また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※本編確定ではなく、断章IFです。


断章IF:本編春麗は、宿題の答えで九十九点をつける

 

 本編の春麗は、最近少しだけ焦っていた。

 

 黒ドレス特化救済ED春麗は、黒ドレス決定版を更新した。

 通常救済版春麗は、青いドレスで戦わずにリュウと歩いた。

 グランドフィナーレ済み春麗は、黒でも青でもない姿でリュウの隣に座った。

 行き遅れ恐怖版春麗は、リュウから「俺も考える」という九十九点級の答えを受け取った。

 自覚前春麗は、ついに春麗会議の正式メンバーに認定された。

 

 そして、本編春麗。

 

 自分をめんどくさい女と自覚している春麗。

 

 彼女は、春麗会議の議長であり、資料担当であり、採点担当であり、訓練という言い訳の運用責任者であり、たぶん一番よくリュウに宿題を出している春麗だった。

 

 なのに。

 

「……最近、私の主役回が少ない気がするわ」

 

 鏡の前で、春麗は呟いた。

 

 言ってから、少し顔をしかめる。

 

 何を言っているのか。

 

 主役回などという概念を気にしている時点で、かなり会議に染まっている。

 

 だが、事実でもある。

 

 最近の春麗会議では、他の春麗たちが次々に案件を提出していた。

 

 黒。

 青。

 無色。

 時間不安。

 否認部門。

 

 本編春麗は、それらを整理してきた。

 

 点数をつけてきた。

 

 資料にしてきた。

 

 しかし、自分自身の案件は少し止まっていた。

 

 理由は、わかっている。

 

 リュウに宿題を出していたからだ。

 

 次までに、あなたなりの甘い言葉を一つ考えてきなさい。

 

 最初は軽い気持ちではなかった。

 

 いや、軽くはない。

 

 訓練という名目だった。

 

 会話反応確認。

 甘さ耐性測定。

 リュウの鈍感力突破実験。

 本編春麗の面倒さに対するリュウ回答収集。

 

 いくらでも名目はある。

 

 だが、結局のところ、春麗は聞きたかった。

 

 リュウが、自分に対して何を甘い言葉だと思っているのか。

 

 黒ドレス特化版のように、責任を問うのとは違う。

 通常救済版のように、穏やかに選ぶのとも違う。

 行き遅れ恐怖版のように、時間を考えさせるのとも違う。

 

 本編春麗が欲しいのは、もっと厄介な答えだ。

 

 自分が面倒だとわかっている。

 試す。

 言い訳する。

 訓練にする。

 資料にする。

 会議に提出する。

 点数をつける。

 それでも、リュウに見てほしい。

 

 その全部を含めて、甘いと言えるのか。

 

 春麗は、鏡の中の自分を見た。

 

 青い武道服。

 

 今日は黒ではない。

 青でもあるが、通常救済版の穏やかな青ではない。

 

 本編の青。

 

 戦える。

 逃げられる。

 試せる。

 そして、誤魔化せる。

 

「……今日、回収するわ」

 

 春麗は鏡の自分に言った。

 

「宿題の答え」

 

 一拍。

 

「採点は厳しめに」

 

 そう言ってから、少しだけ口元が緩んだ。

 

「最高は九十九点」

 

 満点はつけない。

 

 本編春麗だから。

 

 満点をつけたら、そこで終わってしまう。

 

 九十九点なら、次が残る。

 

 リュウは、いつもの修行場にいた。

 

 春麗が入ると、リュウは静かに顔を上げた。

 

「春麗」

 

「リュウ」

 

「今日は、戦うのか」

 

 春麗は少しだけ目を細めた。

 

「その前に、宿題」

 

 リュウは表情を変えずに頷いた。

 

「考えてきた」

 

 春麗の胸が、思ったより大きく跳ねた。

 

 出た。

 

 来た。

 

 ついに来た。

 

 春麗は、動揺を表に出さないように腕を組んだ。

 

「そう」

 

「ああ」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「途中経過ではなく?」

 

「途中経過ではない」

 

「あなたなりの甘い言葉?」

 

 リュウは少しだけ考えた。

 

「甘いかは、わからない」

 

 春麗は目を細める。

 

「そこは自信を持ちなさい」

 

「だが、考えた」

 

「なら聞くわ」

 

 春麗は一歩近づいた。

 

「ただし、戦闘前よ」

 

「なぜ」

 

「戦闘中に言われると、私の動きが乱れる可能性があるから」

 

「それは危ないな」

 

「そうよ」

 

 春麗は、低く言った。

 

「だから、今言いなさい」

 

 リュウは黙った。

 

 春麗は待った。

 

 静かな修行場に、風の音だけが入る。

 

 春麗の心臓はうるさかった。

 

 リュウは、ゆっくり言った。

 

「春麗」

 

「ええ」

 

「俺は、うまく甘いことを言えない」

 

 春麗は眉を上げた。

 

「そこから?」

 

「ああ」

 

「減点対象よ」

 

「そうか」

 

「でも続けなさい」

 

 リュウは頷いた。

 

「春麗は、俺に言葉を求める」

 

 春麗は黙った。

 

「訓練と言うこともある。資料と言うこともある。点数をつけることもある。会議に出さないと言って、たぶん出すこともある」

 

 春麗は完全に固まった。

 

「……あなた」

 

「何だ」

 

「最後の一文は余計よ」

 

「そうか」

 

「でも、続けて」

 

 リュウは続けた。

 

「最初は、なぜそこまで言葉を確かめるのかわからなかった」

 

 春麗は、少しだけ視線を落とした。

 

 わからなかった。

 

 それはそうだろう。

 

 リュウは言葉より拳の男だ。

 

 戦う。

 来る。

 見る。

 忘れない。

 逃げない。

 

 それだけで十分だと思う男だ。

 

 春麗は、言葉を求める。

 

 しかも、ただの言葉ではない。

 

 甘く、正しく、春麗を怒らせず、軽すぎず、重すぎず、会議に提出可能な言葉。

 

 かなり面倒だ。

 

 リュウは言った。

 

「だが、考えた」

 

 春麗は顔を上げる。

 

「春麗が言葉を求めるのは、俺を試したいからだけではない」

 

 春麗の呼吸が、少し止まった。

 

 リュウは続ける。

 

「春麗は、自分がどう見られているかを知りたいのだと思った」

 

「……」

 

「黒でも、青でも、戦っている時でも、戦っていない時でも」

 

「……」

 

「面倒だと思っている時でも」

 

 春麗は、何も言えなくなった。

 

 リュウは、まっすぐ春麗を見る。

 

「それを、俺の言葉で確かめたいのだと思った」

 

 春麗は、ゆっくり息を吐いた。

 

 危ない。

 

 これはかなり危ない。

 

 まだ答えの前半で、もう危ない。

 

「……続けなさい」

 

 声が少しだけ小さくなった。

 

 リュウは頷いた。

 

「俺は、春麗を見る」

 

「ええ」

 

「だが、見るだけでは足りない時がある」

 

 春麗は止まった。

 

 見るだけでは足りない。

 

 リュウが、それを言った。

 

「春麗が言葉を求めるなら、俺は考える」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が聞いたら、また被弾しそうな言葉だった。

 

 だが、これは本編春麗の宿題回答だ。

 

 春麗は逃げない。

 

「それで?」

 

 リュウは言った。

 

「春麗が、面倒な自分を隠さずに俺へ向けるなら」

 

 一拍。

 

「俺は、その面倒さを避けずに受ける」

 

 春麗は、少しだけ目を細めた。

 

 受ける。

 

 リュウらしい。

 

 少し武人寄り。

 

 だが、悪くない。

 

 リュウは続けた。

 

「だが、受けるだけでは足りない」

 

 春麗は、また止まった。

 

 リュウは、本当に考えてきたらしい。

 

「春麗が点数をつけるなら、俺は次を考える」

 

「……」

 

「春麗が会議に出すなら、出されても困らないように考える」

 

 春麗は顔が熱くなった。

 

「そこは考えなくていいわ」

 

「そうか」

 

「でも続けなさい」

 

 リュウは、静かに息を吸った。

 

「俺が考えた、甘い言葉はこれだ」

 

 春麗は、背筋を伸ばした。

 

 来る。

 

 本回答。

 

 リュウは言った。

 

「面倒な春麗が、俺に言葉を求めるなら」

 

 一拍。

 

「俺は、何度でも考える」

 

 春麗は、動けなかった。

 

 リュウは続ける。

 

「一度で正解できなくても、逃げない」

 

 さらに一拍。

 

「春麗が納得するまで、俺の言葉で向き合う」

 

 春麗の胸が、大きく鳴った。

 

「そして」

 

 リュウは、少しだけ言葉を探した。

 

「春麗が、また面倒な宿題を出すなら」

 

 春麗は、息を止める。

 

「それも、春麗が俺に向けてくれているものだと思って受け取る」

 

 完全に止まった。

 

 本編春麗は、完全に止まった。

 

 リュウは最後に言った。

 

「だから、春麗」

 

「……何」

 

 声が、少しだけ震えた。

 

 リュウは、まっすぐ言った。

 

「面倒でもいい。次も、俺に聞け」

 

 春麗は、目を伏せた。

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

 長い沈黙。

 

 リュウは待っている。

 

 春麗は、その沈黙の中で必死に採点していた。

 

 言葉の質。

 本編春麗への適合度。

 面倒さ理解度。

 継続性。

 逃げない姿勢。

 甘さ。

 重さ。

 会議提出耐性。

 

 九十点では足りない。

 

 九十五点でも少し低い。

 

 九十八点。

 

 いや。

 

 これは。

 

 春麗は、顔を上げた。

 

「……九十九点」

 

 リュウは少しだけ目を動かした。

 

「高いのか」

 

「最高点よ」

 

「百点ではないのか」

 

 春麗は、少しだけ笑った。

 

「百点はつけないわ」

 

「なぜ」

 

「次がなくなるから」

 

 リュウは考えた。

 

「次がいるのか」

 

 春麗は、はっきり答えた。

 

「いるわ」

 

 リュウは頷いた。

 

「なら、九十九点でいい」

 

 春麗の胸が、また鳴った。

 

「……そういうところよ」

 

「何がだ」

 

「点数を受け取るところまで、あなたが少しうまくなっているところ」

 

 リュウは少しだけ困った顔をした。

 

「そうか」

 

「ええ」

 

 春麗は一歩近づく。

 

「でも、勘違いしないで」

 

「ああ」

 

「九十九点だからといって、今日の訓練が免除されるわけではない」

 

「戦うのか」

 

「ええ」

 

 春麗は構えた。

 

 ただし、その構えは少し柔らかかった。

 

「今の答えが、本当に戦闘中でも崩れないか確認するわ」

 

 リュウも構える。

 

「わかった」

 

 春麗は、少しだけ微笑んだ。

 

「それと」

 

「何だ」

 

「今日の言葉は、会議案件よ」

 

 言ってしまった。

 

 言ってから、春麗は固まった。

 

 リュウは、少しだけ首を傾げる。

 

「やはり出すのか」

 

 春麗は顔を赤くした。

 

「……出すわ」

 

「そうか」

 

「何よ」

 

「困らないように考えた」

 

 春麗は、一瞬で被弾した。

 

「……百点にしないから」

 

「九十九点のままか」

 

「ええ」

 

「そうか」

 

 春麗は踏み込んだ。

 

 掌底。

 

 リュウが受ける。

 

 その打ち合いは、いつもより少し軽かった。

 

 けれど、春麗の胸の奥には、九十九点の言葉が残っていた。

 

 面倒でもいい。

 次も、俺に聞け。

 

 本編春麗は、思った。

 

 これは危険だ。

 

 本当に危険。

 

 リュウが、面倒さを避けないどころか、次も聞けと言ってきた。

 

 つまり、自分は今後も宿題を出せる。

 

 試せる。

 

 言葉を求められる。

 

 そして、それをリュウは「春麗が俺に向けてくれているもの」として受け取る。

 

 そんなことを言われたら。

 

 本編春麗は、また面倒になるしかない。

 

「……リュウ」

 

「何だ」

 

「あなた、責任取りなさいよ」

 

 リュウは受けながら言う。

 

「ああ」

 

「軽く返事しないで」

 

「軽くはない」

 

 春麗は笑った。

 

「なら、いいわ」

 

 その夜。

 

 春麗会議は、開幕前から騒がしかった。

 

 本編春麗が円卓に座ると、すでに全員が待っていた。

 

 黒ドレス特化救済ED春麗。

 通常救済版春麗。

 行き遅れ恐怖版春麗。

 グランドフィナーレ済み春麗。

 自覚前春麗、否認部門代表。

 

 中央には資料。

 

 表題。

 

 春麗会議・特別審議

 議題:本編春麗、リュウより宿題回答を受領。自己採点九十九点

 

 自覚前春麗が、いきなり叫んだ。

 

「九十九点!?」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が胸元を押さえる。

 

「私と同じ……」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が、本編春麗を見る。

 

「ついに来たわね」

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「本編春麗の宿題回収ね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。

 

「長く待った答えね」

 

 本編春麗は、少しだけ得意げに見えた。

 

 だが、同時にかなり顔が赤い。

 

「……採点は厳しめにしたわ」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「九十九点で厳しめ?」

 

「百点ではないもの」

 

 自覚前春麗が呟く。

 

「基準がおかしいわ」

 

 本編春麗は資料を広げた。

 

「では読み上げるわ」

 

 自覚前春麗が身構える。

 

 通常救済版春麗がお茶を置く。

 

 行き遅れ恐怖版春麗が、やや前のめりになる。

 

 黒ドレス特化救済ED春麗は腕を組む。

 

 グランドフィナーレ済み春麗は静かに目を閉じた。

 

 本編春麗は読み上げた。

 

 春麗が言葉を求めるのは、俺を試したいからだけではない。

 春麗は、自分がどう見られているかを知りたいのだと思った。

 それを、俺の言葉で確かめたいのだと思った。

 

 通常救済版春麗が、まず息を吐いた。

 

「かなり見ているわね」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が頷く。

 

「試されていることに怒らず、その奥を見ている」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「言葉で確かめたい、をわかってくれるのは強いわ」

 

 自覚前春麗は、小声で言った。

 

「それは……資料として、かなり強いわね」

 

 本編春麗が少し笑った。

 

「でしょう?」

 

「得意げにならないで」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「これは本編春麗への理解度が高いわ」

 

 本編春麗は続きを読んだ。

 

 春麗が、面倒な自分を隠さずに俺へ向けるなら、

 俺は、その面倒さを避けずに受ける。

 だが、受けるだけでは足りない。

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が目を細めた。

 

「“受けるだけでは足りない”が良いわ」

 

 通常救済版春麗も頷く。

 

「ただ受け身でいるだけではないということね」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が呟く。

 

「考える、に近いわね」

 

 本編春麗は頷く。

 

「ええ。ここで私もかなり被弾したわ」

 

 自覚前春麗が即座に言う。

 

「認めるのね」

 

「本編だから」

 

「便利すぎるわよ、その言葉」

 

 本編春麗はさらに読み上げる。

 

 春麗が点数をつけるなら、俺は次を考える。

 春麗が会議に出すなら、出されても困らないように考える。

 

 会議室がざわついた。

 

 自覚前春麗が叫ぶ。

 

「リュウ、もう会議対応してるじゃない!」

 

 本編春麗は顔を赤くする。

 

「そうなのよ!」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が笑った。

 

「これは外部観測者としてかなり進んだわね」

 

 通常救済版春麗が少し困ったように笑う。

 

「会議に出されても困らないように考える、は強いわ」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「待たせるために来ているわけじゃない、に近い。こちらの不安を先回りしている」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が静かに言った。

 

「彼はもう、会議の中には入っていないけれど、会議に出される前提で言葉を作り始めているのね」

 

 本編春麗は、頭を抱えた。

 

「本当に厄介なのよ」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「次。本回答ね」

 

 会議室が静かになった。

 

 本編春麗は、少しだけ声を整えて読み上げた。

 

 面倒な春麗が、俺に言葉を求めるなら、

 俺は、何度でも考える。

 一度で正解できなくても、逃げない。

 春麗が納得するまで、俺の言葉で向き合う。

 

 自覚前春麗が、完全に固まった。

 

 通常救済版春麗は静かに微笑んだ。

 

 行き遅れ恐怖版春麗は目を伏せる。

 

 黒ドレス特化救済ED春麗は、低く言った。

 

「これは九十九点ね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が頷く。

 

「ええ。かなり本編春麗への答えになっているわ」

 

 本編春麗は、顔を赤くしたまま続ける。

 

 春麗が、また面倒な宿題を出すなら、

 それも、春麗が俺に向けてくれているものだと思って受け取る。

 

 通常救済版春麗が、目を細めた。

 

「これは優しいわね」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「重さを責任ではなく、向けられたものとして受け取っている」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「待つのとも違うわ。向けてくれるなら受け取る、なのね」

 

 自覚前春麗は顔を真っ赤にしている。

 

「それ、かなり……」

 

 本編春麗が見る。

 

「何?」

 

「……資料として、かなり甘い」

 

 本編春麗は少し満足そうに頷いた。

 

「でしょう?」

 

 そして、最後の一文。

 

 本編春麗は、少しだけ躊躇した。

 

 全員が待つ。

 

 本編春麗は読み上げた。

 

 面倒でもいい。

 次も、俺に聞け。

 

 会議室が完全に沈黙した。

 

 本編春麗は、資料を下ろした。

 

 自覚前春麗は、顔を覆っている。

 

 行き遅れ恐怖版春麗は、小さく息を吐いた。

 

 通常救済版春麗は、穏やかに笑っている。

 

 黒ドレス特化救済ED春麗は、本編春麗を見る。

 

 グランドフィナーレ済み春麗は、静かに言った。

 

「これは、本編春麗のための言葉ね」

 

 本編春麗は、小さく頷いた。

 

「ええ」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「面倒でもいい、だけではない。次も聞け、がある」

 

 通常救済版春麗が続ける。

 

「つまり、面倒さを終わらせないでいいと言っている」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「次があるって言われるの、強いわ」

 

 自覚前春麗が小声で言う。

 

「これは……否認しにくいわね」

 

 本編春麗は、目を細めた。

 

「否認部門代表がそう言うなら、かなり強いわ」

 

「その肩書きで呼ばないで!」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言った。

 

「採点しましょう」

 

 本編春麗は、姿勢を正す。

 

「私は九十九点」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「九十八点。かなり良いけれど、甘さより継続性が強いから」 

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「九十九点。面倒さを受けるだけでなく、次を要求している点を評価するわ」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「九十九点。次があることが怖くなくなる答えでもあるから」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「九十八点。終わらない本編春麗には、とても合っているわ」

 

 自覚前春麗は迷った。

 

「……九十七点」

 

 本編春麗が見る。

 

「低くない?」

 

「低くないわよ! 私には効きすぎるから少し距離を置いただけ!」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が笑う。

 

「否認部門代表らしい採点ね」

 

「だからその肩書き!」

 

 通常救済版春麗がまとめる。

 

「会議総合、九十九点でいいと思うわ」

 

 本編春麗は、少しだけ息を止めた。

 

「いいの?」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が頷く。

 

「ええ。これはあなたの九十九点よ」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が微笑む。

 

「私の九十九点とは違う」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「黒の九十九点でもない」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「青の九十九点でもない」

 

 自覚前春麗が小声で言う。

 

「面倒さの九十九点……」

 

 本編春麗は、その言い方に少し笑った。

 

「悪くないわね」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が結論をまとめる。

 

「本編春麗の宿題回答は、会議総合九十九点。理由は、リュウが本編春麗の面倒さを避けず、受けるだけでなく、次も言葉で向き合うと答えたため」

 

 通常救済版春麗が補足する。

 

「甘い言葉としては、派手ではない。でも本編春麗には最適」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「次が怖くない春麗には、これはかなり強い」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「終わらない本編春麗に、終わらせない答えを返したのね」

 

 自覚前春麗が小さく言う。

 

「……面倒でもいい、次も聞け、は反則気味だと思う」

 

 本編春麗は、顔を赤くしたまま言った。

 

「異議なし」

 

 全員が笑った。

 

 会議室が柔らかく揺れる。

 

 本編春麗は資料を閉じた。

 

「では、今回の案件は正式採用。九十九点回答として記録」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「次の宿題は?」

 

 本編春麗は固まった。

 

「……次?」

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「次も聞け、と言われたのでしょう?」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「次を作らないと」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「本編は続くものね」

 

 自覚前春麗が、なぜか少し楽しそうに言う。

 

「資料として、次の宿題案は気になるわ」

 

 本編春麗は、全員を見た。

 

 そして、少しだけ笑った。

 

「そうね」

 

 一拍。

 

「次の宿題を考える会議を開きましょう」

 

 自覚前春麗が叫んだ。

 

「また会議!?」

 

 本編春麗は当然のように言った。

 

「春麗会議だから」

 

 夢がほどけ始める。

 

 消え際に、黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「本編春麗、復権ね」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「良い主役回だったわ」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「九十九点仲間ね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「終わらないあなたらしい答えだった」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「……資料としては、かなり良かったわ」

 

 本編春麗は、少しだけ胸を張った。

 

「でしょう?」

 

 そして、夢は消えた。

 

 朝。

 

 本編春麗は目を覚ました。

 

 胸の奥に、まだリュウの言葉が残っている。

 

 面倒でもいい。

 次も、俺に聞け。

 

 春麗は、布団の上でしばらく動かなかった。

 

 これは、かなり危険な言葉だ。

 

 なぜなら、面倒でいることを許されてしまったから。

 

 しかも、次も聞けと言われてしまったから。

 

 つまり、自分はまた宿題を出していい。

 

 言葉を求めていい。

 

 試していい。

 

 会議に出していい。

 

 春麗は顔を覆った。

 

「……本当に、責任取りなさいよ」

 

 声は少しだけ甘かった。

 

 鏡の前に立つ。

 

 今日は、青い武道服にする。

 

 本編春麗の青。

 

 訓練ができる服。

 言い訳ができる服。

 そして、またリュウに会いに行ける服。

 

 春麗は袖を通した。

 

「次の宿題」

 

 小さく呟く。

 

「何にしようかしら」

 

 言ってから、少しだけ笑った。

 

 完全にリュウのせいだ。

 

 次も聞けと言ったのはリュウだ。

 

 だから、自分が面倒になるのは仕方ない。

 

 春麗は鏡の中の自分を見る。

 

 めんどくさい女と自覚する春麗。

 

 けれど今日は、少しだけ誇らしい。

 

「九十九点」

 

 春麗は呟いた。

 

「満点ではないから、次がある」

 

 そして、修行場へ向かった。

 

 次の宿題を、考えながら。




Q:今回の断章IFについて解説して?

A:
はい。執筆者として見ると、今回の断章IFはかなり重要な本編春麗の復権回です。

最近は、黒ドレス特化救済ED春麗、通常救済版春麗、グランドフィナーレ済み春麗、行き遅れ恐怖版春麗、自覚前春麗がかなり強い議題を持ってきていました。
その中で今回、本編の「めんどくさい女と自覚する春麗」が、リュウから自分専用の九十九点回答を受け取ったことで、改めて中心に戻ってきた回です。

一言で言うなら、

本編春麗が、自分の面倒さを“欠点”ではなく、リュウに向けているものとして受け取ってもらい、次も面倒でいていいと許された回

です。

1. 今回の核は「面倒でもいい」ではなく「次も聞け」

今回のリュウの答えで一番強いのは、

面倒でもいい。
次も、俺に聞け。

です。

「面倒でも春麗だ」は、これまでにも強い言葉でした。

でも今回の答えは、そこから一段進んでいます。

ただ肯定するだけではない。

次もその面倒さを自分に向けていいと言っている。

ここが本編春麗にとって決定的です。

本編春麗は、訓練と言い訳する。
資料にする。
採点する。
会議に提出する。
リュウを試す。
甘い言葉を宿題にする。

それらはかなり面倒です。

でもリュウは、それを「厄介なもの」として避けるのではなく、

春麗が俺に向けてくれているもの

として受け取った。

だから春麗は九十九点をつけた。

これはかなり妥当です。

2. リュウが「面倒さの奥」を見ている

今回のリュウは、ただ甘いことを言ったわけではありません。

むしろ、かなり分析しています。

春麗が言葉を求めるのは、俺を試したいからだけではない。
自分がどう見られているかを、俺の言葉で確かめたいのだと思った。

ここが非常に良いです。

本編春麗の面倒さは、ただ相手を困らせたいからではありません。

リュウにどう見られているか。
黒でも青でもなく、面倒な自分をどう見ているか。
自分がリュウにとってどういう存在なのか。

それを、リュウ自身の言葉で確認したい。

リュウがそこまで考えてきた時点で、もうかなり高得点です。

しかも「試されている」と怒るのではなく、「確かめたいのだと思った」と理解している。

これは本編春麗に特効です。

3. 「受けるだけでは足りない」が成長している

今回、リュウはこう言っています。

その面倒さを避けずに受ける。
だが、受けるだけでは足りない。

これもかなり重要です。

以前のリュウなら、

受ける
忘れない
逃げない
次も来る

という武人的な回答になりがちでした。

それはリュウらしくて良いのですが、本編春麗が求める甘さには少し足りない。

でも今回のリュウは、

受けるだけでは足りない

と自分で言った。

つまり、春麗の面倒さをただ受け止めるだけでなく、自分の言葉で応答する必要があると理解した。

これは、リュウの成長です。

春麗会議的に言えば、リュウが「会議提出耐性」を獲得しつつあります。

4. 「会議に出されても困らないように考える」がメタ的に強い

今回のリュウは、春麗会議を完全に知らないまま、かなり危険なところまで踏み込んでいます。

春麗が会議に出すなら、出されても困らないように考える。

これは、前回の「リュウが春麗会議の存在を概念的に察知しかける」流れを受けた台詞として非常に強いです。

リュウは会議の中には入っていない。
でも、春麗が自分の言葉をどこかで審議していることは何となくわかっている。

そして、それでも逃げない。

むしろ、

出されても困らないように考える。

と言う。

これは本編春麗にとってかなり刺さります。

なぜなら、本編春麗は「会議に提出する」という行為を、自分の逃げ場・整理場所として使っているからです。

そこにリュウが対応してきた。

これは、春麗会議の外部観測者としてリュウがさらに一歩進んだことを意味します。

5. 本編春麗にとっての九十九点

今回、百点ではなく九十九点にしたのがとても良いです。

本編春麗にとって、百点は危険です。

百点をつけると、そこで終わってしまう。
宿題が完了してしまう。
次の確認がなくなってしまう。

でも本編春麗は、終わらせたいのではありません。

続けたい。

次も聞きたい。
次も試したい。
次も会議に出したい。
次もリュウに考えさせたい。

だから九十九点。

ほぼ満足。
でも、次が残る。

本編春麗にとって、これは最高点に近い点数です。

6. 他の春麗たちとの違いが明確になった

今回の会議で、本編春麗の固有テーマも再確認されました。

黒ドレス特化救済ED春麗は、黒と責任。
通常救済版春麗は、青と選択。
行き遅れ恐怖版春麗は、時間と待つこと。
グランドフィナーレ済み春麗は、終わった後の今。
自覚前春麗は、否認とツッコミ。

では、本編春麗は何か。

面倒さを運用して、次を作る春麗です。

今回、リュウがそこへ正面から答えた。

面倒でもいい。
次も、俺に聞け。

これは本編春麗の存在理由そのものに対する回答です。

だから「本編春麗の復権回」なのです。

7. 自覚前春麗の反応も良い

自覚前春麗が、

これは……否認しにくいわね。

と言うのも良いです。

否認部門代表ですら否認しにくい。

つまり、この回答は会議全体としてかなり強い。

しかも自覚前春麗は、まだ自分の面倒さを認めていないからこそ、本編春麗の面倒さを客観的に見ています。

その彼女が「反則気味」と感じる。

これはリュウの回答の強さを補強しています。

8. ラストの「次の宿題を考える会議」が本編らしい

最後に、本編春麗が、

次の宿題を考える会議を開きましょう。

と言うのが非常に本編らしいです。

普通なら、九十九点の回答を受け取って満足して終わるところです。

でも本編春麗は違う。

満足したからこそ、次を作る。

この「終わらせない力」が本編春麗の強さです。

そして、それをリュウ自身が許してしまった。

次も、俺に聞け。

と言ったから。

だから本編春麗が次の宿題を考えるのは当然です。

これは、リュウが自分で開けた扉です。

結論

今回の断章IFは、本編春麗がリュウから、自分の面倒さを避けず、次も言葉で向き合うという九十九点回答を受け取る回です。

特に重要なのは、

リュウが本編春麗の面倒さを「困るもの」ではなく「自分へ向けられているもの」として受け取ったこと。
そして、“次も俺に聞け”と言ったこと。

です。

一言でまとめるなら、

本編春麗は、面倒でいることを許された。
しかも、次も面倒でいていいと言われた。
だから本編は、まだ続く。

この回は、本編春麗の中心性を再確認する、かなり良い九十九点回だったと思います。
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