聞き覚えのある声だった。かつてゲマトリアという組織にいた黒服だった。彼の声を聞いて自然と眉間に力が入った。電話先にいるのは生徒達の敵だ。
「何の用かな。今は君に構っている場合じゃ」
「一連の事件について気になっているのでしょう?」
「どうしてそれを」
「こちらでも勝手に調べさせていただきました。今回はゲマトリアにも関わりがあると分かったので」
「関わりがあると分かった?」
「本日、会ってお話ししませんか? お見せしたいものもありますので」
「分かった」
彼は黒服の提案を呑んだ。何より気になったのは「関わりがあると分かった」という言い方だった。
生徒達も活動してくれているが、自分自身でも情報は掴んでおきたい。彼は黒服に指定された場所に向かう事にした。
そこはシャーレから少し離れた寂れたビルだった。中に入っていくと見覚えのある人影が机を隔てて座っていた。初めて彼と会った日の事を思い出した。
「ご足労いただきありがとうございます」
「手短に頼むよ」
「ではこれを」
そう言って彼は机の引き出しから数十枚の書類を広げた。そこには無数の機械のようなものが記されていた。
どれも見た事がない異形の形状だ。そして、その中の一つに視線が奪われた。リストの一枚にマンモス校を破壊した爆弾と同じ色合いのものがあったのだ。
「これは!」
「ええ。お察しの通りです。四つの学園に向けられた爆発物です」
「何故、これを君が知っているんだ?」
「ベアトリーチェを覚えていますか?」
「忘れるわけがない」
ベアトリーチェ。かつてトリニティ総合学院に存在した派閥の一つ。アリウス分校の生徒達を恐怖と憎悪で支配していた異形の女。
彼女のせいでアリウスの生徒は洗脳教育を施され、先のエデン条約で惨禍を巻き起こすきっかけになってしまったのだ。
「今回の一件は彼女が一枚噛んでいる可能性があります」
黒服の発言に、心臓が強く脈打った。
「どういう事だ?彼女は君達が」
「ええ始末しました。ですが彼女は託したのですよ。これらを第三者に」
「第三者?」
「エデン条約の際に使用された弾道ミサイル。あれは無名の司祭が残した兵器の一つと言うのはご存知ですね?」
「ああ、知っている」
「実はそれ以外にも我々が保有していたものがありました」
「それは?」
「無名の司祭が残した失敗作の数々です」
「失敗作?」
彼はその言葉が耳が吸い寄せられた。無名の司祭。学園都市になる前のキヴォトスに存在していたとされる者達だ。彼らが開発したものは今もオーパーツとして現在も残り続けている。
「無名の司祭は高度な技術を持っていましたが、その過程で失敗作や実用化に至らなかった兵器も多かったのです。それが廃棄されずに保管されていたのですよ。そして、今回爆破事件で使われた爆破物がそれらと酷似していたのです」
「あれは失敗作を改良したものだったのか」
「ええ。これは憶測ですがエデン条約の前か最中に彼女が第三者にこれらを提供したのではないかと私は考えています」
「つまりその第三者が今回の事件の黒幕」
「おっしゃる通りです」
黒服の声が少し緊張を孕んでいるように思えた。
「気を付けてください。もし第三者が失敗作全てをメンテナンスし終えているとなるとかなり厄介です。おそらくこの中に入っていないものを出現する可能性も」
彼はその言葉に思わず、息を飲んだ。しかし、敵を知れたことにより僅かに光明が見えた気がしたのだ。
「今回は感謝するよ。ありがとう」
「お役に立てたようで何よりです。それでは」
黒服から失敗作のリストを受け取って別れた。これは重要は手がかりだ。先生はヒマリと連絡を取って、すぐさま、ミレニアムで落ち合うことにした。
ミレニアムに着くとヒマリがキーボードを打ちながら、たおやかな表情を作った。
「思ったより早かったですね先生。何か掴んだと言う話ですが」
「うん。これを見て」
このリストをヒマリに見せることにした。
「これは?」
「とある筋から入手した」
「信用して良いのですね?」
「責任は私が取るよ」
ヒマリに伝えると彼の心情を汲み取るように静かに頷いた。しばらくすると紫色の髪の少女が彼とヒマリの元に来た。ミレニアムサイエンススクール。そのエンジニア部の部長、白石ウタハだ。
「先生。ヒマリから話は聞いたよ。どうやらまた面白いものが見つかったようだね」
そこから部品とリストを調べ始めた。黙々と仕事をする天才二人を背にして、先生も自分の仕事を始めた。
今回の作戦に協力してくれる生徒達に声をかけ始めたのだ。アロナとプラナの力を借りて、キヴォトスで親しい関係を築けた生徒達に連絡を入れた。今はとにかく人手が欲しい。
「先生。手にいれた資料を元にアビドスの皆さんが回収した武器の解析を行った結果、やはり無名の司祭のもので間違い無かったよ」
ウタハからモニター越しに知らされた報告に思わず、嘆息をついた。頭の中で描いていたシナリオのピースが綺麗に重なった。
「さらに銃も解析したけど、どれも通常の銃よりも遥かに高い威力がある。爆発物に関しても、どうやら威力を調節出来るものらしい。さらに遠隔的での起爆効果もある。かなり厄介な代物だ」
ウタハがミレニアムで爆発する前に取得したデータを表示しながら、失敗作の説明していく。
これらが今も敵の手の中にあると考えると一層、眉間に力が入った。
彼の気持ちに便乗するように先生の携帯に次々と生徒達からのメッセージが届いた。そのどれもが作戦への賛同だ。
「みんなありがとう」
彼は自身を慕ってくれる全ての生徒達に感謝の念を抱いた。
先生が敵勢力への対策を練っているその頃、首謀者である青年は目の前のものを見て恍惚とした笑みを浮かべていた。
「ようやく完成した」
青年が完成させたそれはまるで機械で作られた光輪のようだった。
「さて、狼煙を上げるとするか」
彼は次の騒動を事を考えて、口角を吊り上げた。