また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※本編確定ではなく、断章IFです。


断章IF:本編春麗は、青でギリギリ負ける

 

 春麗は、鏡の前で腕を組んでいた。

 

 青い武道服。

 

 黒ではない。

 ドレスでもない。

 普段着でもない。

 

 本編春麗の青。

 

 戦うための青。

 蹴るための青。

 踏み込むための青。

 そして、負けるかもしれない場所へ行くための青。

 

 最近、自分は少しおかしかった。

 

 春麗会議。

 資料。

 採点。

 宿題。

 九十九点。

 否認部門代表。

 黒ドレス決定版。

 青案件。

 時間不安案件。

 グランドフィナーレ後案件。

 

 整理はした。

 

 たくさんした。

 

 かなりした。

 

 しすぎた。

 

 春麗は、鏡の中の自分を見た。

 

「……私は、何をしているのかしら」

 

 本編春麗の本質は、会議の議長ではない。

 

 資料作成者でもない。

 採点者でもない。

 リュウの宿題管理者でもない。

 

 いや、それらも自分ではある。

 

 しかし、それだけではない。

 

 自分は、リュウと戦う春麗だ。

 

 ぎりぎりまで攻めて。

 ぎりぎりまで受けて。

 ぎりぎりで勝つ。

 あるいは、ぎりぎりで負ける。

 

 その紙一重の場所でこそ、自分は一番本編春麗らしい。

 

 前回は黒だった。

 

 黒ドレスで発勁を入れ、ギリギリ勝った。

 

 ただし、その後リュウが倒れ込んできて、事故になった。

 

 戦闘では勝った。

 心理的には大被弾。

 春麗会議では散々だった。

 

「……あれはあれで、私らしかったけれど」

 

 春麗は、少し顔を赤くしてから首を振った。

 

 今日は違う。

 

 黒ではない。

 

 事故でもない。

 

 発勁で落として、倒れ込まれる話でもない。

 

 今日は青。

 

 青で、正面から試合する。

 

 そして。

 

「……負けてもいいわ」

 

 言ってから、春麗は少しだけ笑った。

 

 勝ちに行く。

 

 もちろん勝ちに行く。

 

 でも、今日は負けてもいい。

 

 いや、正確には違う。

 

 負けることから逃げない。

 

 リュウにギリギリで負けることは、春麗にとって屈辱ではない。

 

 むしろ、それは自分がまだ戦える証拠だ。

 

 まだ会議で整理しきれない。

 まだ点数では片づかない。

 まだリュウとの勝負が身体に残っている。

 

 その確認がしたかった。

 

 春麗は青い袖を整えた。

 

「今日は、会議なし」

 

 一拍。

 

「……なるべく」

 

 すでに危ない。

 

 だが、今日はそれでいい。

 

 リュウは、修行場にいた。

 

 春麗が入ると、静かに顔を上げた。

 

「春麗」

 

「リュウ」

 

「今日は青か」

 

「ええ」

 

「戦うのか」

 

 春麗は、少しだけ目を細めた。

 

「今日は、戦うわ」

 

 リュウは構えた。

 

 いつものように。

 

 春麗も構える。

 

 青い武道服が夜気の中で揺れた。

 

 黒のように誘うのではない。

 

 青は前に出る。

 

 春麗は息を整えた。

 

「今日は、会話反応確認ではないわ」

 

「ああ」

 

「宿題回収でもない」

 

「ああ」

 

「会議提出用の資料収集でもない」

 

 リュウは少しだけ首を傾げる。

 

「そうなのか」

 

 春麗は一瞬止まりかけた。

 

「そうよ」

 

「わかった」

 

「たぶん」

 

「たぶん」

 

「復唱しない」

 

「すまない」

 

「謝らない」

 

 すでにいつも通りだった。

 

 春麗は少し笑った。

 

「でも、本当に今日は戦う日よ」

 

 リュウは頷く。

 

「ああ」

 

 春麗は言った。

 

「本気で来なさい」

 

 リュウの目が変わった。

 

「ああ」

 

 次の瞬間、リュウが踏み込んだ。

 

 最初の交差で、春麗は嬉しくなった。

 

 リュウの拳は重い。

 

 遅くない。

 

 迷いもない。

 

 こちらを気遣って加減する拳ではない。

 

 春麗を相手として見ている拳。

 

 春麗はそれを紙一重で外した。

 

 青の踏み込み。

 

 低く入る。

 

 掌底。

 

 リュウが受ける。

 

 受けた腕に重さが残る。

 

 春麗はすぐに回り込む。

 

 蹴り。

 

 リュウが下がる。

 

 春麗は追う。

 

 青は速い。

 

 黒のように視線を絡め取る必要はない。

 

 青は、ただ前に出る。

 

 そこに春麗自身の呼吸が戻ってくる。

 

「いいわね」

 

 春麗は思わず呟いた。

 

 リュウは受けながら言う。

 

「何がだ」

 

「これよ」

 

「これ」

 

「戦っている感じ」

 

 リュウの拳が返る。

 

 春麗は肩で流す。

 

「最近、言葉が多かったでしょう」

 

「ああ」

 

「資料とか、点数とか、宿題とか」

 

「ああ」

 

「それも悪くないけれど」

 

 春麗は蹴りを放つ。

 

 リュウが受ける。

 

「私は、やっぱりこういうのがないと駄目みたい」

 

 リュウは静かに答えた。

 

「春麗らしい」

 

 春麗の胸が一拍遅れた。

 

 だが止まらない。

 

 今日は止まらない。

 

「今の、採点しないわよ」

 

「そうか」

 

「でも、悪くない」

 

「そうか」

 

 春麗は笑った。

 

 そして、速度を上げた。

 

 中盤。

 

 リュウが押し返した。

 

 春麗の青は速い。

 

 だが、リュウは受ける。

 

 見て、受ける。

 

 春麗の蹴りの軌道。

 掌底の起点。

 踏み込みの癖。

 青い袖が揺れる前の肩。

 

 リュウはそれを読んでくる。

 

 春麗の脇へ拳が入る。

 

 浅い。

 

 だが、重い。

 

「っ……」

 

 春麗は一歩下がる。

 

 リュウは追わない。

 

 そこがまた腹立たしい。

 

「来なさいよ」

 

「今は、待つ」

 

「どうして」

 

「春麗が立て直すところを見たい」

 

 春麗は止まった。

 

「……あなた」

 

「何だ」

 

「そういうことを、戦闘中に言わないで」

 

「駄目か」

 

「駄目ではないわ」

 

「なら」

 

「効くのよ」

 

 リュウは少しだけ黙った。

 

「そうか」

 

「そうよ」

 

 春麗は構え直す。

 

 効いた。

 

 かなり効いた。

 

 でも、今の春麗にはそれも燃料になる。

 

 見たいと言われた。

 

 立て直すところを。

 

 なら、立て直す。

 

 春麗は、足を沈めた。

 

 青の呼吸。

 

 一歩。

 

 そこから、連続蹴り。

 

 リュウが受ける。

 

 二撃目で腕を下げる。

 

 三撃目で体勢を崩す。

 

 春麗は掌底を入れた。

 

 リュウの胸に響く。

 

 リュウが下がる。

 

 春麗は追う。

 

「どう?」

 

 リュウは息を吐く。

 

「強い」

 

「当然よ」

 

「立て直した」

 

「見た?」

 

「ああ」

 

 春麗の胸が熱くなる。

 

 これは危険だ。

 

 戦闘中なのに、甘い。

 

 でも、黒の甘さとも、青ドレスの甘さとも違う。

 

 これは、戦っている春麗への甘さだ。

 

 本編春麗には、これがよく効く。

 

「……九十二点」

 

「採点しないのではなかったか」

 

「今のは例外」

 

「そうか」

 

 春麗は、さらに踏み込んだ。

 

 終盤。

 

 二人とも息が荒くなっていた。

 

 リュウの胴着は乱れている。

 春麗の青い袖も汗を含んでいる。

 

 HPにするなら、もう互いに二割も残っていない。

 

 春麗は思った。

 

 これだ。

 

 これが欲しかった。

 

 会議ではなく。

 

 資料ではなく。

 

 宿題でもなく。

 

 リュウと互いに削り合い、どちらが先に落ちるかわからないこの感覚。

 

 怖い。

 

 楽しい。

 

 腹立たしい。

 

 甘い。

 

 その全部が混ざっている。

 

 春麗は、構えたまま言った。

 

「リュウ」

 

「何だ」

 

「今日は、私が勝つわ」

 

「ああ」

 

「でも、あなたが勝ってもいい」

 

 リュウは少しだけ目を動かした。

 

「いいのか」

 

「ええ」

 

 春麗は笑った。

 

「ギリギリならね」

 

 リュウは頷いた。

 

「わかった」

 

「手加減したら許さない」

 

「しない」

 

「なら、来なさい」

 

 リュウが踏み込む。

 

 春麗も踏み込む。

 

 最後の交差。

 

 春麗は発勁を選ばなかった。

 

 前回は発勁で勝った。

 

 でも今日は違う。

 

 青の蹴り。

 

 青の速度。

 

 青の正面。

 

 春麗は低く入り、リュウの拳の下を抜ける。

 

 蹴り上げる。

 

 リュウの腕が落ちる。

 

 入った。

 

 春麗は次の掌底を狙う。

 

 ここで入れば勝てる。

 

 だが、リュウは止まらなかった。

 

 落ちた腕を、そのまま軸にして身体を回す。

 

 春麗の掌底が届く寸前。

 

 リュウの拳が、春麗の肩の内側へ入った。

 

 浅い。

 

 しかし、位置が完璧だった。

 

 春麗の踏み込みの中心がずれる。

 

 青の速度が、崩れる。

 

 春麗は掌底を出し切った。

 

 リュウの胸に触れる。

 

 しかし、力が通りきらない。

 

 リュウの拳が、もう一度春麗の前で止まる。

 

 寸止め。

 

 額のすぐ前。

 

 春麗の掌は、リュウの胸に触れている。

 

 だが、届いていない。

 

 リュウの拳は、届いていた。

 

 勝敗は、紙一重。

 

 春麗の負けだった。

 

「……」

 

 春麗は、動けなかった。

 

 リュウも動かない。

 

 沈黙。

 

 春麗は、自分の掌を見た。

 

 あと少しだった。

 

 本当にあと少し。

 

 掌底が通っていれば、リュウが落ちた。

 蹴りの軸がもう半歩残っていれば、勝っていた。

 リュウの拳が一瞬遅ければ、春麗の勝ちだった。

 

 でも、負けた。

 

 ギリギリで。

 

 リュウに。

 

 春麗は、ゆっくり息を吐いた。

 

「……私の負けね」

 

 リュウは拳を下ろした。

 

「ああ」

 

「本当に、ギリギリだったわ」

 

「ああ」

 

「あなた、最後に読んだのね」

 

「ああ」

 

「青の踏み込み」

 

「ああ」

 

「私の勝ち筋」

 

「ああ」

 

 春麗は、少しだけ悔しそうに笑った。

 

「腹が立つわ」

 

 リュウは静かに言った。

 

「強かった」

 

 春麗の胸が鳴る。

 

「負けたのに?」

 

「ああ」

 

「どこが?」

 

「最後まで勝ちに来た」

 

 春麗は、目を伏せた。

 

 その言葉は、かなり効いた。

 

「……そう」

 

 リュウは続ける。

 

「今日は、会議ではなく、春麗が来た」

 

 春麗は完全に止まった。

 

「……リュウ」

 

「何だ」

 

「それ、かなり危険よ」

 

「そうか」

 

「ええ」

 

 春麗は青い袖を握った。

 

 今日は会議ではなく、春麗が来た。

 

 それは、今の自分が欲しかった言葉だった。

 

 自分は会議の議長ではなく、資料担当でもなく、採点者でもなく。

 

 戦いに来た春麗。

 

 ギリギリで負けた春麗。

 

 それをリュウが見た。

 

 春麗は、小さく笑った。

 

「九十八点」

 

 リュウは少しだけ首を傾げる。

 

「採点しないのでは」

 

「負けたから例外」

 

「そうか」

 

「ええ」

 

 春麗は一歩下がる。

 

 身体は疲れている。

 

 だが、胸の奥は妙に軽い。

 

 負けた。

 

 でも、戻ってきた。

 

 自分の場所に。

 

「今日は、あなたの勝ち」

 

「ああ」

 

「でも、次は私が勝つ」

 

「ああ」

 

「宿題はなし」

 

 リュウは少しだけ意外そうにした。

 

「ないのか」

 

 春麗は笑った。

 

「今日はないわ」

 

 一拍。

 

「今日は、負けを持ち帰る」

 

 リュウは頷く。

 

「わかった」

 

 春麗は背を向けた。

 

 少し歩いてから、振り返らずに言った。

 

「でも」

 

「何だ」

 

「会議案件にはするわ」

 

 リュウは、少しだけ間を置いた。

 

「やはりか」

 

 春麗は顔を赤くしながら言った。

 

「当然でしょう」

 

 リュウは静かに答えた。

 

「困らないように、次も考える」

 

 春麗は足を止めた。

 

 本当に。

 

 この男は。

 

「……今日は九十九点にしないわよ」

 

「そうか」

 

「今日は私が負けた日だから」

 

「ああ」

 

「でも、悪くない負けだったわ」

 

「ああ」

 

 春麗は、夜の修行場を出た。

 

 青い袖が風に揺れる。

 

 ギリギリで負けた悔しさが、身体に残っている。

 

 その悔しさが、たまらなく嬉しかった。

 

 その夜。

 

 春麗会議は、当然のように開かれた。

 

 本編春麗が席に着くと、全員がこちらを見ていた。

 

 黒ドレス特化救済ED春麗。

 通常救済版春麗。

 行き遅れ恐怖版春麗。

 グランドフィナーレ済み春麗。

 自覚前春麗、否認部門代表。

 

 中央には、すでに資料がある。

 

 春麗会議・本編回帰審議

 議題:本編春麗、青でリュウと試合し、ギリギリ敗北。会議ではなく春麗として来た件

 

 本編春麗は、資料を見て小さく笑った。

 

「……今回は、提出してもいいわ」

 

 自覚前春麗が驚いた。

 

「珍しいわね」

 

「ええ」

 

 本編春麗は、青い袖を見下ろす。

 

「今日は、隠す必要がないもの」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「青で負けたのね」

 

「ええ」

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「良い負けだった?」

 

 本編春麗は、少しだけ悔しそうに答えた。

 

「かなり」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「負けて嬉しそう」

 

「嬉しいわけではないわ」

 

 本編春麗は即答した。

 

 一拍。

 

「でも、悪くない負けだった」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が、静かに頷いた。

 

「それは大事ね」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が資料をめくる。

 

「今回は、黒でも青ドレスでもなく、戦闘用の青。つまり本編春麗の原点回帰ね」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「青でも、私の青とは違うわね」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「あなたの青は、戦わない青。私の青は、戦う青」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「つまり、青にも種類があるのね」

 

 本編春麗は少し笑う。

 

「そうよ。資料として覚えておきなさい」

 

「……資料としてなら」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「今回の重要点は、リュウの発言ね」

 

 本編春麗は、少しだけ身構えた。

 

 通常救済版春麗が読み上げる。

 

 今日は、会議ではなく、春麗が来た。

 

 円卓が静かになった。

 

 自覚前春麗が、小声で言った。

 

「これは……強いわね」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が頷く。

 

「春麗会議が続いていたからこそ効く言葉ね」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「会議の議長でも、資料担当でも、宿題管理者でもなく、戦いに来た春麗として見た」

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「本編春麗へのかなり良い回答ね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「本編春麗が、自分の原点に戻ったことをリュウが見ていた」

 

 本編春麗は、少し顔を赤くした。

 

「……そうなのよ」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「認めるのね」

 

「今回は認めるわ」

 

「珍しい」

 

「負けたから」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が目を細める。

 

「負けたから素直なの?」

 

 本編春麗は少し考えた。

 

「たぶん」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「負けることで、会議の役割から降りられたのかもしれないわね」

 

 本編春麗は、その言葉に少しだけ黙った。

 

 確かに。

 

 勝ったら、資料にする。

 採点する。

 分析する。

 次の宿題にする。

 

 でも、今回は負けた。

 

 しかも、ギリギリで。

 

 その悔しさは、会議で処理する前に、身体に残っている。

 

 それが嬉しかった。

 

 本編春麗は、静かに言った。

 

「私は、やっぱり戦っていないと駄目ね」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が頷く。

 

「本編春麗らしいわ」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「負けても次があるのは、少し羨ましい」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が微笑む。

 

「続いている証拠ね」

 

 自覚前春麗が、小声で言った。

 

「ギリギリで負けるのに嬉しそうなの、やっぱり面倒だと思う」

 

 本編春麗は、笑った。

 

「でしょう?」

 

「褒めていないわよ」

 

「でも、今回はそれでいいの」

 

 通常救済版春麗が採点を促した。

 

「リュウ発言、“今日は、会議ではなく、春麗が来た”。採点しましょう」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「九十七点」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「九十八点」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「九十六点。会議に隠れない春麗を見てくれた感じがするわ」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「九十八点」

 

 自覚前春麗は少し迷う。

 

「……九十五点。資料として」

 

 本編春麗は、少し考えて言った。

 

「九十八点」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が意外そうに見る。

 

「九十九点ではないのね」

 

「今日は負けた日だもの」 

 

「関係ある?」

 

「あるわ」

 

 本編春麗は、静かに言った。

 

「九十九点にすると、言葉が主役になる。今日は、試合が主役」

 

 会議室が、少しだけ静かになった。

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「良い判断ね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が頷く。

 

「今日は、言葉より身体に残ったものを大事にしたいのね」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「ええ」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「では、試合自体の採点は?」

 

 本編春麗は、少しだけ笑う。

 

「私の負け。内容は九十九点」

 

 自覚前春麗が驚く。

 

「負けたのに?」

 

「負けたからよ」

 

 本編春麗は言う。

 

「ギリギリまで勝ちに行った。リュウもギリギリで勝ちに来た。最後に私の青を読まれて負けた」 

 

 一拍。

 

「かなり良い試合だったわ」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が頷く。

 

「それはわかるわ」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「青の敗北としては、美しいわね」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「次がある負けね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「終わらない負け」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「……資料として、かなり良い負け」

 

 本編春麗は満足そうに頷いた。

 

「でしょう?」

 

 資料が淡く光った。

 

 結論:本編春麗、青でギリギリ敗北。

 戦闘結果は敗北。

 内容評価は九十九点。

 リュウ発言“今日は、会議ではなく、春麗が来た”は会議総合九十八点。

 本件は、本編春麗の原点回帰案件として正式記録。

 

 本編春麗は、その結論を見て少しだけ息を吐いた。

 

「原点回帰、ね」

 

 黒ドレス特化救済ED春麗が言う。

 

「あなたには必要だったのよ」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「会議の中心にいる春麗が、会議の外で戦うこと」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「負けても、次があること」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「続くための敗北」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「そして、面倒な春麗の再確認」

 

 本編春麗は笑った。

 

「最後だけ雑じゃない?」

 

「資料として正確よ」

 

 本編春麗は、少しだけ嬉しそうに目を伏せた。

 

 夢がほどけ始める。

 

 消える前に、黒ドレス特化救済ED春麗が言った。

 

「次は勝つの?」

 

 本編春麗は答えた。

 

「もちろん」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「会議案件にする?」

 

 本編春麗は少し考える。

 

「するわ」

 

 自覚前春麗が呆れる。

 

「結局するのね」

 

 本編春麗は笑った。

 

「でも、次もまず戦う」

 

 それを聞いて、全員が少しだけ笑った。

 

 夢が消える。

 

 朝。

 

 本編春麗は目を覚ました。

 

 身体に、まだ昨日の試合の感覚が残っている。

 

 肩の痛み。

 蹴りの反動。

 最後に届かなかった掌底。

 額の前で止まったリュウの拳。

 

 負けた。

 

 ギリギリで。

 

 でも、不思議と気分は悪くない。

 

 春麗は起き上がり、青い武道服を見る。

 

「次は勝つわ」

 

 小さく言う。

 

 宿題はない。

 

 少なくとも、今日の朝は。

 

 資料も作らない。

 

 少なくとも、今は。

 

 春麗は鏡の前に立った。

 

 そこには、自分をめんどくさい女と自覚する春麗がいた。

 

 会議の議長で。

 資料担当で。

 採点者で。

 リュウに宿題を出す女で。

 

 そして、リュウにギリギリで負けて、悔しがる格闘家だった。

 

 春麗は、少しだけ笑った。

 

「そうよ」

 

 一拍。

 

「私は、これも私」

 

 その声は、昨日より少し軽かった。

 

 今日は、まず身体を動かす。

 

 会議は、その後でいい。

 

 春麗は青い袖を手に取った。

 

 リュウはきっと来る。

 

 いや、こちらから行ってもいい。

 

 どちらでもいい。

 

 大事なのは、次も戦えること。

 

 春麗は青を着る。

 

 本編春麗として。

 

 ギリギリで負けた悔しさを、次の勝ち筋に変えるために。




Q:今回の断章IFとバトル内容について解説して?

A:
はい。執筆者として見ると、今回の断章IFはかなり良い本編春麗の原点回帰回です。

これは単なる「リュウに負ける話」ではなく、春麗会議・宿題・採点に寄っていた本編春麗が、自分のアイデンティティである“リュウとの紙一重の勝負”へ戻る話です。

一言で言うなら、

本編春麗は、会議の議長でも資料担当でもなく、青でリュウと戦い、ギリギリで負けることで“私はやっぱり戦う春麗だ”と再確認した。

という回です。

今回の断章IFの核

最近の本編春麗は、春麗会議の中心人物になっていました。

資料を作る。
採点する。
議題を整理する。
宿題を出す。
リュウの発言を分析する。
各春麗の反応をまとめる。

これは本編春麗らしくて良いのですが、同時に「会議の春麗」になりすぎていました。

そこで今回、彼女は気づきます。

私の本質は、会議の議長ではない。
リュウとギリギリで戦う春麗だ。

この気づきが非常に重要です。

前回の黒ドレス発勁勝利は、戦闘としては勝ちでした。
しかし、その後にリュウが倒れ込む事故が起き、心理的には春麗が大被弾しました。

今回はその反省もあって、黒ではなく青。

しかも、発勁で落とすのではなく、青の踏み込み・蹴り・速度・正面勝負で戦う。

その結果、春麗はギリギリで負けます。

でも、この負けが良い。

「負けたのに回復する」話になっている

今回の春麗は、戦闘結果としては敗北しています。

最後の掌底は届ききらない。
リュウの拳は寸止めで届いている。
勝敗としては明確にリュウの勝ち。

でも、春麗は壊れません。

むしろ、戻ってきます。

なぜなら、この敗北は「処理できない負け」ではなく、自分の本質を思い出すための負けだからです。

会議で整理する前に、身体に悔しさが残る。
採点する前に、肩の痛みが残る。
宿題を出す前に、次は勝つという感覚が残る。

これが本編春麗にとって大事です。

リュウの「今日は、会議ではなく、春麗が来た」が強い

今回のリュウの一番の高得点台詞は、

今日は、会議ではなく、春麗が来た。

です。

これはかなり本編春麗に刺さります。

リュウは春麗会議そのものを知っているわけではありません。
でも、最近の春麗が「会議」「資料」「採点」に寄っていたことは感じている。

そのうえで、今回は違うと見抜いた。

今日は、春麗が会議の代表として来たのではない。
宿題の採点者として来たのでもない。
言葉を取りに来たのでもない。

戦うために来た。

それをリュウが見ていた。

だから春麗は九十八点をつけた。

九十九点ではないのが良いです。

今回の主役は言葉ではなく、試合だからです。

青の意味

今回の青は、通常救済版春麗の青とは違います。

通常救済版の青は、

戦わない青
歩く青
手をつなぐ青
選べる青

でした。

でも今回の本編春麗の青は、

戦う青
蹴る青
踏み込む青
負けても次に進む青

です。

同じ青でも意味が違います。

黒が「重さ」「責任」「発勁」「受け止める」なら、今回の青は「速度」「正面」「紙一重」「悔しさ」です。

本編春麗にとって、この青は非常に重要です。

RPG的バトル解説
初期ステータス
本編春麗《戦闘用の青》
HP:100 / 100
心理HP:100 / 100

状態:
・原点回帰モード
・会議過多からの戦闘回帰
・青の踏み込み強化
・宿題/採点封印予定

バフ:
・青の速度:高
・蹴り連携:高
・立て直し性能:高
・ギリギリ勝負適性:極高
・リュウへの対抗心:高

デバフ:
・会議語漏洩癖
・リュウ発言への心理被弾
・最近戦闘不足
・採点衝動

リュウ
HP:100 / 100
心理HP:100 / 100

状態:
・通常構え
・本気対応
・春麗観察補正

バフ:
・不屈
・青の踏み込み解析
・紙一重対応
・戦闘中の無自覚高得点発言

デバフ:
・春麗の青速度に対する初動遅れ
・言葉が春麗に効きすぎる

この時点では、春麗はかなり戦闘意欲が高いです。
ただし、最近会議中心だったため、戦闘勘を取り戻す過程があります。

フェーズ1:春麗の青が先行
春麗 HP:96 / 100
リュウ HP:82 / 100
戦況:春麗優勢

春麗は序盤、青の速度で押します。

黒のように視線誘導は使わない。
青の踏み込みで正面から崩す。

春麗スキル:《青の踏み込み》
効果:先制率上昇、蹴り連携威力上昇

春麗攻撃:《青掌底》
リュウ HP:100 → 91

春麗攻撃:《連続蹴り・青》
リュウ HP:91 → 82

ここで春麗は、

これよ。
戦っている感じ。

と感じます。

この時点で、心理HPはむしろ回復します。

春麗 心理HP:100 → 108
状態:原点回帰による心理回復

本編春麗にとって、戦闘そのものが回復行動になっています。

フェーズ2:リュウの反撃と観察
春麗 HP:76 / 100
リュウ HP:68 / 100
戦況:互角へ移行

リュウは春麗の青を見ます。

青い袖の動き。
蹴りの起点。
掌底の入り。
踏み込みの癖。

黒の視線誘導とは違い、青は正面から速い。
だからリュウも正面から読みます。

リュウパッシブ:《青の踏み込み解析》
効果:春麗の連続攻撃への回避率上昇

リュウ攻撃:《脇への拳》
春麗 HP:96 → 86

リュウ攻撃:《肩打ち》
春麗 HP:86 → 76

ここでリュウが言います。

春麗が立て直すところを見たい。

これが心理攻撃として強い。

リュウ特殊行動:《立て直すところを見たい》
効果:春麗 心理HP:108 → 94
追加効果:春麗の再起動バフ発動

春麗には効きます。
ただし、止まらず燃料に変えます。

春麗パッシブ:《見られて立て直す》
効果:次ターン攻撃力上昇
フェーズ3:春麗の立て直し
春麗 HP:68 / 100
リュウ HP:48 / 100
戦況:春麗が再び押す

春麗はリュウの言葉で揺れますが、そのまま立て直します。

春麗スキル:《青連脚・再起》
リュウ HP:68 → 56

春麗追撃:《掌底》
リュウ HP:56 → 48

ここでリュウが、

強い。
立て直した。

と言います。

リュウ特殊行動:《立て直した》
効果:春麗 心理HP:94 → 86
追加効果:採点衝動発生

春麗は思わず、

九十二点

と採点してしまいます。

これは、会議を封印しようとしても完全には消えない本編春麗らしさです。

フェーズ4:最終局面
春麗 HP:24 / 100
リュウ HP:20 / 100
戦況:両者瀕死

ここで春麗は発勁を使いません。

これが重要です。

前回は黒発勁で勝ちました。
今回は青で戦う回なので、発勁決着に逃げない。

春麗は青の蹴りと掌底で勝ちに行きます。

春麗スキル:《青の勝ち筋》
効果:最後の連携攻撃に大ダメージ判定
条件:蹴りで腕を下げ、掌底を通す

リュウも本気で対応します。

リュウスキル:《紙一重の読み》
効果:相手の勝ち筋に割り込む
条件:相手の踏み込み中心を読む
最終ターン:紙一重の敗北
春麗 HP:24 / 100
リュウ HP:20 / 100

春麗の攻撃。

春麗攻撃:《青蹴り》
効果:リュウのガードを崩す
リュウ HP:20 → 12
状態:腕下がり

春麗は次に掌底を入れようとします。

ここで入れば勝ちです。

春麗追撃予定:《青掌底・決着》
命中すればリュウ HP:12 → 0

しかしリュウが割り込みます。

リュウスキル:《紙一重の読み》
効果:春麗の踏み込み中心を崩す

リュウ攻撃:《肩内側への拳》
春麗 HP:24 → 3
状態:軸崩れ

春麗の掌底はリュウの胸に触れます。

しかし力が通りきりません。

春麗攻撃:《届かなかった掌底》
リュウ HP:12 → 8
効果:決定打失敗

リュウの拳は春麗の額の前で寸止め。

リュウ最終判定:《寸止め》
春麗 HP:3 → 0扱い
勝敗確定

結果。

勝者:リュウ
春麗 HP:3 / 100
リュウ HP:8 / 100

勝敗判定:
リュウの拳が先に届いたため、春麗の敗北

厳密には春麗のHPはゼロではありません。
しかし試合判定としては敗北です。

この「HPは残っているが勝敗では負け」が、今回のギリギリ感です。

戦闘結果
戦闘結果:
春麗 HP:3 / 100
リュウ HP:8 / 100

勝者:
リュウ

決まり手:
《紙一重の読み》からの寸止め

春麗の敗因:
・最後の掌底に力が通りきらなかった
・青の踏み込み中心を読まれた
・発勁を使わず、青の勝ち筋にこだわった

春麗の成果:
・青で正面から戦い切った
・ギリギリまで勝ち筋を作った
・負けを受け入れた
・会議ではなく格闘家として戻ってきた
心理結果
春麗 心理HP:100 → 132

理由:
・ギリギリで負けた悔しさが原点回帰になった
・リュウに「会議ではなく春麗が来た」と見られた
・次は勝つという明確な目標が生まれた

戦闘では負けていますが、心理的には大きく回復しています。

これはかなり重要です。

前回の黒発勁事故勝利では、

戦闘勝利
心理大被弾

でした。

今回は逆です。

戦闘敗北
心理回復

この対比が非常に綺麗です。

春麗会議での評価

今回の会議評価は二本立てです。

まずリュウの発言。

今日は、会議ではなく、春麗が来た。

これは会議総合九十八点。

理由は、言葉として非常に強いが、今回の主役は言葉ではなく試合だからです。

次に試合内容。

本編春麗、青でギリギリ敗北。

これは内容評価九十九点。

負けたのに九十九点。

なぜなら、本編春麗が自分の原点へ戻れたからです。

会議評価:
リュウ発言:98点
試合内容:99点
総合案件:本編春麗の原点回帰
今回の意味

今回の断章IFは、本編春麗にとってかなり大切です。

春麗会議が進むほど、本編春麗は便利な司会者になっていきます。

それはそれで魅力ですが、やりすぎると本編春麗自身の身体性が薄くなる。

今回の試合は、それを戻しました。

春麗は会議で言葉を扱うだけの存在ではない。

青で踏み込み、リュウと打ち合い、最後に紙一重で負けて悔しがる格闘家です。

この確認ができたことが、今回最大の成果です。

結論

今回の断章IFは、本編春麗が会議中心に寄りすぎていた自分を、青でのギリギリ敗北によって格闘家として回復する話です。

RPG的には、

春麗 HP3、リュウ HP8の紙一重決着。
勝者はリュウ。
ただし春麗の心理HPは大幅回復。
会議総合では、試合内容九十九点の原点回帰案件。

です。

一言でまとめるなら、

春麗は負けた。
でも、会議の議長ではなく、戦う春麗として負けた。
だからその敗北は、かなり良い負けだった。

この回で、本編春麗はまた一段、主役として戻ってきたと思います。
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