また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
行き遅れに恐怖する春麗のエピソードになります。
ルート一覧の『行き遅れに恐怖する春麗:三択回答待ちルート』に該当する話になります。
春麗会議室は、いつもより少し賑やかだった。
本編春麗が、自分の黒について何か言われて少し拗ねている。
自覚前春麗は、黒ドレスの資料を抱えたまま、どこか納得していない顔をしている。
黒ドレス特化救済春麗は、黒の扱いについて静かに考えている。
通常救済版春麗は、青と黒のどちらも選べる春麗として、穏やかに座っている。
グランドフィナーレ済み春麗は、あいかわらず少し遠い場所から見ているような顔をしている。
それぞれが、それぞれの場所で何かを進めていた。
青を選び直す春麗。
黒を深める春麗。
黒を返す準備をする春麗。
青も黒も選べる春麗。
終われた春麗。
そして。
行き遅れに恐怖する春麗は、円卓の端で静かに座っていた。
手は膝の上。
視線は少し下。
話に入れないわけではない。
でも、今日はどうしても、他の春麗たちが少し遠く見えた。
みんな、何かを選んでいる。
みんな、何かを進めている。
自分だけが、同じ場所にいる気がした。
答えを待っている。
リュウからの三択回答を。
その日が来るのを。
いつ来るかわからない答えを。
待っている。
ただ、待っている。
「……私だけ」
声は小さかった。
けれど、会議室ではよく響いた。
本編春麗がそちらを見る。
「どうしたの?」
行き遅れ春麗は、少しだけ手を握った。
「私だけ、進んでいない気がするの」
会議室が少し静かになった。
自覚前春麗が資料から顔を上げる。
「そんなことはないでしょう」
少し軽い声。
「待っているだけなら、楽そうね。資料として」
その場の空気が、少しだけ固まった。
自覚前春麗は言ってから、自分で止まった。
「……いいえ、違うわね」
資料を閉じる。
「待つ方が削れる時もある」
行き遅れ春麗は、少しだけ目を見開いた。
自覚前春麗は、視線を逸らしながら続ける。
「私は、黒で勝てるなら次を考えてしまう。動いているから危ない。でも、あなたは動かないことで削られているのね」
記録板AIが光る。
『自覚前春麗、発言信頼度:高』
「採点しないで」
本編春麗が、静かに口を開いた。
「待つのは、かなり削れるわよ」
行き遅れ春麗は、本編春麗を見る。
本編春麗は、自分をめんどくさい女と自覚する春麗の顔で、真っ直ぐに言った。
「でも、答えを奪ったら、あなたがほしかった答えではなくなるわ」
その言葉は、深く刺さった。
行き遅れ春麗は、息を止める。
答えがほしい。
早くほしい。
待っている時間が怖い。
でも、急かして得た答えは、きっと違う。
それは、リュウが選んだ答えではなくなる。
自分が追い詰めて引き出した答えになる。
それは、ほしかったものではない。
黒ドレス特化救済春麗が、静かに言った。
「相手の答えを急かさないのは、相手の領域を侵さないことよ」
行き遅れ春麗は、そちらを見る。
「相手の領域……」
「ええ。あなたが怖いのはわかる。でも、答えを選ぶ場所はリュウの中にある。そこへ踏み込まないで待つのは、境界を守ること」
通常救済版春麗が穏やかに続ける。
「待てなくなっても戻れるわ」
行き遅れ春麗は、少しだけ目を伏せた。
通常救済版春麗は微笑む。
「でも、今日は待てた。それで十分よ」
「まだ、今日が終わっていないわ」
「なら、今日を待ち切ればいいの」
記録板AIが表示を切り替える。
『三択回答待ちルート』
『現在状態:回答未受領』
『精神HP自然減少:継続』
『ルート破綻:なし』
『進行形式:静的進行』
行き遅れ春麗は、記録板を見た。
「静的進行……?」
『はい』
『行き遅れに恐怖する春麗は、現時点で外見上の大きな行動を起こしていません』
『しかし、回答を急かさず、待機位置を保持しています』
『これは停止ではありません』
『進行形式:静的進行』
自覚前春麗が少しだけ眉を上げる。
「静的進行。面白い分類ね」
『分類有効性:高』
本編春麗が頷く。
「私や自覚前春麗は、動いて削られる。あなたは、待って削られる」
行き遅れ春麗は、手を握り直した。
「でも……待っているだけで、本当に進んでいるの?」
記録板AIが即答する。
『はい』
「どうして?」
『回答催促を回避し、相手の選択権を保持しているためです』
黒ドレス特化救済春麗が頷く。
「相手の選択権保持。良い整理ね」
通常救済版春麗が言う。
「あなたは何もしていないのではないわ。奪わないことを選んでいるの」
行き遅れ春麗は、胸の奥が少し痛んだ。
奪わないことを選んでいる。
それは、少しだけ強く聞こえた。
グランドフィナーレ済み春麗が、そこで静かに口を開いた。
「終わりを急がない物語もあるわ」
それだけだった。
会議室は静かになった。
その一言は、押しつけではなかった。
答えでもない。
けれど、どこか遠くから届いた灯りのようだった。
行き遅れ春麗は、小さく頷いた。
「……今日は、待ってみるわ」
記録板AIが光る。
『本日の暫定目標を設定します』
『目標:回答催促回避』
『補助分類:待機位置維持』
『精神HP自然減少への対処:自己否定を避ける』
自覚前春麗が小さく言う。
「自己否定を避ける、ね」
本編春麗が行き遅れ春麗を見る。
「怖くてもいいわ。怖いまま待てるなら、それもあなたの強さよ」
行き遅れ春麗は、もう一度頷いた。
でも。
心の中では、まだ怖かった。
翌日。
行き遅れ春麗は、街を歩いていた。
特別な用事ではない。
用事がないわけでもない。
ただ、歩いていた。
何かを考えすぎないために。
春麗会議室で言われた言葉が、何度も浮かぶ。
待つことは停止ではない。
進行形式:静的進行。
回答催促回避。
待機位置維持。
相手の選択権保持。
怖いまま待機可能。
記録板AIの言葉は、冷たいようで、少しだけ支えになっていた。
それでも、心は削れていく。
待っている間にも、時間は過ぎる。
他の春麗たちは進む。
青を選ぶ。
黒を選ぶ。
黒を選ばない。
戦う。
勝つ。
振り返る。
自分は、待っている。
その事実だけで、胸が苦しくなる。
角を曲がった時だった。
リュウがいた。
行き遅れ春麗は、足を止めた。
リュウも、少し離れた場所で立ち止まった。
偶然だった。
たぶん。
けれど、春麗会議室でなら主人公補正と呼ばれそうなタイミングだった。
リュウは、こちらに気づいている。
春麗も、リュウに気づいている。
距離はある。
声をかけられない距離ではない。
むしろ、少し歩けば届く。
呼べば、きっと振り返る。
話せる。
聞ける。
三択の答えを。
今、どう思っているのかを。
待っていていいのかを。
怖い。
聞きたい。
聞きたい。
今すぐ聞きたい。
胸の奥で、何かが急かす。
行き遅れ春麗は、唇を噛んだ。
声をかければ、答えに近づくかもしれない。
でも、それは近づくことなのか。
急かすことなのか。
相手の答えを、まだ形になっていない場所から引きずり出すことなのか。
昨日の本編春麗の言葉が蘇る。
答えを奪ったら、あなたがほしかった答えではなくなるわ。
黒ドレス特化救済春麗の言葉も蘇る。
相手の答えを急かさないのは、相手の領域を侵さないことよ。
通常救済版春麗の声も。
待てなくなっても戻れるわ。
でも、今日は待てた。それで十分よ。
行き遅れ春麗は、手を握った。
リュウはまだこちらを見ている。
目が合った。
言葉はない。
リュウは、何か言いかけたようにも見えた。
春麗も、言いかけた。
でも、言わなかった。
喉の奥まで来ていた言葉を、そっと戻した。
答えは?
どうするの?
私は待っていていいの?
その全部を、言わなかった。
代わりに、行き遅れ春麗は小さく頷いた。
ただ、それだけ。
リュウは少しだけ目を細めた。
そして、同じように小さく頷いた。
それ以上、何もなかった。
近づかない。
呼ばない。
聞かない。
声をかけない。
でも、消えたわけではない。
無視したわけでもない。
逃げたわけでもない。
そこにいた。
互いに気づいた。
目が合った。
頷いた。
そして、答えを急かさなかった。
行き遅れ春麗は、ゆっくり歩き出した。
足が少し震えていた。
胸は痛い。
精神HPは、たぶんかなり削れた。
でも、言わなかった。
答えを奪わなかった。
相手の選択権を残した。
怖いまま、待った。
角を曲がり、リュウの姿が見えなくなったところで、春麗は壁に手をついた。
「……言わなかった」
声が震えた。
「言わなかったわ」
それは、勝利の声ではない。
喜びでもない。
ただ、立っているための確認だった。
春麗は、少しだけ目を閉じた。
待つことは、こんなに削れる。
動かないことは、こんなに苦しい。
でも。
それでも。
今日は、答えを急かさなかった。
その夜。
春麗会議室は、静かに開いた。
円卓には、全員が揃っていた。
行き遅れ春麗は、少し疲れた顔で座っている。
記録板AIが起動した。
『本日の会議を開始します』
『対象:行き遅れに恐怖する春麗』
『議題:三択回答待ちルート進行確認』
行き遅れ春麗は、少しだけ緊張した。
『本日ログを表示します』
『偶発接触:あり』
『接触対象:リュウ』
『発話接触:なし』
『視線接触のみ』
『回答催促:なし』
『三択回答:未消費』
『待機位置維持:成功』
行き遅れ春麗は、表示を見つめた。
「……成功?」
『はい』
『回答催促回避に成功しました』
本編春麗が静かに言う。
「よく声をかけなかったわね」
その声には、茶化しがなかった。
行き遅れ春麗は、小さく答える。
「かけたかったわ」
「でしょうね」
「すごく、聞きたかった」
本編春麗は頷く。
「待つのは、かなり削れるもの」
記録板AIが表示する。
『精神HP自然減少:中』
『瞬間最低値:危険域手前』
『ただし、自己破綻なし』
『進行形式:静的進行』
自覚前春麗が、珍しく真面目な顔で見ていた。
「……声をかけなかっただけなのに、ちゃんとログになるのね」
『はい』
『未実行も、選択の結果である場合はログ化されます』
「未実行も選択……」
自覚前春麗は、少しだけ考えた。
「資料として、私にも刺さるわね」
『発言信頼度:高』
「そこはもういいわ」
黒ドレス特化救済春麗が、行き遅れ春麗を見る。
「相手の領域を守ったのね」
「守れたのかしら」
「少なくとも、今日は踏み込まなかった」
「踏み込まなかっただけで、進んだことになるの?」
記録板AIが即座に表示する。
『はい』
『進行形式:静的進行』
『停止ではなく位置取り』
『相手の選択権保持』
通常救済版春麗が穏やかに言う。
「あなたは、答えを奪わなかったわ」
行き遅れ春麗は、手元を見た。
「でも、私の答えはまだないままよ」
「ええ」
「怖いままよ」
「ええ」
「何も解決していないわ」
「そうね」
通常救済版春麗は、それでも微笑んでいた。
「でも、今日は待てた。それで十分よ」
行き遅れ春麗は、少しだけ唇を震わせた。
「十分なの?」
本編春麗が答える。
「十分よ」
自覚前春麗も、小さく言う。
「少なくとも、待っているだけなら楽そう、とはもう思わないわ」
黒ドレス特化救済春麗が続ける。
「待つことは、境界を守る行為でもある」
グランドフィナーレ済み春麗が、静かに言った。
「終わりを急がない物語も、進んでいるわ」
その一言で、行き遅れ春麗の目に少しだけ光が戻った。
記録板AIが、最終ログを表示する。
『本日の正式結論』
『一、行き遅れに恐怖する春麗は、他の春麗たちの変化を見て焦燥を覚えました』
『二、翌日、偶然リュウと遭遇しました』
『三、発話接触は行わず、視線接触のみで通過しました』
『四、三択回答を催促しませんでした』
『五、三択回答は未消費です』
『六、待機位置維持に成功しました』
『七、本件は停止ではなく位置取りです』
『八、進行形式:静的進行』
『九、怖いまま待機可能』
行き遅れ春麗は、九番を見つめた。
「怖いまま待機可能……」
『はい』
「怖くなくなったわけではないのね」
『はい』
「待つのが平気になったわけでもない」
『はい』
「それでも、待てた」
『はい』
記録板AIは、少し間を置いた。
『本日の評価:三択回答待ちルート、進行あり』
行き遅れ春麗は、目を閉じた。
進行あり。
その言葉が、胸の中に落ちる。
何も得ていない。
答えはまだない。
三択のどれも選ばれていない。
リュウの言葉も聞いていない。
でも。
進行あり。
自分は、止まっていなかった。
待つ場所に、立っていた。
通常救済版春麗が言った。
「待てなくなっても戻れるわ」
本編春麗が続ける。
「でも今日は、戻る前に踏みとどまれた」
自覚前春麗が言う。
「資料として、少し尊敬するわ」
行き遅れ春麗は、驚いたようにそちらを見た。
自覚前春麗は目を逸らす。
「少しだけよ」
『発言信頼度:高』
「記録板AI」
『はい』
「今日は黙って」
『承知しました』
黒ドレス特化救済春麗が静かに微笑む。
「あなたは、相手の答えを守った。自分の怖さを抱えたまま」
グランドフィナーレ済み春麗が言う。
「物語は、答えが出た時だけ進むわけではないわ」
行き遅れ春麗は、少しだけ笑った。
「……それ、少しずるい言い方ね」
グランドフィナーレ済み春麗は微笑むだけだった。
記録板AIが最後に表示する。
『三択回答待ちルート』
『現在状態:回答未受領』
『待機位置:維持』
『精神HP:減少あり』
『自己破綻:なし』
『次回目標:怖いまま待てる自分を責めすぎない』
行き遅れ春麗は、その表示を見て、小さく頷いた。
「……今日は、それでいいわ」
会議室がゆっくりほどけていく。
消える直前、本編春麗が言った。
「行き遅れているわけではないわよ」
行き遅れ春麗は、本編春麗を見る。
本編春麗は、少しだけ笑った。
「答えを待つ位置に立っているだけ」
行き遅れ春麗は、胸に手を当てた。
「……ありがとう」
その言葉を最後に、春麗会議室は淡く消えた。
朝。
行き遅れに恐怖する春麗は目を覚ました。
部屋は静かだった。
答えは、まだない。
三択のどれも、選ばれていない。
リュウからの言葉も、まだ届いていない。
何も変わっていないように見える。
でも、昨日の自分は、声をかけなかった。
答えを急かさなかった。
リュウと目が合って、頷いた。
それだけ。
それだけなのに、胸はまだ少し痛い。
行き遅れ春麗は、布団の上で膝を抱えた。
「……怖いわ」
小さく言う。
「まだ、怖い」
怖くなくなってはいない。
待つことが平気になったわけでもない。
他の春麗たちが進んでいるのを見ると、また焦るかもしれない。
自分だけ止まっていると思う日もあるかもしれない。
でも。
昨日、記録板AIは言った。
進行形式:静的進行。
停止ではなく位置取り。
怖いまま待機可能。
行き遅れ春麗は、ゆっくり息を吐いた。
「……怖いままでも、待てたのね」
それを、自分に言う。
誰かに証明するためではない。
リュウに聞かせるためでもない。
自分が、自分を責めすぎないために。
彼女は立ち上がった。
窓の外には、朝の光が差している。
今日も、答えはまだ来ないかもしれない。
でも、今日も待つことはできるかもしれない。
待てなくなったら、春麗会議室に戻ればいい。
怖くなったら、怖いと言えばいい。
それでも、答えを奪わないでいられる日が一日でもあるなら。
それは、止まっているのではない。
行き遅れ春麗は、鏡の前に立った。
少しだけ、目元が赤い。
でも、顔を上げた。
「今日は……急かさない」
一拍。
「それで、いいわ」
小さな声だった。
けれど、昨日より少しだけ、まっすぐだった。
彼女は部屋を出る準備を始めた。
三択の答えは、まだない。
でも、その答えを待つ位置に、今日も立つために。
Q:今回の妄想章IFについて解説して?
A:
はい。今回の妄想章IFは、かなり良い静かな進行回です。
一言で言うなら、
行き遅れに恐怖する春麗が、他の春麗たちが進んでいることに焦りながらも、リュウと偶然すれ違った場面で三択回答を急かさず、“待つことは停止ではなく位置取りである”と自分のルートを少し認める回
です。
今回の核は、「何もしなかったことが、ちゃんと進行になる」です。
今回の核は「静的進行」
今回の一番大事な言葉は、
進行形式:静的進行
です。
これはかなり良い分類です。
本編春麗や自覚前春麗は、かなり動的に進みます。
本編春麗は青を選び直したり、沈めない黒を試したりする。
自覚前春麗は黒ドレスで戦い、勝ち、言葉を混ぜ、紙一重勝利陶酔リスクへ進む。
通常救済版春麗は青も黒も選べる春麗として、勝てる黒を持ったまま青を選ぶ。
黒ドレス特化救済春麗は黒執着春麗救済へ向かう。
それに対して、行き遅れ春麗は外見上は動いていません。
答えを待っている。
三択回答を待っている。
リュウが何を選ぶのかを待っている。
だから本人は「私だけ進んでいない」と感じる。
でも今回、その待機状態そのものが、
停止ではなく位置取り
として再定義されました。
これは非常に重要です。
本編春麗が自分の黒を持っている
自覚前春麗が黒ドレスの資料を抱えている
黒ドレス特化救済春麗が静かに考えている
通常救済版春麗が穏やかに座っている
グランドフィナーレ済み春麗が遠い場所から見ている
という描写で、各春麗が進んでいることを自然に見せています。
「待っているだけなら楽そうね」からの反転が良い
自覚前春麗の、
「待っているだけなら、楽そうね。資料として」
から、
「……いいえ、違うわね」
「待つ方が削れる時もある」
への反転が良いです。
これは自覚前春麗らしいです。
最初は茶化す。
でも、すぐに自分で気づく。
自覚前春麗は、今「動いてしまう危険」を持っています。
黒で勝てる。
次も試したくなる。
動くことで沼に入る。
だからこそ、行き遅れ春麗の「動かないことで削られる」状態にも気づける。
この相互理解が良いです。
自覚前春麗がただの煽り役ではなく、別方向の危険を理解し始めていることも見えます。
本編春麗の言葉が刺さる
本編春麗の、
「待つのは、かなり削れるわよ」
「でも、答えを奪ったら、あなたがほしかった答えではなくなるわ」
これは今回の中核台詞です。
本編春麗は、自覚済みのめんどくさい女です。
だから、待つことが削れるのをわかっている。
でも同時に、相手の答えを奪う危険もわかっている。
ここが本編春麗らしいです。
答えがほしい。
早くほしい。
でも、急かして得た答えは、自分がほしかった答えではない。
これは、三択回答待ちルートの根幹です。
この言葉があるから、行き遅れ春麗はリュウとすれ違った時に踏みとどまれます。
黒ドレス特化救済春麗の「境界」整理が効いている
黒ドレス特化救済春麗の、
「相手の答えを急かさないのは、相手の領域を侵さないことよ」
これも非常に良いです。
彼女は黒を否定せず、境界や預ける/返す感覚を扱う春麗です。
そのため、三択回答待ちルートにも「境界」という補助線を出せる。
リュウの答えは、リュウの内側にある。
まだ形になっていない答えを、春麗が急かして引きずり出すことは、相手の領域へ踏み込むことになる。
この整理によって、「待つ」が単なる受け身ではなくなります。
待つことは、相手の選択権を守る行為になります。
これはかなり強いです。
通常救済版春麗の役割も良い
通常救済版春麗は、
「待てなくなっても戻れるわ」
「でも、今日は待てた。それで十分よ」
と言います。
これは帰還点として非常に自然です。
行き遅れ春麗は、待ち続けることに失敗するかもしれない。
声をかけてしまう日があるかもしれない。
怖さに負ける日があるかもしれない。
でも、通常救済版春麗は、そこを責めません。
待てなくなっても戻れる。
でも、今日は待てた。
この「今日」を肯定する姿勢が、行き遅れ春麗を支えています。
通常救済版春麗はやはり、戻れる場所の春麗です。
リュウとのすれ違いがかなり良い
今回の現実パートは、非常に静かですが、かなり強いです。
リュウと偶然すれ違う。
距離はある。
声をかけられる。
聞こうと思えば聞ける。
三択の答えに触れられるかもしれない。
でも、行き遅れ春麗は声をかけない。
ここが今回の最大イベントです。
普通のバトル回なら、拳を出すことがイベントになります。
黒ドレス回なら、黒を着ることがイベントになります。
本編春麗なら、リュウの言葉で精神HPを削られることがイベントになります。
でも今回は違います。
声をかけないことがイベントです。
これは非常にこのルートらしいです。
しかも、完全に無視するわけではありません。
目が合う。
頷く。
リュウも頷く。
それ以上はしない。
これが良いです。
接触未実行ではあるけれど、消えたわけではない。
無視したわけでもない。
逃げたわけでもない。
そこにいた。
気づいた。
でも、答えを急かさなかった。
この静かな強さが、今回の一番美味しいところです。
「視線接触のみ」が良い分類
夜の春麗会議で、
『発話接触:なし』
『視線接触のみ』
『回答催促:なし』
『三択回答:未消費』
『待機位置維持:成功』
と整理されるのが良いです。
これにより、昼間の「何もしなかった」が、ちゃんとログになります。
特に、
三択回答:未消費
が重要です。
この回では、三択回答そのものを消費しない。
答えは出ない。
リュウの選択はまだ不明。
でも、だからこそルートが進む。
これはかなり繊細ですが、うまくいっています。
このルートで大事なのは、答えを得ることではなく、答えを待っている状態そのものに意味を与えることだからです。
「未実行も選択」が良い
記録板AIの、
『未実行も、選択の結果である場合はログ化されます』
これはかなり良いです。
今までの連作では、行動したものがログ化されやすかった。
黒を着る。
青を選ぶ。
勝つ。
負ける。
言葉を言う。
精神HPを削られる。
でも今回は、
言わなかったこと
聞かなかったこと
近づかなかったこと
がログになります。
これは連作の表現幅を広げています。
特に、通常救済版春麗の「選べる」テーマともつながります。
黒を選ばないことも選択。
次戦を選ばないことも選択。
回答催促をしないことも選択。
今回の行き遅れ春麗は、その静かな側面を担っています。
「怖いまま待機可能」が今回の到達点
今回の到達点は、
『怖いまま待機可能』
です。
ここが非常に良いです。
行き遅れ春麗は、怖くなくなったわけではありません。
待つのが平気になったわけでもない。
不安が解消されたわけでもない。
三択回答が出たわけでもない。
リュウから安心する言葉をもらったわけでもない。
それでも、待てた。
怖いまま待てた。
ここが重要です。
「怖くないから待てる」では弱い。
「怖いけれど待てた」だから強い。
このルートの春麗は、怖さを消すのではなく、怖さを抱えたまま答えを奪わない。
これはかなり良い成長です。
グランドフィナーレ春麗の一言がちょうどいい
グランドフィナーレ済み春麗の、
「終わりを急がない物語もあるわ」
これはかなり良いです。
彼女は終点の証人なので、長く語らせると強すぎます。
でも今回のように一言だけ出すと、重みがあります。
行き遅れ春麗は、終わりを待っているようにも見える。
三択回答が出れば、このルートは大きく進む。
もしかすると、何かが終わる。
でも、グランドフィナーレ春麗は言う。
終わりを急がない物語もある。
これは、行き遅れ春麗のルートに非常に合っています。
朝の締めが綺麗
朝の締めでは、何も解決していません。
答えはまだない。
三択のどれも選ばれていない。
リュウからの言葉も届いていない。
普通に考えれば、何も変わっていない。
でも、春麗は昨日、声をかけなかった。
答えを急かさなかった。
リュウと目が合って、頷いた。
それだけ。
しかし、その「それだけ」を自分で認める。
「怖いままでも、待てたのね」
これが非常に良いです。
最後の、
「今日は……急かさない」
「それで、いいわ」
は、静かな決意として綺麗です。
三択回答を消費しないまま、ルートが進んだことがわかります。
今回の回の位置づけ
今回の妄想章IFは、派手さはありません。
バトルもない。
黒ドレスもない。
リュウの高火力台詞もない。
三択回答も出ない。
でも、かなり重要です。
なぜなら、春麗会議の中に、
待てる春麗
を正式に立てたからです。
これまでの連作は、かなり動く春麗たちが多かった。
戦う。
勝つ。
負ける。
黒を選ぶ。
青を選ぶ。
救済する。
レビューする。
そこに今回、
待つことを選ぶ春麗
が加わりました。
これは連作全体の幅を広げています。
結論
今回の妄想章IFは、行き遅れに恐怖する春麗のルートをかなり綺麗に立ち上げた回です。
一言でまとめるなら、
行き遅れ春麗は、他の春麗たちが進んでいることに焦り、リュウと偶然すれ違った時に答えを聞きたくなる。
しかし、声をかけず、三択回答を急かさず、相手の選択権を守った。
その結果、春麗会議で“待機位置維持”が静的進行として記録され、怖いまま待てる自分を少しだけ認められた。
今回の最大の成果は、
待つことは停止ではない。
答えを奪わず、答えを待つ位置に立ち続けることも、春麗の強さである。
これを本文として成立させたことです。
かなり静かですが、かなり良いルート回だったと思います。