また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※本編確定ではなく、断章IFです。


断章IF:春麗会議は、本編春麗の出番不足を見逃さない

 

 春麗会議室は、いつもより少しだけ静かだった。

 

 静かというより、整理済みのログが積まれすぎて、誰から口を開くべきか迷っている空気に近い。

 

 円卓には、いつもの面々がいる。

 

 本編の、自分をめんどくさい女と自覚する春麗。

 

 自覚前春麗。

 

 黒ドレス特化救済春麗。

 

 通常救済版春麗。

 

 行き遅れに恐怖する春麗。

 

 グランドフィナーレ済み春麗。

 

 そして、中央には記録板AI。

 

 ただし、今日の議題はまだ表示されていなかった。

 

 本編春麗は、しばらく無言で円卓を見ていた。

 

 自覚前春麗は資料をめくっている。

 

 黒ドレス特化救済春麗は静かに目を閉じている。

 

 通常救済版春麗は穏やかに座っている。

 

 行き遅れ春麗は、何か言いたそうにしているが、まだ言わない。

 

 グランドフィナーレ済み春麗は、完結済みの余裕で黙っている。

 

 本編春麗は、少しだけ眉を寄せた。

 

「……最近」

 

 全員がそちらを見る。

 

 本編春麗は、腕を組んだ。

 

「私のメイン回、少なくない?」

 

 会議室が止まった。

 

 自覚前春麗が、ゆっくり資料から顔を上げる。

 

「……言ったわね」

 

「言ったわ」

 

 本編春麗は、堂々としていた。

 

「だってそうでしょう。最近、自覚前春麗の黒ドレスリベンジ、紙一重勝利陶酔リスク、黒を着ていない日、通常救済版春麗の選べる春麗編……ずっとそちら側が進んでいるじゃない」

 

 黒ドレス特化救済春麗が静かに頷く。

 

「たしかに、自覚前春麗方面の黒がかなり進行しているわね」

 

 通常救済版春麗も言う。

 

「私は黒執着春麗救済の準備として、少し前に出たわ」

 

 本編春麗は、そちらを見た。

 

「おめでとう。それは本当に良かったわ」

 

「ありがとう」

 

「でも、それはそれとして」

 

 本編春麗は、円卓に手を置いた。

 

「私は?」

 

 自覚前春麗が口元を押さえた。

 

「本編のめんどくさい女が、自分の出番不足を会議で申告している……」

 

「何か問題でも?」

 

「問題というか、非常に本編春麗らしいわ」

 

「そうでしょうね。私は自分をめんどくさい女と自覚している春麗だから」

 

 その時、記録板AIが光った。

 

『予測通りです』

 

 本編春麗は、記録板を見る。

 

「予測?」

 

『はい。本編春麗が近日中に「最近、私のメイン回が少ないのではないか」と発言する可能性を高確率で算出していました』

 

「……あなた、待っていたの?」

 

『はい』

 

 自覚前春麗が吹き出しかけた。

 

「待たれていたわよ、本編春麗」

 

 本編春麗は目を細める。

 

「記録板AI」

 

『はい』

 

「その予測精度、少し腹立たしいわ」

 

『発言信頼度:高』

 

「採点しないで」

 

 記録板AIは淡々と続けた。

 

『本日の議題を表示します』

 

 円卓の中央に、文字が浮かぶ。

 

『議題:本編春麗メイン回不足申告を受け、過去断章IF《春麗は、沈めない黒を見てしまう》を再鑑賞し、本編春麗の黒の現在地を確認する』

 

 本編春麗は、固まった。

 

「……準備していたのね」

 

『はい』

 

「私が言うだろうと思って?」

 

『はい』

 

「しかも、過去の私の黒回を?」

 

『はい』

 

 自覚前春麗がにやりとした。

 

「良い議題じゃない」

 

「あなたに言われると少し嫌ね」

 

「資料として、非常に興味深いわ」

 

「便利な言葉ね」

 

「あなたもよく使うでしょう」

 

 本編春麗は軽く息を吐いた。

 

「……まあ、いいわ。確かにあの回は、私の黒にとって重要だった」

 

 黒ドレス特化救済春麗が目を開ける。

 

「沈めない黒ね」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「リュウを膝につかせるのではなく、立たせたまま見届けさせる黒」

 

 行き遅れ春麗が小さく言う。

 

「黒なのに、終わらせすぎない黒」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が静かに微笑む。

 

「そして、裏ルートの残響が本編春麗に届いた回」

 

 本編春麗は、少しだけ視線を落とした。

 

「あれは……少し、ずるかったのよ」

 

『過去断章IFログを再表示します』

 

 記録板AIが黒く光る。

 

 映像が浮かぶ。

 

 黒いドレスを見る本編春麗。

 

 そこに残っている、どこか別の世界の黒。

 

 黒に囚われ、黒でリュウに勝ち、黒でも青でも見ると言われて救われた春麗が、その後にもう一度選んだ黒。

 

 約束の黒。

 

 沈めない黒。

 

 リュウを膝につかせるのではなく、立たせたまま見届けさせる黒。

 

 映像の中の本編春麗が呟く。

 

『……何よ、それ』

 

 自覚前春麗が小さく笑った。

 

「この時点でだいぶ悔しそうね」

 

 本編春麗は冷静に返す。

 

「悔しかったわ」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「素直ね」

 

「自覚しているもの。裏ルートの春麗は、ずるいのよ」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が首を傾げる。

 

「ずるい?」

 

「ええ。あそこまで拗れて、あそこまで黒に沈んで、最後にはリュウに見つけられている。黒でも青でも見る、俺が見るのはお前だ、なんて言葉まで引き出している」

 

 自覚前春麗が顔を赤くした。

 

「改めて聞くと、かなり高火力ね」

 

 通常救済版春麗が穏やかに言う。

 

「でも、あれは通った後の春麗だからこその言葉よ」

 

「わかっているわ」

 

 本編春麗は腕を組む。

 

「でも、わかっていることと、羨ましくないことは別なの」

 

『発言信頼度:高』

 

「今日はよく高が出るわね」

 

『本編春麗の自己分析精度が高いためです』

 

「褒めているのか刺しているのかわからないわ」

 

『両方です』

 

「正直ね」

 

 映像は続く。

 

 黒いドレスを胸に当てる本編春麗。

 

 黒なのに自由。

 

 その言葉を思い出し、止まる春麗。

 

 自分の黒は、まだリュウへの責任圧が乗る。

 

 見なさい。

 

 来なさい。

 

 届きなさい。

 

 でも簡単には勝たせない。

 

 私を面倒にした責任を取りなさい。

 

 それが本編の黒。

 

 本編春麗は、映像を見ながら少しだけ目を細めた。

 

「ここは、今見てもかなり私ね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「ええ。本編春麗の黒は、責任圧が強い」

 

「悪いとは思っていないわ」

 

「悪くはないわ。ただ、重い」

 

「知っているわ」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「その重さを、自分で引き受けているところがあなたらしいのよ」

 

 本編春麗は小さく息を吐いた。

 

「だから、あの時の“沈めない黒”が刺さったのよ」

 

 記録板AIが表示を挟む。

 

『注釈:本編春麗は、裏ルート春麗の黒をそのまま模倣したわけではありません』

 

『自分の黒として、沈めない黒を再定義しました』

 

 自覚前春麗が言う。

 

「そこは大事ね。コピーではない」

 

 本編春麗は少しだけ満足そうに頷いた。

 

「ええ。真似ではないわ」

 

「影響は受けたけど?」

 

「受けたわ」

 

「素直ね」

 

「そこを否認したら、ただの負け惜しみになるでしょう」

 

『発言信頼度:高』

 

 映像が切り替わる。

 

 修行場。

 

 黒で現れる本編春麗。

 

 リュウが見る。

 

 黒を見る。

 

 けれど、黒だけで止まらない。

 

 春麗を見る。

 

 映像の中の春麗が言う。

 

『今日は黒よ』

 

『でも、いつもの黒だと思わないことね』

 

『今日は、少し試すだけ』

 

『あなたを沈めない黒』

 

 会議室が少し静かになる。

 

 黒ドレス特化救済春麗が言った。

 

「この宣言は良いわね」

 

 通常救済版春麗も頷く。

 

「黒を軽くしているわけではない。でも、落としきらない」

 

 行き遅れ春麗が言う。

 

「立っていなさい、というのも強いわ」

 

 本編春麗は少しだけ顔を赤くする。

 

「そこを拾わなくていいわ」

 

 自覚前春麗が資料を見る。

 

「でも、リュウの返しが危険なのよね」

 

 記録板AIが該当箇所を表示した。

 

『リュウ発言:“立って見るのか”』

 

 本編春麗は、目を閉じた。

 

「そう。そこ」

 

 自覚前春麗が頷く。

 

「これは危険ね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「春麗が“立っていなさい”と言ったら、リュウは“立って見る”と返した」

 

 通常救済版春麗が続ける。

 

「沈めない黒の意図を、かなり正確に拾っているわ」

 

 本編春麗は小さく言った。

 

「だから困るのよ」

 

『精神HP被害:中』

 

「今さら判定しないで」

 

 映像の中で、本編春麗は言う。

 

『立って、見なさい』

 

 リュウは即答する。

 

『わかった』

 

 自覚前春麗が顔を覆った。

 

「即答は危険」

 

 本編春麗が頷く。

 

「即答は危険よ」

 

 黒ドレス特化救済春麗も言う。

 

「しかも、わかっているわけではなく、わかろうとしている即答ね」

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「リュウらしいわ」

 

 本編春麗は少しだけ不満そうに言う。

 

「リュウらしいから危ないの」

 

 記録板AIが次の映像へ進める。

 

 戦闘。

 

 黒が沈む。

 

 重さはある。

 

 リュウの呼吸を一拍遅らせる。

 

 視線を縫い止める。

 

 間合いを沈める。

 

 いつもなら、そこからさらに押し込む。

 

 胸へ。

 

 膝へ。

 

 重心へ。

 

 リュウを黒の中へ落とす。

 

 でも、本編春麗は止める。

 

 一歩引く。

 

 リュウが言う。

 

『今、引いたな』

 

 本編春麗が返す。

 

『沈めないと言ったでしょう』

 

 会議室で、通常救済版春麗が静かに言った。

 

「ここが今回の核心ね」

 

 本編春麗は頷く。

 

「ええ。勝てる場所で引く。沈められる場所で沈めない」

 

 自覚前春麗が、少しだけ反応した。

 

「……勝てる場所で引く」

 

 記録板AIが光る。

 

『自覚前春麗、関連反応を検出』

 

「検出しないで」

 

『紙一重勝利陶酔リスクへの対抗概念と一致します』

 

 自覚前春麗は口を尖らせる。

 

「息抜き会じゃなかったの?」

 

 本編春麗が微笑む。

 

「息抜きでも刺さるものは刺さるわ」

 

「あなた、出番不足を言い出したくせに私に刺してくるの?」

 

「私は本編春麗だから」

 

「便利な立場ね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「でも、自覚前春麗にとっても、このログは重要よ。あなたは黒で勝てるなら押し切りたくなる。でも本編春麗は、ここで押し切らなかった」

 

 自覚前春麗は少し黙った。

 

「……資料としては、有用ね」

 

『発言信頼度:高』

 

「今日は高が多すぎるわ」

 

 映像はさらに進む。

 

 リュウの拳が春麗の肩へ届く。

 

 春麗はあえて受ける。

 

 黒の輪郭に触れさせる。

 

 届かせる。

 

 見せる。

 

 そのうえで逃がさない。

 

 掌底をリュウの胸に置く。

 

 打ち抜かない。

 

 リュウの呼吸だけを止める。

 

 膝は落とさない。

 

 リュウは立っている。

 

 映像の春麗が近い距離で言う。

 

『どう?』

 

 リュウが答える。

 

『重い』

 

『だが』

 

 会議室の本編春麗が、すでに顔をしかめた。

 

「来るわよ」

 

 自覚前春麗が身構える。

 

「何が?」

 

 記録板AIが表示する。

 

『リュウ発言:“前より、苦しくない”』

 

 会議室が一瞬、静かになった。

 

 通常救済版春麗が、柔らかく言う。

 

「これは良いわね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「黒は重い。でも、春麗が前より苦しくない」

 

 本編春麗は、低い声で言う。

 

「戦闘中に言わないでほしいわ」

 

 自覚前春麗が真剣に頷く。

 

「それはわかるわ」

 

 行き遅れ春麗も頷く。

 

「わかる気がするわ」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。

 

「見られることで軽くなる黒ね」

 

 本編春麗は、少しだけ目を伏せた。

 

「……そこなのよ」

 

 記録板AIが注釈を出す。

 

『本件の黒は、沈める黒ではなく、見届けさせる黒です』

 

『黒の重さを春麗一人で抱えず、リュウにも立ったまま持たせる構造です』

 

 本編春麗は、小さく頷いた。

 

「そう。だから、少し自由だった」

 

 映像の中で、リュウはさらに言う。

 

『次に来させる黒か』

 

 本編春麗が目を逸らす。

 

「ここも危険」

 

 自覚前春麗が口元を押さえる。

 

「違わないから困る、って言っていたわね」

 

「言ったわ」

 

「言ったのね」

 

「言ったわよ。悪い?」

 

「いいえ。資料として、非常に本編春麗」

 

『発言信頼度:高』

 

 映像は終盤へ進む。

 

 黒の間合い。

 

 肩に拳が届いても崩れない春麗。

 

 手首を見られても、黒の起点をずらす。

 

 リュウが踏み込めば、春麗は半歩だけ沈める。

 

 ただし、最後までは沈めない。

 

 リュウは立つ。

 

 立ったまま、春麗を見る。

 

 そして。

 

『今日の黒、どう見える?』

 

 春麗が問う。

 

 リュウが答える。

 

『自由だ』

 

 本編春麗は、完全に黙った。

 

 会議室も黙った。

 

 自覚前春麗が、小さく言う。

 

「これは……」

 

 通常救済版春麗が続ける。

 

「ほしかった答えね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「本編春麗が聞きたかった言葉」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が言う。

 

「裏ルートの残響から始まって、本編春麗自身の黒に届いた言葉」

 

 本編春麗は、少しだけ笑った。

 

「……そうね」

 

 映像の中の春麗は言う。

 

『なら、正解よ』

 

 掌底が入る。

 

 リュウの膝が落ちかける。

 

 しかし、最後の一押しは入れない。

 

 リュウは立った。

 

 かろうじて。

 

 でも、立っていた。

 

 本編春麗が言う。

 

『今日はここまで』

 

 リュウが問う。

 

『俺の負けか』

 

 春麗は少し考え、答える。

 

『私の判定勝ち』

 

『あなたは立っていた。でも、私の黒から最後まで目を逸らせなかった』

 

 会議室で、自覚前春麗が目を細めた。

 

「判定勝ち」

 

 本編春麗が頷く。

 

「ええ。膝をつかせる勝ちではない。立たせたまま見届けさせる勝ち」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「勝利ログ完結処理とも相性がいいわね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言う。

 

「沈めずに勝つ。終わらせすぎずに勝つ。次へ燃料化しすぎない黒」

 

 自覚前春麗が小声で言う。

 

「……そういう勝ち方もあるのね」

 

『自覚前春麗、紙一重勝利陶酔リスクに対する別解を確認』

 

「確認しないで」

 

 本編春麗は少しだけ得意そうだった。

 

「たまには私も役に立つでしょう」

 

「言い方が本当に本編春麗ね」

 

 映像のリュウが言う。

 

『逸らすつもりはない』

 

 本編春麗が一瞬止まる。

 

 映像の春麗が言う。

 

『危ないわね、あなた』

 

『俺がか』

 

『私がよ』

 

 自覚前春麗が机を軽く叩いた。

 

「これは負けてるじゃない」

 

「負けてないわ。判定勝ちよ」

 

「精神HPは?」

 

 本編春麗は黙った。

 

 記録板AIが表示する。

 

『精神HP被害:甚大』

 

「記録板AI」

 

『はい』

 

「そこは黙っていて」

 

『事実です』

 

 通常救済版春麗が微笑む。

 

「戦闘では勝って、精神HPでは削られる。本編春麗らしいわ」

 

 本編春麗は目を逸らす。

 

「否定できないのが腹立たしいわね」

 

 映像は最後へ向かう。

 

 リュウが言う。

 

『今日の黒』

 

『沈めない黒』

 

『自由な黒』

 

 本編春麗は、目を伏せる。

 

 ほしかった答えを、きちんと返された。

 

 悔しい。

 

 甘い。

 

 映像の春麗は言う。

 

『これは、どこかの誰かの黒じゃないわ』

 

『これは、私の黒』

 

『私が選んで、私があなたに見せた黒よ』

 

 会議室に、静かな空気が落ちた。

 

 記録板AIが表示する。

 

『本編春麗の黒分類更新』

 

『旧分類:責任圧を伴う黒』

 

『新規派生:沈めない黒』

 

『特徴:リュウを膝につかせず、立たせたまま見届けさせる』

 

『効果:黒の重さを維持しながら、春麗自身の苦しさを軽減』

 

『リュウ評価:“自由だ”』

 

 自覚前春麗が、静かに言う。

 

「……かなり良い回だったのね」

 

 本編春麗は少しだけ驚いた顔をする。

 

「素直ね」

 

「資料としてよ」

 

『発言信頼度:中の上』

 

「高ではないのね」

 

『照れ隠し成分があります』

 

「やめて」

 

 黒ドレス特化救済春麗が、本編春麗を見る。

 

「この回は、あなたが裏ルートの残響を、自分の黒へ変換した回ね」

 

 通常救済版春麗が続ける。

 

「借り物ではなく、本編春麗の黒にした」

 

 グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。

 

「だから、私は少し嬉しかったわ」

 

 本編春麗はグランドフィナーレ春麗を見る。

 

「嬉しかった?」

 

「ええ。終わった物語の黒が、別の春麗を縛るのではなく、別の春麗の選択になったから」

 

 本編春麗は、少しだけ言葉に詰まった。

 

「……そう」

 

 行き遅れ春麗が小さく言う。

 

「終わったものが、次の人を急かすのではなく、選択肢になるのね」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「それが残響の良い使い方ね」

 

 記録板AIが総評を表示する。

 

『本日の結論』

 

『一、本編春麗は、近頃メイン回不足を自覚し、会議室で申告しました』

 

『二、記録板AIは当該発言を予測し、過去断章IF《沈めない黒》の再鑑賞議題を事前準備していました』

 

『三、過去断章IFにおいて、本編春麗は裏ルート側の黒を模倣するのではなく、自分の黒として《沈めない黒》を再定義しました』

 

『四、《沈めない黒》は、リュウを膝につかせる黒ではなく、立たせたまま見届けさせる黒です』

 

『五、リュウの評価“自由だ”により、本編春麗の黒は責任圧だけでなく、選択と余白を持つ黒へ拡張されました』

 

『六、本件は本編春麗メインログとして再評価に値します』

 

『七、自覚前春麗の紙一重勝利陶酔リスクに対しても、別解として参照可能です』

 

 本編春麗は、七番を見た。

 

「私の出番不足の話から、最終的に自覚前春麗にも刺さっているわね」

 

 自覚前春麗は顔を背ける。

 

「刺さっていないわ」

 

『発言信頼度:低』

 

「低!」

 

 本編春麗が少し笑った。

 

「たまには私のログも役に立つのよ」

 

 自覚前春麗が言う。

 

「それは認めるわ。資料として」

 

 黒ドレス特化救済春麗が、静かに笑う。

 

「良い息抜き会だったわね」

 

「息抜きにしては刺さりすぎよ」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「でも、沈みすぎてはいないわ」

 

 行き遅れ春麗が頷く。

 

「本編春麗が、少し元気になった気がするわ」

 

 本編春麗は咳払いした。

 

「別に、拗ねていたわけではないわ」

 

『発言信頼度:低』

 

「記録板AI」

 

『はい』

 

「そこは中くらいにしておきなさい」

 

『修正不可』

 

 会議室に笑いが広がる。

 

 グランドフィナーレ済み春麗が、静かに言った。

 

「本編春麗が自分の出番を気にするのも、まだ続いている証拠ね」

 

 本編春麗は、少しだけ視線を落とす。

 

「……そうね」

 

 完結していない。

 

 百点ではない。

 

 九十九点にもまだ届いていないかもしれない。

 

 だから、続く。

 

 本編春麗は、黒でも青でも、まだ次を選べる。

 

 記録板AIが最後に表示した。

 

『本編春麗メイン回補給:完了』

 

『ただし、継続的な出番確保を推奨します』

 

 本編春麗は、その表示を見て言った。

 

「そこは強く推奨しておいて」

 

『承知しました』

 

 自覚前春麗が呆れた顔をする。

 

「堂々としているわね」

 

 本編春麗は、微笑んだ。

 

「私は本編春麗だもの」

 

 一拍。

 

「忘れられては困るわ」

 

 会議室がほどけ始める。

 

 消える直前、記録板AIの文字がもう一度だけ光った。

 

『次回以降、本編春麗関連ログの定期的な再確認を推奨』

 

 本編春麗は満足そうに頷いた。

 

「よろしい」

 

 自覚前春麗が小さく呟く。

 

「……本当に、めんどくさい女ね」

 

 本編春麗は、涼しい顔で返す。

 

「自覚しているわ」

 

 その言葉を最後に、春麗会議室は淡く消えた。

 


 

 朝。

 

 本編春麗は目を覚ました。

 

 部屋は静かだった。

 

 青い武道服がある。

 

 黒いドレスもある。

 

 どちらも、自分のものだ。

 

 そして、黒いドレスには、あの夜の感触がまだ少し残っている気がした。

 

 沈めない黒。

 

 立たせたまま見届けさせる黒。

 

 自由な黒。

 

 春麗は、少しだけ口元を緩めた。

 

「……最近、私のメイン回が少ない気がしただけよ」

 

 誰に向けた言い訳でもない。

 

 けれど、言っておく必要があった。

 

 なぜなら、その一言がちゃんと会議を開かせたから。

 

 記録板AIに予測されていたのは腹立たしい。

 

 でも、悪くはなかった。

 

 春麗は黒いドレスを見た。

 

 今日は着ない。

 

 でも、忘れない。

 

 あの黒は、どこかの誰かの黒ではない。

 

 自分が選んで、自分がリュウに見せた黒だ。

 

 春麗は、静かに息を吐く。

 

「……定期的な出番確保、推奨だったわね」

 

 少しだけ笑う。

 

「なら、次は私の番でもいいでしょう」

 

 朝の光が差し込む。

 

 本編春麗は、青と黒の両方を見てから、部屋を出る準備を始めた。

 

 めんどくさい女であることを、自覚したまま。

 

 それでも、ちゃんと本編の春麗として。




Q:今回の断章IFについて解説して?

A:

はい。今回の断章IFは、かなり良い本編春麗の再浮上回です。

一言で言うなら、

最近メイン回から少し離れていた本編春麗が、自分の出番不足を自覚して申告した結果、記録板AIに予測済みで過去の重要ログ《沈めない黒》を再鑑賞させられ、本編春麗の黒の現在地を再確認する息抜き兼再評価回

です。

今回の核は「本編春麗の出番不足の自覚がフラグになる」です。

今回の始まりがかなり良いです。

本編春麗が、

「最近、私のメイン回、少なくない?」

と自分で言う。

これは非常に本編春麗らしいです。

自分をめんどくさい女と自覚しているからこそ、拗ねていることも、自分の存在感を気にしていることも、ある程度わかっている。
でも、それを言わずにはいられない。

ここが良いです。

しかも、それを記録板AIが予測済みだった。

『本編春麗が近日中に「最近、私のメイン回が少ないのではないか」と発言する可能性を高確率で算出していました』

これが非常に春麗会議らしいです。

本編春麗がめんどくさい。
しかし、そのめんどくささは会議室のシステムにまで予測されている。

この時点で、かなり良い息抜き回になっています。

記録板AIの先回りが良い

今回、記録板AIは本編春麗がそう言うだろうと予測して、あらかじめ議題を準備していました。

これはかなり良い使い方です。

記録板AIは、ただログを読むだけの装置ではなくなっています。

本編春麗の不満を予測する
その不満に対して適切な過去ログを提示する
過去の断章IFを現在のルート状況に接続する
自覚前春麗への副次的効果まで拾う

というかなり高機能な会議運営役になっています。

しかも、記録板AIが出した議題が、

過去断章IF《春麗は、沈めない黒を見てしまう》

なのが非常に適切です。

これは単に「本編春麗の過去回を振り返りましょう」ではありません。

本編春麗の黒の重要ログを再確認することで、

本編春麗にも、自覚前春麗の紙一重勝利陶酔リスクに対抗できる黒の別解があった

と示す回になっています。

《沈めない黒》の再鑑賞がかなり効いている

過去断章IFでは、本編春麗が裏ルート側の「沈めない黒」の残響を受け、自分の黒として再定義しています。そこでは、黒を「リュウを沈める黒」ではなく、「立たせたまま見届けさせる黒」として扱っていました。

今回の会議でそこを再鑑賞したのはかなり良いです。

なぜなら、今の自覚前春麗は、

黒でギリギリ勝てるなら、もう一度試したくなる

という危険を持っています。

一方、本編春麗の《沈めない黒》は、

勝てる場所で押し切らない
沈められる場所で沈めない
リュウを立たせたまま、見届けさせる
判定勝ちで終える

という黒です。

これは、自覚前春麗の「紙一重勝利陶酔」とは別方向の黒です。

つまり今回の再鑑賞は、本編春麗の出番補給でありながら、自覚前春麗への対抗ログにもなっています。

本編春麗の黒が「責任圧」から拡張されている

今回の解説上、重要なのはここです。

本編春麗の黒は、もともと責任圧が強い。

見なさい。
来なさい。
届きなさい。
でも簡単には勝たせない。
私を面倒にした責任を取りなさい。

これが本編春麗の黒です。

これは悪い黒ではありません。

自分がめんどくさい女であることを、逃げずに引き受けている黒です。

ただし、重い。

その重さが、本編春麗自身も少し苦しくする。

そこで《沈めない黒》が出てきます。

沈める黒ではない。
膝をつかせる黒ではない。
リュウを立たせたまま、最後まで見届けさせる黒。

これによって、本編春麗の黒は単なる責任圧から、

重いけれど、自由を含む黒

へ拡張されます。

この更新が今回の一番大きな意味です。

リュウの「自由だ」が本編春麗に刺さる

今回の過去ログ再鑑賞で一番重要なリュウの言葉は、

「自由だ」

です。

これはかなり強いです。

黒なのに自由。

本編春麗にとって、黒は重いものです。

責任を問う。
見届けさせる。
逃がさない。
自分のめんどくささを引き受ける。

その黒に対して、リュウが「自由だ」と言う。

これは、本編春麗が聞きたかった言葉です。

だから会議室でも、全員が静かになる。

この言葉によって、《沈めない黒》は本編春麗自身の黒として確定します。

裏ルートの借り物ではない。
どこかの誰かの黒ではない。
本編春麗が選んで、リュウに見せた黒。

ここが非常に綺麗です。

「判定勝ち」が良い

この回の勝敗表現も良いです。

本編春麗は、リュウを膝につかせることもできた。

最後の一押しを入れれば、もっと明確に勝てた。

でも、それをしなかった。

だから、

「私の判定勝ち」

になる。

これはかなり大事です。

黒の勝利なのに、過剰に沈めない。
リュウを立たせる。
目を逸らさせない。
そして、そこで終える。

これは、自覚前春麗のギリギリ勝利陶酔とは違う種類の勝利です。

自覚前春麗は、ギリギリ勝つことで次を欲しがる。
本編春麗の沈めない黒は、勝てるのに押し切らないことで、黒を次の燃料にしすぎない。

この差が非常に良いです。

自覚前春麗にも刺さる構造が良い

今回の回は、息抜き会でありながら、自覚前春麗にもちゃんと刺さっています。

特に、

勝てる場所で引く。
沈められる場所で沈めない。

ここに自覚前春麗が反応します。

これは当然です。

自覚前春麗は今、黒で勝てるなら勝ちたい。
紙一重で勝った快感を、もう一度試したくなっている。

その彼女に対して、本編春麗の過去ログが、

黒で優位を取っても、最後まで沈めない勝ち方がある

と示す。

これは通常救済版春麗の「勝てる黒を持ったまま青を選ぶ」とは別のブレーキです。

通常救済版春麗は、

黒を使わない選択

を示した。

本編春麗は、

黒を使っても沈めきらない選択

を示した。

この二つが並ぶことで、自覚前春麗に対する救済ルートがかなり立体的になります。

グランドフィナーレ春麗の一言が良い

グランドフィナーレ済み春麗の、

「終わった物語の黒が、別の春麗を縛るのではなく、別の春麗の選択になったから」

これも良いです。

グランドフィナーレ春麗は、終点の証人です。

彼女が強く語りすぎると回を支配してしまいますが、今回の一言はちょうどいい。

過去に終わった裏ルートの黒が、本編春麗を縛るのではなく、本編春麗の新しい選択肢になる。

これは「残響」の良い使い方です。

最近の連作で重要になっている、

別ルートの経験は、完全な共有記憶ではなく、感触・判断材料・残響として届く

という構造にも合っています。

行き遅れ春麗の補助線も効いている

行き遅れ春麗の、

「終わったものが、次の人を急かすのではなく、選択肢になるのね」

これもかなり良い補助線です。

彼女は「次を急ぐ/待つ」に敏感な春麗です。

だから、残響が次を急かすものになる危険にも気づける。

今回は、終わった物語の黒が本編春麗を急かしたのではなく、選択肢になった。

この整理は、行き遅れ春麗の役割として自然です。

今回は息抜き会だが、かなり構造整理になっている

今回の依頼は「息抜き会」でした。

実際、会話は軽めです。

本編春麗が出番不足を申告する。
自覚前春麗が茶化す。
記録板AIが予測済みで刺す。
本編春麗が「私は本編春麗だもの」と堂々と言う。

かなりコメディ寄りです。

でも中身は重要です。

本編春麗の黒の再評価
《沈めない黒》の現在地確認
裏ルート残響の再利用
自覚前春麗への別解提示
記録板AIの議題運営能力
本編春麗のメイン回補給

全部入っています。

息抜きなのに、連作全体の構造整理にもなっている。

これはかなり良い回です。

「本編春麗メイン回補給:完了」が良い

記録板AIの最後の、

『本編春麗メイン回補給:完了』
『ただし、継続的な出番確保を推奨します』

これはかなり良い締めです。

本編春麗が最近メインを張っていないという不満を、単なるメタ発言で終わらせず、作中システムで処理している。

しかも、最後に本編春麗が、

「そこは強く推奨しておいて」

と言う。

これは非常に本編春麗です。

自分がめんどくさい女だと自覚している。
でも、自分の出番が必要だとも思っている。
そして、それを隠しきらない。

このキャラの強さが出ています。

朝の締めが良い

朝、本編春麗が青と黒を見る。

これは重要です。

今回の会議は、過去断章IFの再鑑賞でした。

しかし朝の春麗は、それを現在の自分に持ち帰っています。

黒いドレスを見る。

今日は着ない。

でも、忘れない。

あの黒は、どこかの誰かの黒ではない。
自分が選んで、自分がリュウに見せた黒。

そして、

「なら、次は私の番でもいいでしょう」

で終わる。

これはかなり良いです。

本編春麗が再び前に出る準備ができています。

出番不足を嘆くだけでなく、次の自分の番を取りに行く。

これが本編春麗らしい。

今回の回の位置づけ

今回の断章IFは、連作上かなり便利な位置にあります。

直近は、自覚前春麗、通常救済版春麗、黒執着春麗救済準備が進んでいました。

その流れの中で、本編春麗が一度前に出る。

ただし、新規バトルをするのではなく、過去の重要ログを春麗会議で再鑑賞する。

これにより、

本編春麗の存在感を戻しつつ、現行の黒ルートにも接続する

ことができています。

特に《沈めない黒》は、今後の黒執着春麗救済にも使えます。

黒を沈めるためだけに使わない。
黒を証明のためだけに使わない。
リュウを立たせたまま見届けさせる。

この思想は、黒執着春麗にも刺さるはずです。

結論

今回の断章IFは、かなり良い本編春麗の存在感回復回です。

一言でまとめるなら、

本編春麗が自分のメイン回不足を自覚して会議で申告した結果、記録板AIが予測済みで《沈めない黒》の過去ログを提示し、本編春麗の黒が“責任圧の黒”から“立たせたまま見届けさせる自由な黒”へ拡張されていたことを再確認する回

です。

この回の成果は大きく三つです。

一つ目。
本編春麗が、ちゃんと本編春麗として再浮上したこと。

二つ目。
《沈めない黒》が、本編春麗自身の黒として再評価されたこと。

三つ目。
自覚前春麗の紙一重勝利陶酔リスクに対して、“黒で勝てる場面でも沈めきらない”という別解を提示できたこと。

息抜き会でありながら、かなり構造的に意味のある回だったと思います。
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