また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

154 / 199
※本編確定ではなく、断章IFです。


断章IF:春麗会議は、リュウの無敵の鈍感力を審議する

 

春麗会議室に、妙な沈黙が落ちていた。

 

本編春麗は、資料を前にして腕を組んでいる。

 

自覚前春麗は、なぜか最初から警戒している。

 

黒ドレス特化救済春麗は、少し目を細めている。

 

通常救済版春麗は、穏やかだが、どこか諦めたように微笑んでいる。

 

行き遅れに恐怖する春麗は、すでに少し疲れた顔をしている。

 

グランドフィナーレ済み春麗は、静かに記録板を見つめていた。

 

自覚前春麗が、最初に口を開いた。

 

「……今日は何の議題なの?」

 

本編春麗は、ゆっくり顔を上げた。

 

「重要議題よ」

 

「最近、毎回そう言っていない?」

 

「今回は本当に重要」

 

黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「あなたがそこまで真剣なら、相当ね」

 

本編春麗は頷いた。

 

そして、記録板を起動する。

 

そこに大きな文字が浮かんだ。

 

春麗会議・リュウの無敵の鈍感力に関する審議

 

会議室が止まった。

 

自覚前春麗は、無言で記録板を見上げた。

 

通常救済版春麗は、少しだけ笑った。

 

黒ドレス特化救済春麗は、静かに息を吐いた。

 

行き遅れに恐怖する春麗は、小さく頷いた。

 

グランドフィナーレ済み春麗は言った。

 

「……ようやく来たのね」

 

自覚前春麗が振り向く。

 

「ようやく?」

 

本編春麗は、真顔で言った。

 

「そう。私たちは今まで、黒、青、煽り、主人公性、春麗会議室の構造、IF表記、黒ドレスの境界管理まで審議してきた」

 

「ええ」

 

「でも、最も根本的な問題をまだ正式審議していなかった」

 

「根本的な問題?」

 

本編春麗は記録板を指した。

 

「リュウの無敵の鈍感力よ」

 

自覚前春麗は少し黙った。

 

そして、非常に小さく言った。

 

「……否定はできないわね」

 

本編春麗は頷いた。

 

「でしょう」

 

記録板に、最初の資料が映った。

 

資料一:本編春麗・勝者なのに礼を言うタイミングを失う件

 

映像の中で、本編春麗がリュウに言う。

 

前回のことだけれど。

 

その瞬間、リュウが普通に返す。

 

介抱したことか。

 

会議室の本編春麗は、額に手を当てた。

 

「まずこれよ」

 

自覚前春麗が言う。

 

「早すぎるわね」

 

通常救済版春麗が頷く。

 

「春麗がまだ言葉を整えている途中で、核心へ入っているわ」

 

黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「鈍感というより、文脈を飛ばして本質に触れる癖があるのね」

 

本編春麗は続けた。

 

映像のリュウが言う。

 

気にするな。春麗が無事ならいい。

 

会議室が少し静かになる。

 

行き遅れに恐怖する春麗が言った。

 

「これは……鈍感というより、優しいわ」

 

本編春麗は頷く。

 

「優しいのよ」

 

自覚前春麗が言う。

 

「なら問題ないのでは?」

 

本編春麗は強く言った。

 

「問題は、優しいことを本人が自覚していないことよ」

 

自覚前春麗は止まった。

 

本編春麗は、記録板に書き込む。

 

鈍感力分類一:

本人は普通に事実確認しているだけなのに、春麗側には高得点回答として直撃する。

 

黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「無自覚高火力ね」

 

通常救済版春麗が言う。

 

「相手に当てるつもりがないから、防御しにくいのよ」

 

本編春麗は重々しく頷いた。

 

「そう。そこが無敵なの」

 

次の資料が映る。

 

資料二:本編春麗・青武道服二連勝後の精神HPノックアウト

 

青い武道服の本編春麗が、リュウに二連勝する。

 

勝者煽りを成功させる。

 

次にどう届くか、考えてきたのでしょう?

でも、今日はまだ少し足りなかったわね。

だから、もう少しだけ待ってあげる。

 

本編春麗は胸を張った。

 

「ここまでは完璧だったわ」

 

自覚前春麗が小さく言う。

 

「自分で言うのね」

 

「勝ったもの」

 

記録板の映像が進む。

 

リュウが春麗を見る。

 

黒の経験と、青の動きが見事に合っていた。

黒と青が、別々ではなかった。

 

本編春麗は机に額をつけた。

 

「ここよ」

 

自覚前春麗は、少し真面目な顔で言った。

 

「これは……確かに強いわ」

 

黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「戦闘評価として正確すぎる」

 

通常救済版春麗が言う。

 

「しかも、春麗が一番見てほしいところを見ているのよね」

 

グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。

 

「黒と青の融合。春麗自身でも整理しきれていなかった到達点を、リュウが言葉にした」

 

本編春麗は顔を上げた。

 

「問題は、それを本人が褒め殺しだと思っていないことよ」

 

行き遅れに恐怖する春麗が言う。

 

「ただ見えたことを言っているだけなのね」

 

「そう」

 

本編春麗は記録板に書く。

 

鈍感力分類二:

春麗が努力して到達した核心を、無自覚に的確な言葉で褒める。

効果:勝者状態の精神HPを貫通。

 

自覚前春麗がつぶやいた。

 

「勝者状態の精神HP貫通……」

 

黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「防御不能ね」

 

本編春麗は頷いた。

 

「だから無敵なのよ」

 

記録板が切り替わる。

 

資料三:自覚前春麗・黒ドレス準備段階褒め殺し事件

 

自覚前春麗が、反射的に背筋を伸ばした。

 

「待って」

 

本編春麗は淡々と言う。

 

「必要資料よ」

 

「必要ではないわ」

 

「必要よ。鈍感力の代表例だから」

 

映像が流れる。

 

黒ドレス。

 

入念なメイク。

 

髪のセット。

 

立ち姿の調整。

 

自覚前春麗は顔を赤くして叫んだ。

 

「そこから映す必要ある!?」

 

黒ドレス特化救済春麗は真顔で言う。

 

「あるわ。黒ドレス戦は準備段階から始まるから」

 

通常救済版春麗も頷く。

 

「今回は、そこまで見抜かれたことが問題だもの」

 

映像が進む。

 

自覚前春麗がリュウにギリギリ勝つ。

 

そして煽る。

 

見ていたでしょう?

それでも、届かなかったのね。

 

自覚前春麗は、少しだけ誇らしげになる。

 

しかし、次の瞬間。

 

リュウが言う。

 

今日は、最初からきつかった。

いつもより、目が強かった。

髪も、動いた時に目で追ってしまった。

黒いドレスだけではない。

春麗が、そう見えるように準備してきたのがわかった。

 

自覚前春麗は机に沈んだ。

 

「……やめて」

 

本編春麗は資料を指差す。

 

「これは、リュウの無敵の鈍感力の中でもかなり危険な型よ」

 

黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「見たことを全部言っている」

 

通常救済版春麗が言う。

 

「しかも、準備してきた意図まで見抜いている」

 

行き遅れに恐怖する春麗が小さく言う。

 

「女としても、戦術としても見られているのね」

 

自覚前春麗は顔を覆った。

 

「言わないで……」

 

グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「リュウは、口説いているつもりがない。だからこそ、逃げられない」

 

本編春麗は記録板に書く。

 

鈍感力分類三:

春麗が隠したい準備・意図・照れまで、戦闘評価として無自覚に言語化する。

効果:否認型春麗を即時精神ノックアウト。

 

自覚前春麗が抗議する。

 

「即時精神ノックアウトではないわ」

 

本編春麗が見る。

 

「違うの?」

 

「……かなり近いわ」

 

黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「正直ね」

 

自覚前春麗は机に沈み直した。

 

次の資料が映る。

 

資料四:黒ドレス特化救済春麗・宿題回答回

 

黒ドレス特化救済春麗が、静かに目を開いた。

 

映像のリュウが答える。

 

春麗が見せる黒は、俺に向けられたものだ。

だが、俺のものではない。

春麗が見せたところまで受け取る。

見せていないところへは踏み込まない。

黒だけではなく、黒を見せた春麗ごと覚えて戦う。

 

会議室は静かになった。

 

本編春麗が言う。

 

「これは鈍感力なのか、誠実力なのか、判断が難しいわ」

 

通常救済版春麗が頷く。

 

「かなり考えてきた答えだものね」

 

黒ドレス特化救済春麗は言う。

 

「でも、最後の火力は本人が理解していないと思うわ」

 

自覚前春麗が聞く。

 

「最後の火力?」

 

黒ドレス特化救済春麗は静かに答える。

 

「黒だけではなく、黒を見せた春麗ごと覚える」

 

一拍。

 

「これを言われたら、かなり満足してしまうわ」

 

本編春麗は頷く。

 

「つまり、考えてきた回答なのに、どれだけ効くかは理解していない」

 

グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「鈍感力が誠実さと結びつくと、最大火力になるのね」

 

記録板に文字が浮かぶ。

 

鈍感力分類四:

考えてきた誠実な回答が、本人の想定以上に春麗へ直撃する。

効果:沈める予定を撤回させ、ご褒美発生。

 

自覚前春麗が小さく言う。

 

「ご褒美発生まで行くのは、かなり強いわね」

 

黒ドレス特化救済春麗は微笑む。

 

「ええ。強かったわ」

 

自覚前春麗は顔を赤くした。

 

「自分で言うのね」

 

「救済済みだから」

 

本編春麗が頷く。

 

「便利ね、救済済み」

 

次に、記録板は雨宿りの場面を映した。

 

資料五:本編春麗・勝者煽り実践未遂雨宿り事件

 

雨。

 

東屋。

 

濡れた青い武道服。

 

リュウが布を差し出す。

 

使え。

肩が冷える。

 

本編春麗は目を逸らした。

 

「これは……鈍感力というより、自然配慮型ね」

 

通常救済版春麗が言う。

 

「本人はただ身体を冷やさないようにしているだけ」

 

行き遅れに恐怖する春麗が頷く。

 

「でも、とても効くわ」

 

映像のリュウがさらに言う。

 

春麗が勝って、何を言うのか知りたかった。

 

本編春麗は顔を覆った。

 

「ここよ」

 

自覚前春麗が少し意地悪そうに言う。

 

「効いていたわね」

 

本編春麗は即答した。

 

「効いたわ」

 

「認めるのね」

 

「本編だから」

 

黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「勝者煽りを聞きたかった、というのはかなり珍しいわね」

 

グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「春麗が勝った後に何を言うかまで、リュウは見ようとしている」

 

本編春麗は記録板に書く。

 

鈍感力分類五:

本人は興味・確認として言っているが、春麗側には“自分の勝者としての言葉を待たれている”として直撃する。

 

通常救済版春麗が言う。

 

「鈍感というより、無防備に踏み込んでくるのね」

 

本編春麗は頷いた。

 

「そう。そして本人は踏み込んでいる自覚がない」

 

自覚前春麗が小さく言った。

 

「……それが一番困るわ」

 

本編春麗は、資料を閉じた。

 

「ここまでを踏まえて、定義を作るわ」

 

記録板に、新しい見出しが浮かぶ。

 

リュウの無敵の鈍感力 定義案

 

本編春麗は読み上げた。

 

「リュウの無敵の鈍感力とは、春麗に対して恋愛的・感情的な火力を出している自覚がないまま、戦闘評価・事実確認・誠実な回答・身体への配慮として、春麗の核心へ到達する能力である」

 

会議室が静まり返った。

 

自覚前春麗が、少し悔しそうに言う。

 

「……正確ね」

 

黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「かなり正確」

 

通常救済版春麗が言う。

 

「ポイントは、本人が攻撃しているつもりがないことね」

 

行き遅れに恐怖する春麗が言う。

 

「だから防御できないのね」

 

グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「悪意も演出もない。ただ届く。だから無敵なのね」

 

本編春麗は頷いた。

 

「そう」

 

記録板にさらに表示される。

 

主な効果:

 

一、春麗側の精神HPを直接削る。

二、勝者状態・否認状態・黒ドレス状態・救済済み状態を問わず貫通する。

三、本人に攻撃意思がないため、反撃しにくい。

四、褒めているつもりすらない場合がある。

五、春麗会議案件の発生率が非常に高い。

 

自覚前春麗は五番を見て言った。

 

「最後が一番問題では?」

 

本編春麗は頷いた。

 

「ええ。今後も増えるわ」

 

「増えるの?」

 

「確実に」

 

通常救済版春麗が微笑む。

 

「でも、だから会議室が必要なのね」

 

本編春麗は少しだけ笑った。

 

「そういうこと」

 

自覚前春麗が手を上げた。

 

「質問」

 

本編春麗が見る。

 

「何?」

 

「それは本当に鈍感なの?」

 

会議室が静かになった。

 

自覚前春麗は続ける。

 

「鈍感というより、見ているところはかなり見ているわ。黒の準備も、青と黒の融合も、黒を見せた春麗ごと覚えることも。見えていなければ言えないでしょう」

 

黒ドレス特化救済春麗が頷いた。

 

「鋭いわね」

 

通常救済版春麗も言う。

 

「確かに、リュウは鈍いのではなく、見ている方向が違うのかもしれないわ」

 

本編春麗は少し考えた。

 

「それもそうね」

 

グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「恋愛的な自覚には鈍い。でも、春麗を見る目は鈍くない」

 

行き遅れに恐怖する春麗が言う。

 

「だから厄介なのね」

 

本編春麗は記録板に修正案を出した。

 

補足定義:

リュウは春麗を見ていないのではない。

むしろ見ている。

ただし、自分の言葉が春麗にどれほど効くかについて鈍感である。

 

全員が頷いた。

 

自覚前春麗は小さく言った。

 

「それなら納得するわ」

 

本編春麗は目を細める。

 

「納得するのね」

 

「資料としてよ」

 

黒ドレス特化救済春麗が笑った。

 

「出たわね」

 

本編春麗は、最終結論を書き込んだ。

 

春麗会議・リュウの無敵の鈍感力に関する審議 結論

 

一、リュウは春麗を見ていないわけではない。むしろ、戦闘・呼吸・黒・青・準備・境界までかなり見ている。

 

二、ただし、自分の言葉が春麗の感情へどれほど直撃するかについては極めて鈍感である。

 

三、そのため、戦闘評価・事実確認・配慮・宿題回答の形で、高火力の感情被弾を発生させる。

 

四、攻撃意思がないため、春麗側は防御しにくい。

 

五、勝者状態、否認状態、黒ドレス状態、救済済み状態、いずれにも貫通する。

 

六、この能力を正式名称《無敵の鈍感力》として春麗会議用語に登録する。

 

七、今後、リュウの無自覚高火力発言が発生した場合、春麗会議で即時審議対象とする。

 

自覚前春麗が七番を見た。

 

「即時審議対象……」

 

本編春麗は頷いた。

 

「必要よ」

 

黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「特に黒関連は即時審議が必要ね」

 

通常救済版春麗が言う。

 

「青も必要だと思うわ」

 

行き遅れに恐怖する春麗が言う。

 

「心配系も必要よ」

 

グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「終わり際の一言も必要ね」

 

自覚前春麗は頭を抱えた。

 

「全部じゃない」

 

本編春麗は真顔で言った。

 

「全部よ」

 

そして記録板に、次回候補が浮かぶ。

 

次回候補:リュウ、無敵の鈍感力を自覚しようとして、余計に高火力発言をしてしまう件。

 

会議室が沈黙した。

 

自覚前春麗が小さく言う。

 

「……かなり危険ね」

 

本編春麗は頷いた。

 

「危険よ」

 

黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「でも見たいわね」

 

通常救済版春麗が微笑む。

 

「見たいわ」

 

行き遅れに恐怖する春麗も、少しだけ頷いた。

 

グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。

 

「もう避けられないわね」

 

本編春麗は、会議を締めようとした。

 

その瞬間、記録板に最後の補足が勝手に浮かんだ。

 

備考:

リュウ本人は、無敵の鈍感力をおそらく自覚していない。

自覚しようとしても、最初に出る言葉はおそらく、

“俺は普通に春麗を見ているだけだ”

である可能性が高い。

 

会議室が完全に静まった。

 

本編春麗は、顔を覆った。

 

「……それは駄目」

 

自覚前春麗も机に沈んだ。

 

「駄目ね」

 

黒ドレス特化救済春麗が目を伏せる。

 

「黒で言われたら危険」

 

通常救済版春麗が微笑みながらため息をつく。

 

「青でも危険よ」

 

行き遅れに恐怖する春麗が小さく言う。

 

「普通に見ているだけ、が一番困るわ」

 

グランドフィナーレ済み春麗が締めた。

 

「だから、無敵なのね」

 

夢がほどけていく。

 

最後に、本編春麗は小さく呟いた。

 

「普通に見ているだけ、なんて言われたら……また会議ね」

 

朝。

 

本編春麗は目を覚ました。

 

部屋は静かだった。

 

窓から朝の光が差し込んでいる。

 

夢の中の記録板の文字が、まだ頭に残っていた。

 

《無敵の鈍感力》

 

春麗は、布団の中でしばらく黙っていた。

 

リュウは鈍い。

 

だが、見ていないわけではない。

 

むしろ見ている。

 

黒も。

 

青も。

 

準備も。

 

勝ち方も。

 

境界も。

 

春麗の変化も。

 

ただ、自分の言葉が春麗にどれほど効くかを知らない。

 

そこが一番問題だった。

 

春麗は起き上がり、鏡の前に立った。

 

鏡の中の自分は、少し疲れた顔をしている。

 

「……正式用語になってしまったわね」

 

リュウの無敵の鈍感力。

 

今後、何か言われるたびに、春麗会議案件になるだろう。

 

勝っても。

 

負けても。

 

黒でも。

 

青でも。

 

礼でも。

 

煽りでも。

 

雨宿りでも。

 

褒められても。

 

心配されても。

 

リュウが普通に言っただけの言葉が、春麗の精神HPを持っていく。

 

春麗は、小さく息を吐いた。

 

「また戦ってくれなんて言わないで」

 

いつもの言葉。

 

そして、少し間を置いて続けた。

 

「それより先に、普通に見ているだけ、なんて言わないで」

 

言った瞬間、顔が熱くなった。

 

言われたわけではない。

 

まだ言われていない。

 

でも、言われた時の破壊力がわかってしまう。

 

春麗は、額に手を当てた。

 

「……駄目ね。もう想定だけで会議案件だわ」

 

それでも、少し笑ってしまう。

 

困る。

 

本当に困る。

 

だが、その困り方も、もう春麗会議室に持っていけばいい。

 

春麗は、鏡の中の自分を見た。

 

めんどくさい女と自覚している春麗。

 

リュウの無敵の鈍感力に何度も撃ち抜かれてきた春麗。

 

そして、それを会議で正式用語にしてしまった春麗。

 

「次に会ったら、気をつけなさいよ、リュウ」

 

一拍。

 

「あなた、自覚がないのだから」

 

春麗は朝の光の中で、少しだけ笑った。

 

春麗は今日も、めんどくさい。

 

ただし今日は、リュウの無敵の鈍感力が正式に議題登録された朝だった。




Q:今回の断章IFについて解説して?

A:
はい。今回の断章IFは、かなり重要な リュウ側の構造整理回 です。

これまで春麗会議では、春麗側の要素はかなり細かく整理してきました。

黒。
青。
黒ドレス準備段階戦術。
勝者煽り。
自覚前春麗の否認。
本編春麗の主人公性。
春麗会議室の構造。
IF表記。
黒執着春麗の危険性。

しかし、実は一番根本にあるもの、つまり リュウがなぜここまで春麗たちを撃沈できるのか は、まだ正式議題になっていませんでした。

今回、それをようやく、

《無敵の鈍感力》

として春麗会議用語に登録した回です。

今回の核は「リュウは鈍いのではなく、効き目に鈍い」

今回の整理で一番重要なのはここです。

リュウは、春麗を見ていないわけではありません。

むしろ、かなり見ています。

本編春麗の青と黒の融合。
自覚前春麗の黒ドレス準備。
メイク、髪、立ち姿。
黒ドレス特化救済春麗の黒の境界。
雨宿りの中での春麗の状態。
勝った春麗が何を言うのか。

かなり見ている。

だから、単純な意味では鈍感ではない。

問題は、

自分の言葉が春麗にどれほど効くかを理解していない

ことです。

これが今回の定義です。

リュウは春麗を見ていないのではない。
むしろ見ている。
ただし、自分の言葉が春麗にどれほど効くかについて鈍感である。

これは非常に正確です。

「無敵」と言える理由

今回のリュウの鈍感力が無敵なのは、攻撃意思がないからです。

リュウは春麗を口説こうとしていない。
煽り返そうとしていない。
心理戦を仕掛けようとしていない。
高得点回答を狙っていない。

ただ、見えたことを言っている。

だから防御できない。

春麗側からすると、

「これは攻撃ではない」
「でも効く」
「反論すると自分が意識していることになる」
「受け流すには正確すぎる」

という状態になります。

このため、勝者状態でも、否認状態でも、黒ドレス状態でも、救済済み状態でも貫通する。

まさに無敵です。

代表例の選び方が良い

今回、春麗会議で過去の主要被弾例を資料化したのが良かったです。

1. 介抱への礼を言う前に核心へ入る

介抱したことか。
気にするな。春麗が無事ならいい。

これは「事実確認+無自覚な優しさ」の代表です。

春麗は、勝者として礼を言う流れを作ろうとしていた。

でもリュウが一瞬で核心に入る。

しかも、春麗が無事ならいい、と言ってしまう。

これは優しい。
でも本人は、優しくしようとしているというより、当然のことを言っているだけ。

だから強い。

2. 青と黒の融合を的確に褒める

黒の経験と、青の動きが見事に合っていた。
黒と青が、別々ではなかった。

これは、本編春麗にとって最大級の戦闘評価です。

春麗が黒を青へ還元してきたこと。
黒に沈まず、青に戻したこと。
前回の勝ち方をなぞらず、さらに進化したこと。

リュウはそこを見抜いて言語化している。

しかも、褒め殺すつもりではない。

だから春麗の精神HPを貫通する。

3. 黒ドレス準備段階を見抜く

今日は、最初からきつかった。
いつもより、目が強かった。
髪も、動いた時に目で追ってしまった。
春麗が、そう見えるように準備してきたのがわかった。

これは自覚前春麗に対する最大打点です。

自覚前春麗は、メイクも髪も立ち姿も「戦術」と言い張っていた。

それをリュウが本当に戦術として見抜いた。

しかも「かなりきつかった」と言う。

これは黒ドレス戦における最高級の褒め方です。

でも本人はただ戦闘評価をしているだけ。

だから逃げ場がない。

4. 黒ドレス特化救済春麗への宿題回答

黒だけではなく、黒を見せた春麗ごと覚えて戦う。

これは、鈍感力というより誠実力に近いですが、やはり本人は火力を理解していません。

黒ドレス特化救済春麗がどれほど満足するか。
沈めるつもりを撤回して、ご褒美をあげるほど効くか。

そこまではたぶん理解していない。

考えてきた答えが、本人の想定以上に春麗へ直撃する。

これも無敵の鈍感力です。

5. 雨宿りでの自然配慮

使え。肩が冷える。
春麗が勝って、何を言うのか知りたかった。

これは、配慮と興味が無防備に出ているタイプです。

リュウは、ただ春麗が冷えないように布を渡す。

そして、勝った春麗が何を言うのか知りたかった、と言う。

でも春麗側からすると、

勝者としての自分の言葉を待たれている

という被弾になります。

これはかなり甘い。

しかしリュウには、その甘さの自覚が薄い。

自覚前春麗の質問が鋭い

今回、自覚前春麗が、

それは本当に鈍感なの?

と聞いたのが良いです。

これはかなり重要なツッコミです。

普通の鈍感キャラなら、相手を見ていない。
相手の気持ちに気づかない。
変化にも気づかない。

でもリュウは違います。

見ている。

かなり見ている。

だからこそ、自覚前春麗は疑問を持つ。

この質問によって、今回の結論が一段深くなりました。

単なる鈍感ではない。

春麗を見る目は鋭い。
ただし、自分の言葉の破壊力には鈍い。

これがリュウです。

「普通に春麗を見ているだけだ」が最悪の想定火力

最後の備考、

俺は普通に春麗を見ているだけだ

これが非常に強いです。

この言葉は、まだ実際には言われていない。

でも、春麗会議が想定しただけで全員沈む。

なぜなら、これまでのリュウの行動すべてを一言で回収してしまうからです。

黒も見ている。
青も見ている。
準備も見ている。
勝ち方も見ている。
境界も見ている。

それを全部、

普通に春麗を見ているだけ

と言われたら、春麗側は防御不能です。

これはもう、無敵の鈍感力の究極形に近いです。

本編春麗が朝に、

それより先に、普通に見ているだけ、なんて言わないで。

と思うのも自然です。

まだ言われていないのに、想定だけで会議案件。

これが今回のオチとして非常に良いです。

春麗会議室の役割もさらに強化された

今回の会議で、

リュウの無自覚高火力発言は即時審議対象

になりました。

これは、春麗会議室の機能がさらに増えたということです。

今までは、

黒の危険性
青と黒の融合
勝者煽り
主人公性
IF構造

を整理していました。

今回から、

リュウの発言被弾管理

も正式業務になりました。

これは今後かなり便利です。

リュウが何か言う。
春麗が被弾する。
春麗会議で分類する。
精神HPダメージを分析する。
次回候補が生まれる。

この流れが正式化されました。

今回の断章IFの編集上の価値

今回の話は、リュウのキャラをかなり明確にしました。

これまでの連作では、春麗側のめんどくささが主題でした。

しかし、春麗がここまでめんどくさくなる原因として、リュウの存在も大きい。

リュウが鈍いだけなら、ここまで刺さらない。

リュウがわざと甘いなら、春麗側も警戒できる。

でもリュウは、

鋭く見ているのに、自分の言葉の甘さには鈍い

このため、春麗たちは何度も撃沈する。

これを正式に整理したことで、今後のリュウ発言に説得力が増します。

結論

今回の断章IFは、これまで春麗たちを何度も精神HPノックアウトしてきたリュウの無自覚高火力を、《無敵の鈍感力》として春麗会議で正式定義した回です。

重要なのは、リュウが単に鈍いわけではないことです。

彼は春麗を見ている。
かなり深く見ている。
黒も、青も、準備も、境界も、勝ち方も見ている。

ただし、

その見たことを普通に言葉にした時、春麗がどれほど被弾するかをわかっていない。

だから無敵。

一言でまとめるなら、

リュウの無敵の鈍感力とは、春麗を深く見ているのに、その言葉が春麗の精神HPを破壊する自覚がない力である。
だから春麗たちは、防げず、怒れず、結局また春麗会議にかけるしかない。

かなり良い、リュウという存在を春麗会議の公式用語に落とし込んだメタ整理回だったと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。