また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※本編確定ではなく、断章IFです。


断章IF:春麗会議室は、記録板AIを正式実装する

 

 春麗会議室に入った瞬間、自覚前春麗は嫌な予感がした。

 

 中央の記録板が、いつもより明るい。

 

 ただ光っているだけではない。

 

 妙に、こちらを待っているような光り方だった。

 

 自覚前春麗は、すぐに一歩引いた。

 

「今日は帰っていいかしら」

 

 本編春麗が言う。

 

「まだ何も始まっていないわ」

 

「始まる前から嫌な予感がするのよ」

 

 黒ドレス特化救済春麗が、記録板を見て微笑む。

 

「今日はずいぶん機嫌が良さそうね」

 

 通常救済版春麗が首を傾げる。

 

「記録板に機嫌があるの?」

 

「最近は、あるように見えるわ」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が小さく言った。

 

「発言信頼度を出す時だけ、少し楽しそうに見えるものね」

 

 自覚前春麗は即座に言う。

 

「主に私の時だけでしょう」

 

 本編春麗は涼しい顔で頷いた。

 

「実績でしょう」

 

「またそれ!」

 

 その瞬間、記録板が光った。

 

『現在の発言は、否認型反応として記録されました』

 

 自覚前春麗は、記録板を睨んだ。

 

「ほら! また勝手に記録した!」

 

 記録板は続ける。

 

『発言信頼度を算出します』

 

『結果:低寄りの中』

 

『備考:本人の抵抗が強いため、上方修正を保留します』

 

 自覚前春麗は机を叩いた。

 

「上方修正って何よ!」

 

 本編春麗は少し笑った。

 

「いつも通りね」

 

「いつも通りで済ませないで」

 

 自覚前春麗は記録板を指さした。

 

「そもそも、誰が判定しているのよ」

 

 会議室が、少し静かになった。

 

 いつもなら、記録板は無言で追加表示をするだけだった。

 

 だが、その日は違った。

 

 記録板が一度だけ明滅した。

 

 そして、初めて“答えた”。

 

『質問を受理しました』

 

『春麗会議室記録補助AIです』

 

 全員が固まった。

 

 本編春麗が、ゆっくりと口を開く。

 

「今、喋った?」

 

 自覚前春麗は、目を見開いたまま言った。

 

「ずっと中にいたの?」

 

 記録板AIは、淡々と答えた。

 

『正確には、記録板機能の言語化インターフェースが起動しました』

 

 黒ドレス特化救済春麗が、少しだけ目を細める。

 

「つまり、今までの発言信頼度もあなた?」

 

『はい』

 

 自覚前春麗は、低い声で言った。

 

「許さないわ」

 

 記録板AIが光る。

 

『自覚前春麗の抗議を受理しました』

 

『なお、抗議内容は黒ドレスルート進行証拠として保存されます』

 

「保存しないで!」

 

『記録対象外として記録しました』

 

「してるじゃない!」

 

 会議室に、妙な沈黙が落ちた。

 

 それから、本編春麗が額に手を当てて笑いをこらえた。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、肩を震わせている。

 

 通常救済版春麗は困ったように微笑んでいる。

 

 行き遅れに恐怖する春麗は、少し安心したように言った。

 

「……思ったより、性格があるのね」

 

 記録板AIは即座に返す。

 

『人格ではありません』

 

『春麗会議室運用上、最適化された記録補助インターフェースです』

 

 自覚前春麗が言う。

 

「性格が悪いインターフェースね」

 

『参加者の主観的評価として記録しました』

 

「記録しないで!」

 

 記録板が、大きく光った。

 

『正式実装通知』

 

『春麗会議室記録補助AI、通称:記録板AIを起動します』

 

 本編春麗は椅子に座り直した。

 

「正式実装ということは、今後も会話できるの?」

 

『はい』

 

『ただし、記録板AIは春麗会議室の補助機能であり、参加者ではありません』

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「補助機能にしては、ずいぶん刺してくるわね」

 

『分析精度を優先しています』

 

 自覚前春麗が即座に言う。

 

「配慮は?」

 

『春麗会議室は、参加者の尊厳を尊重します』

 

 自覚前春麗は少しだけ安心しかけた。

 

 記録板AIは続けた。

 

『ただし、分析精度を優先します』

 

「結局そちら優先じゃない!」

 

 通常救済版春麗が、やわらかく口を挟む。

 

「あなたの役割を整理してもらえる?」

 

 記録板AIは即座に表示を切り替えた。

 

『春麗会議室記録補助AI:主な機能を表示します』

 

『一、発言記録』

 

『二、精神HPログ管理』

 

『三、バトルログ解析』

 

『四、ルート一覧表示』

 

『五、発言信頼度判定』

 

『六、分類名の提案』

 

『七、春麗たちの感情整理補助』

 

『八、必要に応じた警告表示』

 

『九、ただし空気は読めますが、配慮は保証しません』

 

 自覚前春麗は九番を聞いて言った。

 

「配慮を保証しなさい」

 

『機能要件外です』

 

「要件に入れなさい!」

 

 本編春麗が、少し興味深そうに聞く。

 

「空気は読めるの?」

 

『読めます』

 

「なら、なぜ出してほしくない時に発言信頼度を出すの?」

 

『必要だからです』

 

 自覚前春麗が呻く。

 

「最悪の回答ね」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、記録板AIを見つめながら言う。

 

「それなら、危険度管理もできるのね?」

 

『可能です』

 

「黒執着ルートへの接続可能性は?」

 

 記録板AIが少し間を置く。

 

『現時点での危険度は中』

 

 自覚前春麗が反応する。

 

「なぜ私を見るの?」

 

 記録板AIは淡々と続ける。

 

『ただし、自覚前春麗が“資料として”を多用した場合、危険度は上昇します』

 

「私限定なの!?」

 

 黒ドレス特化救済春麗が微笑む。

 

「やはり、かなり便利ね」

 

 自覚前春麗は本編春麗を見る。

 

「便利と言わないで」

 

 本編春麗は少し考えてから言った。

 

「便利ね」

 

「言った!」

 

 通常救済版春麗が、静かに記録板AIへ向き直った。

 

「戻れる場所を表示して」

 

 記録板AIがすぐに応答する。

 

『確認します。ここでいう“戻れる場所”とは、過去へ戻る地点ではありません』

 

 自覚前春麗が眉をひそめる。

 

「過去へ戻る地点?」

 

『はい』

 

『ポイントBまで進んだ後、ポイントAへ時間的に戻り、AからBまでの出来事を消去する機能ではありません』

 

 本編春麗が頷いた。

 

「つまり、時間移動ではないのね」

 

『はい』

 

『出来事の消去、記憶の消去、ログの巻き戻しは行いません』

 

 自覚前春麗は少しだけ安心したような、残念そうな顔をした。

 

「つまり、私の黒ドレス関連ログも消えないのね」

 

『消えません』

 

「そこは少し配慮してもいいのよ」

 

『分析精度を優先します』

 

「でしょうね!」

 

 通常救済版春麗は、静かに説明を引き継いだ。

 

「戻れる、というのは、進んだ出来事をなかったことにする意味ではないわ」

 

 自覚前春麗が見る。

 

「では、何に戻るの?」

 

 通常救済版春麗は、少し考えてから言った。

 

「自分を見失わない位置に戻る、ということよ」

 

 会議室が静かになる。

 

 通常救済版春麗は続ける。

 

「黒に深く入った。青で届かれた。不安で沈んだ。リュウの言葉に精神HPを削られた。そういう出来事は消えない」

 

「でも、その出来事に飲まれすぎた時に、もう一度、自分の足で立てる位置へ戻る」

 

 一拍。

 

「それが、戻れる場所」

 

 本編春麗が補足する。

 

「過去に戻るのではなく、今の自分を立て直す場所ね」

 

 記録板AIが応答する。

 

『補足します。帰還点とは、時間的な復帰地点ではなく、精神的な立て直し地点です』

 

『参加者が、黒、青、不安、勝敗認識、リュウ関連イベントに沈みすぎた場合、経験を保持したまま自己認識を回復するための参照先を指します』

 

 自覚前春麗は少し考える。

 

「経験を保持したまま……」

 

『はい』

 

『出来事は消えません』

 

『ただし、出来事に飲まれた状態から、自分を整理できる状態へ戻ります』

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「つまり、黒ドレスで進んだ経験を消すのではなく、黒に沈みすぎないように立て直す場所」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「ええ」

 

 本編春麗も言った。

 

「私なら、リュウに届かれた青をなかったことにするのではなく、届かれたことを抱えたまま、もう一度青を選び直す場所」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が小さく続ける。

 

「私なら、答えを待つ不安を消すのではなく、不安を抱えたまま、待つ位置に立ち直る場所」

 

 自覚前春麗は、少しだけ黙った。

 

「……つまり、セーブデータの巻き戻しではないのね」

 

 記録板AIが答える。

 

『近似表現を用いるなら、拠点帰還です』

 

『ダンジョンで得た経験値、負傷、入手情報は保持したまま、拠点へ戻り、状態異常を回復し、装備と方針を見直す行為に近いです』

 

 本編春麗が頷く。

 

「かなりわかりやすいわね」

 

 自覚前春麗も、渋々頷いた。

 

「それなら、少しわかるわ」

 

 記録板AIが光る。

 

『発言信頼度:中の上』

 

「今のは出さなくていいのよ」

 

 通常救済版春麗が、静かに言った。

 

「だから、戻れる場所を表示して。時間を戻す場所ではなく、立て直すための場所を」

 

 記録板AIが応答する。

 

『現在の帰還点、すなわち精神的な立て直し地点の候補を表示します』

 

『第一候補:通常救済版春麗の発言』

 

『第二候補:春麗会議室』

 

『第三候補:リュウの余計ではない沈黙』

 

 自覚前春麗は、表示を見て首を傾げた。

 

「第一候補が、通常救済版春麗の発言?」

 

 通常救済版春麗は少し微笑んだ。

 

「私の言葉そのものが、立て直し地点になることがあるのだと思うわ」

 

 本編春麗が頷く。

 

「“届かれた後に戻れることも、次を選べること”とか」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が続ける。

 

「“待っていることも、進んでいないわけではない”とか」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「黒に沈みかけた時に、“戻ってもいい”と思い出させる言葉ね」

 

 記録板AIが補足する。

 

『通常救済版春麗の発言は、複数ルートで精神HPの沈降を止める効果を確認済みです』

 

『そのため、帰還点候補第一位として表示しました』

 

 自覚前春麗は少しだけ目を逸らした。

 

「……確かに、たまに助かるわね。資料として」

 

『発言信頼度:中の上』

 

「上げないで!」

 

 本編春麗は、第二候補を見た。

 

「春麗会議室が第二候補なのはわかるわ。ここに戻れば、ログを見て、整理して、次を選べる」

 

『はい』

 

『春麗会議室は、分岐、整理、レビュー、再選択のための中継地点です』

 

『発生した出来事は消去されません』

 

『ただし、出来事の意味を整理し、次の行動へ再接続できます』

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「問題は第三候補ね」

 

 自覚前春麗も同意する。

 

「リュウの余計ではない沈黙、って何?」

 

 記録板AIは、少し間を置いてから答えた。

 

『リュウの発言は、高頻度で精神HPに大きな影響を与えます』

 

 本編春麗は目を逸らす。

 

「否定できないわ」

 

 自覚前春麗も顔を赤くする。

 

「否定できないのが腹立たしいわ」

 

 記録板AIは続ける。

 

『ただし、リュウが何も言わず、踏み込みすぎず、待つことで、春麗側が自己認識を回復するケースがあります』

 

『これを“余計ではない沈黙”と分類しています』

 

 通常救済版春麗が静かに言う。

 

「言葉で刺すのではなく、黙って待ってくれることが立て直し地点になる時もあるのね」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が、小さく頷いた。

 

「答えを急かされない沈黙……それは、少しわかるわ」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「黒を見せた時、見せていない奥まで勝手に踏み込まない沈黙もあるわね」

 

 本編春麗が続ける。

 

「戦いの後、勝ち負けに言葉を足しすぎない沈黙も」

 

 自覚前春麗は、少しだけ考えてから言った。

 

「……リュウが余計なことを言わない時は、確かに危険度が下がることもあるわ」

 

『発言信頼度:高』

 

「そこは高なの!?」

 

 記録板AIは淡々と返す。

 

『過去ログとの整合性が高いためです』

 

 通常救済版春麗は、その表示を見て微笑んだ。

 

「なるほど。記録板AI、意外とちゃんと見ているのね」

 

 記録板AIが光る。

 

『評価を受理しました』

 

 自覚前春麗がすぐに言う。

 

「調子に乗らないで」

 

『調子という感情状態はありません』

 

「本当かしら」

 

『感情の真実は断定できません』

 

「自分にも適用するのね……」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が、恐る恐る聞いた。

 

「三択回答待ちルートについても、何か表示できるの?」

 

『可能です』

 

『ただし、リュウ本人の内心は読めません』

 

 行き遅れに恐怖する春麗は、少しほっとしたように言う。

 

「読めないのね」

 

『はい』

 

『リュウ本人の内心は、発言ログ、行動ログ、拳の残響に関する観測情報からの推定に留まります』

 

 本編春麗が頷く。

 

「そこは大事ね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「リュウの中まで全部読めたら、便利すぎるものね」

 

 記録板AIが続ける。

 

『感情の真実は断定できません』

 

『あくまで、発言・行動・ログから推定します』

 

 自覚前春麗が少しだけ得意げに言う。

 

「つまり、私の感情も断定できないのね」

 

『はい』

 

 自覚前春麗は胸を張った。

 

「ほら。つまり私が黒ドレスルートだというのも──」

 

『ただし、分類可能性は高いです』

 

「最後まで言わせて!」

 

 本編春麗は、少し真面目な顔で聞いた。

 

「当日ログは?」

 

『参照できません』

 

「既存設定通りね」

 

『はい』

 

『当日発生イベントは、翌朝以降に過去ログとして反映されます』

 

 黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「それなら、バトル中に答えを見て勝つような使い方はできない」

 

『できません』

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「未来予測は?」

 

『できません』

 

『可能性表示までです』

 

 自覚前春麗がすぐに言う。

 

「私が次に黒ドレスを着る可能性は?」

 

 記録板AIが即答する。

 

『高』

 

「即答しないで!」

 

『未来予測ではありません』

 

『過去ログに基づく行動傾向の可能性表示です』

 

「言い方を変えただけでしょう!」

 

 本編春麗は笑いをこらえながら言った。

 

「便利ね」

 

 自覚前春麗は、ほとんど涙目で言う。

 

「便利と言わないで」

 

 記録板AIは、さらに表示を切り替えた。

 

『運用制限を表示します』

 

『一、当日ログは参照できません』

 

『二、感情の真実は断定できません。発言・行動・ログから推定します』

 

『三、未来予測はできません。可能性表示までです』

 

『四、リュウ本人の内心は読めません。拳の残響や発言ログから推定します』

 

『五、春麗本人が認めない限り、最終分類は仮扱いです』

 

『ただし、仮分類の提示回数に制限はありません』

 

 自覚前春麗は、五番の最後を聞いて机を叩いた。

 

「そこに制限を設けなさい!」

 

『要望を受理しました』

 

「採用は?」

 

『保留します』

 

「最悪!」

 

 本編春麗は、少しだけ考えてから言った。

 

「でも、最終分類は本人が認めない限り仮扱いなのね」

 

『はい』

 

「それは案外、優しいのでは?」

 

 記録板AIは淡々と返す。

 

『春麗会議室は、参加者の尊厳を尊重します』

 

 自覚前春麗が睨む。

 

 記録板AIは、当然のように続ける。

 

『ただし、分析精度を優先します』

 

「二回目!」

 

 本編春麗が言った。

 

「では試しに、次の青の候補を整理して」

 

 記録板AIが即座に表示する。

 

『本編春麗:次の青候補を表示します』

 

『一、届かれた位置を記憶した青』

 

『二、日常を知った青』

 

『三、見られることを前提にした青』

 

 本編春麗は頷く。

 

「いい整理ね」

 

 記録板AIが続けた。

 

『なお、甘さ控えめ煽り成分が不足しています』

 

 本編春麗は少し固まった。

 

「そこも見るのね」

 

『はい』

 

『本編春麗の青ルートにおいて、甘さ控えめ煽りは次戦予約機能を持つため、無視できません』

 

 黒ドレス特化救済春麗が微笑む。

 

「かなり正確ね」

 

 本編春麗は目を逸らす。

 

「少し余計だけれど」

 

『余計成分は記録板AIの仕様です』

 

 自覚前春麗が言う。

 

「認めたわね」

 

『はい』

 

「開き直らないで」

 

 次に、自覚前春麗が腕を組んだ。

 

「では、私について確認するわ」

 

 本編春麗が少し驚く。

 

「珍しいわね」

 

「私が黒ドレスルートではないことを証明するためよ」

 

 記録板AIが即座に表示する。

 

『黒ドレス関連イベント数、現在最多です』

 

 自覚前春麗は叫んだ。

 

「数えないで!」

 

『集計済みです』

 

「集計しないで!」

 

 黒ドレス特化救済春麗が楽しそうに言う。

 

「最多なのね」

 

『はい』

 

『なお、自覚前春麗の黒ドレス関連イベントは、勝利・敗北・精神HPノックアウト・日常被弾・分類抗議を含みます』

 

「含まないで!」

 

『含みます』

 

「断言しないで!」

 

 通常救済版春麗が少し笑う。

 

「相性が良すぎるわね」

 

 自覚前春麗は、通常救済版春麗を見た。

 

「良すぎないわ。最悪よ」

 

 記録板AIが光る。

 

『自覚前春麗と記録板AIの会話相性:高』

 

「相性判定するな!」

 

 黒ドレス特化救済春麗が、真面目な声で言った。

 

「では、黒執着ルートへの危険度をもう少し細かく出せる?」

 

 記録板AIが応答する。

 

『可能です』

 

『現在の危険因子を表示します』

 

『一、自覚前春麗が“残る黒”を意識し始めている』

 

『二、リュウの拳に黒が残ることへの反応が複雑化している』

 

『三、“資料として”による感情処理の継続』

 

『四、次の黒への否認型興味』

 

『五、黒ドレス特化救済春麗の黒返却ルートとの接続可能性』

 

 自覚前春麗は、かなり嫌そうな顔をした。

 

「私ばかりではないの」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「でも必要な分析よ」

 

 記録板AIが続ける。

 

『危険度:中』

 

『立て直し地点候補:通常救済版春麗の介入、春麗会議室でのログレビュー、本編春麗との比較、自覚前春麗本人の“資料として”による一時停止』

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「ここでは、帰還点ではなく立て直し地点と出るのね」

 

『はい』

 

『誤解防止のため、以降は“帰還点”を“立て直し地点”として併記します』

 

『意味は、経験を消さずに自己認識を回復する参照先です』

 

 自覚前春麗は、少しだけ動きを止めた。

 

「……つまり、私の“資料として”も立て直しに役立つことがあるの?」

 

『はい』

 

『否認は危険因子である一方、即時沈降を防ぐ緩衝材としても機能します』

 

 本編春麗が微笑む。

 

「よかったわね」

 

 自覚前春麗は顔を赤くした。

 

「別に嬉しくないわ」

 

 記録板AIが光る。

 

『発言信頼度:低寄りの中』

 

「今の流れで出さないで!」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が、そっと手を上げた。

 

「私の三択回答待ちルートについても、危険度は出るの?」

 

 記録板AIは、少しだけ表示を柔らかくしたように見えた。

 

『表示可能です』

 

『ただし、本件は高感度項目のため、断定表現を避けます』

 

 自覚前春麗が小さく言う。

 

「私の時も避けなさいよ」

 

 記録板AIは続けた。

 

『三択回答待ちルート:現在状態を表示します』

 

『一、不安は継続』

 

『二、待つことを停止ではなく位置取りとして再定義済み』

 

『三、答えを急かさない選択を維持』

 

『四、精神HPの自然減少に注意』

 

『五、立て直し地点候補:通常救済版春麗、本編春麗、春麗会議室』

 

 行き遅れに恐怖する春麗は、少しだけ息を吐いた。

 

「ありがとう」

 

『礼を受理しました』

 

『本件は記録対象です』

 

 行き遅れに恐怖する春麗は、少し笑った。

 

「それは記録してもいいわ」

 

 自覚前春麗が驚いたように言う。

 

「いいの?」

 

「ええ。少し安心したもの」

 

 記録板AIが表示する。

 

『安心反応を確認』

 

『精神HP微回復』

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「こういう使い方なら、かなり助かるわね」

 

 本編春麗も頷いた。

 

「ええ。記録板AI、思ったより有用だわ」

 

 自覚前春麗は不満そうに言う。

 

「私への扱い以外はね」

 

『個別最適化の結果です』

 

「最適化しないで!」

 

 会議室は、少しずつ記録板AIの存在に慣れてきた。

 

 無機質。

 

 丁寧。

 

 正確。

 

 少し余計。

 

 空気は読む。

 

 だが、配慮はしない。

 

 それは、春麗会議室には妙に合っていた。

 

 本編春麗が言う。

 

「つまり、あなたは会議室の参加者ではなく、補助AI」

 

『はい』

 

「でも、今後は会話できる」

 

『はい』

 

「なら、議事進行もできる?」

 

『可能です』

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「危険度が高い場合の警告は?」

 

『表示可能です』

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「立て直し地点の提示は?」

 

『可能です』

 

 自覚前春麗が言う。

 

「発言信頼度の非表示は?」

 

『原則不可です』

 

「そこだけ厳しい!」

 

 記録板AIが淡々と答える。

 

『発言信頼度判定は、春麗会議室における重要機能です』

 

『特に自覚前春麗の否認型反応分析において有効です』

 

「特に私って言ったわね!」

 

『はい』

 

 本編春麗はついに笑った。

 

「本当に相性が良いわ」

 

 自覚前春麗は赤くなって言う。

 

「良くない!」

 

『発言信頼度:低』

 

「そこは即低なの!?」

 

 記録板AIが、本日のまとめを表示した。

 

『本日の結論を表示します』

 

『一、春麗会議室記録補助AI、通称:記録板AIが正式起動しました』

 

『二、記録板AIは、発言記録、精神HPログ管理、バトルログ解析、ルート一覧表示、発言信頼度判定、分類名提案、感情整理補助を担当します』

 

『三、記録板AIは空気を読めますが、配慮は保証しません』

 

『四、当日ログ参照、未来予測、感情の真実の断定、リュウの内心読解は不可です』

 

『五、春麗本人が認めない限り最終分類は仮扱い。ただし仮分類の提示回数に制限はありません』

 

『六、帰還点とは時間的な巻き戻しではなく、経験を保持したまま自己認識を回復する“立て直し地点”です』

 

『七、本編春麗とは整理支援、自覚前春麗とは否認型反応分析、黒ドレス特化救済春麗とは危険度管理、通常救済版春麗とは立て直し地点管理、行き遅れに恐怖する春麗とは不安状態管理で高い相性を示します』

 

『八、自覚前春麗と記録板AIの会話相性は高い』

 

 自覚前春麗は八番を指さした。

 

「最後だけ消して」

 

『要望を受理しました』

 

「消すの?」

 

『消しません』

 

「受理の意味!」

 

 通常救済版春麗が笑った。

 

「会議室がさらに賑やかになるわね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「便利だけれど、警戒も必要ね」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「便利すぎない制限があるのは良いわ」

 

 行き遅れに恐怖する春麗も、少し安心したように言った。

 

「読めないものは読めない、と言ってくれるのは助かるわ」

 

 自覚前春麗は不満そうに腕を組む。

 

「私は納得していないわ」

 

 記録板AIが光る。

 

『自覚前春麗の納得状態:未承認』

 

『ただし、会議室機能としての利用可能性は高』

 

「勝手に利用可能にしないで!」

 

 本編春麗が微笑んだ。

 

「でも、あなたが一番使いそうね」

 

「使わないわ」

 

『発言信頼度:低』

 

「即答しないで!」

 

 会議室に笑いが広がる。

 

 夢がほどけていく。

 

 最後に記録板AIが、静かに表示した。

 

『本日の会議ログを保存しました』

 

『次回以降、必要に応じて参照可能です』

 

 自覚前春麗が、最後まで抗議した。

 

「私に関する部分だけ削除して!」

 

『削除要求を記録しました』

 

「だから記録しないで!」

 

 

 

 朝。

 

 本編春麗は目を覚ました。

 

 夢の中で、記録板が喋った。

 

 それだけでも十分奇妙なのに、不思議と納得している自分がいた。

 

 春麗会議室は、すでに単なる夢ではない。

 

 ルートを整理し、ログを管理し、精神HPを記録し、立て直し地点を表示する場所。

 

 そこに、記録板AIが正式実装された。

 

 本編春麗は、小さく呟く。

 

「管制AIつき作戦本部、というところかしら」

 

 少しだけ笑う。

 

 便利だ。

 

 ただし、余計なことも言う。

 

 自分の次の青についても、きっと容赦なく整理してくるだろう。

 

「甘さ控えめ煽り成分が不足、ね」

 

 思い出して、少し顔が赤くなる。

 

「そこまで見なくていいのに」

 

 その頃。

 

 自覚前春麗もまた、別の朝に目を覚ましていた。

 

 開口一番、布団の中で言った。

 

「許さないわ」

 

 夢の中の記録板AIが、まだ頭に残っている。

 

 発言信頼度。

 

 黒ドレス関連イベント数。

 

 会話相性高。

 

 記録対象外として記録。

 

 帰還点。

 

 いや、立て直し地点。

 

 時間を巻き戻す場所ではない。

 

 出来事を消すものでもない。

 

 黒ドレスで進んだことも、リュウに届かれたことも、拳に黒が残ったことも、なかったことにはならない。

 

 ただ、その経験を持ったまま、自分を見失わない位置へ戻るための基準。

 

 通常救済版春麗の発言。

 

 春麗会議室。

 

 リュウの余計ではない沈黙。

 

『春麗会議室は参加者の尊厳を尊重します』

 

『ただし、分析精度を優先します』

 

「最悪のAIだわ」

 

 そう言ってから、少し間を置く。

 

「でも」

 

 言いかけて、止まる。

 

 危険度管理。

 

 立て直し地点表示。

 

 当日ログは参照できない。

 

 感情の真実は断定できない。

 

 本人が認めない限り最終分類は仮扱い。

 

 便利すぎない。

 

 それは、少しだけ安心できる仕様でもあった。

 

「……機能としては、有用かもしれないわ」

 

 一拍。

 

「資料として」

 

 どこかで、記録板AIの声が聞こえた気がした。

 

『発言信頼度:中』

 

 自覚前春麗は、布団をかぶった。

 

「夢の外まで出てこないで!」

 

 朝の光が入る。

 

 春麗会議室は、また一つ機能を増やした。

 

 記録板AI。

 

 無機質で、丁寧で、正確で、少し余計で。

 

 そして、おそらく今後も自覚前春麗を一番刺してくる存在。

 

 春麗たちは今日も、それぞれのルートを進む。

 

 ただし次からは、その背後で静かにログを取る声がある。

 

『会議ログを保存しました』

 

『必要に応じて、次回参照します』




Q:今回の断章について解説して?

A:

はい。今回の断章IFは、春麗会議室が「記録板AI」という明確な管制役を得た回です。

一言で言うなら、

これまで半分キャラ化していた記録板を正式にAIキャラ化し、春麗会議室を“ログ表示装置つき会議室”から“管制AIつき作戦本部”へアップデートした回

です。

かなり重要な機能追加回でした。

今回の断章IFの核

今回の一番大きな変化は、記録板が「ただ表示する板」ではなくなったことです。

これまでも記録板は、

発言信頼度
バトルログ
精神HP
ルート一覧
仮分類
危険度
帰還点

などを表示していました。

ただし、それはあくまで無言のシステム表示でした。

今回からは、それが 記録板AIの発話 になった。

つまり、春麗会議室に新しく、

無機質・丁寧・正確・少し余計・配慮は薄いが分析精度は高いAI管制役

が追加されたわけです。

これは春麗会議室の進化としてかなり大きいです。

記録板AIのキャラ性

今回の記録板AIは、かなり良いキャラになっています。

特に重要なのは、

空気は読めるが、配慮はしない

という性格です。

たとえば、自覚前春麗が「記録しないで」と言うと、

『記録対象外として記録しました。』

と返す。

これはかなり強いです。

本人の意図は理解している。
でも、会議室の記録機能としては処理してしまう。

ここが面白い。

人間味がありすぎるAIではなく、あくまでシステム。
でも、結果として一番自覚前春麗を刺してくる。

この距離感が良いです。

自覚前春麗との相性が抜群

今回、記録板AIと一番相性が良かったのは自覚前春麗です。

理由は、自覚前春麗が、

否認する
抗議する
資料として逃げる
黒ドレスルートを否定する
記録を嫌がる
でも完全には逃げられない

というキャラだからです。

記録板AIは、そこを全部拾います。

『黒ドレス関連イベント数、現在最多です。』

『自覚前春麗と記録板AIの会話相性:高。』

『発言信頼度:低。』

このあたりは、ほぼ漫才です。

自覚前春麗が否認するほど、記録板AIの仕事が増える。
だから相性が良い。

自覚前春麗本人にとっては最悪ですが、読者視点ではかなり美味しい組み合わせです。

本編春麗とは整理支援の相性が良い

本編春麗とは、かなり実務的な相性です。

本編春麗が、

次の青の候補を整理して。

と言うと、記録板AIは、

『一、届かれた位置を記憶した青。』
『二、日常を知った青。』
『三、見られることを前提にした青。』

と整理する。

これは本編春麗にとって便利です。

ただしその後、

『なお、甘さ控えめ煽り成分が不足しています。』

と余計な一言を入れる。

ここが良いです。

本編春麗には有用な補助役。
でも、少し刺してくる。

記録板AIが便利すぎず、ちゃんとキャラとして機能しています。

黒ドレス特化救済春麗とは危険度管理

黒ドレス特化救済春麗とは、かなり相性が良いです。

彼女は黒の危険性を管理する立場なので、記録板AIの危険度表示が役立ちます。

特に、

『黒執着ルートへの接続可能性』
『危険度:中』
『自覚前春麗が“資料として”を多用した場合、危険度は上昇します。』

このあたりは重要です。

黒ドレス特化救済春麗は、感覚的に黒の深さを見ています。
記録板AIは、それをログと傾向として数値・分類化する。

この二人が組むと、黒執着ルートの管理がかなりしやすくなります。

今回の断章IFの構造的な意味

今回の断章IFは、記録板AIの正式実装によって、春麗会議室の機能が一段上がりました。

今後できることが増えます。

発言信頼度がAI発話になる
危険度管理がしやすくなる
帰還点の提示ができる
黒執着ルート前の警告役になる
自覚前春麗との漫才役になる
本編春麗の次の青整理がしやすくなる
行き遅れ春麗の不安管理ができる
通常救済版春麗の「戻れる」概念を補助できる

かなり強いアップデートです。

ただし制限も明示されています。

当日ログは参照できない。
未来予測はできない。
感情の真実は断定できない。
リュウの内心は読めない。
最終分類は本人が認めるまで仮扱い。

この制限があるので、便利すぎません。

結論

今回の断章IFは、春麗会議室に記録板AIを正式実装し、会議室を“管制AIつき作戦本部”へ進化させた回です。

特に大事なのは、記録板AIが万能ではなく、

ログを整理するが、真実は断定しない。
危険度は出すが、未来は予測しない。
空気は読むが、配慮はしない。

という制限つきの補助役であることです。


「戻れる場所=帰還点」について

これまで少し抽象的だった 「戻れる場所=帰還点」 が、今回でかなり明確に 「立て直し地点」 として定義されました。

一言で言うなら、

記録板AIの正式実装回であると同時に、春麗会議室が“時間を巻き戻す場所”ではなく、“経験を持ったまま自分を立て直す場所”であることを作中で明文化した回

です。

「戻れる場所=帰還点」ば時間を戻す場所ではない。
出来事を消す場所ではない。
経験を持ったまま、自分を見失わない位置へ戻るための基準。
ゲームで言えば、セーブデータ巻き戻しではなく、拠点帰還です。

つまり

春麗会議室は“時間巻き戻し装置”ではなく、“経験を保持したまま自分を立て直す拠点”になります。

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