また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
春麗は、夢だとすぐにわかった。
円卓。
どこでもない場所。
修行場に似ているのに、修行場ではない空間。
そして、席についている複数の春麗たち。
本編春麗は、前回よりも少しだけ落ち着いていた。
なぜなら今回は、ただ呼ばれたわけではない。
持ってきたものがある。
資料。
会議用資料。
リュウから採取した、本人無自覚の回答データ。
本編春麗は、円卓の中央に数枚の紙を置いた。
「第二回春麗会議を始めるわ」
自覚前春麗が即座に顔をしかめた。
「いつから正式会議になったのよ」
黒ドレス特化版春麗が腕を組む。
「前回からでしょう」
「前回も正式ではなかったわ」
通常救済版――正確には、裏ルート通常救済版の春麗が、穏やかにお茶を置いた。
「でも、今回は資料があるのね」
行き遅れ恐怖版春麗が身を乗り出す。
「資料って、リュウの?」
裏ルート救済困難ルート後版、つまりグランドフィナーレ済み春麗が静かに微笑んだ。
「彼は、知らないまま提出資料にされたのね」
本編春麗は咳払いした。
「リュウ本人は会議の存在を知らないわ」
自覚前春麗が眉を寄せる。
「それ、大丈夫なの?」
黒ドレス特化版が平然と言う。
「知らないから価値があるのよ」
通常救済版が少し困ったように微笑む。
「倫理的には少し怪しいけれど、春麗会議としては有効ね」
「春麗会議としては、って何よ」
自覚前春麗が抗議する。
本編春麗は無視した。
「今回は、リュウの自然回答を分析する。議題は三つ」
紙を一枚めくる。
「一つ、黒・青・どちらでもない春麗についての認識」
二枚目。
「二つ、面倒な春麗への反応」
三枚目。
「三つ、甘い言葉の宿題、途中経過」
行き遅れ恐怖版が小さく言った。
「……甘い言葉の宿題って、やっぱりかなり踏み込んでいるわよね」
自覚前春麗が即座に言う。
「私は出さないわよ、そんな宿題」
全員が見た。
自覚前春麗は一瞬で防御姿勢になる。
「何よ」
本編春麗は淡々と言った。
「あなた、前回もう“発言耐性訓練”を予約していたでしょう」
「それは戦闘上必要だから」
黒ドレス特化版が頷く。
「ええ。最初はみんな、そう言うのよ」
「みんなって言わないで!」
本編春麗は議事進行に戻した。
「では第一議題。黒の私と青の私、どちらが春麗か。リュウの回答」
全員が少しだけ身構える。
本編春麗は読み上げた。
「どちらも春麗だ」
通常救済版が、ものすごく静かに微笑んだ。
「そうでしょうね」
本編春麗は目を細める。
「あなた、得意げね」
「だって、私のルートの根幹だもの」
通常救済版は穏やかに言った。
「黒でも青でも見る。リュウは、そこは外さないわ」
黒ドレス特化版が少しだけ口を挟む。
「でも、それだけなら総論よ。黒の具体性が足りないわ」
本編春麗は紙をめくった。
「その点も取ってあるわ。追加質問として、黒いドレスの私、青い武道服の私、どちらでもない私について答えさせた」
自覚前春麗が呆れた。
「答えさせたって言い方」
「事実よ」
「事実だから余計にひどいのよ」
本編春麗は読み上げた。
「黒は、俺を惑わせてくる春麗だ」
黒ドレス特化版の目がわずかに変わった。
「……へえ」
本編春麗は続ける。
「青は、先へ行く春麗だ」
通常救済版が目を細める。
「良いわね」
さらに読む。
「どちらでもない時は、構えの外にいる春麗だ」
会議室が静かになった。
自覚前春麗も黙った。
行き遅れ恐怖版が小さく息を呑む。
グランドフィナーレ済み春麗が、静かに呟いた。
「構えの外にいる春麗……」
黒ドレス特化版が腕を組んだ。
「不意打ちね」
本編春麗は頷く。
「ええ。私も被弾したわ」
通常救済版が柔らかく言う。
「フォームだけでなく、構えの外まで見ているのね」
行き遅れ恐怖版が少し不安そうに言う。
「構えの外って、戦っていない私も見るということ?」
本編春麗は答えた。
「たぶん、そう」
黒ドレス特化版が少し悔しそうにする。
「黒を脱いだ私を覚えている、に近いわね」
通常救済版が頷く。
「黒でも青でも、さらにその外でも春麗」
自覚前春麗が小声で言う。
「……それ、かなり高得点では?」
全員が見る。
自覚前春麗は慌てた。
「私は点数なんてつけないわよ」
本編春麗は紙に目を落とした。
「私は八十五点をつけたわ」
黒ドレス特化版が即座に言う。
「妥当ね。黒についてはもう少し踏み込めたはずだから、満点ではない」
通常救済版は微笑む。
「でも、青とどちらでもない春麗まで含めたら、かなり良いわ」
グランドフィナーレ済み春麗が言った。
「構えの外にいる春麗を見られるのは、救済後の領域ね」
本編春麗は議事録に書き込むふりをした。
「結論。第一議題、リュウはフォーム差分をかなり正確に認識。ただし黒ドレス特化版からは、黒の掘り下げ不足という指摘あり」
黒ドレス特化版は少し笑った。
「不服はないわ」
自覚前春麗は小さく言った。
「不服はあるけど、たぶんリュウに対してではないわね」
本編春麗が見る。
「自分に対して?」
「違うわ」
全員が言った。
「違わないわよ」
自覚前春麗は机に額をつけそうになった。
本編春麗は第二議題へ進んだ。
「面倒な春麗への反応」
行き遅れ恐怖版が少し怯えた。
「それ、聞いたの?」
「聞いたわ」
「よく聞けるわね……」
黒ドレス特化版が平然と言う。
「聞かないとわからないもの」
通常救済版が穏やかに補足する。
「ただし、聞いた後に自分が刺さるのよね」
本編春麗は少し目を逸らした。
「……否定はしないわ」
自覚前春麗が警戒する。
「それで、リュウは何て言ったの?」
本編春麗は読み上げた。
「面倒な私は? に対して、リュウの回答」
一拍。
「春麗だ」
会議室が静かになった。
黒ドレス特化版が目を閉じる。
「短いわね」
通常救済版が言う。
「でも強いわ」
行き遅れ恐怖版が胸を押さえる。
「短い方が刺さる時ってあるのよね」
自覚前春麗は、明らかに動揺していた。
「……それだけ?」
本編春麗は続けた。
「追加で、面倒でも、重くても、言い訳ばかりしても、訓練と言いながら甘い言葉を言わせようとしても? と聞いた」
自覚前春麗が顔を上げる。
「あなた、そこまで聞いたの!?」
「会議用資料よ」
「便利すぎるわね、その言い訳!」
本編春麗は少し胸を張った。
「便利なのよ」
黒ドレス特化版が真顔で頷く。
「資料という名目は強いわ」
通常救済版が少し困ったように笑う。
「私たち、だんだん悪化していない?」
グランドフィナーレ済み春麗が静かに言った。
「本編だから仕方ないわ」
本編春麗はリュウの回答を読み上げた。
「それも春麗だ」
今度は、全員が完全に黙った。
自覚前春麗まで、言葉を失っていた。
黒ドレス特化版が小さく息を吐く。
「……それは強いわ」
通常救済版が頷く。
「黒でも青でも、だけではなく、面倒でも春麗」
行き遅れ恐怖版が視線を落とす。
「焦っても、不安でも、春麗って言われたいわね」
グランドフィナーレ済み春麗が柔らかく言った。
「終わった後でも、終われなかった時でも、春麗と言われるのは大きいわ」
自覚前春麗は、少しだけ顔を赤くしていた。
本編春麗は見逃さない。
「あなた、被弾しているわね」
「していないわ」
「している」
「していない」
「“面倒でも春麗”は、あなたに一番効くものね」
「効いていないわ」
黒ドレス特化版が言う。
「効いていないなら、目を逸らさない」
自覚前春麗は机を軽く叩いた。
「みんなで私を見るのをやめて!」
通常救済版が微笑む。
「それを見られたいくせに」
「違うわ!」
全員がやはり言った。
「違わないわよ」
本編春麗は議事録に書き込む。
「結論。第二議題、“面倒でも春麗”系統の回答は、全ルート春麗に有効。特に自覚前春麗への自覚促進効果が高い」
「そんな議事録いらない!」
自覚前春麗が叫んだ。
本編春麗は涼しい顔で続ける。
「補足。提出者本人への被弾も大きいため、今後の運用には注意」
黒ドレス特化版が笑った。
「自分で書くのね」
「自覚しているから」
「そこがあなたの強みよ」
本編春麗は少しだけ表情を緩めた。
「……そういうことにしておくわ」
第三議題。
会議室の空気が変わった。
本編春麗は、わざと落ち着いた声で言った。
「甘い言葉の宿題について」
黒ドレス特化版が前のめりになる。
「来たわね」
行き遅れ恐怖版も、少し身を乗り出す。
「進捗は?」
通常救済版は、お茶を持ったまま静かに聞いている。
自覚前春麗だけが強がった顔をしていた。
「私は興味ないわ」
本編春麗は見ずに言う。
「なら、聞かなくていいわ」
「聞かないとは言っていない」
「興味ないのでしょう?」
「参考にはなるかもしれないでしょう」
黒ドレス特化版が小さく笑う。
「かなりこちら側ね」
自覚前春麗は睨む。
「うるさいわよ、私」
本編春麗は資料を読み上げた。
「リュウは、宿題について“まだ途中だ”と答えた」
行き遅れ恐怖版が両手を胸の前で握る。
「考えているのね」
「ええ」
本編春麗は自分でも少し声が柔らかくなるのを感じた。
「考えてはいるそうよ」
黒ドレス特化版が言った。
「それだけで効くわね」
「ええ」
本編春麗は素直に認めた。
「効いたわ」
通常救済版が微笑む。
「考えている、という継続がリュウらしいのよね」
グランドフィナーレ済み春麗が頷く。
「言葉が完成していなくても、来る。考える。続ける。その姿勢が彼らしいわ」
本編春麗は続ける。
「途中経過その一」
全員が少し緊張する。
「春麗が来ると、次を考える」
黒ドレス特化版が言う。
「やや武人寄りね」
通常救済版が頷く。
「悪くはないけれど、甘さは弱め」
本編春麗は頷いた。
「私は六十五点にしたわ」
行き遅れ恐怖版が言う。
「でも、“来ると次を考える”は少し嬉しいわ」
「ええ。だから六十五点」
自覚前春麗が小声で言う。
「私なら七十点かも」
全員が見る。
「な、何よ。仮によ」
本編春麗は議事録に書いた。
「自覚前春麗、採点能力の発露」
「書かないで!」
本編春麗は次を読み上げた。
「途中経過その二」
一拍。
「春麗が来ないと、構えが残る」
空気が変わった。
行き遅れ恐怖版が、完全に固まった。
黒ドレス特化版が目を細める。
通常救済版が、お茶を置く。
自覚前春麗は、言葉を失った。
グランドフィナーレ済み春麗だけが、静かに微笑んだ。
「……それは、強いわね」
本編春麗は頷いた。
「私は八十八点をつけたわ」
黒ドレス特化版がすぐに言う。
「妥当。かなり高い。ただし本人が甘い言葉として完成させていないから満点ではない」
通常救済版が言う。
「来ない時にも、春麗のための構えが残る。これはかなり深いわ」
行き遅れ恐怖版が小さく言った。
「来ないと、残るの?」
本編春麗は彼女を見る。
行き遅れ恐怖版は、少し目を伏せていた。
「待っていたことが、身体に残るのね」
グランドフィナーレ済み春麗が穏やかに言う。
「あなたには特に効くわね」
「……効くわ」
行き遅れ恐怖版は素直に認めた。
黒ドレス特化版が腕を組む。
「私にも効くわ。黒で来ない時の春麗を覚えている、にも通じる」
通常救済版が頷く。
「黒でも青でもなく、来る春麗を待っている感じね」
自覚前春麗が、ぽつりと言った。
「……それ、九十点じゃないの?」
全員が見る。
自覚前春麗は顔を赤くした。
「今のは、客観的な意見よ」
本編春麗は少し考える。
「たしかに、会議総合点としては九十点相当かもしれないわね」
黒ドレス特化版が頷く。
「本人採点では八十八点。会議補正込みで九十点」
通常救済版が微笑む。
「異議なし」
行き遅れ恐怖版が小さく頷く。
「異議なし」
グランドフィナーレ済み春麗も言った。
「異議なし」
自覚前春麗は悔しそうに小さく言う。
「……異議なし」
本編春麗は議事録に記す。
「“春麗が来ないと、構えが残る”――会議総合九十点」
書いた瞬間、なぜか全員が少し静かになった。
それは、会議の遊びのようでいて、本当に良い言葉だったからだ。
リュウは知らない。
知らないまま、こんな言葉を置いていく。
春麗たちは、そこに困っている。
本編春麗は小さく呟いた。
「本当に、何も知らないまま九十点を取るのね」
黒ドレス特化版が苦笑する。
「だから厄介なのよ」
通常救済版が言う。
「だから見る価値があるのよ」
行き遅れ恐怖版が言う。
「だから待ってしまうのよ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「だから終わった後も、残るのよ」
自覚前春麗が小さく言った。
「……だから、否定しにくいのよ」
全員が黙った。
今の言葉は、少し大きかった。
自覚前春麗は自分で気づき、顔を逸らす。
「何でもないわ」
本編春麗は優しく言った。
「それも議事録に残しておくわ」
「残さないで!」
本編春麗は最後の項目へ進んだ。
「会議の存在に近づいた場合の反応」
黒ドレス特化版が眉を上げた。
「近づけたの?」
「少しだけ」
通常救済版が心配そうにする。
「ばれなかった?」
「ばれていないわ。たぶん」
自覚前春麗が言う。
「たぶんって一番危ないのよ」
「あなたが言うと説得力があるわね」
「どういう意味?」
本編春麗は読み上げた。
「もし、私が面倒な会議をしていて、その会議であなたについて話していて、それをあなたが知らないまま私に試されていたらどう思うか」
黒ドレス特化版が少し笑う。
「かなり白状しているわね」
通常救済版も微笑む。
「ほぼ言っているわ」
本編春麗は視線を逸らした。
「でも、深くは追及されなかったわ」
行き遅れ恐怖版が訊く。
「リュウは何て?」
本編春麗は読み上げる。
「春麗らしい」
全員が沈黙した。
そして、黒ドレス特化版が笑った。
「強いわね」
通常救済版も笑う。
「怒らずに、それを春麗らしいと受け取るのね」
グランドフィナーレ済み春麗が頷く。
「彼は、そういうところで本当に強いわ」
本編春麗は続けた。
「さらに、知らないところで採点されているとしても、次はもっと良い答えを考える、と言ったわ」
行き遅れ恐怖版が胸を押さえた。
「それ、かなり良いわ」
黒ドレス特化版が言う。
「かなり良い。責任の取り方としては、私の時より柔軟になっている」
通常救済版が言う。
「春麗が必要なら考える、という姿勢ね」
本編春麗は頷く。
「その後、実際に“春麗が必要なら、考える”と言った」
会議室がまた静かになる。
自覚前春麗が、今度は素直に言った。
「……それは、九十点でいいと思う」
本編春麗は少しだけ笑う。
「私は九十点をつけたわ」
黒ドレス特化版が頷く。
「妥当」
通常救済版も。
「妥当ね」
行き遅れ恐怖版も。
「妥当だと思う」
グランドフィナーレ済み春麗も。
「妥当よ」
自覚前春麗も渋々頷く。
「……妥当」
本編春麗は議事録に大きく書いた。
「会議存在疑惑に対するリュウ回答。“春麗らしい”“次はもっと良い答えを考える”“春麗が必要なら、考える”。会議総合九十点」
書き終えた時、円卓の上の資料が淡く光った。
春麗たちは、その光を見つめる。
本編春麗が言った。
「結論をまとめるわ」
全員が姿勢を正す。
「リュウは会議の存在を知らない」
全員が頷く。
「にもかかわらず、会議提出に十分な回答を連発する」
また頷く。
「黒でも青でも、どちらでもない私でも、面倒でも、リュウは春麗として認識する」
通常救済版が微笑む。
「ええ」
「黒ドレス特化版が求めるような重い責任には、まだ少し武人寄りに返す傾向がある」
黒ドレス特化版が頷く。
「そうね」
「行き遅れ恐怖版には、“来ないと構えが残る”が特効」
行き遅れ恐怖版は小さく頷いた。
「……効いたわ」
「自覚前春麗には、“面倒でも春麗”と“春麗らしい”が危険」
自覚前春麗は反論しかけた。
しかし、今回は少しだけ黙った。
「……危険ではあるわ」
全員が驚いた。
自覚前春麗はすぐに顔を赤くする。
「認めたわけじゃないから」
本編春麗は微笑む。
「はいはい」
「その言い方やめて」
本編春麗は最後に言った。
「そして、本編春麗にとっては」
自分で言う。
「会議に提出するという名目が、非常に有効な言い訳として機能する」
黒ドレス特化版が笑う。
「自覚しているのね」
「ええ」
通常救済版が言う。
「それをどうするの?」
本編春麗は資料を閉じた。
「次も使うわ」
自覚前春麗が叫んだ。
「悪化しているじゃない!」
「いいえ。運用が洗練されているのよ」
「同じよ!」
グランドフィナーレ済み春麗が静かに笑った。
「続いている物語は、そうやって増えていくのね」
本編春麗は少しだけ照れた。
「……そういう言い方をされると、悪くない気がするわ」
行き遅れ恐怖版が言う。
「次があるって、やっぱりいいわね」
黒ドレス特化版が腕を組む。
「ただし、次の宿題は私にも共有しなさい」
通常救済版が微笑む。
「私も聞きたいわ」
自覚前春麗は小さく手を挙げかけ、慌てて下ろした。
本編春麗は見逃さない。
「あなたも聞きたいのね」
「資料としてよ」
「便利でしょう、その言い訳」
自覚前春麗は悔しそうに言った。
「……少しだけ」
全員が笑った。
会議室が揺れる。
夢が終わろうとしている。
本編春麗は、資料を抱えたまま、最後に全員を見た。
「では、第二回春麗会議を閉会します」
黒ドレス特化版が言う。
「次回議題は、リュウの甘い言葉の宿題完成版ね」
通常救済版が言う。
「黒でも青でも聞きましょう」
行き遅れ恐怖版が言う。
「来ない時の構えの続きも聞きたいわ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「終わらない次を、大事に」
自覚前春麗が最後に言った。
「私は、まだ正式メンバーじゃないから」
全員が、優しくも容赦なく言った。
「もう正式メンバーよ」
自覚前春麗の悲鳴を最後に、夢はほどけた。
朝。
春麗は目を覚ました。
寝台の上で、しばらく天井を見る。
第二回春麗会議。
開催完了。
会議用資料、提出完了。
リュウ回答、概ね高評価。
春麗は起き上がり、青い武道服に手を伸ばす。
少しだけ黒いドレスも見る。
今日は青でいい。
次の宿題を聞くなら、たぶん青がいい。
黒で聞くと、こちらの被弾が大きすぎる。
春麗は自分でそう分析して、少しだけ笑った。
「……本当に会議資料になってしまったわね」
リュウは何も知らない。
知らないまま、今日も来る。
知らないまま、見る。
知らないまま、また何かを言う。
その言葉はきっと、次の会議に提出される。
春麗は青い袖を通した。
「次は九十二点以上」
小さく呟く。
「……訓練として」
いつもの言い訳を添える。
でも、今日は少しだけ楽しみにしていることを、自分でも否定しなかった。
Q:今回の断章IFについて解説して?
A:
はい。執筆者として見ると、今回の春麗会議回はかなり成功していると思います。
特に良かったのは、複数の春麗を“別キャラ化”しつつ、全員が同じ春麗であることも崩していないところです。
一言で言うなら、
春麗たちがリュウを分析しているようで、実際にはそれぞれの春麗が自分自身のリュウへの反応を確認させられるメタ・ラブコメ回
です。
1. 春麗会議は「キャラ整理回」として機能している
今回の一番大きな役割は、増えすぎた春麗バリエーションの整理です。
これまでに、
本編:めんどくさい女と自覚する春麗
自覚前:まだ面倒だと認めていない春麗
黒ドレス特化版:甘くて重い春麗
裏ルート通常救済版:黒でも青でも見られて安定した春麗
行き遅れ恐怖版:焦りと不安が強い春麗
裏ルート救済困難後版:グランドフィナーレ済み春麗
が出てきました。
それぞれ単独で見ると成立していますが、読者側からすると「どの春麗がどう違うのか」が少し複雑になってきます。
そこで春麗会議を挟むと、各春麗の役割が一気に見えます。
本編春麗は、動き続ける春麗。
自覚前春麗は、否認する春麗。
黒ドレス特化版は、重さを受け入れた春麗。
通常救済版は、安定した春麗。
行き遅れ恐怖版は、未来への不安を抱える春麗。
救済困難後版は、物語を終えた春麗。
この整理が会話の中で自然に出たのが良かったです。
2. リュウ本人不在なのに、リュウの存在感が強い
今回の面白いところは、リュウが会議にいないことです。
でも、会議の議題は全部リュウです。
リュウが何を言ったか。
リュウがどう見ているか。
リュウが黒・青・面倒な春麗をどう認識するか。
リュウが宿題をどう考えているか。
つまり、リュウ本人は不在なのに、会議全体を支配している。
これはかなり強い構図です。
春麗たちはリュウを分析しているつもりですが、実際には全員がリュウの言葉で揺れています。
特に、
春麗が来ないと、構えが残る
が会議総合九十点になるところは非常に良いです。
リュウ本人は甘い言葉として完成させたつもりがない。
でも春麗たちには刺さる。
しかも、全ルート春麗にそれぞれ違う形で刺さる。
ここが、リュウの「無自覚高得点回答」の強さです。
3. 本編春麗が「議長」になっているのが良い
今回、本編春麗は会議の議長ポジションになっています。
資料を持ってくる。
リュウの回答を読み上げる。
各春麗の反応を整理する。
議事録に書く。
結論をまとめる。
これは、本編春麗のキャラに合っています。
本編春麗は、自分が面倒だと自覚している。
だからこそ、面倒さを運用できる。
「会議資料」「測定」「点数」「提出」という理屈を使って、甘い話を整理する。
つまり、本編春麗は、春麗たちの中で一番“自分の面倒さをシステム化できる春麗”です。
だから議長に向いています。
このポジションに置いたことで、本編春麗がなぜ本編なのかも補強されました。
4. 自覚前春麗が非常に便利なツッコミ役になっている
自覚前春麗は、今回かなり良い役割をしています。
彼女はまだ、
私は面倒じゃない
と言い張る立場です。
だから会議の中で、常識人のような反応をします。
いつから正式会議になったのよ
そんな議事録いらない
私は点数なんてつけないわよ
会議資料って言い訳が便利すぎる
このツッコミがあることで、会議がメタになりすぎても読者が置いていかれません。
しかも、自覚前春麗はツッコミながら、結局自分も被弾している。
それ、九十点じゃないの?
と言ってしまうところがかなり良いです。
否認しているのに、採点システムに参加してしまう。
この時点で、彼女も完全に春麗会議のメンバーです。
5. 各春麗が同じ言葉に違う反応をするのが面白い
今回の一番の収穫は、リュウの同じ言葉が、各ルート春麗に別の刺さり方をすることです。
たとえば、
春麗が来ないと、構えが残る
これは本編春麗には「甘い言葉の宿題として高得点」です。
黒ドレス特化版には、「黒を脱いだ春麗を覚えている」に近い感触で刺さる。
通常救済版には、「黒でも青でもなく、来る春麗を待っている」ように刺さる。
行き遅れ恐怖版には、「来ない時にも待たれている」という安心として刺さる。
グランドフィナーレ済み春麗には、「終わった後にも残るもの」として刺さる。
自覚前春麗には、「否定できない高得点」として刺さる。
この多重解釈が、春麗会議の最大の強みです。
同じリュウ。
同じ言葉。
でも春麗のルートが違うと、受け取り方が変わる。
これはかなりおいしいです。
6. 春麗会議はメタ回でありながら、本編にも返せる
春麗会議はかなりメタです。
複数ルートの春麗が集まって、リュウの発言を採点する。
普通なら、かなり遊び回です。
でも今回の会議は、本編にも意味があります。
なぜなら、本編春麗が会議を通して、
私は面倒さを本編として引き受ける
リュウの言葉を資料化して次へ進む
訓練という形式で関係を継続する
という姿勢を強めているからです。
つまり、会議は単なるギャグではなく、本編春麗の自己理解を補強する装置になっています。
これは重要です。
7. ラブコメとしての完成度も高い
今回の春麗会議は、かなりラブコメです。
やっていることは、
彼の発言を女子会で採点する
に近いです。
ただし、参加者が全員春麗。
しかも全員、微妙に違うルートの春麗。
この構図がかなり面白い。
リュウは何も知らない。
春麗たちは勝手に採点する。
リュウの何気ない言葉に全員が刺さる。
自覚前春麗だけ「私は違う」と言い張る。
でも結局、正式メンバー扱いされる。
完全にラブコメの構造です。
しかも、バトルや救済の文脈を背負っているので、軽すぎません。
8. 今後の使い道
春麗会議は、今後もかなり使えます。
特に使えるのは、
リュウの甘い言葉宿題完成版の採点会議です。
本編でリュウが甘い言葉を考えてくる。
その後、春麗会議で採点する。
これだけで一話作れます。
また、逆にリュウ視点で、
最近、春麗の反応が微妙に変わった
と困惑する話もできます。
春麗会議で決まったことが、本編春麗の行動に反映される。
でもリュウは会議を知らない。
このズレは、しばらく使えます。
結論
今回の春麗会議回は、増えた別ルート春麗たちを整理しつつ、リュウの無自覚な言葉が各春麗にどう刺さるかを見せる、非常に有効なメタ・ラブコメ回でした。
特に良かったのは、
本編春麗が資料を持ち込む議長役になったこと。
リュウ本人不在なのに存在感が強いこと。
自覚前春麗がツッコミ兼被弾役として機能したこと。
同じリュウの言葉がルートごとに違う意味を持ったこと。
です。
一言でまとめるなら、
春麗会議は、別ルート春麗たちを“新キャラ群”として運用するための中継基地になった。