また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
春麗は、最近少しだけ油断していた。
理由は、春麗会議だ。
最初は夢の中の奇妙な場所だった。
複数の自分が集まり、リュウの言葉を採点し、黒だの青だの、救済だの、責任だの、待たせるだの、好き勝手に議論する。
あまりにも面倒な会議。
けれど、便利だった。
本編春麗にとって、春麗会議はいつの間にか、自分の感情を整理する場所になっていた。
リュウが何か言う。
春麗が動揺する。
その夜、会議に提出する。
各春麗が採点する。
本編春麗が反論する。
自覚前春麗が否認する。
黒ドレス特化救済ED春麗が重く受け止める。
通常救済版春麗が穏やかに整理する。
行き遅れ恐怖版春麗が時間の不安に結びつける。
グランドフィナーレ済み春麗が静かに俯瞰する。
結果、春麗は少しだけ落ち着く。
だから最近、つい口に出ていた。
「これは会議案件ね」
「資料としては十分だわ」
「今のは八十五点」
「提出しないわ。絶対に」
「……いや、提出はするけれど、限定公開よ」
そのたびに、リュウは少しだけ不思議そうな顔をしていた。
春麗はそれに気づいていた。
気づいていたが、深く追及されないので油断していた。
リュウは、こういう時に深追いしない。
春麗が「何でもない」と言えば、大抵そこで止まる。
だから大丈夫。
そう思っていた。
けれど、その日は違った。
修行場。
春麗は青い武道服でリュウと向かい合っていた。
今日は本編春麗。
黒でもない。
青でもある。
ただし、青の通常救済版ほど穏やかではない。
自分をめんどくさい女と自覚している、本編春麗。
つまり、一番資料を作る春麗だった。
「リュウ」
「何だ」
「今日は、会話反応の確認をするわ」
リュウは少しだけ首を傾げた。
「会話反応」
「ええ。あなたの発言によって、私の動きがどの程度止まるかを確認する」
「訓練か」
「訓練よ」
春麗は即答した。
便利な言葉だ。
本当に便利。
リュウは構えた。
春麗も構える。
軽く打ち合う。
掌底。
受け。
蹴り。
回避。
踏み込み。
牽制。
動きは悪くない。
ただ、春麗は今日、少し余計なことを考えていた。
昨日の春麗会議。
行き遅れ恐怖版春麗の九十九点案件。
リュウの、
待たせるために来ているわけじゃない。
俺も考える。
これはかなり強かった。
本編春麗としても認めざるを得ない。
しかも、行き遅れ恐怖版春麗が正式に主要案件入りした。
つまり、春麗会議の各春麗がかなり固まってきた。
なら次は、会議全体の運用を見直す必要がある。
議長交代制。
議題提出ルール。
リュウ発言の採点基準。
自己被弾値と会議総合点の差分管理。
「……やっぱり一覧表が必要ね」
春麗は小さく呟いた。
リュウが拳を止めた。
「一覧表?」
春麗は止まった。
「何でもないわ」
「そうか」
リュウは頷いた。
春麗は胸を撫で下ろしかける。
だが、リュウは続けた。
「春麗」
「何?」
「最近、誰かに相談しているのか」
春麗は、完全に止まった。
掌底の構えのまま。
足も、視線も、呼吸も。
全部止まった。
リュウはそれを見て、少しだけ眉を動かす。
「今、止まった」
「止まっていないわ」
「止まった」
「止まっていない」
「そうか」
「そうよ」
春麗は構えを解いた。
これは危険だ。
かなり危険。
リュウが、春麗会議の存在に近づいている。
いや、正確には存在そのものではなく、概念に触れかけている。
誰かに相談しているのか。
春麗は、ゆっくり息を吐いた。
「……誰かではないわ」
リュウは静かに見る。
春麗は言った。
「私よ」
リュウは首を傾げた。
「春麗が、春麗に相談しているのか」
春麗は、二度目の完全停止をした。
ひどい。
言葉にされると、ひどい。
間違ってはいない。
間違ってはいないが、リュウに言われると破壊力が高い。
「……そういう言い方をしないで」
「違うのか」
「違わないわ」
「なら」
「違わないけれど、言い方の問題よ」
リュウは少し考えた。
「春麗は、自分と相談している」
春麗は目を閉じた。
「悪化したわ」
「そうか」
「そうよ」
リュウは真面目な顔のまま言う。
「それは、悪いことなのか」
春麗は答えようとして、少し詰まった。
悪いこと。
そう言われると、違う。
春麗会議は、面倒だ。
騒がしい。
余計な採点をする。
隠したいことまで議題にする。
しかし、悪いものではない。
本編春麗は自分の反応を整理できる。
自覚前春麗は否認しながら少しずつ進む。
黒ドレス特化救済ED春麗は黒の責任を言語化する。
通常救済版春麗は青の安定を持ち込む。
行き遅れ恐怖版春麗は時間の不安を主要案件にできた。
グランドフィナーレ済み春麗は終わった後の今を見つけた。
悪いことではない。
むしろ、必要になってしまっている。
春麗は、少しだけ視線を逸らした。
「……悪いことではないわ」
リュウは頷いた。
「なら、いい」
「良くはないわ」
「悪くないのに?」
「それとこれとは別」
「難しいな」
「難しいのよ」
春麗は額に手を当てる。
「リュウ」
「何だ」
「この話は、深く考えないで」
リュウは黙った。
いつもならここで、
「ああ」
と言う。
だが今日は、言わなかった。
春麗は嫌な予感がした。
「……何?」
リュウは言った。
「深く考えない方がいいのか」
「ええ」
「だが、春麗が春麗に相談しているなら」
「その言い方をやめなさい」
「ああ」
リュウは言い直した。
「春麗が、自分と話しているなら」
「それも微妙だけれど、続けて」
「それは、春麗が一人で考えすぎているということか」
春麗は、言葉を失った。
思っていたより、深かった。
リュウが見ている。
春麗会議そのものではなく、その奥を。
自分が自分たちと会議をしている理由。
それが、一人で抱え込んでいるからではないかと。
春麗は、少しだけ苦笑した。
「……あなた、本当に時々鋭いわね」
「そうか」
「ええ」
「合っているのか」
春麗は少し迷った。
それから、正直に言った。
「半分は」
「半分」
「ええ。私は一人で考えすぎる。だから、自分の中に別の私を置いているのかもしれない」
リュウは黙って聞いている。
「でも、それだけじゃないわ」
「何だ」
「どの私も、少しずつ違うの」
リュウは首を傾げた。
春麗は続けた。
「黒で迫る私。青で歩く私。終わった後の私。時間を怖がる私。まだ認めない私。面倒だと自覚している私」
リュウは静かに聞いている。
「その全部が、私」
リュウは言った。
「そうか」
春麗は、少しだけ笑った。
「怖がらないのね」
「なぜだ」
「普通は、面倒だと思うわ」
リュウは即答した。
「面倒でも、春麗だ」
春麗は三度目の停止をした。
完璧に止まった。
呼吸も、思考も、全部。
「……あなた」
「何だ」
「今、それを言うの?」
「違ったか」
「違わないわ」
「そうか」
「違わないから困るのよ」
春麗は、青い袖を握った。
これは会議案件だ。
絶対に会議案件。
しかも危険度が高い。
リュウが春麗会議に概念的に接近したうえで、
面倒でも、春麗だ。
を再提示した。
これは複合高得点案件。
しかし、今ここで「会議案件」と言うと、さらに危ない。
春麗は口を閉じた。
リュウが少しだけ見る。
「今、何か言いかけた」
「言っていないわ」
「そうか」
「そうよ」
リュウは少し考えた。
「会議か」
春麗は、限界まで固まった。
「……リュウ」
「何だ」
「なぜそこに戻るの」
「春麗が、よく言う」
「……そうね」
「会議に出すのか」
春麗は、目を閉じた。
もう駄目だ。
ほぼ気づかれている。
いや、会議そのものは知られていない。
だが、リュウはすでに「春麗が何かを会議に出している」ことを理解している。
概念的に察知している。
これは危険。
非常に危険。
春麗は低く言った。
「出さないわ」
リュウは頷いた。
「そうか」
春麗は一拍置いて、小さく付け足した。
「……たぶん」
リュウが見る。
「たぶん」
「復唱しない」
「すまない」
「謝らない」
春麗は、完全にいつもの流れに戻っている自分に気づいて、さらに顔が熱くなった。
「今日はここまで」
「もう終わりか」
「ええ」
「訓練は」
「十分よ」
「何の訓練だったんだ」
春麗は、真顔で言った。
「情報漏洩防止訓練」
リュウは少し考えた。
「漏れたのか」
春麗は答えなかった。
「かなり」
とは言えなかった。
その夜。
春麗会議は、当然のように開催された。
本編春麗は、円卓に着いた瞬間、頭を抱えた。
中央にはすでに資料がある。
表題。
臨時春麗会議・緊急審議
議題:リュウ、春麗会議の存在を概念的に察知しかける
自覚前春麗が、真っ赤な顔で叫んだ。
「だから言ったでしょう! 言いすぎなのよ! 資料とか会議とか点数とか!」
本編春麗は反論できなかった。
黒ドレス特化救済ED春麗が、資料を手に取る。
「これは重大案件ね」
通常救済版春麗が、お茶を置いた。
「でも、リュウは会議そのものを知ったわけではないのでしょう?」
本編春麗は、疲れた声で答えた。
「ええ。たぶん」
グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。
「概念に触れたのね」
行き遅れ恐怖版春麗が胸元を押さえる。
「リュウが自分から聞いてきたの?」
「ええ」
本編春麗は資料を読む。
「最近、誰かに相談しているのか、って」
黒ドレス特化救済ED春麗が目を細める。
「かなり鋭いわ」
通常救済版春麗が頷く。
「外から見ると、そう見えるのね」
自覚前春麗が言う。
「実際、相談しているじゃない」
本編春麗は睨む。
「あなたも参加しているでしょう」
「私は正式参加を認めていないわ」
全員が見た。
自覚前春麗は一瞬怯む。
「……資料として参加しているだけよ」
黒ドレス特化救済ED春麗が淡々と言う。
「正式参加ね」
「違う!」
本編春麗は、深く息を吐いた。
「問題はそこではないわ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「リュウの問いは、ただの詮索ではないわね」
通常救済版春麗が続ける。
「“誰かに相談しているのか”の後、彼は何と言ったの?」
本編春麗は、少しだけ黙った。
そして読み上げた。
春麗が、春麗に相談しているのか。
会議室が静かになった。
自覚前春麗が顔を覆った。
「言葉にされると、ひどいわね」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「でも、正確ね」
本編春麗は低く言う。
「正確だから困るのよ」
通常救済版春麗は微笑む。
「リュウらしいわ。知らないまま、核心に近い言葉を出す」
行き遅れ恐怖版春麗が小さく言う。
「誰かではなく、私。けれど、私が複数いる」
グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。
「自分と対話している、という意味ではかなり本質的ね」
本編春麗は資料をめくった。
「さらに問題は、その後よ」
黒ドレス特化救済ED春麗が身を乗り出す。
「何を言ったの?」
本編春麗は、少しだけ声を低くして読み上げた。
春麗が、自分と話しているなら、
それは、春麗が一人で考えすぎているということか。
今度の沈黙は、少し重かった。
自覚前春麗も、何も言わない。
通常救済版春麗が目を伏せる。
「これは……かなり深いわね」
黒ドレス特化救済ED春麗が頷く。
「会議の存在ではなく、会議の理由を突いている」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「一人で考えすぎている……」
グランドフィナーレ済み春麗が穏やかに言う。
「リュウは、会議を知らない。でも、春麗が一人で抱えている気配を感じたのね」
本編春麗は、少しだけ目を伏せた。
「半分は合っていると言ったわ」
自覚前春麗が、静かに言う。
「半分?」
「ええ。私は一人で考えすぎる。でも、それだけではない」
本編春麗は、会議の全員を見る。
「どの私も、私だもの」
黒ドレス特化救済ED春麗が微笑む。
「そうね」
通常救済版春麗も頷く。
「黒でも青でも」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「終わった後でも」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「時間を怖がっても」
自覚前春麗が、小さく言う。
「……まだ認めていなくても」
本編春麗は少し笑った。
「ええ」
その空気を破ったのは、黒ドレス特化救済ED春麗だった。
「次。高得点発言があるわね」
本編春麗は顔をしかめた。
「あるわ」
通常救済版春麗が微笑む。
「読み上げましょう」
本編春麗は観念して読んだ。
面倒でも、春麗だ。
全員が停止した。
いや、正確には全員が一度受け取った。
自覚前春麗が一番先に顔を赤くした。
「またそれ……」
行き遅れ恐怖版春麗が胸元を押さえる。
「やっぱり強いわね」
通常救済版春麗が言う。
「再提示なのに、状況が違うからさらに強いわ」
黒ドレス特化救済ED春麗が頷く。
「今回は、春麗会議そのものの面倒さを含めて春麗だと言っているように聞こえる」
本編春麗は顔を覆った。
「そうなのよ」
グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。
「つまり、リュウは会議を知らないまま、会議ごと肯定した」
会議室がまた静かになった。
本編春麗は、低く言った。
「やめて」
「事実でしょう」
「事実だからやめて」
自覚前春麗が小さく言う。
「それは、かなり……」
本編春麗が見る。
「何?」
「……資料として、強い」
黒ドレス特化救済ED春麗が笑った。
「採点しましょう」
自覚前春麗が抗議する。
「やっぱり採点するの?」
本編春麗は、疲れた声で言う。
「春麗会議だから」
通常救済版春麗が最初に言った。
「私は九十六点」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「九十七点。会議ごと肯定した点を評価するわ」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「九十五点。面倒でも置いていかない感じがあるから」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「九十六点。終わった後の私にも届くわ」
自覚前春麗は迷った。
「……九十四点」
本編春麗が見る。
「低めね」
「低くないわよ! 私には効きすぎるから少し下げたの!」
本編春麗は少し笑った。
「それ、低くした意味がないわ」
自覚前春麗は黙った。
最後に本編春麗が言った。
「私は……九十七点」
黒ドレス特化救済ED春麗が目を細める。
「高いわね」
「仕方ないでしょう」
本編春麗は青い袖を握った。
「今回のあれは、私個人だけじゃなくて、会議全体に刺さったのよ」
通常救済版春麗がまとめる。
「会議総合、九十六点」
資料が淡く光った。
だが、まだ終わらない。
本編春麗が、さらに項目をめくる。
「最後の問題」
全員が見る。
「リュウがこう言ったわ」
会議に出すのか。
会議室が、完全に凍った。
自覚前春麗が小さく悲鳴を上げた。
「もう気づいてるじゃない!」
本編春麗は反論した。
「気づいていないわ!」
「気づいているわよ!」
「会議の実体は知らないもの!」
黒ドレス特化救済ED春麗が冷静に言う。
「概念的には九割触れているわね」
通常救済版春麗が困ったように微笑む。
「でも、リュウはそれ以上踏み込まなかったのでしょう?」
本編春麗は頷いた。
「ええ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「春麗が秘密にしたいなら、そこから先へは入らない。そこはリュウらしいわ」
行き遅れ恐怖版春麗が小さく言う。
「聞かない優しさ……」
自覚前春麗が悔しそうに言う。
「それも高得点になりそうで嫌だわ」
本編春麗は頷いた。
「悔しいけれど、高得点よ」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「採点。八十九点」
通常救済版春麗が言う。
「九十点」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「九十一点」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「九十点」
自覚前春麗が言う。
「……八十八点。資料として」
本編春麗は少し考えた。
「九十点」
通常救済版春麗がまとめる。
「会議総合、九十点ね」
本編春麗は、ため息をついた。
「高いわ」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「リュウが春麗会議の存在を概念的に察知しかけた案件としては、非常に重要ね」
通常救済版春麗が頷く。
「会議そのものを知らないまま、春麗が自分と相談していること、一人で考えすぎている可能性、そして面倒でも春麗であることを見た」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「これは、春麗会議の外側からの初めての観測ね」
本編春麗は、そこに反応した。
「外側からの観測」
グランドフィナーレ済み春麗は頷く。
「ええ。私たちは内側でリュウを観測していた。でも今回、リュウが外側から春麗会議という現象を観測しかけた」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「つまり、リュウも少しだけ会議の縁に立ったの?」
黒ドレス特化救済ED春麗が答える。
「縁ね。中には入っていない。でも、入口には気づきかけた」
自覚前春麗が顔を赤くした。
「入ってきたらどうするのよ」
本編春麗は即答した。
「入れないわ」
黒ドレス特化救済ED春麗が笑う。
「でも、入口に立つくらいなら?」
本編春麗は黙った。
通常救済版春麗が穏やかに言う。
「彼は勝手には入らないでしょう」
グランドフィナーレ済み春麗も頷く。
「春麗が許したところまでしか来ない」
本編春麗は、少しだけ視線を落とした。
それは、知っている。
リュウは、聞かない。
春麗が「深く考えないで」と言えば、そこで止まる。
春麗が「秘密」と言えば、それ以上は踏み込まない。
でも、見ている。
見て、気づく。
気づいて、それでも待つ。
本編春麗は小さく呟いた。
「……本当に厄介ね」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「結論をまとめましょう」
本編春麗は少し疲れた顔で頷いた。
通常救済版春麗が言う。
「リュウは、春麗会議の存在そのものは知らない」
グランドフィナーレ済み春麗が続ける。
「しかし、春麗が自分の中で複数の自分と対話していることに近い気配を感じた」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「それを、一人で考えすぎているのかと心配した」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「そして、面倒でも春麗だと肯定した」
自覚前春麗が、小声で言う。
「さらに、会議に出すのかと聞いた」
本編春麗は最後に言った。
「結論。リュウ、春麗会議の存在を概念的に察知しかける。ただし、春麗の許可なく踏み込まず。会議外部観測者として、危険度高。総合評価、要経過観察」
自覚前春麗が言った。
「経過観察なの?」
本編春麗は真顔で頷いた。
「当然よ」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「次にリュウが“その会議は、俺も関係あるのか”と言ったら?」
会議室が凍った。
本編春麗は低く言った。
「その時は、緊急会議よ」
通常救済版春麗が微笑む。
「今も緊急会議だけれど」
グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。
「どこまでリュウに見せるか。それも、いつか選ぶことになるのかもしれないわね」
本編春麗は答えなかった。
自覚前春麗は赤くなった顔で呟いた。
「私は絶対見せないわよ」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「資料として?」
「違うわ!」
行き遅れ恐怖版春麗が少し笑った。
「でも、リュウなら……待つかもしれないわね」
本編春麗は、静かに頷いた。
「ええ。だから厄介なの」
会議室が薄れていく。
夢が終わる。
消え際に、グランドフィナーレ済み春麗が言った。
「外から見られたことで、会議も少し変わるわね」
通常救済版春麗が言う。
「次は、隠すための会議かしら」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「それとも、見せる場所を決める会議かしら」
自覚前春麗が叫ぶ。
「見せないって言ってるでしょう!」
本編春麗は、最後に小さく呟いた。
「……提出しないわ」
全員が見た。
本編春麗は視線を逸らした。
「次からは、もう少し慎重に提出する」
それを聞いて、全員が笑った。
夢は消えた。
朝。
本編春麗は目を覚ました。
天井を見つめる。
胸の奥に、昨日のリュウの言葉が残っている。
春麗が、春麗に相談しているのか。
一人で考えすぎているということか。
面倒でも、春麗だ。
会議に出すのか。
春麗は、布団の中で顔を覆った。
「……ほぼ出したわよ」
完全に会議案件だった。
そして、会議は大騒ぎだった。
リュウは知らない。
知らないまま、会議の縁に立ちかけた。
春麗は起き上がる。
今日は、何を着るか迷った。
黒ではない。
青でもいい。
普段着でもいい。
ただ、今日は一つだけ決めている。
リュウの前で「会議案件」とは言わない。
「資料」も避ける。
「点数」もできれば控える。
「提出しない」も言わない。
春麗は鏡の前で深く頷いた。
「情報漏洩防止訓練、第二回ね」
言ってから、自分で顔をしかめる。
「……訓練って言っている時点で駄目じゃない」
それでも、春麗は少しだけ笑った。
きっとリュウは今日も来る。
そして、何も知らない顔で聞いてくるかもしれない。
春麗。
今日は会議に出さないのか。
春麗は想像して、頭を抱えた。
「絶対に聞かないで」
けれど、少しだけ。
本当に少しだけ。
リュウが入口に立ちかけたことを、嫌だとは思いきれなかった。
春麗は青い袖を通しながら、小さく呟いた。
「まだ入れないわよ」
一拍。
「でも、入口に立つくらいなら……」
そこで言葉を止める。
鏡の中の自分が、かなり面倒な顔をしていた。
春麗はため息をついた。
「……本当に、会議案件ね」
そして、すぐに口を押さえた。
Q:今回の断章IFについて解説して?
A:
はい。執筆者として見ると、今回の妄想章IFはかなり大きな転換回です。
これは単なる「リュウが春麗会議に気づきかけるギャグ回」ではなく、春麗会議というメタ構造そのものが、リュウに“外側から観測されかける”回です。
一言で言うなら、
これまで春麗たちがリュウを観測・採点していたが、今回はリュウが春麗会議という現象の気配を逆に観測しかけた話
です。
1. 今回の核心は「会議そのものではなく、会議の理由にリュウが近づいたこと」
リュウは春麗会議の実体を知ったわけではありません。
複数の春麗が円卓で話していることも知らない。
黒ドレス特化版、自覚前、行き遅れ恐怖版、グランドフィナーレ済み春麗がいることも知らない。
でも、春麗が最近よく口にする、
会議案件
資料
点数
提出しない
という言葉から、違和感を拾いました。
そして、
最近、誰かに相談しているのか。
と聞いた。
ここまでは普通です。
しかし、その後が重要です。
春麗が、
誰かではないわ。私よ。
と答えたことで、リュウは、
春麗が、春麗に相談しているのか。
と返す。
これはギャグとして面白いのですが、構造的にはかなり核心です。
春麗会議とは、まさに「春麗が春麗に相談している場所」だからです。
2. リュウが見抜いたのは「一人で考えすぎている春麗」
さらに強いのは、リュウがこう言ったことです。
春麗が、自分と話しているなら、
それは、春麗が一人で考えすぎているということか。
これはかなり深いです。
リュウは会議の内容を知りません。
でも、春麗が自分の中で複数の自分と相談している気配を見て、そこにある「抱え込み」を感じ取った。
つまり、リュウは春麗会議を覗いたのではなく、春麗会議が生まれた理由に触れたわけです。
これはかなり重要です。
春麗会議は、便利なメタ装置です。
でも同時に、本編春麗が自分の反応を一人で処理しきれず、自分の中の別ルート春麗たちに相談している場所でもある。
そこをリュウが外側から見た。
これは、会議にとって初めての「外部観測」です。
3. 「面倒でも春麗だ」の再提示が強い
今回、リュウはまた言いました。
面倒でも、春麗だ。
これは過去にも強い言葉でした。
でも今回は、意味が少し変わっています。
以前は、主に本編春麗個人の面倒さを肯定する言葉でした。
今回は違います。
今回の「面倒でも春麗だ」は、
自分をめんどくさい女だと自覚する春麗
自覚前春麗
黒ドレス特化版春麗
通常救済版春麗
行き遅れ恐怖版春麗
グランドフィナーレ済み春麗
そして、その全員が集まる春麗会議
まで含んでしまっています。
つまり、リュウは知らないまま、
春麗会議ごと春麗だと肯定した
ことになります。
だから春麗会議で高得点になったのは当然です。
4. 本編春麗が一番焦る理由
本編春麗は、春麗会議の議長役です。
資料を作る。
点数をつける。
議題を提出する。
各春麗の反応を整理する。
つまり、春麗会議を一番使っている春麗です。
だから、リュウに気づかれかけた時、一番焦る。
黒ドレス特化救済ED春麗なら、ある程度堂々としそうです。
通常救済版春麗なら、穏やかに受け止めそうです。
グランドフィナーレ済み春麗なら、外から見られることも静かに許容しそうです。
でも本編春麗は違います。
彼女にとって春麗会議は、感情処理装置であり、言い訳装置であり、採点装置であり、秘密基地です。
そこにリュウが入口まで来た。
だから焦る。
しかも、リュウは勝手に踏み込まない。
だからこそ、余計に焦る。
5. 「会議に出すのか」が決定打
リュウの、
会議に出すのか。
これは非常に危険な一言です。
春麗会議の実体は知らない。
でも、春麗が何かを「会議に出す」という形式で処理していることは理解している。
つまり、リュウは春麗会議の内部には入っていないけれど、入口の看板までは読んでしまった状態です。
春麗会議で、
概念的には九割触れている
と評されたのは妥当です。
実体は知らない。
でも形式は察知した。
これはメタ構造として一段進んだ状態です。
6. 今回の春麗会議の意味
今回の春麗会議は、これまでと役割が少し違います。
これまでは基本的に、
リュウの発言を春麗たちが採点する
会議でした。
でも今回は、
春麗会議そのものがリュウに観測されかけたことを審議する
会議です。
つまり、会議が自己言及しています。
春麗会議が、春麗会議自身を議題にしている。
これはメタ構造の進化です。
これにより、今後は、
春麗会議を隠すのか
リュウにどこまで見せるのか
リュウを会議の外部観測者として扱うのか
いつか入口だけ許すのか
という新しいテーマが生まれました。
7. リュウは「入らない男」として描かれている
今回、リュウはかなり重要な節度を見せています。
春麗が、
深く考えないで。
と言えば、それ以上踏み込みません。
でも、何も見ていないわけではない。
ちゃんと見ている。
気づいている。
でも、春麗が秘密にしたいなら踏み込まない。
これは、今までのリュウの性格と一貫しています。
黒でも青でも見る。
だが、勝手には入らない。
春麗会議に対しても同じです。
リュウは入口に立った。
でも、春麗が許さない限り中には入らない。
ここが非常にリュウらしいです。
8. 今後へのフック
今回の回で、次のような展開が作れるようになりました。
まず、春麗会議隠蔽回。
本編春麗が、リュウの前で「会議」「資料」「点数」と言わないように努力する。
でも結局言ってしまう。
次に、リュウ外部観測者回。
リュウが、
その会議は、俺も関係あるのか。
と聞いてしまう。
これが出たら、春麗会議は緊急会議になります。
さらに、入口許可回。
春麗が、
中には入れない。でも、入口に立つことは許す。
と言う。
これはかなり大きな回になります。
春麗会議が、ただのメタギャグではなく、春麗の内面領域として扱われるようになるからです。
結論
今回の妄想章IFは、リュウが春麗会議そのものを知ったわけではないが、“春麗が春麗に相談している”という構造と、その奥にある一人で考えすぎる春麗の気配を察知した回です。
これまで春麗会議は、春麗たちがリュウを観測する場所でした。
しかし今回は、リュウがその会議の輪郭を外側から観測しかけた。
一言でまとめるなら、
春麗会議は、ついにリュウに見られかけた。
ただしリュウは、中には入らなかった。
入口に立って、“面倒でも春麗だ”と言った。
この回によって、春麗会議は単なる女子会・採点会から、リュウにどこまで内面を見せるかを問う領域へ一段進んだと思います。