また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※本編確定ではなく、断章IFです。



断章IF:本編春麗は、勝者なのに礼を言うタイミングを失う

 

 本編春麗は、勝った。

 

 青い武道服で。

 

 黒ドレスで得た間合いを、青へ還元して。

 

 発勁ではなく、最後の蹴りで。

 

 リュウに、ギリギリで勝った。

 

 主人公になってから、初めての勝利だった。

 

 それは、間違いなく嬉しかった。

 

 春麗は、鏡の前で少しだけ口元を緩めた。

 

「……勝ったわ」

 

 声に出すと、胸の奥が温かくなる。

 

 黒ドレスの敗北でもない。

 

 逆介抱の恥ずかしさでもない。

 

 黒執着の熱でもない。

 

 純粋な勝利の余韻。

 

 ただし。

 

 本編春麗は、鏡の中の自分を見つめたまま、ふと固まった。

 

「……待って」

 

 未回収のものがある。

 

 青い武道服で勝ったことで、気持ちはかなり整った。

 

 黒ドレス事故の敗北も、青で勝ったことで一つ越えた。

 

 だが、その黒ドレス事故の後に発生した出来事が、まだ残っている。

 

 リュウに介抱された。

 

 春麗が気絶し、目覚めた時、リュウがそばにいた。

 

 布を敷いてくれていた。

 

 額を冷やしてくれていた。

 

 無理をするなと言われた。

 

 命令かと返したら、頼むと言われた。

 

 そのことに対して、春麗はまだ、礼を言っていない。

 

「……言っていないわね」

 

 本編春麗は、腕を組む。

 

 本来なら、礼を言うべきだ。

 

 介抱されたのだから。

 

 しかし、今は勝者である。

 

 昨日、青い武道服でリュウに勝った。

 

 ギリギリとはいえ勝った。

 

 つまり、今日の自分は勝者としてリュウに会いに行く立場だ。

 

 堂々としていればいい。

 

「勝者として会いに行って、ついでに礼を言えばいいだけよ」

 

 言ってから、春麗は自分で顔をしかめた。

 

 ついでに。

 

 それは、かなり失礼だ。

 

 介抱への礼は、ついでに済ませるものではない。

 

 だが、正面から礼を言おうとすると、あの時の自分を思い出す。

 

 倒れていた春麗。

 

 心配されていた春麗。

 

「頼む」と言われて、黙ってしまった春麗。

 

 勝者の顔で行きたいのに、介抱された側の記憶が割り込んでくる。

 

 春麗は、鏡の中の自分を見た。

 

 青い武道服。

 

 勝者。

 

 でも、礼を言えていない女。

 

「……本当に、面倒ね」

 

 自覚済みなので、否定はしなかった。

 

 本編春麗だから。

 

 春麗は青い武道服の袖を整えた。

 

「いいわ」

 

 一拍。

 

「今日は、勝者として会いに行く」

 

 さらに一拍。

 

「そして、礼も言う」

 

 その順番なら大丈夫。

 

 勝者として立つ。

 

 それから、介抱への礼を言う。

 

 春麗は小さく頷いた。

 

「完璧ね」

 

 もちろん、完璧ではなかった。

 

 リュウは、いつもの場所にいた。

 

 春麗が現れると、顔を上げる。

 

 昨日の敗北の疲れが、少しだけ残っているように見えた。

 

 だが、目は落ち着いている。

 

 逃げていない。

 

 春麗は胸を張った。

 

 今日は勝者だ。

 

 昨日勝ったのは自分だ。

 

「リュウ」

 

「春麗」

 

 リュウは静かに言った。

 

「昨日は、俺の負けだった」

 

 春麗は、少しだけ気分がよくなった。

 

「ええ。私の勝ちよ」

 

「ああ」

 

「かなりギリギリだったけれど」

 

「それでも春麗が立っていた」

 

 春麗は、少し頬が緩みそうになるのを抑えた。

 

 ここまではいい。

 

 勝者としての会話。

 

 本編春麗として、非常に良い流れ。

 

 このままなら、自然に礼を言える。

 

 春麗は、軽く息を吸った。

 

「それで、前回のことだけれど」

 

 リュウはすぐに言った。

 

「介抱したことか」

 

 春麗は撃沈した。

 

 早い。

 

 あまりにも早い。

 

 こちらは勝者として流れを作り、自然に礼へ持っていこうとしていた。

 

 なのに、リュウが一瞬で核心に入った。

 

「……あなたね」

 

「違ったか」

 

「違わないわ」

 

「そうか」

 

「でも、こちらにも順番があるのよ」

 

 リュウは少し考える。

 

「順番」

 

「ええ」

 

 春麗は顔を赤くしながら言う。

 

「昨日の勝利の余韻を確認し、その上で、前回の件について触れ、落ち着いた流れで礼を言う予定だったの」

 

 リュウは真面目に聞いていた。

 

「そうだったのか」

 

「そうよ」

 

「すまない」

 

「謝らないで」

 

「そうか」

 

 春麗は頭を抱えそうになった。

 

 だが、まだ立て直せる。

 

 むしろ、核心に入ったなら礼を言えばいい。

 

 勝者として。

 

 堂々と。

 

「……その、前回は」

 

 リュウは春麗を見る。

 

「ええと」

 

 言葉が少し詰まる。

 

 悔しい。

 

 礼くらい言えばいい。

 

 自分は本編春麗だ。

 

 めんどくさい女と自覚している。

 

 勝者でもある。

 

 だから言える。

 

「前回、私が倒れた時」

 

「ああ」

 

「あなたが、その……」

 

「気にするな」

 

 春麗は止まった。

 

 リュウは続けた。

 

「春麗が無事ならいい」

 

 春麗は、完全に撃沈した。

 

 礼を言う前だった。

 

 礼を言おうとしたのに。

 

 先に高得点回答を出された。

 

 しかも、かなり自然に。

 

 春麗は、顔を赤くしたままリュウを見た。

 

「……あなた」

 

「何だ」

 

「勝者への対応として、少し甘すぎるわ」

 

 リュウは首を傾げる。

 

「甘いのか」

 

「甘いわよ」

 

「そうか」

 

「私は昨日、あなたに勝ったのよ」

 

「ああ」

 

「今日は、私が勝者なのよ」

 

「ああ」

 

「なのに、どうして私が礼を言う前に、そういう答えを出すの」

 

 リュウは少し考えた。

 

「礼を言おうとしていたのか」

 

 春麗はさらに顔を赤くした。

 

「……そうよ」

 

「そうか」

 

「言わせなさい」

 

「わかった」

 

 リュウは黙った。

 

 今度は待っている。

 

 それはそれで困る。

 

 春麗は、視線を少し逸らした。

 

「……前回は」

 

「ああ」

 

「倒れた私を介抱してくれて」

 

「ああ」

 

「その」

 

 春麗は、拳を軽く握る。

 

「ありがとう」

 

 言った。

 

 言えた。

 

 勝者として。

 

 いや、少し負けた気もする。

 

 でも言えた。

 

 リュウは静かに答えた。

 

「無事でよかった」

 

 春麗は再び撃沈した。

 

 二段目が来た。

 

 礼を言わせた後に、さらに高得点回答が来た。

 

「……追撃しないで」

 

「追撃?」

 

「今のは追撃よ」

 

「攻撃のつもりはない」

 

「だから困るのよ」

 

 リュウは少し困った顔をした。

 

 その顔もまた困る。

 

 春麗は、深く息を吐いた。

 

「リュウ」

 

「ああ」

 

「昨日、私が勝ったことは覚えているわね」

 

「ああ」

 

「なら、今日は私が少し優位であるべきなの」

 

「そうなのか」

 

「そうよ」

 

「わかった」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

 リュウは少し考え、言った。

 

「では、昨日の勝者として礼を言いに来た春麗を、俺は聞いた」

 

 春麗は目を閉じた。

 

「……あなた、それは何点だと思っているの」

 

「わからない」

 

「九十七点よ」

 

「高いのか」

 

「高いわ」

 

「なら、よかったのか」

 

「よくないわ」

 

 リュウはまた困った。

 

 春麗は、小さく笑ってしまった。

 

 勝者なのに。

 

 礼を言ったのに。

 

 優位に立つつもりだったのに。

 

 結局、いつものようにリュウの言葉で崩れている。

 

 でも、今日は悪くなかった。

 

 礼を言えた。

 

 勝ったことも確認できた。

 

 高得点回答も出された。

 

 少し甘すぎるが。

 

「……今日はここまで」

 

 春麗は言った。

 

 リュウは頷く。

 

「ああ」

 

「昨日の勝利について、あなたは次にどう届くかを考える」

 

「ああ」

 

「前回の介抱について、私は礼を言った」

 

「ああ」

 

「つまり、未回収案件は一つ減ったわ」

 

 リュウは少しだけ首を傾げた。

 

「未回収」

 

「何でもないわ」

 

「ああ」

 

 春麗は背を向ける。

 

 数歩歩いて、止まった。

 

 振り返らずに言う。

 

「リュウ」

 

「ああ」

 

「次に会う時は、勝者への対応をもう少し控えめにしなさい」

 

 リュウは少し考えて答えた。

 

「難しい」

 

 春麗は振り返った。

 

「なぜ」

 

「春麗が無事だったことも、勝ったことも、どちらもよかったと思っている」

 

 春麗は言葉を失った。

 

 また来た。

 

 最後にまた来た。

 

 勝者としての春麗と、介抱された春麗。

 

 その両方を並べて肯定された。

 

 春麗は、顔を真っ赤にした。

 

「……九十九点」

 

 リュウが見る。

 

「上がった」

 

「聞こえたの?」

 

「聞こえた」

 

「忘れなさい」

 

「難しい」

 

 春麗は、顔を赤くしたまま歩き出した。

 

 今度こそ振り返らない。

 

 勝者として来た。

 

 礼を言えた。

 

 しかし、かなり甘い返答を浴びた。

 

 悔しい。

 

 けれど、少し軽くなった。

 

 未回収案件が一つ減った。

 

 その代わり、新しい会議案件が発生した気がする。

 

「……提出しないわ」

 

 春麗は小さく呟いた。

 

 もちろん、無駄だった。

 

 その夜。

 

 春麗会議は、すでに始まっていた。

 

 本編春麗が目を開くと、円卓の中央に資料が置かれている。

 

 表題を見た瞬間、春麗は顔を赤くした。

 

 春麗会議・本編春麗勝者なのに礼を言うタイミングを失う件

 

 自覚前春麗が、少し楽しそうに言った。

 

「提出していないのでは?」

 

 本編春麗は咳払いした。

 

「提出していないわ」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「でも発生した」

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「未回収案件だったものね」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が言う。

 

「礼を言えてよかったわね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が静かに頷く。

 

「勝利の後に、介抱の礼を回収する。順番としては綺麗ね」

 

 本編春麗は席に着いた。

 

「審議するなら、正確にして」

 

 自覚前春麗が資料を読む。

 

「前回、本編春麗は青い武道服でギリギリ勝利。主人公化後初勝利を達成」

 

 本編春麗は頷く。

 

「ええ」

 

「しかし、それ以前の黒ドレス事故におけるリュウの介抱に対し、礼を言っていなかった」

 

 本編春麗は少し顔を赤くした。

 

「……ええ」

 

「勝者として会いに行ったにもかかわらず、礼を言う前にリュウから“介抱したことか”と核心を突かれ、撃沈」

 

 本編春麗は自覚前春麗を睨む。

 

「あなた、楽しんでいるでしょう」

 

 自覚前春麗は真顔で言う。

 

「資料として」

 

 黒ドレス特化救済春麗が笑う。

 

「便利に使っているわね」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「でも、今回は本編春麗が珍しく受ける側ね」

 

 本編春麗は言う。

 

「前回も介抱で受ける側だったわ」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「だから今回は、その後始末ね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「後始末というより、感情の整理ね」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が言う。

 

「ありがとうを言うのは大事だもの」

 

 本編春麗は小さく頷いた。

 

「それは、そう」

 

 自覚前春麗が少し驚く。

 

「素直ね」

 

 本編春麗は胸を張った。

 

「本編だから」

 

 自覚前春麗は悔しそうに黙った。

 

 本編春麗は資料を取り上げた。

 

「では、問題の台詞を確認するわ」

 

 記録板が光る。

 

 気にするな。春麗が無事ならいい。

 

 会議室が静かになった。

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「これは高いわね」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「かなり自然に高いわ」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が言う。

 

「無事ならいい、は安心するわ」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「勝敗の前に、春麗が無事であることを置いているのね」

 

 自覚前春麗が、少し顔を赤くして言う。

 

「資料としては、高得点ね」

 

 本編春麗は頷く。

 

「ええ。かなり高得点」

 

 自覚前春麗が驚く。

 

「認めるのね」

 

「本編だから」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「でも、勝者への対応としては甘い」

 

 本編春麗は即答した。

 

「そうなのよ」

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「勝ったのに、介抱された時の春麗に戻されるものね」

 

 本編春麗は少しだけ顔を赤くした。

 

「戻された、というか」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「両方見られたのね」

 

 本編春麗は止まった。

 

「両方?」

 

「勝った春麗と、倒れた春麗」

 

 会議室が静かになる。

 

 グランドフィナーレ済み春麗は続けた。

 

「リュウは、昨日勝った春麗も見ている。前回倒れた春麗も見ている。そのうえで、無事ならいいと言った」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が頷く。

 

「勝っているかどうかだけじゃなく、無事かどうかも見ているのね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「黒の事故後としては、かなり重要」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「勝者であることと、礼を言うことが両立しているわ」

 

 本編春麗は、小さく息を吐いた。

 

「……そうね」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「また素直」

 

 本編春麗は言う。

 

「今日は勝者だから」

 

 自覚前春麗が首を傾げる。

 

「勝者だから素直なの?」

 

 本編春麗は少し考えた。

 

「勝者だから、少し余裕があるのよ」

 

 黒ドレス特化救済春麗が笑った。

 

「本当かしら」

 

 本編春麗は目を逸らした。

 

 次に記録板が光った。

 

 昨日の勝者として礼を言いに来た春麗を、俺は聞いた。

 

 通常救済版春麗が手を合わせるように言った。

 

「これ、かなり良いわ」

 

 黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「春麗の立場を壊していない」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が言う。

 

「勝者として、礼を言いに来た。両方認めているのね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「勝者の誇りも、礼を言う柔らかさも、どちらも残した」

 

 本編春麗は顔を赤くして言った。

 

「九十七点」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「高いわね」

 

「高いわ」

 

「よくないの?」

 

「よくないわ」

 

「どうして?」

 

 本編春麗は、少しだけ視線を逸らす。

 

「礼を言う側だったのに、聞く側のリュウに整理されたからよ」

 

 通常救済版春麗が笑う。

 

「それは確かに悔しいわね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「でも、良い答えだった」

 

「だから困るのよ」

 

 春麗会議の全員が納得した。

 

 良い答えだから困る。

 

 これは春麗会議ではよくある。

 

 最後に、記録板が最大光量で表示した。

 

 春麗が無事だったことも、勝ったことも、どちらもよかったと思っている。

 

 本編春麗は、顔を覆った。

 

「そこは表示しなくていい」

 

 自覚前春麗が真顔で言う。

 

「必要よ」

 

「あなた、本当に今日は楽しんでいるでしょう」

 

「資料として」

 

 黒ドレス特化救済春麗が目を細める。

 

「これは強いわね」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「無事だったことと、勝ったこと。両方を並べている」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が言う。

 

「勝ち負けより前に無事。でも勝ったこともちゃんと喜んでくれている」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「介抱された春麗と、勝者の春麗を、分けずに受け取った言葉ね」

 

 本編春麗は、顔を赤くしたまま言った。

 

「……九十九点」

 

 自覚前春麗がすかさず言う。

 

「本人採点、九十九点」

 

「書かないで」

 

 本編春麗が言う前に、記録板が光った。

 

 本人採点:九十九点。

 

 本編春麗は机に額をつけた。

 

「早いわ」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「今のは九十九点で妥当よ」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「ええ。かなり良かった」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が言う。

 

「大事にされている感じがするわ」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「勝者としても、倒れた春麗としても、両方」

 

 自覚前春麗が小さく言う。

 

「……資料としては、かなり羨ましいわね」

 

 全員が自覚前春麗を見た。

 

 自覚前春麗は顔を赤くする。

 

「資料として!」

 

 本編春麗は、少しだけ微笑んだ。

 

「ええ。資料としてね」

 

 本編春麗は結論を書き込んだ。

 

 春麗会議・本編春麗勝者なのに礼を言うタイミングを失う件 結論

 

 一、本編春麗は、青い武道服で主人公化後初のギリギリ勝利を達成した。

 

 二、しかし黒ドレス事故後の逆介抱イベントに対する礼が未回収だった。

 

 三、勝者としてリュウに会いに行ったが、“前回のことだけれど”と言いかけた瞬間、リュウに“介抱したことか”と核心を突かれ、撃沈。

 

 四、リュウの“気にするな。春麗が無事ならいい”により、礼を言う前に高得点回答を受ける。

 

 五、本編春麗は無事に礼を言えたが、その後も“昨日の勝者として礼を言いに来た春麗を、俺は聞いた”“春麗が無事だったことも、勝ったことも、どちらもよかった”という追撃を受けた。

 

 六、未回収だった介抱への礼は回収完了。

 

 七、ただしリュウの勝者対応が甘すぎたため、新たな会議案件が発生。

 

 自覚前春麗が七番を見て言った。

 

「回収したのに増えているわね」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「春麗会議ではよくあることよ」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「未回収案件を処理すると、別の案件が生まれる」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「でも今回は良い増え方だと思うわ」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が頷く。

 

「礼を言えたものね」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「勝利と感謝が両方残った回ね」

 

 本編春麗は、静かに資料を閉じた。

 

「では、次回候補」

 

 自覚前春麗が身構える。

 

 記録板に文字が浮かぶ。

 

 次回候補:本編春麗、リュウの“勝者への甘すぎる対応”を是正しようとして、また高得点回答を引き出す件。

 

 本編春麗は顔を赤くした。

 

「それは、かなりありそうで嫌ね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が微笑む。

 

「本編春麗らしいわ」

 

 通常救済版春麗も笑う。

 

「かなり」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「あなたも十分、主人公補正があるわね」

 

 本編春麗は胸を張った。

 

「主人公だから」

 

 自覚前春麗は悔しそうに目を逸らした。

 

 会議室に柔らかい笑いが広がった。

 

 夢がほどけていく。

 

 最後に、リュウの声が残った。

 

 春麗が無事だったことも、勝ったことも、どちらもよかったと思っている。

 

 本編春麗は、夢の中で小さく呟いた。

 

「……九十九点にしたのは、少し甘かったかしら」

 

 一拍。

 

「いえ、妥当ね」

 

 朝。

 

 本編春麗は目を覚ました。

 

 胸の奥に、昨日の会話の残響が残っている。

 

 介抱したことか。

 

 気にするな。春麗が無事ならいい。

 

 昨日の勝者として礼を言いに来た春麗を、俺は聞いた。

 

 春麗が無事だったことも、勝ったことも、どちらもよかったと思っている。

 

 春麗は布団の中で顔を覆った。

 

「……甘すぎるわ」

 

 勝者として会いに行ったはずだった。

 

 礼を言うだけのはずだった。

 

 未回収案件を一つ処理するだけのはずだった。

 

 それなのに、九十九点回答を出された。

 

 春麗はゆっくり起き上がる。

 

 鏡の前に立つ。

 

 そこには、昨日勝った本編春麗がいる。

 

 そして、礼を言えた本編春麗もいる。

 

 勝者。

 

 介抱された女。

 

 礼を言った女。

 

 高得点回答を受けた女。

 

 全部、自分だ。

 

 春麗は少しだけ笑った。

 

「……未回収案件は減ったわ」

 

 一拍。

 

「会議案件は増えたけれど」

 

 それは、いつものことだ。

 

 春麗は青い武道服を見た。

 

 今日も戦える。

 

 今日も歩ける。

 

 今日も問いに行ける。

 

 そして、必要なら礼も言える。

 

「また戦ってくれなんて言わないで」

 

 いつものように呟く。

 

 けれど今日は、少しだけ続けた。

 

「でも、昨日の続きなら……聞いてあげてもいいわ」

 

 言ってから、春麗は顔を赤くした。

 

「違う。今のは勝者としての余裕よ」

 

 誰もいない部屋で、そう言い訳する。

 

 春麗は今日も、めんどくさい。

 

 ただし今日は、未回収の礼を一つ済ませた春麗だった。




Q:今回の断章IFについて解説して?

A:
はい。執筆者として見ると、今回の断章IFはかなり良い 「勝利後日談」と「逆介抱イベントの回収」を兼ねた整理回 です。

前回、本編春麗は青い武道服でギリギリ勝利しました。
これで「主人公化後に勝っていない問題」は解消されました。

ただし、その前に発生していた黒ドレス事故後の リュウによる逆介抱イベント が未回収でした。

今回の話は、その未回収だった「ありがとう」を回収しつつ、勝者である春麗がまたリュウの言葉に崩されるという、本編春麗らしい後日談になっています。

今回の核は「勝者なのに介抱された側でもある」

今回の春麗は、かなり複雑な立場です。

一方では、前回リュウに勝っています。

青い武道服で。
黒ドレスの経験を還元して。
最後の蹴りで。
主人公化後初のギリギリ勝利として。

だから、今回の春麗は勝者です。

本来なら堂々としていていい。

でも同時に、黒ドレス事故でリュウに介抱された記憶も残っています。

倒れた春麗。
額を冷やされた春麗。
「無理をするな」「頼む」と言われた春麗。
礼を言えていない春麗。

つまり今回の春麗は、

勝者の春麗

介抱された春麗

が同時に存在している。

ここが非常に良いです。

本編春麗は、この二つを別々に処理しようとします。

まず勝者としてリュウに会う。
その後、落ち着いた流れで礼を言う。

でもリュウは、そこを一瞬で突いてきます。

介抱したことか。

ここで春麗が撃沈するのは当然です。

「礼を言う前に高得点回答を出される」のが本編春麗らしい

今回の一番おいしい構造はここです。

春麗は礼を言いに行った。

自分から未回収案件を片付けようとした。

なのに、礼を言う前にリュウが、

気にするな。春麗が無事ならいい。

と言ってしまう。

これは非常にリュウらしいです。

そして非常に本編春麗に効きます。

春麗は「ありがとう」と言うつもりだったのに、その前に「無事ならいい」と言われる。

つまり、春麗が感謝を渡す前に、リュウが受け取り拒否ではなく、春麗の無事を最優先する答えを出してしまう。

これにより春麗は、

勝者への対応として少し甘すぎるわ。

となる。

この台詞が今回の中心です。

勝者として優位に立ちたい。
でも介抱された件では、リュウに優しくされている。
そしてその優しさが高得点すぎる。

この矛盾が本編春麗です。

「無事だったこと」と「勝ったこと」を両方肯定したのが強い

今回の最高打点は、最後のリュウの台詞です。

春麗が無事だったことも、勝ったことも、どちらもよかったと思っている。

これは九十九点で妥当です。

この台詞は、二つの春麗を両方受け取っています。

倒れた春麗。
勝った春麗。

介抱された春麗。
勝者の春麗。

リュウに心配された春麗。
リュウを倒した春麗。

この二つを分けずに、

どちらもよかった

と言う。

これが非常に強いです。

春麗は、勝者として見られたい。
でも、倒れた自分をなかったことにもできない。

リュウはその両方を見ている。

だから春麗は崩れます。

この言葉は、春麗の誇りを壊さず、弱さも否定しない。

かなり良いリュウ回答です。

春麗が「ありがとう」を言えたのが大きい

今回、春麗はちゃんと礼を言えました。

ありがとう。

これは地味ですが大事です。

本編春麗は、面倒です。

すぐ採点する。
すぐ会議案件にする。
勝者の立場も気にする。
甘い言葉には弱い。

でも、ちゃんと礼を言える。

ここが本編春麗の良さです。

自覚前春麗なら、この場面はもっと逃げた可能性があります。

「礼ではないわ」
「事実確認よ」
「介抱の手順確認よ」

みたいに言い訳したかもしれない。

でも本編春麗は言える。

勝者としてでも、少し照れながらでも、ありがとうと言える。

これはかなり成長した春麗です。

未回収案件を回収したら、新規会議案件が増える

春麗会議らしいのはここです。

今回の目的は、未回収だった介抱への礼を言うことでした。

そして、それは達成しました。

会議の結論でも、

未回収だった介抱への礼は回収完了。

となっています。

しかしその直後に、

ただしリュウの勝者対応が甘すぎたため、新たな会議案件が発生。

となる。

これが非常に春麗会議らしい。

一つ片付けると、一つ増える。

未回収案件を減らすと、会議案件が増える。

本編春麗の物語は、こうやって続きます。

しかも、増え方が健全です。

黒執着春麗のような危険な重さではなく、勝利と感謝と少し甘すぎる対応から生まれた次です。

本線に戻った後の会議案件として、とても良いです。

自覚前春麗が楽しそうなのも良い

今回、自覚前春麗が少し楽しそうに資料を読んでいるのも面白いです。

普段は自分が審議される側。

でも今回は本編春麗が崩される側なので、自覚前春麗が「資料として」楽しんでいる。

ただし、自覚前春麗も最後には、

資料としては、かなり羨ましいわね。

と言ってしまう。

ここが良いです。

本編春麗は、勝者として礼を言いに行ける。
リュウに「無事だったことも勝ったこともよかった」と言われる。
それを九十九点と認められる。

自覚前春麗からすると、かなり羨ましい。

でももちろん、「資料として」と逃げる。

この対比も効いています。

春麗会議の役割がきれいに出ている

今回の春麗会議では、各春麗の役割が安定しています。

本編春麗は、当事者であり議題の中心。

自覚前春麗は、資料を読みつつ少し羨ましがる。

黒ドレス特化救済春麗は、黒ドレス事故後の感情整理として見る。

通常救済版春麗は、勝者と礼の両立を見る。

行き遅れに恐怖する春麗は、「無事ならいい」に安心する。

グランドフィナーレ済み春麗は、「勝った春麗と倒れた春麗の両方を見られた」と整理する。

特にグランドフィナーレ済み春麗の、

勝者としても、倒れた春麗としても、両方

という視点は非常に良いです。

この一言で、今回の構造が整理されています。

朝の締めも良い

朝の締めで、本編春麗が、

未回収案件は減ったわ。
会議案件は増えたけれど。

と思うのが、とても春麗会議シリーズらしいです。

そして最後に、

でも、昨日の続きなら……聞いてあげてもいいわ。

と言ってから、

違う。今のは勝者としての余裕よ。

と自分に言い訳する。

この終わり方が良いです。

ちゃんと本編春麗です。

礼を言えた。
勝者でもいられた。
でもまた次が生まれた。
そして本人は、その次を少し期待している。

ただし素直には認めない。

本編春麗らしい、非常に良い締めです。

結論

今回の断章IFは、本編春麗が青い武道服でのギリギリ勝利後、未回収だった黒ドレス事故後の介抱への礼を言いに行く後日談です。

重要なのは、春麗が単に礼を言っただけではないことです。

勝者としてリュウに会いに行く。
しかし介抱された記憶が割り込む。
礼を言う前にリュウから高得点回答を出される。
礼を言えた後も、さらに「無事だったことも勝ったこともよかった」と言われる。

その結果、春麗は、

勝者としても、介抱された春麗としても、両方リュウに見られた

ことになります。

一言でまとめるなら、

本編春麗は勝者として礼を言いに行った。
けれどリュウは、勝った春麗だけでなく、倒れた春麗も大事にしていた。
その両方を受け取られてしまったから、春麗は九十九点をつけるしかなかった。

未回収案件の回収としても、勝利後日談としても、かなり良い本編春麗回だったと思います。
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