また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
自分をめんどくさい女と自覚する前の春麗のエピソードになります。
自覚前春麗は、青で勝った。
リュウに。
ギリギリで。
本当に、紙一重で。
最後の半歩をずらし、リュウの読みを外し、喉元の前で蹴りを止めた。
勝った。
その瞬間の熱が、まだ身体に残っている。
春麗は、鏡の前で腕を組んでいた。
青い勝利の記憶。
リュウの拳が頬の横をかすめたこと。
自分の足先が先に届いたこと。
リュウが静かに負けを認めたこと。
そして、リュウが言った言葉。
今日は、勝ちに来た春麗だった。
勝ちたい春麗だ。
春麗は、鏡の中の自分を睨んだ。
「……違うわ」
何が違うのか。
自分でも少しわからない。
勝ちたい春麗。
それは否定しにくい。
実際、勝ちたかった。
青で勝った時、嬉しかった。
その勝利が気持ちよかった。
いや、違う。
気持ちいいという言い方がよくない。
格闘家としての達成感。
戦術的成功。
本編春麗の敗北データを活用した比較検証。
資料価値の高い勝利。
そういうものだ。
断じて、自分が面倒だからギリギリ勝利の快感を味わいたくなったわけではない。
春麗は、視線を横へ向けた。
そこに、黒いドレスがあった。
青で勝った。
では、黒ではどうなるのか。
黒ドレスで、リュウにギリギリ勝つ。
黒の視線誘導。
女としての間合い。
格闘家としての踏み込み。
リュウの鈍感力。
止まらない拳。
それを、黒で紙一重で上回る。
春麗の胸が、少し熱くなる。
「……違う」
また言った。
しかし、手は黒いドレスに伸びていた。
「これは確認よ」
もう何度目かわからない言い訳。
「青でギリギリ勝利した後、黒ドレスで同様の勝利を再現できるかの検証」
比較対象は明確。
青の勝利。
黒の勝利。
どちらもギリギリ。
ただし、黒は青より危険だ。
黒は視線を使う。
黒は女としての自分を使う。
黒はリュウの反応を誘う。
だから、勝てた場合の心理反応は青より大きいかもしれない。
「……あくまで資料として」
春麗は黒いドレスに袖を通した。
鏡の中に、黒の春麗が立つ。
黒ドレス特化救済ED春麗ほど重くはない。
本編春麗ほど自覚もない。
でも、黒を着ている。
自分を面倒だと認めていない春麗が、黒を着ている。
春麗は、鏡の中の自分に言った。
「私は、めんどくさい女じゃない」
一拍。
「ただ、黒でも勝てるか確認するだけ」
さらに一拍。
「ギリギリで」
言った瞬間、頬が熱くなった。
やはり、この「ギリギリで」が一番危険だった。
リュウは修行場にいた。
春麗が黒で現れると、リュウは静かに顔を上げた。
視線が止まる。
黒いドレスを見る。
春麗を見る。
目を見る。
春麗は、その視線を受け止めた。
青の時とは違う。
青は前へ出る。
黒は、見られることから始まる。
「春麗」
「リュウ」
「今日は黒か」
「ええ」
「戦うのか」
春麗は、黒い裾を軽く払った。
「戦うわ」
リュウは構えた。
春麗は少しだけ笑った。
「構えるのが早いのね」
「ああ」
「青で負けたから?」
リュウは黙った。
春麗は、一歩近づく。
黒いドレスの裾が揺れる。
「それとも」
春麗は、少しだけ声を落とした。
「黒でも負けるかもしれないと思った?」
リュウは静かに答えた。
「思った」
春麗は止まりかけた。
「……そこは否定しないのね」
「ああ」
「私が黒で来たから?」
「ああ」
「青で勝った後だから?」
「ああ」
「あなた、少し警戒している?」
リュウは頷いた。
「している」
春麗の胸が鳴った。
リュウが警戒している。
自分に。
黒の自分に。
青でギリギリ勝った後の自分に。
これは、悪くない。
いや、違う。
悪くないどころではない。
かなり良い。
春麗は、口元が緩みそうになるのを抑えた。
「そう」
一拍。
「なら、少しは学習したのね」
リュウは首を傾げる。
「学習」
春麗は、黒い裾を払った。
「本編の私に勝った読みで、私にも勝てると思った?」
リュウは静かに見る。
春麗は、少しだけ笑った。
「青では、届かなかったわね」
リュウは頷く。
「ああ」
「今日は黒よ」
「ああ」
「青で届かなかったなら、黒ではもっと届かないかもしれないわね」
言った。
煽った。
かなり煽った。
春麗は、自分の言葉に少しだけ驚いた。
しかし、引かない。
勝者煽り。
青で勝った後だから言える言葉。
黒で来た今だから効く言葉。
リュウは、静かに息を吐いた。
「なら、届かせる」
春麗の胸が跳ねた。
「……そうでなくちゃ」
「春麗」
「何?」
「今日は、煽るのか」
春麗は完全に止まった。
「……煽っていないわ」
「そうか」
「心理戦よ」
「ああ」
「戦闘前の有効な戦術」
「ああ」
「勝者として当然の牽制」
「ああ」
「煽りではない」
リュウは頷いた。
「わかった」
春麗は少しだけ安堵した。
だが、リュウは続けた。
「勝者の牽制か」
春麗はまた止まった。
「……復唱しないで」
「すまない」
「謝らない」
リュウは構え直した。
「行く」
春麗も構える。
黒が夜気に揺れる。
「来なさい」
戦いが始まった。
序盤。
黒はよく効いた。
春麗は青の時のように一直線には出ない。
一歩遅らせる。
一瞬見せる。
裾を揺らす。
肩を開く。
そこから急に踏み込む。
リュウの反応が半拍遅れる。
青では力で前へ出た。
黒では視線を引いてから、前へ出る。
その違いがはっきり出た。
春麗の掌底がリュウの胸へ入る。
浅いが、効いた。
リュウが下がる。
春麗は追わない。
追わないで、見せる。
「どうしたの?」
春麗は言った。
「青の時より、遅れているわ」
リュウは構えを崩さない。
「見ている」
「ええ。見ているわね」
春麗は笑う。
「でも、見た分だけ遅れている」
リュウが踏み込む。
春麗は外す。
黒いドレスの裾が、リュウの視線を一瞬連れていく。
その間に、春麗は横へ入る。
蹴り。
リュウが受ける。
腕が落ちる。
春麗は掌底を重ねる。
リュウが一歩下がった。
「二つ目」
「……ああ」
「警戒してそれなら、まだ足りないわね」
言ってしまう。
煽りが出る。
春麗は内心で少し焦った。
これは気持ちいい。
違う。
戦術的に有効なだけ。
相手の集中を崩すための言葉。
でも、リュウが真面目に受け止めるから、余計に効く。
自分にも。
「春麗」
「何?」
「今日は、楽しそうだ」
春麗は、一瞬硬直した。
「……楽しくないわ」
「そうか」
「勝つために必要なことをしているだけ」
「そうか」
「本当にそうよ」
「ああ」
春麗は踏み込んだ。
少し雑になった。
リュウの拳が肩をかすめる。
「っ」
リュウは見逃さない。
もう一歩踏み込む。
春麗は後ろへ跳ぶ。
黒いドレスが揺れる。
危ない。
煽った自分に、自分が少し揺れた。
「……やるわね」
リュウは構える。
「届かせると言った」
春麗の胸がまた鳴った。
「なら」
春麗は黒い裾を払う。
「もっと来なさい」
中盤。
リュウは黒に慣れてきた。
春麗の視線誘導を見て、次に手首を見る。
裾を追いかけかけて、重心へ戻す。
肩の開きに反応せず、足の沈みを見る。
黒の春麗を見ながら、止まらない。
青とは違う厄介さ。
リュウの拳が春麗の脇へ入る。
浅い。
しかし重い。
春麗は一歩下がる。
リュウは追ってくる。
今度は待たない。
「いいわ」
春麗は笑った。
「やっと届きそうになってきたわね」
リュウは拳を返す。
「届かせる」
「届いたら、ね」
春麗は黒で外す。
リュウの拳が肩をかすめる。
その一瞬で、春麗は近づく。
「遅い」
掌底。
リュウが受ける。
「まだ浅い」
蹴り。
リュウが腕で受ける。
「もう少し」
黒い裾が舞う。
リュウの視線が揺れる。
春麗は、その揺れに踏み込む。
「来なさい、リュウ」
リュウの目が、少しだけ鋭くなる。
「ああ」
次の拳は、重かった。
春麗は外しきれない。
肩に入る。
「っ……!」
HPが削れるような衝撃。
春麗は踏みとどまる。
リュウの拳はそこで止まらない。
二撃目。
春麗は腕で受ける。
重い。
黒で誘っているのに、リュウは止まらない。
見ている。
でも、止まらない。
やはりこの男は厄介だ。
だから。
楽しい。
「……違う」
春麗は呟いた。
リュウが聞く。
「何がだ」
「楽しいわけではない」
「そうか」
「黒でリュウをギリギリまで追い詰めるのが気持ちいいわけでもない」
リュウの拳が止まりかけた。
春麗は自分で言って、自分で固まった。
言いすぎた。
完全に言いすぎた。
「……今のは忘れなさい」
リュウは真面目に言った。
「難しい」
「なぜ」
「春麗が楽しそうだった」
春麗は顔が熱くなる。
「煽りよ!」
「煽りなのか」
「違う! 今のは違う!」
「どちらだ」
「心理戦!」
「ああ」
春麗は自分で混乱していることに気づいた。
否認部門代表として、ひどい失態だ。
黒ドレスでギリギリ勝利を目指し、勝者煽りをし、楽しそうだと言われ、反論しようとして自爆している。
これは。
これは、かなり面倒なのではないか。
「違うわ」
「何がだ」
「何でもない!」
春麗は強く踏み込んだ。
黒が揺れる。
リュウが受ける。
互いに削れる。
終盤。
春麗の呼吸は荒かった。
リュウも消耗している。
HPにするなら、春麗は残り二割。
リュウも同じくらい。
黒でここまで来た。
青とは違う。
黒は、戦闘中に自分も削る。
見られる。
誘う。
煽る。
それを自分で制御する。
勝ちたい。
それはもう認めた。
いや、まだ完全には認めていない。
だが、勝ちたい。
黒でも。
ギリギリで。
リュウに。
春麗は構えた。
「リュウ」
「何だ」
「青では、私が勝ったわ」
「ああ」
「黒でも、私が勝つ」
「ああ」
「あなた、二回続けて負けることになるわね」
リュウは静かに言った。
「まだ、負けていない」
春麗は笑った。
「ええ」
一歩。
「だから、ここから負けなさい」
これは煽りだ。
完全に煽りだ。
もう否認しようがない。
しかし、春麗は否認した。
心の中で。
これは戦術。
勝つため。
黒でギリギリ勝つための言葉。
リュウは踏み込む。
春麗も踏み込む。
最後の交差。
青の時と違い、春麗は発勁の気配を見せた。
リュウが警戒する。
当然だ。
黒発勁の事故記憶がある。
本編春麗。
自覚前春麗。
黒ドレス特化救済ED春麗。
発勁は危険な札だ。
だから、春麗は使わなかった。
発勁を見せて、使わない。
リュウの意識が、掌に一瞬寄る。
その瞬間、春麗は黒い裾を反転させ、蹴りへ切り替えた。
リュウの拳が来る。
春麗の肩を狙う。
青の時より鋭い。
春麗は完全には避けられない。
拳が肩をかすめる。
痛い。
だが、中心は残った。
黒で視線をずらし、発勁の気配で意識を寄せ、最後は蹴り。
春麗の足が、リュウの胸元の前で止まる。
同時に、リュウの拳が春麗の顎の下で止まっていた。
近い。
近すぎる。
どちらが先か。
春麗は、息を止めた。
リュウも動かない。
一拍。
春麗の足先が、ほんのわずかに先に届いていた。
リュウの拳は、届く寸前。
春麗の勝ち。
また、ギリギリで。
黒で。
春麗は、ゆっくり足を下ろした。
「……私の勝ちね」
リュウは頷いた。
「ああ」
「今度は黒で」
「ああ」
「青に続いて」
「ああ」
「二連敗ね」
言った。
煽った。
しかも勝者として、かなりはっきり。
春麗は胸が熱くなる。
これは危険。
とても危険。
リュウは静かに言う。
「強かった」
「当然よ」
「黒でも、勝ちに来た」
春麗の胸が鳴る。
「……ええ」
「煽りも、強かった」
春麗は完全に固まった。
「そこを評価しないで」
「駄目か」
「駄目ではないけれど」
「なら」
「効くのよ!」
リュウは少しだけ目を伏せた。
「そうか」
春麗は黒い袖を握った。
「今のは戦術よ」
「ああ」
「勝つための心理戦」
「ああ」
「勝って気持ちよかったから煽ったわけではない」
リュウは黙った。
春麗は嫌な予感がした。
「何?」
リュウは言った。
「そういう春麗も、強い」
春麗は、完全に動けなくなった。
「……あなた」
「何だ」
「本当に、そういうところよ」
「そうか」
「ええ」
春麗は目を逸らした。
黒でギリギリ勝った。
煽った。
リュウに評価された。
しかも、強いと言われた。
これは会議案件だ。
絶対に会議案件。
しかし、自分は言う。
「会議には出さないわ」
リュウは静かに見た。
「たぶんか」
春麗は、一瞬で顔を赤くした。
「先に言わないで!」
「すまない」
「謝らない!」
春麗は踵を返す。
「今日はここまで」
「ああ」
「次も勝つわ」
「ああ」
「青でも黒でも」
「ああ」
「そして、あなたを煽るのは戦術よ」
「ああ」
「覚えておきなさい」
リュウは静かに答えた。
「覚えておく」
春麗は止まった。
「……そこは忘れてもいいわ」
「難しい」
「本当に、あなたは」
春麗は黒いドレスの裾を揺らし、修行場を出た。
胸の奥には、黒でギリギリ勝った熱がある。
青とは違う熱。
黒の熱。
煽りの熱。
勝者の熱。
そして、それを否認しようとする自分の熱。
「……私は、めんどくさい女じゃない」
夜道で小さく言う。
「ただ、黒で勝つのも悪くなかっただけ」
一拍。
「煽りも、戦術として有効だっただけ」
さらに一拍。
「……たぶん」
その言葉は、誰にも聞かれていないはずだった。
だが、その夜。
当然のように、春麗会議は開かれた。
自覚前春麗は、目を開いた瞬間に叫んだ。
「提出していない!」
本編春麗は、すでに議長席で資料を開いていた。
「たぶん、と言ったわ」
「またそれ!」
円卓の中央には、資料。
春麗会議・否認部門黒案件特別審議
議題:自覚前春麗、黒ドレスでリュウにギリギリ勝利。勝者煽りを摂取し、快感を否認する件
自覚前春麗は、資料を奪い取ろうとした。
黒ドレス特化救済ED春麗が、静かにそれを押さえる。
「これは私も審議する権利があるわ」
「黒だから?」
「黒だから」
通常救済版春麗が微笑む。
「青で勝った後に黒でも勝ったのね」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「二連勝……少し眩しいわ」
グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。
「しかも、煽ったのね」
自覚前春麗は顔を赤くした。
「煽っていない!」
本編春麗が目を細める。
「では、読み上げるわ」
「やめなさい!」
本編春麗は読み上げた。
本編の私に勝った読みで、私にも勝てると思った?
青では、届かなかったわね。
今日は黒よ。
円卓が静かになった。
黒ドレス特化救済ED春麗が、低く言った。
「良い煽りね」
自覚前春麗は固まった。
「……良い?」
「ええ。勝者としての青の実績を使い、黒への警戒を誘導している。かなり自然」
通常救済版春麗が頷く。
「少し得意げなのが可愛いわ」
「可愛くない!」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「勝った後だから言える煽りね」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「続いている勝利の熱があるわ」
本編春麗は、資料に書き込む。
「煽り評価、九十二点」
自覚前春麗が驚く。
「点数をつけるの!?」
「当然でしょう」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「私は九十四点」
通常救済版春麗が言う。
「九十一点」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「九十点。少し強くて眩しいから」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「九十二点」
本編春麗がまとめる。
「会議総合、九十二点」
自覚前春麗は、顔を赤くしながら言った。
「……資料としてなら、妥当」
全員が見た。
「何よ!」
黒ドレス特化救済ED春麗が微笑む。
「正式メンバーね」
「認めていない!」
本編春麗は次の資料を読む。
二回続けて負けることになるわね。
まだ負けていない。
ええ。だから、ここから負けなさい。
通常救済版春麗が口元を押さえた。
「これは、かなり強いわね」
黒ドレス特化救済ED春麗は満足げに頷く。
「黒らしい煽りね。相手を沈めるのではなく、負ける場所まで誘う」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「ここから負けなさい、はすごいわ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「終盤で言えるのは、勝ち筋が見えていたからね」
本編春麗が、自覚前春麗を見る。
「あなた、かなり気持ちよくなっていたでしょう」
自覚前春麗は即答した。
「なっていない!」
「否認速度、満点」
「その採点いらない!」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「この煽りは九十六点」
通常救済版春麗が言う。
「九十三点」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「九十四点」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「九十五点」
本編春麗が言う。
「九十六点」
全員が自覚前春麗を見る。
自覚前春麗は沈黙した。
「……九十四点」
本編春麗が笑った。
「高いわね」
「資料として!」
黒ドレス特化救済ED春麗が満足そうに言った。
「会議総合、九十五点」
資料が淡く光る。
自覚前春麗は、ますます顔を赤くした。
「勝負内容の採点に入りましょう」
本編春麗が言う。
自覚前春麗は諦めたように椅子に座り直した。
本編春麗は読み上げる。
「自覚前春麗、黒ドレスでリュウと試合。序盤は黒の視線誘導で優勢。中盤、リュウが適応。終盤、発勁の気配を見せて掌へ意識を寄せ、実際には蹴りへ切り替え、紙一重で勝利」
黒ドレス特化救済ED春麗が、真剣な顔になる。
「これは評価が高いわ」
通常救済版春麗も頷く。
「黒なのに、決め手は蹴りなのね」
「ええ」
本編春麗は言う。
「発勁事故の記憶を利用して、発勁を見せ札にした」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「黒ドレス戦術としてかなり良い。発勁そのものではなく、発勁の記憶を武器にしている」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「記憶まで戦術にするのね」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「春麗会議の積み重ねが、また戦闘へ返ったのね」
自覚前春麗は、少しだけ得意げになりかけた。
すぐに隠す。
「……資料を活用しただけよ」
本編春麗が笑う。
「それが強いのよ」
黒ドレス特化救済ED春麗が採点する。
「試合内容、九十九点」
自覚前春麗は目を見開いた。
「九十九?」
「ええ。黒ドレスで、発勁の記憶を見せ札にし、勝者煽りも戦術に組み込んだ。かなり高評価」
通常救済版春麗が言う。
「九十八点」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「九十八点」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「九十八点」
本編春麗が言う。
「九十九点」
最後に、自覚前春麗。
彼女はしばらく黙った。
「……九十八点」
本編春麗が眉を上げる。
「九十九ではないの?」
「九十九にすると、認めたみたいになるでしょう」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「かなり認めているわね」
「認めていない!」
通常救済版春麗が微笑む。
「では会議総合、九十九点で」
自覚前春麗は立ち上がった。
「私の九十八点は!?」
本編春麗は言った。
「参考意見」
「軽い!」
資料が光る。
結論:自覚前春麗、黒ドレスでリュウにギリギリ勝利。
試合内容、会議総合九十九点。
勝者煽りは高評価。
本人は煽りの快感を否認。
ただし、黒ドレスでのギリギリ勝利適性あり。
追加注記:煽り適性、要観察。
自覚前春麗は叫んだ。
「最後の注記を消しなさい!」
本編春麗は満面の笑みで言った。
「消さないわ」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「煽り適性は重要よ」
通常救済版春麗が柔らかく言う。
「でも、使いすぎには注意ね」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「勝った後に言えるのは羨ましいわ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「煽れるうちは、まだ続いているわね」
自覚前春麗は、顔を真っ赤にしたまま座った。
「……私は、めんどくさい女じゃない」
本編春麗が言う。
「ええ」
「煽りが気持ちよかったわけでもない」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「ええ」
「黒で勝てて嬉しかっただけ」
通常救済版春麗が言う。
「ええ」
「戦術として有効だっただけ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「ええ」
行き遅れ恐怖版春麗が、小さく微笑んだ。
「でも、次もやりたい?」
自覚前春麗は止まった。
円卓が静かになる。
自覚前春麗は、目を逸らした。
「……資料としてなら」
全員が笑った。
夢がほどけ始める。
消える前に、本編春麗が言った。
「次は、私と青で再戦ね」
黒ドレス特化救済ED春麗が言う。
「それとも、私と黒で煽り合う?」
通常救済版春麗が言う。
「青で煽らない日も必要よ」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「私は、煽る前に待ってしまいそう」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「どの春麗も、まだ次があるわね」
自覚前春麗は、顔を赤くしたまま言った。
「……私は、まだ認めていないから」
本編春麗が笑う。
「“まだ”ね」
「そこを拾わない!」
そして、夢は消えた。
朝。
自覚前春麗は目を覚ました。
胸の奥に、黒の熱が残っている。
青で勝った熱とは違う。
黒でリュウを誘い、煽り、最後に紙一重で上回った熱。
春麗は布団の中で、目を閉じる。
「……私は、めんどくさい女じゃない」
いつもの言葉。
だが、今日は少し弱い。
「煽りも、戦術」
一拍。
「黒も、検証」
一拍。
「ギリギリ勝利も、資料価値」
さらに一拍。
「……でも」
春麗は、ゆっくり布団から起き上がった。
鏡の前に立つ。
そこには、まだ自分をめんどくさい女と認めていない春麗がいる。
ただし。
青でも黒でも、リュウにギリギリ勝つ感覚を知ってしまった春麗でもある。
春麗は、少しだけ口元を緩めた。
「次も勝つわ」
言ってから、慌てて付け足す。
「資料として」
それは、もう完全に春麗会議の言葉だった。
Q:今回の妄想章IFとバトル内容について解説して?
A:
はい。執筆者として見ると、今回の妄想章IFはかなりおいしいです。
これは単なる「自覚前春麗が黒ドレスでリュウに勝った話」ではなく、青でギリギリ勝利の快感を知った自覚前春麗が、今度は黒でも同じ快感を得てしまい、しかも煽りまで覚え始める回です。
一言で言うなら、
自覚前春麗は、まだ自分をめんどくさい女だと認めていない。
しかし、青に続いて黒でもリュウにギリギリ勝ち、勝者煽りの快感まで知ってしまった。
という回です。
今回の核は「勝利快感+煽り快感+否認」
今回の春麗は、青でギリギリ勝った直後の状態です。
前回で彼女は、
私はめんどくさい女じゃない。
でも、勝ちたい春麗ではあるかもしれない。
というところまで来ました。
今回、その状態で黒ドレスを着ます。
ここが危険です。
青で勝つだけなら、まだ「格闘家としての達成感」と言い訳できます。
でも黒ドレスで勝つ場合、そこには視線誘導、女としての間合い、黒の見せ方、リュウへの心理戦が入ってくる。
さらに今回は、勝者煽りまで入っています。
つまり今回の春麗は、
勝ちたい
黒で勝ちたい
ギリギリで勝ちたい
リュウを煽って勝ちたい
でも私はめんどくさい女じゃない
という、かなり矛盾した状態にいます。
これが非常に自覚前春麗らしいです。
青の勝利から黒の勝利へ進んだ意味
前回の青勝利は、かなり格闘家寄りでした。
青で踏み込む。
青でリュウの読みを外す。
本編春麗の敗北データを活かす。
最後に紙一重で勝つ。
これは「勝ちたい春麗」の発見でした。
一方、今回の黒勝利は、そこにもう一段足しています。
黒で見せる。
黒で誘う。
黒で煽る。
発勁の記憶を利用する。
最後に蹴りで勝つ。
つまり、今回は単なる勝利ではなく、黒を戦術化した勝利です。
しかも、自覚前春麗がそれをやっている。
本人は認めていませんが、かなり黒ドレス適性が出ています。
煽り成分の入れ方が自然だった理由
今回の煽りは、急に出てきたものではありません。
青で勝った実績があるからこそ、自然に出ています。
本編の私に勝った読みで、私にも勝てると思った?
青では、届かなかったわね。
今日は黒よ。
これは非常に良い煽りです。
まず、前回の青勝利を踏まえている。
次に、本編春麗の敗北データも踏まえている。
そして、今日は黒だと宣言している。
つまり、煽りの中にちゃんと戦闘情報が入っています。
ただの挑発ではなく、勝者の実績に基づいた心理戦になっている。
だから自然です。
さらに終盤の、
だから、ここから負けなさい。
これは完全に勝者煽りです。
自覚前春麗は否認していますが、これはかなり気持ちよく言っています。
だから春麗会議で高評価になったのも妥当です。
リュウの「煽りも、強かった」が強い
今回のリュウの一番危険な返しは、
煽りも、強かった。
です。
これはかなり刺さります。
春麗は煽りを「戦術」「心理戦」「勝者の牽制」として言い訳しています。
でもリュウは、それをちゃんと見て、
煽りも強かった
と評価する。
ここが強い。
春麗にとっては、煽りがただの照れ隠しや言い訳ではなく、戦闘の一部として認められてしまったわけです。
しかも、リュウに。
これは否認部門代表にはかなり危険です。
「黒で勝つのも悪くなかった」が危ない
最後に春麗は、
黒で勝つのも悪くなかっただけ。
煽りも、戦術として有効だっただけ。
と自分に言い聞かせています。
しかし、これはもうかなり認めています。
「悪くなかった」は、春麗会議においてかなり危険な言葉です。
本当に何も感じていなければ、そんな言い方はしません。
つまり彼女は、
青で勝つ快感。
黒で勝つ快感。
煽る快感。
この三つを知ってしまった。
それでもまだ、
私はめんどくさい女じゃない
と言い続けている。
このズレが、今回の最大の面白さです。
HP表記あり:RPG的バトル解説
初期ステータス
自覚前春麗《黒ドレス・否認部門代表》
HP:100 / 100
心理HP:100 / 100
状態:
・黒ドレス装備
・青ギリギリ勝利後
・勝者煽り欲求:発生中
・本人は煽りを心理戦だと主張
・本人はめんどくさい女ではないと主張
バフ:
・黒の視線誘導:高
・青勝利経験:有効
・本編春麗敗北データ:保持
・発勁事故記憶:利用可能
・勝ちたい春麗補正:高
・煽り適性:未自覚
デバフ:
・快感否認
・煽り否認
・リュウ発言への被弾
・黒による自己動揺
・「たぶん」漏洩癖
リュウ
HP:100 / 100
心理HP:100 / 100
状態:
・通常構え
・青で敗北済み
・黒春麗への警戒上昇
バフ:
・黒への適応
・発勁警戒
・春麗観察補正
・届かせる意思
デバフ:
・黒ドレス視線誘導
・春麗の勝者煽りによる判断揺れ
・青敗北記憶
この時点では、リュウも警戒しています。
青で負けた直後なので、春麗が黒で来た時点でかなり危険だと認識している。
ただし、春麗側も黒を使うことで心理負荷が増えています。
フェーズ1:黒の視線誘導で春麗優勢
春麗 HP:96 / 100
リュウ HP:78 / 100
戦況:春麗優勢
序盤、春麗は黒でリュウを遅らせます。
青のように一直線に行くのではなく、
見る
遅れる
踏み込む
当てる
という流れです。
春麗スキル:《黒の視線誘導》
効果:リュウの反応速度を低下
春麗攻撃:《黒掌底》
リュウ HP:100 → 88
春麗攻撃:《黒裾フェイント蹴り》
リュウ HP:88 → 78
この段階で春麗は煽ります。
青では、届かなかったわね。
今日は黒よ。
これによりリュウに軽い心理デバフが入ります。
春麗特殊行動:《勝者煽り・青では届かなかった》
効果:
・リュウの警戒上昇
・春麗の攻撃意欲上昇
・春麗の否認負荷上昇
戦術としては有効です。
ただし、本人の心理にも効いています。
フェーズ2:リュウの適応
春麗 HP:72 / 100
リュウ HP:62 / 100
戦況:春麗優勢から互角へ
中盤、リュウが黒に慣れてきます。
裾ではなく重心を見る。
肩ではなく足の沈みを見る。
発勁の気配に警戒する。
リュウパッシブ:《黒への適応》
効果:黒の視線誘導を一部軽減
リュウ攻撃:《肩打ち》
春麗 HP:96 → 84
リュウ攻撃:《脇への拳》
春麗 HP:84 → 72
ここで春麗は、黒でリュウを追い詰める感覚に高揚します。
しかし本人は否認します。
楽しいわけではない。
黒でリュウをギリギリまで追い詰めるのが気持ちいいわけでもない。
これはほぼ自爆発言です。
春麗デバフ:《言いすぎ》
効果:
・心理HP低下
・煽り否認負荷上昇
春麗 心理HP:100 → 76
リュウが、
春麗が楽しそうだった。
と言うことでさらに被弾します。
リュウ特殊行動:《楽しそうだった》
効果:
・春麗 心理HP:76 → 61
・春麗状態:《快感否認》強化
ただし、戦闘面では逆に火がつきます。
春麗バフ:《否認からの踏み込み》
効果:次フェーズ攻撃力上昇
フェーズ3:終盤、互いに瀕死
春麗 HP:24 / 100
リュウ HP:22 / 100
戦況:紙一重
ここで春麗はかなり強い煽りを入れます。
青では、私が勝ったわ。
黒でも、私が勝つ。
あなた、二回続けて負けることになるわね。
リュウは、
まだ、負けていない。
と返す。
それに対して春麗が、
ええ。だから、ここから負けなさい。
これは今回最大の煽りです。
春麗特殊行動:《ここから負けなさい》
効果:
・リュウの心理防御に中ダメージ
・春麗の勝者テンション上昇
・春麗の煽り適性フラグ発生
RPG的には、煽りが単なる台詞ではなく、戦闘バフとして機能しています。
最終ターン:黒発勁フェイントからの蹴り
春麗 HP:24 / 100
リュウ HP:22 / 100
春麗は発勁の気配を見せます。
ここが重要です。
実際には発勁を使いません。
過去の発勁事故や黒ドレス戦の記憶を利用して、リュウの意識を掌へ誘導します。
春麗スキル:《黒発勁フェイント》
効果:
・リュウの注意を掌へ誘導
・次の蹴り命中率上昇
・発勁事故記憶を戦術化
リュウは警戒します。
リュウ状態:《発勁警戒》
効果:
・掌攻撃への防御上昇
・蹴りへの反応低下
春麗はそこで蹴りへ切り替えます。
春麗攻撃:《黒反転蹴り》
リュウ HP:22 → 3
リュウも同時に拳を出します。
リュウ攻撃:《顎下への拳》
春麗 HP:24 → 5
両者寸止め。
判定。
判定:
春麗の足先が先に届く
リュウの拳は寸前
勝者:春麗
最終結果。
春麗 HP:5 / 100
リュウ HP:3 / 100
勝者:
自覚前春麗
決まり手:
《黒発勁フェイント》→《黒反転蹴り》
勝利判定:
春麗の攻撃が紙一重で先着
今回も本当にギリギリです。
HP差はわずか2。
しかも、春麗の勝因は純粋な火力ではなく、過去の発勁記憶をフェイントに使った点です。
戦闘評価
戦闘評価:
黒ドレス制御:92点
発勁フェイント運用:96点
勝者煽り:95点
紙一重勝負適性:98点
心理否認安定性:42点
総合戦闘評価:99点
特に高いのは、発勁フェイントです。
今回は発勁そのものを打っていません。
しかし、過去の発勁倒れ込み事故や黒ドレス特化版の記憶を戦術化しています。
つまり、春麗会議の履歴が戦闘技術になっている。
これはかなり面白いです。
心理HPの推移
開始時:
春麗 心理HP:100 / 100
青勝利後の自信:
100 → 115
黒ドレス着用による自己動揺:
115 → 96
勝者煽り成功:
96 → 122
リュウ「楽しそうだった」被弾:
122 → 76
リュウ「煽りも、強かった」被弾:
76 → 52
黒ギリギリ勝利による高揚:
52 → 139
春麗会議での羞恥:
139 → 88
最終:
心理HP:88 / 100
状態:高揚残存、否認継続
今回の心理はかなり乱高下しています。
戦闘中は勝者テンションで大きく上がる。
リュウに見抜かれると一気に下がる。
勝つとまた跳ね上がる。
会議で晒されると下がる。
しかし最終的には高揚が残っています。
つまり、否認していても、黒で勝った快感は残っている。
春麗会議での評価
春麗会議では、今回の案件はかなり高評価です。
まず煽り。
煽り1:
「青では、届かなかったわね。今日は黒よ」
会議総合:92点
煽り2:
「だから、ここから負けなさい」
会議総合:95点
次に試合内容。
黒ドレスギリギリ勝利:
会議総合:99点
最終記録。
結論:
自覚前春麗、黒ドレスでリュウにギリギリ勝利。
試合内容、会議総合九十九点。
勝者煽りは高評価。
本人は煽りの快感を否認。
ただし、黒ドレスでのギリギリ勝利適性あり。
追加注記:煽り適性、要観察。
この「煽り適性、要観察」が非常に良いです。
本人は消したがっていますが、会議としては見逃せない。
今後、自覚前春麗が煽るたびにこの注記が参照されます。
今回の物語上の意味
今回の妄想章IFは、自覚前春麗にとってかなり大きいです。
前回までは、
青で勝つのは悪くない。
勝ちたい春麗ではあるかもしれない。
でした。
今回でさらに、
黒で勝つのも悪くない。
煽りも戦術として有効。
ギリギリ勝利は青でも黒でも気持ちいい。
まで進んでいます。
これはかなり危険です。
なぜなら、本編春麗に近づいているだけではありません。
黒ドレス特化版にも近づき始めています。
自覚前春麗は、否認しながら複数ルートの要素を吸収している。
青の勝利。
黒の勝利。
煽り。
資料。
会議。
もうかなり春麗会議の正式メンバーです。
結論
今回の妄想章IFは、自覚前春麗が青のギリギリ勝利に続き、黒ドレスでもリュウにギリギリ勝利し、さらに勝者煽りの快感まで覚えてしまう回です。
RPG的には、
春麗 HP5、リュウ HP3。
決まり手は《黒発勁フェイント》からの《黒反転蹴り》。
試合内容は会議総合九十九点。
勝者煽りも高評価。
ただし本人は全面否認。
です。
一言でまとめるなら、
自覚前春麗は、まだめんどくさい女ではないと言い張っている。
しかし青でも黒でもギリギリ勝ち、煽りまで気持ちよくなってしまった時点で、もうかなり危ない。
今回で、自覚前春麗はかなり良い意味で“戻れないところ”に一歩進んだと思います。