超かぐや姫!~八千代の記憶に棲む者~   作:白豆男爵

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月夜に響け、キミの声

「──太陽が沈んで、夜がやってきます」

 

その言葉と共に、月見ヤチヨが顕現する。

何度見ても見飽きない仮想空間ツクヨミのエントリーだ。

ヘビーユーザーである私はこのまま素通りするが、かぐやは今頃チュートリアルを受けている頃だろう。

私のアバターは、青を基調にしたストリート系。

ついでに狐耳と尻尾付き。

ツクヨミだと、このくらい普通だ。

動物耳なんて珍しくもないし、中には鬼の角なんか生やしてる人もいる。

 

「ヴェェェッ!」

 

と、チュートリアルを終えたであろうかぐやが鳥居から出てきて、盛大にズッコケた。

金髪ロングにうさぎのような垂れた耳を携え、朱色と若草色のコーデを身に纏っている。

 

「金髪、ギャルいかぐや姫...」

「あ、もしや彩葉!」

 

起き上がったかぐやは私のアバターを指差した。

その周りを一匹の犬が駆け回っている。

 

「犬DOGE!連れて来れるんだね!」

 

何それ初耳なんだけど。ツクヨミって携帯ゲーム機のペットまで持ち込めるの?

いやまあ、()()を見た後だとそんなに違和感ないかも...

 

「...あれ、ヤクモは?」

 

かぐやはヤクモを探してきょろきょろと辺りを見渡す。

しかしここには私とかぐや以外の人影はない。

 

「お姫様がお探しですよ、ヤクモさん?隠れてないで出てきたら?」

「え?どこどこ?」

『...探し回らないでくれ』

「えっ!?」

 

どこからともなく聞こえるヤクモの声に、かぐやがびくっと肩を跳ねさせる。

 

「声はするのに見えない!どこ!?」

「ここだよ、ほら」

 

私はそう言いながらわざとらしく携えているブーメランを掲げる。

 

『おい、掲げるな!』

「え!?武器からヤクモの声がする!」

 

そう、私がツクヨミにログインすると、なんとヤクモの意識が私のブーメランに宿るのだ。

正直どういうわけかさっぱりで、初めて見た時は私も驚いたものだ。

イマジンというイレギュラーをなんとかツクヨミに適応しようとした結果なのだろうか...?

だから犬DOGE?を見ても正直驚きはそこまでだった。

だって同じくらいのイレギュラーが私の傍にいるから。

しかし、この奇妙な現象はそれだけじゃない。

 

「せっかくだし、出てきたら?」

「おい、やめろ!振るな!」

 

私がヤクモに催促しながら武器をブンブン振っていると、観念したのかヤクモはその姿を変え、人型へと変化した。

 

「...小っちゃい彩葉だ!」

「最悪だ...」

「前から気になってたんだけどさ、なんでその見た目なの?」

「知らん、私に聞くな」

「可愛いー!」

 

ヤクモは自分の意志で人型になれるみたいなのだが、その見た目は何故か、私のアバターを何歳か幼くしたような姿となる。

かぐやはその姿に興味津々のようで、その小さなヤクモを抱え上げている。

 

「やめろ!?」

「えへへ、ヤクモ小っちゃーい!」

「言うんじゃないよ!」

「...ふふっ」

「...」

 

小さくなったヤクモは、不服そうな顔をしながらも、どこか抵抗をやめていた。

その仲睦まじい様子に思わず笑みがこぼれる。

しかしいつまでも小さいヤクモをいじり倒しているわけにもいかない。

 

「行こ、かぐや」

 

私のその言葉と共にかぐやは歩みを進める。

かぐやはツクヨミの街並みに目を輝かせ、あちこちを走り回っている。

ちなみにヤクモは恥ずかしいのか、武器に戻ってしまった。

 

「せっかくなら人型になって一緒に回ればいいのに」

『...あんまりはしゃぐ柄じゃないんでね』

「はいはい、分かりましたよ」

 

そんなどこか一歩引いているヤクモと話しつつ、私はかぐやを連れて目的地へ向かう。

今日この時間にログインしたのには、ちゃんと理由がある。

だって今日は、ヤチヨのミニライブがあるのだ。

 

『キタキタキター!これがないとツクヨミの夜は始まらない!本日もヤチヨミニライブの開演だあああーっっ!』

 

MC担当ライバーの忠犬オタ公のアナウンスと共に会場のボルテージは高まっていく。

その熱気に応えるように巨大モニターにカウントダウンが表示され、ツクヨミ中の人々が同時に「0」と叫んだ瞬間、会場の中央、鳥居の上に人影が現れる。

ツクヨミでは誰もが知るトップライバー、月見ヤチヨだ。

 

「ヤオヨロー!神々のみんな~、今日も最高だったー?」

 

その一言で会場は大盛り上がり。

 

「よーし、今宵も皆を誘っちゃうよ☆Let's go on a trip!」

 

こうして月見ヤチヨのライブは幕を開けた。

 


 

ライブの光景が、まだ目の奥に焼き付いて離れない。

音も、歓声も、ヤチヨの歌声も。

まるで夢を見ていたみたいだった。

 

「ヤクモ、何で彩葉は泣いてるの?」

「ヤチヨのライブに感動したからじゃないかね?」

「感動すると泣いちゃうの?じゃあヤクモも?」

「...さあ?どうだろうね?」

 

ライブの余韻に浸っている私をかぐやとヤクモの会話が現実へと引き戻す。

ライブが最高すぎて呆然としてしまっていたようだ。

 

「イェーイ!感謝、感激、雨アラモード!ヤチヨは果報者なのです。あ、ここでお知らせ!ヤチヨカップっていうイベントを開催しま~す!」

「参加資格があるのはツクヨミの全ライバー!一か月の間に最も新規ファンを獲得した人が優勝だよ。優勝者にはなんと、ヤチヨとのコラボライブの権利を進呈!」

「うっそ!?コラボォ!?」

「何それ、すごいの?」

 

興奮する私は何も理解していないかぐやに対して思わず力説してしまう。

 

「すごいもなにも、配信のコラボはあったけど、ライブはいつも一人で歌ってたんだよ!?何?誰とぉ!?」

「...完全に自分の世界に入ってるねぇ」

「へー、じゃあ彩葉、一緒にやろ!」

「私らみたいなモブとやるわけないじゃん。こういうのは大体相場が決まってんの」

 

私たちがそうやり取りしていると、帝アキラ率いるプロゲーマーユニット、通称黒鬼こと『ブラックオニキス』が乱入、ど派手な演出と共に優勝宣言をして会場の注目を集めた。

しかし、そこに一石を投じる者が一人。

 

「すぅぅぅぅぅぅ...ヤぁぁぁぁぁ────チぃぃぃぃぃ────ヨぉぉぉぉぉ────!」

 

何とかぐやである。

何を思ったのか、早速『目立たない』という約束を破り、ヤチヨに向かって叫び始める。

 

「かぐやがヤチヨカップ優勝する!そんで絶対コラボライブする!いろh...むぐむぐっ」

「アンタはいつも勝手にっ...!」

 

私は咄嗟にかぐやの口を抑える。

しかし時すでに遅し。その叫びで、会場の注目を一気に集めてしまった。

 

「ほいでは!ライブは一旦ここでクローズ♪皆とちょこっとお話させてね。さらば~い!」

 

なんとかかぐやを抑えていると、ヤチヨは分身して観客の元へ向かっていく。

 

「ねえ彩葉、一緒にやろっ?」

「はあ?そんなの無理に決まって...」

「ムリムリムリ!小娘が!」

「こらっ」

 

私の言葉にかぶせて無理だとかぐやに言うFUSHIをヤチヨが制止する。

FUSHIってもっと可愛げのある喋り方じゃなかったっけ...?

 

「お忘れかな~?ヤチヨカップの参加はライバー限定なのです♪」

「そっか、じゃあかぐやライバーになる!そうと決まれば準備準備~」

 

かぐやはそう言うと速攻でログアウトし、この場には私とヤクモとヤチヨのみが残された。

といってもヤクモは今武器状態なので、傍から見れば実質二人きりだ。

 

「あっ、えっと、私いつもヤチヨに支えられてて、それで...」

「ふふっ、いつも来てくれてありがとうね♪」

 

え、認知されてる!?マジで!?

興奮で私の脳はもう限界だった。

 

「あの、き、今日はこれでっ...」

「待って!忘れ物!」

 

ヤチヨはそう言って私に駆け寄り、手を握ってくれた。

 

「あ、あの...ありがとうございました!」

 

私はその興奮が冷めないまま、ログアウトするのだった。

 

 

 

「いつも来てくれてありがとね、彩葉。それにヤクモも、見守ってくれてありがとう」

 


 

かぐやと共に旅をして幾千年、とある満月の夜。

私たちはイマジンの襲撃を受けていた。

 

「ぐっ...!」

「ヤクモ!」

 

私は攻撃を喰らい、変身解除させられてしまう。

まさかイマジンを3体同時にけしかけてくるなんてね...

 

「はっ、手こずらせやがって」

「だがこれでようやくカグヤを始末できる」

「まずはヤクモ、貴様からだ!」

 

三方向から殺気が迫る。

避けきれない。

変身も解けた今の私じゃ──

 

「やめてっ!」

 

そう言ってかぐやは庇うように私の前に出る。

 

「バカ!早く逃げるんだよ!」

「ヤクモを置いてくなんてできない!」

「ならば望み通り、お前から始末してやる!」

「っっ!」

 

私は咄嗟にかぐやを庇い、攻撃を受け止める。

その攻撃を受け止めた自分の背中に激痛が走った。

 

(何でだろうねぇ...)

 

かぐやを守るのは、自分のためだったはずなのに。

なのに今は──かぐやを守りたいと、心の底から思ってしまった。

すると沈黙していたベルトの二つ目のボタンが淡く輝き始める。

押しても何も起こらないから、使えないと思っていたけど...

 

「そういうことかい...」

 

私がその輝くボタンを押すと、いつもと異なる音と光がベルトから発せられる。

 

「変身!」

<ハルバード・フォーム!>

 

再び出現する装甲にイマジンたちは後ずさり、私は普段とは違う、重厚な鎧をその身に纏う。

肩には鳥居を思わせる意匠。黄金の装甲は、まるで神社に祀られた守護神のようだった。

 

「なんだ、その姿...」

「さっきまでと違う...!?」

「退いてもらうよ。今の私は、ちょっと頑丈なんでね」

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