ガールズ&パンツァー はぐれ者共の狂想曲   作:かめろんぱん

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無線でのやり取りは『』で表します。


第六話 宣戦布告!ゲルマニアの騎士

初の練習を終えた数日後。技術部が加わった歴史研究部のメンバーは、缶コーヒーを片手に歴史談議に花を咲かせていた。

 

わいわいと盛り上がっている最中で、みくりの携帯から着信音が鳴る。

「あれ、電話?」

「そうみたい…だけど、知らない番号だ」

首を傾げつつ画面をタップし、みくりは廊下に出ていく。一瞬静まった部室に再び活気が戻るが、それも長くは続かなかった。息を切らしたみくりが勢いよく教室の扉を開けて戻ってきたのだ。

明らかに何か大変な事が起こったらしく、その表情は強張っていた。

 

 

「…練習試合の申し込みが来た」

「相手は?」

 

電話を終えたみくりの一言に皆がざわつくが、サンガリアだけは冷静に尋ねる。強豪校の戦車道経験者である彼女らしい反応だ。

 

「グロースクロイツ高校。ウチと同じく今年から戦車道を始めた学校らしくて、使う戦車は主にドイツ系だって。戦車は四両出してくるみたい」

「ドイツね。相手の編成が気になるところだわ」

 

サンガリアは戦車格納庫が設置された校庭を一瞥する。春原高校の保有する戦車はP44パンテーラとパンター偵察戦車の二両。十分な戦力ではあるが、ティーガーⅠやティーガーⅡ、ヤークトパンターなどを相手にするには、戦車の質も生徒の練度もまだまだだ。

 

「試合の日程は?…まさか、今週とかじゃないでしょうね」

「来週の土曜日。勝てるかなあ…アニマルシリーズで固めてこられたらどうしよう…」

 

みくりの脳裏に、いつか見た戦争映画が思い浮かぶ。ティーガーⅠを相手にしたシャーマン四両のうち、三両が爆炎を上げて吹き飛んだあのシーン。混乱する現場、立ち込める炎、伝播する絶望。

例の映画は近距離の戦闘に持ち込んで辛くもティーガーⅠを撃破したが、そう上手くいくだろうか。

 

「黒森峰みたいな強豪校ならともかく、相手は戦車道を始めたばかりでしょう?なら、恐らくアニマルシリーズを筆頭とした重戦車や駆逐戦車を揃える余裕はないはず。強くても四号戦車を中心にすると思うわ。それなら対処の方法はいくらでもある」

 

頭を抱えるみくりの横で、淡々とサンガリアは分析し、結論を下した。

 

「部長が戦意喪失してどうするの。ほら、しっかりしなさい」

「そうだぞ、イェーガー大佐。動くドイツ戦車を間近で見れる!こんなに素敵な事は滅多にない!」

「…ポルシェ博士はマウスを四両出されてもニコニコしてそうだね」

「それは私でも笑うわよ…」

 

現実外れなツッコミにサンガリアは苦笑する。あの動かすのもやっとの超重戦車がひしめき合うならそれはそれで見てみたい気もするが。

悪い方へ思案を巡らせ突っ伏していたみくりが、ようやく体を起こす。

 

「…よし、じゃあ屋内の活動はここまで。これからは外に移動して、戦車道の訓練を始めます!」

「「了解!」」

 

部長の指示に揃った返事で答え、総勢8人の春原高校戦車隊は部室を後にした。

 

 

 

「停止!」

走り回っていたパンテーラが号令に合わせてピタリと止まる。

「目標、2時の方向。弾薬徹甲弾、砲撃用意!」

車長の指示に従い、聖巳は練習用の徹甲弾を素早く取り出し、閉鎖機を手動で閉める。

 

…というのも、本来この戦車は自動装填装置が付いているのだが、何故だか見つけた時点では取り払われていて、装填を手動で行わざるをえなかった。発覚したときは車内が騒然としたが、聖巳が「自分が装填装置になればいい話」と宣言したことで何とかなっている。

 

「装填完了!」

宣言通りスムーズに装填が行われ、サンガリアは鋭く照準を覗き込む。P44の主砲が、的の中心を捉えた。

「…撃てっ!」

合図と同時に砲撃。模擬弾は緩く弧を描き、的の中心部を突き破った。

 

「凄い!ドンピシャだ!!」

「流石です!」

「装填する甲斐があるッス!」

口々に褒められ、サンガリアは照れ隠しのように笑う。二年半というブランクがあった彼女だが、戦車に乗り込むなり本来の力を開花させ、砲撃の精度はめざましく上昇していた。

 

ドォン、と右から砲声が響く。技術部の駆るパンター偵察戦車が発砲した音だった。模擬弾は中心から逸れているものの、しっかりと的に当てている。視線に気づいて手を振ってきたポルシェに、みくりもはにかみながら手を振り返した。

 

チームの雰囲気は良好で、自分含めチームの技能も上達している。もしかしたら勝てるかもしれない―と、みくりは胸の内から自信が沸き上がるのを実感した。

 

 

 

 

 

流れるように時間が経ち、一週間後の土曜日がやってくる。

試合会場は雑木林が点在する緩やかな丘陵地帯。早くから移動を開始していた春原高校は運営本部との諸々の連絡を済ませ、雑談を交わしながらも戦車の最終点検を行っていた。

 

「そうだ。対戦相手について調べたから、わかる限りの情報を共有しとくね」

 

通信機器をチェックし終えたみくりが、タブレットの画面を読み上げる。両目の下にはスクールメイクの範疇では隠し切れなかった隈が刻まれていた。

 

「まず、相手の隊長は『ローゼマリー』っていう人で、本名は春木茉莉弥。『ゲルマニアの騎士』の二つ名を持っていて、騎士道精神に則った勇敢かつ礼節のある戦いを好む傾向あり。母親は戦車道経験者、父親は戦車道専門の部品会社『ハルキ工業』の社長。グロースクロイツはハルキ工業と専属の契約を結んで質の良いパーツを仕入れていることから、保有戦車の戦力増強が推察できる。…要するに見かけより強いかもしれないから、各自警戒を怠らないようにって感じかな」

 

一通り話したみくりがふぅ、とため息をつく。

 

「どうやってそこまで調べたの?」

 

砲尾と閉鎖機を確認していた聖巳が目を丸くした。それもそのはず、高校戦車道の選手を紹介するサイトでも、両親について触れている記事は殆どない。ましてや全国的に有名でもない高校がどこの会社と契約を結んでいるかなど、そう簡単に知ることはできない。

 

「戦車道連盟のデータベースだと情報が足りないから、ローゼマリーさんの本名を検索させてもらったの。そしたらハルキ工業のホームページとか戦車道用の掲示板とかがヒットして、そこから色々判明したんだよね!あとは地道に選手のSNSアカウントを特定した」

 

目の下の隈は連日に渡る調査(ネットストーキング)の成果だった。さあ褒めるがいい、と言わんばかりに鼻を鳴らすみくり。

 

「怖…」

「親衛隊保安部かしら」

「ゲシュタポがいます…」

 

しかし、返ってきたのは恐怖と絶句だった。あろうことか戦争犯罪集団にすら例えられる始末に、みくりは慌てて首を振る。―その時、春原高校の戦車の前に一両のキューベルワーゲンが止まった。運転席のドアを開けてぴょこんと飛び降りたのは、カーキのパンツァージャケットを身にまとった小柄な少女。

 

少女は春原高校の面々から一斉に視線を喰らうが、意に介さない様子でずんずんと向かってくる。

縦に巻かれた金色のツインテールが風になびき、力強さを感じる褐色の瞳が辺りを見渡す。

噂をすれば―とみくりは口走るなり、急いで戦車から降りた。

 

「貴女が春原高校の隊長さんかしら?御機嫌よう。私はグロースクロイツ高校戦車隊隊長、ローゼマリーでございますわ。」

美しいカーテシーを披露する少女こそ、対戦相手の隊長を務めるローゼマリー。

「初めまして。春原高校戦車隊隊長の古島みくりです。素人集団ではありますが、負ける気はありません。よろしくお願いします」

「練習試合を受けてくださったこと、感謝いたします。『ゲルマニアの騎士』の戦いをとくと味わってくださいませ。…それにしても」

 

やたらと芝居がかった声色にみくりが嫌な予感を抱く。その予感は、見事に的中した。

 

「とってもユニークな戦車をお持ちですのね。パンターのオマージュ(パクリ)と言われたパンテーラに、蕾のままに終わった(計画倒れした)パンター偵察戦車だなんて…」

 

にやり、という表現が相応しい笑みを浮かべるローゼマリー。口調こそ淑やかだが、明らかにこちらの戦車を面白がっていた。

 

「…驚いたでしょう?ゲルマニアの騎士である貴方も、まさかこんなマイナーな戦車の対策は練っていないですよね」

 

皮肉には嫌味を。それにしても言い過ぎたかとみくりは気まずく思うが、対するローゼマリーは楽し気に笑った。

「ええ。珍しい戦車こそ、砲火を交える甲斐があるというものですわ。ではまた試合で」

そう言うと、ローゼマリーは颯爽とキューベルワーゲンに乗り込み、陣地へと引き返していった。

 

 

少し会話を交わしただけなのにどっと疲れが押し寄せる。怒りに呑まれて喧嘩を買ってしまったが、はたして大丈夫だろうか。これがきっかけで試合にティーガーⅡでも持ってこられたら土下座するしかない。

車内に戻ると「お疲れ様」と声がかかる。どうやら、車内から隊長二人の様子を伺っていたらしい。

 

「いやー、まさか喧嘩を売りにこられるとは思わなかったよ」

「イギリス人みたいなドイツ人でしたね」

 

マザカの率直な感想に思わず噴き出すみくり。確かに、先ほどのローゼマリーの態度はステレオタイプなイギリス人に近い。

 

「実は喧嘩を売るんじゃなくて、戦車を見物しに来ただけだったりして」

「えー…完全に馬鹿にするときの声と顔だったよ、さっきの」

「物凄く会話下手で、いい意味でユニークって言った可能性もあるっしょ!」

 

ポジティブに言い切る聖巳に煮え切らない返事を返す。仮にそれが本当なら、可哀想なことをしてしまった。ああだこうだと議論が交わされる一方で、サンガリアは一人考え事に耽る。

 

「(…ローゼマリーって人、覚悟が決まってるわね。一人で敵の陣地に来るなんて)」

 

副官を引き連れる訳でもなく、視線が集まる中で啖呵を切って見せた少女。背丈だけ見れば小学生のように見えるが、内に秘める闘志はかなりのものらしい。久しぶりの強敵との試合に、ぞくりと背筋が震える。

 

「…楽しみだわ」

 

一人静かに呟き、サンガリアは目の前の引き金をいたわるように撫でた。

 

 

試合開始まで10分を切り、両校はスタート位置に移動する。春原高校側は左右に雑木林が生い茂る平原が陣地となっていた。

 

みくりは緊張で震える手を抑え、スロートマイクの無線スイッチを押す。

 

「こちら隊長車。今日は私たちの初試合です。まずは『怪我無く安全に』を意識しながら、試合に臨みましょう。」

 

ふと下を向くと、砲手席から微笑むサンガリアと目が合った。少し緊張が和らいで息が吸いやすくなる。

 

「…敵は『ゲルマニアの騎士』の異名を持つことから、騎士道精神に則った戦闘を仕掛けてくると思います。正面から接敵する可能性も十分にありますので、警戒を怠らないようにしてください。

こちらはまず索敵を行い、相手の編成を可能な限り把握します。パンター偵察戦車は私達についてきてください」

 

試合の展開を伝えたところで、空に白煙が上がった。

試合開始のゴングが鳴る。

 

「戦車前進、パンツァー・フォー!」

Panzer Vor!(ぱんつぁー ふぉー!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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