近代的な建造物が立ち並ぶミレニアムサイエンススクール。その一室で大量の書類と向き合っていた。横では青い髪の少女。早瀬ユウカが慌ただしく書類と向き合っていた。
ここはセミナー。ミレニアムサイエンススクールを統括する組織だ。つまり学園中の問題がこれでもかと押し寄せてくるのだ。今日のそのセミナーの手伝いだ。
やはり大きな学園という事もあって、書類の量も尋常ではない。ある程度、作業を終えると目の前にコーヒーが入ったマグカップが置かれた。早瀬ユウカだった。
「お疲れ様です。コーヒーお嫌いでしたか?」
「いや、ありがとう」
「何かサポートしようとしていたんですが、書類仕事もかなり正確に仕上がっていますね」
「元の世界では訓練の一環でこの手のものも触っていたからね」
「元の世界……」
早瀬ユウカが記憶を思い起こすように呟く。
「以前。昔の先生と貴方が写っていた写真を見ました」
少し考えた後、思い出した。かつて勉学を教わっている時に撮った一枚だ。
「まだ持っていたんだな……それと生塩ノア。僕を記録しても面白いことなんて何もないよ」
「いえ。好きでやっていることなので」
側で一緒に作業していた彼女が紫色の瞳を向けながら、微笑んだ。
「さあ書類仕事も終わったなら、次の仕事に行きますよ!」
早瀬ユウカが手を叩いて、僕に移動を促した。手を振る生塩ノアに軽く手を振り返した後、ミレニアムの格納庫に足を踏み入れた。シミひとつない真っ白な空間。その中央に見覚えのあるものが置かれていた。
「これは」
そこには戦友達がいた。ラードーン。キマイラ。ケルベロス。カウカソスの鷹。そしてオルトロス。それらが広い格納庫に広げられていたのだ。
「あの戦いの後、ミレニアムが回収したんです。失敗作とは言え、オーパーツであることには間違いありませんからね」
「そうだったのか」
兵器とはいえ、時間を共に過ごした仲間だ。亡骸とは言え再び見ることが出来て、胸の内から熱いものがこみ上げてきた。
「これらの研究する事でキヴォトス外への脅威に備えられますからね」
「そうだな」
仲間達の亡骸を目にしていると、視界の端に誰かが入った。目を向けると二人の少女がいた。天童アリスと天童ケイだ。アリスの方は僕を観察するように見つめ、ケイが僕に鋭い視線を向けている。まあ、この対応が正解だ。
「すまなかった。君達を争いに巻き込んだ。覚えがないとは言え、兄弟を手にかけさせたんだから」
無名の司祭によって生み出された彼女達。そして陽の光を浴びることなく破棄されたラードーン達。それらを引き合わせてしまったのだ。
「アリス。先生から貴方の事を聞きました」
「そうか。出来の悪い教え子とか?」
僕は冗談げに言うと、彼女が頭を振った。
「自慢の教え子で、恩人だって」
そう言って天童アリスは目の前で横たわるラードーンの亡骸に手を当てた。
「悲しい対面ではありましたけど、アリスにも兄弟がいることが分かってよかったです」
少し切なそうな表情を作った彼女を見て、なんとも言えない虚しさに苛まれた。いくら罪を償おうとこうして、自分が行った事は今でも尾を引き続けるのだ。
「だからこそ、アリスは貴方と仲直りがしたいです。勇者は敵を倒すだけじゃないです! 仲間や友達を作るのも勇者です!」
天童アリスが両手で僕の手を握った。丸い青空のような瞳が僕の顔を映している。
「ユドルさん! 少しお時間もらいます!」
天童アリスに連れられるまま、僕はとある部屋に来た。おそらく彼女が所属しているゲーム開発部の部室だ。
「みんな! お客さんを連れてきました!」
扉を開けるとそこにはゲーム開発部の部室だった。
「おっ! お客さんなんて珍しいね! いらっしゃい!」
「おっ、お姉ちゃん」
そこにはゲーム開発部の部員。才羽モモイとその妹、才羽ミドリがいた。様子を見るに彼女達には僕の情報は回っていないらしい。全員に情報を回していたわけではなかったのか。
天童アリスに背中を押されながら、僕はゲーム機と接続されたテレビの前に立った。
「仲良くなるには一緒にゲームをするのが一番です!」
天童アリスが僕にコントローラーを手渡してきた。そうか。この子は僕に歩み寄ろうとしてくれているのだ。
なら彼女の好意の無下にするわけにはいかない。ゲームはあまりやったことはないが、やってみよう。
数十分後、とてつもない疲労感に襲われていた。脳が引きちぎれそうだ。なんだ。このクソゲーは。今まで色々な訓練を受けてきたが、これが別のベクトルで過酷だ。精神のすり減り方が異常だ。ストレスが津波のように押し寄せて来る。
「これ? 君が作ったの?」
「そう! 天才でしょ!?」
才羽モモイが誇らしげに胸を貼っていた。
「ああ……」
「お姉ちゃん。この人の目。死んでるよ」
「あはは……」
背後のロッカーから乾いた笑い声が聞こえた。おそらく部長の花岡ユズだろう。とは言え、楽しい時間だった。このままお暇させてもらうとするか。
「ちょっとちょっと! なに帰ろうとしているのさ!」
「まだまだありますよ!」
才羽モモイと天童アリスが両手いっぱいにゲームのカセットを抱えていた。二人は満面の笑みを浮かべていた。直感で分かった。クソゲーだ。しかもさっきとおなじくらいのものだ。しかし、彼女達の好意を無下にするわけにはいかない。意を決して僕はコントローラーを握った。
もう二度とゲームなんかやらん。