仄暗い雰囲気が漂う学園の中、老朽化の激しい校舎の一部を取り壊していた。辺りにはこの学園の生徒達もヘルメットを被って撤去作業を進めていた。
空気を切るように笛の音が鳴った。音の方を見ると切れ長の目に青色の髪の少女がいた。アリウススクワッドのリーダー。錠前サオリだ。
「休憩だ」
彼女がそう告げると生徒達が安堵のため息を吐きながら、校舎の外に出ていく。僕も彼女達の後に続いて、校舎の外に向かっていく。
「お前は少し待て。話がしたい」
彼女が鋭い目で僕にそう告げる。僕は彼女の提案を受け入れ、二人で校舎の外れの空き地まで歩いた。人気のない寂れた空気が漂う場所だ。
「ここでいいだろう」
錠前サオリは足を止めて、踵を返した。再び、彼女の冷徹な眼差しと目が合った。
「先生から聞いたが、お前もマダムと会っていたのか……」
「ああ、接触を図ってきたのも向こうだしな。あの女がいたからここに来れた」
彼女達がベアトリーチェから耐えが得難いほどの洗脳教育を受けていたことは知っていた。
「濡れ衣を着せた事は許す。誤解されたのは私達の過去の過ちのせいだ。だがアズサは許さない」
「あの子にも似た事言われたよ」
彼女の言いたいこともわかる。この活動で罪が消えるとは全く思っていない。ただせめて何か償う気があるという誠意だけは見せないといけない。
「だけど私個人としてもお前を責める気になれない」
「どうして?」
「私と似てるからだ」
「似てる?」
「ああ、悪意ある大人に騙されて取り返しのつかないことを引き起こそうとした」
「そうか」
彼女の言うとおりだ。大人の嘘に騙されて、翻弄された。僕に至ってはこの世界そのものを滅亡させようとした。
「仲間はいなかったのか?」
「いたけどみんな、戦場で散った。生きていたら少しは変わっていたのかもな」
「そうか」
錠前サオリが傷口を見るような目で僕を見た。彼女は優しい。自分の明日の命すら分からない環境で育ったのにも関わらず、他者を思う心がある。きっと彼女達が完全に心が落ちきらなかったのは、互いに思い合える仲間がいたからだ。
「アズサは元気だったか?」
「うん。友達と仲良くやっているよ」
「なら。いい」
旧友の無事に安心したのか、彼女が口角を上げた。ひとしきり話し終えた後、僕らは校舎の方に向かった。
「サオリ姉さ〜ん! こっちに来てください!」
槌永ヒヨリが今にも泣き出しそうな顔でこちらに手を振っている。何かあったのだろうか。近くでは秤アツコと戒野ミサキがため息を呆れたような顔をしている。
「どうしたんだ? ヒヨリ」
「お腹すきました〜!」
あまりに平和な訴えに思わず、面を食らった。彼女達を取り巻く状況というのはかなり深刻なものではなかった。
「さっき食べに行ったはずだろ?」
「お代わりしようとしていたらなくなりました〜!」
「なら夕食時まで待て」
「うわ〜ん! これから空腹に苦しまずに済むと思ったのにあんまりです〜!」
「だから言ったでしょ? 無意味だって」
「でも夕方まであと四時間だよ? がんばろ?」
秤アツコが肩に手を置いて、彼女を慰めた。
「思った以上に愉快だね」
「ああ、昔から変わらん」
錠前サオリがそう言って、ため息をついた。しかし、その顔はどこか嬉しそうにも見えた。
「次の仕事は?」
「我々と本校舎で事務作業だ。まだやらないといけない事が多くてな。頼めるか?」
「大丈夫。そのために来たんだから」
彼女達が取り巻く環境はかつて僕が過ごしていた環境とよく似ていた。だから彼女達には少しでも幸せな道を歩んで欲しい。
この学校はこれからいくらでもやり直せる。いくらでも前を向ける。その進歩の一助になれるなら僕の罪も少しは償えるのかもしれないな。