時は江戸時代、かぐやはとある花魁と成り行きで太夫を目指して二人三脚で奔走していた。
まだまだ彩葉とやらがいる時代まで時間がかかるわけだし、こんな寄り道も悪くはないだろうとは思っていた。
そんなある日、うっかり私が実体化しているところを花魁に見られてしまった。
「あっ、えっと、これはその...」
「随分と不思議な見た目の連れだね」
「...驚かないのかい?」
「そりゃあびっくりしたけどさ、それ以上に何ていうか...親近感みたいなのを感じたからさ」
「あんた、変わってるね」
「ははっ!よく言われるよ」
それからは時折、私は花魁の前で姿を見せるようになった。
私はふと思った疑問をぶつけてみた。
「なんでアンタはいつも笑っていられる?花魁だって楽な仕事じゃない。太夫を目指すのも厳しい道のりだ。ムカついたり、イラついたりしないのかい?」
「うーん、確かにそうだね。でも、だからこそかな?ムカつくからさ、つらくても笑うんだよ!」
「...そうかい」
この数千年、色んな人を見てきたけど、ここまで親しみを感じたのは初めてだった。
だからきっと、目の前のこいつが許せなかった。
「誰だい、アンタ」
「ヤクモ...?」
「やだねぇ、つれないじゃないか。私だよ、私」
姿も声も同じ。
かぐやも、疑問そうに首をかしげる。
でも、私は即座に気付いた。
“目”が違う。
本物の花魁はかぐやを見る時、私たちに話しかけるとき、どこか優しかった。
でも今目の前にいるそれは、“獲物”を見る目をしている。
「...真似するなら、もっとマシな真似をすることだね」
私はドスの利いた声でその言葉を放つ。
胸の奥が、じわりと熱を持つ。
不快感なんて生易しいものじゃない。
この旅路の中で、ここまで誰かを“殺したい”と思ったのは初めてだった。
「アイツはねぇ、そんな目でかぐやを、私を見なかった」
「ちっ、バレてたか...妙に鋭い奴め」
その偽物は擬態を解き、イマジンとしての姿を露わにする。
...こいつは私の逆鱗に触れた。
親しい人を利用して、かぐやに近づこうとした。
「お前だけは、絶対に仕留めてやる」
次の瞬間、私の怒りに呼応するように三つ目のボタンが脈打つ。
私は即座にそのボタンに手を伸ばし、パスをかざした。
「...変身」
<アロー・フォーム!>
新たな装甲は月光を思わせる白銀に輝く。
肩や腕を覆う装甲は細く鋭く研ぎ澄まされ、まるで獲物を狩る獣の骨格のようだった。
重厚だったハルバードフォームとは対照的に、その姿は軽く、静かで、それでいて恐ろしいほど殺意に満ちていた。
「覚悟しな。狐を怒らせたらどうなるか、教えてやるよ」
あれからかぐやはさらに配信を続け、より一層勢いを増し、登録者はうなぎ登りに増えていった。
配信による収益もどんどん増え、今では私がバイトをするよりも稼いでいると思う。
そんなかぐやがある日、「買い物に付き合って」と私を外に連れ出した。
真夏の日差しが容赦なく照りつける。 アスファルトから立ち上る熱気だけで、頭がぼうっとしそうだった。
「ここって、不動産屋?」
「ねえねえ、こことかどう?」
そう言ってかぐやが指したのは不動産屋の看板。
3LDKのタワーマンションの最上階。
前に引っ越したいとは言ってたけど、まさか本気だったとは。
家賃は...
「35万円!?」
目ん玉が飛び出るほどの値段であった。
今の家賃なんか比にならないぞ...
さすがにこんなところに住んでなんかいられない。
「こんなとこ住んでたら人間おかしくなるって...」
ただでさえ暑いのに、クラクラする。
あまりの値段に眩暈がしてきた。
かぐやを不動産屋から引き剥がそうと腕を引っ張るが、思うように力が入らない。
途端に視界も歪み始め、思わず座り込んでしまう。
「彩葉、大丈夫?下に何かあるの?」
頭痛もしてきた。これ、本格的にヤバいかも...
「彩葉、身体あつあつだよ!?」
『...彩葉、変われ』
しゃがみ込んでいると、突然ヤクモが変われと言ってきた。
どうしてこのタイミングで...?
「ヤクモ...?」
『いいから変われっ!』
「!う、うん...」
私は言われるがままにヤクモに変わる。
その瞬間、私の意識はぷつりと途切れるのだった...
「ったく、無理しすぎなんだよ、この娘は...」
私はそう呟きながらもなんとか立ち上がる。
体が重い。憑依しているだけの私でさえこの感覚だ。
彩葉がどれだけ無理をしていたのかは想像に難くない。
「もしかして、ヤクモ?」
「ああそうだ。このままじゃ彩葉がぶっ倒れちまいそうだったからね。思わず変わっちまった」
「彩葉、体調悪いの!?ど、どうしたら...」
「とりあえず、
「う、うん!」
(こうなると聞いてはいたけど、ここまでとはね...これはちょっとお灸をすえる必要がありそうだ。)
私はかぐやの支えを受けながら家に向かって歩き始めた。
私が目を覚ますと、いつもの天井が視界に入る。
どうなったんだっけ?道端で座り込んで、それで...
重い身体をなんとか起き上がらせると、キッチンで料理をしているであろうかぐやが目に入る。
窓からはすでに夕日が差し込んでいた。
「そうだ、バイト!」
「彩葉!しんどい?」
「大丈夫、すぐ出るから...」
すぐにバイトに行こうとするが、思うように力がはいらない。
するとヤクモが珍しく砂のような状態になり、私に話しかけてくる。
いつもなら、『わざわざこの姿を見せるのは合理的じゃない』とか言ってたのに...
『馬鹿だね、そんな状態でバイトに行けるわけないだろう?欠勤の連絡は入れといたから、今は休め』
「えっ...?」
ヤクモにそう言われスマホを起動すると、丁寧な文章でバイトを休む旨のメッセージが送信されていた。
ヤクモがここまで優しさを見せたのは初めてかもしれない。
「あ、ありがとう、ヤクモ...」
「そうだ、病院行こ!」
「...お金かかるから、行きたくない...」
「そんなもん、かぐやに任しとき!」
かぐやはそう言って自信満々に力こぶを作ってみせた。
でも、それじゃあもう...
「無理だよ...全部ギリギリで予定組んでるから...何日も休んだら...追いつけないよ...そしたら奨学金も...出ないかも...」
お母さんならきっと、こんなことにもならずに上手くやったんだろうな...
体調管理は全ての基本や。ここで躓く奴はどんな阿呆より下や。
母の言葉が頭を反芻する。
今の私には、その言葉は痛いほどに刺さった。
「彩葉ぁ、ごめんなさい、私がいっぱい我儘言っちゃったから...もう休んで、死んじゃやだぁ~!」
「おおげさな、死にはしないよ...」
かぐやは目を潤わせ、大粒の涙を流す。
私はそんなかぐやの背中を、泣き止むまでさすってあげた。
まったく、どっちが面倒見られてるんだか。
「彩葉は、どうしてそんなに一人で頑張らないといけないの?」
「どうして、か...」
私はかぐやとヤクモに自分の過去を話し始めた。
亡くなってしまった父の話、それを皮切りに変わってしまった母の話、出て行ってしまった兄の話...
「それで、私が一人で学費も生活費も賄うならって、やっと折り合いついたんだよね」
「えらい簡単に言うけどさ、みんなそんな事してなくない?」
「でも、お母さんはそれくらいのこと平気で...」
するとそれまで口を閉ざしていたヤクモが口を開く。
『はぁ、聞いて呆れるね』
「...え?」
『母親に認められたいから、母親のように生きるだって?冗談じゃない。そんなやり方しても得るものは何もないよ』
ヤクモはただ、淡々と言い切ってみせた。
それを聞いて私は、思わず声を荒げた。
「知ったようなこと言わないでよ...私がどれだけ頑張ってきたと思ってっ!」
『彩葉の頑張りはあの日からの数カ月間、ずっと見てきたつもりだよ。けどね、目的がそれだっていうなら話が変わってくる。母親の道をなぞらえたって、その先には何もないと言ってるんだ』
「ヤクモにはわからないでしょうね!だってあんたは半分怪物みたいなもので...!っ!」
そこまで言って、思わず口を噤んだ。
血が登っている頭でも理解できる。それは越えてはならない一線だ。
「ご、ごめ...」
『いい。事実だからね。それよりもだ』
ヤクモは本当に気にしていないといった風で話を続ける。
『私はつらくても、ムカついてても、それでも笑って生きたやつを知っている。でもそれは作り笑いなんかじゃない。苦しくても、目指したいもののために、心の底から本気で笑ってた。今のあんたが本気で笑えるものは何だ?』
「本気で、笑えるもの...?」
言葉が出なかった。
勉強も、バイトも。 全部、“やらなきゃいけない”から、“必要なこと”だからやってきた。
ずっと自分のためだと思ってやってきた。
いや、“言い聞かせていた”のかもしれない。
「私、は...」
『今は思いつかなくていい。それはこれから見つけていけばいいものだからね』
ヤクモは私の考えを見抜いたように言葉を投げかける。
「ナチュラルに先回りしないでよ...」
『狐を化かすには8000年早いってことさ』
すると、私たちの普段よりも激しい言い合いに硬直していたかぐやが小さく手を挙げる。
「彩葉、曲作ってる時ちょっと楽しそうだったよ?」
「えっ...?」
「あと、たまーにだけど、ヤクモと喧嘩してる時もなんか楽しそう!」
『それは心外だねぇ』
「うっさい...」
思わずそう返した瞬間、 二人が小さく笑った。
その瞬間だけは、少し救われた気がした。
前回何気にライダー名が判明した(仮面ライダー)セツナの3フォーム目が出揃いました。
フォームチェンジは今出揃ってる3つで全てです。
スペックマニア向けにパンチ力とか設定しようと思ってますがどれだけ需要があるのか...
あとイマジンが勝手に化けてるだけなので花魁は別になんとも無いです