ガールズ&パンツァー はぐれ者共の狂想曲   作:かめろんぱん

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第三話 決別

サンガリアが打ち明けた過去に、三人は驚嘆を隠し切れなかった。彼女とは一年生の春に歴研部に入部してからの付き合いであるが、そんな話は聞いたどころか素振りすらも見せなかった。

 

「人格が…二つに…?」

「それってどういうことなんですか!?」

聖巳とマザカが、苦笑するサンガリアに目を向ける。

 

「長くなるけど…聞いてもらえるかしら」

 

はらりと落ちた横髪を耳にかけると、彼女は決意したように語り始めた。

 

「私は小学生の頃から地元のクラブチームで車長を務めていたくらい戦車道が好きで、中学校ではラケダイモン学園っていうちょっとした強豪校に通っていたのよ」

「ラケダイモン…スパルタ人の自称する名前、でしたっけ?」

「ええ。名前の通り厳しい学校で、戦車道の標語は"枕戈待旦・先手必勝"。生徒は常に戦いに備え、勝利することを求められた。火力部隊と機動部隊で相手を挟み撃ちにして短時間で決着を着ける…コレが、私たちのやり方だったわ」

 

ぎゅっとサンガリアの目元が鋭くなる。

 

「当時の私は、機動部隊の隊長を任せられていたの。機動部隊は一秒でも早く敵の懐に回り込むために、無理のある地形も強引に突破しなきゃいけない事が多かった。そうすると、履帯が外れたり擱座したりで、敵陣の近くで動けなくなる車両が出てくるの」

 

サンガリアの脳内に、中等部での記憶がフラッシュバックする。

―あの時は雨が降っていて、湿気が肌に張り付くような蒸し暑い日だった。その日もサンガリアは自身が隊列の先頭になり、敵の主力部隊が集中する地点に接近していた。

履帯が泥を巻き上げて前進する。目標地点まであと三分もかからないだろう―そう思った時、サンガリアの耳元に、雨音と混じって聞きなれない音が聞こえた。

振り向けば、ぬかるみに足を取られて列からはみ出した味方の戦車。

キューポラから顔を出した車長と僅かに目が合った。直後、無線が入る。

『こ…こちら五号車、スタックしてしまいました!申し訳ございません!!』

 

「でも、助けている暇なんてない。たった一両を助けている暇があるなら彼らを見捨ててでも前進しろと、そう教わったから。無論、無線を入れて安否を確認するのも禁止よ」

 

味方からの無線を受け取った直後、不意に前方から砲弾が飛来した。どうやら敵に手の内を見透かされていたようで、絶え間ない砲撃がサンガリアの部隊を襲う。迷っている暇などなかった。

「全車退却!一号車と二号車は榴弾を装填、敵の視界を遮りなさい!」

サンガリアの号令を受けて、五号車を除いた全車両が退却を始める。

間を置いて榴弾が放たれるが有効打にはならず、旋回が遅れた一号車が白旗を上げた。

エンジンの音、土砂降りの雨、爆発音の全てが混ざり合い、喉元のマイクから流れる音声に雑音が混じる。

やがて敵の攻勢が緩み、サンガリアが恐る恐る振り返ると、遠く離れた所に蜂の巣となった戦車―というよりも鉄屑に近い何かと、無表情のまま立ち尽くす五号車の乗員たちが見えた。彼女らは全員、いつの間にか部隊からいなくなっていた。

 

「私は…規範だからという理由で、何人もの味方を見捨ててしまった。罪悪感を感じていたのに、あの子たちを助ける努力は何一つしてこなかった。それに対する罰なのか、三年生に進級する頃には戦車に乗ると必ず記憶が飛ぶようになってしまって…そこでようやく、退部届を提出したのよね」

 

たはは、と苦笑を零すサンガリアだったが、誰も同調して笑うことなどできなかった。ただ全員が、返す言葉に迷いながら黙って聞いていた。

 

「さすがにおかしいと思って病院に行ったら、"解離性同一性障害"だって診断されたの。簡単に説明すると、人格が分裂して記憶や自我が分離する病気ね。私の場合、戦車に乗っている時の自分と日常生活を送る自分の、二つの自我があるって感じかしら」

「その、今は大丈夫なの?」

「落ち着いているわ。時々、ぼーっとしてしまうことはあるけれど」

 

聖巳は微かに安堵のため息をついた。彼女の一生モノの傷跡が少しでも癒えていることに。

いきなり、みくりは勢いよく立ち上がると同時に深く頭を下げた。

 

「ごめんなさいっ!!」

 

きょとんとするサンガリアを置き去りに、みくりは続ける。

 

「私、凛がそんな辛いことを経験したことを知らないで、勝手に戦車道やるとか言って…凛は無理に戦車道やらなくても大丈夫だから!代わりの人も私が探すから!本当にごめ―」

「ストップ」

 

泣きそうな声で謝罪するみくりに制止をかける。このままでは土下座までしかねない勢いに、思わず声が出ていた。

 

「誰が戦車道はやらない、なんて言ったのよ。私はいずれ戦車道に復帰するつもりだったわ。大好きな戦車道を嫌な思い出のままで終わらせたくないの。私、そういうところは意外と頑固なのよ。

…だから、顔を上げて。みくり」

 

「…ほんとに、大丈夫…なの…?」

 

潤んだ瞳で見上げるみくりに、サンガリアは堂々と宣言する。

 

「ええ。あなたはラケダイモンのような、無慈悲で残忍な戦車道はしないって期待してるから。

…まったく、部長なんだから私を引っ張るくらいのつもりで頑張りなさいな」

 

優しさのこもった暖かい声にみくりはしっかりと頷いて、差し出された手を取った。皮膚を隔てて伝わるぬくもり。傷ついても立ち上がろうとする彼女の心を折らぬようにしなければ―とみくりは心の中で誓った。

 

「俺も、何かあったらすぐに助けますから。この筋肉は伊達じゃないッスよ!」

「筋肉なら私だって!日々の体力作りは欠かしてません!」

右腕を曲げて力を入れ、上腕二頭筋をアピールしてみせる聖巳に負けじと対抗してみせるマザカ。その横でオイオイと泣くみくり。こんな光景、ラケダイモンでは見たことがなかったと思っているうちに、自然と微笑みが溢れていた。

「ふふ、頼もしいわね。仲間に恵まれて幸せ者だわ」

「歴研部の四人なら、どんな戦車も乗りこなしちゃいますよ!」

「うん…!それじゃ、改めて戦車の捜索を始めるよ!」

 

みくりは制服の袖で涙を拭うと、戦車道部と題されたプリントの束を捲った。中には今まで運用していた戦車の情報や、メンバーのデータが事細かにまとめられている。

 

「ふーん、春原高校って昔はパンター持ってたんだ」

「パンターって…この写真に映ってる、茶色くてデカいやつ?」

「そうよ。…へえ、全盛期にはパーシングまで…凄いわね」

 

かつての春原高校は、パンターやパーシングなどの火力に優れた戦車から、三号戦車や二号戦車L型ルクスといった偵察用の戦車まで幅広く揃えていたようで、強豪校の片鱗が伺えた。しかし、どの戦車のページにも左端に「売却済み」の赤文字が躍っている。

 

「…やっぱり、残ってる戦車はないかあ。買うしかないのかな」

「あ、何か落ちましたよ!!」

 

みくりが呟いたその時、一番後ろのページから小さな四つ折りのメモが落ち、ひらひらと宙を舞った。掃除用具箱の下に入り込む寸前でマザカがキャッチし、皺だらけの紙をそっと開く。

 

紙には、四つほどの長方形の上に三つの赤い丸印が書いてあった。

 

「ナイスキャッチ、マザカちゃん!…ところで何だろう、これ…」

 

覗き込んだみくりが首を傾げる。文章どころか文字の一つもなく、何が言いたいのかさっぱりわからない。いくら頭を捻っても、数学の図形の問題でこういうの見たなあ、という感想しか出てこなかった。

 

「形からして地図のように見えるけど…」

「この形…見覚えがあるような、ないような…」

 

みくりより数学や物理に強いサンガリアとマザカも真相にはたどり着けなかったが、「見覚えのある場所」を、「簡略化した地図」のようなものであることは分かった。三人の後ろから顎に手を当てて考えていた聖巳が、はっと目を見開く。

 

 

「もしかして、校舎の地図じゃない?真ん中の大きい四角が校舎で、手前に広がってるのがグラウンド。そのすぐ右にあるのが体育館で、一番右端にあるのが部室棟って考えたらしっくりくる!」

 

廊下の壁にかかっている学校の見取り図を思い出す。確かに、聖巳の言っている通りの配置をしていた。

 

「聖巳天才!!月桂冠授与レベルの大手柄!!」

「君主として即位待ったなしです!!」

「どこかで見覚えがあったのはこういうことだったのね…!」

 

口々に褒められ、聖巳はフフンと上機嫌で鼻を鳴らす。

きっとこの地図は先代の隊員が、いつか戦車道が復活するその日の為にこっそり残してくれたメッセージなのだろう。みくりは地図を握りしめて振り返った。

 

「予想通りにいけば、赤い丸の付いた場所に戦車があるはず!…皆、準備はいい?」

「「「おー!!」」」

 

息の揃った返事を響かせて、みくりたちは校舎の外へ向かった。

売却という魔の手から逃れた戦車が眠っていることを信じて。




次回からやっと戦車が登場します。前書きが長くなってしまいすみません。
書いている私も精神病を患っているため、病は違えど同じ悩みを抱えているサンガリアの過去は丁寧に書きたいという思いが強くなってしまいました…
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