また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
裏ルートの黒ドレス特化救済春麗のエピソードになります。
黒ドレス特化春麗は、機嫌がよかった。
いや、正確には少し違う。
機嫌がよいというより、期待していた。
かなり。
相当。
ほとんど危険なほどに。
理由は、本編春麗の宿題回答だった。
リュウは本編春麗に、こう答えた。
面倒でもいい。
次も、俺に聞け。
春麗会議では九十九点。
全員が納得した。
本編春麗は大満足していた。
否認部門代表の自覚前春麗ですら、否認しきれなかった。
ならば。
黒ドレス特化春麗は、鏡の前で黒いドレスを整えながら思う。
自分の番はどうなるのか。
本編春麗が九十九点なら、黒ドレス特化春麗への回答は当然、それ以上の密度が必要になる。
いや、点数の上限は九十九点でいい。
百点はいらない。
百点は終わりだから。
けれど、九十九点は必要だ。
黒い私を見た。
黒で沈める私を見た。
黒で勝つ私を見た。
黒を脱いだ私も忘れなかった。
黒でリュウを受け止めたこともあった。
黒ドレス決定版まで更新した。
そのうえで、リュウは何を言うのか。
「……当然、考えてきているわよね」
春麗は小さく言った。
ただし、不安もある。
このルートのリュウは、決して最初から正解を出せたリュウではない。
パーフェクトコミュニケーションに失敗した。
最初に十連敗した。
拗れた後にも十連敗した。
何度も黒に沈められた。
何度も届かなかった。
それでも、最後には春麗を救った。
だからこそ、期待している。
だからこそ、怖い。
最初から九十九点を出せるほど器用ではない。
でも、最後には届くはずだ。
黒ドレス特化春麗は、黒い裾を指で払った。
「リュウ」
鏡の中の春麗が、甘く重く笑う。
「今日は、外したら沈めるわ」
一拍。
「何度でも」
リュウは修行場にいた。
春麗が黒で現れると、リュウは静かに顔を上げた。
視線が止まる。
黒を見る。
春麗を見る。
そして、目を見る。
春麗はその視線を受け止めた。
このルートのリュウは、黒から目を逸らさない。
それは知っている。
だが今日は、見るだけでは足りない。
「リュウ」
「春麗」
「宿題」
リュウは頷いた。
「考えてきた」
春麗は目を細めた。
「そう」
「だが」
「だが?」
リュウは少しだけ黙った。
「正しいかは、わからない」
春麗は静かに笑った。
「正しいかどうかは、私が決めるわ」
「ああ」
「本編の私には九十九点だった」
「ああ」
「当然、知っているわね?」
リュウは少し考えた。
「知らないが、春麗が満足したのなら、良い答えだったのだろう」
春麗は一瞬だけ目を伏せた。
会議のことを知らないまま、当ててくる。
そういうところは相変わらず危険だ。
「ええ。良い答えだったわ」
「そうか」
「だから、私の期待値は高い」
「ああ」
「かなり高い」
「ああ」
「外したら沈める」
リュウは静かに頷いた。
「わかった」
春麗は少しだけ眉を寄せた。
「そこは、もう少し警戒しなさい」
「沈められるのは、慣れている」
春麗は止まった。
「……そういう言い方も減点対象よ」
「そうか」
「ええ」
春麗は一歩近づいた。
黒いドレスの裾が揺れる。
「では、答えなさい」
リュウは春麗を見る。
「黒の春麗を見ても、俺は止まらない」
春麗は黙った。
一拍。
二拍。
そして、静かに言った。
「七十二点」
リュウは少しだけ目を動かした。
「低いのか」
「低くはないわ」
春麗は微笑む。
「でも、それはもう聞いた答えよ」
「そうか」
「あなたは黒を見ても止まらない。それは知っている。今さら確認する段階ではないわ」
リュウは頷いた。
「ああ」
春麗は構えた。
「一回目」
黒が動いた。
リュウは受けた。
しかし、春麗の黒は速かった。
黒い裾が揺れ、視線を引き、掌底が胸へ入る。
リュウが下がる。
春麗は踏み込む。
低く、近く、逃がさない。
「止まらないだけでは足りないの」
春麗の掌が、リュウの中心へ届く。
「はっ!」
発勁ではない。
黒の圧。
リュウの膝が落ちる。
リュウは倒れない。
だが、片膝をついた。
春麗は見下ろす。
「一沈み」
リュウは息を整える。
「ああ」
「次」
リュウの二つ目の答えは、少し良くなった。
「黒の春麗も、黒ではない春麗も、どちらも春麗だ」
春麗は聞いた。
そして、少しだけ目を細めた。
「八十一点」
「上がった」
「上がったわ。でもまだ足りない」
「なぜ」
「それは通常救済版の答えに近いの」
黒でも青でも見る。
それは救済の言葉だった。
だが、黒ドレス特化春麗は、そこからさらに先へ行っている。
「私は、黒も黒でない私も見てほしい。けれど、今日の宿題はそこではない」
「そうか」
「ええ」
春麗は黒い袖を払う。
「二回目」
今度は蹴りだった。
黒い裾が視線を奪い、その奥から脚が来る。
リュウは受ける。
受けたが、春麗は近い。
肩が触れそうな距離で、囁く。
「私の黒を一般論にしないで」
その言葉とともに、掌底。
リュウの身体が押し込まれる。
壁際で止まる。
リュウは崩れた。
「二沈み」
春麗は言った。
「次」
三つ目。
「黒を着た春麗は強い」
春麗は即答した。
「六十八点」
「下がった」
「下がったわ」
「なぜ」
「事実確認だから」
春麗は腕を組む。
「黒を着た私が強いことくらい、私が一番知っているわ」
「そうか」
「それを言われて喜ぶほど、私は軽くない」
リュウは頷いた。
「すまない」
「謝らない」
春麗は構えた。
「三回目」
この沈め方は早かった。
リュウが踏み込むより先に、春麗が黒で入った。
視線を奪う暇すらない。
ただ、重い。
黒の春麗が、正面から来る。
掌がリュウの胸に触れた。
「沈みなさい」
リュウの息が抜けた。
膝が折れる。
「三沈み」
春麗は低く言った。
「次」
四つ目。
「黒の春麗を、俺は恐れない」
春麗は少しだけ黙った。
「七十五点」
「また低いか」
「ええ」
「恐れないのは、駄目か」
「駄目ではないわ」
春麗は、リュウの目を見た。
「でも、恐れていないだけなら、それは鈍いだけ」
リュウは黙る。
「私の黒は、怖いものよ」
「ああ」
「重いものよ」
「ああ」
「甘いだけではない」
「ああ」
「それを恐れないと言うなら、あなたはまだ黒の重さを言葉にできていない」
リュウは、静かに受け止めた。
春麗は少しだけ表情を緩める。
「でも、少し近い」
「そうか」
「だから」
春麗は黒い裾を揺らす。
「四回目は少しだけ浅く沈めるわ」
浅いと言った。
実際には、十分深かった。
リュウは黒に足を取られ、春麗の掌で沈んだ。
ただ、倒れなかった。
両足で踏みとどまった。
春麗はそれを見て、少しだけ笑った。
「四沈み」
「まだ立っている」
「ええ。そこは加点」
五つ目。
「黒の春麗に負けても、俺はまた来る」
春麗は目を閉じた。
「七十九点」
リュウは少しだけ不思議そうにした。
「低いのか」
「低くはない。でも、それも昔の答え」
何度でも来る。
それはリュウらしい。
最初の十連敗の時も、拗れた後の十連敗の時も、リュウは来た。
負けても来た。
沈められても来た。
だから救済に届いた。
でも。
「今日は、来ることの確認ではないわ」
春麗は言った。
「来るだけでは足りない」
その言葉は、行き遅れ恐怖版春麗の九十九点にも近かった。
来るだけでは足りない。
考える必要がある。
言葉にする必要がある。
「五回目」
春麗は、今度はリュウを投げた。
黒い裾が揺れ、リュウの重心を奪う。
リュウは受け身を取る。
春麗はその上に立つ。
「また来るのは知っている」
春麗は言った。
「でも今日は、来る理由を言いなさい」
「……ああ」
「五沈み」
六つ目。
「黒の春麗を見た責任は、俺にある」
春麗は、初めて少しだけ止まった。
「……八十八点」
リュウの目が動く。
「上がった」
「ええ。かなり上がったわ」
黒ドレス特化春麗は、黒を見た責任に敏感だ。
自分を女として、格闘家として、黒として見たこと。
その責任をリュウに問う。
だから、この答えは悪くない。
かなり近い。
だが。
「まだ足りない」
「なぜ」
「責任と言うだけなら、まだ重さを外側から持っている」
春麗は静かに言う。
「あなたが責任を持つのは当然よ。でも、それだけだと、私の黒を“見てしまったもの”として扱っている」
「違うのか」
「違うわ」
春麗は一歩近づいた。
「私は、黒を着せられているわけではない」
リュウは聞いている。
「私が選んでいる」
春麗は黒いドレスの胸元に手を置いた。
「黒は、私のものよ」
リュウは頷いた。
「そうか」
「ええ」
春麗は構えた。
「六回目は、合格に近い沈み方をさせるわ」
リュウは構える。
「ああ」
六度目の黒は、今までより美しかった。
春麗はリュウを崩し、倒す。
しかし、受け止める余地を残した。
リュウは片膝をつきながら、春麗を見る。
春麗は見下ろして言った。
「六沈み」
一拍。
「でも、かなり近いわ」
七つ目。
リュウは、少し長く考えた。
春麗は待った。
黒いドレスのまま。
待つこともまた、黒の一部だった。
リュウは言った。
「黒は、春麗が俺に見せたものだ」
春麗は、静かに聞いた。
「続けて」
「だから、俺が勝手に名前をつけるものではない」
春麗の目がわずかに変わる。
「続けて」
「強いとも、怖いとも、甘いとも、俺だけで決めるものではない」
春麗は、少しだけ息を止めた。
「……九十二点」
リュウは黙った。
「かなり良いわ」
春麗は言った。
「でも、まだ私が望む答えではない」
「何が足りない」
春麗は目を伏せた。
「あなた自身が、そこにどう立つのか」
リュウは、ゆっくり頷いた。
「そうか」
「七回目」
この沈みは、優しかった。
だが甘くはない。
リュウが踏み込み、春麗が外す。
黒が回る。
掌がリュウの胸に当たる。
リュウは倒れる寸前で止まった。
春麗は、リュウの肩に手を置く。
「七沈み」
一拍。
「今のは、悪くなかったわ」
八つ目。
「俺は、春麗の黒に勝つために来ているのではない」
春麗は、目を細めた。
「続けて」
「春麗が黒で立つなら、その前に立つ」
「……続けて」
「沈められても、春麗を倒すためだけには立たない」
春麗は、静かに息を吐いた。
「九十四点」
かなり来ている。
黒ドレス特化春麗の望む答えに近い。
リュウは、黒に勝とうとしているのではない。
黒を否定しに来ているのでもない。
春麗を黒から引きずり出そうとしているのでもない。
ただ、春麗が黒で立つ場所に、自分も立つ。
これは、かなり良い。
だが、まだ足りない。
「あなたは、まだ“立つ”と言っている」
春麗は言った。
「立つだけでは足りないの」
リュウは黙る。
「八回目」
この沈みは、かなり深かった。
春麗はリュウを黒で包み、最後に足元を奪った。
リュウは倒れた。
しかし、意識は落とさなかった。
春麗は膝をつき、リュウを見下ろした。
「八沈み」
「……まだか」
「まだよ」
春麗は、少しだけ甘く笑った。
「でも、かなり近い」
九つ目。
リュウは、立ち上がるのに少し時間がかかった。
春麗は待つ。
待ちながら、少しだけ不安になる。
このリュウは、最初から正解を出せない。
それはわかっている。
でも、届くはずだ。
届かなければ、黒ドレス特化春麗は困る。
困るというより。
少し、寂しい。
リュウは立った。
「春麗」
「何?」
「黒の春麗を見た俺は、黒でない春麗だけを望むことはできない」
春麗は止まった。
「続けて」
「黒を脱いだ春麗も見る」
「ええ」
「だが、黒を脱ぐことだけを望まない」
春麗の胸が鳴った。
「……続けて」
「春麗が黒を着るなら、俺はその春麗に向き合う」
「……」
「春麗が黒を脱ぐなら、俺はその春麗にも向き合う」
春麗は目を伏せた。
「九十六点」
高い。
かなり高い。
春麗会議なら、十分高得点扱いされるだろう。
でも。
黒ドレス特化春麗は、首を横に振った。
「まだよ」
リュウは静かに見る。
「何が足りない」
春麗は言った。
「私が黒を選んでいる時、あなたが何を受け取るのか」
リュウは黙った。
「黒を見る。黒に立つ。黒を否定しない。そこまでは来た」
春麗は、黒い袖を握る。
「でも、あなた自身が私の黒から何を受け取るのかを言っていない」
リュウは、少しだけ息を吐いた。
「……そうか」
「九回目」
この沈みは、ほとんどお仕置きだった。
春麗は黒でリュウを包む。
逃げ場は作らない。
リュウは受ける。
何度も受ける。
最後に、春麗の掌がリュウの胸へ触れた。
「沈みなさい」
リュウは倒れた。
黒に。
春麗の前に。
「九沈み」
春麗は低く言った。
「次で、決めなさい」
十回目。
リュウは、しばらく起き上がらなかった。
だが、意識はある。
春麗は、何も言わず待った。
黒いドレスの裾が、床に広がっている。
リュウは、ゆっくり立ち上がった。
春麗は言う。
「リュウ」
「ああ」
「次で九十九点を出せなければ、もう一度最初から沈めるわ」
リュウは頷いた。
「わかった」
「本当にわかっているの?」
「ああ」
「本編の私には九十九点を出した」
「ああ」
「私が望む答えは、それより軽くてはいけない」
「ああ」
「私は、黒を選ぶ春麗よ」
「ああ」
「黒で勝つ私よ」
「ああ」
「黒であなたを沈める私よ」
「ああ」
「黒を脱ぐこともできる私よ」
「ああ」
「あなたは、その私に何を言うの?」
リュウは、春麗を見た。
黒を見る。
春麗を見る。
目を見る。
そして、言った。
「春麗」
「ええ」
「俺は、黒の春麗を救ったとは思わない」
春麗は、完全に止まった。
「……続けて」
リュウは続けた。
「俺が救ったのは、黒を捨てる春麗ではない」
春麗の呼吸が浅くなる。
「続けて」
「黒を着て、黒で勝って、黒で俺を沈める春麗が」
一拍。
「それでも、俺を見ていたことだ」
春麗は、動けなかった。
リュウは、言葉を探すように続ける。
「春麗の黒は、俺を遠ざけるためだけのものではなかった」
春麗の指先が震える。
「俺を試すためだけでもない」
「……」
「春麗が、自分で選んだ黒を、俺に見せていた」
「……」
「俺は、それを受け取る」
春麗は、目を伏せた。
まだ。
まだ足りない。
でも、かなり近い。
リュウは、最後に言った。
「だから、春麗」
「……何」
「黒で沈めるなら、沈めろ」
春麗は息を止めた。
「黒で勝つなら、勝て」
リュウはまっすぐ見ている。
「黒を脱ぐなら、脱げ」
一拍。
「だが、どの春麗でも、俺に見せると決めた分は、俺が受け取る」
春麗の胸が、大きく鳴った。
リュウは、最後の一言を置いた。
「そして、春麗が見せないと決めた黒には、俺は触れない」
沈黙。
長い沈黙。
黒ドレス特化春麗は、リュウを見ていた。
今の言葉は。
黒を否定していない。
黒を脱がせようとしていない。
黒を救済対象にしていない。
黒を春麗のものとして認めている。
そのうえで、春麗が見せると決めた分を受け取ると言った。
見せないと決めた黒には触れないと言った。
これは。
春麗は、ゆっくり息を吐いた。
「……九十九点」
リュウは黙った。
春麗は、もう一度言った。
「九十九点よ」
リュウは静かに頷いた。
「そうか」
春麗は近づいた。
黒い裾が揺れる。
「遅いわ」
「ああ」
「十回沈めたわ」
「ああ」
「本当に手間がかかる」
「ああ」
「でも」
春麗は、リュウの胸に掌を置いた。
今度は沈めるためではない。
そこにいることを確かめるためだった。
「最後には届いた」
リュウは言った。
「届いたのか」
春麗は、甘く重く笑った。
「ええ」
一拍。
「だから今日は、もう沈めない」
リュウは少しだけ息を吐いた。
「そうか」
「ただし」
春麗は目を細める。
「会議案件よ」
リュウは頷いた。
「困らないように考えた」
春麗は、完全に被弾した。
「……それも含めて九十九点よ」
その夜。
春麗会議は、開幕前から異様な熱気だった。
本編春麗は資料を抱えている。
通常救済版春麗はお茶を用意している。
行き遅れ恐怖版春麗はなぜか緊張している。
グランドフィナーレ済み春麗は静かに微笑んでいる。
自覚前春麗、否認部門代表は、すでに顔が赤い。
そして、黒ドレス特化春麗が現れた。
黒いドレスのまま。
大満足を隠しきれていない顔で。
本編春麗は、資料の表題を読み上げた。
春麗会議・黒ドレス特化宿題回答特別審議
議題:黒ドレス特化春麗、リュウを十回沈めた末に九十九点回答を受領
自覚前春麗が叫んだ。
「十回沈めたの!?」
黒ドレス特化春麗は、静かに言った。
「必要だったわ」
本編春麗が頷く。
「このルートのリュウなら、まあ……必要ね」
通常救済版春麗が苦笑する。
「本編春麗の九十九点で、期待値が上がっていたものね」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「待つより沈める方を選んだのね」
黒ドレス特化春麗は即答した。
「ええ」
グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。
「あなたらしいわ」
本編春麗は資料を読む。
「前半回答。黒を見ても止まらない、七十二点。黒でも黒でなくても春麗、八十一点。黒の春麗は強い、六十八点」
自覚前春麗が小声で言う。
「厳しい……」
黒ドレス特化春麗は言った。
「当然よ」
本編春麗が続ける。
「中盤回答。黒を恐れない、七十五点。負けてもまた来る、七十九点。黒を見た責任は俺にある、八十八点」
通常救済版春麗が頷く。
「ここから上がってきているわね」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「“また来る”が七十九点なの、彼女らしいわ」
本編春麗がさらに続ける。
「後半回答。黒に勝つために来ているのではない、九十四点。黒を脱ぐことだけを望まない、九十六点」
黒ドレス特化春麗は、少しだけ目を細めた。
「そこまでは近かったわ」
自覚前春麗が言う。
「九十六点でも駄目なの?」
黒ドレス特化春麗は頷いた。
「駄目よ」
「厳しすぎる」
「黒ドレス特化だから」
本編春麗が言う。
「では、本回答」
会議室が静かになる。
本編春麗は読み上げた。
俺は、黒の春麗を救ったとは思わない。
俺が救ったのは、黒を捨てる春麗ではない。
通常救済版春麗が、静かに息を吐いた。
「これは強いわ」
グランドフィナーレ済み春麗が頷く。
「救済の定義を変えている」
黒ドレス特化春麗は、黙って聞いている。
本編春麗は続ける。
黒を着て、黒で勝って、黒で俺を沈める春麗が、
それでも、俺を見ていたことだ。
行き遅れ恐怖版春麗が胸元を押さえた。
「これは……」
自覚前春麗は顔を赤くして固まっている。
黒ドレス特化春麗は、静かに目を伏せた。
本編春麗は続けた。
春麗の黒は、俺を遠ざけるためだけのものではなかった。
俺を試すためだけでもない。
春麗が、自分で選んだ黒を、俺に見せていた。
俺は、それを受け取る。
黒ドレス特化春麗の口元が、少しだけ緩んだ。
通常救済版春麗が言う。
「これは九十九点ね」
本編春麗は最後を読む。
黒で沈めるなら、沈めろ。
黒で勝つなら、勝て。
黒を脱ぐなら、脱げ。
だが、どの春麗でも、俺に見せると決めた分は、俺が受け取る。
そして、春麗が見せないと決めた黒には、俺は触れない。
会議室が沈黙した。
誰もすぐには茶化せなかった。
黒ドレス特化春麗は、静かに言った。
「九十九点」
本編春麗が頷く。
「異議なし」
通常救済版春麗も。
「異議なし」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「異議なし。見せると決めた分だけ受け取る、が強いわ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「異議なし。見せない黒には触れない、まで含めて九十九点」
自覚前春麗は、小声で言った。
「……異議なし。資料として」
本編春麗が笑った。
「全員一致ね」
黒ドレス特化春麗は、少しだけ誇らしげだった。
本編春麗が言う。
「本編春麗の九十九点とは違う九十九点ね」
「ええ」
黒ドレス特化春麗は答える。
「あなたのリュウは、面倒さに次も向き合うと答えた」
本編春麗は頷く。
「あなたのリュウは?」
黒ドレス特化春麗は、黒い袖を握る。
「私の黒を、救う対象ではなく、私が選んで見せたものとして受け取った」
通常救済版春麗が言う。
「黒を脱がせるのではなく、黒で立つことも許した」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「そして、見せない部分には入らない」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「待つのではなく、境界を守る答えね」
自覚前春麗が、小さく言った。
「十回沈められた甲斐はあったのね」
黒ドレス特化春麗は、満足そうに笑った。
「ええ」
本編春麗が資料に書き込む。
結論:黒ドレス特化春麗、リュウの宿題回答に九十九点。
理由:黒を救済対象にせず、春麗が選んで見せた黒として受け取り、見せない黒には触れないと明言したため。
全会一致。
資料が強く光った。
黒ドレス特化春麗は、その光を見つめる。
「……遅かったけれど」
一拍。
「届いたわ」
通常救済版春麗が微笑む。
「大満足?」
黒ドレス特化春麗は、一瞬だけ黙った。
そして、素直に言った。
「大満足よ」
自覚前春麗が驚く。
「言い切った」
黒ドレス特化春麗はそちらを見る。
「言い切れる答えだったもの」
本編春麗が少し悔しそうに笑う。
「九十九点仲間ね」
「ええ」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「私も」
グランドフィナーレ済み春麗が微笑む。
「九十九点は、それぞれ違うのね」
本編春麗が頷く。
「面倒さの九十九点」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「待つことの九十九点」
黒ドレス特化春麗が言う。
「黒を受け取る九十九点」
通常救済版春麗が言う。
「青にもいつか、九十九点が来るかもしれないわね」
自覚前春麗が小声で言う。
「私は、まだいらないわ」
全員が見た。
自覚前春麗は慌てる。
「まだ、よ!」
本編春麗が笑う。
「“まだ”ね」
「拾わない!」
会議室が柔らかく笑いに包まれる。
黒ドレス特化春麗は、その中で静かに目を閉じた。
リュウは遅かった。
何度も外した。
十回沈めた。
けれど、最後には届いた。
黒を脱がせるでもなく。
黒を怖がらないだけでもなく。
黒を責任として背負うだけでもなく。
春麗が見せると決めた黒を受け取る。
見せない黒には触れない。
それを言った。
なら、十分だ。
九十九点。
満点ではない。
次が残る点数。
黒ドレス特化春麗は、甘く重く笑った。
「次の宿題も、考えないといけないわね」
自覚前春麗が叫んだ。
「また宿題!?」
本編春麗が当然のように言う。
「九十九点は次を作る点数よ」
黒ドレス特化春麗も頷く。
「ええ」
通常救済版春麗が苦笑する。
「リュウも大変ね」
黒ドレス特化春麗は、少しだけ楽しそうに言った。
「大丈夫よ」
一拍。
「沈めながら待つから」
全員が、妙に納得した。
夢がほどけていく。
最後に黒ドレス特化春麗は言った。
「これは、正式記録でいいわ」
本編春麗が頷く。
「もちろん」
そして、春麗会議は閉じた。
朝。
黒ドレス特化春麗は目を覚ました。
胸の奥に、まだリュウの言葉が残っている。
俺に見せると決めた分は、俺が受け取る。
春麗が見せないと決めた黒には、俺は触れない。
春麗は、ゆっくり起き上がる。
黒いドレスは椅子にかけられていた。
今日は、着てもいい。
着なくてもいい。
どちらでも、自分で選べる。
春麗は小さく笑った。
「九十九点」
満点ではない。
だが、大満足。
「次も、覚悟していなさい」
その声は甘くて。
重くて。
少しだけ楽しそうだった。
Q:今回の妄想章IF後日談について解説して?
A:
はい。執筆者として見ると、今回の妄想章IFはかなり重要な黒ドレス特化春麗の九十九点到達回です。
これは単なる「リュウが宿題回答に失敗して沈められ、最後に正解を出す話」ではなく、黒ドレス特化春麗が、自分の黒を“救われるもの”ではなく“自分が選んで見せるもの”としてリュウに受け取らせる話です。
一言で言うなら、
黒ドレス特化春麗は、リュウに黒を脱がせてほしかったのではない。
黒を否定せず、黒を恐れるだけでもなく、春麗が見せると決めた黒だけを受け取り、見せない黒には触れないと言ってほしかった。
という回です。
今回の核は「黒を救済対象にしない」こと
今回のリュウの最終回答で一番大事なのは、冒頭のこれです。
俺は、黒の春麗を救ったとは思わない。
俺が救ったのは、黒を捨てる春麗ではない。
これはかなり強いです。
黒ドレス特化春麗に対して、単純に、
黒でも春麗だ。
黒を脱いでも春麗だ。
黒の春麗を救いたい。
と言うと、少しズレます。
なぜなら、黒ドレス特化春麗にとって黒は「悪いもの」「脱がされるもの」「救済されて消えるもの」ではないからです。
黒は、彼女が選んだものです。
女としての春麗。
格闘家としての春麗。
リュウを沈める春麗。
リュウに見せる春麗。
リュウに責任を問う春麗。
その全部を含んだ、彼女のフォームです。
だから、リュウが「黒の春麗を救った」と言ってしまうと、黒を病気や傷のように扱ってしまう危険がある。
今回の最終回答は、そこを外していません。
リュウは、黒を捨てさせるのではなく、黒を選んだ春麗ごと受け取ると答えた。
だから九十九点です。
なぜ前半の回答は沈められたのか
前半の回答は、それぞれ悪くありません。
黒の春麗を見ても、俺は止まらない。
黒の春麗も、黒ではない春麗も、どちらも春麗だ。
黒の春麗は強い。
黒の春麗を恐れない。
黒の春麗に負けても、俺はまた来る。
どれもリュウらしいです。
でも、黒ドレス特化春麗にとっては、もう古い答えです。
「止まらない」は確認済み。
「どちらも春麗」は通常救済版寄り。
「強い」は事実確認。
「恐れない」は鈍さにも見える。
「また来る」は過去の十連敗で証明済み。
つまり、リュウは間違ってはいない。
しかし、黒ドレス特化春麗が今求めている深度には届いていない。
だから沈められます。
これは理不尽に見えて、かなりこのルートらしいです。
黒ドレス特化春麗の期待値は、本編春麗の九十九点回答によって限界まで上がっている。
しかもこのリュウは、過去にパーフェクトコミュニケーションに失敗し、十連敗を二度経験している。
なら、最初から正解できないのは自然です。
「十回沈める」がこのルートらしい
今回、黒ドレス特化春麗はリュウを十回沈めます。
これはかなり象徴的です。
このルートのリュウは、もともと十連敗してきたリュウです。
失敗して、負けて、沈められて、それでも来ることで春麗に届いた。
だから今回も、言葉で十連敗に近いことをする。
答えを外す。
沈められる。
また考える。
また外す。
また沈められる。
少しずつ近づく。
この反復が、黒ドレス特化ルートらしいです。
本編春麗のリュウは、かなり綺麗に九十九点へ届きました。
でも黒ドレス特化春麗のリュウは違う。
一度では届かない。
沈められながら届く。
だから最後の九十九点に重みが出ます。
最終回答の何が九十九点だったのか
最終回答の中核は、この部分です。
春麗が、自分で選んだ黒を、俺に見せていた。
俺は、それを受け取る。
ここが九十九点の中心です。
黒を勝手に解釈しない。
黒を悪と決めない。
黒を脱がせるものとしない。
黒を春麗の選択として見る。
そして、春麗が見せると決めたものを受け取る。
この「受け取る」が重要です。
本編春麗のリュウは、
面倒でもいい。次も俺に聞け。
と言いました。
つまり、本編春麗の面倒さを「向けられたもの」として受け取った。
今回の黒ドレス特化リュウは、
春麗が見せると決めた黒を受け取る。
と言った。
同じ「受け取る」でも、対象が違います。
本編は「面倒さ」。
黒ドレス特化は「黒」。
だから、これは黒ドレス特化春麗専用の九十九点です。
「見せない黒には触れない」が決定打
さらに決定打はこれです。
春麗が見せないと決めた黒には、俺は触れない。
これは非常に大きいです。
黒ドレス特化春麗は、黒を見てほしい。
でも、全部を勝手に見られたいわけではありません。
ここが重要です。
彼女は黒を選ぶ。
黒を着る。
黒で勝つ。
黒で沈める。
黒を見せる。
しかし、どこまで見せるかは春麗が決める。
リュウに求められているのは、攻略して全部見ることではありません。
春麗が見せると決めた範囲を受け取ること。
そして、見せないと決めた領域には入らないこと。
これは、以前の「勝手には入らない」「許された場所に立つ」系のテーマの、黒ドレス特化版です。
だから全員が九十九点に納得したわけです。
春麗会議で全員が納得した理由
今回の春麗会議で、全員が九十九点に納得したのは自然です。
本編春麗は、「面倒さの九十九点」と対比して納得します。
通常救済版春麗は、「黒を脱がせない」「選択を尊重する」部分を評価します。
行き遅れ恐怖版春麗は、「待つ」よりも「境界を守る」答えとして受け取ります。
グランドフィナーレ済み春麗は、「見せない黒には触れない」という終わった後の静けさに近い節度を評価します。
自覚前春麗も、「資料として」否認しきれない。
つまり、黒ドレス特化春麗の九十九点でありながら、他の春麗にも刺さる答えになっています。
ここが良いです。
本編春麗の九十九点との違い
今回の比較は非常に重要です。
本編春麗の九十九点は、
面倒でもいい。
次も、俺に聞け。
でした。
これは、本編春麗の「面倒さを運用して次を作る性質」に対する答えです。
一方、黒ドレス特化春麗の九十九点は、
見せると決めた黒は受け取る。
見せない黒には触れない。
です。
これは、黒ドレス特化春麗の「黒を自分で選び、どこまで見せるかも自分で決める性質」に対する答えです。
つまり、
本編春麗には、次も面倒でいていいという回答。
黒ドレス特化春麗には、黒を選ぶ権利と見せる範囲を守る回答。
この違いが非常に綺麗です。
黒ドレス特化春麗が大満足した理由
黒ドレス特化春麗は、最後に「大満足よ」と言い切ります。
これは彼女らしいです。
本編春麗なら照れる。
自覚前春麗なら否認する。
行き遅れ恐怖版春麗なら九十九点でも次を不安がる。
通常救済版春麗なら穏やかに受け取る。
グランドフィナーレ済み春麗なら静かに微笑む。
でも黒ドレス特化春麗は、満足なら満足と言える。
黒を受け入れているからです。
甘くて重いことも、責任を問うことも、自分の黒を選ぶことも、もう否認しない。
だから、
大満足よ。
と言える。
この潔さが、黒ドレス特化春麗の強さです。
今回の物語上の意味
今回の妄想章IFは、黒ドレス特化春麗の関係が一段進む回です。
これまでの黒ドレス特化春麗は、
黒を見た責任を取りなさい。
黒を忘れないで。
黒で沈める私も見なさい。
黒で勝つ私を受け止めなさい。
という方向でした。
今回の回答で、リュウはそこに対して、
見せると決めた黒は受け取る。
見せない黒には触れない。
と返した。
これにより、二人の関係は「黒を見た責任」から、黒をどこまで共有するかの信頼へ進みました。
ここが非常に大きいです。
結論
今回の妄想章IFは、黒ドレス特化春麗が高すぎる期待値でリュウの宿題回答を審査し、何度も沈めた末に、最後は黒ドレス特化専用の九十九点回答を受け取る回です。
リュウは最初から正解できない。
だから沈められる。
でも最後には届く。
そして届いた答えは、
黒を脱がせるのではない。
黒を救済対象にするのでもない。
春麗が自分で選んで見せた黒を受け取り、見せない黒には触れない。
というものでした。
一言でまとめるなら、
黒ドレス特化春麗は、黒を救ってほしかったのではない。
黒を選んだ自分ごと、境界を守って受け取ってほしかった。
だから九十九点。
そして、大満足だったと思います。