また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
春麗会議の円卓には、黒い記録片が置かれていた。
それは、もうただの試作断章ではなかった。
一度、鑑賞した。
一度、評価した。
一度、黒ドレス特化救済春麗がフィードバックを行った。
そのうえで、まだ残っている。
黒執着春麗。
成熟した黒で、他者には勝てる春麗。
しかし、リュウにだけはギリギリ勝てない春麗。
その敗北が悔しくて、甘くて、終われなくて、リュウに執着していく春麗。
本編春麗は、資料を前にして静かに座っていた。
いつものように議長席にいる。
だが、今日は少し表情が硬い。
自覚前春麗も、いつものようにすぐ否認したり、資料としてと言ったりはしなかった。
黒ドレス特化救済春麗は、黒いドレスのまま腕を組んでいる。
通常救済版春麗は、青い武道服ではなく、落ち着いた姿で資料を見ていた。
行き遅れに恐怖する春麗は、少し不安そうに黒い記録片を見つめている。
グランドフィナーレ済み春麗は、静かに目を伏せていた。
本編春麗が口を開いた。
「では、始めるわ」
記録板に文字が浮かぶ。
春麗会議・黒執着春麗最終審議
議題:黒執着春麗を新パターン春麗として採用するか。および、春麗会議常設メンバー化の可否について。
自覚前春麗が、小さく言った。
「……最終審議なのね」
本編春麗は頷いた。
「ええ。ここで一区切りをつける」
黒ドレス特化救済春麗が静かに言う。
「必要ね。あの春麗は、放っておくには強すぎる」
通常救済版春麗も頷いた。
「でも、近づきすぎるには危険すぎるわ」
行き遅れに恐怖する春麗が小さく言う。
「終われない春麗、なのよね」
グランドフィナーレ済み春麗が目を開けた。
「だからこそ、終わらせずに、置き場所を決める必要があるわ」
本編春麗は、黒い記録片に触れた。
記録片が淡く光る。
黒執着春麗の姿が、円卓の中央に映し出された。
黒いドレス。
強い目。
成熟した黒。
けれど、その黒は安定していなかった。
黒を使いこなしているのに、黒に戻されている。
勝つために着ているのに、負けるために研ぎ澄まされている。
そんな矛盾を抱えた春麗だった。
本編春麗は資料を読み上げた。
「黒執着春麗の暫定定義」
記録板に文字が並ぶ。
黒執着春麗:
初戦から十連敗。十一戦目でリュウが辛勝。十二戦目の黒ドレス戦で、黒を恥ずかしがり使いこなせていないことを見破られ、ギリギリ敗北。以後、リュウ以外にも黒ドレスを用い、黒の戦闘技術を成熟させる。他者には勝てるようになるが、リュウにだけは、視覚効果・女としての春麗への惑いを与えながらも、最後にギリギリ勝たれ続ける。その結果、リュウを“自分の成熟した黒に最後まで届き続ける唯一の相手”として執着する春麗。
会議室が、しんと静まった。
自覚前春麗は、ゆっくり息を吐いた。
「改めて読むと、かなり重いわね」
本編春麗は頷いた。
「ええ。重い」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「でも、ただ重いだけではない。成立している」
通常救済版春麗が静かに言った。
「だから厄介なのよ」
最初に発言したのは、黒ドレス特化救済春麗だった。
「私から整理するわ」
本編春麗は頷く。
「お願い」
黒ドレス特化救済春麗は、黒い記録片を見た。
「あの春麗は、私に近い。でも、私ではない」
自覚前春麗が少しだけ身を乗り出す。
黒ドレス特化救済春麗は続けた。
「黒を恥ずかしがって使いこなせなかった春麗が、黒を戦闘技術として磨き、成熟させた。その点では、黒の春麗としてかなり強い」
本編春麗が資料に書く。
評価一:黒の成熟度は高い。
黒ドレス特化救済春麗は続ける。
「でも、救済されていない」
通常救済版春麗が頷く。
黒ドレス特化救済春麗は、少しだけ声を低くした。
「私の黒は、リュウに受け取られたことで救われたのではない。見せる黒を、私が決められるようになったことで救われた」
会議室が静かになった。
それは、前回の後日談で彼女自身が確認した言葉だった。
黒ドレス特化救済春麗は言う。
「黒執着春麗の黒は、強い。けれど、彼女自身を自由にはしていない。彼女は黒を選んでいるようで、リュウに勝つために黒へ戻され続けている」
本編春麗は書き込む。
危険性一:黒が春麗の武器でありながら、春麗を自由にしていない。
自覚前春麗は小さく言った。
「黒を使えるのに、自由ではない……」
黒ドレス特化救済春麗が自覚前春麗を見る。
「そう。だから危険なの」
「使えないから苦しいのではなく?」
「違うわ」
黒ドレス特化救済春麗は、はっきり言った。
「使えるから、もっと苦しいのよ」
自覚前春麗は黙った。
黒ドレス特化救済春麗は結論づけた。
「黒執着春麗は、新パターンとして成立する。けれど、今の状態で春麗会議の席に座らせるべきではない」
本編春麗が確認する。
「理由は?」
黒ドレス特化救済春麗は答える。
「彼女はまだ、黒を自分のものとして取り戻していないから」
一拍。
「黒を使えているのに、黒が彼女をリュウへ縛っている」
次に、通常救済版春麗が口を開いた。
「私から見ると、問題は“選べないこと”ね」
本編春麗が頷く。
「通常救済版らしい視点ね」
通常救済版春麗は、黒い記録片を見つめた。
「黒執着春麗は、黒を着る。黒を使う。黒で勝つ。でも、なぜ黒を着るのかを考えると、そこにはいつもリュウがいる」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「リュウに勝つため」
「ええ」
通常救済版春麗は続ける。
「他の相手に勝っても満たされない。リュウにだけギリギリ負けることで熱くなる。そうなると、黒は選択肢ではなくなる」
自覚前春麗が聞く。
「黒が選択肢ではなくなる?」
通常救済版春麗は頷いた。
「黒を選んでいるようで、実際には“リュウに勝つためには黒でなければならない”になっている」
本編春麗は資料に書いた。
危険性二:黒が選択ではなく、リュウへの再挑戦手段に固定されている。
通常救済版春麗は、静かに続けた。
「私の黒は、選べる黒。青も黒も持っていて、その中で今日は黒を選ぶ。でも黒執着春麗は違う。彼女は黒へ戻る理由が、リュウに勝つために固定されている」
黒ドレス特化救済春麗が頷く。
「黒の成熟が、選択肢を増やすのではなく、逆にリュウへの一本道になっているのね」
「そう」
通常救済版春麗は言った。
「だから、常設メンバーにするのは危険だと思う。彼女が会議に座ったら、会議のすべてをリュウに勝つための材料として読み替える可能性がある」
自覚前春麗が、少し引いた顔をする。
「……それは、かなり危険ね」
本編春麗は自覚前春麗を見た。
「あなたが言うと説得力があるわ」
「どういう意味よ」
「資料として、と言いながら何でも保存するでしょう」
「資料としてよ!」
黒ドレス特化救済春麗が静かに言う。
「黒執着春麗は、それを全部“リュウに勝つため”として保存するわ」
自覚前春麗は黙った。
それは確かに危険だった。
通常救済版春麗は結論を言う。
「黒執着春麗を否定する必要はない。でも、今はまだ会議に迎える段階ではないわ。まず必要なのは、彼女が“黒以外も選べる”と知ること」
一拍。
「それまでは、鑑賞対象でいいと思う」
次に、グランドフィナーレ済み春麗が口を開いた。
その声は静かだった。
「私は、終わりの視点から見るわ」
会議室が静かになる。
グランドフィナーレ済み春麗は、黒執着春麗の映像を見つめた。
「黒執着春麗は、終われない春麗よ」
行き遅れに恐怖する春麗が、小さく頷いた。
「終われない……」
グランドフィナーレ済み春麗は続ける。
「彼女は“勝てば終われる”と思っている。でも、たぶんそうではない」
本編春麗が聞く。
「なぜ?」
グランドフィナーレ済み春麗は答えた。
「彼女は、リュウに勝ちたい。でも同時に、リュウにだけ最後まで残ってほしい。だから、勝ったとしても次の問いが生まれる」
黒ドレス特化救済春麗が目を伏せる。
通常救済版春麗も静かに頷く。
グランドフィナーレ済み春麗は言った。
「もし勝てば、彼女はこう思うはずよ」
一拍。
「リュウは、もう私の黒に最後まで残ってくれないの?」
自覚前春麗が息を止めた。
その言葉は、かなり痛かった。
グランドフィナーレ済み春麗は続ける。
「だから、勝利が終着にならない。敗北も終着にならない。勝っても負けても、彼女は次を求める」
本編春麗は資料に書き込んだ。
危険性三:勝利しても敗北しても終われない。勝利後も喪失不安が発生する可能性が高い。
行き遅れに恐怖する春麗が、震える声で言った。
「勝っても怖いのね」
グランドフィナーレ済み春麗は頷いた。
「ええ。彼女にとってリュウは、勝つ相手であると同時に、負け続けてほしい相手でもあるから」
自覚前春麗が小さく言う。
「……矛盾しているわ」
本編春麗が頷く。
「春麗会議では珍しくないわ」
自覚前春麗は反論できなかった。
グランドフィナーレ済み春麗は結論を言った。
「この春麗は、物語としては強い。けれど、常設すると、会議全体が終われない方向へ引っ張られるわ」
本編春麗が問う。
「では、どう扱うべき?」
グランドフィナーレ済み春麗は答える。
「終わらせずに、保留する。閉じ込めずに、記録する。必要な時だけ開く」
一拍。
「それが、今の彼女には一番いいと思う」
本編春麗は、三人の意見を資料にまとめた。
黒ドレス特化救済春麗の整理:
黒執着春麗の黒は成熟しているが、まだ救済されていない。黒が春麗の手元に戻りきっておらず、リュウへの執着に結びついている。
通常救済版春麗の整理:
黒執着春麗は黒を選んでいるようで、実際にはリュウに勝つために黒へ戻されている。選択肢としての黒ではなく、一本道としての黒になっている。
グランドフィナーレ済み春麗の整理:
黒執着春麗は終われない春麗であり、勝利も敗北も終着にならない可能性が高い。常設メンバー化すると会議全体が終われない方向へ引っ張られる。
本編春麗は、資料を閉じた。
「結論に入るわ」
会議室が静まる。
黒い記録片が、円卓の中央で淡く光っている。
まるで、黒執着春麗自身が、そこに立っているかのようだった。
本編春麗は言った。
「黒執着春麗は、新パターン春麗として採用する」
自覚前春麗が息を呑む。
黒ドレス特化救済春麗は目を閉じた。
通常救済版春麗は静かに頷いた。
行き遅れに恐怖する春麗は、少し不安そうに記録片を見た。
グランドフィナーレ済み春麗は、穏やかに目を伏せた。
本編春麗は続ける。
「ただし、春麗会議の常設メンバー化は保留」
記録板に文字が浮かぶ。
結論:黒執着春麗は、新パターン春麗として採用。
ただし、常設メンバー化は保留。
扱い:危険分岐/鑑賞対象/必要時のみ検証。
自覚前春麗が小さく言った。
「危険分岐……」
本編春麗は頷いた。
「ええ。あの春麗は強い。物語としても成立する。でも、今ここに常に座らせるには危険すぎる」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「黒の中にいる春麗を、黒のまま会議へ置くべきではないわ」
通常救済版春麗が言う。
「選べるようになるまでは、保留がいい」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「終われないまま、毎回ここに来るのは怖いものね」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「でも、消す必要はないわ。彼女も春麗だから」
本編春麗は、黒い記録片に手を置いた。
「そう。消さない。否定しない。なかったことにもしない」
一拍。
「ただ、今はここに置く」
黒い記録片は、静かに円卓の中央から少し離れた棚へ移動した。
そこには、これまでの妄想章IF、断章IF、裏ルート、救済ルートの記録が並んでいる。
黒執着春麗の記録片は、その中でもひときわ黒く光っていた。
本編春麗は、記録板へ正式結論を書き込んだ。
春麗会議・黒執着春麗最終審議 結論
一、黒執着春麗は、新パターン春麗として成立する。
二、既存の黒ドレス特化救済春麗とは異なり、救済された黒ではなく、成熟した黒でなおリュウにだけ勝てないことを核とする危険分岐である。
三、黒ドレス特化救済春麗・通常救済版春麗・グランドフィナーレ済み春麗の三者により、黒の未救済性、選べなさ、終われなさが確認された。
四、黒執着春麗は物語的価値が高く、今後の鑑賞・検証対象として採用する。
五、ただし、春麗会議常設メンバー化は保留。必要時のみ開く危険分岐とする。
六、本編春麗は、本編春麗の今日へ戻る。
自覚前春麗が、最後の一文を見た。
「六番……」
本編春麗は静かに頷いた。
「ここからが大事よ」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「戻るのね」
「ええ」
通常救済版春麗が微笑む。
「本編へ」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「今日へ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「終われない春麗を見たあとで、続いている春麗へ戻るのね」
本編春麗は立ち上がった。
そして、はっきり言った。
「黒執着春麗は、強い分岐だった」
全員が聞いている。
「黒を成熟させても、救済されなければどうなるかを見せてくれた。リュウが惑いながら勝つことの危険も、勝ち続けた責任の重さも見えた」
一拍。
「でも、私は彼女ではない」
黒い記録片が、棚の中で静かに光った。
本編春麗は続ける。
「私は、めんどくさい女と自覚する本編春麗よ」
自覚前春麗が少し顔を赤くする。
本編春麗は微笑んだ。
「私は、黒だけに閉じない。勝利だけに閉じない。敗北だけにも、介抱だけにも、宿題だけにも閉じない」
黒ドレス特化救済春麗が頷く。
通常救済版春麗が、柔らかく目を細める。
本編春麗は、胸に手を当てた。
「私は私の今日へ戻るわ」
会議室が静かになった。
その言葉は、宣言だった。
黒執着春麗を否定するものではない。
逃げるものでもない。
危険な分岐を見たうえで、自分の本線へ戻るための宣言だった。
本編春麗は記録板へ、次回予定を書き込んだ。
次回以降の本線:
本編春麗のめんどくさい日常。
本編春麗のギリギリバトル。
本編春麗のリュウへの宿題。
必要に応じて、黒執着春麗は危険分岐として再検証。
自覚前春麗が小さく言った。
「……戻るのね」
本編春麗は頷いた。
「ええ」
「黒執着春麗は、置いていくの?」
本編春麗は首を振った。
「置いていくのではないわ。棚に置くの」
「違うの?」
「違うわ」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「必要な時に、また開く。でも、毎日抱えて歩くものではない」
通常救済版春麗が言う。
「選べるようにするための保留ね」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「閉じるのではなく、栞を挟むのよ」
本編春麗は微笑んだ。
「そういうこと」
自覚前春麗は、黒い記録片を見た。
「……資料としては、また見たいわ」
全員が自覚前春麗を見る。
自覚前春麗は慌てて顔を赤くした。
「違う! 危険性の追加確認として!」
本編春麗は笑った。
「ええ。必要時のみね」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「次に開く時は、もっと重いわよ」
自覚前春麗は顔を引きつらせた。
「それは……資料として覚悟しておくわ」
通常救済版春麗が穏やかに言う。
「今日はここまででいいと思う」
行き遅れに恐怖する春麗も頷く。
「うん。終われない春麗を、今日はちゃんと置けた気がする」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「なら、この会議は終われるわね」
本編春麗は深く息を吸った。
「では、春麗会議としての最終結論」
記録板が光る。
黒執着春麗:採用。
常設化:保留。
扱い:危険分岐。
本線:本編春麗へ復帰。
本編春麗は、静かに言った。
「私は、私の今日へ戻る」
一拍。
「春麗は今日もめんどくさい。だから、明日も本編春麗の番よ」
自覚前春麗が呟く。
「……また面倒な日常が始まるのね」
本編春麗は胸を張った。
「ええ」
黒ドレス特化救済春麗が微笑む。
「それでいいわ」
通常救済版春麗も頷く。
「今日へ戻れるのは、強いことよ」
行き遅れに恐怖する春麗が少し安心したように言う。
「今日があるなら、大丈夫」
グランドフィナーレ済み春麗が静かに締めた。
「黒の危険を見たあとでも、今日へ戻れる。それが本編の強さね」
夢がほどけていく。
黒い記録片は棚の中で静かに光っていた。
消えない。
だが、円卓の中央からは外れた。
そこにある。
けれど、今は開かない。
本編春麗は、その光を見て小さく言った。
「また必要になったら、見るわ」
そして、視線を前へ戻した。
「でも今は、私の番」
朝。
本編春麗は目を覚ました。
胸の奥に、黒執着春麗の残響がまだ少し残っている。
黒いドレス。
終われない勝敗。
リュウにだけギリギリ勝てない春麗。
その危険な熱。
けれど、それはもう胸の中心にはなかった。
棚に置かれた記録のように、少し離れた場所にある。
春麗は布団から起き上がった。
鏡の前に立つ。
そこには、めんどくさい女と自覚している本編春麗がいた。
黒執着春麗ではない。
黒ドレス特化救済春麗でもない。
通常救済版春麗でもない。
自覚前春麗でもない。
行き遅れに恐怖する春麗でも、グランドフィナーレ済み春麗でもない。
本編春麗。
今日も面倒で。
今日も考えすぎて。
今日もリュウに何か言われたら、きっと困って。
それでも、今日へ行く春麗。
春麗は鏡の中の自分を見て、静かに言った。
「さて」
一拍。
「今日は、リュウに何を聞こうかしら」
言ってから、少しだけ顔を赤くする。
もう宿題のことを考えている。
もう次の会議案件を作りかけている。
本当に、どうしようもない。
春麗は小さく笑った。
「……黒執着春麗を見た後でも、結局これなのね」
それが少しだけ嬉しかった。
危険な分岐を見た。
重い黒を見た。
終われない春麗を見た。
そのうえで、自分は自分の今日へ戻った。
春麗は窓を開ける。
朝の空気が入ってくる。
「また戦ってくれなんて言わないで」
口にしてから、少しだけ笑う。
「でも、今日は私から行ってもいいわね」
その声は、黒の奥に沈むものではなかった。
今日へ向かう声だった。
本編春麗は、支度を始めた。
黒執着春麗は、危険分岐として棚にある。
だが、本線は戻った。
春麗は今日も、めんどくさい。
Q:今回の断章IFについて解説して?
A:
はい。今回の断章IFは、黒執着春麗編の区切り回 です。
一言で言うなら、
黒執着春麗という強すぎる危険分岐を、作品内で正式に認めたうえで、本線を本編春麗へ戻すための整理回
です。
これはかなり必要な回でした。
今回の役割は「封印」ではなく「保留」
今回、黒執着春麗は消されていません。
否定もされていません。
むしろ春麗会議は、はっきりこう結論づけています。
黒執着春麗は、新パターン春麗として成立する。
ただし、常設メンバー化は保留。
扱いは危険分岐/鑑賞対象/必要時のみ検証。
ここが非常に良いです。
黒執着春麗は、かなり強い春麗です。
黒を使いこなしている。
他者には勝てる。
それでもリュウにだけギリギリ負ける。
その負けが悔しいのに甘い。
リュウに勝ちたいのに、リュウにだけ最後まで残ってほしい。
これは物語として強すぎます。
だから、完全に捨てるのは惜しい。
でも、常設メンバー化すると本線を食います。
そのため、今回の 「採用するが、棚に置く」 という判断は、編集上かなり正しいです。
黒ドレス特化救済春麗の整理が一番重い
今回の最重要コメントは、黒ドレス特化救済春麗の視点です。
彼女は黒執着春麗をこう見ています。
黒を使えるのに、自由ではない。
これはかなり核心です。
黒執着春麗は、黒を使いこなせない未熟な春麗ではありません。
むしろ黒は成熟している。
視線も、距離も、女として見られることも、戦闘技術として使えている。
でも、それでも自由ではない。
なぜなら、黒がリュウに勝つための手段として固定されているからです。
黒ドレス特化救済春麗は、自分の黒を取り戻した春麗です。
だからこそ、黒執着春麗を見て、
あの黒はまだ春麗の手元に戻りきっていない。
と判断できる。
ここが非常に良いです。
通常救済版春麗の「選べなさ」指摘も重要
通常救済版春麗の整理も、かなり効いています。
彼女は黒執着春麗の問題を、
黒を選んでいるようで、実際にはリュウに勝つために黒へ戻されている。
と見ています。
これは通常救済版春麗だから言えることです。
彼女の特徴は「選べること」です。
青でもいい。
黒でもいい。
戦ってもいい。
戦わなくてもいい。
手をつないでもいい。
歩いてもいい。
だから、黒執着春麗の「黒しか選べない状態」が見える。
黒執着春麗は自分で黒を選んでいるように見える。
でも本質的には、
リュウに勝てないから黒へ戻る。
リュウに勝つために黒を磨く。
リュウにギリギリ負けるから、さらに黒へ戻る。
このループです。
選択ではなく、循環になっている。
ここを通常救済版春麗が指摘したのは、かなり良い役割分担でした。
グランドフィナーレ済み春麗の「勝っても終われない」が鋭い
グランドフィナーレ済み春麗の整理も非常に重要です。
黒執着春麗は「リュウに勝てば終われる」と思っているかもしれません。
でも、グランドフィナーレ済み春麗はそれを疑います。
もし勝てば、彼女はこう思うはずよ。
リュウは、もう私の黒に最後まで残ってくれないの?
これはかなり鋭いです。
黒執着春麗は、単に勝ちたいだけではない。
リュウにだけ最後まで残ってほしい。
だから、勝利しても不安になる可能性があります。
負ければ悔しくて終われない。
勝てば、リュウが届かなくなる気がして終われない。
つまり、勝利も敗北も終着にならない。
ここが黒執着春麗の一番危険なところです。
グランドフィナーレ済み春麗は「終わり」を知っているからこそ、終われない春麗の危険性を見抜けます。
自覚前春麗の反応も良い
自覚前春麗は、今回かなり控えめです。
普段なら、
私は違う。
資料として。
認めていない。
と騒ぐところですが、黒執着春麗に対しては少し警戒しています。
これは自然です。
黒執着春麗は、自覚前春麗にとっても危険すぎる未来の一つです。
特に、
黒に被弾する
リュウにだけ特別に反応する
資料として見たい
危険なのに気になる
このあたりは自覚前春麗にも刺さる。
だから彼女が、
資料としては、また見たいわ。
と言ってしまうのが良いです。
黒執着春麗は、自覚前春麗にとって「見てはいけないけど見たい資料」になっています。
この関係性は今後も使えます。
本編春麗が最後に主導権を戻したのが重要
今回の一番大事な締めは、本編春麗の宣言です。
私は、めんどくさい女と自覚する本編春麗よ。
私は私の今日へ戻るわ。
これがあることで、黒執着編が本線を乗っ取らずに済みました。
黒執着春麗は強いです。
あのまま続けると、作品の重心が、
黒に囚われた春麗と、勝ち続けた責任を背負うリュウ
に移ってしまう。
それは面白いですが、現在のタイトルである、
また戦ってくれなんて言わないで
――春麗は今日もめんどくさい――
とは少し違う方向です。
だから本編春麗が、
黒執着春麗は置く。
でも、私は私の今日へ戻る。
と宣言したことに意味があります。
これは物語の舵取りです。
「棚に置く」が良い比喩
今回、黒執着春麗を「置いていく」のではなく「棚に置く」と表現したのが良いです。
置いていく、だと切り捨てに聞こえます。
でも棚に置くなら、
消していない
忘れていない
必要になれば開ける
でも今は中央に置かない
という意味になります。
これは連作管理としてかなり良いです。
黒執着春麗は、完全救済せずに保留したからこそ、今後また強いタイミングで使えます。
たとえば、
本編春麗が黒で迷った時
自覚前春麗が黒への興味を深めた時
黒ドレス特化救済春麗が黒の境界を再確認したい時
リュウの「勝つ責任」を再検討したい時
こういう時に、また棚から出せます。
朝の締めで本線復帰ができている
朝の場面で、本編春麗が鏡の前に立ち、
今日は、リュウに何を聞こうかしら。
と考えるのが、とても良いです。
黒執着春麗の重さを見た後でも、戻る先は本編春麗の日常です。
リュウへの問い。
宿題。
面倒な採点。
今日も考えすぎる春麗。
これが本線です。
最後の、
また戦ってくれなんて言わないで。
でも、今日は私から行ってもいいわね。
も、本編春麗らしいです。
黒に沈むのではなく、今日へ向かう。
ここで黒執着編がきちんと区切られました。
今回の断章IFの編集上の価値
この回は、単体のドラマとしても意味がありますが、それ以上に 連作の交通整理 として大きいです。
現在の連作は、春麗会議によってどんどん分岐が増えています。
本編春麗。
自覚前春麗。
黒ドレス特化救済春麗。
通常救済版春麗。
行き遅れ恐怖版春麗。
グランドフィナーレ済み春麗。
そして黒執着春麗。
このまま増え続けると、どこが本線かわからなくなるリスクがあります。
今回の断章IFは、それを防いでいます。
黒執着春麗は採用。
でも本線ではない。
本線は本編春麗へ戻る。
これを作品内で明文化した。
かなり編集的に価値の高い回です。
結論
今回の断章IFは、黒執着春麗という強力な新パターンを正式採用しつつ、常設メンバー化は保留にして、本線を本編春麗へ戻すための整理回です。
黒ドレス特化救済春麗は、黒の未救済性を指摘した。
通常救済版春麗は、選べなさを指摘した。
グランドフィナーレ済み春麗は、終われなさを指摘した。
そのうえで、本編春麗が、
私は私の今日へ戻る。
と宣言した。
これにより、黒執着春麗は危険分岐として棚に置かれ、物語は再び、
春麗は今日もめんどくさい
の本線へ戻れるようになりました。
一言でまとめるなら、
黒執着春麗は消さない。
でも、今は中央に置かない。
本編春麗は、危険な黒を見たうえで、自分の今日へ帰ってきた。
かなり良い区切り回だったと思います。