先生は絶望していた。目の前の状況が背けたくなるほどの惨劇だったからだ。燃え盛るテント。そこら中に転がる人の遺体。以前夢見たものと同じ光景だ。
以前と同じく学び舎の方に向かっていく。同じく無残にも破壊され尽くされていた学び舎を見て、何度も声を上げた。そして、膝をつき絶望を足元に吐き出した。
「ーーせい。ーーせい! 先生!」
聞き覚えのある声が視界の端から聞こえた。それとともに眼前の地獄が白く光っていった。
光がなくなるとセリナがとても不安そうな表情で先生の顔を覗き込んでいた。
「先生。どうしたんですか? 何か凄くうなされていましたけど」
「ああ、うん。心配ないよ。ごめんね」
先生は夢の内容を伏せて、自身を気にかけてくれた愛おしい生徒の頭を撫でた。窓の外では既に日が昇っていた。
朝食を済ませた後、先生は早速、仕事に取り掛かった。昨日はとんでもなく忙しかった。ゲヘナ、トリニティ、ミレニアムが襲撃を受けた。
ミレニアムは情報が回ったおかげで被害は最小限に収まったが、ゲヘナとトリニティは大きな被害を受けてしまった。
何か裏で大きな事が動いているのかもしれない。
彼は顎に手を添えて、頭を回した。思考に横入りするようにシッテムの箱に連絡が入った。アロナプラナからだった。
した」
「先生! 連絡を通達した学園ですが、今の所被害はありません!」
「そうか。ありがとう!」
アロナの報告に安堵感を覚えた。他の学校に機会が入ってなくてよかった。しかし、油断は禁物だ。
これらも全て犯人の手の内である可能性もあるのだ。
先生は各学園の情報を集めるためにリモートで緊急会議を開く事にした。
参加したのはゲヘナとトリニティ、代表者。そして連邦生徒会の面々で緊急会議が開かれた。ゲヘナからは羽沼マコト。トリニティは桐藤ナギサ。ミレニアムから調月リオ。
そして連邦生徒会からは七神リンが顔を出していた。画面越しからも緊迫した空気が流れていた。
今回の一件、特に危惧すべきだったのはゲヘナとトリニティだ。エデン条約以前よりは緩和されたがそれでも両学園は因縁は未だに根深い。故に相手側が仕掛けてきたと考えている生徒もいる。最悪、弔い合戦にまで成りかねないのだ。
「みんな。大きな怪我がなくてよかった。早速、本題に入るね」
先生は胸に突っかえた言葉を吐くように口を開いた。
「今回の騒動はどこの学園でもない。カイザーでもない。また別の勢力だ」
周囲の空気が揺れた。予想通りだ。
「アリウスだろう! 再び我らへの報復にきたのだ!」
万魔殿の議長である羽沼マコトが鋭い眼光を作って、座っていた椅子の肘置きを強く叩いた。
「いや、あの後、捕縛した子達を今のアリウスの生徒を統括している生徒に捕縛した生徒の写真を確認してもらったけど在籍している生徒ではなかったと言っていた。私も実際に名簿を見た」
事件が収束した彼はヴァルキューレ警察学校の局長の尾刃カンナと現アリウスの三年生徒である梯スバルとともに確認したのだ。
「しかし、だな」
「それにアリウスは着実に復興を目指している。今の彼女達にトリニティ、ゲヘナに襲撃をする暇もメリットもないんだ」
彼が熱意が伝わったのか、前のめりだったマコトが渋々、椅子に深く腰掛けた。
「敵は誰ですか? ゲヘナ、トリニティはともかくミレニアムまで」
ティーパーティーのホスト。桐藤ナギサが疑念を孕んだ眼差しをリオに向けた。
「そこに関しては彼女から説明してもらうわ」
リオはそういうと事前に声をかけていたある少女に連絡を繋いだ。幾つにも分割された画面の中に耳の長い白髪の少女の顔が映った。
「ごきげんよう皆さん。ミレニアムサイエンススクールの明星ヒマリと申します。そしてーー」
ヒマリが画面を横に向けると黒と白という対照的な髪色の少女が二人立っていた。
「天童アリスです!」
「天童ケイです……」
アリスが黒い髪を揺らしながら、純粋無垢な笑顔を画面に向ける。とても災難に巻き込まれたとは思えない様子だ。対照的にケイは少し機械的に感情を抑えて、自己紹介を済ませていた。
「結論から言えば、今回の騒動は第三者によって引き起こされたと言えるでしょう」
「第三者?」
「ええ。実は以前、同じものをヴァルキューレ公安局から受け取りまして、解析したところ。現代には存在しない物質だと判明しました」
周囲の空気が騒然とし始めた。
「現代には存在しない。つまりオーパーツの類……無名の司祭か」
「ええ。先人の遺物である可能性が高いです」
無名の司祭。彼の脳裏にその存在が浮かんだ。かつてこのキヴォトスにいたとされる存在であり、天童アリスやケイ。その他のオーパーツも彼らの手によって生み出された。
「私があの物体の存在を感じたのはあの武器が作動した時、妙な磁波のようなもの感じました。テレパシーというのでしょうか」
「アリスも感じました! 頭がゴワゴワするというか」
アリスとケイは何かを感じていたと言う。
「二人の言う通り、調べて見るとこの武器は使用する際に特殊な磁気のようなものを発しています。おそらく二人はこれを感知したのでしょう」
「では先人達の報復ですか? はるか昔の存在が生きていた?」
連邦生徒会会長代理の七神リンがヒマリに尋ねた。
「その可能性もありますが、今回はあまり高くはないでしょう。絶大な技術を持つ彼らならば、このような各学園に攻撃をするのではなくキヴォトスそのものを狙ってくると思います。先のプレナパテスを遣わせたように」
ケイの言葉に周囲の空気がどよめいた。
「誰がこれを」
「それがまだ分からないのです。そもそも第三者がどのような手段でこれを手に入れたのか」
ヒマリが重いため息をついた。理論や兵器に関して博識な彼女とはいえ、犯人の全容までは理解できない。
「とにかくみんなしばらくは各自、警戒を緩めない事。なるべく宅配物、流通網にも警戒を」
先生の意見に画面の向こう側にいる生徒達が頷いた後、モニター会議を終えた。静まり返った部屋の中、思考を巡らせる。
「おかしい。どうしてアビドスが狙われた?昔は力を持っていたとはいえ今ではそこまで大きな学園ではない」
黒服のようにホシノを狙いにきたのか。それともアビドス砂漠が目的なのか。ウトナピシュティムの本船の一件もある。
アビドスの砂漠にはまだ発見されていない何かが埋まっていても、おかしくない。
ゲヘナ。次はトリニティ。ミレニアム。対立するゲヘナ、トリニティのみならず、ミレニアムやアビドスを巻き込まれた。
「もしかして、強い生徒を狙っているのか?」
襲撃された学校にはそれぞれキヴォトスの中でも指折りの強さを持った生徒達がいる。ゲヘナには空崎ヒナ。トリニティには聖園ミカや剣崎ツルギ。ミレニアムには美甘ネル。そしてアビドスの小鳥遊ホシノ。敵の狙いはマンモス校を襲撃して、キヴォトス全体の勢力を下げることかもしれない。
「それとは別に大きな組織を狙っているのなら、次の狙いは連邦生徒会及び、シャーレである可能性が高い」
様々な可能性と危険。情報が集まれど、敵の実態が掴めない。焦燥感に駆られていると彼の携帯が鳴った。見たこともない電話番号だった。不審に思いながらも電話にかけ返した。
「もしもし」
「お久しぶりです。先生。黒服です」