に近づけないのだ。
「もっと戦力がいるね」
「肯定。ですので彼女を呼びます」
彼女。その一言で理解した。作戦だともう少し後のつもりだったが、ユドルがテラー化してしまった以上、同等の存在が必要だ。
プラナの提案を受けると彼女はすぐに動き始めた。先生はアロナとともにホシノとヒナに意識を戻した。
状況はかなり劣勢だ。あの二人でも倒しきれない。その事実に背筋に冷たい汗が流れた。
「どうだ!? 自分の愛する生徒が蹂躙される姿を見るのは!」
「ユドル! 今すぐそのヘイローを取るんだ! 今ならまだ引き返せる!」
「引き返すなんて毛頭ない! この力で全てを終わらせる!」
「なら力づくでもその状態から解放させるよ」
「何故?」
「決まっているさ。君が私の生徒だから」
先生は胸の内を真っ直ぐに伝えた。ユドルがどれだけ彼を否定をしても、一人の生徒であることは変わりないのだ。
しかし、想いを伝えた途端、顔の目が血走ったのが見えた。
「黙れ!!」
彼が声を荒げて、銃を乱射し始めた。放たれた銃弾は花火のように広がって辺りに飛んでいく。
「そんな言葉を軽々しく吐くな! 捨てたくせに! 虐げたくせに!」
彼の口から出る殺意とともに銃声が鳴る。
先生への憎悪を表すような緑と黒が混じった閃光が次々と飛んできた。
「今日! 今ここで全てを否定してやる! お前が愛した存在も! 世界も! その全てを!」
彼の呪詛とともに銃撃の威力と速度が増していく。同時に地面を蹴って、先生の元に迫ってきた。それを遮るようにホシノとヒナが銃撃で迎え撃つ。
しかし、それらの攻撃をいとも簡単に躱していく。そして、ホシノが首を掴まれて、壁に押さえつけられた。抵抗しようとする彼女を無力化しようと蛇が口を開いた。
緑色の光がホシノの顔を不気味に照らしている。あの高密度なエネルギーをまともに受ければ、いくらホシノでも、無事ではすまない。
「小鳥遊ホシノ!」
ヒナが駆け出そうとした時、突然、蛇の頭が捻じ切れた。どうやら彼女が来たようだ。
「先生。来たよ」
凛とした声とともに彼女が先生の前に来た。シロコ*テラーだ。色彩の影響を受けた別世界のシロコ。それが今、もう一人の色彩を帯びた存在と対峙していた。
「死の神……」
ユドルがシロコ*テラーを恨めしそうに睨みつけた。