ガールズ&パンツァー はぐれ者共の狂想曲   作:かめろんぱん

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やーっと戦車の登場です。


第四話 眠れる豹

「地図によれば、ここに戦車があるみたいね…」

「なんか、倉庫っていうよりもおっきな廃墟ですね」

 

小さな地図が指し示す場所は、グラウンドを突っ切った先にあるボロボロの倉庫だった。

昔は戦車の格納庫として使われていたようだが、廃止されて以降は掃除もされずに放置されていたようで、白いコンクリートでできた壁は全体的に黒ずんでいるし、地面から蔦が這っている。

 

「入っても大丈夫なのかなあ…」

 

倉庫の前には木製の立て看板が雑に置かれているが、経年劣化のせいで何と書いてあるのかわからない。恐らく「立ち入り禁止」とかその類だろう、と思ったが、ならばなおさら入りにくい。みくりが尻込みしていると、不意に聖巳が前へ進み出た。

 

「…悩んでても仕方がない、俺が行く!」

 

引き留めようとするみくりを振り切り、聖巳は制服の袖をまくって筋肉質な腕を露わにする。

呼吸を整えて狙いを定めると、スチールでできた扉に向かってタックルを敢行した。

「ふんッ!!」

衝突音が響く。ギリギリと扉が悲鳴を上げる一方で、聖巳の体には傷一つ付いていない。常に鍛錬を怠らない筋肉と壊れかけの鉄塊では力の差は歴然で、ものの数秒で決着がついた。扉は軋んだ音をたてながらゆっくりと開く。満身創痍で白旗を上げる戦車のように。

 

「…よし、空いたよ。早く戦車探そう」

「あ、う、うん!ありがとう!」

 

マザカとサンガリアは一連の行動を黙って見ていた。意図的に口を噤んだのではなく、その人間離れした力業に愕然としていたからだった。付き合いの長いみくりだけが辛うじて言葉を返し、四人はそれぞれの歩幅で倉庫の中へ足を踏み入れる。

 

倉庫―もとい格納庫の中は広く、昼間でも電気をつけないと中は薄暗かった。思い立ったマザカがスマホのライトを懐中電灯替わりに配電盤を探し、スイッチを入れると、天井の照明が一斉に光った。次々と光る照明が床下を照らしていく。しかし、肝心の戦車の姿が見当たらない。

 

「あれ、ありませんね…てっきりここだと思ったのに」

「やっぱり赤い丸は関係なかったのかな…」

「諦めるのは早いわ。もしかしたら格納庫のどこかに隠されているのかも」

「それじゃ、手分けして探そう!西はマザカさん、東はサンガリアさん、北はみくり。俺は南側で」

 

聖巳の言葉を受け、四人は一斉に捜索にかかった。もぬけの殻となった格納庫だが、もしかしたら何かの手がかりがあるかもしれないと。

 

「…ん?」

四隅のうち、北側を探していたみくりが声を上げる。何気なく壁を眺めていたところ、壁と同じ灰色に塗色されたボタンが設置してあることに気付いた。普通は赤色などで目立ちやすくするだろうに、なぜ地味で分かりにくい色にしたのだろう。首を傾げながらボタンを押すと、突然格納庫全体を揺さぶるような振動が襲った。みるみるうちに壁が真っ二つに分かれ、隠されていた新たな空間が現れる。その先、埃が舞う小さなガレージのような部屋の中に見える、大きな何か。

暫く唖然としていたみくりだったが、駆け付ける三人の足音によって意識を引き戻された。

 

「ボタンを押したら壁が動いた!奥に戦車らしきモノも見える!」

「すごいっ、からくり屋敷みたいです!まさに『開けゴマ』ですよ!」

「千夜一夜物語の…『アリババと400人の海賊』だっけ?」

「0が一つ多いうえに転職してるわよ…それはともかく、ひとまず戦車の方に向かってみましょう!」

 

コンクリートの床に靴底が擦れる音を響かせながら、みくり達は無我夢中で駆け、近寄った。

 

ガレージの奥。

砂漠迷彩のダークイエローを身にまとい、小さくコンパクトな砲塔と立派な足回りのコントラストが特徴的な一両の戦車が、近寄る四人を悠々と見下ろしていた。

 

 

「「「「戦車だ!!!」」」」

 

 

四人の声が揃う。四つ折りの黄ばんだ地図が示すところには、確かに戦車があったのだ。戦車道廃止に伴う戦車の売却―という名の悲劇から間一髪で逃れたこの戦車は、人目の付かない格納庫の隠されたガレージでじっと耐え忍んでいた。発見される恐怖を。資金源にしたがる生徒会の魔の手を。しかし幸運にも、自分を見つけ出したのは戦車道復活を宣言した有志たちであった。

 

「この戦車、パンターかな?」

前から後ろまでぐるっと見て回ったみくりが不思議がる。それもそのはず、第二次世界大戦中のドイツを支えた伝説の中戦車パンターにしては、今一つインパクトに欠ける形をしていた。違和感を抱いたのはサンガリアも同じで、慣れた足つきで砲塔までよじ登ると、やけに平たい防循をまじまじと見つめる。

「…違うみたいね。パンターにしては防循が薄いし形も違う。それに、足回りに至ってはイタリア戦車に見られる形をしているわ」

「パンターじゃなくて"まねっこパンター"って感じですね。パンターにはバリエーションがあるし、他国の戦車に偽装したヤツもあるけど、どれとも似てませんし」

マザカもうーんと首を捻る。しょうがないと写真を撮り、画像検索をかけることでようやく正体が明らかになった。

 

「……あ、この戦車、"P44パンテーラ"っていうみたいですよ!イタリアで設計された中戦車で、史実だと設計案のみで終わってしまったらしいです」

「そうだったんだ!じゃ、かなりのレア物ってこと!?すごい!」

キャッキャと子どものようにはしゃぐみくり。一方、名前の響きに卑猥な何かを感じ取った聖巳は、それを口にしないよう必死に抑えている。

「スペックは?パンターを踏襲しているならそれなりに優れていそうだけれど」

「前面装甲は80mmで側面と後部は50mm。最高速度は60km/h、主砲はCannone da 90/53を搭載。それから…自動装填装置が付いてるのが最大の特徴みたいです!」

「ありがとう。少々装甲に難ありだけれど、速度と火力は問題なさそうね」

イタリア戦車と聞いたときはCV33*1やらM11/39*2が脳裏を過って肝が冷えたが、なかなか頼もしいと知るとサンガリアも表情を緩ませた。

 

 

「っていうか、乗員編成どうしよう」

いつの間にやら砲塔に登り、キューポラの周りをぺたぺたと触るみくりはふと呟いた。

「私はできれば砲手をやりたいわね。経験者だから即戦力になれると思う」

「砲手か~。てっきり車長やるのかと思ってた」

「ちょっと過去の思い出(トラウマ)が、ね…車長の席に座りさえしなければ大丈夫なんだけど」

苦々しげな表情を浮かべるサンガリアに、ああ…と小さく同情する。

 

「私は操縦手やりたいです!」

下で転輪を撫でまわしていたマザカが勢いよく手を挙げた。相当愛でていたようで、手のひらがほんのり黒ずんでいる。

「いいね、マザカちゃんって運転得意そう」

「こう見えても、小学生までは戦車を動かしていた身だったんです」

「えっ、そうだったの!?」

みくりは思わず大きな声を出して驚いた。戦車道の経験者はサンガリアだけだと思っていたが、まさかマザカもとは。彼女もサンガリアと同じく今は辞めているそうだが一体なぜなのか。渦巻く疑問を恐る恐る口にする。が―

「小学生までってことは何か事情があったり―」

「それは後々お話いたしますッ!!ほ、ほら、聖巳さんは何かやりたい役職ありますか!?」

強引に話題を逸らされる。会話のキャッチボールは唐突に巻き込まれた聖巳が受け取ることになった。

 

「あ、お、俺!?俺は…筋肉が活かせるヤツがいいッスね!」

「なら、装填手がいいんじゃないかしら。装填の速さは近距離戦闘だと勝敗に直結するもの」

「主砲から考えるに砲弾の重量は10kg辺りでしょうか。戦闘の最中だと車内は揺れるので、もっと重く感じるかもしれませんね」

10kgと聞いた途端、聖巳の顔が明るくなる。

「それなら安心ッス!自分てっきり、ベンチ100kg並みのを片手で担がされるのかと思ってましたよ!」

「大丈夫、そんなルールだったらとっくに殴り合いの競技に発展していると思うわ」

「もはや戦車に乗る必要ないですもんね…」

心底安心したような表情を見せる聖巳に遠回しにツッコミを入れるサンガリアとマザカを見て、みくりはゲラゲラと笑っていた。ああ笑ったと装甲を叩く。砲手、操縦手、装填手は揃った。さて、残りは――そこまで考えた時、急に笑いが引っ込んだ。

 

「…まって、車長って誰やるの?」

 

つかの間の沈黙。

みくりを除いた三人は視線を交わし―一斉に同じ方向を向いた。

 

「「「みくりでしょ」」」

 

本日二回目、またも声が揃った。いやいやいや、とみくりが猛スピードで拒否する。

 

「だ、だって私戦車道の経験ないよ!?完全初心者だよ!?学級委員長やってた頃はクラスからフルシカトされた上に東西南北の区別ついてないんだよ!?」

 

焦るみくりから告げられる衝撃の告白。いまだかつて、キューポラから顔を出しながら方角も分からず指示を出す車長がいただろうか。しかしサンガリアは極めて冷静に事実を突きつけていく。

 

「それじゃあ貴方、砲手はターゲットと自分までの距離を計算して求める必要があるけれど、それはできるの?」

「ゔっ」

「距離は、距離=目標の幅÷シュトリヒ×100で求めることができるわ。シュトリヒっていうのは照準に着いている三角形のメモリのことで―」

「できないです…」

やれやれとばかりにサンガリアは首を振る。三つ以上並んでいる計算式と聞いたことのない単語を耳にした時点で、みくりの脳内に搭載されているCPUは煙を吹き上げていた。

「じゃ、じゃあ操縦手…」

「操縦手は集中力と忍耐力と―あと、空間認識能力も大切だと思います。指示通りに運転すればいいと思われがちですが、地形や障害物を把握して臨機応変に動かさないとですから」

「そ、装填手…」

「…みくりってペットボトルのキャップ開けるのに苦戦してなかった?」

 

みくりは膝から崩れ落ちた。計算と空間認識、そして運動を苦手とする自分に向いている役職など最初からなかったのだ。テレビの試合中継で見た戦車道の試合は、ドコドコ走ってバーンと撃っているようにしか見えなかったのに、実際はこんなに求められることが多いだなんて。

 

「…わかったわ。これから宝珠杯が始まるまで、私たちがあなたを最低限車長の仕事がこなせるように鍛えてあげる。基本的なことは私、地形についてはマザカ、基礎的な筋トレは聖巳。これでどう?」

 

思わぬ言葉にみくりが顔を上げる。サンガリアの提案に、マザカも聖巳も親指を上げて応えた。

 

「未経験者に一番の重役を押し付けるなんて酷です、私もお手伝いします!」

「筋トレなら任せろ!試合の日には50kgのダンベル持てるようにしてやるぜ!」

 

…高校生になっても、小学生の頃の苦手が克服できない自分。周りについていくので精一杯で、そんな自分を他の人は嘲笑するものだと思っていた。一生馬鹿にされて生きていくんだと諦めていた。

でも、目の前には笑ってサムズアップしてくれる三人の友達。手を差し伸べるというより、肩を組んで対等でいてくれるような存在。まだ、人生捨てたもんじゃないのかもしれない。

 

みくりはおもむろに立ち上がり、「お願いします」と頭を下げる。それを見て、砲塔に腰掛けていたサンガリアは軽く二回手を叩いた。

「それじゃ、さっそく訓練を始めましょう!」

 

 

四人は戦車に乗り込み、それぞれの配置につく。戦車の中は薄暗く熱気がこもり、とてもじゃないが居心地が良いとは言えない。しかし、この場にいる誰もが高揚感に包まれていた。

「エンジン始動、っと…!」

主電源を入れてイグニッションをオン。マザカの操作を受け、パンテーラは長い長い眠りから目を覚ました。エンジンの音は猛獣の唸り声のようで、振動が車内を伝う。

「すごい…これが戦車…!!」

「うおお、結構体に響く…!」

「…久しぶりね、この感覚」

始めて戦車に乗る二人は感動の声を上げる。経験者のサンガリアも、約二年ぶりの"再会"に不安を抱きながら興奮を隠しきれないでいた。

 

「古島車長!指示を!」

恍惚としていると、エンジンの騒音にも負けないマザカの声が耳に入る。慌ててみくりは車外の様子を伺う。

「乗員に指示を出すときは簡潔に、わかりやすくね。まずは目的地と速度を伝えるのがいいんじゃないかしら」

「わ、わかった!えーっと…格納庫の外まで、微速で前進!」

「合点承知!!」

サンガリアのサポートを受けつつたどたどしい指示を出すと、パンテーラはゆっくりと車体を前進させた。キュラキュラと履帯が音を立ててコンクリートの上を走行する。長期間のブランクがあったとは思えない滑らかな動き。長い間放置されていたにも関わらず、駆動系に目立った問題は見られず、想像以上の走りに上機嫌になったマザカは鼻歌交じりに操縦桿を握る。

 

車長らしくキューポラから顔を覗かせてみたくなったみくりは、恐る恐る砲塔から体を出した。微速で進んでいるおかげで、恐怖感はほとんどない。比べるなら、実家にいたころの祖父の運転の方がよっぽど怖い。春も終わりかけのぬるい風が頬を撫でて、緊張で滴る汗が静かに流れ落ちた。

 

マザカの安全運転もあり、パンテーラは無事に格納庫の扉の前で停車。走行の揺れが収まった瞬間、四人は一斉に安堵のため息をついた。

「いや~、やっぱり戦車の操縦は楽しいですね!」

「ええ。この戦車特有の振動もなかなかいいものだわ」

「振動と言えば、砲撃の瞬間の衝撃も甲乙つけがたいですよねっ!」

「あの腕が痺れる感覚がたまらないのよね…」

未経験者を置いてけぼりにし、戦車トークに花を咲かせるマザカとサンガリア。臀部に響くような独特の振動はみくりと聖巳にとってはまだ違和感でしかなかったが、乗り続けていると素敵だと思うようになってしまうのか。戦車の魅力とは末恐ろしいと、二人は視線を交わして頷いた。

 

 

「ーおーい、そこの人たち!!」

 

急に、戦車の外から声が聞こえてくる。生徒会の連中が難癖をつけに来たのだろうかとみくりが顔を出すと、腕に大量の道具を抱えた四人組が此方に向かって走ってくるのが見えた。

先頭を走る少女はブロンドのツインテールを靡かせ、何かの装置とスイッチを片腕に抱きながら、空いている方の腕でみくりに向かって手を振る。

 

「すまない!!私たちを匿ってもらえないか!!」

「え、えっと、あの…皆さん、一体何が…」

「質問は後にしてくれ!私たちの命がかかっているんだ!」

 

少女はやや息を切らしながらも険しい顔で懸命に訴えた。言葉から只事ではないと感じたみくりは、戦車の後退を指示して格納庫を彼女らに開放する。すると、先ほどの少女はぱあっと顔を明るくし、戦車に向かって走りながら頭を下げると慌ただしく格納庫の中に隠れていった。

 

先頭の少女の次は、自動車のハンドルと思しきものを抱えた藍色のショートヘアの少女が。その次は、視界が隠れるほどの戦車のプラモデルを持ったピンクゴールドのセミロングの少女が。少し遅れて最後に、火炎放射器と小型のドーザーブレード*3を両脇に抱え、ボビンーそれも車体の後ろに取り付けられそうなほど大型の物―を背負ったモスグリーンのポニーテールの少女が入り、扉にボビンがつっかかった衝撃で突き飛ばされるように押し込まれた。

バタン!!と大きな音を立てて扉が閉まる。

 

「……入れない方がよかったかな…」

「人が増えるにつれてどんどん持ってる物がおかしくなっていったけど…」

「最後の人、明らかに物騒な物持ってましたよね…?」

「…私の目がおかしくなければ、火炎放射器を担いでいたわ…」

 

肩を寄せ合い目にした光景が幻覚でなかったか確かめていると、車外から降りるように呼び掛ける声が。何だろうと要求に応じて降車すれば、見るからに息切れしている生徒会役員が立っていた。

「この辺りで、不要物や危険物を持った集団を…ゲホッ、見ていないか…」

「…あっちの方に走っていきましたよ」

数秒の沈黙の後、みくりは彼がいる方向と逆を指さすと、役員の少年はその場に崩れ落ちた。

 

「クソッ、連日生徒会に嫌がらせを繰り返す連中め…!!一昨日は生徒会室の扉を破壊、昨日は五時間に渡るエンジン音の妨害、今日はとうとう襲撃までしやがって…!!」

 

この瞬間、みくりの心には憎くて仕方ない生徒会の人間に憐みが湧いた。

何と言葉をかけてやろうか迷っているうちに、役員は立ち上がり来た道を戻っていく。

 

役員の姿が完全に見えなくなると、閉じ切っていた格納庫の扉がひっそりと開かれた。

 

*1
武装が機銃だけの豆戦車

*2
主砲が固定されている上に火力に乏しい

*3
ブルドーザーの前面についてるアレ




主人公たちが乗る戦車はまさかのP44パンテーラです。
どうやら存在しない戦車らしいですが、この世界では設計されていたことにします。車両の情報はWoTのwikiを参考にしていますが、誤っている点があれば教えていただけると幸いです。
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