また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
本編春麗は、わかっていた。
最近、危険な流れがある。
自覚前春麗が、主人公補正で甘い日常イベントを食らった。
黒ドレスでもない。
青武道服でもない。
試合でもない。
勝者煽りでもない。
ただ普通に歩いて、果物を拾って、風を避けられて、雨宿りをして、リュウに普通の日を覚えられただけ。
それだけで、自覚前春麗は精神HPを削られた。
そして春麗会議室では、こう結論づけられた。
普通の日常も危険。
本編春麗は、朝の鏡の前で深く頷いた。
「ええ。危険よ」
わかっている。
自覚前春麗とは違う。
自分はもう、自分をめんどくさい女だと自覚している。
リュウ関連イベントへの感情反応倍率上昇という、非常に厄介なパッシブスキルまで把握している。
だから、対策はできる。
今日は戦わない。
青武道服も着ない。
黒ドレスも着ない。
リュウと会っても、昨日の青や黒や拳の残響の話はしない。
煽りセリフも使わない。
日常を日常として処理する。
本編春麗は鏡の中の自分に言った。
「今日は、甘いイベントを発生させない」
一拍。
「主人公補正に負けない」
言い切った。
そして、そこで少し嫌な予感がした。
こういうことを言うと、だいたい負ける。
リュウは、いつもの道にいた。
本編春麗は、遠目にその姿を見つけた瞬間、足を止めた。
早い。
遭遇が早すぎる。
まだ何も始まっていないのに、もう主人公補正の気配がする。
リュウも春麗に気づいた。
「春麗」
「リュウ」
普通の挨拶。
ここまでは問題ない。
本編春麗は、冷静に距離を測った。
今日は戦わない。
だから、間合いを取る必要はない。
だが近づきすぎると危険。
半歩。
半歩だけ距離を残す。
リュウは、春麗を見た。
「今日は青ではないんだな」
春麗は身構えた。
「ええ。今日は戦わないもの」
「そうか」
「青の話も、昨日の話もしないわ」
「昨日の話?」
「何でもないわ」
リュウは少し考えた。
「今日は歩くのか」
「ええ。少しだけ」
「俺も同じ方向だ」
春麗は目を細めた。
「偶然?」
「ああ」
「本当に?」
「たぶん」
「たぶん?」
「行き先は同じだが、春麗に会うとは思っていなかった」
春麗は心の中で記録した。
主人公補正疑惑:発生。
だが、まだ耐えられる。
偶然会っただけ。
同じ方向に歩くだけ。
ここで警戒しすぎると、逆に自分が意識しているようになる。
本編春麗は、平静を装って歩き出した。
「なら、少しだけ一緒ね」
「ああ」
リュウが隣に並ぶ。
近すぎない。
遠すぎない。
本編春麗は思った。
この距離が一番危険なのよ。
しばらくは、何も起きなかった。
本当に何も起きなかった。
風が穏やかに吹いている。
空は明るい。
道端の花が揺れている。
リュウは黙って歩いている。
春麗も黙って歩いている。
普通。
あまりにも普通。
だからこそ、春麗は警戒を解かなかった。
自覚前春麗も、普通の日に食らった。
自分も同じパターンに入る可能性がある。
本編春麗は、横目でリュウを見る。
リュウは前を見ている。
何かを言いそうな気配はない。
なら、大丈夫。
そう思った瞬間、リュウが言った。
「春麗」
「何?」
「今日は、昨日より少し楽に見える」
春麗の精神HPが、軽く削れた。
「……何が?」
「歩き方が」
「歩き方?」
「ああ。戦う時とは違う」
春麗は心の中で深呼吸した。
これは観察。
武人としての観察。
甘い発言ではない。
大丈夫。
「今日は戦わないと言ったでしょう」
「だからか」
「ええ」
「戦わない春麗は、少し柔らかいな」
精神HPに追加ダメージ。
本編春麗は足を止めた。
「リュウ」
「何だ」
「その言い方は危険よ」
「危険か」
「危険」
「なぜだ」
「私が困るから」
言ってから、春麗は少し後悔した。
困ると言ってしまった。
リュウは首を傾げる。
「困るのか」
「困らないわ」
「今、困ると言った」
「言葉のあやよ」
「そうか」
リュウは素直に受け取った。
その素直さがまた危険だった。
春麗は歩き出す。
「今日は、余計な観察は禁止」
「わかった」
「本当に?」
「ああ」
リュウは少し間を置いて言った。
「では、言わない」
本編春麗は、横目でリュウを見た。
「思ってはいるのね?」
「思っている」
「そこも禁止したいわ」
「それは難しい」
「でしょうね」
リュウは見たものを言う。
言わなくても、見ている。
それが一番困る。
商店街に入ると、小さな騒ぎがあった。
店先で、紙袋が破れ、果物がいくつか転がっている。
見覚えのある展開だった。
春麗は足を止めた。
「……これは」
主人公補正の気配が濃い。
自覚前春麗が食らったイベントに似ている。
しかし、ここで見て見ぬふりはできない。
春麗はすぐに動いた。
転がる果物を足で止め、手早く拾う。
リュウも同時に動いた。
一つの果物へ、二人の手が伸びる。
春麗は瞬時に反応した。
前回の自覚前春麗ログを思い出す。
指先接触:精神HP被弾。
回避。
春麗は手を止めた。
だが、リュウも同じ果物を拾おうとして、そこで春麗の手が止まったことに気づく。
「春麗?」
「何でもないわ」
「拾わないのか」
「あなたが拾えばいいでしょう」
「そうか」
リュウは果物を拾い、店主に渡した。
春麗は内心で勝利を確信した。
指先接触イベント、回避成功。
主人公補正を一つ潰した。
やればできる。
しかし、店主が笑って言った。
「ありがとうね、お二人さん。仲がいいんだね」
本編春麗の精神HPが別方向から削れた。
「違います」
即答した。
リュウが見る。
「違うのか」
「今そこに反応しないで」
「そうか」
店主は楽しそうに笑っている。
「はい、お礼。二人で食べな」
そう言って、小さな包みに入った菓子を一つ渡してきた。
一つ。
二人で。
春麗は、包みを見た。
これは駄目だ。
指先接触は回避した。
だが、別のイベントアイテムが発生した。
リュウは普通に受け取る。
「ありがとう」
春麗は小さく言った。
「受け取るのね」
「礼だからな」
「一つなのよ」
「ああ」
「二人で、と言われたのよ」
「そうだな」
「そこで普通に頷かないで」
リュウは少し考えた。
「春麗が食べるか?」
「そういう問題ではないわ」
「俺は半分でいい」
「だから、そういう問題ではないの」
本編春麗は、早くこの場を離れることにした。
店主の笑顔が、精神HPに悪い。
商店街を抜けた後、二人は小さな公園に入った。
本編春麗としては、ここで解散するつもりだった。
だが、リュウの手には、店主にもらった菓子がある。
一つ。
二人で。
イベントアイテムとしての圧が強い。
春麗は言った。
「それ、あなたが食べていいわ」
リュウは首を振った。
「二人でと言われた」
「律儀ね」
「礼だからな」
「あなた、そういうところが本当に……」
言いかけて止める。
何を言っても自分が負けそうだった。
リュウは包みを開ける。
小さな焼き菓子だった。
本当に一つ。
半分に割るには、少し硬そうだった。
リュウは普通に割ろうとした。
菓子が少し崩れる。
春麗は反射的に手を出した。
「待って。そんな割り方だと崩れるわ」
リュウが手を止める。
「そうか」
春麗は菓子を受け取り、きれいに二つに割った。
片方をリュウに渡す。
その瞬間、リュウの指が春麗の指に少し触れた。
回避不能。
精神HPにダメージ。
本編春麗は、静かに目を閉じた。
「……結局、触れるのね」
「何がだ」
「何でもないわ」
リュウは菓子を受け取る。
そして、少し見てから言った。
「春麗は、こういう時も丁寧だな」
追加ダメージ。
「何を褒めているの?」
「割り方だ」
「菓子の割り方を褒められても困るわ」
「綺麗だった」
「そういう細かいところを見ないで」
「見えた」
「でしょうね」
本編春麗は菓子を食べた。
甘かった。
思ったより甘かった。
これも主人公補正だろうか。
甘いイベントで甘いものを食べさせるのは、少し露骨ではないか。
春麗は心の中で会議室に抗議した。
リュウが言う。
「うまいな」
「そうね」
「春麗が半分にしたから、食べやすかった」
精神HPにまた小さなダメージ。
「そこを評価しないで」
「なぜだ」
「私が困るから」
言ってしまった。
二回目。
本編春麗は自覚済みなので、自分の失言にも気づいてしまう。
「今のはなし」
リュウは頷いた。
「わかった」
少し間を置く。
「だが、困る春麗も悪くない」
精神HPに大ダメージ。
本編春麗は立ち上がった。
「帰るわ」
「まだ半分残っている」
「あなたが食べなさい」
「春麗の分だ」
「今は食べたら負ける気がするの」
「勝負なのか」
「勝負よ。私の中では」
リュウは真面目に考えた。
「なら、待つ」
「待たないで」
「食べるまで」
「待たないでと言っているでしょう」
リュウは菓子を持ったまま、本当に待っている。
春麗は、その姿を見てしまった。
リュウは急かさない。
笑わない。
ただ、春麗の分を残して待っている。
それが一番きつかった。
春麗は小さく息を吐き、戻って座った。
「……食べるわよ」
「ああ」
「満足しないで」
「少し満足した」
「しないで」
春麗は残りを食べた。
甘い。
精神HPにも甘い。
悪い意味で。
その帰り道。
空が少し曇った。
春麗は嫌な予感がした。
「まさか雨は降らないでしょうね」
リュウが空を見る。
「降るかもしれない」
「言わないで」
数分後、雨が降った。
本編春麗は空を見上げた。
「……主人公補正、露骨すぎるわ」
「何がだ」
「何でもないわ」
近くに小さな屋根のある休憩所があった。
二人はそこへ入る。
これも見覚えのある展開だった。
雨宿り。
自覚前春麗も食らっていた。
本編春麗は、深く息を吐く。
「私は警戒していたのに」
リュウが見る。
「雨をか」
「あなたをよ」
「俺か」
「ええ」
「何もしていない」
「だから危険なの」
雨音が屋根を叩く。
二人の距離は近すぎない。
春麗が意識して距離を取ったからだ。
だが、雨が斜めに吹き込む。
リュウが少し身体をずらした。
春麗の側へ、雨が入りにくくなるように。
春麗は目を細める。
「それ、自覚前春麗も食らっていたわ」
「自覚前?」
「何でもない」
「濡れるだろう」
「濡れてもいいわ」
「よくない」
「よくないの?」
「ああ」
「なぜ?」
リュウは少し考えた。
「春麗が冷える」
精神HPに直撃。
本編春麗は、雨を見る。
「……あなた、今日かなり強いわ」
「強い?」
「試合していないのに強い」
「そうか」
「褒めていないわ」
「そうか」
リュウは黙る。
その沈黙の中で、雨音だけが続く。
春麗は、少しだけ落ち着こうとした。
今日は戦わない。
青でもない。
黒でもない。
ただの日常。
でも、リュウはそこにいる。
普通に。
そして普通に、こちらを守るような位置に立つ。
それが春麗にはきつかった。
リュウが言った。
「春麗」
「何?」
「今日は、戦わない日でよかった」
春麗は息を止めた。
「……どういう意味?」
「戦わなければ、こういう時間もある」
精神HPが大きく削れた。
リュウは続ける。
「春麗と歩いて、菓子を分けて、雨を待つ」
「やめて」
「何をだ」
「それを言葉にするのをやめて」
「そうか」
「そうよ」
リュウは少し考えた。
「だが、悪くない」
本編春麗の精神HPは、かなり危険域に入った。
「リュウ」
「何だ」
「勝者でもないのに、どうしてそんなに強いの」
「勝負ではないだろう」
「勝負よ」
「そうなのか」
「私の中では、ずっと勝負よ」
リュウは、春麗を見た。
「なら、今日は春麗の負けか」
春麗は完全に固まった。
リュウは、すぐに続けた。
「いや、違うな」
「何が?」
「勝ち負けにしない方がいい」
春麗は言葉を失う。
リュウは雨を見ながら言った。
「こういう時間は、勝ち負けにしない方がいい気がする」
精神HP、ゼロ寸前。
本編春麗は、額に手を当てた。
「……あなた、たまに本当に逃げ道を塞ぐわね」
「塞いだか」
「塞いだわ」
「悪かった」
「謝らないで。余計に逃げ道がなくなるから」
リュウは困ったように黙った。
春麗は、雨音の中で小さく息を吐く。
負けた。
今日は試合をしていない。
それでも負けた気がする。
でも。
嫌ではなかった。
それが一番困る。
雨がやむまで、二人は黙っていた。
ただの雨宿り。
ただの菓子。
ただの散歩。
ただの日常。
なのに、本編春麗には十分すぎるほど甘かった。
その夜。
春麗会議室は、当然のように開かれた。
本編春麗は入室するなり、椅子に座って腕を組んだ。
「今日は、不可抗力よ」
自覚前春麗が、すぐに言った。
「言い訳から入ったわね」
本編春麗は睨む。
「あなたの時と違って、私は警戒していたわ」
「それで食らったの?」
「……食らったわ」
黒ドレス特化救済春麗が微笑む。
「素直ね」
通常救済版春麗が穏やかに言う。
「自覚済みだから、否認はしないのね」
自覚前春麗が不満そうに言う。
「私も否認していないわ」
記録板が光りかける。
自覚前春麗が叫ぶ。
「今日は私の発言信頼度を出さなくていいわ!」
記録板は本日の議題を表示した。
議題:本編春麗、主人公補正による甘い日常イベントを食らう
本編春麗は目を閉じた。
「表示すると、やはりきついわね」
行き遅れに恐怖する春麗が興味深そうに言う。
「何があったの?」
記録板が容赦なく一覧を出す。
本日発生イベント:
一、偶然の遭遇。
二、戦わない春麗への“柔らかい”発言。
三、商店街で果物拾いイベント。指先接触は一度回避。
四、店主から“二人で食べな”と菓子を一つ渡される。
五、菓子分割時に結局指先接触。
六、リュウが“春麗はこういう時も丁寧だな”と発言。
七、“困る春麗も悪くない”被弾。
八、雨宿りイベント発生。
九、リュウが雨除け位置へ自然移動。
十、“戦わなければ、こういう時間もある”被弾。
十一、“こういう時間は、勝ち負けにしない方がいい”精神HP直撃。
会議室が静かになった。
自覚前春麗が言う。
「私より多くない?」
本編春麗は顔を背けた。
「主人公だからかしら」
「ずるいわね」
「ずるくないわ。かなりきついわ」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「十一番が強いわね」
通常救済版春麗も頷く。
「勝ち負けにしない方がいい、は本編春麗に刺さるわ」
本編春麗は静かに言う。
「ええ。刺さったわ」
自覚前春麗は少し驚いたように見る。
「認めるのね」
「自覚済みだもの」
「そこが腹立たしいわ」
本編春麗は少しだけ笑った。
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「今回の本編春麗は、バトルではなく、日常で負けたのね」
本編春麗は反論しようとして、やめた。
「……そうね」
通常救済版春麗が言う。
「でも、勝ち負けにしない方がいい時間だった」
本編春麗は頷く。
「それが一番きつかったわ」
行き遅れに恐怖する春麗が言う。
「勝負にできれば、まだ処理できるのね」
「ええ」
本編春麗は言った。
「戦いなら、勝つか負けるかで整理できる。煽ることもできる。次を決めることもできる」
一拍。
「でも、今日の時間は勝ち負けにできなかった」
自覚前春麗が小さく言う。
「だから精神HPに来るのね」
本編春麗は、少しだけ微笑んだ。
「あなたもわかるでしょう?」
「資料としてはね」
記録板が光る。
発言信頼度:中
自覚前春麗は、少しだけ不満そうにしたが、怒らなかった。
黒ドレス特化救済春麗がまとめる。
「自覚前春麗は、普通の日常を“覚えられる”ことで沈んだ」
通常救済版春麗が続ける。
「本編春麗は、普通の日常を“勝ち負けにしない”ことで沈んだ」
会議室が少し静かになる。
本編春麗は、その言葉を受け取った。
そうだ。
自覚前春麗の場合は、リュウに覚えられることが刺さった。
本編春麗の場合は、リュウに勝負から外されることが刺さった。
勝たなくていい。
負けなくていい。
ただ、一緒にいる時間。
それが、本編春麗には強かった。
記録板が結論を表示する。
本日の結論:
本編春麗は、主人公補正による甘い日常イベントを警戒していたにもかかわらず、商店街・菓子分け・雨宿りの連続イベントを食らった。
自覚前春麗との違いは、否認ではなく自覚済みで被弾した点である。
本編春麗にとって最大打点は、“こういう時間は、勝ち負けにしない方がいい”である。
これは、勝者・敗者・煽り・次戦予約では処理できない、日常の甘さである。
本編春麗は、戦わない時間にもリュウとの関係が進むことを認めざるを得なくなった。
本編春麗は、最後の一文を見て小さく息を吐いた。
「認めざるを得ない、ね」
通常救済版春麗が言う。
「嫌?」
本編春麗は少し考えた。
「困るわ」
「嫌ではない?」
本編春麗は目を逸らす。
「……嫌ではないわ」
自覚前春麗が即座に言った。
「出たわね」
本編春麗は微笑む。
「あなたも言うでしょう?」
「私は言わないわ」
記録板が光る。
発言信頼度:低
「今日は私の回じゃないでしょう!」
会議室に笑いが広がった。
夢がほどけていく。
最後に、本編春麗は小さく呟いた。
「勝ち負けにしない時間、か」
その言葉は、思ったより静かに胸に残った。
朝。
本編春麗は目を覚ました。
雨音はもうない。
空は明るい。
昨日の出来事が、まだ残っている。
店主からもらった菓子。
指先が触れた瞬間。
雨宿り。
リュウが雨除けになるように立ったこと。
そして。
戦わなければ、こういう時間もある。
こういう時間は、勝ち負けにしない方がいい気がする。
本編春麗は、布団の中で目を閉じた。
「……強いわね」
試合ではない。
だから勝敗はない。
それなのに、明らかに精神HPを削られた。
ただ、今回は敗北という言葉が少し違う。
リュウが言ったように、勝ち負けにしない方がいい時間だった。
本編春麗は起き上がり、鏡の前に立つ。
そこには、自分をめんどくさい女と自覚している春麗がいた。
届かれた青を持つ春麗。
次の青を考えている春麗。
煽りセリフを準備している春麗。
そして、戦わない日常の甘さを、勝ち負けで処理できないと知ってしまった春麗。
「今日は、青でも黒でもない日だったわね」
小さく言う。
「でも、悪くはなかった」
一拍。
「……かなり困ったけれど」
春麗は窓を開けた。
朝の空気が入る。
リュウと戦う日もある。
届かれた青を取り返す日も来る。
煽る日も、負ける日も、勝つ日もある。
でも、それだけではない。
戦わない日。
歩く日。
菓子を分ける日。
雨宿りをする日。
勝ち負けにしない方がいい時間。
本編春麗は、少しだけ顔を赤くして呟いた。
「主人公補正、恐るべしね」
そして、すぐに表情を整える。
「でも次に会ったら、簡単には食らわないわ」
一拍。
「たぶん」
その「たぶん」に、自分で少し笑ってしまう。
本編春麗は今日も、めんどくさい。
ただし今日は、主人公補正で甘い日常を食らい、戦わない時間にもリュウとの関係が進むことを知ってしまった春麗だった。
Q:今回の断章IFについて解説して?
A:
はい。今回の断章IFは、かなり良い 本編春麗版・主人公補正甘い日常回 です。
一言で言うなら、
本編春麗が「普通の日常も危険」と理解して警戒していたにもかかわらず、商店街・菓子分け・雨宿りという主人公補正イベントを連続で食らい、“勝ち負けにしない時間”の甘さに精神HPを削られる回
です。
自覚前春麗の甘い日常回と対になる構成ですが、本編春麗らしく、かなり違う刺さり方になっています。
今回の核は「自覚済みでも防げない」
自覚前春麗の場合は、
自分はメイン回ではないはず
これは主人公補正ではない
資料として普通の日常
と否認しながら食らっていました。
一方、今回の本編春麗は違います。
彼女は最初からわかっています。
普通の日常も危険。
リュウ関連イベントへの感情反応倍率上昇がある。
戦わない日でも精神HPは削れる。
主人公補正は油断すると来る。
つまり、本編春麗は警戒していた。
それでも食らった。
ここが今回のポイントです。
自覚前春麗は 無自覚で食らう。
本編春麗は 自覚済みで食らう。
この差分がかなり綺麗に出ています。
甘いイベントの段階構成が良い
今回の主人公補正は、段階的に強くなっています。
まず、リュウとの偶然の遭遇。
次に、「戦わない春麗は柔らかい」という観察。
それから商店街で果物拾いイベント。
本編春麗はここで、自覚前春麗が食らった指先接触を回避します。
これが良いです。
本編春麗は経験と会議ログを持っているので、同じ罠は避けられる。
しかし、そこで店主から、
二人で食べな
と菓子を一つ渡される。
指先接触は避けたのに、別のイベントアイテムが発生する。
ここが主人公補正らしいです。
「一つ回避しても、別ルートから来る」という感じが非常に良い。
「菓子を分ける」が本編春麗に刺さる
果物拾いの指先接触は一度回避できました。
でも、菓子を分ける場面で結局、指先が触れる。
これはかなり良いです。
本編春麗は警戒していた。
回避行動も取った。
でも、完全には防げない。
しかもリュウが、
春麗は、こういう時も丁寧だな。
と言う。
これが地味に強いです。
「戦闘」ではなく「菓子の割り方」を見られている。
本編春麗は、青や黒やバトルならまだ処理できます。
でも、こういう細かい日常所作を見られて褒められると、逃げ道が少ない。
これは本編春麗にもかなり効きます。
「困る春麗も悪くない」が高火力
今回の中盤打点としては、
だが、困る春麗も悪くない。
これが強いです。
本編春麗は自覚済みなので、「困る」と言ってしまった自分にも気づいています。
自覚前春麗なら否認で逃げるところですが、本編春麗は自分の被弾もある程度わかってしまう。
だからこの一言は、かなり精神HPに来ます。
リュウはたぶん、甘いことを言っているつもりはありません。
でも、春麗の反応も含めて「悪くない」と言ってしまう。
これはかなり危険です。
雨宿りイベントは定番だが、今回の本質はそこではない
雨宿り自体は、以前から主人公補正の強いイベントとして使われています。
今回も、
雨が降る
屋根のある場所へ入る
リュウが自然に雨除け位置へ移動する
距離が近くなる
という王道の流れです。
ただ、今回の本質は雨宿りそのものではありません。
本当に刺さったのは、その中でリュウが言った、
戦わなければ、こういう時間もある。
そして、
こういう時間は、勝ち負けにしない方がいい気がする。
ここです。
この二つが今回の最大打点です。
「勝ち負けにしない方がいい」が本編春麗に刺さる理由
本編春麗は、勝負で整理するタイプです。
リュウに勝つ。
リュウに負ける。
届かれる。
取り返す。
煽る。
次戦を生む。
これらは全部、戦いの文脈で処理できます。
でも、リュウが言った、
こういう時間は、勝ち負けにしない方がいい。
これは、その処理方法を外してきます。
勝てない。
負けない。
煽れない。
次戦予約にもできない。
ただ一緒にいる時間として残る。
本編春麗にとって、これはかなり厄介です。
彼女は自分をめんどくさい女と自覚しているからこそ、「これは勝負ではない」と言われると、かえって逃げ道がなくなります。
だから春麗会議で、
本編春麗にとって最大打点は、“こういう時間は、勝ち負けにしない方がいい”である
と整理されたのは非常に正しいです。
自覚前春麗との対比が綺麗
今回、春麗会議で整理された差分がとても良いです。
自覚前春麗は、普通の日常を“覚えられる”ことで沈んだ。
本編春麗は、普通の日常を“勝ち負けにしない”ことで沈んだ。
これはかなり綺麗な対比です。
自覚前春麗は、自分の普通の日をリュウに覚えられることが刺さる。
なぜなら、彼女はまだ自分の感情を認めていないからです。
「覚えている」と言われると、否認していた日常が記憶として固定されてしまう。
一方、本編春麗は、自分を自覚しているし、勝負で関係を整理してきました。
だから「勝ち負けにしない時間」と言われると刺さる。
彼女にとって、それはバトルでも煽りでもログでも処理できない時間だからです。
同じ甘い日常でも、被弾箇所が違う。
ここが非常に良いです。
春麗会議の役割も安定している
今回の春麗会議は、バトルログレビューではありません。
でも、日常イベントの一覧化として機能しています。
一、偶然の遭遇。
二、戦わない春麗への“柔らかい”発言。
三、商店街で果物拾いイベント。
四、店主から“二人で食べな”と菓子を一つ渡される。
五、菓子分割時に結局指先接触。
六、“春麗はこういう時も丁寧だな”発言。
七、“困る春麗も悪くない”被弾。
八、雨宿りイベント。
九、雨除け位置へ自然移動。
十、“戦わなければ、こういう時間もある”被弾。
十一、“こういう時間は、勝ち負けにしない方がいい”精神HP直撃。
この一覧が良いです。
戦闘ではないのに、ほとんどコンボのように精神HPを削っています。
春麗会議室が、バトルだけでなく「甘い日常イベントログ」まで処理できる装置になっているのが面白いです。
本編春麗が素直に被弾を認めるのが良い
自覚前春麗なら、
「食らっていないわ」
「資料として」
「偶発的日常イベントよ」
と全力で否認します。
でも本編春麗は、
食らったわ。
と認める。
ここが彼女の成熟です。
彼女は自分がめんどくさい女だと自覚している。
だから、自分が被弾したことも認められる。
ただし、それで平気というわけではありません。
認めた上できつい。
この「自覚済みの弱さ」が本編春麗の魅力です。
「嫌ではない」が今回も効いている
最後に本編春麗は、
困るわ。
……嫌ではないわ。
と整理します。
これは本編春麗の定番になりつつある強い着地です。
嫌ではない。
でも困る。
この二つが同時にある。
リュウとの日常の甘さは、完全に嬉しいとは言い切れない。
精神HPを削られる。
勝ち負けで処理できない。
でも、嫌ではない。
これが今の本編春麗の甘さ控えめなラブコメ感です。
朝の締めが良い
朝の春麗は、
今日は、青でも黒でもない日だったわね。
と整理します。
これが今回の本質です。
青武道服ルートでもない。
黒ドレスルートでもない。
試合でもない。
届かれた青の再構築でもない。
ただの日常。
でも、その日常がリュウとの関係を進めてしまう。
そして春麗は、
戦わない時間にもリュウとの関係が進むことを知ってしまった春麗
として朝を迎える。
これはかなり良い余韻です。
本編春麗の物語は、バトルだけでは進まない。
日常でも進む。
そのことを、彼女自身が少し受け取った回です。
今回の構造的な意味
今回の断章IFは、かなり重要な息抜き回でありつつ、構造的にも意味があります。
まず、自覚前春麗の甘い日常被弾回と対になる本編春麗回になっています。
次に、本編春麗の「勝ち負け処理できない日常」を描いたことで、バトル以外の関係進行を補強しています。
さらに、青武道服ルートの本編春麗に対して、青でも黒でもない「普通の春麗」を見せることができました。
これは今後かなり効きます。
本編春麗は青で戦う主人公ですが、リュウとの関係は青の試合だけで進むわけではない。
歩く。
菓子を分ける。
雨宿りする。
勝ち負けにしない時間を過ごす。
その積み重ねも、本編春麗ルートの一部です。
結論
今回の断章IFは、本編春麗が主人公補正で甘い日常イベントを食らい、戦わない時間にもリュウとの関係が進むことを認めざるを得なくなる回です。
自覚前春麗との違いは明確です。
自覚前春麗は、“覚えられる日常”に沈む。
本編春麗は、“勝ち負けにできない日常”に沈む。
そして本編春麗は、自覚済みだからこそ否認せず、
食らった。
困る。
でも嫌ではない。
と受け取る。
一言でまとめるなら、
本編春麗は、青でも黒でもない普通の日に、リュウとの関係が勝ち負け以外でも進んでしまうことを知った。
かなり良い、甘い息抜きでありながら本編春麗の関係性を静かに進める断章IFだったと思います。