「アビドス編」
広大な砂漠の中を進んでいた。照りつける日差しにうっとおしさを覚えながら、進んでいると目的地が見えてきた。
アビドス高等学校だ。その校門の前に五人の人影が見えた。廃校対策委員の面々だ。今日はこの学園での奉仕活動だ。
先生の計らいによって減刑されたが、それでも罪が消えたわけではない。
その間、被害が甚大だった学園への奉仕活動を義務付けられたのだ。
「ユドルさんですね。本日はよろしくお願いします!」
奥空アヤネがご丁寧に挨拶した。
「こちらこそ。具体的には何を?」
「こちらへ」
彼女に誘導されるままに校舎へと足を踏み入れる。その最中、後ろから四つの視線を感じる。そのどれもが肌がひりつくような視線だ。まあ警戒はするよね。
特に小鳥遊ホシノ。戯けた表情を作っているが、目が笑っていない。まあ、彼女とはしのぎを削った者同士だから無理もない。
「こちらです」
奥空アヤネに案内された部屋には無数の砂が埋もれていた。近くには大きなシャベルが置かれていた。窓の外に捨てろという事だろう。
「あのシャベルで砂を外に出せばいいんだな?」
「はい。私達は別の場所で掃除をしますので、何かあれば声をかけてください」
「分かった」
早速、仕事に取り掛かった。黙々と作業に打ち込む。これで奉仕になるのなら安いものだ。
それにしてもこの世界でも砂漠で過ごすとはな。元の世界にいた時は草木も生えていない砂漠で過ごしていたことはよくあった。まあ、この土地は幾分マシだけど。
シャベルである程度砂を捨てた時、背後に視線を感じた。振り向くとツインテールの少女が扉の前に立っていた。黒見セリカだ。
「どうした? 作業ならもうすぐ終わるから待ってくれ」
「い、いや。そういうわけじゃ」
黒見セリカが両手を後ろに隠しながら、近寄って来る。何か持っているのか。もしかしてスタンガンか? まあ仮にそうだったとしても甘んじて、受け入れよう。
「はい!」
彼女が両手を前に出した。ペットボトルの水だった。
「かっ、勘違いしないでよね! 倒れられたら私達に迷惑かかるだし」
「そうか。ありがとう」
彼女から水を受け取った。美味い。高い気温と奉仕活動で消耗した体に冷たい水が染み渡る。
「作業終わったら奥の部屋に来なさいよ!」
黒見セリカが頬を赤く染めながら、部屋の外に出た。彼女の言葉を頭に入れつつ、僕は部屋の掃除を再開した。
「こんなものか」
掃除を終えて、綺麗になった部屋を見渡した。黒見セリカに言われた通り、奥の部屋に向かった。
奥の部屋に向かう途中、改めて廊下を見渡した。五人しかいないという事もあって、静けさが漂っている。
だからこそ廊下の奥の部屋から彼女達の声がよく聞こえる。扉の前に来て、扉をノックした。
「掃除は終わったぞ」
僕の言葉に部屋の中が静まり返った。次はどこを掃除させようか迷っているのだろうか。そんなことを考えていると、扉が開いた。黒見セリカだった。
「入りなさい」
鋭い目で僕にそう吐き捨てた。まあ覚悟がしていたが何かしらの事はされるんだろうな。部屋に足を踏み入れた瞬間、空気を割るような音が聞こえた。クラッカーだった。部屋にいたアビドスの生徒が僕に向かって、クラッカーを鳴らしていたのだ。
部屋の中にはジュースやお菓子が並べられていて、明らかに催しのようなものが
用意されていた。
「ようこそ! アビドスへ!」
唐突の歓迎に言葉を失った。
生徒達が出迎えた時とは打って変わって、笑顔で僕を歓迎した。動揺する僕の背中を黒見セリカが席へと押していく。
「これは一体……」
「ん、貴方の歓迎会」
砂狼シロコが鉄扉面で僕にその事実を伝えた。違う。僕が聞きたいのはその事実ではない。
「どうして? こんな事を? 僕は君達を傷つけたはずだ」
驚きのあまりに胸のうちを明かした。僕の心境、置かれた立場と今の状態があまりに不釣り合いだったからだ。
「確かに思うところはあるよ。でも先生から貴方の事情は聞いているし。私も先生と会う前は大人なんて信じてなかったしね」
小鳥遊ホシノが物憂げな表情を作った。
「そうか」
「だからここで私達とたくさん楽しんじゃいましょう〜そしたら、私達も準備した甲斐がありますから」
十六夜ノノミが朗らかな笑みを作りながら、紙コップに注いだジュースを目の前に置いた。俺は彼女達を傷つけた。そんな僕を彼女達は許そうとしてくれていた。
この催しが贖罪になるのなら、僕は黙して受け入れよう。僕は置かれたコップを手に取った。
そして、奥空アヤネの音頭とともにアビドスの生徒達と宴を始めた。
外が夕焼けに染まる頃、僕達は宴の後片付けを終えて、下校していた。楽しかった。誰かと時間を共有したのはいつぶりだろうか。同時に談笑しながら、前方を歩く彼女達を見ているとどこか羨ましく思う自分がいる。
彼女達の年齢の時には戦場に足を踏み入れていた。傷と死が当たり前の環境。そんな環境にいるものだから、どうしても場違いな感覚を拭えない。
「どうしたの?」
近くを歩いていた小鳥遊ホシノが顔を覗き込んで来た。
「いや、あまりにも過ごして来た環境と違うもんだから」
「でも、ユドルさんも先生に勉強を教えてもらっていたんでしょ?」
「かなり昔の話だよ」
「それでも貴方の心には強く残っていた。だからキヴォトスまで来たんでしょ?」
「返す言葉もないな」
見事なまで正解に思わず、笑みが溢れた。
「小鳥遊ホシノ。君は先生をどう思ってる?」
僕の問いに彼女はしばし、沈黙した後、視線を逸らした。視線の先には彼女達の後輩達がいた。
「大切な存在。あと……」
「あと?」
「あーなんでもない!」
小鳥遊ホシノが表情を緩めて、問いかけを流した。まあ、続きを語ろうとしていた時、頰が赤くなっていたのは言及しないでおこう。きっとそういう事なんだろう。
「今、なんか変な事考えてた?」
「いや、別に」
「嘘だー何か言いたいことでもあるんじゃない?おじさんに言ってみてよ」
小鳥遊ホシノが目元に影のある笑みを作りながら、にじり寄って来た。
「二人ともー! どうしてそんなに後ろなのよー!」
黒見セリカが僕達を呼んだ。
「ごめんよ〜セリカちゃ〜ん」
小鳥遊ホシノがさっきとは打ってかわり、気の抜けた風体で後輩達の元まで走って行った。彼女の助け船のおかげでなんとか言及されず、事なきを得た。
「ほら、あんたも!」
「ああ」
彼女に言われるまま、僕も彼女達の元に向かった。頭上の空が暗くなり、辺りには星が顔を出し始めていた。