また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※本編確定ではなく、断章IFです。


断章IF:本編春麗は、また戦ってくれと言われる前に逃げたい

 

 本編春麗は、試合の終わりが近いことを感じていた。

 

 拳が重い。

 

 呼吸が熱い。

 

 脚はまだ動く。

 

 けれど、もう終盤だ。

 

 リュウの拳が肩先をかすめる。

 

 春麗の蹴りがリュウの脇腹の前で止まる。

 

 寸止め。

 

 互いに一歩、距離を取る。

 

 静かな呼吸だけが、修行場に残った。

 

 勝敗で言えば、ほとんど引き分けだった。

 

 どちらも倒れていない。

 

 どちらも決定打を入れていない。

 

 けれど、どちらもわかっている。

 

 今日はここまで。

 

 春麗は、息を整えながらリュウを見た。

 

 リュウもまた、春麗を見ている。

 

 その目を見た瞬間、春麗は察した。

 

 来る。

 

 あの言葉が来る。

 

 リュウが、ほんの少し口を開く。

 

 いつものように。

 

 何気なく。

 

 真剣に。

 

 まっすぐに。

 

 また──

 

「言わないで」

 

 春麗は、先に遮った。

 

 リュウの言葉が止まる。

 

 風も止まったようだった。

 

 リュウは、少しだけ首を傾げる。

 

「言わない?」

 

「ええ」

 

 春麗は、呼吸を整えながら言った。

 

「今それを言われると、私はまた考えすぎるわ」

 

 リュウは黙っている。

 

 春麗は続けた。

 

「次はどう戦うのか。青で行くのか、黒で行くのか。勝ちに行くのか、引き分けを許すのか。あなたがどこまで届くのか。私がどこまで見せるのか」

 

 言いながら、自分で嫌になる。

 

 本当に面倒だ。

 

 たった一言で、ここまで考える。

 

 また戦ってくれ。

 

 それだけで、春麗の中では次が始まってしまう。

 

 宿題になる。

 採点になる。

 会議案件になる。

 夜に持ち越される。

 朝になっても残る。

 

 だから、今日は止めた。

 

 新しいタイトルになったのだ。

 

 また戦ってくれなんて言わないで。

 

 なら、最初の本編春麗として、それくらい言ってもいいはずだった。

 

 リュウは、しばらく春麗を見ていた。

 

 そして、静かに頷いた。

 

「なら、言わない」

 

 春麗は、少しだけ安心した。

 

「そう」

 

「言わない」

 

「ええ。それでいいわ」

 

 春麗は胸の奥で息を吐いた。

 

 止められた。

 

 今回は止められた。

 

 リュウの「また戦ってくれ」を未然に防いだ。

 

 これなら、次を考えすぎずに済む。

 

 今日の試合は今日の試合で終われる。

 

 たぶん。

 

 おそらく。

 

 少なくとも、いつもよりは。

 

 リュウは、まだ春麗を見ていた。

 

 春麗は少し警戒する。

 

「何?」

 

「言わない」

 

「ええ」

 

「だが」

 

 春麗の肩が跳ねた。

 

「だが、何?」

 

 リュウは、まっすぐに言った。

 

「俺はまた来る」

 

 春麗は撃沈した。

 

 完全に、撃沈した。

 

 言葉が出なかった。

 

 また戦ってくれ、ではない。

 

 確かに言っていない。

 

 約束でもない。

 

 要求でもない。

 

 依頼でもない。

 

 けれど、意味はほとんど同じだった。

 

 いや、むしろ悪い。

 

 また戦ってくれ、なら春麗は返事を選べる。

 

 受けるか。

 断るか。

 宿題にするか。

 採点するか。

 会議に提出するか。

 

 でも。

 

 俺はまた来る。

 

 これは、もう来る前提だ。

 

 春麗の返事を待たずに、次が発生している。

 

「……あなたね」

 

 リュウは首を傾げる。

 

「何だ」

 

「言わないでと言ったでしょう」

 

「言っていない」

 

「意味が同じなのよ」

 

 リュウは少し考えた。

 

「同じか」

 

「同じよ」

 

「そうか」

 

「納得しないで」

 

 リュウは黙る。

 

 春麗は、額に手を当てた。

 

「今の方が悪いわ」

 

「悪いのか」

 

「悪いわ」

 

「なぜだ」

 

「“また戦ってくれ”なら、まだ私が返事をする余地があるでしょう」

 

「ああ」

 

「でも“俺はまた来る”は、もう来るのよ」

 

「ああ」

 

「そこを認めないで!」

 

 リュウは真面目に答える。

 

「行くつもりだからな」

 

 春麗は、また撃沈した。

 

 真っ直ぐすぎる。

 

 逃げ道がない。

 

 こちらが言葉を止めたら、リュウは行動を残した。

 

 再戦要求を止めたら、再訪宣言になった。

 

 なんということだ。

 

「……本当に、あなたは」

 

「何だ」

 

「そういうところよ」

 

「そういうところか」

 

「ええ」

 

 春麗は小さく息を吐いた。

 

 顔が熱い。

 

 悔しい。

 

 でも、胸の奥は少しだけ安心している。

 

 それが一番腹立たしい。

 

 また来る。

 

 その言葉は、春麗の予定を乱す。

 

 でも同時に、明日を作る。

 

 次を作る。

 

 春麗は考えすぎる。

 

 けれど、考えられる明日がある。

 

 それは、困る。

 

 困るのに。

 

 困らないわけでもない。

 

 本当に面倒だ。

 

 春麗はリュウを睨んだ。

 

「リュウ」

 

「ああ」

 

「今のは、九十八点よ」

 

 リュウは少し驚いたように見えた。

 

「高いのか」

 

「高いわ」

 

「なら、よかったのか」

 

「よくないわ」

 

 リュウは黙った。

 

「高いのに、よくないのか」

 

「ええ」

 

「難しいな」

 

「難しいのよ」

 

 春麗は胸を張った。

 

「私は面倒だから」

 

 リュウは頷いた。

 

「ああ」

 

「そこは否定しなさい」

 

「以前、否定しなくていいと言われた気がする」

 

「言っていないわ」

 

「そうか」

 

「言っていないけど、言ったかもしれないわ」

 

 リュウはますます困った顔になった。

 

 春麗は、その顔を見て少し笑ってしまった。

 

「……今日はここまで」

 

「ああ」

 

「次のことは考えない」

 

「ああ」

 

「考えないから」

 

「ああ」

 

「本当に考えない」

 

 リュウは、少しだけ間を置いた。

 

「無理をしていないか」

 

 春麗は固まった。

 

 まただ。

 

 本当に、この男は。

 

「そういうところよ!」

 

 リュウは何が悪かったのかわからない顔をしている。

 

 春麗は背を向けた。

 

「帰るわ」

 

「ああ」

 

「追ってこなくていい」

 

「ああ」

 

「でも」

 

 リュウが顔を上げる。

 

 春麗は、振り返らずに言った。

 

「また来るなら、勝手に来なさい」

 

 言ってしまった。

 

 言ってから、春麗は完全に固まった。

 

 駄目だ。

 

 自分で許可した。

 

 リュウは静かに答えた。

 

「ああ」

 

 その「ああ」が、やけに嬉しそうに聞こえた。

 

 春麗は振り返らなかった。

 

 振り返ったら、負ける気がした。

 

 試合は引き分け。

 

 言葉は敗北。

 

 次回生成は最大。

 

 最悪だ。

 

 でも、春麗の足取りは、少しだけ軽かった。

 

 その夜。

 

 春麗会議は、当然のように開かれた。

 

 本編春麗は目を開いた瞬間、すでに円卓の中央に資料が置かれていることに気づいた。

 

 表題。

 

 春麗会議・新タイトル初回本編案件

 議題:本編春麗、“また戦ってくれ”を言わせる前に遮るも、“俺はまた来る”で撃沈した件

 

 本編春麗は、椅子に座る前に言った。

 

「提出していないわ」

 

 自覚前春麗が即座に返した。

 

「あなたもそれを言うのね」

 

 本編春麗は黙った。

 

 黒ドレス特化春麗が腕を組んでいる。

 

 通常救済版春麗は、すでにお茶を置いている。

 

 行き遅れ恐怖版春麗は、少し安心したような、少し心配そうな顔をしていた。

 

 グランドフィナーレ済み春麗は、穏やかに微笑んでいた。

 

 自覚前春麗は、少しだけ得意げに言う。

 

「本編春麗でも、提出していない案件が提出されるのね」

 

 本編春麗は、やや悔しそうに言った。

 

「……春麗会議だから」

 

 黒ドレス特化春麗が静かに言う。

 

「便利な言葉ね」

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「でも、今回は本当に新タイトル初回にふさわしいわ」

 

 本編春麗は資料を見た。

 

「ふさわしくないわよ」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「でも、“また来る”は……いいわね」

 

 本編春麗はそちらを見る。

 

「あなたはそうでしょうね」

 

「ええ。来ると言われるのは、安心するもの」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「でも、本編春麗には困るのね」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「困るわ。だって、また来るのよ」

 

 自覚前春麗が首を傾げる。

 

「来るならいいじゃない」

 

 本編春麗は即座に言った。

 

「よくないわ」

 

「どうして」

 

「考えるからよ」

 

 黒ドレス特化春麗が微笑む。

 

「何を?」

 

 本編春麗は指を折り始めた。

 

「次は青か黒か。戦うのか戦わないのか。勝つのか負けるのか。引き分けるのか。宿題を出すべきか。採点項目を増やすべきか。新タイトル初回としてどう処理するべきか」

 

 自覚前春麗が呆れたように言う。

 

「面倒すぎるでしょう」

 

 本編春麗は即答した。

 

「ええ」

 

 自覚前春麗は固まった。

 

 本編春麗は胸を張る。

 

「私は、めんどくさい女と自覚する春麗だから」

 

 黒ドレス特化春麗が満足そうに頷く。

 

「強いわね」

 

 通常救済版春麗も頷く。

 

「自覚済みの強さね」

 

 自覚前春麗は悔しそうにする。

 

「……認めたら強くなるの、ずるいわ」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が微笑む。

 

「認めるには、時間がかかるものよ」

 

 本編春麗は、資料を手に取った。

 

「では、審議しましょう」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「結局、自分で進行するのね」

 

「本編だから」

 

「便利すぎるわ」

 

 本編春麗は読み上げた。

 

 発言一。リュウが“また──”と言いかけたところで、本編春麗が遮断。

 

 黒ドレス特化春麗が言う。

 

「新タイトルを意識しすぎね」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「でも、言われたら考えすぎるという自己申告は良かったわ」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「言葉が来る前に怖くなるのは、少しわかるわ」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「言葉ではなく、次が来る気配に反応しているのね」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「その通りよ」

 

 自覚前春麗がじっと見る。

 

「あなた、自分の案件だと素直ね」

 

「自覚しているもの」

 

「強い……」

 

 本編春麗は次を読む。

 

 発言二。リュウ、“なら、言わない”。

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「一度は守っているのね」

 

 黒ドレス特化春麗が頷く。

 

「リュウらしいわ。言うなと言われたから言わない」

 

 本編春麗は、苦い顔をした。

 

「そこまでは良かったのよ」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が少し身を乗り出す。

 

「問題は次ね」

 

 本編春麗は読み上げる。

 

 発言三。リュウ、“だが、俺はまた来る”。

 

 会議室が静まった。

 

 そして、黒ドレス特化春麗が言った。

 

「九十九点」

 

 本編春麗は即座に反論した。

 

「高すぎるわ」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「私は九十八点」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「九十九点。来るって言ってくれるのは強いわ」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「九十八点。言葉を避けて、継続を残した」

 

 自覚前春麗が少し悔しそうに言う。

 

「……九十七点。資料として」

 

 本編春麗は黙った。

 

 全員が見る。

 

 黒ドレス特化春麗が言う。

 

「本人評価は?」

 

 本編春麗は、少しだけ視線を逸らした。

 

「……九十八点」

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「高いわね」

 

「高いわよ」

 

「でも困るのね」

 

「困るわよ」

 

 自覚前春麗が小さく言った。

 

「高いのに困るの、面倒ね」

 

 本編春麗は堂々と答えた。

 

「今日もね」

 

 自覚前春麗は、また固まった。

 

 本編春麗は資料へ書き込む。

 

 本人評価:九十八点。

 理由:“また戦ってくれ”を封じたにもかかわらず、次回生成を避けられなかったため。

 

 黒ドレス特化春麗が言う。

 

「これは新タイトルの核心ね」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「言葉を止めても、次は止められない」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「でも、次が止まらないのは救いでもあるわ」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「言われなくても、物語は来る」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「つまり、逃げられないのね」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「ええ」

 

 一拍。

 

「でも、それが嫌なだけではないのよ」

 

 会議室が静かになった。

 

 本編春麗は、資料を見ながら続ける。

 

「また戦ってくれと言われたら困る。考えすぎるから。次を作ってしまうから。でも、言われなければ寂しい。そして、言われなくても“また来る”と言われたら、今度は安心してしまう」

 

 自覚前春麗が、ぽつりと言う。

 

「面倒ね」

 

「ええ」

 

 本編春麗は、逃げずに答えた。

 

「私は面倒なの」

 

 黒ドレス特化春麗が頷く。

 

「本編春麗ね」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「自覚して受け取る春麗」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「来ると言われて安心する春麗」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「次を恐れながら、次を待つ春麗」

 

 本編春麗は結論を書き込んだ。

 

 春麗会議・新タイトル初回本編案件 結論

 

 一、本編春麗は、“また戦ってくれ”を言われる前に遮断した。

 

 二、理由は、その言葉が次回生成・過剰思考・宿題化・会議案件化を誘発するためである。

 

 三、リュウは“なら、言わない”と受け入れたが、“だが、俺はまた来る”と続けた。

 

 四、これは“また戦ってくれ”の言語的回避でありながら、意味としては次回生成を最大化する回答である。

 

 五、本編春麗は撃沈したが、本人評価九十八点。

 

 六、新タイトル『また戦ってくれなんて言わないで ──春麗は今日もめんどくさい──』初回本編案件として、極めて妥当。

 

 自覚前春麗が顔をしかめる。

 

「六番、正式なの?」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「正式よ」

 

「恥ずかしくないの?」

 

「恥ずかしいわ」

 

「なら消せば?」

 

「消さない」

 

 黒ドレス特化春麗が微笑む。

 

「本編春麗ね」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「本編春麗だわ」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「かなり本編春麗ね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。

 

「今日も、ね」

 

 本編春麗は、新しい表紙を円卓の中央に置いた。

 

 また戦ってくれなんて言わないで

 ──春麗は今日もめんどくさい──

 

 表紙の文字が淡く光った。

 

 本編春麗は、それを見ながら言った。

 

「言わないで、と言った」

 

 黒ドレス特化春麗が頷く。

 

「ええ」

 

「でも、また来ると言われた」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「ええ」

 

「困った」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が頷く。

 

「ええ」

 

「安心もした」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が頷く。

 

「ええ」

 

 本編春麗は、小さく笑った。

 

「新タイトル初回としては、十分ね」

 

 自覚前春麗が小声で言う。

 

「……強いわね。認めると」

 

 本編春麗は自覚前春麗を見た。

 

「あなたも、いずれわかるわ」

 

「わからない!」

 

「まだ、ね」

 

「拾わないで!」

 

 会議室に笑いが起こる。

 

 本編春麗は、最後に資料へ書き足した。

 

 次回候補:本編春麗、“また来る”に対する返答を考えすぎる件。

 

 自覚前春麗が叫ぶ。

 

「もう考えているじゃない!」

 

 本編春麗は、少しだけ目を逸らした。

 

「……資料として」

 

 会議室が止まった。

 

 そして、全員が笑った。

 

 黒ドレス特化春麗が言う。

 

「本編春麗まで資料としてと言い始めたわ」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「自覚前春麗の影響ね」

 

 自覚前春麗が叫ぶ。

 

「私のせいじゃない!」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「でも、次があるのね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が締める。

 

「言葉を止めても、次は止まらない。だから今日も、春麗はめんどくさい」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「ええ」

 

 夢が、淡くほどけていく。

 

 最後に、リュウの声だけが残った。

 

 俺はまた来る。

 

 春麗は、夢の中で顔を赤くした。

 

「……だから、そういうところよ」

 

 朝。

 

 本編春麗は目を覚ました。

 

 胸の奥に、まだ昨日の言葉が残っている。

 

 俺はまた来る。

 

 春麗は布団の中で顔を覆った。

 

「……言わせなかったのに」

 

 また戦ってくれ、とは言わせなかった。

 

 止めた。

 

 遮った。

 

 成功した。

 

 なのに、次は残った。

 

 むしろ、もっと強く残った。

 

 俺はまた来る。

 

 春麗は小さく息を吐く。

 

「来るのね」

 

 言葉にすると、胸が少しだけ熱くなる。

 

 困る。

 

 本当に困る。

 

 次のことを考えてしまう。

 

 青か。

 黒か。

 戦うのか。

 戦わないのか。

 勝つのか。

 引き分けるのか。

 負けるのか。

 宿題にするのか。

 採点するのか。

 

 そして、気づく。

 

 もう考えている。

 

 春麗は、ゆっくり顔を上げた。

 

「……最悪ね」

 

 けれど、その声は少しだけ柔らかかった。

 

 鏡の前に立つ。

 

 そこには、めんどくさい女と自覚している本編春麗がいる。

 

 春麗は鏡の中の自分を見て、静かに言った。

 

「また戦ってくれなんて言わないで」

 

 一拍。

 

「でも、また来るなら……勝手に来なさい」

 

 言ってから、春麗は顔を赤くした。

 

「……今日も、ね」

 

 その言葉は、もう否定ではなかった。

 

 新しいタイトルの、最初の朝だった。




Q:今回の断章IFについて解説して?

A:
はい。執筆者として見ると、今回の断章IFは、改題後のタイトルを初めて本編春麗自身が実践してしまう回です。

一言で言うなら、

春麗は「また戦ってくれ」という言葉を止めた。
でも、リュウの「俺はまた来る」によって、言葉ではなく“次そのもの”を止められないと知ってしまった。

という回です。

今回の核は「言葉は止められても、次は止められない」

今回、春麗はかなり賢く動いています。

リュウがいつものように、

また――

と言いかけた瞬間に、

言わないで。

と遮る。

これは新タイトル、

また戦ってくれなんて言わないで

を、そのまま作中で実行した行動です。

春麗はわかっているんです。

「また戦ってくれ」と言われると、自分は考えすぎる。
次の戦いを考える。
青か黒かを考える。
勝つか負けるか引き分けるかを考える。
宿題にする。
採点する。
春麗会議に提出する。

つまり、「また戦ってくれ」は、春麗にとって単なる再戦要求ではなく、次回生成スイッチになっています。

だから止めた。

ここまでは春麗の勝ちです。

でもリュウは、

なら、言わない。

と受け入れたうえで、

だが、俺はまた来る。

と言う。

ここで春麗が撃沈する。

この構造が非常に良いです。

「また来る」は「また戦ってくれ」より厄介

春麗が作中で言っている通り、

また戦ってくれ

なら、まだ返事の余地があります。

受ける。
断る。
保留する。
宿題にする。
採点する。

春麗が処理できます。

でも、

俺はまた来る

は違います。

リュウ側で、すでに次が発生している。

春麗の許可を求めていない。
けれど無理強いでもない。
ただ、来る。

この真っ直ぐさが、春麗には刺さります。

「また戦ってくれ」という言葉を封じたのに、次が残る。
むしろ、次が強く残る。

これは改題後の本編春麗にとって、非常に象徴的な初回案件です。

本編春麗らしい「自覚済みの面倒さ」が出ている

今回、自覚前春麗との違いがかなり出ています。

自覚前春麗なら、おそらくこう言います。

効いていない。
資料として。
私は違う。

でも本編春麗は違います。

困るわ。
高いわ。
私は面倒だから。

と、かなり認めています。

もちろん照れます。
怒ります。
「そこは否定しなさい」と言います。
でも最終的には、自分が面倒であることを否認しない。

ここが本編春麗の強みです。

彼女は「面倒じゃない」と言い張るのではなく、

面倒だとわかったうえで、なおリュウに向かう春麗

になっています。

だから新タイトルの主人公としてふさわしい。

「高いのに、よくない」が春麗らしい

リュウの、

俺はまた来る。

に対して、春麗は九十八点をつけます。

でも、

高いのに、よくないのか。

とリュウに言われる。

ここがかなり本編春麗です。

普通なら、高得点なら嬉しいはずです。

でも春麗の場合、

高得点だからこそ困る。
効くから困る。
次を作られるから困る。
安心してしまうから困る。

この矛盾が本編春麗の魅力です。

しかも本人はそれを理解している。

だから、

難しいのよ。
私は面倒だから。

と言える。

これは自覚済み春麗ならではです。

試合は引き分け、言葉は敗北、次回生成は最大

今回の構造はかなりきれいです。

試合結果としては引き分け。

どちらも倒れていない。
どちらも決定打を入れていない。
紙一重のライバル譚としては、きれいな終わり方です。

でも、その後の言葉では春麗が負ける。

「また戦ってくれ」を止めたのに、「俺はまた来る」で刺される。

そして最後に春麗自身が、

また来るなら、勝手に来なさい。

と言ってしまう。

ここで完全に次回生成が確定します。

つまり今回の結果は、

戦闘:引き分け
言葉:春麗敗北
次回生成:最大

です。

これは新タイトル初回として非常にふさわしいです。

春麗会議での評価も正しい

春麗会議の結論、

“また戦ってくれ”の言語的回避でありながら、意味としては次回生成を最大化する回答

これは今回の本質です。

春麗は言葉を回避した。

リュウはその回避を尊重した。

でも、意味としてはもっと強い形で次を残した。

だから会議評価が高い。

黒ドレス特化春麗が九十九点をつけるのも自然です。
通常救済版春麗が「言葉を止めても、次は止められない」と整理するのも自然です。
行き遅れ恐怖版春麗が「来ると言われるのは安心する」と反応するのも自然です。
グランドフィナーレ済み春麗が「言われなくても物語は来る」と見るのも自然です。

各春麗の役割がきれいに出ています。

「本編春麗まで資料としてと言い始めた」のが面白い

最後に本編春麗が、

次回候補:本編春麗、“また来る”に対する返答を考えすぎる件。

と書いたあと、

……資料として

と言ってしまう。

ここがかなり面白いです。

本来「資料として」は自覚前春麗の逃げ文句でした。

それを本編春麗が使ってしまった。

これは、自覚前春麗の影響を本編春麗も受けている、という春麗会議らしいメタ混線です。

しかも本編春麗は自覚済みなので、完全な逃げではなく、半分本気で資料化している。

この混ざり方が良いです。

朝の締めが新タイトル初回として強い

朝、春麗は目覚めて、

言わせなかったのに。

と思う。

そして、

来るのね。

と呟く。

ここが非常に良いです。

「また戦ってくれ」は止めた。
でも「また来る」は残った。

その言葉を思い出して、もう次のことを考えている。

青か。
黒か。
戦うのか。
戦わないのか。
勝つのか。
引き分けるのか。
負けるのか。
宿題にするのか。
採点するのか。

もう完全にタイトル通りです。

そして最後の、

また戦ってくれなんて言わないで。
でも、また来るなら……勝手に来なさい。
……今日も、ね。

ここで、新タイトルが本編春麗の朝の独白として定着しています。

これはかなりきれいな締めです。

結論

今回の断章IFは、改題後の本編春麗が、「また戦ってくれ」という言葉を封じようとして、リュウの「俺はまた来る」によって“次そのもの”を止められないと知る回です。

新タイトルの初回として、非常に直球です。

また戦ってくれなんて言わないで。
でも、また来るなら勝手に来なさい。
そして結局、今日も考えてしまう。

この流れが、そのまま

春麗は今日もめんどくさい

に接続しています。

一言でまとめるなら、

本編春麗は、リュウの再戦要求を止めた。
でも、リュウが来る未来までは止められなかった。
だから今日も、春麗はめんどくさい。
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