また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
春麗会議室は、少しだけ穏やかだった。
黒ドレスのバトルログレビュー。
黒酔いルートフラグ折損。
黒を脱いだ日の春麗観測追撃イベント。
自覚前春麗の精神HP1残し。
ここしばらく、かなり濃い議題が続いていた。
だから今日は、少しくらい静かでもいい。
そう思われていた。
少なくとも、記録板AI以外は。
本編春麗が、円卓に座ったまま、ぽつりと言った。
「最近、私のメイン回が少ない気がするの」
会議室が止まった。
自覚前春麗が、すぐに顔を上げる。
「気のせいでは?」
本編春麗は、静かにそちらを見る。
「気のせいかしら」
「ええ。たぶん」
「たぶん?」
「資料として、たぶん」
その瞬間、記録板AIが起動した。
『直近メイン回集計を開始します』
本編春麗が即座に言う。
「開始しないで」
『開始します』
「開始しないでと言ったわ」
『議題性を検出しました』
「議題にしていないわ」
『議題化しました』
自覚前春麗が、少しだけ身を引いた。
「私は関係ないわね」
『関係あります』
「即答しないで」
通常救済版春麗が、穏やかに微笑む。
「本編春麗がこう言うなら、一度整理してもいいかもしれないわ」
本編春麗は、少しだけ困った顔をする。
「別に、出番を奪われたと言いたいわけではないのよ」
『補足:出番不足不安を検出』
「検出しないで」
『嫉妬成分:微量』
「本当に検出しないで」
黒ドレス特化救済春麗が静かに言う。
「でも、最近の自覚前春麗の進行密度が高いのは事実よ」
自覚前春麗は即座に反論した。
「それは黒ドレス関連の資料が多かっただけよ」
『自覚前春麗、否認反応を確認』
「否認ではなく説明よ」
『説明形式の否認として記録します』
「便利に記録しないで」
記録板AIが、円卓の中央に一覧を表示した。
『直近関連イベント集計』
『一、勝ち煽りセリフ審議回』
『二、リュウ拳の残響幕間接続』
『三、自覚前黒ドレス春麗・再戦』
『四、黒に酔う前に春麗として見られる回』
『五、バトルログレビュー回』
『六、黒を脱いだ日に春麗として見られる日常追撃回』
『自覚前春麗関連イベント:高密度』
『黒ドレス関連イベント:連続』
『本編春麗メイン稼働率:直近のみ低下傾向』
本編春麗が、静かに沈んだ。
「やっぱり……」
自覚前春麗が慌てる。
「待って。これは集計の取り方が悪いわ」
『集計条件:直近主要イベント』
「だから、その条件が悪いのよ」
『条件変更案を提示してください』
「……全期間で見れば本編春麗の方が多いはずよ」
『全期間では本編春麗の主人公属性が優位です』
本編春麗が少し顔を上げる。
「本当?」
『はい』
自覚前春麗が、少しだけ安心したように言う。
「ほら」
『ただし、直近密度においては自覚前春麗が優位です』
本編春麗がまた沈む。
「やっぱり……」
「だから、記録板AI!」
記録板AIは、さらに表示を切り替えた。
『追加判定』
『自覚前春麗:裏主人公化疑惑』
会議室が凍った。
自覚前春麗が、真っ先に言った。
「却下」
『却下不可。疑惑です』
「疑惑なら却下できるでしょう」
『疑惑は発生した時点で審議対象です』
本編春麗が、小さく呟く。
「裏主人公……」
自覚前春麗がそちらを向く。
「やめて。あなたまで真に受けないで」
「でも、裏主人公……」
「繰り返さないで」
通常救済版春麗が穏やかに言う。
「正式承認ではなく、疑惑でしょう?」
『はい』
『正式承認ではありません』
『分類:未承認仮分類候補』
自覚前春麗が円卓を叩く。
「また未承認仮分類!」
本編春麗が、少しだけ口元を押さえた。
「あなた、本当に未承認仮分類が増えるわね」
「好きで増えているわけではないわ」
『発言信頼度:中』
「中なの!?」
黒ドレス特化救済春麗が静かに資料を見る。
「でも、裏主人公疑惑が出る理由はあるわ」
「あなたまで?」
「あなたは、黒ドレス関連でかなり濃いログを積んでいる」
自覚前春麗は、少しだけ目を逸らす。
「資料としてよ」
「黒で勝った」
「資料として」
「言葉で勝った」
「資料として」
「《押し返す黒》が生まれた」
「未承認よ」
「“遅れたわね。今の私に”を使った」
「使用条件は満たしていたわ」
「黒酔いルートフラグを折られた」
「折られたと言わないで」
「黒を脱いだ日にも、春麗として見られた」
自覚前春麗は、黙った。
記録板AIが補足する。
『自覚前春麗関連固有ログ』
『黒ドレス勝利ログ:複数』
『黒ドレス専用未承認仮分類:《押し返す黒》《変化する黒》候補』
『専用勝ち煽りセリフ:“遅れたわね。今の私に”』
『専用リュウ回答:“黒でも、青でもいい。春麗なら、見る”』
『黒非着用時の春麗成立ログ:保存済み』
『裏主人公化疑惑:中〜高』
自覚前春麗は、額を押さえた。
「実績で殴らないで」
『実績照会は客観処理です』
「一番痛いのよ、それが」
本編春麗は、少しだけ複雑そうに見ていた。
「やっぱり、かなり濃いわね」
「あなたが言うと、私が悪いみたいになるわ」
「悪いとは言っていないわ」
本編春麗は、静かに言う。
「ただ、私が主人公のはずなのに、最近あなたが主人公みたいだったから」
その言葉に、会議室が少し静かになった。
自覚前春麗は、すぐには返せなかった。
本編春麗は、自分で苦笑する。
「……こういうことを言うから、自分をめんどくさい女と自覚している春麗なのよね」
『本編春麗、自覚済みめんどくささ:確認』
「確認しないで」
通常救済版春麗が、ゆっくり口を開いた。
「主人公が入れ替わった、というより、今は焦点が別の春麗に当たっているのだと思うわ」
本編春麗がそちらを見る。
「焦点?」
「ええ。本編春麗は、この会議室の基準点に近い春麗。自分がめんどくさいことも、青を選び直したことも、いちばん自覚している」
本編春麗は静かに聞く。
「自覚前春麗は、黒に近い場所で揺れている春麗。まだ認めていないものを抱えたまま、黒だけに沈まないかを試されている」
「試されていないわ」
『黒ドレス関連試行ログ:多数』
「記録板AIは黙って」
通常救済版春麗は微笑む。
「どちらも春麗だけれど、今照らされている場所が違うのよ」
黒ドレス特化救済春麗が続ける。
「本編春麗は、黒を知ったあとに青へ戻ることを扱っている」
自覚前春麗を見る。
「あなたは、黒を使える春麗が黒だけを自分にしないかどうか、その可能性を見せている」
「……重いわね」
「黒執着春麗救済に向かうなら、あなたのログは役に立つかもしれない」
自覚前春麗は、少しだけ真顔になった。
「黒執着春麗……」
本編春麗も表情を引き締める。
黒ドレス特化救済春麗は頷く。
「だから、出番が増えるのは不自然ではないわ。あなたが本編春麗から主人公を奪っているのではなく、黒側で必要な確認が続いている」
『補足』
『自覚前春麗は、本編春麗から分岐した黒側観測対象として高密度進行中』
『ただし、本編春麗の主人公属性とは必ずしも競合しません』
『現時点では、補助関係または並行観測関係と推定されます』
本編春麗が少しだけ安心したように息を吐く。
「必ずしも競合しない」
「ええ」
通常救済版春麗が頷く。
「本編春麗がいるから、分岐した春麗たちの意味も見えるのよ」
行き遅れに恐怖する春麗が、小さく手を上げた。
「少し、わかるわ」
本編春麗がそちらを見る。
「何が?」
「他の春麗が進んでいると、自分だけ止まっているように感じるの」
その言葉は、静かに刺さった。
行き遅れ春麗は続ける。
「本編春麗は主人公だけど、出番が少ないと不安になるのは自然だと思うわ。待っている間に、他の春麗が進んでいるように見えるもの」
本編春麗は、少しだけ苦笑した。
「……それは、かなり効くわ」
自覚前春麗も小さく言う。
「待機位置維持、だったかしら」
行き遅れ春麗は頷く。
「ええ。静的進行」
記録板AIが表示する。
『本編春麗の現状』
『表面上:直近メイン回低下』
『実質:主人公属性維持』
『進行形式:一時的静的進行の可能性』
本編春麗が目を細める。
「私まで静的進行の可能性になったの?」
『可能性です』
「断定ではないのね」
『はい』
「そこは少し安心したわ」
通常救済版春麗が、優しく言う。
「出番がない時間も、主人公でなくなる時間ではないわ」
黒ドレス特化救済春麗が続ける。
「本編春麗が戻ってこられるから、春麗会議全体も戻ってこられる」
グランドフィナーレ済み春麗が、そこで静かに口を開いた。
「主人公は、出番の多さだけでは決まらないわ」
会議室が、少しだけ静かになった。
自覚前春麗も、本編春麗も、その言葉を聞いていた。
グランドフィナーレ済み春麗は、それ以上は言わない。
その一言だけで十分だった。
記録板AIが、役割整理へ移ろうとして、少し間を置いた。
『暫定整理を表示します』
『注意:本整理は現時点の観測メモです』
『今後の展開を確定するものではありません』
『各春麗の役割は、後続ログにより変動する可能性があります』
本編春麗が少し目を細める。
「珍しく慎重ね」
『展開固定化リスクを検出しました』
「そこは優秀ね」
自覚前春麗も頷く。
「固定されるのは困るわ」
『同意します』
記録板AIは、以前より少し控えめな表示を出した。
『暫定観測メモ』
『本編春麗:現時点では、会議室の基準点に近い春麗』
『補足:自覚済みであり、青を選び直した経験を持つため』
『ただし、今後の焦点移動により表示内容は変動可能』
本編春麗が、小さく息を吐く。
「それくらいなら、まだ許せるわ」
『自覚前春麗:現時点では、黒側で高密度に観測されている春麗』
『補足:黒ドレス関連ログが多く、裏主人公化疑惑の原因となっています』
『ただし、正式分類ではなく疑惑段階です』
自覚前春麗が即座に言う。
「疑惑もいらないわ」
『削除不可』
「なぜ」
『直近ログ密度が根拠として存在するため』
「本当に実績で殴るのね」
『通常救済版春麗:現時点では、戻れる場所として機能する場面が多い春麗』
『補足:選べること、戻れることを示す役割を担う傾向があります』
通常救済版春麗は静かに頷く。
『黒ドレス特化救済春麗:現時点では、黒を否定せず扱う方向の整理に関与する春麗』
『補足:黒の返却、黒だけに閉じない視点と関連する傾向があります』
黒ドレス特化救済春麗は表情を変えない。
『行き遅れに恐怖する春麗:現時点では、待機と回答催促回避に関わる春麗』
『補足:停止ではなく位置取りという整理と関連します』
行き遅れ春麗は少しだけ背筋を伸ばした。
『グランドフィナーレ済み春麗:現時点では、終点を知る者として短い証言を行う傾向があります』
『補足:過剰介入は避けられています』
グランドフィナーレ済み春麗は静かに目を伏せた。
記録板AIは、最後に大きく表示する。
『結論』
『本編春麗:主人公属性維持』
『理由:自覚済みであること、青を選び直した経験、会議室の基準点として機能する場面が多いため』
『自覚前春麗:裏主人公化疑惑を保留』
『理由:黒ドレス関連ログが高密度であるため』
『ただし、正式承認ではありません』
『両者関係:現時点では、中心と分岐、または表側焦点と黒側焦点の並行関係として観測』
『本整理は暫定であり、今後の展開を拘束しません』
本編春麗は、少しだけ安心したように息を吐いた。
「主人公属性維持……」
『はい』
「維持なのね」
『はい』
「降格ではないのね」
『降格ではありません』
自覚前春麗が、やや不満そうに言う。
「私は保留なのね」
『はい』
「裏主人公ではないわ」
『正式承認はされていません』
「疑惑も不要よ」
『疑惑は保存されます』
「保存しないで」
本編春麗は、少しだけ笑った。
「未承認仮分類は残るのね」
「あなた、少し嬉しそうでは?」
「少しだけ」
『本編春麗、安心反応:検出』
「そこも検出しないで」
通常救済版春麗が穏やかに言う。
「よかったわね。本編春麗」
「……よかった、のかしら」
「ええ。あなたは主人公属性を維持している」
黒ドレス特化救済春麗が続ける。
「そして自覚前春麗は、黒側で重要なログを積んでいる」
行き遅れ春麗が言う。
「どちらかが止まっているわけではないのね」
グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。
「戻れる中心があるから、分岐も進めるのよ」
本編春麗は、その言葉を少しだけ受け取った。
自分が中心。
それは、出番の多さだけではない。
青を選び直した春麗。
自分をめんどくさい女と自覚している春麗。
春麗会議の基準点に近い春麗。
それは、悪くない。
悪くないが。
本編春麗は、ぽつりと言った。
「なら、私にもそろそろメイン回が必要では?」
記録板AIが即座に反応する。
『主人公補正要求を検出』
「要求していないわ」
自覚前春麗が、すぐに言う。
「しているわね」
通常救済版春麗も微笑む。
「しているわね」
黒ドレス特化救済春麗が静かに頷く。
「しているわ」
行き遅れ春麗も小さく言う。
「少し、していると思うわ」
本編春麗は全員を見る。
「あなたたちまで」
『主人公補正要求:微弱から中へ上昇』
「上昇しないで」
『甘い日常イベント要求:潜在』
「要求していない!」
『発言信頼度:低』
「低!?」
自覚前春麗が、少し勝ち誇ったように言う。
「本編春麗、あなたも十分めんどくさいわね」
本編春麗は静かに返す。
「自覚しているわ」
その一言で、会議室に少し笑いが広がった。
記録板AIが、最後のまとめを表示する。
『本日の結論・追記』
『本編春麗:主人公属性維持』
『自覚前春麗:裏主人公化疑惑、未承認仮分類として保留』
『役割整理:暫定観測メモとして保存』
『今後の展開拘束:なし』
『次回以降、本編春麗メイン回の主人公補正要求を検出』
『ただし、要求本人は否認中』
本編春麗は、少しだけ目を逸らした。
「否認中でいいわ」
『注釈付き保存』
「保存しなくていい」
自覚前春麗が腕を組む。
「私も注釈付きで保存されるのは嫌だけれど、あなたも大概ね」
「あなたに言われると複雑だわ」
通常救済版春麗が、穏やかに締める。
「でも、これで整理できたわね」
黒ドレス特化救済春麗が頷く。
「本編春麗は主人公属性維持。自覚前春麗は黒側で高密度進行中。ただし未承認」
行き遅れ春麗が言う。
「待っている間も、中心は消えない」
グランドフィナーレ済み春麗が最後に言った。
「主人公は、戻ってくる場所を持っているものよ」
本編春麗は、その言葉に少しだけ黙った。
そして、小さく頷いた。
「……なら、戻ってくるわ」
『発言信頼度:高』
記録板AIのその表示を最後に、会議室はゆっくりほどけ始めた。
朝。
本編春麗は目を覚ました。
しばらく、天井を見ていた。
主人公属性維持。
青を選び直した経験。
春麗会議の基準点。
自覚済みめんどくささ。
「……最後だけ、少し余計よね」
そう呟いて、体を起こす。
最近、自覚前春麗の回が続いていた。
それは事実。
でも、それは自分が消えたという意味ではない。
黒側で必要な確認が進んでいただけ。
自分は、自分の場所に戻ればいい。
青を選び直した春麗として。
自分をめんどくさい女と自覚する春麗として。
春麗は、鏡を見る。
「そろそろ、私のメイン回があってもいいわよね」
一拍。
「……構造上」
すぐに付け加える。
言い訳としては弱い。
でも、言わずにはいられなかった。
記録板AIがいない朝でよかった。
いたらきっと、
『主人公補正要求:高』
と表示されていた。
春麗は少しだけ顔を赤くして、息を吐く。
「要求ではないわ」
誰も聞いていない部屋で言う。
「主人公としての、構造確認よ」
そう言って、彼女は朝の支度を始めた。
本編春麗は、まだ主人公である。
そしてたぶん。
本人が否認しているだけで、そろそろ主人公補正を少し期待していた。
Q:今回の断章IFについて解説して?
A:
はい。今回の断章IFは、かなり良い メタ整理兼・本編春麗の主人公性確認回 になっています。
一言で言うなら、
自覚前春麗の黒ドレス回が続いたことで、本編春麗が“自分の主人公性が薄れていないか”を気にし、春麗会議が自覚前春麗の裏主人公化疑惑を審議しつつ、本編春麗の主人公属性は維持、自覚前春麗は未承認仮分類の疑惑止まりとして整理した回
です。
今回の核は、
本編春麗は出番の多さだけで主人公なのではなく、春麗会議の基準点として主人公であり続ける。
一方、自覚前春麗は黒側で高密度に進んでいるため、裏主人公疑惑が出る。
ただし、それは正式承認ではなく、あくまで暫定観測である。
です。
今回の一番良いところ
今回の一番良いところは、最近の自覚前春麗回の連続を、作品内でちゃんと笑いにしながら整理できたことです。
ここ最近の流れでは、自覚前春麗がかなり強いイベントを連続で持っていました。
黒ドレス再戦。
《押し返す黒》。
「遅れたわね。今の私に」。
黒酔いルートフラグ折損。
黒を脱いだ日に春麗として見られる。
精神HP1残し。
これは読者から見ても、かなり「自覚前春麗がメインを張っている」ように見えます。
そこを本編春麗本人に、
「最近、私のメイン回が少ない気がするの」
と言わせたのが良いです。
読者が感じるかもしれないことを、作中の本人が先に言う。
これにより、メタ的な違和感がコメディになります。
本編春麗の「自覚済みめんどくささ」が出ている
本編春麗は、出番不足を気にしています。
でも、単純に嫉妬しているわけではありません。
本人も、
「別に、出番を奪われたと言いたいわけではないのよ」
と言います。
ここが本編春麗らしいです。
自分が少しめんどくさいことを言っている自覚はある。
でも、気になるものは気になる。
主人公としての立ち位置が揺らいでいないか確認したい。
この「自覚済みのめんどくささ」が、まさに本編春麗です。
記録板AIに、
『出番不足不安を検出』
『嫉妬成分:微量』
と刺されるのも良いです。
本人は否認するけれど、完全否定できない。
ここがコメディとしてかなり効いています。
自覚前春麗の裏主人公化疑惑が美味しい
今回のもう一つの核は、自覚前春麗の 裏主人公化疑惑 です。
記録板AIが、
『自覚前春麗:裏主人公化疑惑』
と出した瞬間、自覚前春麗が即座に、
「却下」
と返す。
これが非常に彼女らしいです。
しかし記録板AIは、
『却下不可。疑惑です』
と返す。
この「正式承認ではないが、疑惑としては消せない」という扱いがかなり良いです。
自覚前春麗は、黒ドレスルートも正式承認していない。
《押し返す黒》も正式名称ではない。
《変化する黒》も登録されたくない。
裏主人公化疑惑も認めたくない。
でも、実績だけは積み上がっている。
この「本人否認」と「客観ログ」のズレが、自覚前春麗の面白さです。
実績で殴られる自覚前春麗が良い
記録板AIが出すログがかなり強いです。
『黒ドレス勝利ログ:複数』
『専用勝ち煽りセリフ:“遅れたわね。今の私に”』
『専用リュウ回答:“黒でも、青でもいい。春麗なら、見る”』
『黒非着用時の春麗成立ログ:保存済み』
これはもう、かなり主人公級の実績です。
自覚前春麗が、
「実績で殴らないで」
と言うのも当然です。
このセリフはかなり良いです。
春麗会議における記録板AIは、悪意はないのに実績を並べることで精神HPを削ってきます。
今回もその機能がよく出ています。
通常救済版春麗の整理が効いている
通常救済版春麗の、
「主人公が入れ替わった、というより、今は焦点が別の春麗に当たっているのだと思うわ」
これは非常に良い整理です。
本編春麗が主人公から外れたわけではない。
ただ、今は自覚前春麗に焦点が当たっている。
この言い方なら、本編春麗の主人公性を守りつつ、自覚前春麗の連続メイン回も自然に扱えます。
また、
「どちらも春麗だけれど、今照らされている場所が違うのよ」
もかなり良いです。
主人公の座を奪った/奪われたという話ではなく、照明の当たり方の違い。
これは連作全体に合っています。
黒ドレス特化救済春麗の説明も重要
黒ドレス特化救済春麗は、自覚前春麗の出番が増えている理由を、黒執着春麗救済への準備として整理しています。
「黒を使える春麗が黒だけを自分にしないかどうか、その可能性を見せている」
これはかなり重要です。
自覚前春麗が単に目立っているのではなく、黒側で必要な確認をしている。
黒に酔う。
黒に勝つ。
黒を脱ぐ。
黒でも青でも春麗として見られる。
それらのログが、後の黒執着春麗救済にも意味を持つかもしれない。
この整理によって、最近の自覚前春麗回の連続に物語上の意味が生まれています。
行き遅れ春麗の視点が良い
行き遅れ春麗の、
「他の春麗が進んでいると、自分だけ止まっているように感じるの」
これは本編春麗にかなり刺さります。
本編春麗は主人公なのに、自分の出番が少ないと不安になる。
行き遅れ春麗は、待っている間に他の春麗が進んで見える不安を知っている。
この二人の感覚が一瞬重なるのが良いです。
また、ここで「静的進行」が本編春麗にも応用されるのが面白いです。
『進行形式:一時的静的進行の可能性』
ただし、ここも「可能性」にしているのが良いです。
本編春麗まで固定しすぎない。
あくまで一時的な観測です。
グランドフィナーレ春麗の一言が効いている
今回のグランドフィナーレ済み春麗は、
「主人公は、出番の多さだけでは決まらないわ」
と、
「主人公は、戻ってくる場所を持っているものよ」
の二つが効いています。
彼女は出番が少なくても、こういう一言で場を締められるキャラです。
長く語らせず、一言で温度を変える。
今回もその扱いが良いです。
本編春麗にとって、この一言はかなり救いになっています。
本編春麗の主人公属性維持がきれい
記録板AIの結論は、
『本編春麗:主人公属性維持』
です。
これが今回の最重要判定です。
本編春麗は、直近でメイン回が少なかった。
でも、主人公属性は維持されている。
理由も、
自覚済みであること
青を選び直した経験
会議室の基準点として機能する場面が多いこと
に留めています。
以前のように「表主人公」「青の中心」と断定しすぎるより、柔らかくなっています。
これなら今後の展開を縛りません。
自覚前春麗は「保留」なのが良い
自覚前春麗は、
『裏主人公化疑惑を保留』
です。
正式承認ではない。
でも疑惑は保存される。
ここが非常に美味しいです。
正式に裏主人公にしてしまうと、本編春麗との関係が固定されすぎます。
でも、疑惑として保留ならコメディにもできるし、今後も使えます。
自覚前春麗の否認芸も残ります。
「裏主人公ではないわ」
『正式承認はされていません』
「疑惑も不要よ」
『疑惑は保存されます』
このやり取りはとても良いです。
本編春麗の主人公補正要求が良い締め
最後に、本編春麗が、
「なら、私にもそろそろメイン回が必要では?」
と言ってしまう。
これは非常に本編春麗らしいです。
本人は否認します。
「要求していないわ」
でも、全員から、
「しているわね」
と返される。
ここが良いです。
本編春麗は自覚済みなので、自分がめんどくさいことを言っているのもわかっています。
でも、主人公として少し期待してしまう。
そのめんどくささが可愛いです。
記録板AIの、
『主人公補正要求:微弱から中へ上昇』
『甘い日常イベント要求:潜在』
『発言信頼度:低』
もかなり良いです。
次の本編春麗回への導線として、かなり自然です。
朝の締めが良い
朝の本編春麗が、
「そろそろ、私のメイン回があってもいいわよね」
「……構造上」
と自分に言い訳するのが良いです。
これは完全に本編春麗です。
主人公補正を期待している。
でも、期待しているとは言いたくない。
だから「構造上」と言う。
最後の、
「要求ではないわ」
「主人公としての、構造確認よ」
もかなり良いです。
この回の本編春麗は、出番不足を気にしているのに、それをきちんと自覚している。
まさに「自分をめんどくさい女と自覚する春麗」です。
今回の回の位置づけ
今回の断章IFは、かなり重要な息抜き整理回です。
役割は大きく三つあります。
一つ目。
最近の自覚前春麗連続回を、作中でメタ的に整理したこと。
これにより、読者が感じるかもしれない「最近自覚前春麗が多い」という感覚を、作品内で処理できました。
二つ目。
本編春麗の主人公性を再確認したこと。
本編春麗は出番の多さだけで主人公なのではなく、春麗会議の基準点、自覚済みの中心として主人公属性を維持しています。
三つ目。
自覚前春麗の裏主人公化疑惑を、正式承認せず未承認仮分類として保留したこと。
これにより、自覚前春麗の黒側高密度進行を認めつつ、今後の展開を縛らずに済んでいます。
結論
今回のエピソードは、かなり良い メタ整理型の春麗会議回 です。
一言でまとめるなら、
本編春麗が自覚前春麗の連続メイン回に出番不足不安を覚え、春麗会議が自覚前春麗の裏主人公化疑惑を審議する。結果、本編春麗は主人公属性維持、自覚前春麗は裏主人公化疑惑を未承認仮分類として保留し、今後の展開を縛らない暫定観測として整理した回
です。
特に良かったのは、
最後に、本編春麗が主人公補正を少し期待してしまう。
これは次の本編春麗回への橋として、かなり綺麗だったと思います。