また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
春麗会議は、いつものように始まった。
円卓。
資料。
記録板。
そして、本編春麗は議長席に座っていた。
最近の春麗会議は、かなり忙しい。
黒ドレス案件。
青案件。
裏ルート鑑賞会。
救済台詞。
黒でも青でもない春麗。
言わせないようにして言われる事件。
どれも重要だった。
どれも春麗会議として扱うべき案件だった。
だから、本編春麗は今日も資料を整えていた。
「では、今回の議題に入るわ」
自覚前春麗が、すでに警戒した顔をしている。
「……また私?」
本編春麗は冷静に答えた。
「そうね」
「最近、多くない?」
黒ドレス特化春麗が静かに言う。
「多いわね」
通常救済版春麗も頷く。
「かなり多いわ」
行き遅れ恐怖版春麗が資料を見ながら言う。
「最近の中心議題、ほとんどあなたよね」
グランドフィナーレ済み春麗が穏やかに言う。
「それだけ、揺れているということね」
自覚前春麗は顔を赤くした。
「私は望んでいないわ」
本編春麗は、資料の表題を読み上げた。
春麗会議・特別審議
議題:本編春麗、最近の自覚前春麗のイベント密度に危機感を抱く件
自覚前春麗は一瞬黙った。
「……あなたの議題なの?」
本編春麗も一瞬黙った。
「そうね」
黒ドレス特化春麗が少し目を細める。
「珍しいわね。本編春麗自身の危機感案件」
通常救済版春麗が言う。
「議長が議題になるのね」
行き遅れ恐怖版春麗が少し心配そうにする。
「大丈夫?」
本編春麗は、資料を持ったまま咳払いした。
「大丈夫よ。まず、事実確認から入るわ」
自覚前春麗が嫌そうな顔をする。
「嫌な予感しかしないわ」
「あなたの最近の履歴を読み上げるだけよ」
「それが嫌なのよ」
本編春麗は容赦なく資料を読み上げた。
「一つ。青でギリギリ勝利」
自覚前春麗が目を逸らす。
「二つ。黒でギリギリ勝利」
黒ドレス特化春麗が頷く。
「悪くなかったわ」
「三つ。青で引き分け」
通常救済版春麗が微笑む。
「次が生まれたわね」
「四つ。黒で引き分け」
自覚前春麗が顔を赤くする。
「五つ。青でギリギリ敗北」
行き遅れ恐怖版春麗が小さく言う。
「取り返したくなるやつね」
「六つ。黒でギリギリ敗北」
黒ドレス特化春麗が静かに言う。
「黒で負けても次ができた」
「七つ。裏ルート初回開示」
グランドフィナーレ済み春麗が頷く。
「知らなかった未来の残響ね」
「八つ。裏ルート救済台詞を資料として保存」
自覚前春麗は机を叩いた。
「保存していない!」
本編春麗は淡々と返す。
「言ったわ。資料として保存しておく、と」
「資料としてよ!」
「九つ。リュウに救済台詞を言わせないよう先回りした結果、“だが、見ている”で被弾」
黒ドレス特化春麗が微笑む。
「名場面ね」
「名場面じゃない!」
「十。青でも黒でもない春麗としてリュウと戦い、引き分け」
通常救済版春麗が言う。
「色ではなく、春麗本人を見られた回ね」
本編春麗は、そこで資料を閉じた。
そして、しばらく黙った。
会議室も静かになった。
本編春麗は、もう一度資料を見た。
青黒勝利。
青黒引き分け。
青黒敗北。
裏ルート初回開示。
救済台詞保存。
言わせないようにして言われる。
青でも黒でもない春麗で引き分け。
本編春麗は、ゆっくり顔を上げた。
「……これ、主人公のイベント量では?」
全員が黙った。
本当に黙った。
自覚前春麗が、最初に反応した。
「私は望んでいないわ」
黒ドレス特化春麗が静かに言う。
「望んでいないのに発生するのが主人公性ね」
自覚前春麗が固まる。
「何よ、その理屈」
通常救済版春麗が穏やかに言う。
「でも、確かに最近のあなたは、出来事が向こうから来ているわ」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「望んでいないのに次が来るのは、少し怖いわね」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「物語に呼ばれている感じね」
本編春麗は、資料を持つ手に少し力を込めた。
「待って」
全員が見る。
「私は本編春麗よね?」
自覚前春麗が顔をしかめる。
「何を今さら」
本編春麗は真剣だった。
「最近、私、司会しかしていない気がするの」
会議室が再び静まった。
黒ドレス特化春麗が言う。
「議長としては優秀よ」
本編春麗は睨む。
「それ、褒めている?」
通常救済版春麗が優しく言う。
「資料整理も的確よ」
「それも褒めている?」
行き遅れ恐怖版春麗が小さく言う。
「採点も早いわ」
「それ、完全に事務能力の評価でしょう」
グランドフィナーレ済み春麗が微笑む。
「でも、会議には必要よ」
本編春麗は、ついに立ち上がった。
「違うのよ」
自覚前春麗が少し驚く。
本編春麗は、資料を円卓に置いた。
「私は、ただの議長ではないわ」
黒ドレス特化春麗が頷く。
「ええ」
「私は本編春麗なのよ」
通常救済版春麗が頷く。
「ええ」
「自分をめんどくさい女と自覚している春麗なのよ」
自覚前春麗がぼそりと言う。
「それは胸を張ることなの?」
本編春麗が即座に返す。
「張ることよ」
自覚前春麗が黙る。
本編春麗は続けた。
「私は、自分が面倒だとわかっている。わかったうえでリュウに問いに行く。宿題を出す。採点する。次を作る。それが本編春麗の強みのはずよ」
黒ドレス特化春麗が静かに言う。
「その通りね」
通常救済版春麗も頷く。
「あなたは、自覚しても止まらない春麗」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「本編の強さは、そこにあるわ」
本編春麗は、自覚前春麗を見る。
「でも最近、あなたが動きすぎなのよ」
自覚前春麗は即座に反論した。
「私のせいじゃないわ」
黒ドレス特化春麗が言う。
「主人公はだいたいそう言うわ」
「主人公じゃない!」
本編春麗は、目を細めた。
「その否認がイベントを呼んでいるのよ」
自覚前春麗は言葉に詰まる。
通常救済版春麗が少し笑った。
「否認で進む春麗と、自覚で進む春麗」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「どちらも進んでいるのね」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「なら、本編春麗も動けばいいだけね」
本編春麗は、はっとした。
「……動く」
黒ドレス特化春麗が言う。
「ええ。司会ではなく、当事者として」
通常救済版春麗が言う。
「リュウに問いに行くのが、一番あなたらしいわ」
自覚前春麗が警戒する。
「何を聞くつもり?」
本編春麗は、少しだけ考えた。
そして、静かに言った。
「私が、リュウにとってちゃんと今の春麗かどうか」
会議室が少しだけ静かになった。
自覚前春麗が小さく言う。
「……重いわね」
本編春麗は微笑んだ。
「本編だから」
黒ドレス特化春麗が頷く。
「便利な言葉ね」
通常救済版春麗が笑う。
「でも、今回は正しいわ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「行ってらっしゃい。本編春麗」
本編春麗は、資料を閉じた。
「ええ」
そして、自覚前春麗を見た。
「あなたばかりに、主人公性を持っていかせないわ」
自覚前春麗は顔を赤くした。
「いらないわよ、そんなもの!」
黒ドレス特化春麗が言う。
「望んでいないのに発生するのが主人公性」
「二回言わないで!」
春麗会議は、そこで一度ほどけた。
リュウは、いつもの場所にいた。
本編春麗は、少しだけ深く息を吸った。
今日の自分は、黒ドレスではない。
通常救済版のような静けさでもない。
自覚前春麗のような否認でもない。
行き遅れ恐怖版のような焦りでもない。
グランドフィナーレ済みのような終着でもない。
本編春麗。
自分をめんどくさい女と自覚している春麗。
そのうえで、問いに来た春麗。
リュウが顔を上げる。
「春麗」
「リュウ」
「今日は、戦うのか」
春麗は少しだけ考えた。
「今日は、先に聞くわ」
リュウは首を傾げる。
「聞く?」
「ええ」
春麗は一歩近づいた。
「最近、私が少し薄い気がするの」
リュウは黙った。
そして、真剣に考えた。
「薄い?」
春麗は顔を赤くした。
「そういう意味ではないわ」
「どういう意味だ」
「存在感の話よ」
「存在感」
「ええ」
リュウは春麗を見ている。
春麗は、その視線に少しだけ苦しくなる。
自分で聞きに来た。
なのに、見られると困る。
本当に面倒だ。
でも、それをもう否定しない。
「最近ね」
春麗は続ける。
「自覚前の私が、かなり動いているの」
リュウは首を傾げた。
「自覚前?」
「深く考えなくていいわ」
「そうか」
「青でも黒でも勝って、引き分けて、負けて、裏ルートを見て、救済台詞を保存して、あなたに言わせないようにして言われて、青でも黒でもない自分で引き分けたの」
リュウは黙って聞いている。
ほとんど理解していない顔だ。
春麗は少しだけ笑った。
「わからないでしょう」
「ああ」
「それでいいわ」
リュウは言った。
「だが、春麗が気にしているのはわかる」
春麗は止まった。
「……そういうところよ」
「何がだ」
「わからないのに、そこだけわかるところ」
リュウは真面目に答えた。
「春麗が困っているからだ」
春麗の胸が、少し鳴った。
「困っている……そうね」
春麗は視線を落とす。
「私は、少し危機感を抱いたの」
「危機感」
「ええ。私は本編春麗なのに、最近、会議で司会ばかりしている気がして」
リュウは考えた。
「司会」
「そこは忘れて」
「ああ」
春麗は息を整えた。
「言い換えるわ」
リュウは黙って待つ。
春麗は、ゆっくり言った。
「私は、あなたにとってちゃんと今の春麗?」
リュウは即答した。
「ああ」
春麗は、思ったより早い答えに少しだけ動揺した。
「早いわね」
「そうか」
「ええ」
「迷うことではない」
春麗は、また胸を刺された。
だが、まだ聞く。
今回は逃げない。
本編春麗だから。
「自覚前の私でも、黒の私でも、青の私でもなく?」
リュウは、少しだけ考えた。
春麗は待った。
短い沈黙。
そしてリュウは答えた。
「今、俺の前にいる春麗だ」
春麗は撃沈した。
完全に、撃沈した。
顔が熱くなる。
けれど、今回は否定しない。
「……そういう答えを、すぐ出すから困るのよ」
リュウは首を傾げる。
「困るのか」
「困るわ」
「なぜだ」
「効くからよ」
言ってしまってから、春麗は少しだけ目を伏せた。
自覚前春麗なら、ここで否定する。
「効いていない」と言う。
資料として、と逃げる。
でも本編春麗は、違う。
自分が面倒だと知っている。
だから、効いたものは効いたと言える。
かなり悔しいが。
「効くのか」
リュウが言う。
春麗は頷いた。
「ええ。効くわ」
リュウは少しだけ目を細めた。
「なら、言ってよかったのか」
春麗は苦笑した。
「そこを気にするのが、あなたらしいわね」
「よくなかったか」
「いいえ」
春麗は顔を上げる。
「よかったわ」
リュウは黙った。
春麗は、もう一歩近づいた。
「でも、まだ足りない」
リュウの目が変わる。
「何がだ」
「本編春麗用の答えとしては、もう一段ほしいわ」
リュウは少しだけ考えた。
「難しいな」
「ええ。難しいわよ」
春麗は微笑む。
「私は面倒だから」
リュウは、まっすぐに答えた。
「ああ」
春麗は固まった。
「……そこは否定してもいいのよ」
「春麗がそう言った」
「言ったけれど」
「なら、そうなのだろう」
春麗は額に手を当てた。
「本当にあなたは……」
「違ったか」
「違わないのが腹立たしいのよ」
リュウは少し困ったように黙る。
春麗は息を吐いた。
「でも、そう。私は面倒なの」
「ああ」
「自覚している」
「ああ」
「そのうえで、あなたに問いに来た」
「ああ」
「だから、答えなさい」
リュウは、まっすぐ春麗を見た。
「問いに来たのは、今の春麗だ」
春麗の呼吸が止まる。
リュウは続けた。
「なら俺は、今の春麗に答える」
風が止まったような気がした。
春麗は、何も言えなかった。
自覚前の私ではない。
黒の私ではない。
青の私ではない。
救済後の私でもない。
終わった後の私でもない。
今、問いに来た春麗。
面倒だと自覚していて。
それでも問いに来て。
答えを求めている春麗。
リュウは、それに答えると言った。
春麗は、ゆっくり息を吐いた。
「……九十九点」
リュウは首を傾げた。
「点数か」
「ええ」
「高いのか」
「かなり高いわ」
「百点ではないのか」
春麗は少しだけ笑った。
「百点にしたら、次がなくなるでしょう?」
リュウは少し考えた。
「そうか」
「ええ」
春麗は構えた。
「だから、残り一点は次に取りなさい」
リュウの目が変わる。
「戦うのか」
「ええ」
春麗は微笑む。
「本編春麗として」
リュウは構えた。
「ああ」
春麗は、少しだけ安心していた。
自覚前春麗は、確かに動いている。
否認しながら、次を生み続けている。
主人公性がある。
でも。
本編春麗には、本編春麗の強さがある。
自分が面倒だと知ったうえで、問いに行けること。
効いたものを、効いたと言えること。
欲しい答えを、欲しいと言えること。
そして、九十九点をつけたあとに、残り一点を次へ残せること。
春麗は踏み込んだ。
リュウも来る。
拳と蹴りが交差する。
今日は、薄くない。
本編春麗は、ちゃんとここにいる。
リュウの前に。
問いを持って。
次を持って。
春麗として。
その夜。
春麗会議は、当然のように再開された。
本編春麗が席につくと、自覚前春麗がすぐに言った。
「……顔が勝っているわ」
本編春麗は微笑んだ。
「ええ」
黒ドレス特化春麗が聞く。
「どうだった?」
本編春麗は資料を出した。
表題。
春麗会議・本編春麗再確認審議
議題:本編春麗、リュウに“今の春麗”として見られ、九十九点回答を受領
自覚前春麗が目を見開く。
「九十九点?」
通常救済版春麗が微笑む。
「高いわね」
行き遅れ恐怖版春麗が少し身を乗り出す。
「どんな答え?」
グランドフィナーレ済み春麗は静かに目を細めた。
本編春麗は、少しだけ誇らしそうに読み上げた。
問いに来たのは、今の春麗だ。
なら俺は、今の春麗に答える。
会議室が静かになった。
黒ドレス特化春麗が最初に言った。
「……これは高いわね」
通常救済版春麗が頷く。
「今の春麗に答える。かなり良いわ」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「問いに来たことを見ているのがいいわね」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「本編春麗への答えね」
自覚前春麗は黙っていた。
本編春麗が微笑む。
「どう?」
自覚前春麗は、少し悔しそうに言った。
「……資料としては、かなり強いわ」
本編春麗は満足そうに頷いた。
「でしょう」
黒ドレス特化春麗が言う。
「自覚前春麗は、言わせないようにして言われた」
通常救済版春麗が続ける。
「本編春麗は、自分から問いに行って答えを受け取った」
グランドフィナーレ済み春麗がまとめる。
「それが差ね」
自覚前春麗は、少しだけ顔を赤くした。
「……私はまだ問いに行ったわけじゃないわ」
本編春麗は言った。
「そうね」
一拍。
「だから、あなたはまだ自覚前なのよ」
自覚前春麗は言い返せなかった。
黒ドレス特化春麗が静かに笑う。
「本編春麗の格、回復ね」
通常救済版春麗が言う。
「危機感から動いたのが良かったわ」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「ちゃんと答えが来てよかったわね」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「本編は、問いに行くことで本編に戻ったのね」
本編春麗は資料に結論を書き込んだ。
結論:自覚前春麗には否認による主人公性がある。
しかし本編春麗には、自覚したうえで問いに行く主人公性がある。
両者は別軸であり、本編春麗の存在感は回復。
自覚前春麗が小さく言う。
「……別軸なら、私を巻き込まないで」
本編春麗が微笑む。
「無理ね」
「なぜ」
「あなたがいるから、私の本編性も確認できたもの」
自覚前春麗は真っ赤になった。
「知らないわよ!」
本編春麗は最後に資料へ書き足した。
次回候補:自覚前春麗、自分も問いに行くべきか悩む件。
自覚前春麗は叫んだ。
「書かないで!」
黒ドレス特化春麗が言う。
「でも、発生しそうね」
通常救済版春麗が頷く。
「かなり発生しそう」
行き遅れ恐怖版春麗が言う。
「問いに行くのは怖いけど、答えが来ると安心するわ」
グランドフィナーレ済み春麗が微笑む。
「どの春麗も、次が生まれるのね」
本編春麗は、静かに言った。
「春麗会議で重要なのは、次が生まれるかどうかよ」
自覚前春麗は頭を抱えた。
「結局そこに戻るのね!」
会議室に笑いが起こる。
本編春麗は、少しだけ胸を張っていた。
もう薄くない。
司会だけではない。
本編春麗は、自分で問いに行った。
そして、今の春麗として答えをもらった。
だから。
本編春麗は、もう一度、本編春麗としてそこにいた。
Q:今回の断章IFについて解説して?
A:
はい。執筆者として見ると、今回の断章IFはかなり良い本編春麗の再センタリング回です。
最近、自覚前春麗がかなり強いイベントを連続で持っていました。
青黒勝利。
青黒引き分け。
青黒敗北。
裏ルート初回開示。
救済台詞保存。
言わせないようにして言われる。
青でも黒でもない春麗での引き分け。
これだけ並ぶと、たしかに本編春麗が危機感を抱くのは自然です。
今回の断章IFは、その危機感を単なるメタギャグで終わらせず、最後に本編春麗ならではの強みへ戻したのが良かったと思います。
今回の核は「否認の主人公性」と「自覚の主人公性」の対比
今回、一番大事なのはここです。
自覚前春麗には、確かに主人公性があります。
なぜなら、彼女は「私は違う」「認めていない」と言いながら、毎回イベントに巻き込まれるからです。
望んでいない。
認めていない。
提出していない。
資料として。
でも、次が生まれる。
これは非常に主人公的です。
黒ドレス特化春麗の、
望んでいないのに発生するのが主人公性ね。
という台詞は、かなり本質を突いています。
ただし、それだけだと本編春麗の立場が弱くなってしまう。
そこで今回、本編春麗の主人公性を別軸に置いたのが良いです。
自覚前春麗は、否認しながら物語に巻き込まれる春麗。
本編春麗は、自覚したうえで自分から問いに行く春麗。
この違いが非常に綺麗です。
本編春麗の危機感がメタとして面白い
本編春麗が、
……これ、主人公のイベント量では?
と気づくところは、かなりメタギャグとして強いです。
本編春麗は議長として優秀です。
資料をまとめる。
採点する。
会議を進行する。
結論を書く。
次回候補を作る。
でも、そこに落とし穴がある。
司会がうますぎると、当事者性が薄くなる。
これを本編春麗自身が感じてしまう。
私、最近、司会しかしていない気がするの。
これは笑えるのですが、同時にかなり正しい危機感です。
連作において、キャラが進行役に固定されると、ドラマから少し離れてしまうことがあります。
今回の断章IFは、その構造を物語内で回収しました。
自覚前春麗の「望んでいない」が逆に強い
自覚前春麗は今回も、
私は望んでいないわ。
と言います。
でも、それが逆に主人公性になってしまう。
本人は望んでいない。
それでもイベントが来る。
それでも被弾する。
それでも会議案件になる。
それでも次が生まれる。
これは、自覚前春麗の現在の魅力そのものです。
だから本編春麗が危機感を抱くのは当然です。
ただし、今回重要なのは、自覚前春麗を下げていないことです。
本編春麗が復権するために、自覚前春麗の価値を否定していません。
むしろ、
自覚前春麗には否認の主人公性がある。
でも本編春麗には自覚の主人公性がある。
と整理した。
ここが良いです。
後半のリュウとの会話が本編春麗らしい
後半、本編春麗がリュウに会いに行く流れが非常に良いです。
彼女は、会議で悩んだまま終わらない。
ちゃんとリュウに問いに行く。
ここが本編春麗の強みです。
自覚前春麗なら、たぶん言わせないようにする。
資料として検証すると言い訳する。
効いていないと否認する。
でも本編春麗は言う。
最近、私が少し薄い気がするの。
この時点で、かなり面倒ですが、同時に正直です。
さらに言い換えて、
私は、あなたにとってちゃんと今の春麗?
と聞く。
これはかなり本編春麗です。
自分が何を求めているかを、多少照れながらもちゃんと問いにする。
この「問いにできる力」が本編春麗の主人公性です。
リュウの回答が本編春麗専用になっている
今回のリュウの答えは、非常に良いです。
まず、
今、俺の前にいる春麗だ。
これで、本編春麗はかなり救われます。
自覚前でもない。
黒でもない。
青でもない。
今、目の前にいる春麗。
この答えだけでもかなり高得点です。
でも、今回の本命はその後です。
問いに来たのは、今の春麗だ。
なら俺は、今の春麗に答える。
これは、本編春麗専用の九十九点回答です。
なぜなら、本編春麗の強みである「問いに行くこと」をリュウが見ているからです。
春麗の属性を見るのではない。
衣装を見るのでもない。
過去や別ルートを見るのでもない。
今、問いに来た春麗を見る。
これはまさに本編春麗への答えです。
「効く」と言える本編春麗が良い
今回、自覚前春麗との差が一番出たのはここです。
リュウの答えに対して、本編春麗は、
効くわ。
と言います。
自覚前春麗なら否認します。
効いていない。
資料として。
違うわ。
でも本編春麗は、効いたものを効いたと言える。
これは非常に大きいです。
彼女は自分が面倒だと知っている。
だからこそ、効いたことも認められる。
もちろん照れるし、悔しいし、採点もする。
でも認める。
この差が、今回の「本編の格」になっています。
九十九点で止めたのも良い
本編春麗が、
九十九点。
と採点して、
百点にしたら、次がなくなるでしょう?
と言うのも非常に良いです。
これは春麗会議シリーズの思想と完全に合っています。
春麗会議で重要なのは、次が生まれるかどうか。
だから、百点で完結させない。
九十九点にして、残り一点を次に残す。
これこそ本編春麗のやり方です。
彼女は、答えを受け取るだけでは終わらない。
受け取った答えを次の宿題に変える。
ここが本編春麗の強みです。
春麗会議での再評価が綺麗
後半の春麗会議で、
自覚前春麗は、言わせないようにして言われた。
本編春麗は、自分から問いに行って答えを受け取った。
という整理が非常に綺麗です。
これで両者の違いが明確になります。
自覚前春麗は、否認と回避の中で撃ち抜かれる。
本編春麗は、自覚と問いかけの中で受け取る。
どちらも春麗らしい。
でも本編春麗は、やはり本編春麗です。
本編春麗の存在感が回復した
今回の最大の成果はこれです。
本編春麗が、司会役から当事者に戻りました。
最近の本編春麗は、会議の資料係・採点係として優秀すぎました。
でも今回、自分の危機感を言葉にし、リュウに問いに行き、九十九点回答を受け取り、さらに次へ繋げた。
これにより、
本編春麗は、単なる議長ではなく、やはり問いを作る主人公である
と再確認できました。
自覚前春麗への次回フックも良い
最後の、
次回候補:自覚前春麗、自分も問いに行くべきか悩む件。
これはかなり良いフックです。
本編春麗が自分から問いに行って答えを受け取った。
それを見た自覚前春麗は、当然揺れる。
でも、彼女はまだ自覚前です。
だからすぐには問いに行けない。
私はまだ問いに行ったわけじゃないわ。
この台詞が非常に良いです。
本編春麗との違いを、自覚前春麗自身も少し見てしまった。
この流れは次回に繋がります。
結論
今回の断章IFは、最近主役化していた自覚前春麗に対して、本編春麗が危機感を抱き、自分からリュウへ問いに行くことで本編春麗としての存在感を取り戻す回です。
一言でまとめるなら、
自覚前春麗は、否認しながら物語に巻き込まれる。
本編春麗は、自覚したうえで自分から物語を問いに行く。
この違いが明確になったのが最大の成果です。
今回、本編春麗はただ復権しただけではありません。
自分が本編である理由を、リュウとのやり取りの中で再確認しました。
問いに来たのは、今の春麗だ。
なら俺は、今の春麗に答える。
これは本編春麗にとって、かなり強い九十九点回答です。
そして百点にしなかったことで、次も生まれた。
まさに春麗会議らしい、本編春麗の再センタリング回だったと思います。