また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※これは本編時空とは無関係の妄想章IF後日談です。
裏ルートで通常救済された春麗のエピソードになります。


妄想章IF:通常救済版春麗は、青い武道服で戦わない

 春麗会議のあと、裏ルート通常救済版の春麗は、少しだけ不満だった。

 

 不満というほど強くはない。

 

 けれど、胸の奥に小さな引っかかりがあった。

 

 春麗会議では、黒ドレスの話が多い。

 

 黒で勝った。

 黒で発勁を打った。

 黒でリュウを落とした。

 黒で受け止めた。

 黒ドレス決定版を更新した。

 黒い私を見た責任。

 黒で甘くて重い宿題。

 

 それはそれでいい。

 

 黒は大切だ。

 

 黒を否定する気はない。

 

 リュウは、黒でも青でも見ると言った。

 

 その言葉で、自分は救われた。

 

 だから、黒が春麗会議の中心になることも理解できる。

 

 けれど。

 

「……青だって、春麗なのよ」

 

 春麗は、鏡の前で呟いた。

 

 そこには、青い武道服があった。

 

 春麗の基本。

 

 戦うための服。

 

 蹴るための服。

 踏み込むための服。

 構えるための服。

 何度もリュウと向き合ってきた、自分の原点。

 

 黒ドレスではない。

 

 甘く重く、視線を絡め取る衣装ではない。

 

 けれど、だからこそ。

 

 この青い武道服で、今日は戦わない。

 

 春麗は、その青を見て少しだけ笑った。

 

「春麗会議に提出するなら、これね」

 

 黒ドレス特化版は、きっと言うだろう。

 

 青い武道服で、戦わないの? 

 

 本編春麗は、たぶん言う。

 

 それは訓練なの? 

 

 自覚前春麗は、顔を赤くして言う。

 

 武道服なのに、手をつなぐの? 

 

 行き遅れ恐怖版は、少し羨ましそうにする。

 

 グランドフィナーレ済み春麗は、静かに微笑む。

 

 そして自分は言うのだ。

 

「戦わないわ」

 

 春麗は青い武道服に袖を通した。

 

 動ける。

 

 戦える。

 

 この格好なら、いつでも蹴れる。

 いつでも構えられる。

 いつでもリュウと打ち合える。

 

 けれど、今日はそうしない。

 

 黒のように誘うのではない。

 青のように進むのでもない。

 

 ただ、リュウの隣に立つための青。

 

「今日は、青で行く」

 

 春麗は静かに言った。

 

「でも、戦わない」

 

 リュウは、いつもの修行場にいた。

 

 ただし春麗は、いつものように構えなかった。

 

 青い武道服で現れた春麗を見て、リュウは少しだけ目を動かした。

 

「春麗」

 

「リュウ」

 

「今日は……」

 

「戦わないわ」

 

 リュウは黙った。

 

 少しだけ考える。

 

「戦わない?」

 

「ええ」

 

 春麗は近づいた。

 

 青い武道服の袖が、夜風に少し揺れる。

 

 黒のように視線を奪うためではない。

 

 青として、ただそこにある。

 

「春麗会議でね」

 

 リュウは首を傾げた。

 

「会議?」

 

「深く考えなくていいわ」

 

「そうか」

 

 春麗は微笑んだ。

 

「最近、黒の話が多すぎるの」

 

「黒」

 

「ええ。黒ドレス。発勁。責任。倒れ込み。受け止める。宿題」

 

 リュウはやはりわからない顔をしていた。

 

 春麗は少し笑う。

 

「あなたは知らなくていいの」

 

「ああ」

 

「でも、私は思ったの」

 

 春麗は一歩近づいた。

 

「青だって、あなたに見られているはずでしょう?」

 

 リュウは答えた。

 

「ああ」

 

 その即答が、春麗の胸に静かに落ちた。

 

 黒なら、もっと重くなる。

 

 本編春麗なら、採点する。

 

 自覚前春麗なら、否定する。

 

 でも、今の春麗はただ受け取った。

 

「そう」

 

 春麗は、自分の青い袖口を軽く整えた。

 

「なら今日は、青の私を見る日」

 

 リュウは春麗を見る。

 

「戦わずに?」

 

「ええ」

 

「何をする」

 

 春麗は少し考えた。

 

 そして、穏やかに言った。

 

「歩きましょう」

 

 二人は修行場を出た。

 

 夜の道を歩く。

 

 町の灯りは少なく、風は穏やかだった。

 

 リュウは春麗の隣を歩いている。

 

 少し離れて。

 

 いつもの距離。

 

 近すぎず、遠すぎない。

 

 春麗はそれを少しだけ見て、言った。

 

「もう少し近くでいいわ」

 

 リュウは足を止めた。

 

「いいのか」

 

「ええ」

 

「戦わないからか」

 

「そうね」

 

 春麗は少しだけ笑う。

 

「今日は、戦わないから」

 

 リュウは、半歩近づいた。

 

 それだけ。

 

 本当に半歩だけ。

 

 けれど、その半歩で、夜の空気が少し変わった。

 

 春麗はそれを感じた。

 

 黒ではない。

 

 黒の重さでも、黒の熱でもない。

 

 青の距離。

 

 穏やかな近さ。

 

「リュウ」

 

「何だ」

 

「あなた、黒でも青でも見るって言ったわね」

 

「ああ」

 

「黒の私は、覚えている?」

 

「ああ」

 

「青の私は?」

 

「覚えている」

 

「では」

 

 春麗は歩きながら、少しだけ声を落とした。

 

「戦わない青の私は?」

 

 リュウは、すぐには答えなかった。

 

 春麗は待った。

 

 答えを急がせない。

 

 今日は戦闘ではない。

 

 言葉を取りに行く日でもない。

 

 ただ、青い武道服で隣にいる日。

 

 リュウは言った。

 

「今、見ている」

 

 春麗は足を止めそうになった。

 

 けれど止めなかった。

 

 歩いたまま、静かに息を吐く。

 

「……そう」

 

「違ったか」

 

「いいえ」

 

 春麗は微笑む。

 

「かなり良い答え」

 

「点数か」

 

 春麗は少し驚いてリュウを見た。

 

「覚えたの?」

 

「春麗が時々言う」

 

「……そうね」

 

 春麗は少しだけ顔を逸らした。

 

「でも、今日は点数をつけないわ」

 

「なぜ」

 

「点数にすると、会議案件になるから」

 

「会議」

 

「深く考えない」

 

「ああ」

 

 リュウは素直に頷く。

 

 春麗は、それが少し可笑しかった。

 

 小さな橋の上で、春麗は足を止めた。

 

 水面に灯りが映っている。

 

 青い武道服は、夜の中でもはっきり青く見えた。

 

 黒なら、夜に溶ける。

 

 青は、夜の中でも残る。

 

 春麗は欄干に手を置いた。

 

 リュウは隣に立つ。

 

「リュウ」

 

「何だ」

 

「今日は、本当に戦わないわ」

 

「ああ」

 

「構えない」

 

「ああ」

 

「発勁も打たない」

 

「ああ」

 

「倒れ込まれても困るから」

 

 リュウは少し考えた。

 

「倒れないようにする」

 

 春麗は笑った。

 

「そうして」

 

 それから、少しだけ沈黙した。

 

 橋の下を水が流れる。

 

 春麗は、ゆっくり言った。

 

「黒の私は、あなたに責任を問うわ」

 

「ああ」

 

「本編の私は、訓練と言いながらあなたを試す」

 

「ああ」

 

「自覚前の私は、否定しながら同じことをする」

 

「ああ」

 

「行き遅れを恐れる私は、あなたが来るかどうかを不安に思う」

 

「ああ」

 

「グランドフィナーレを終えた私は、終わった後の静けさを知っている」

 

「ああ」

 

 リュウは、すべてを理解しているわけではない。

 

 それでも聞いている。

 

 春麗はそれでよかった。

 

「では、私は?」

 

 リュウは春麗を見る。

 

「青の春麗か」

 

「ええ」

 

「黒でも青でも見る、と言われて救われた私」

 

「ああ」

 

「その私は、何をすると思う?」

 

 リュウは少し考えた。

 

 春麗は待つ。

 

 水音だけがあった。

 

 リュウは言った。

 

「選ぶ」

 

 春麗は、静かに息を止めた。

 

「選ぶ?」

 

「ああ」

 

「何を?」

 

「戦うか、戦わないか」

 

 春麗はリュウを見た。

 

 リュウは続ける。

 

「黒か、青か。構えるか、歩くか。近づくか、離れるか」

 

 一拍。

 

「春麗が選ぶ」

 

 春麗は、胸の奥がゆっくり熱くなるのを感じた。

 

 黒ドレス特化版のような重さではない。

 

 本編春麗のような照れでもない。

 

 もっと静かな熱。

 

 自分は選べる。

 

 黒でもいい。

 青でもいい。

 戦ってもいい。

 戦わなくてもいい。

 

 リュウは、それを見る。

 

 春麗は、少しだけ笑った。

 

「……あなた、今日かなり良いわね」

 

「そうか」

 

「ええ」

 

「点数は」

 

「つけないと言ったでしょう」

 

「そうだった」

 

 春麗は小さく笑う。

 

「でも」

 

 一拍。

 

「もしつけるなら、九十点以上ね」

 

 リュウは黙った。

 

「高いのか」

 

「かなり高いわ」

 

「そうか」

 

 リュウは、少しだけ安心したように見えた。

 

 それがまた、春麗には少し嬉しかった。

 

 春麗は、橋の上でリュウに手を差し出した。

 

 リュウはその手を見た。

 

「春麗?」

 

「手」

 

「手?」

 

「つなぐの」

 

 リュウは少しだけ固まった。

 

 春麗は、顔を逸らさない。

 

 今日は青だ。

 

 黒のように責任を問わない。

 

 本編のように訓練と言わない。

 

 自覚前のように否定しない。

 

 通常救済版の春麗として、選ぶ。

 

「戦わない青の私を見る日でしょう?」

 

「ああ」

 

「なら、これもその一つ」

 

 リュウは慎重に手を伸ばした。

 

 春麗の手を取る。

 

 硬い手。

 

 戦う手。

 

 でも、今は握る手。

 

 春麗は、その温度を受け取った。

 

「強く握らないで」

 

「ああ」

 

「弱すぎても駄目」

 

「難しいな」

 

「当然でしょう」

 

 春麗は少しだけ笑った。

 

「戦うより難しいこともあるのよ」

 

 リュウは考えた。

 

「そうかもしれない」

 

「そうよ」

 

 二人は手をつないだまま、橋の上に立っていた。

 

 特別な言葉はない。

 

 戦闘もない。

 

 黒もない。

 

 ただ、青い武道服の春麗がリュウの隣にいる。

 

 それだけ。

 

 けれど春麗は思った。

 

 これも、春麗会議に提出していい。

 

 黒ドレスの話ばかりではない。

 

 青にも議題はある。

 

 戦わない青。

 

 歩く青。

 

 手をつなぐ青。

 

 リュウに「選ぶ春麗」と言われる青。

 

 春麗は小さく呟いた。

 

「これで、青の資料もできたわね」

 

 リュウが見る。

 

「資料?」

 

「何でもないわ」

 

「ああ」

 

「深く考えないで」

 

「わかった」

 

 春麗は、つないだ手を少しだけ引いた。

 

「もう少し歩きましょう」

 

「ああ」

 

「今日は、あなたを倒さない」

 

「ああ」

 

「あなたも倒れ込まない」

 

「ああ」

 

「ただ歩く」

 

「ああ」

 

 リュウは少しだけ間を置いて言った。

 

「悪くない」

 

 春麗は目を細める。

 

「それは、青の私と歩くことが?」

 

「ああ」

 

「戦わなくても?」

 

「ああ」

 

「黒でなくても?」

 

「ああ」

 

「手をつないでいても?」

 

 リュウは答えた。

 

「ああ」

 

 春麗は、ゆっくり息を吐いた。

 

「……九十二点」

 

「点数をつけた」

 

「今のは例外」

 

「そうか」

 

「そうよ」

 

 春麗は歩き出した。

 

 リュウも隣を歩く。

 

 手はつないだまま。

 

 青い武道服の袖が夜風に揺れる。

 

 黒ではない。

 

 戦闘でもない。

 

 発勁でもない。

 

 それでも、これは春麗の物語だった。

 

 その夜、春麗は夢を見た。

 

 春麗会議。

 

 いつもの円卓。

 

 本編春麗が資料を見て、目を丸くしている。

 

 黒ドレス特化救済ED春麗は、黒いドレスのまま腕を組んでいる。

 

 自覚前春麗は、なぜか最初から顔が赤い。

 

 行き遅れ恐怖版は、資料を胸に抱いている。

 

 グランドフィナーレ済み春麗は、静かに微笑んでいる。

 

 通常救済版──青の春麗は、円卓の中央に資料を置いた。

 

 表題。

 

 春麗会議・青案件提出資料

 議題:裏ルート通常救済版春麗、青い武道服で戦わずにリュウと歩く

 

 本編春麗が言った。

 

「戦わないの?」

 

 青の春麗は頷く。

 

「戦わないわ」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が目を細める。

 

「黒でもないのね」

 

「ええ。青よ」

 

 自覚前春麗が小声で言う。

 

「手を……つないだの?」

 

 青の春麗は、静かに答えた。

 

「つないだわ」

 

 自覚前春麗は顔を覆った。

 

「あなたまで……」

 

 本編春麗は資料を読み上げる。

 

 春麗が選ぶ。

 戦うか、戦わないか。

 黒か、青か。

 構えるか、歩くか。

 近づくか、離れるか。

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が黙った。

 

 通常救済版は微笑む。

 

「どう?」

 

 本編春麗は正直に言った。

 

「かなり強いわ」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗も頷く。

 

「黒の責任とは違う強さね」

 

 行き遅れ恐怖版が小さく言う。

 

「戦わなくても一緒に歩けるの、いいわね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「救済後の静けさに近いわ。でも、終わりではなく、続いている」

 

 自覚前春麗が、顔を赤くしたまま言った。

 

「手をつなぐのは、戦闘上必要ないでしょう」

 

 本編春麗が即座に返す。

 

「必要よ」

 

「何に?」

 

「青案件に」

 

 自覚前春麗は混乱した。

 

「青案件って何よ」

 

 通常救済版は、穏やかに言った。

 

「黒でも青でも見る。そう言われた私が、青い武道服で戦わないことを選んだ案件よ」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が少し笑う。

 

「青もなかなか重いのね」

 

「黒ほどではないわ」

 

「でも甘い」

 

「ええ」

 

 通常救済版は、逃げずに言った。

 

「甘いわ」

 

 本編春麗は感心したように言う。

 

「あなた、安定しているわね」

 

「救済済みだから」

 

「ずるいわ」

 

「あなたは続けられるでしょう?」

 

 本編春麗は黙った。

 

 グランドフィナーレ済み春麗が、静かに言った。

 

「どちらも強みよ」

 

 会議は、しばらく静かになった。

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が、資料を指で叩いた。

 

「採点しましょう」

 

 自覚前春麗が驚く。

 

「これも採点するの?」

 

 本編春麗は当然のように言った。

 

「するわよ。春麗会議だから」

 

 自覚前春麗は小さく呻いた。

 

「万能すぎる……」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「リュウ発言。“春麗が選ぶ”。九十五点」

 

 本編春麗が頷く。

 

「高いけれど妥当ね」

 

 行き遅れ恐怖版が言う。

 

「私は九十七点でもいいと思う」

 

 通常救済版は少し笑う。

 

「高すぎない?」

 

「だって、選べるって安心するもの」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言った。

 

「会議総合、九十六点でどうかしら」

 

 本編春麗が頷く。

 

「異議なし」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗も。

 

「異議なし」

 

 自覚前春麗は小声で言う。

 

「……異議なし」

 

 本編春麗が見た。

 

「あなたも?」

 

「資料としてよ」

 

 全員が少し笑った。

 

 通常救済版は、もう一枚資料を出した。

 

「次。リュウ発言。“悪くない”。青の私と戦わずに歩くこと、黒でなくても、手をつないでも、悪くない」

 

 自覚前春麗は沈黙した。

 

 本編春麗が低く言う。

 

「これは効くわね」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗も頷く。

 

「派手ではないけれど、青には合っているわ」

 

 行き遅れ恐怖版は目を伏せる。

 

「悪くない、って言われるのは……すごく安心する」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言った。

 

「青の静けさね」

 

 通常救済版は微笑む。

 

「私は九十二点にしたわ」

 

 本編春麗は即答した。

 

「妥当」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗も。

 

「妥当ね」

 

 自覚前春麗が小声で言う。

 

「手をつないで、悪くない……」

 

 本編春麗が言う。

 

「あなた、今かなり被弾しているわね」

 

「していない!」

 

「しているわ」

 

「していない!」

 

 通常救済版は優しく笑った。

 

「無理に認めなくてもいいわ。選べるようになるまで待てばいい」

 

 自覚前春麗は、少しだけ言葉を失った。

 

「……あなた、本当に安定しているわね」

 

「そうかしら」

 

「そうよ」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が、少しだけ感心したように言った。

 

「青の強さは、待てることなのね」

 

 通常救済版は頷いた。

 

「たぶん、そう。黒は迫れる。青は待てる。少なくとも、今の私はそう」

 

 本編春麗が呟く。

 

「私は、訓練にする」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「私は、責任にする」

 

 行き遅れ恐怖版が言う。

 

「私は、来るかどうかを気にする」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「私は、まだ認めない」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「私は、終わった後も残るものを見る」

 

 通常救済版は、最後に言った。

 

「私は、選べることを大事にする」

 

 その言葉で、会議室は静かになった。

 

 黒の議題ばかりだった春麗会議に、青の議題が置かれた。

 

 それは戦闘ではない。

 

 勝利でも敗北でもない。

 

 押し倒される事故でもない。

 

 ただ、青い武道服で、リュウと歩いて、手をつなぐ話。

 

 けれど、それは確かに春麗の物語だった。

 

 本編春麗が、少しだけ悔しそうに言った。

 

「青で九十六点を取るのは、ずるいわ」

 

 通常救済版は微笑む。

 

「黒ばかりでは偏るでしょう?」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が頷く。

 

「認めるわ。青案件、正式採用」

 

 行き遅れ恐怖版が嬉しそうに言う。

 

「また青で歩いてもいいと思う」

 

 自覚前春麗は、小声で言った。

 

「……資料としてなら、続きを見たいかも」

 

 全員が笑った。

 

 通常救済版は、静かに言った。

 

「では、結論」

 

 円卓の中央に、青い資料が淡く光る。

 

「黒でも青でも見る。そう言われた春麗は、黒で戦うだけではなく、青で戦わないことも選べる」

 

 一拍。

 

「そして、リュウはそれも見る」

 

 会議室が薄れていく。

 

 夢が終わる。

 

 最後に本編春麗が言った。

 

「次回、青の甘さ耐性訓練も必要ね」

 

 通常救済版は笑った。

 

「訓練にしなくてもいいのよ」

 

 本編春麗は即答した。

 

「私には必要なの」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「青も重くなりそうね」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「私はまだ手なんてつながないから!」

 

 行き遅れ恐怖版が小さく言う。

 

「でも、つないだら安心しそう」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が微笑む。

 

「どの春麗も、まだ続くわね」

 

 青の春麗は、目を閉じた。

 

 続く。

 

 でも、今日は戦わなかった。

 

 それでいい。

 

 朝。

 

 通常救済版の春麗は目を覚ました。

 

 胸の奥に、青い残響が残っている。

 

 黒の会議ではなく、青の会議。

 

 リュウと歩いた記憶。

 

 手をつないだ温度。

 

 春麗が選ぶ。

 

 その言葉。

 

 春麗は、青い武道服を見た。

 

 今日は着なくてもいい。

 

 また着てもいい。

 

 黒でもいい。

 青でもいい。

 戦ってもいい。

 戦わなくてもいい。

 

 選べる。

 

 春麗は静かに微笑んだ。

 

「次は、どこへ歩こうかしら」

 

 その声は、黒ほど重くなく。

 

 本編ほど面倒でもなく。

 

 けれど確かに、甘かった。




Q:今回の妄想章IF後日談について解説して?

A:
はい。執筆者として見ると、今回の妄想章IFはかなり大きいです。
これは単なる「青い武道服で甘いことをする話」ではなく、黒ドレス偏重になっていた春麗会議に、“青の春麗にも主役性がある”と正式に示した回です。

一言で言うなら、

黒が「責任・重さ・発勁・倒れ込み」を背負うなら、青は「選択・静けさ・戦わない親密さ」を背負う。
その青の価値を、裏ルート通常救済版春麗が春麗会議に提出した話

です。

今回の核は「青で戦わないことを選ぶ」

これまでの春麗会議は、かなり黒に寄っていました。

黒ドレスで勝つ。
黒で発勁を打つ。
黒で倒れ込まれる。
黒で受け止める。
黒い私を見た責任を問う。
黒ドレス決定版を更新する。

これは強いです。

ただ、黒が強くなりすぎると、春麗の物語が「黒ドレス中心」に寄りすぎます。

そこで今回、裏ルート通常救済版春麗が、

青い武道服姿だって、春麗なのよ。

と出てきた。

これは非常に大事です。

しかも、青の春麗は黒に対抗して「青で戦う」のではありません。

青で戦わない。

ここが一番良いです。

青は、黒の代替戦闘フォームではない。
青は、春麗が戦わずにリュウの隣へ立てるフォーム。
黒の重さではなく、青の静けさで甘さを作る。

この方向性が、裏ルート通常救済版春麗に非常に合っています。

裏ルート通常救済版春麗らしい安定感

今回の春麗は、他の春麗よりかなり安定しています。

本編春麗なら、

これは訓練よ。
青の甘さ耐性確認よ。
戦わない距離の検証よ。

と言いそうです。

自覚前春麗なら、

別に手をつなぎたいわけじゃない。
私は面倒じゃない。

と否認しそうです。

黒ドレス特化版なら、

青でも責任を持ちなさい。

みたいに少し重くなりそうです。

でも裏ルート通常救済版春麗は、素直に言えます。

戦わないわ。
歩きましょう。
手をつなぐの。

ここが非常に大きい。

この春麗は「黒でも青でも見る」とリュウに言われて救済されているので、黒に張り合う必要がありません。

黒を否定しない。
でも、青も選べる。

だからこそ、戦闘ではなく「歩く」「手をつなぐ」という穏やかな甘さに行ける。

これは救済済み春麗の安定感です。

リュウの「春麗が選ぶ」が強い

今回のリュウの最大の高得点回答は、

春麗が選ぶ。

です。

これは非常に良いです。

黒か青か。
戦うか戦わないか。
構えるか歩くか。
近づくか離れるか。

その選択権を、リュウが春麗に返している。

これは、通常救済版春麗にとって非常に重要です。

なぜなら、この春麗は「黒でも青でも見る」と言われて救済された春麗だからです。

つまりリュウは、

黒でも青でも見る。
だから、どちらを選ぶかは春麗が決めていい。

という次の段階へ進んでいる。

これはただの甘い台詞ではなく、春麗の自由を認める言葉です。

だから会議総合九十六点になったのは妥当です。

「悪くない」が青に合っている

もう一つ重要なのが、リュウの、

悪くない。

です。

黒ドレス回なら、これは少し物足りないかもしれません。

黒は重い。
黒は責任を問う。
黒はもっと深い言葉を欲しがる。

でも青の回では、この「悪くない」が非常に合っています。

青の甘さは、派手ではありません。

戦わない。
歩く。
手をつなぐ。
隣にいる。

そこにリュウが、

悪くない。

と言う。

これがちょうどいい。

過剰に甘くない。
でも拒んでいない。
むしろ、穏やかに受け入れている。

青の静けさにぴったりです。

手をつなぐ場面の意味

今回、春麗は手を差し出します。

これはかなり大きいです。

黒ドレス回なら、身体的接触は「倒れ込み」「受け止め」「責任」のような重い形になります。

でも青ドレス回では、接触がもっとシンプルです。

手をつなぐ。

ただし、ただ甘いだけではありません。

春麗は言います。

強く握らないで。
弱すぎても駄目。

これは非常に春麗らしい。

戦闘ではないのに、距離感の調整がある。
甘いのに、力加減の指定がある。
手をつなぐだけでも、春麗にとってはひとつの技術になっている。

リュウが、

難しいな。

と返すのも良いです。

リュウにとって、戦闘より難しい親密さがある。
青の春麗は、それを戦闘にせず受け取っている。

ここが甘いです。

春麗会議での青案件の意味

夢の中の春麗会議で、この話が正式に「青案件」として提出されました。

これが重要です。

これまでの会議は、黒案件が多かった。

でも今回、

青い武道服で戦わずにリュウと歩く

という議題が出た。

つまり春麗会議の幅が広がりました。

黒は、戦闘・責任・重さ・倒れ込み。
青は、選択・歩行・手つなぎ・静かな甘さ。

この二軸ができたことで、今後の春麗会議がかなり豊かになります。

黒ばかりだと濃くなりすぎる。
青が入ることで、呼吸ができる。
甘さの種類も増える。

これは連作として非常に良いバランス調整です。

各春麗の反応もよい

今回の会議で、それぞれの春麗の性格がよく出ています。

本編春麗は、

青で九十六点を取るのは、ずるいわ。

と少し悔しがる。

これは本編春麗らしいです。
自分は訓練や会議資料や言い訳を駆使して点を取りに行くのに、通常救済版春麗は穏やかに青で九十六点を取る。
それが少し羨ましい。

黒ドレス特化救済ED春麗は、

青もなかなか重いのね。

と認める。

これは黒の春麗らしい。
青の甘さにも重さがあると理解している。

自覚前春麗は、

手をつなぐのは戦闘上必要ないでしょう。

と抵抗する。

これは完全に自覚前らしい。
でも「資料としてなら続きを見たい」と言ってしまう。
また一歩、会議に染まっています。

行き遅れ恐怖版は、

戦わなくても一緒に歩けるの、いいわね。

と反応する。

これは彼女に特効です。
来るか来ないかに怯える春麗にとって、「戦わなくても一緒に歩ける」はかなり安心材料です。

グランドフィナーレ済み春麗は、

救済後の静けさに近い。でも、終わりではなく、続いている。

と見る。

これも非常に彼女らしいです。

今回の最大の結論

今回の一番大きい結論は、これです。

黒でも青でも見る。
そう言われた春麗は、黒で戦うだけではなく、青で戦わないことも選べる。

これは、この連作の春麗像をかなり広げています。

春麗は戦ってこそ春麗。
それは確かです。

でも、春麗は戦わないことを選んでも春麗。

黒を着ても春麗。
青を着ても春麗。
青で歩いても春麗。
手をつないでも春麗。

ここまで行くと、救済の意味が深くなります。

リュウが見るのは、戦闘中の春麗だけではない。
黒の春麗だけでもない。
青の春麗だけでもない。

選ぶ春麗を見る。

ここが今回の到達点です。

結論

今回の妄想章IFは、黒ドレス中心に偏っていた春麗会議へ、裏ルート通常救済版春麗が“青の甘さ”を正式提出する回です。

戦闘なし。
発勁なし。
倒れ込みなし。
でも、非常に重要。

なぜなら、青の春麗が、

戦わないこと
歩くこと
手をつなぐこと
選べること

を物語に持ち込んだからです。

一言でまとめるなら、

黒は、リュウに責任を問う春麗。
青は、リュウの隣を歩くことを選べる春麗。

今回の青案件は、春麗会議にとってかなり大きな拡張だったと思います。
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