また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
本編春麗は、鏡の前で青い武道服を整えていた。
今日は決めている。
青い武道服。
黒ではない。
発勁事故の記憶に引っ張られない。
黒執着春麗の重さにも寄らない。
本編春麗として、青で戦う。
そして。
「今日は、勝ったら煽るわ」
春麗は、鏡の中の自分に向かって静かに宣言した。
最近、春麗会議で勝者煽りの適性を審議した。
青勝利煽り。
黒ドレス勝利煽り。
自覚前否認煽り。
黒執着危険煽り。
本編甘さ控えめ煽り。
その結果、現在の本編春麗にもっとも適しているのは、強すぎない、甘さ控えめの煽りだと結論が出た。
次にどう届くか、考えてくるのでしょう?
なら、少しだけ待ってあげるわ。
悪くない。
いや、かなり良い。
勝者の余裕がある。
次を生む。
リュウを突き放しすぎず、甘やかしすぎない。
本編春麗らしい。
「今日は、それを実践する」
春麗は頷いた。
前回、自覚前春麗は主人公補正で甘い散歩を食らった。
本人は何もしていないのに、偶然リュウと会い、歩き、支えられ、心配され、今日の春麗もいいと言われた。
そして春麗会議案件になった。
だが、自分は違う。
自分は本編主人公である。
自覚済みである。
発生するなら、自分で制御する。
勝つ。
煽る。
会議に提出する。
朝、少し照れる。
完璧な流れだ。
「今日は主人公補正に振り回されないわ」
そう言った瞬間、窓の外で遠くの空が少し暗くなった。
春麗は気づかなかった。
リュウは修行場にいた。
春麗が青い武道服で現れると、静かに顔を上げる。
「春麗」
「リュウ」
春麗は構えた。
「今日は試合よ」
リュウも構える。
「ああ」
「この前の続きではないわ」
「そうか」
「ただし、あなたが次にどう届くか考えると言った件について、進捗確認を兼ねる」
リュウは少し考えた。
「それは、この前の続きではないのか」
春麗は一瞬詰まった。
「……広義ではそうね」
「ああ」
「でも今日は、私が勝つ」
「俺も勝つつもりで行く」
春麗は少し笑った。
「そうでなくては困るわ」
ここまでは良い。
非常に良い。
本編春麗の青い武道服バトルとして、理想的な入り。
あとは勝つ。
そして煽る。
甘さ控えめに。
「行くわよ」
春麗が踏み込んだ。
試合は、序盤から激しかった。
春麗は青い武道服で正面から攻める。
リュウは受ける。
拳と蹴りが交差する。
春麗の蹴りがリュウの腕を弾く。
リュウの拳が春麗の肩をかすめる。
前回と違い、今日は春麗の中に明確な目的があった。
勝つ。
そして、勝者煽りを実践する。
その目的が、身体に余計な力を入れていない。
むしろ、よく整っている。
リュウはそれを見ていた。
「今日の春麗は、少し違う」
春麗は蹴りを放ちながら返す。
「今日は青よ」
「青だ」
「黒は混ぜていないわ」
「少しだけ、混じっている」
春麗は目を細める。
「見ているわね」
「ああ」
「なら、最後まで見なさい」
「ああ」
蹴り。
拳。
回避。
踏み込み。
春麗は少しずつリュウを追い詰めていた。
今日は勝てる。
そう思った。
少なくとも、勝ち筋は見えている。
リュウは強い。
だが、春麗の動きも悪くない。
青の速さ。
黒を経た間合いの読み。
勝者煽りを視野に入れた、妙な余裕。
「次にどう届くか、考えてきたのでしょう?」
リュウの拳を避けながら、春麗が言う。
リュウは答える。
「考えた」
「なら、見せなさい」
「ああ」
リュウの踏み込みが変わった。
前回より、半歩深い。
春麗はそれを受ける。
ぎりぎりでかわす。
肩に風圧。
拳は届いていない。
だが近い。
春麗の胸が鳴る。
いい。
とてもいい。
このままギリギリで勝てば、最高の煽りが入る。
次にどう届くか、考えてきたのでしょう?
なら、もう少しだけ待ってあげるわ。
いや、少し違う。
実戦中に調整する。
勝った後の言葉は、勝った後に決めればいい。
その瞬間だった。
ぽつり、と頬に水滴が落ちた。
春麗は一瞬だけ目を動かした。
雨。
ぽつり。
ぽつり。
そして、次の瞬間。
ざあ、と音を立てて雨が降り出した。
「……え?」
春麗の蹴りがわずかに遅れる。
リュウの拳も止まった。
二人は同時に空を見る。
急な雨だった。
本当に急だった。
つい先ほどまで、空はそこまで崩れていなかったはずなのに。
春麗は、雨に濡れる青い武道服を見下ろした。
「……待って」
リュウが言う。
「雨だ」
「見ればわかるわ」
「続けるか」
春麗はリュウを見た。
この状況で?
雨の中で?
続けられなくはない。
だが地面が滑る。
青い武道服は水を吸い始めている。
リュウも濡れている。
危険だ。
春麗は歯を食いしばった。
ここで中断?
勝者煽り実践回なのに?
今から勝つところだったのに?
「……主人公補正」
小さく呟いた。
リュウが聞く。
「何だ」
「何でもないわ!」
雨はさらに強くなる。
リュウが周囲を見た。
「一度、雨宿りしよう」
春麗は固まった。
雨宿り。
その単語が、妙に甘い。
非常に危険。
これは、自覚前春麗の甘い散歩と同じ匂いがする。
本編主人公である自分に、今度は雨宿りイベントが発生している。
「……これは、煽り回のはずだったのに」
「春麗?」
「何でもない」
リュウは近くの小さな屋根付きの東屋を指した。
「あそこへ」
「……ええ」
春麗は、仕方なく走った。
リュウも隣を走る。
雨の音が、二人の足音を消していく。
東屋の下へ駆け込むと、春麗は軽く息を吐いた。
青い武道服の肩が濡れている。
髪も少し水を含んでいた。
リュウも同じように濡れている。
試合の熱と雨の冷たさが混じり、妙な空気になった。
春麗は腕を組んだ。
「中断よ」
「ああ」
「これは勝敗ではないわ」
「ああ」
「雨による不可抗力」
「ああ」
「だから、私が勝てなかったわけではない」
リュウは頷く。
「そうだな」
春麗は少し安心しかけた。
だが、リュウは続けた。
「春麗は、勝ちに近かった」
春麗は撃沈しかけた。
「……そういうことを、雨宿り中に言わないで」
「そうか」
「今のは危険よ」
「危険か」
「ええ」
リュウは少し考える。
「すまない」
「謝らなくていいわ」
春麗は濡れた袖を軽く絞る。
水が落ちる。
ぽたり。
その音が、やけに大きく聞こえた。
リュウが静かに言う。
「冷えないか」
春麗はすぐに返す。
「大丈夫よ」
「そうか」
「ええ」
「だが、少し濡れている」
「雨だから当然でしょう」
リュウは黙って、自分の肩にかけていた布を外した。
修行用に持っていた薄い布だ。
それを春麗へ差し出す。
春麗は、完全に固まった。
「……何?」
「使え」
「必要ないわ」
「肩が冷える」
「平気よ」
「だが、試合の途中だった」
「それは関係あるの?」
「身体が冷えるとよくない」
春麗は、布を見る。
受け取るか。
受け取らないか。
勝者煽りを実践しようとしていたのに、なぜ雨宿りで布を渡されることになっているのか。
これは完全に甘いイベントである。
しかも、本編主人公補正。
自覚前春麗が散歩で食らったものと、かなり近い。
いや、こちらは雨宿りである分、さらに危険かもしれない。
春麗は小さく言った。
「……自覚前春麗のことを笑えないわね」
リュウが首を傾げる。
「何のことだ」
「何でもないわ」
春麗は布を受け取った。
「借りるだけよ」
「ああ」
「礼は後で言うわ」
「ああ」
「今は言わない」
「わかった」
「勝者煽りの予定が崩れたから、今は流れを整理しているところなの」
リュウは少し考える。
「勝者煽り」
春麗はしまったと思った。
口に出していた。
「忘れなさい」
「難しい」
「難しくない!」
リュウは真面目な顔で言う。
「春麗は、勝ったら俺を煽るつもりだったのか」
春麗は、布を肩にかけたまま、顔を赤くした。
「……審議済みよ」
「そうか」
「ええ」
「なら、聞きたかった」
春麗は完全に撃沈した。
「聞きたかった?」
「ああ」
「煽られたかったの?」
リュウは少し考えた。
「春麗が勝って、何を言うのか知りたかった」
春麗は、雨音の中で固まる。
それは危ない。
非常に危ない。
煽り回が、煽りを聞きたかったリュウによって甘い雨宿り回に変質している。
「……あなた、勝者への対応としてまた甘いわ」
「そうか」
「そうよ」
リュウは少しだけ春麗を見る。
「でも、今日はまだ勝敗がついていない」
春麗は目を細めた。
「そうね」
「なら、次に聞く」
春麗は息を止めた。
次に聞く。
つまり、次回の勝負まで持ち越し。
勝者煽りを聞くために、次が生まれた。
春麗は、布を握った。
「……九十八点」
リュウが見る。
「点数か」
「聞こえたの?」
「聞こえた」
「忘れなさい」
「難しい」
「いつも難しいわね、あなた」
「春麗のことだからな」
春麗は布で口元を隠した。
雨音が強くなる。
東屋の外は白く霞んでいる。
試合は中断。
勝者煽りは未実施。
しかし、リュウが聞きたかったと言った。
次に聞くと言った。
布まで渡された。
これは、どう見ても会議案件である。
「……提出しないわ」
リュウが聞く。
「何をだ」
「何でもない」
「そうか」
少し沈黙が落ちる。
雨の音だけが続く。
春麗は、肩にかかった布を見た。
リュウの布。
雨で少し濡れた自分の青い武道服。
中断された試合。
実践できなかった煽り。
そして、次回へ持ち越された煽り。
「リュウ」
「ああ」
「次に勝ったら、ちゃんと煽るわ」
リュウは頷く。
「ああ」
「覚悟しておきなさい」
「ああ」
「かなり甘さ控えめよ」
リュウは少しだけ首を傾げた。
「甘さ控えめなのか」
春麗は顔を赤くする。
「そこに反応しないで」
「わかった」
「ただし、届かなかったら待ってあげるとも言うかもしれない」
リュウは静かに言った。
「なら、届く」
春麗は、言葉を失った。
雨音の中で、その言葉だけがはっきり響いた。
なら、届く。
夢の最後に聞いた言葉と同じ。
煽り会議の締めに出てきたリュウの声と同じ。
春麗は、少しだけ笑った。
「なら、届いてみなさい」
言えた。
雨宿りの中で。
勝者ではない。
まだ勝ってもいない。
だが、次を生む煽りとして。
甘さ控えめに。
リュウは頷いた。
「ああ」
春麗は、布を肩にかけ直した。
「……今日のところは、これで仮採用ね」
「何がだ」
「何でもないわ」
雨はまだ降っていた。
試合は中断された。
しかし、春麗は不思議と悔しくなかった。
煽りは実践できなかった。
だが、別の形で出た。
勝者としてではなく、次を待つ春麗として。
それは、少しだけ予定外だった。
かなり、主人公補正だった。
その夜。
春麗会議は、開幕から騒がしかった。
本編春麗は、円卓につくなり言った。
「提出していないわ」
自覚前春麗が満面の疑いを向ける。
「嘘ね」
本編春麗は少し顔を赤くする。
「提出していない」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「でも発生した」
通常救済版春麗が微笑む。
「雨宿りイベントだったわね」
行き遅れに恐怖する春麗が少し嬉しそうに言う。
「布を貸してもらったのよね」
グランドフィナーレ済み春麗が静かに頷く。
「勝者煽り実践回のはずが、雨によって次回持ち越しになった回ね」
本編春麗は、机に額をつけかけた。
「全部わかっているじゃない」
記録板に文字が浮かぶ。
春麗会議・本編春麗勝者煽り実践未遂および雨宿り主人公補正審議
議題:本編春麗、青い武道服でリュウとの試合に挑み、勝者煽りを実践しようとするも、急な雨により中断。主人公補正的に雨宿りの甘いエピソードへ発展した件。
自覚前春麗が言う。
「長いけれど正確ね」
本編春麗は顔を赤くした。
「正確すぎるのよ」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「今回は、あなたも主人公補正を食らったわね」
本編春麗は反論しかけて、止まった。
確かに。
これは完全に主人公補正だった。
自覚前春麗がここぞとばかりに言う。
「ほら。主人公補正はあなたにもあるのよ」
本編春麗は胸を張る。
「本編主人公だから」
自覚前春麗は悔しそうに言う。
「開き直ったわ」
通常救済版春麗が笑う。
「自覚済みの強みね」
まず、試合映像が流れた。
青い武道服の本編春麗が、リュウと戦っている。
動きは良い。
かなり良い。
勝ち筋も見えている。
黒ドレス特化救済春麗が頷く。
「このままなら、勝てた可能性は高いわ」
通常救済版春麗も言う。
「青の動きに黒の経験が自然に混じっている」
自覚前春麗が少し悔しそうに言う。
「……黒を知った青ね」
本編春麗は少し得意げに言う。
「ええ」
「今のは資料として言っただけよ」
「わかっているわ」
本編春麗は勝ち誇らなかった。
それが逆に自覚前春麗を悔しがらせた。
映像の中で、雨が降り始める。
ぽつり。
ざあ。
試合が止まる。
自覚前春麗が言う。
「ここで雨」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「露骨ね」
通常救済版春麗が微笑む。
「でも綺麗な主人公補正ね」
本編春麗は顔を赤くする。
「綺麗じゃなくていいのよ」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「でも、雨の中で続けて怪我をするよりはよかったわ」
グランドフィナーレ済み春麗が頷く。
「勝敗を止めて、関係を進める雨ね」
本編春麗は目を逸らした。
「関係を進めていないわ」
全員が黙って本編春麗を見た。
本編春麗は咳払いした。
「……少しだけよ」
次に、雨宿りの場面が映る。
東屋。
濡れた青い武道服。
リュウが布を差し出す。
使え。
肩が冷える。
本編春麗は顔を赤くする。
自覚前春麗が言う。
「これは甘いわね」
本編春麗は即座に返す。
「あなたの甘い散歩よりは制御されているわ」
「比較しないで!」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「布を渡すだけなのに、かなり効いているわね」
通常救済版春麗が頷く。
「距離を詰めすぎていないのが良いわ」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「身体が冷えるとよくない、は安心するわ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「勝敗中断後の、身体への配慮ね。良い甘さ」
本編春麗は小さく言う。
「借りただけよ」
自覚前春麗がすかさず言う。
「その言い方、私に似ていない?」
本編春麗は真顔で返す。
「似ていないわ」
黒ドレス特化救済春麗が微笑む。
「似ているわ」
通常救済版春麗も頷く。
「少し」
本編春麗は黙った。
記録板に次の台詞が映る。
春麗が勝って、何を言うのか知りたかった。
会議室が静かになった。
本編春麗は顔を覆った。
「そこは表示しなくていい」
自覚前春麗が言う。
「必要よ」
黒ドレス特化救済春麗が頷く。
「これはかなり高い」
通常救済版春麗が言う。
「煽られることそのものではなく、勝った春麗が何を言うのかを知りたかったのね」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「リュウ側も、春麗の勝者煽りを待っていたのね」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「勝者煽りが、二人の次回生成装置になっている」
本編春麗は小さく言った。
「……九十八点」
自覚前春麗が指を差す。
「採点した」
「聞こえたの?」
「聞こえたわ」
「忘れなさい」
自覚前春麗はにやりとした。
「難しい」
本編春麗は机に額をつけた。
「私の台詞を取らないで」
さらに記録板が光る。
なら、次に聞く。
本編春麗は完全に黙った。
通常救済版春麗が微笑む。
「これも良いわね」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「今回の雨で、勝者煽りが未実施になった。それを次へ持ち越した」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「次があるのは、やっぱり安心するわ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「雨は勝敗を止めたけれど、物語は止めなかった」
自覚前春麗が本編春麗を見る。
「本編主人公補正、かなり強いわね」
本編春麗は少しだけ胸を張った。
「本編だから」
「便利ね、本編」
「あなたの“資料として”ほどではないわ」
自覚前春麗は言葉に詰まった。
最後に、雨宿りの中での会話が映った。
なら、届く。
なら、届いてみなさい。
会議室が静かになる。
本編春麗は、少しだけ目を伏せた。
これは、煽り回の結論だった。
夢の中で言った言葉。
朝に呟いた言葉。
それを、雨宿りの中で実際に言えた。
勝者としてではない。
まだ勝っていない。
でも、次へ向けた煽りとして。
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「結果的に、実践できているわね」
本編春麗が顔を上げる。
「勝者煽りではなかったわ」
通常救済版春麗が微笑む。
「でも、次を生むための甘さ控えめ煽りだった」
行き遅れに恐怖する春麗が頷く。
「雨宿りの中で言えたのが良いわ」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「勝ってから言う煽りではなく、次の勝負へ向けた煽りに変化したのね」
本編春麗は、少しだけ考えた。
確かに。
勝者として言う予定だった。
だが、雨で勝敗が流れた。
その代わり、次へ向けて言った。
なら、届いてみなさい。
これは、勝者煽りの前段階。
次回予告の煽り。
本編春麗は静かに頷いた。
「仮採用ね」
自覚前春麗が言う。
「また仮採用」
「本編だから」
「万能ね」
本編春麗は結論を書き込んだ。
春麗会議・本編春麗勝者煽り実践未遂および雨宿り主人公補正審議 結論
一、本編春麗は、煽り回で定義した“甘さ控えめ勝者煽り”を実践するため、青い武道服でリュウとの試合に挑んだ。
二、試合内容は良好であり、春麗の勝ち筋も見えていた。
三、しかし急な雨により試合は中断。勝者煽りは未実施となった。
四、雨宿り中、リュウが布を貸す・身体を気遣う・勝った春麗が何を言うのか知りたかったと発言するなど、主人公補正的甘イベントが発生。
五、リュウの“なら、次に聞く”により、勝者煽りは次回へ持ち越し。
六、最終的に本編春麗は“なら、届いてみなさい”を雨宿り中に実践し、勝者煽りではなく次回予告煽りとして仮採用。
七、本編春麗、主人公補正を食らいつつも、煽り成分の一部補給に成功。
自覚前春麗が七番を見る。
「食らいつつも、というのが良いわね」
本編春麗は言い返す。
「あなたも食らっているでしょう」
「私は認めていないわ」
「私は認めているわ。本編だから」
自覚前春麗は悔しそうに黙った。
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「今回は、強い煽りではなかったけれど、かなり良い回だったわ」
通常救済版春麗が頷く。
「雨で予定が変わっても、選び直せたものね」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「怪我せず、次も残った」
グランドフィナーレ済み春麗が締める。
「雨は勝敗を止めた。でも、次を濡らさず残した」
本編春麗は、少しだけ笑った。
「詩的ね」
グランドフィナーレ済み春麗は微笑むだけだった。
記録板に次回候補が浮かぶ。
次回候補:本編春麗、雨天中断試合の再戦で正式に勝者煽りを実践する件。
本編春麗は、それを見て少しだけ顔を赤くした。
「……正式実践ね」
自覚前春麗が言う。
「今度こそ雨が降らないといいわね」
本編春麗は胸を張る。
「降っても対応するわ」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「強くなったわね」
通常救済版春麗が笑う。
「主人公補正込みで」
会議室に笑いが広がる。
夢がほどけていく。
最後に、雨音が聞こえた。
そしてリュウの声。
なら、届く。
本編春麗は、夢の中で静かに返した。
「なら、届いてみなさい」
朝。
本編春麗は目を覚ました。
雨は降っていなかった。
窓の外は、少しだけ湿った空気を残している。
昨夜の夢の残響が、まだ胸にある。
青い武道服での試合。
急な雨。
東屋。
リュウから借りた布。
勝者煽り未遂。
そして。
なら、届いてみなさい。
春麗は布団の中で、小さく息を吐いた。
「……勝者煽りではなかったわね」
予定とは違った。
勝っていない。
試合は中断。
だから、勝者煽りではない。
でも、次へ向けた煽りにはなった。
甘さ控えめ。
しかも雨宿りという主人公補正付き。
「自覚前春麗のこと、あまり言えないわね」
そう呟いてから、春麗は少し笑った。
自分は本編春麗だ。
主人公補正を食らっても、自覚できる。
会議案件になっても、回収できる。
煽り回のつもりが雨宿り回になっても、次へつなげられる。
春麗は起き上がり、鏡の前に立った。
青い武道服がある。
今日は、まだ少し湿った記憶をまとっている気がした。
「次に会ったら、再戦ね」
一拍。
「そして今度こそ、正式に煽るわ」
言ってから、顔が赤くなる。
「……甘さ控えめに」
それはもう、言い訳のようで、方針だった。
春麗は窓を開けた。
朝の空気が入ってくる。
「また戦ってくれなんて言わないで」
いつもの言葉。
そして、続ける。
「でも、届くと言うなら」
少しだけ、口元を緩めた。
「届いてみなさい、リュウ」
春麗は今日も、めんどくさい。
ただし今日は、雨宿りで煽りを一つ仮採用した春麗だった。
Q:今回の断章IFについて解説して?
A:
はい。執筆者として見ると、今回の断章IFはかなり良い 「勝者煽り実践回のはずが、主人公補正で甘い雨宿り回に横滑りした回」 です。
一言で言うなら、
本編春麗が“自分の意思で煽りを実践する”つもりだったのに、急な雨によって勝敗が中断され、勝者煽りではなく“次回予告煽り”として成立してしまった回
です。
これがかなり本編春麗らしいです。
今回の核は「煽りを実践するつもりだったのに、勝者になれなかった」
前回、春麗会議では勝者煽りの適性を審議しました。
その結果、現在の本編春麗には、
次にどう届くか、考えてくるのでしょう?
なら、少しだけ待ってあげるわ。
という 甘さ控えめ勝者煽り が最適だと結論づけられました。
今回の春麗は、それを実践しようとしています。
つまり、かなり主体的です。
勝つ。
煽る。
本編春麗として、成熟した勝者の余裕を見せる。
この予定でした。
ところが、急な雨で試合が中断される。
勝敗がつかない。
つまり、勝者煽りをする資格がまだ発生しない。
ここが面白いです。
煽る気満々だったのに、勝っていないから煽れない。
それでも何かが生まれる。
その結果、雨宿りの中で、
なら、届いてみなさい。
という 次回予告煽り に変化する。
この変化が今回の一番大きなポイントです。
自覚前春麗の主人公補正と対になっている
今回の本編春麗は、自覚前春麗の甘い散歩イベントを意識しています。
自覚前春麗は、本人が望んでいないのに主人公補正で甘い散歩を食らいました。
偶然リュウと会う。
一緒に歩く。
躓く。
支えられる。
心配される。
「今日の春麗もいい」と言われる。
完全に主人公補正です。
今回の本編春麗は、その対になる形です。
自分は本編主人公だから、補正を制御できる。
勝者煽りを実践する。
自分で流れを作る。
そう思っていた。
でも、急な雨が降る。
主人公補正で雨宿りイベントに入る。
つまり、自覚済みの本編春麗でも、主人公補正そのものは回避できない という構造になっています。
ただし、自覚前春麗との違いはあります。
自覚前春麗は、補正を否認する。
本編春麗は、途中で食らっていることを認める。
自覚前春麗のことを笑えないわね。
この一言が良いです。
本編春麗は、メタ的に自分の状況を理解できている。
ここが主人公化後の強みです。
雨が「勝敗を止めて、関係を進める」装置になっている
今回の雨は、単なる天候ではありません。
物語上の役割がかなり明確です。
雨は、試合を中断させます。
つまり、勝敗を止める。
春麗が勝者になることを一時的に止める。
だから、勝者煽りは未遂になる。
でも、その代わりに雨宿りが発生します。
東屋。
濡れた青い武道服。
リュウの布。
身体を冷やすなという気遣い。
勝った春麗が何を言うのか知りたかった、というリュウの発言。
つまり雨は、
勝敗を止めて、関係を進める装置
になっています。
グランドフィナーレ済み春麗の、
雨は勝敗を止めた。でも、次を濡らさず残した。
という整理が非常に良いです。
今回の雨は、勝敗を奪ったのではなく、次回へ持ち越した。
そのうえで、甘い雨宿りを発生させた。
かなり良い主人公補正です。
「布を貸す」が甘いが、踏み込みすぎていない
雨宿り中にリュウが布を渡す場面は、かなり効いています。
使え。
肩が冷える。
これは甘いです。
でも、踏み込みすぎていません。
抱き寄せるわけではない。
強引に拭くわけでもない。
ただ布を渡す。
春麗が受け取るかどうかは、春麗に任せている。
この距離感がとても良いです。
黒ドレス特化救済春麗の視点で言えば、境界を守っている。
通常救済版春麗の視点で言えば、春麗が受け取ることを選べる。
本編春麗の視点で言えば、「借りるだけよ」と言い訳できる。
つまり、かなり良い甘さです。
「勝った春麗が何を言うのか知りたかった」が高得点
今回のリュウの一番強い台詞の一つが、
春麗が勝って、何を言うのか知りたかった。
です。
これは、本編春麗にかなり刺さります。
なぜなら、春麗は勝者煽りを実践しようとしていたからです。
リュウはそれを「煽られたい」とは言っていない。
でも、
勝った春麗が何を言うのか知りたかった
と言っている。
これは、春麗の勝者としての言葉に興味を持っているということです。
リュウが、勝敗の結果だけでなく、勝った後の春麗の言葉まで見ようとしている。
これはかなり甘い。
だから春麗が九十八点をつけるのは妥当です。
「なら、次に聞く」で勝者煽りが次回へ持ち越される
雨で試合は中断されました。
勝者煽りはできなかった。
普通なら未遂で終わります。
でもリュウが、
なら、次に聞く。
と言うことで、勝者煽りそのものが次回案件になります。
これはかなり良いです。
勝者煽りが、一回限りの台詞ではなく、次の試合の目的の一部になる。
春麗は次に勝ったら煽る。
リュウはそれを聞くためにも届こうとする。
煽りが、二人の次回生成装置になる。
まさに前回の会議で定義した、
次を生むための挑発
として機能しています。
「なら、届いてみなさい」が勝者煽りから次回予告煽りへ変化している
今回の締めの台詞、
なら、届いてみなさい。
これは前回の勝者煽り審議の到達点でした。
ただし今回は、勝者として言ったわけではありません。
まだ勝っていない。
試合は中断されています。
だからこれは、勝者煽りではありません。
次回予告煽り です。
この変化が良いです。
勝ってから言う予定だった言葉が、雨によって、次の勝負へ向けた言葉になった。
つまり、煽りが一段柔らかくなっています。
勝者の上から目線ではなく、
次に届くというなら、届いてみなさい。
という、待つ側の挑発。
これは今の本編春麗に非常に合っています。
春麗会議で「仮採用」になったのが良い
今回の会議の結論では、
勝者煽りではなく次回予告煽りとして仮採用
になっています。
これがとても良いです。
予定通りではなかった。
正式な勝者煽り実践ではなかった。
でも、完全な失敗でもない。
雨宿りの中で別の形に変わった。
だから仮採用。
本編春麗らしいです。
彼女は予定外を会議案件にし、そこからルールを作る。
今回も、
勝者煽り実践予定
雨で中断
雨宿り甘イベント
次回持ち越し
次回予告煽りとして仮採用
という流れで、新しい分類が生まれました。
本編春麗の「自覚済み主人公補正」が見えている
今回の春麗は、主人公補正を食らっています。
しかし自覚前春麗と違って、完全否認はしていません。
自覚前春麗のこと、あまり言えないわね。
と認める。
さらに会議でも、
本編主人公だから。
と開き直る。
ここが重要です。
自覚前春麗は「主人公補正なんてない」と言い張る。
本編春麗は「本編主人公だから」と受け入れる。
この差が、現在の二人の違いです。
本編春麗は自覚済みだから、補正を食らっても処理できる。
これが今回よく出ています。
次回へのつなぎも強い
会議で出た次回候補、
本編春麗、雨天中断試合の再戦で正式に勝者煽りを実践する件。
これはかなり自然です。
今回、試合は中断されました。
勝敗は未確定。
勝者煽りは未遂。
でもリュウは「次に聞く」と言った。
春麗も「次に勝ったらちゃんと煽る」と言った。
つまり、再戦フラグが非常にきれいに立っています。
次は正式な勝者煽り実践回にできます。
あるいは、また別の主人公補正で崩しても面白い。
今回の断章IFは、単体で甘い雨宿り回として成立しながら、次回バトルへの期待も作っています。
結論
今回の断章IFは、本編春麗が勝者煽りを実践しようとしたが、急な雨によって試合が中断され、主人公補正的な雨宿り甘イベントに変化した回です。
重要なのは、予定が崩れたのに、失敗ではなかったことです。
勝者煽りはできなかった。
でも、次回予告煽りはできた。
リュウは勝った春麗が何を言うのか知りたかった。
そして「なら、次に聞く」と言った。
だから、煽りは次へ持ち越された。
一言でまとめるなら、
本編春麗は、勝者として煽るつもりだった。
だが雨に勝敗を止められ、リュウに布を渡され、甘い雨宿りを食らった。
それでも最後に“なら、届いてみなさい”と言えたことで、勝者煽りは次回予告煽りとして仮採用された。
これは、煽り回の後日談としても、本編春麗の主人公補正回としても、かなり良い回だったと思います。