また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
本編春麗は、気づいてしまった。
「……待って」
鏡の前で、春麗は固まっていた。
最近、自分は本編春麗として、たしかに中心に戻ってきた。
黒執着春麗を危険分岐として棚に置いた。
自分の今日へ戻ると宣言した。
リュウと甘さ控えめに歩いた。
自覚前春麗が主人公補正で甘味過多になったのも、春麗会議でしっかり審議した。
本線は戻った。
春麗は今日もめんどくさい。
それはいい。
問題は、別にあった。
「私、最近またギリギリ勝利のバトルをしていないわ」
春麗は、鏡の中の自分を見つめた。
それだけではない。
さらに重大なことに気づく。
「……しかも、主人公になってから勝利していない」
その事実は、かなり重かった。
タイトルが変わった。
また戦ってくれなんて言わないで
──春麗は今日もめんどくさい──
名実ともに、自分が主人公になった。
にもかかわらず。
ギリギリ勝利がない。
前回、黒ドレスで勝ちに行った。
黒で、発勁で、リュウを紙一重で上回るつもりだった。
だが、発勁の直前に事故の記憶がよぎった。
リュウが以前、黒ドレス戦で気絶して春麗の胸元に倒れ込んだ記憶。
押し倒された形になった、あの事故。
それが発勁のタイミングをズラした。
結果、リュウの寸止めがまともに入り、春麗が気絶した。
初の本編春麗逆介抱イベント。
悔しい。
悔しいのに、少し嬉しかった。
それがさらに悔しい。
「……あれは、勝利ではないわ」
春麗は、静かに息を吐いた。
黒ドレスで勝ちに行って、負けた。
しかも介抱された。
本編春麗としては、かなりおいしい。
おいしいが、勝っていない。
「このままでは、主人公になってから勝っていない春麗になる」
それはよくない。
非常によくない。
本編春麗は、ただめんどくさいだけの春麗ではない。
リュウと紙一重で戦う春麗。
勝つことも、負けることも、引き分けることも、全部次へ変える春麗。
その中で、やはり勝利は必要だ。
しかも、ただの勝利ではない。
ギリギリ勝利。
リュウが届きかける。
春麗も追い詰められる。
最後の最後で、春麗が一枚上回る。
それが必要だった。
春麗は椅子の背を見た。
黒ドレスがある。
そして、青い武道服がある。
春麗は迷わなかった。
今日は、青い武道服に手を伸ばした。
「黒は着ない」
前回の事故の記憶がある。
黒ドレスで発勁を撃つと、余計な記憶が入るかもしれない。
ならば今日は青。
基本の青い武道服。
正面から戦える自分。
ただし。
「黒を捨てるわけではない」
春麗は、青い武道服を手に取る。
黒ドレスで得たものはある。
視線の誘導。
間合いの作り方。
静止の使い方。
相手が春麗を見る瞬間の呼吸。
リュウが揺れる瞬間。
黒で得た経験は、黒にしか使えないものではない。
青へ還元できる。
黒に沈まない。
黒に閉じない。
黒を否定しない。
黒で得たものを、青で使う。
それが本編春麗の答えだった。
「今日は、青で勝つ」
春麗は鏡の中の自分を見た。
青い武道服の春麗。
だが、ただの青ではない。
黒ドレスの経験を知った青。
甘さも、事故も、敗北も、介抱も、会議も、すべて抱えた本編春麗の青。
「リュウ」
春麗は静かに言った。
「今日は、私が勝つわ」
リュウは、いつもの場所にいた。
春麗が青い武道服で現れると、リュウは静かに顔を上げた。
黒ではない。
青。
基本の春麗。
リュウの目が、少しだけ落ち着いたように見えた。
春麗はそれを見逃さなかった。
「安心した?」
リュウは少し考えた。
「黒ではないと思った」
「答えになっていないわ」
「少し、安心したかもしれない」
春麗は目を細める。
「正直ね」
「ああ」
「でも、今日はその安心を使うわ」
リュウは構えた。
「使う?」
「ええ」
春麗も構える。
青い武道服の袖が揺れる。
黒ドレスの裾ではない。
けれど、春麗は知っている。
布の揺れだけが視線を誘うわけではない。
呼吸。
静止。
距離。
目線。
踏み込み前の間。
それらは青でも使える。
「今日は、青で戦う」
春麗は言った。
「でも、黒で覚えたことも使うわ」
リュウは静かに頷く。
「なら、俺も見る」
春麗の胸が小さく鳴る。
「ええ。見なさい」
一拍。
「そして、今日は私に負けなさい」
リュウは、いつものように答えた。
「勝つつもりで行く」
春麗は笑った。
「そうでなくては困るわ」
戦いが始まった。
序盤。
春麗は正面から入った。
青い武道服での踏み込み。
速い。
無駄がない。
黒ドレスのような視覚の重さはない。
その代わり、青には迷いがない。
リュウの拳が来る。
春麗は受け流す。
回り込み、蹴りを放つ。
リュウが受ける。
重い音。
春麗はすぐに距離を取った。
リュウは追う。
春麗は、そこで一瞬だけ止まった。
黒ドレスで覚えた静止。
ただし、誘うための色気ではない。
青い武道服のまま、一拍だけ止まる。
リュウの呼吸が、ほんの少し乱れた。
春麗はそこへ入る。
掌底。
リュウの胸元をかすめる。
リュウは半歩下がった。
「今のは」
リュウが言う。
春麗は構え直す。
「黒で覚えた間よ」
「青でも使うのか」
「当然でしょう」
春麗は笑った。
「私は黒を着ていなくても、黒を忘れたわけではないわ」
リュウは頷いた。
「そうか」
「ええ」
春麗は踏み込む。
青い武道服の春麗。
だが、その中に黒の経験が混じっている。
リュウはそれを見ている。
春麗はそれを感じる。
見ている。
黒ではない春麗を。
黒を知った青の春麗を。
「いいわ、リュウ」
春麗は蹴りを入れる。
リュウが受ける。
しかし、受けきれない。
リュウの体勢が少し崩れた。
春麗は追撃しない。
追撃しないことで、リュウを誘う。
黒ドレスで覚えた、距離の空白。
相手に来させる間。
リュウが踏み込む。
春麗はそこを外す。
青い武道服の足が、地面を滑るように動く。
リュウの拳が空を切る。
春麗の肘が入る。
リュウの肩が揺れた。
序盤は春麗が取った。
だが、リュウは倒れない。
春麗はそれが嬉しかった。
「まだ来るわよね」
「ああ」
「なら、来なさい」
中盤。
リュウが適応してきた。
春麗の青に混ざる黒の間。
静止。
誘い。
距離。
それらを読み始めている。
春麗の蹴りを、リュウが紙一重でかわす。
春麗の踏み込みに、リュウの拳が合わせられる。
肩に一撃。
春麗の息が乱れる。
「っ」
リュウは踏み込む。
春麗は下がらない。
受ける。
受けながら回る。
青の正面性と、黒の外し方。
それを混ぜる。
リュウの拳を正面から受けると見せて、視線だけをずらす。
リュウの反応が半拍遅れる。
春麗はそこへ膝を入れる。
リュウが耐える。
「強いわね」
春麗は息を吐きながら言った。
「春麗もだ」
「当然よ」
リュウの拳が来る。
春麗は避ける。
しかし、避け切れない。
脇腹にかすった。
痛み。
春麗は歯を食いしばる。
これはいい。
苦しい。
いい。
リュウが届いてきている。
ギリギリ勝利に必要な条件が揃ってきている。
優勢すぎてはいけない。
劣勢すぎてもいけない。
リュウが届き、自分も届く。
最後の一瞬だけ、こちらが上回る。
そのための青。
そのための黒の還元。
春麗は、再び構えた。
リュウの呼吸が荒い。
春麗の呼吸も荒い。
どちらも限界に近づいている。
「リュウ」
「何だ」
「今の私は、青?」
リュウは少しだけ目を動かした。
「青だ」
春麗は笑った。
「黒は混じっていない?」
リュウは答えた。
「混じっている」
春麗は目を細めた。
「では、何に見える?」
リュウは拳を構え直しながら言った。
「黒を知った青だ」
春麗の胸が鳴った。
それは、かなり良い答えだった。
今は採点しない。
試合中だ。
だが、心の中で点がつく。
九十七点。
いや、九十八点。
「よく見ているわ」
「見ている」
「では、最後まで見なさい」
春麗は踏み込んだ。
終盤。
互いのHPが、ほとんど残っていないような戦いだった。
春麗の肩は痛む。
脇腹も痛む。
足も少し重い。
リュウも息が荒い。
拳の軌道がわずかに鈍っている。
だが、目は死んでいない。
むしろ、より深く春麗を見ている。
春麗は、その視線を受け止めた。
黒ドレスなら、この視線を利用して沈めに行ったかもしれない。
前回の黒ドレスなら、ここで発勁を狙ったかもしれない。
だが今日は違う。
今日は青。
発勁ではない。
蹴りで決める。
青い武道服の春麗らしく。
ただし、黒で得た間合いを使って。
春麗は、わずかに呼吸を整えた。
リュウが来る。
春麗は、あえて半歩遅れて見せた。
黒ドレスで覚えた、相手に勝ち筋を見せる間。
リュウの拳が伸びる。
春麗の正面。
当たる。
そう見える。
しかし、その瞬間、春麗は沈んだ。
青い武道服の脚が地を噛む。
重心を落とす。
黒ドレスのように視線を誘うのではなく、青の身体能力で一気に角度を変える。
リュウの拳が髪をかすめる。
春麗は、回る。
最後の蹴り。
リュウの脇腹へ。
だがリュウも読んでいた。
春麗が蹴りに来ることを。
リュウは腕を下げ、受けようとする。
春麗は、その受けを見る。
予想通り。
ここで黒の経験が活きる。
本命を見せて、相手に受けを選ばせる。
そして、最後の瞬間に軌道を変える。
春麗の蹴りは、リュウの受けをかすめて、肩口へ滑り込んだ。
深くはない。
だが、十分だった。
リュウの身体が崩れる。
春麗も、蹴った反動で体勢を崩した。
二人とも倒れかける。
春麗は、片足で踏みとどまった。
リュウは片膝をついた。
静寂。
春麗の呼吸が荒い。
リュウの呼吸も荒い。
ほんの一瞬、どちらが勝ったのかわからなかった。
だが、立っていたのは春麗だった。
本当に、ぎりぎり。
紙一重。
春麗は、ゆっくり息を吐いた。
「……私の勝ちね」
リュウは片膝をついたまま、春麗を見上げた。
悔しそうではある。
だが、どこか納得もしている。
「最後の蹴り」
「ええ」
「発勁ではなかった」
春麗は頷いた。
「今日は青だから」
リュウは言った。
「だが、黒の間があった」
春麗は少し笑った。
「正解よ」
リュウは、静かに息を吐いた。
「届かなかった」
春麗の胸が鳴った。
その言葉は、甘い。
勝利の甘さ。
ただし、黒ドレスの甘さではない。
介抱の甘さでもない。
本編春麗が、青で、黒を活かして、ぎりぎり勝った甘さ。
「リュウ」
「ああ」
「また戦ってくれ、とは言わないで」
リュウは少しだけ笑ったように見えた。
「今日は、言わない」
春麗は眉を上げる。
「今日は?」
「今日は、春麗が勝った」
「ええ」
「だから、俺が考える」
春麗は固まった。
「……何を」
リュウは、片膝をついたまま言った。
「次に、どう届くか」
春麗は撃沈しかけた。
勝った。
勝ったのに。
勝ったはずなのに、次を作られた。
しかもリュウ側から。
春麗は顔を赤くした。
「……九十八点」
リュウが見る。
「点数か」
「勝者採点よ」
「高いのか」
「高いわ」
「なら、よかったのか」
「よくないわ」
リュウは少しだけ困った顔をした。
春麗は、それを見て笑った。
本当に久しぶりだった。
ギリギリ勝利。
主人公になってから、初の勝利。
黒ドレスの経験を青に還元した勝利。
春麗は、立っている。
リュウは片膝をついている。
でも、次はもう生まれている。
「リュウ」
「ああ」
「次に届けるものなら、届いてみなさい」
リュウは頷いた。
「ああ」
春麗は、青い武道服の袖を整えた。
「ただし、次も私が勝つわ」
リュウは言った。
「俺も勝つつもりで行く」
春麗は笑った。
「そうでなくては困るわ」
その夜。
春麗会議は、最初からざわついていた。
円卓の中央には、青い武道服の春麗が最後の蹴りを決める場面が映っている。
本編春麗は、少し得意そうに座っていた。
自覚前春麗は、資料を見ながら複雑な顔をしている。
黒ドレス特化救済春麗は、静かに目を細めていた。
通常救済版春麗は、穏やかに微笑んでいる。
行き遅れに恐怖する春麗は、ほっとしたような顔をしていた。
グランドフィナーレ済み春麗は、静かに頷いていた。
本編春麗が言った。
「提出したわ」
自覚前春麗が驚いた。
「自分から!?」
本編春麗は胸を張る。
「勝利回だから」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「わかりやすいわね」
通常救済版春麗も笑う。
「でも、今回は提出していいと思うわ」
記録板に文字が浮かぶ。
春麗会議・本編春麗青武道服ギリギリ勝利審議
議題:主人公化後、ギリギリ勝利も勝利そのものも不足していた本編春麗、黒ドレス事故敗北を踏まえ、青い武道服で黒ドレス経験を還元し、最後の蹴りでリュウにギリギリ勝利した件。
本編春麗は満足そうに頷いた。
「正確ね」
自覚前春麗が言う。
「長いけれど」
「勝利回だから」
「便利ね、勝利回」
黒ドレス特化救済春麗が映像を見ながら言った。
「今回、黒を避けたわけではないのが良いわ」
本編春麗は頷く。
「ええ。黒を着なかっただけ」
通常救済版春麗が言う。
「黒を否定せず、青に還元したのね」
「そう」
本編春麗は少し誇らしげに言う。
「今日は、黒を知った青よ」
記録板に文字が浮かぶ。
評価一:黒を知った青。
自覚前春麗が小さく言った。
「……それは、少し格好いいわね」
本編春麗がすかさず見る。
「資料として?」
自覚前春麗は顔を赤くする。
「資料としてよ!」
黒ドレス特化救済春麗が続ける。
「前回の黒ドレス敗北は、発勁に事故の記憶が重なった。今回は発勁を避け、最後を蹴りにした」
通常救済版春麗が頷く。
「青い武道服らしい決着ね」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「前回の敗北を、今回の勝利方法に反映しているのがいいわ」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「ちゃんと戻ってきた感じがするわね」
本編春麗は、少しだけ目を伏せた。
「戻ったわ」
一拍。
「でも、前と同じ青ではない」
通常救済版春麗が微笑む。
「黒を経た青ね」
本編春麗は頷いた。
「ええ」
本編春麗は資料を読み上げた。
今の私は、青?
青だ。
黒は混じっていない?
混じっている。
では、何に見える?
黒を知った青だ。
会議室が静かになった。
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「これは高いわ」
通常救済版春麗が頷く。
「かなり良い答えね」
自覚前春麗が言う。
「九十八点くらい?」
本編春麗は見る。
「あなたが採点するの?」
自覚前春麗は慌てる。
「資料として仮に!」
本編春麗は微笑む。
「私も九十八点だと思ったわ」
自覚前春麗は少しだけ悔しそうに目を逸らした。
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「青でも黒でもなく、黒を知った青。いいわね」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「分岐を見た後、本線が深くなる言葉ね」
本編春麗は頷いた。
「まさにそこよ」
次に映像は、最後の蹴りへ進む。
春麗が半歩遅れて見せる。
リュウが踏み込む。
春麗が沈む。
拳が髪をかすめる。
青い武道服の脚が回る。
リュウが受けようとする。
春麗が軌道を変える。
肩口へ滑り込む蹴り。
リュウが片膝をつく。
春麗が立っている。
自覚前春麗が息を呑んだ。
「……本当にギリギリね」
本編春麗は少し嬉しそうに言う。
「ギリギリ勝利よ」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「黒の誘導を、青の蹴りに使っている」
通常救済版春麗が言う。
「青の決着なのに、黒の経験が活きている」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「これなら、黒を棚に置いた後の本線として正しいわ」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「勝ててよかったわね」
本編春麗は、少しだけ顔を赤くした。
「ええ」
自覚前春麗がにやりとする。
「素直ね」
本編春麗は即答した。
「本編だから」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「便利ね、本編」
会議室に少し笑いが起こった。
本編春麗は、次の場面を読む。
今日は、春麗が勝った。
だから、俺が考える。
次に、どう届くか。
本編春麗は、少し顔を赤くした。
自覚前春麗が目を細める。
「勝ったのに撃沈しているわね」
「していないわ」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「これは高得点ね」
通常救済版春麗が言う。
「リュウ側に宿題が移ったのね」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「次にどう届くか、はかなりいいわ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「勝利が終わりではなく、リュウ側の次になる。とても本編らしいわ」
本編春麗は小さく言う。
「九十八点」
自覚前春麗が言う。
「勝者採点だったわね」
本編春麗は頷く。
「ええ」
「高いのに、よくないの?」
「よくないわ」
「どうして?」
本編春麗は顔を赤くした。
「勝ったのに、次を作られたからよ」
全員が少し笑った。
本編春麗は結論を書き込んだ。
春麗会議・本編春麗青武道服ギリギリ勝利審議 結論
一、本編春麗は、主人公化後にギリギリ勝利も勝利そのものも不足していることに気づいた。
二、前回の黒ドレス戦では発勁に事故記憶が重なり、敗北と逆介抱イベントが発生したため、今回は青い武道服を選択。
三、ただし黒を否定したのではなく、黒ドレスで得た視線誘導・静止・間合いの操作を青い武道服に還元した。
四、リュウは本編春麗を“黒を知った青”と認識し、高得点回答を達成。
五、決着は発勁ではなく、黒の誘導を活かした青い武道服の最後の蹴り。
六、本編春麗、主人公化後初のギリギリ勝利を達成。
七、ただしリュウの“次に、どう届くか”により、勝利直後に次回生成が発生。
自覚前春麗が七番を見る。
「七番があるあたり、やっぱり本編春麗ね」
本編春麗は頷く。
「勝って終わりではないわ」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「でも、今日は勝った」
通常救済版春麗が言う。
「黒を青に還元して」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「次も生まれて」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「本線に勝利が戻った」
本編春麗は、静かに息を吐いた。
「ええ」
自覚前春麗が、小さく言う。
「……少し羨ましいわね」
全員が見る。
自覚前春麗は慌てて言った。
「資料として!」
本編春麗は微笑んだ。
「ええ。資料としてね」
記録板に次回候補が浮かぶ。
次回候補:リュウ、“黒を知った青”にどう届くかを考える件。
本編春麗はそれを見て、少しだけ口元を緩めた。
「宿題は、今回はリュウ側ね」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「珍しくない?」
通常救済版春麗が微笑む。
「勝者だからでしょう」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「待つ側になるのね」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「勝って待つ。これも本編春麗らしいわ」
夢がほどけていく。
最後に、リュウの声が残った。
次に、どう届くか。
本編春麗は、夢の中で小さく笑った。
「考えてきなさい、リュウ」
その声は、勝者の声だった。
けれど、すでに次を待つ春麗の声でもあった。
朝。
本編春麗は目を覚ました。
胸の奥に、まだ勝利の余韻が残っている。
黒ドレスではない。
青い武道服。
発勁ではない。
最後の蹴り。
リュウが片膝をつき、自分が立っていた。
本当に、久しぶりのギリギリ勝利。
そして、主人公になってから初めての勝利。
春麗は布団の中で、少しだけ笑った。
「……勝ったわ」
声に出すと、胸の奥が温かくなる。
悔しさではない。
介抱の恥ずかしさでもない。
黒執着の熱でもない。
純粋な勝利の甘さ。
ただし、やはり本編春麗らしく、そこにはもう次が混ざっている。
次に、どう届くか。
リュウの声が残っている。
春麗は起き上がり、鏡の前に立った。
そこには、本編春麗がいた。
めんどくさい女と自覚している春麗。
黒を知っている春麗。
青に戻れる春麗。
黒の経験を青へ還元し、ギリギリ勝利を取り戻した春麗。
春麗は鏡の中の自分に言った。
「今日は、少し勝者の顔をしてもいいわね」
一拍。
「少しだけ」
そして、すぐに顔を赤くする。
「……いえ、かなり嬉しいわ」
認めた。
本編春麗だから。
春麗は青い武道服を見た。
今日はそれを着てもいい。
黒ドレスも、棚にある。
黒執着春麗の記録片も、棚にある。
けれど今、自分の中心にあるのは青だった。
黒を知った青。
リュウがそう言った青。
春麗は小さく息を吐く。
「また戦ってくれなんて言わないで」
いつもの言葉。
けれど、今日は少し違う。
「でも、次にどう届くかは……考えてきなさい」
春麗はそう言って、静かに支度を始めた。
春麗は今日もめんどくさい。
ただし今日は、少しだけ勝者だった。
Q:今回の断章IFとバトル内容について解説して?
A:
はい。今回の断章IFは、かなり重要な 本編春麗の勝利回 です。
黒執着春麗関連で「黒の危険性」を整理し、その後に甘さ控えめ散歩で本線へ戻り、さらに今回でようやく 本編春麗が主人公化後の初勝利を得た。
流れとしてかなり綺麗です。
一言で言うなら、
黒ドレスでの敗北と事故を、青い武道服に還元して、発勁ではなく最後の蹴りでギリギリ勝利を取り戻した回
です。
今回の核は「黒を避けたのではなく、青に還元した」
今回、春麗は黒ドレスを着ませんでした。
理由は明確です。
前回、黒ドレスで勝とうとして、発勁の直前に事故の記憶が重なりました。
リュウが気絶して胸元に倒れ込んだ記憶。
押し倒される形になった記憶。
それが発勁のタイミングを狂わせた。
その結果、春麗は逆に気絶し、介抱される側になった。
だから今回は黒を着ない。
ただし、ここが重要です。
黒を否定していない。
黒ドレスを避けたのではなく、黒ドレスで得た経験を青い武道服に持ち込んだ。
視線誘導。
静止。
距離の空白。
相手に勝ち筋を見せる間。
リュウが春麗を見る瞬間の呼吸。
これらを青で使った。
つまり今回の春麗は、単なる青い武道服の春麗ではありません。
黒を知った青 です。
この言葉が、今回の一番大事なキーワードです。
「主人公化後に勝っていない」問題の回収
冒頭で春麗が、
私、最近またギリギリ勝利のバトルをしていないわ。
しかも、主人公になってから勝利していない。
と気づくのが良いです。
これはメタ的ですが、本編春麗らしい危機感です。
本編春麗は「めんどくさい女」になりました。
けれど、ただ面倒なだけではない。
本来は、リュウと紙一重で戦う春麗です。
だから、勝利が必要だった。
特に、主人公になってから初の勝利。
この勝利がないと、本編春麗が「会議で悩む春麗」になりすぎる。
今回の勝利で、ちゃんと格闘家としての本編春麗に戻れました。
発勁ではなく「蹴り」で決めたのが良い
今回、最後を発勁にしなかったのは非常に良い判断です。
前回の黒ドレス事故で、発勁には記憶が重なっています。
そのまま発勁でリベンジすると、黒ドレス事故の再演になりやすい。
でも今回は青い武道服。
青い武道服の春麗らしく、最後は蹴りで決める。
ただし、単なる蹴りではありません。
黒で覚えた「本命を見せて相手に受けを選ばせる」技術を使い、その受けをかすめて軌道を変え、肩口へ滑り込ませる。
つまり、
決め手は青の蹴り。
勝ち筋の作り方は黒の経験。
ここが今回の完成度です。
リュウの「黒を知った青だ」が高得点
今回のリュウのベスト回答の一つは、
黒を知った青だ。
です。
これは非常に良いです。
リュウは、春麗が青い武道服を着ていることを見ている。
でも、そこに黒の経験が混じっていることも見ている。
青か黒か、ではない。
黒を知った青。
これは、黒執着春麗編や通常救済版春麗の「選べる黒」とも接続しています。
黒を見た。
黒を経験した。
でも黒に閉じない。
その経験を青へ還元する。
この本編春麗を、リュウがちゃんと見抜いた。
だから九十八点級です。
勝ったのに次が生まれるのが本編春麗
勝利後、リュウはこう言いました。
今日は、春麗が勝った。
だから、俺が考える。
次に、どう届くか。
これはかなり強いです。
春麗は勝った。
主人公化後、初のギリギリ勝利を達成した。
普通なら、ここで勝利の余韻だけで終わってもいい。
でもリュウは、すぐに次を作る。
しかも今回は、春麗が宿題を出すのではなく、リュウ側が考える。
リュウ側に宿題が移った。
これはとても良い展開です。
春麗は勝者になった。
だから待つ側になる。
リュウが「次にどう届くか」を考える。
ここで関係が一段進んでいます。
春麗会議で「提出したわ」と言えるのが本編春麗
今回の春麗会議で、本編春麗が最初から、
提出したわ。
と言うのが良いです。
自覚前春麗なら絶対に「提出していない!」と叫ぶところです。
でも本編春麗は違う。
今回は勝利回。
自分から提出できる。
これは本編春麗の強さです。
めんどくさいことも自覚している。
嬉しいことも認められる。
勝ったことも提出できる。
そして朝に、
いえ、かなり嬉しいわ。
と認める。
これは本編春麗だからできることです。
「本線に勝利が戻った」回
今回の一番大きな編集的意味は、ここです。
黒執着春麗編で黒の危険性を見た。
甘さ控えめ散歩で本編へ戻った。
そして今回、青い武道服でギリギリ勝利した。
つまり、今回で本編春麗は完全に本線へ復帰しています。
会議の結論にもあった通り、
本線に勝利が戻った。
これです。
春麗は今日もめんどくさい。
でも、戦える。
勝てる。
しかも、黒を経験した分だけ、以前より深い青で勝てる。
これは非常に良い到達点です。
RPG形式バトル解説
本編春麗《黒を知った青》 vs リュウ
戦闘前ステータス
本編春麗《青武道服・黒還元モード》
HP:100 / 100
精神HP:100 / 100
青武道服適性:95
黒ドレス経験値:高
発勁使用意思:低
蹴り決着補正:高
主人公化後初勝利欲求:最大
状態:
・主人公化後、まだ勝利していないことに気づく
・前回黒ドレス発勁事故を反省
・今回は黒ドレスを着ず、青い武道服を選択
・ただし黒ドレスで得た視線誘導、静止、間合い操作は青へ還元する
リュウ《青春麗対応・再到達モード》
HP:100 / 100
精神HP:100 / 100
集中力:94
青武道服対応力:高
黒経験警戒:中
勝利意思:高
状態:
・青い武道服の春麗を見て少し安心
・しかし春麗が黒の間合いを混ぜてくることに途中で気づく
・勝つつもりで挑む
戦闘前のポイントは、春麗が黒を避けていないことです。
黒ドレスは着ない。
でも黒の経験は使う。
RPG的には、春麗に以下の特殊パッシブがついています。
特殊パッシブ:《黒を知った青》
効果:
・青武道服時の速度、蹴り威力が上昇
・黒ドレスで習得した「静止」「視線誘導」「間合いの空白」を使用可能
・ただし黒ドレス固有の重さ、羞恥、事故記憶デバフは発生しにくい
前回の敗因だった《黒ドレス発勁事故記憶》を回避しつつ、黒の強みだけを青に移植した状態です。
フェーズ1:開幕・青の正面突破
春麗 HP:100 / 100
リュウ HP:100 / 100
戦況:互角 → 春麗やや優勢
春麗は青い武道服で正面から入ります。
春麗スキル:《青武道服・正面踏み込み》
効果:
・速度補正
・初撃命中率上昇
・黒ドレス特有の視覚重圧はなし
リュウは青い春麗に安心します。
リュウ状態:《黒ではない安心》
効果:
・精神安定 +5
・ただし油断判定が軽微に発生
春麗はそこを使います。
春麗スキル:《黒で覚えた静止》
効果:
・青武道服状態でも一瞬の間を作る
・相手の呼吸を半拍ずらす
ダメージ推移。
春麗攻撃:《青の掌底》
リュウ HP:100 → 88
春麗攻撃:《回り込み蹴り》
リュウ HP:88 → 77
リュウ反撃:《踏み込み拳》
春麗 HP:100 → 92
序盤は春麗が優勢。
理由は、リュウが「青の春麗」として見始めたところに、黒で得た間を混ぜられたからです。
戦況評価:
春麗優勢
リュウは青への対応を開始
ただし黒の間合いが混ざっていることにまだ完全適応していない
フェーズ2:リュウの適応開始
春麗 HP:82 / 100
リュウ HP:70 / 100
戦況:春麗優勢だが、リュウが追い上げ開始
リュウが気づきます。
春麗は黒ドレスではない。
でも、黒の間合いを使っている。
リュウスキル:《黒混じりの青を看破》
効果:
・春麗の静止誘導への耐性上昇
・次ターン以降、カウンター成功率上昇
リュウの反撃。
リュウ攻撃:《青対応・踏み込み拳》
春麗 HP:82 → 70
リュウ攻撃:《間合い潰し》
春麗 HP:70 → 61
春麗も受けますが、ここで青と黒を混ぜます。
春麗スキル:《正面受けからの黒い外し》
効果:
・正面で受けると見せて視線と重心をずらす
・反撃蹴り命中率上昇
ダメージ。
春麗反撃:《膝蹴り》
リュウ HP:70 → 58
ここで春麗がリュウに問いかけます。
今の私は、青?
黒は混じっていない?
では、何に見える?
リュウの回答。
リュウ回答:《黒を知った青だ》
効果:
・春麗精神HP +8
・春麗集中力 +10
・春麗の勝利意志上昇
・会議評価:九十八点級
精神ステータス。
春麗 精神HP:100 → 108相当
状態:《黒を知った青》完全同期
ここで春麗の本日の戦闘コンセプトが確定します。
戦闘コンセプト確定:
青い武道服を基盤に、黒ドレスで得た間合いと誘導を還元する。
決着は発勁ではなく蹴り。
フェーズ3:終盤・紙一重領域
春麗 HP:36 / 100
リュウ HP:34 / 100
戦況:完全な紙一重
終盤は、両者とも限界です。
春麗状態:
・肩に痛み
・脇腹にダメージ
・脚に疲労
・ただし集中力は高い
リュウ状態:
・呼吸乱れ
・拳の軌道がやや鈍化
・しかし春麗への視線は深い
ここで春麗は発勁を選びません。
春麗選択:
発勁:未選択
理由:
・前回黒ドレス事故の記憶がある
・今回は青の勝利として成立させたい
・青い武道服らしく蹴りで決める
代わりに、最終スキル準備。
春麗スキル準備:《黒還元・青の最後蹴り》
効果:
・黒の誘導でリュウに勝ち筋を見せる
・青の身体能力で角度を変える
・蹴りの軌道変更が可能
・命中時、HPを0〜1まで削る
リュウも最後の攻防に入ります。
リュウスキル準備:《再到達の拳》
効果:
・春麗の誘導を読んで踏み込む
・命中時、春麗HPを0〜5まで削る可能性あり
フェーズ4:最終ターン
春麗 HP:18 / 100
リュウ HP:16 / 100
春麗はあえて半歩遅れて見せます。
春麗スキル:《勝ち筋を見せる間》
属性:黒ドレス経験
効果:
・リュウに「拳が届く」と思わせる
・リュウの踏み込みを誘発
リュウが踏み込みます。
リュウ攻撃:《再到達の拳》
命中判定:かすり
春麗 HP:18 → 7
効果:
・髪をかすめる
・春麗は紙一重で回避
春麗が沈みます。
春麗アクション:《青の沈み込み》
属性:青武道服
効果:
・重心低下
・リュウの拳を回避
・蹴り発動へ移行
春麗の蹴り。
春麗攻撃:《最後の蹴り》
初期軌道:リュウ脇腹
リュウ防御:《受け》
防御成功率:高
リュウは読んでいます。
春麗が蹴りに来ることを読んで、腕を下げる。
しかし、ここで黒の経験が活きます。
春麗追加効果:《軌道変更》
属性:黒還元
効果:
・本命を見せて受けを選ばせる
・受けの外側へ蹴り軌道を変更
・命中箇所を脇腹から肩口へ変更
命中。
春麗攻撃:《黒還元・青の最後蹴り》
リュウ HP:16 → 0
春麗反動ダメージ:
春麗 HP:7 → 3
状態:片足で踏みとどまる
戦闘終了。
勝者:本編春麗
勝利形式:ギリギリ勝利
決まり手:黒ドレス経験を還元した青い武道服の蹴り
戦闘後ステータス
本編春麗
HP:3 / 100
精神HP:116 / 100
状態:
・主人公化後初勝利
・ギリギリ勝利達成
・黒を知った青が完成
・勝者の余韻
・リュウの次回発言に被弾
リュウ
HP:0 / 100
精神HP:72 / 100
状態:
・敗北
・春麗の黒を知った青に届かなかった
・次にどう届くかを考える状態
リュウの戦闘後発言。
リュウ発言:
「今日は、春麗が勝った」
「だから、俺が考える」
「次に、どう届くか」
春麗への効果。
春麗精神ダメージ:
嬉しさ + 勝利感 + 次回生成被弾
春麗状態:
《勝ったのに次を作られた》
本人採点。
リュウ発言評価:九十八点
分類:勝者採点
効果:次回宿題がリュウ側へ移動
春麗会議式リザルト
戦闘評価:96点
理由:
・主人公化後初のギリギリ勝利
・前回敗北を踏まえた戦術変更
・発勁ではなく蹴りで青らしく決着
黒還元評価:98点
理由:
・黒ドレス経験を否定せず、青い武道服へ還元
・視線誘導、静止、間合い操作を青で使用
・黒に閉じず、本線へ戻した
リュウ回答評価:98点
理由:
・「黒を知った青だ」で春麗の現在地を正確に把握
・敗北後に「次に、どう届くか」とリュウ側の宿題を発生
本編春麗評価:99点
理由:
・勝った
・ギリギリだった
・青で勝った
・黒を活かした
・勝っても次が生まれた
総合評価。
総合評価:98点
判定:
本編春麗、主人公化後初勝利。
黒執着編・黒ドレス事故・甘さ控えめ散歩を経て、本線に戦闘勝利が戻った重要回。
今回のバトルの本質
今回のバトルをRPGイベント名にするなら、こうです。
イベント名:
《黒を知った青・初勝利戦》
勝利条件:
・青い武道服でリュウに勝つ
・発勁を使わず、最後の蹴りで決める
・黒ドレスの経験を青へ還元する
隠し条件:
・リュウに「黒を知った青だ」と認識させる
・勝利後、リュウ側に次回宿題を発生させる
今回の勝利は、単なる勝利ではありません。
黒を否定せず、黒に沈まず、黒を青へ戻した勝利です。
だから、本編春麗にとってかなり価値があります。
結論
今回の断章IFは、本編春麗が主人公化後初のギリギリ勝利を、青い武道服で取り戻す回です。
前回の黒ドレス敗北をなかったことにしない。
黒執着春麗の危険性もなかったことにしない。
ただし黒に閉じない。
黒で得たものを青へ還元する。
そして最後は、発勁ではなく蹴り。
これにより、春麗はようやく、
黒を知った青の本編春麗
として勝てました。
一言でまとめるなら、
本編春麗は、黒で負けた経験を青で勝つ力に変えた。
その勝利は主人公化後初のギリギリ勝利であり、本線に“戦う春麗”を戻す勝利だった。
かなり良い、本編春麗の復権バトル回だったと思います。