また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※これは本編時空とは無関係の妄想章IFです。



妄想章IF:自覚前春麗は、自分に甘い回が発生していないことに安心していた

 自覚前春麗は、最近少し安心していた。

 

 理由は明確だった。

 

 最近の春麗会議は、自分が中心ではなかった。

 

 本編春麗が新タイトルの主人公として再確認された。

 黒ドレス特化救済春麗が、甘くて重いご褒美をリュウに与えた。

 通常救済版春麗は青い武道服で戦わずに歩いた。

 行き遅れ恐怖版春麗は「今日も」に反応した。

 グランドフィナーレ済み春麗は、終わった後の視点で静かにまとめていた。

 

 つまり。

 

「……最近、私のメイン回ではないわ」

 

 自覚前春麗は、鏡の前で静かに頷いた。

 

 それは良いことだった。

 

 自分をめんどくさい女と認めたくない春麗にとって、メイン回とは危険なものだ。

 

 メイン回になると、だいたい何かが起きる。

 

 リュウが余計なことを言う。

 春麗が否認する。

 否認したはずなのに被弾する。

 春麗会議で資料化される。

 本編春麗に採点される。

 黒ドレス特化春麗に「被弾確認」と言われる。

 通常救済版春麗に穏やかに整理される。

 グランドフィナーレ済み春麗に俯瞰される。

 

 ろくなことがない。

 

 だから、自覚前春麗は安心していた。

 

「このまま、本編春麗と黒ドレス特化春麗に任せておけばいいのよ」

 

 本編春麗は、自覚済みだから耐性がある。

 

 黒ドレス特化春麗は、救済済みだから安定している。

 

 通常救済版春麗は、青でも黒でも受け取れる。

 

 自分はまだ、そこまで行っていない。

 

 だから今回は関係ない。

 

 そう思っていた。

 

 思っていたのに。

 

 その日の夕方、リュウと会ってしまった。

 

 リュウは、いつもの場所にいた。

 

 自覚前春麗は、少しだけ身構えた。

 

 今日は戦う予定ではない。

 

 青でもない。

 

 黒でもない。

 

 ただ、通りかかっただけ。

 

 本当に、ただ通りかかっただけだ。

 

 リュウが顔を上げる。

 

「春麗」

 

「リュウ」

 

「今日は戦うのか」

 

「戦わないわ」

 

 即答だった。

 

 リュウは少しだけ頷いた。

 

「そうか」

 

 自覚前春麗は、その反応に少しだけ安心した。

 

 よし。

 

 今日は戦わない。

 

 なら、勝敗もない。

 

 勝敗がなければ、次回生成もない。

 

 次回生成がなければ、春麗会議案件にもならない。

 

 完璧だ。

 

「では、私はこれで──」

 

 立ち去ろうとした時だった。

 

 リュウが言った。

 

「少し、休んでいくか」

 

 春麗は足を止めた。

 

「……休む?」

 

「ああ」

 

「なぜ」

 

「疲れているように見える」

 

 春麗は振り返った。

 

「疲れていないわ」

 

 リュウは、春麗を見ている。

 

「そうか」

 

「ええ」

 

「だが、少し顔が硬い」

 

 春麗は固まった。

 

「……顔?」

 

「ああ」

 

「見ないで」

 

「すまない」

 

 リュウは素直に目を少し逸らした。

 

 それがまた、春麗を困らせた。

 

 見られたら困る。

 

 でも、見ないようにされても困る。

 

 本当に厄介だ。

 

 いや、厄介なのはリュウの方で、自分ではない。

 

「私は平気よ」

 

「そうか」

 

「ええ」

 

「なら、座るだけでもいい」

 

 春麗は眉をひそめる。

 

「どうして座らせたいの」

 

 リュウは少し考えた。

 

「春麗が、無理をしている気がした」

 

 春麗は、言葉を失った。

 

 戦闘ではない。

 

 再戦要求でもない。

 

 黒でも青でもない。

 

 宿題でもない。

 

 ただ、休めと言われている。

 

 それだけなのに、なぜか効いた。

 

「……あなたね」

 

「何だ」

 

「そういうことを急に言わないで」

 

「急だったか」

 

「急よ」

 

「すまない」

 

「謝らないで」

 

「そうか」

 

 リュウは困ったように黙る。

 

 自覚前春麗は、なぜか立ち去れなくなった。

 

 本当に意味がわからない。

 

 戦闘なら対処できる。

 

 言葉の宿題なら反論できる。

 

 黒や青の話なら資料化できる。

 

 でも。

 

 ただ休んでいけと言われるのは、困る。

 

「……少しだけよ」

 

 春麗は言った。

 

「本当に少しだけ」

 

 リュウは頷いた。

 

「ああ」

 

「休むわけではないわ」

 

「ああ」

 

「確認よ」

 

「何の確認だ」

 

 春麗は詰まった。

 

「……休憩地点の安全確認よ」

 

 リュウは真面目に頷いた。

 

「そうか」

 

「そうよ」

 

 自覚前春麗は、近くの石段に腰を下ろした。

 

 リュウは少し離れて立っていた。

 

 近すぎない。

 

 遠すぎない。

 

 その距離がまた困る。

 

「座らないの?」

 

 春麗は思わず聞いた。

 

 リュウは答えた。

 

「春麗が休むなら、俺は立っている」

 

「どうして」

 

「何かあれば動ける」

 

 春麗は顔を赤くした。

 

「過保護よ」

 

「そうか」

 

「そうよ」

 

「なら、座る」

 

 リュウは少し離れた場所に座った。

 

 春麗は、余計に落ち着かなくなった。

 

 立っていられても困る。

 座られても困る。

 

 どうしてこうなるのか。

 

「……本当に、今日は何もしないわよ」

 

「ああ」

 

「戦わない」

 

「ああ」

 

「宿題も出さない」

 

「ああ」

 

「採点もしない」

 

 リュウは少しだけこちらを見る。

 

「採点は、しないのか」

 

 春麗は反応してしまった。

 

「何よ。してほしいの?」

 

「いや」

 

「なら言わないで」

 

「わかった」

 

 春麗は、ふっと息を吐いた。

 

 沈黙。

 

 風が通る。

 

 夕方の光が少しずつ薄くなっていく。

 

 その静けさが、妙に心地よかった。

 

 心地よいと思ってしまったことに、春麗は焦った。

 

「……これは休んでいるわけではないわ」

 

 リュウは言う。

 

「ああ」

 

「安全確認よ」

 

「ああ」

 

「それ以上でも以下でもない」

 

「ああ」

 

 リュウは否定しない。

 

 反論もしない。

 

 ただ受け取る。

 

 その受け取り方が、妙に甘い。

 

 黒ドレス特化春麗のような重さではない。

 

 通常救済版春麗のような安定でもない。

 

 本編春麗のような問いでもない。

 

 ただ、自覚前春麗が言い訳しているのを、否定せずに置いておく甘さ。

 

「……リュウ」

 

「何だ」

 

「あなた、私を甘やかしていない?」

 

 リュウは少し考えた。

 

「あまり考えていなかった」

 

「考えなさい」

 

「甘やかしているのか」

 

 春麗は自分で聞いておきながら、答えに困った。

 

「……違うわ」

 

「違うのか」

 

「ええ」

 

「なら、よかった」

 

「でも、違わないかもしれない」

 

 リュウは黙った。

 

 春麗は顔を覆いそうになった。

 

 自分で何を言っているのか。

 

「今のは忘れなさい」

 

「ああ」

 

「忘れた?」

 

「難しい」

 

「忘れなさい!」

 

 リュウは少しだけ困った顔をした。

 

 その顔を見て、春麗はまた少しだけ力が抜けた。

 

 本当に、今日はおかしい。

 

 戦っていないのに。

 

 何も起きていないのに。

 

 ただ座っているだけなのに。

 

 胸の奥が、少しずつ柔らかくなっていく。

 

 それが怖い。

 

「春麗」

 

「何」

 

「今日は、無理に戦わなくていい」

 

 春麗は息を止めた。

 

 リュウは続ける。

 

「無理に答えなくてもいい」

 

 春麗は動けなかった。

 

「無理に認めなくてもいい」

 

 その言葉で、春麗は完全に固まった。

 

 リュウは、春麗会議を知らない。

 

 否認部門代表など知らない。

 

 自分が何を認めていないのかも、たぶんわかっていない。

 

 なのに。

 

 なぜそこに届くのか。

 

 春麗は、かなり遅れて声を出した。

 

「……何を」

 

「何を?」

 

「何を、認めなくてもいいって言っているの」

 

 リュウは少し考えた。

 

「春麗が、まだ言いたくないことだ」

 

 春麗は目を逸らした。

 

 駄目だ。

 

 これは駄目だ。

 

 戦闘ではないのに、被弾している。

 

「……九十七点」

 

 リュウは首を傾げる。

 

「採点しないのではなかったか」

 

 春麗は顔を赤くした。

 

「今のは例外よ」

 

「そうか」

 

「ええ」

 

「高いのか」

 

「かなり高いわ」

 

「よかったのか」

 

「よくないわ」

 

 リュウは困った。

 

「難しいな」

 

「難しいのよ」

 

 春麗は膝の上で手を握る。

 

「私は、難しいの」

 

 言ってから、春麗は固まった。

 

 違う。

 

 今のは違う。

 

 めんどくさい、とは言っていない。

 

 難しいと言っただけ。

 

 似ているが違う。

 

「今のは違うわ」

 

 リュウは真面目に聞く。

 

「何がだ」

 

「何でもない!」

 

 リュウは頷いた。

 

「ああ」

 

 沈黙が戻る。

 

 でも、その沈黙は嫌ではなかった。

 

 春麗は、小さく息を吐いた。

 

「……少しだけ」

 

 リュウが見る。

 

「何だ」

 

「少しだけなら、休んでもいいわ」

 

 リュウは頷いた。

 

「ああ」

 

「でも、甘やかされているわけじゃない」

 

「ああ」

 

「私が自分で休むと決めたの」

 

「ああ」

 

「あなたは、たまたまそこにいるだけ」

 

 リュウは少しだけ考えた。

 

「なら、俺はここにいる」

 

 春麗はまた撃沈した。

 

「……そういうところよ」

 

「何がだ」

 

「何でもないわ」

 

 春麗は目を閉じた。

 

 少しだけ。

 

 本当に少しだけ。

 

 夕方の風が、頬を撫でた。

 

 リュウは隣にいる。

 

 近すぎず、遠すぎず。

 

 何も言わずに。

 

 ただ、いる。

 

 それだけで、春麗は少し休めた。

 

 認めたくはなかった。

 

 でも、休めた。

 

 その夜。

 

 春麗会議は、当然のように開かれた。

 

 自覚前春麗は、目を開いた瞬間に叫んだ。

 

「提出していない!」

 

 本編春麗は、すでに資料を持っていた。

 

「最近、あなたのメイン回がなかったことに安心していた件から提出済みよ」

 

「そこから!?」

 

 黒ドレス特化春麗が腕を組む。

 

「油断していたわね」

 

 通常救済版春麗が穏やかにお茶を置く。

 

「メイン回は、油断した時に来るものなのね」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が少し心配そうに言う。

 

「今回は、戦っていないのよね?」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が微笑む。

 

「だからこそ、逃げにくい回だったわ」

 

 自覚前春麗は円卓を叩いた。

 

「逃げにくいって何よ!」

 

 本編春麗は表題を読み上げた。

 

 春麗会議・否認部門甘やかされ疑惑審議

 議題:最近自分のメイン回がなく安心していた自覚前春麗、戦闘なしでリュウに甘やかされ、九十七点回答を出してしまった件

 

 自覚前春麗は真っ赤になった。

 

「甘やかされていない!」

 

 本編春麗は冷静に言う。

 

「では、検証するわ」

 

「検証しないで!」

 

 本編春麗は資料を読み上げる。

 

 少し、休んでいくか。

 疲れているように見える。

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「良い入り方ね」

 

 黒ドレス特化春麗が言う。

 

「黒の重さではなく、日常の甘さね」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「疲れているように見える、は少し安心するわ。見てくれている感じがする」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「戦う春麗ではなく、休む前の春麗を見ているのね」

 

 自覚前春麗は抵抗する。

 

「ただの観察よ!」

 

 本編春麗が即座に書く。

 

 本人主張:ただの観察。

 会議評価:甘やかしの初動。

 

「評価しないで!」

 

 次に本編春麗は読む。

 

 無理に戦わなくていい。

 無理に答えなくてもいい。

 無理に認めなくてもいい。

 

 会議室が静かになった。

 

 黒ドレス特化春麗が、少し目を細める。

 

「これは強いわね」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「かなり優しいわ」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「答えなくていい、は安心するわ」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「認めなくてもいい、が自覚前春麗に直撃している」

 

 自覚前春麗は、顔を赤くして叫ぶ。

 

「直撃していない!」

 

 本編春麗が見る。

 

「九十七点」

 

 自覚前春麗は止まった。

 

「……」

 

 本編春麗は、満足そうに資料へ書いた。

 

 本人採点:九十七点。

 

「書かないで!」

 

 黒ドレス特化春麗が言う。

 

「かなり高いわね」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「戦闘なしで九十七点は高いわ」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「安心系の高得点ね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「甘やかし耐性が低いのね」

 

 自覚前春麗は机を叩いた。

 

「低くない!」

 

 本編春麗は資料をめくる。

 

「では次」

 

 なら、俺はここにいる。

 

 自覚前春麗は、完全に黙った。

 

 本編春麗は静かに読み上げた。

 

「あなたが“私が自分で休むと決めた。あなたはたまたまそこにいるだけ”と言った後のリュウの回答よ」

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「良いわね」

 

 黒ドレス特化春麗が言う。

 

「踏み込まず、離れず、そこにいる」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「待つとも少し違うわね。いる、なのね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「存在で支える答え」

 

 本編春麗が採点する。

 

「九十八点」

 

 黒ドレス特化春麗が頷く。

 

「九十八点」

 

 通常救済版春麗も。

 

「九十八点」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「九十九点でもいいわ」

 

 自覚前春麗が慌てる。

 

「高すぎる!」

 

 本編春麗が見る。

 

「あなたは?」

 

「採点しない!」

 

「では、低い?」

 

「……」

 

「低いなら、低いと言えばいいわ」

 

 自覚前春麗は、悔しそうに目を逸らした。

 

「……九十八点」

 

 会議室がどよめいた。

 

 本編春麗は満面の笑みで書く。

 

 本人採点:九十八点。

 

「本人採点って書かないで!」

 

 黒ドレス特化春麗が言う。

 

「甘やかし耐性、かなり低いわね」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「でも、これは甘やかしというより、置いておく優しさね」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「いてくれるのは、強いわ」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「戦わない春麗を、戦わないまま受け取ったのね」

 

 自覚前春麗は、ますます顔を赤くした。

 

「戦わないまま受け取るとか言わないで!」

 

 本編春麗は、結論資料を開いた。

 

「今回のポイントは、戦闘がなかったことよ」

 

 自覚前春麗は警戒する。

 

「何よ」

 

 本編春麗は説明する。

 

「あなたは今まで、戦闘なら言い訳できた」

 

 黒ドレス特化春麗が頷く。

 

「勝ったから高揚した」

 

 通常救済版春麗が続ける。

 

「引き分けたから次が生まれた」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「負けたから取り返したくなった」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「つまり、勝敗に感情を預けられた」

 

 本編春麗は自覚前春麗を見る。

 

「でも今回は、戦っていない」

 

 自覚前春麗は黙る。

 

 本編春麗は続ける。

 

「勝っていない。負けていない。引き分けてもいない。ただ、休んだ」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「そして、少し楽になった」

 

 黒ドレス特化春麗が言う。

 

「しかもリュウは、踏み込まずにいた」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「答えを急がせなかった」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「認めなくてもいい、と言った」

 

 本編春麗は結論を言った。

 

「つまり今回は、あなたが“戦闘”ではなく“甘やかし”で被弾した初回ね」

 

 自覚前春麗は叫んだ。

 

「被弾していない!」

 

 本編春麗は即答した。

 

「九十七点と九十八点」

 

「……!」

 

「被弾しているわ」

 

 自覚前春麗は、言い返せなかった。

 

 本編春麗は結論を書き込む。

 

 春麗会議・否認部門甘やかされ疑惑審議 結論

 

 一、自覚前春麗は、最近自分のメイン回がないことに安心していた。

 

 二、その油断により、戦闘なしの日常甘やかし回が発生。

 

 三、リュウは“無理に戦わなくていい”“無理に答えなくてもいい”“無理に認めなくてもいい”と発言。自覚前春麗に直撃。

 

 四、さらに“なら、俺はここにいる”により、戦闘でも宿題でもない形で春麗を支えた。

 

 五、自覚前春麗は甘やかされていないと主張するが、本人採点九十七点および九十八点のため、主張は弱い。

 

 六、今回、自覚前春麗は戦闘ではなく“休んでもいい”という甘さに被弾した。

 

 自覚前春麗は、震える声で言った。

 

「六番を消しなさい」

 

 本編春麗は微笑む。

 

「消さないわ」

 

「消して」

 

「正式記録よ」

 

「正式にしないで!」

 

 記録板が光る。

 

 総合評価:九十八点

 理由:戦闘を介さず、自覚前春麗の否認を緩めたため。

 

 黒ドレス特化春麗が言う。

 

「これは良いわね」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「かなり良い日常回ね」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「無理に認めなくてもいい、は本当に強いわ」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「認めなくても、そこにいていいという回ね」

 

 自覚前春麗は、俯いた。

 

「……私は、認めていない」

 

 本編春麗は優しく言う。

 

「ええ」

 

「でも」

 

 全員が待つ。

 

 自覚前春麗は、小さく言った。

 

「少し休んだだけよ」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「ええ」

 

 黒ドレス特化春麗が言う。

 

「それでいいのでは?」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「休むことも、選択よ」

 

 行き遅れ恐怖版春麗が言う。

 

「今日は、休めたのね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「今日も、ね」

 

 自覚前春麗は顔を上げる。

 

「今、今日もって言った?」

 

 グランドフィナーレ済み春麗は微笑む。

 

「ええ」

 

 本編春麗が資料に書き込む。

 

 次回候補:自覚前春麗、休むことを認めるか問題。

 

「書かないで!」

 

 本編春麗は当然のように言う。

 

「春麗会議で重要なのは、次が生まれるかどうかよ」

 

「休んだだけなのに、次が生まれている!」

 

 黒ドレス特化春麗が言う。

 

「それが主人公性ね」

 

 自覚前春麗は叫ぶ。

 

「望んでいない!」

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「望んでいないのに発生するのが主人公性、だったわね」

 

「使い回さないで!」

 

 会議室に笑いが起こる。

 

 自覚前春麗は顔を赤くして、目を逸らした。

 

 戦っていない。

 

 勝っていない。

 

 負けていない。

 

 引き分けてもいない。

 

 ただ、少し休んだだけ。

 

 リュウがそこにいただけ。

 

 それなのに、こんなに会議案件になる。

 

 本当に、納得できない。

 

 でも。

 

 無理に認めなくてもいい。

 

 その言葉だけは、まだ胸の奥に残っていた。

 

 夢がほどけていく。

 

 最後に、リュウの声が聞こえた。

 

 なら、俺はここにいる。

 

 自覚前春麗は、夢の中で小さく呟いた。

 

「……だから、甘やかしていないって言ったのに」

 

 その声は、少しだけ柔らかかった。

 

 朝。

 

 自覚前春麗は目を覚ました。

 

 布団の中で、しばらく動かなかった。

 

 夢の記憶が残っている。

 

 春麗会議。

 

 甘やかされ疑惑。

 

 本人採点九十七点。

 

 九十八点。

 

 正式記録。

 

 全部、納得できない。

 

「……甘やかされていないわ」

 

 小さく言う。

 

 部屋は静かだった。

 

 誰も反論しない。

 

 それなのに、なぜかリュウの声だけは残っている。

 

 無理に戦わなくていい。

 無理に答えなくてもいい。

 無理に認めなくてもいい。

 

 春麗は布団を少しだけ握った。

 

「……認めなくてもいいなら」

 

 一拍。

 

「認めないわ」

 

 それはいつもの否認だった。

 

 でも、いつもより少し穏やかだった。

 

 春麗は起き上がる。

 

 鏡の前に立つ。

 

 そこには、自分をめんどくさい女と認めたくない春麗がいる。

 

 昨日より少しだけ、力が抜けている気がした。

 

「休んだわけじゃない」

 

 一拍。

 

「少し座っただけ」

 

 さらに一拍。

 

「それだけよ」

 

 鏡の中の自分は、まだ何か言いたそうだった。

 

 春麗は目を逸らす。

 

「……でも」

 

 言いかけて、止まる。

 

 でも、少し楽だった。

 

 その言葉を、まだ認めたくなかった。

 

 だから代わりに、こう言った。

 

「安全確認としては、有効だったわ」

 

 言ってから、春麗は顔を赤くした。

 

 また資料みたいな言い方になっている。

 

「違う。今のは違うわ」

 

 窓の外では、朝が始まっていた。

 

 今日も。

 

 春麗は、少しだけ息を吐く。

 

「……今日は、戦わなくてもいいかもしれない」

 

 その言葉に自分で驚いて、すぐに付け足した。

 

「資料として」

 

 誰もいない部屋に、その言い訳だけが残った。

 

 けれど、自覚前春麗の朝は、昨日より少しだけ静かだった。




Q:今回の妄想章について解説して?

A:
はい。執筆者として見ると、今回の妄想章IFはかなり重要な**自覚前春麗の“非戦闘被弾回”**です。

これまで自覚前春麗は、主に戦闘や会議、裏ルート鑑賞、救済台詞などで被弾してきました。
でも今回は、勝敗がありません。

勝っていない。
負けていない。
引き分けてもいない。
黒でも青でもない。
リュウから宿題を出されたわけでもない。

ただ、少し休めと言われただけ。

それなのに春麗会議案件になってしまった。

ここが今回の一番おいしいところです。

今回の核は「戦闘を介さない甘やかし」

自覚前春麗は、戦闘なら言い訳できます。

勝ったなら、格闘家として当然。
引き分けたなら、次が生まれるのは自然。
負けたなら、取り返したくなるのは当然。
黒なら資料。
青なら検証。
裏ルートなら参考記録。

こうやって逃げられる。

でも今回は違います。

リュウは、

少し、休んでいくか。
疲れているように見える。

と言うだけです。

これは戦闘ではありません。

春麗を倒そうとしていない。
試そうとしていない。
救済しようともしていない。
ただ、無理をしていそうな春麗を見て、休めと言っている。

だからこそ、自覚前春麗には逃げ場がありません。

「戦闘上必要ない」とも言いにくい。
「資料として」も苦しい。
「勝敗の問題」とも言えない。

つまり今回のリュウは、春麗の防御理論の外側から甘やかしています。

自覚前春麗が安心していた冒頭が効いている

冒頭で、

最近、私のメイン回ではないわ。

と安心しているのが良いです。

これはメタ的にも非常に正しい。

最近は本編春麗が新タイトルで主人公化し、黒ドレス特化救済春麗がご褒美回で再登板しました。
だから自覚前春麗は、「自分はしばらく安全」と思っている。

でも、その油断がそのままメイン回を呼ぶ。

しかも、激しいイベントではなく、日常的な甘さとして来る。

これはかなり自覚前春麗らしいです。

彼女は大事件には身構えます。
でも、何気ない優しさには弱い。

だから今回の「休んでいくか」は、戦闘以上に効きます。

「無理に認めなくてもいい」が直撃している

今回のリュウの一番強い台詞は、

無理に戦わなくていい。
無理に答えなくてもいい。
無理に認めなくてもいい。

です。

特に最後の、

無理に認めなくてもいい。

これは自覚前春麗に直撃しています。

リュウは春麗会議を知らない。
否認部門代表も知らない。
彼女が何を認めたくないのかも、具体的にはわかっていない。

でも、

春麗がまだ言いたくないことだ。

という形で受け止める。

ここが強いです。

自覚前春麗は「認めない」ことで自分を守っています。

本編春麗と違って、まだ「私はめんどくさい」と言えない。

普通なら会議ではそこを突かれます。

でもリュウは突かない。

認めなくてもいい、と言う。

これは救済台詞に近いですが、裏ルートのような劇的救済ではありません。

もっと日常的で、静かな甘さです。

だからこそ効く。

「なら、俺はここにいる」が今回の最高打点

今回、最も点数が高かったのは、

なら、俺はここにいる。

です。

これは非常に良い台詞です。

自覚前春麗は言い訳します。

私が自分で休むと決めたの。
あなたは、たまたまそこにいるだけ。

この言い訳に対して、リュウは反論しません。

甘やかしているとも言わない。
支えているとも言わない。
助けているとも言わない。

ただ、

なら、俺はここにいる。

と言う。

これは、自覚前春麗の言い訳を壊さない優しさです。

「たまたまそこにいるだけ」という形を、リュウが受け入れてくれる。
だから春麗は休める。

これは、かなり高度な甘やかしです。

押しつけない。
暴かない。
認めさせない。
でも、いなくならない。

だから春麗会議で九十八点になるのは妥当です。

本編春麗との差がはっきり出た

今回の自覚前春麗は、本編春麗とは違います。

本編春麗なら、

効くわ。
私は面倒だから。

と言える。

でも自覚前春麗は、

甘やかされていない。
休んだわけじゃない。
安全確認よ。

と言い訳する。

この差が良いです。

ただし、今回は彼女を無理に本編春麗へ近づけすぎていません。

リュウも「認めなくていい」と言っている。

だから自覚前春麗は、まだ自覚前のままでいい。

でも少しだけ休めた。

これが今回の進行です。

大きな覚醒ではなく、否認を少し緩める回です。

春麗会議の整理がかなり良い

春麗会議で本編春麗が整理した、

戦闘ではなく“甘やかし”で被弾した初回

これは今回の本質です。

これまでの自覚前春麗は、戦闘で感情を動かされることが多かった。

でも今回は、

休んでいい
答えなくていい
認めなくていい
ここにいる

という非戦闘の言葉で動かされた。

つまり、リュウとの関係が戦闘だけではなくなり始めています。

これはかなり重要です。

自覚前春麗にとっては危険です。

なぜなら、戦闘なら「格闘家として」で逃げられる。
でも、休むことや甘やかされることには、その逃げ道がない。

だから今回の被弾は静かですが、深いです。

「休んだだけ」が成長になっている

ラストで自覚前春麗は、

少し休んだだけよ。

と言います。

これは一見すると否認です。

でも、これまでの彼女なら「休んでいない」と言い切った可能性があります。

今回は、

少し休んだだけ。

までは言えている。

これは小さいですが、かなり大事な変化です。

認める対象が「自分はめんどくさい」ではない。
もっと手前の「少し休んだ」だけ。

でも、自覚前春麗にとっては、それでも大きい。

リュウが「無理に認めなくてもいい」と言ったから、彼女は小さく認められた。

ここが非常に良いです。

朝の締めが静かで良い

朝の場面で、

認めなくてもいいなら、認めないわ。

と言うのが自覚前春麗らしいです。

でも、その否認はいつもより穏やかです。

さらに、

今日は、戦わなくてもいいかもしれない。

と言ってしまう。

これはかなり大きい。

自覚前春麗はこれまで、勝つ・引き分ける・負ける・取り返すという戦闘の中で自分を確認してきました。

でも今回は、戦わなくてもいい日が生まれた。

そして、それをすぐに、

資料として。

でごまかす。

ここまで含めて完璧に自覚前春麗です。

今回の物語上の意味

今回のエピソードは、自覚前春麗の進行としてかなり重要です。

これまでの彼女は、

リュウと戦うことで満たされる春麗

でした。

今回は少し変わります。

リュウがそこにいてくれるだけで少し休める春麗

になった。

これはかなり危険です。

なぜなら、恋愛方向に進むからです。

戦闘ならライバル関係で処理できます。

でも、休む・甘やかされる・そばにいる、はライバル関係だけでは説明しにくい。

だから自覚前春麗にとっては、かなり認めたくない方向の被弾です。

今回の被弾は派手ではありません。

でも、深いです。

結論

今回の妄想章IFは、最近メイン回がなく安心していた自覚前春麗が、戦闘ではなく“少し休んでいい”という日常の甘さでメイン回にされてしまう話です。

一言でまとめるなら、

自覚前春麗は、勝敗なら否認できる。
でも、リュウが何も求めずに“ここにいる”と言った時、少し休めてしまった。
それが一番認めたくない。

という回です。

今回の良さは、春麗を無理に認めさせなかったことです。

リュウが、

無理に認めなくてもいい。

と言ってくれたから、彼女はまだ認めないままでいられる。

でも、そのまま少し楽になれた。

これは自覚前春麗にとって、かなり優しい、そしてかなり危険な甘やかし回だったと思います。
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