また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
朝。
本編春麗は、目を覚ましてからしばらく天井を見ていた。
主人公属性維持。
自覚済みめんどくささ。
青を選び直した春麗。
春麗会議の基準点に近い春麗。
そして。
主人公補正要求、潜在。
「……要求していないわ」
誰もいない部屋で、春麗は呟いた。
昨日の春麗会議で、記録板AIにそう表示された。
主人公補正要求。
甘い日常イベント要求。
発言信頼度、低。
低。
あれはひどい。
こちらはただ、最近自分のメイン回が少ない気がすると、構造上の確認をしただけだ。
自覚前春麗の黒ドレス回が続いていた。
黒に酔う前に折られた。
黒を脱いだ日に春麗として見られた。
精神HP1で踏みとどまった。
裏主人公化疑惑まで出た。
それなら、本編春麗として、自分の主人公性を確認するのは当然だ。
当然。
構造上。
「……構造上よ」
春麗は寝台の上で、もう一度言った。
しかし、問題がある。
主人公補正というものは、来てほしい時には来ない。
来る時は勝手に来る。
何の準備もない時にリュウが現れる。
精神HPが低い時に限って、余計なことを言う。
防御が薄い日に、急に高火力発言を投げてくる。
そういうものだ。
だから、待っていても仕方がない。
主人公補正が来ないなら。
こちらから動く。
春麗は、ゆっくり起き上がった。
「自分から物語を動かせるのが、本編春麗の強み」
声に出す。
少しだけ恥ずかしい。
でも、間違っていない。
自覚前春麗は、黒に引っ張られながらも動いた。
通常救済版春麗は、選べることを示した。
行き遅れ春麗は、待つことを進行にした。
なら、本編春麗は。
自分がめんどくさい女だと知っている春麗は。
待つだけではなく、自分からリュウに問いを投げに行ける。
それが強みだ。
春麗は鏡の前に立った。
青い武道服を整える。
今日は黒ではない。
もちろん、黒のことを忘れているわけではない。
黒を知った青。
戻って選び直した青。
リュウに届かれた青。
見られた青。
覚えられた青。
そして、宿題を出せる青。
春麗は、青い袖を軽く握った。
「リュウは言ったわ」
面倒でもいい。
次も、俺に聞け。
その言葉は、かなり危険だった。
九十九点。
最高点。
満点ではない。
百点ではない。
だから次が残った。
次も聞けと言われた。
なら、聞きに行く。
それは、こちらから動く理由になる。
「……言われたから行くのではないわ」
一応、言っておく。
「宿題の継続確認よ」
一拍。
「会話訓練の第二段階」
さらに一拍。
「主人公としての構造確認」
完璧だった。
たぶん。
春麗は鏡の中の自分を見た。
「今日の目的」
指を一本立てる。
「リュウに、新たな甘い言葉の宿題を出す」
言ってから、顔が熱くなった。
目的が直球すぎる。
だが、今回はそれでいい。
主人公補正が来ないなら、主人公が出向く。
春麗は青い袖を払った。
「……行くわ」
そう言って、部屋を出た。
リュウは、修行場にいた。
いつものように。
当然のように。
春麗は、その姿を見た瞬間に少しだけ足を止めた。
いてほしい時に、いる。
これは主人公補正ではない。
たぶん。
修行場にいるのは、リュウとして普通だ。
だから、これは偶然ではない。
こちらから来た。
こちらが物語を動かした。
そのはずだ。
「春麗」
リュウが顔を上げる。
「リュウ」
春麗は近づいた。
足取りは落ち着いている。
少なくとも、そう見えるようにしている。
「今日は戦うのか」
「その前に話があるわ」
リュウは少しだけ首を傾げる。
「話」
「ええ」
「訓練か」
春麗は一瞬止まった。
先に言われた。
だが、今回は動揺しない。
「訓練も兼ねているわ」
「ああ」
「ただし、今日は私が主導する」
リュウは頷いた。
「わかった」
即答。
その素直さが少し危険だ。
春麗は腕を組んだ。
「リュウ」
「何だ」
「あなた、前に言ったわね」
「ああ」
「まだ何を指しているか言っていないわ」
「すまない」
「謝らない」
いつものやり取り。
それだけで、少し安心する。
春麗は一歩近づいた。
「あなたは、私に言った」
声を整える。
「面倒でもいい。次も、俺に聞け、と」
リュウは静かに頷く。
「言った」
春麗の胸が少し跳ねた。
覚えている。
当然のように。
「取り消さないのね」
「取り消さない」
「本当に?」
「ああ」
「私が次を聞いたら、また考えるのね」
「ああ」
春麗は青い袖を握りそうになり、やめた。
今日は主導権を握りに来た。
ここで被弾している場合ではない。
「なら、聞きに来たわ」
リュウは春麗を見る。
「甘い言葉か」
春麗は固まった。
「……あなた」
「何だ」
「そこを自分から言うようになったの?」
「前に宿題だった」
「そうだけど」
「次も聞けと言った」
「言ったわね」
「だから、聞きに来たのだと思った」
春麗は、少しだけ目を細めた。
進んでいる。
リュウが、明らかに進んでいる。
以前なら、ここで「何の話だ」と言った。
あるいは、訓練だと思った。
いや、今も訓練だとは思っているかもしれない。
でも、春麗が甘い言葉を聞きに来た可能性を、自然に受け止めている。
これは危険だ。
かなり危険だ。
「……八十点」
春麗は小さく言った。
リュウが見る。
「今のでか」
「今のでよ」
「まだ答えていない」
「答える前の理解度評価」
「難しいな」
「難しいのよ」
春麗は深く息を吸った。
「今日は、新しい宿題を出すわ」
「ああ」
「ただし、前回と同じではない」
「ああ」
「前回は、あなたなりの甘い言葉を考えてきなさい、だった」
「考えた」
「九十九点だったわ」
「ああ」
「今回は、その次」
リュウは黙って春麗を見る。
春麗は少しだけ視線を逸らしたくなった。
でも逸らさない。
自分から来たのだ。
物語を動かしに来たのだ。
ここで引いたら、本編春麗ではない。
「次の宿題」
春麗は言った。
「私がまた面倒なことを聞いた時、あなたは“次も聞け”と言ったわ」
「ああ」
「では、その次をどう受けるのか」
リュウは少しだけ考える。
春麗は続けた。
「言葉を考えるだけではなく」
一拍。
「私がその言葉を聞いた後、また面倒になることまで含めて、どうするのか」
リュウは春麗を見る。
静かに。
まっすぐに。
「それを考えればいいのか」
「ええ」
「春麗が、俺の言葉を聞いた後に、また面倒になる」
「復唱しない」
「すまない」
「謝らない」
春麗は顔が熱くなるのを感じた。
言葉にされると、かなり恥ずかしい。
だが、言わせたのは自分だ。
春麗は負けない。
「つまり」
リュウは言った。
「言葉を渡した後のことも考える」
春麗は止まった。
言い方。
その言い方が、少し良かった。
「……そうね」
「春麗が受け取った後のことも」
さらに止まる。
「……そうね」
「それが次の宿題か」
春麗は、少しだけ息を吐いた。
「ええ」
ここで終われば、まだ安全だった。
しかし、リュウは続けた。
「わかった」
春麗は眉を寄せる。
「早いわね」
「考える」
「軽く言わないで」
「軽くはない」
まただ。
前にも聞いた。
軽くはない。
責任を取れと言った時も、たしか似たような返しをした。
リュウは、本当に軽く言っていない。
それがわかるから困る。
春麗は、腕を組み直した。
「では、宿題の内容を正式に言うわ」
「ああ」
「次までに」
一拍。
「私があなたの甘い言葉を聞いて、また面倒になった場合に、あなたがどう向き合うのかを考えてきなさい」
リュウは黙る。
考えている。
春麗は、なぜか少し緊張した。
出した。
また宿題を出した。
自分から。
主人公補正を待たずに。
リュウは静かに言った。
「春麗」
「何」
「今、答えてもいいか」
春麗は止まった。
「……今?」
「ああ」
「次までに考えてきなさいと言ったのだけど」
「考え始めたら、少し出た」
「少し出た、ではないわ」
「途中経過だ」
春麗は警戒した。
リュウの途中経過は危険だ。
以前もそうだった。
春麗が来ないと、構えが残る。
あれは途中経過で八十八点だった。
今回は、何が出るのか。
「……未完成なら、点数は低めよ」
「ああ」
「会議提出も保留」
「ああ」
「私が期待しているわけではない」
リュウは少し考えた。
「違うのか」
春麗は青い袖を握った。
「……その質問は減点」
「そうか」
「でも続けなさい」
リュウは頷いた。
「春麗が、俺の言葉を聞いて面倒になるなら」
「ええ」
「それは、俺の言葉が春麗に届いたということだと思う」
春麗は、呼吸を止めた。
初手から強い。
なぜ途中経過でそれが出るのか。
リュウは続ける。
「届かなければ、面倒にはならない」
春麗は黙る。
「だから」
一拍。
「春麗が面倒になるなら、俺は逃げる理由にはしない」
春麗の精神HPが、かなり削れた。
これは、危険。
まだ途中経過。
未完成。
なのに。
「……続けて」
春麗は、かろうじて言った。
「春麗が、また考えるなら」
「ああ」
「俺もまた考える」
それは前回に近い。
しかし、今回のリュウはそこで止まらなかった。
「春麗が、俺の言葉を持って会議に行くなら」
春麗は目を細める。
「会議の話はしていないわ」
「していないが、行く気がする」
春麗は固まった。
「あなた、そこまで読まなくていいのよ」
「そうか」
「でも、続けて」
リュウは言った。
「出されても、困らないように考えると言った」
「言ったわね」
「だが」
リュウは、少しだけ言葉を探した。
「困らないように、だけでは足りない気がする」
春麗は、完全に警戒した。
来る。
これは来る。
宿題の途中経過ではなく、もう本回答に近い何かが来る。
リュウは言った。
「春麗が俺の言葉を持って戻るなら」
一拍。
「次に戻ってきた時の春麗も見る」
春麗は動けなくなった。
修行場の風が、青い袖を揺らす。
次に戻ってきた時の春麗も見る。
それは。
つまり。
言葉を聞いた後の春麗。
会議に提出した後の春麗。
また面倒になった春麗。
次の宿題を持ってきた春麗。
そういう春麗も見る。
春麗は、かろうじて声を出した。
「……途中経過?」
「ああ」
「今のが?」
「ああ」
「あなた、途中経過の意味をわかっている?」
「まだまとまっていない」
「まとまっていないのに、その威力なの?」
リュウは少し困った顔をした。
「威力」
「威力よ」
春麗は片手で額を押さえた。
これは、まずい。
こちらから動いた。
主人公として物語を動かしに来た。
その結果、リュウの途中経過に被弾している。
しかし、引けない。
ここで退けば、ただの被弾回になる。
本編春麗は、被弾しても採点する。
自分の面倒さを自覚しながら、次へつなぐ。
春麗は顔を上げた。
「八十九点」
リュウが見る。
「九十九点ではないのか」
「途中経過としては高すぎるくらいよ」
「そうか」
「ただし」
春麗は指を立てる。
「完成版は、ここからさらに精度を上げなさい」
「ああ」
「“言葉を聞いた後の春麗も見る”だけでは足りない」
「足りないのか」
「足りないわ」
「何が足りない」
春麗は、少しだけ詰まった。
聞かれると困る。
何が足りないのか。
もっと言葉がほしい?
もっと逃げないと言ってほしい?
もっと面倒でもいいと言ってほしい?
違う。
いや、違わないかもしれない。
春麗は自分の胸の奥を探った。
そして、言った。
「見るだけではなく」
一拍。
「私が、あなたの言葉で変わってしまった時」
声が少し小さくなる。
「それでも、どうするのか」
リュウは黙った。
春麗は続ける。
「言葉を受け取った春麗は、言葉を聞く前の春麗とは違うかもしれない」
「ああ」
「九十九点を聞いた後の私は、九十九点を聞く前の私とは違う」
「ああ」
「それでも、あなたは次も聞けと言った」
「ああ」
「なら」
春麗は、リュウを見る。
「言葉で変わった後の私に、あなたがどう向き合うか」
リュウは、静かに頷いた。
「わかった」
「本当に?」
「ああ」
「難しいわよ」
「だろうな」
「面倒よ」
「ああ」
「私が」
「ああ」
「そこは少し否定しなさい」
「だが、春麗は自分で言った」
「そういうところよ」
春麗はため息をついた。
しかし、悪くない。
かなり危険だが、悪くない。
宿題としては成立した。
次が残った。
しかも、今回は自分から物語を動かした。
主人公補正を待たずに。
春麗は少しだけ満足した。
満足したことが悔しい。
「では、正式宿題」
春麗は言った。
「次までに、私があなたの言葉で変わった後、その春麗にどう向き合うのかを考えてきなさい」
リュウは頷いた。
「わかった」
「採点は厳しめにするわ」
「ああ」
「九十九点を超えることはない」
「百点はつけないのだったな」
春麗は止まった。
「……覚えているのね」
「ああ」
「なぜ」
「次がなくなると言った」
春麗は、胸を押さえたくなった。
そこも覚えている。
九十九点の理由。
百点をつけない理由。
次がなくなるから。
リュウは、そこまで覚えている。
「……そうよ」
春麗は小さく言う。
「百点はつけない」
「ああ」
「でも」
一拍。
「九十九点級なら、次もある」
リュウは頷いた。
「なら、考える」
春麗は、少しだけ笑った。
「よろしい」
かなり偉そうだった。
でも、そうしないと保てない。
リュウは不意に言った。
「春麗」
「何」
「今日は、主人公補正なのか」
春麗は完全に止まった。
「……は?」
「前に、何か言っていた気がする」
「言っていないわ」
「そうか」
「言っていない」
「なら違うのか」
「違うわ」
春麗は顔を赤くした。
「今日は、私が来たのよ」
「ああ」
「待っていたわけではない」
「ああ」
「主人公補正が来るのを期待していたわけでもない」
リュウは少し考えた。
「違うのか」
春麗は、青い袖を強く握った。
「……次回までの追加宿題」
「追加」
「今の質問がなぜ減点対象なのか考えてきなさい」
リュウは真面目に頷いた。
「わかった」
「本当に考えなくてもいいわ」
「どちらだ」
「考えなさい」
「ああ」
春麗は背を向けた。
これ以上いると危険だ。
今日は宿題を出しに来た。
目的は達成した。
途中経過で八十九点を出された。
追加宿題まで発生した。
そして、リュウに主人公補正のことを微妙に突かれた。
危険。
かなり危険。
だが。
春麗は、少しだけ足取りが軽かった。
「春麗」
背中に声が届く。
止まってはいけない。
止まるとまた被弾する。
しかし、止まった。
「何?」
振り返らずに言う。
リュウは言った。
「聞きに来たのは、春麗だ」
春麗は動けなくなった。
「だから、次に答えるのは俺だ」
沈黙。
風。
青い袖。
心臓の音。
春麗は、ゆっくり息を吐いた。
「……九十二点」
「上がったのか」
「今ので上がったわ」
「そうか」
「でも、まだ宿題は未提出」
「ああ」
「次までに完成させなさい」
「わかった」
春麗は、今度こそ歩き出した。
顔が熱い。
非常に熱い。
だが、悪くない。
来てほしい時には来ない主人公補正。
なら、自分から行けばいい。
そして、行った結果。
次ができた。
宿題ができた。
リュウは考えると言った。
春麗は、自分から物語を動かした。
「……これが本編春麗よ」
誰にも聞こえない声で呟く。
一拍。
「構造上」
付け加えた。
言い訳としては弱い。
でも、今日はそれでよかった。
その夜。
春麗会議室は、開幕前から少しざわついていた。
本編春麗が円卓に座ると、記録板AIはすでに表示を出していた。
『緊急議題』
『本編春麗、主人公補正を待たずに自発的イベントを発生させる』
『新規宿題:発行済み』
『途中経過得点:八十九点』
『追撃発言により九十二点へ上昇』
本編春麗は椅子に座った瞬間に言った。
「早いわ」
『重要ログです』
「まだ提出していないのに」
『提出前に事象が大きすぎます』
自覚前春麗が腕を組む。
「本編春麗、あなたも相当動くわね」
本編春麗は静かに返す。
「主人公だから」
自覚前春麗は目を細めた。
「便利な言葉ね」
「あなたの資料としてよりは正当よ」
「今、私を巻き込まないで」
通常救済版春麗が微笑む。
「主人公補正を待たずに、自分から行ったのね」
「ええ」
「それはとても本編春麗らしいわ」
本編春麗は少しだけ顔を逸らす。
「構造上、必要だったのよ」
『発言信頼度:中』
「中なの?」
黒ドレス特化救済春麗が、静かに資料を見る。
「新しい宿題は?」
本編春麗は少し背筋を伸ばした。
「私がリュウの言葉で変わった後、その春麗にどう向き合うのか」
会議室が静かになった。
行き遅れに恐怖する春麗が、胸元に手を当てる。
「それは……かなり強い問いね」
通常救済版春麗が頷く。
「九十九点の後の問いとして自然だわ」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「言葉を受け取った後の変化まで問うのね」
自覚前春麗が、少しだけ顔を赤くする。
「それ、かなり本編春麗向けの面倒さね」
本編春麗は堂々と言った。
「自覚しているわ」
『本編春麗、自覚済みめんどくささ:高』
「高にしないで」
記録板AIが途中経過ログを表示する。
『リュウ途中回答』
『“春麗が、俺の言葉を聞いて面倒になるなら、それは俺の言葉が春麗に届いたということだと思う”』
『“届かなければ、面倒にはならない”』
『“春麗が面倒になるなら、俺は逃げる理由にはしない”』
『“春麗が俺の言葉を持って戻るなら、次に戻ってきた時の春麗も見る”』
会議室が、再び沈黙した。
自覚前春麗が、最初に言う。
「途中経過?」
本編春麗は頷く。
「途中経過」
「途中経過でそれ?」
「そうなのよ」
通常救済版春麗が、静かに息を吐く。
「これは八十九点ね」
黒ドレス特化救済春麗が言う。
「九十点台でもおかしくないわ」
行き遅れ春麗は小さく言う。
「戻ってきた時の春麗も見る、はかなり効くわ」
グランドフィナーレ済み春麗が目を伏せる。
「言葉の後にも、次の春麗がいるということね」
本編春麗は顔を少し赤くする。
「だから、正式回答ではないのに危険だったのよ」
『補足ログ』
『追加追撃』
『リュウ発言:“聞きに来たのは、春麗だ。だから、次に答えるのは俺だ”』
『得点補正:八十九点から九十二点へ上昇』
自覚前春麗が机を軽く叩いた。
「それは上がるわ」
本編春麗は即答する。
「上がるでしょう」
通常救済版春麗が微笑む。
「主人公補正を待たずに自分で聞きに行った。その行動をリュウが受け取ったのね」
黒ドレス特化救済春麗が頷く。
「行動した春麗に、次は自分が答えると返した」
行き遅れ春麗が小さく言う。
「次があるのね」
本編春麗は静かに頷いた。
「次があるわ」
記録板AIが判定を表示する。
『本日の判定』
『本編春麗:自発的イベント発生に成功』
『主人公補正待機状態から、自力進行へ移行』
『新規宿題:正式発行』
『宿題内容:リュウの言葉で変わった後の春麗に、リュウがどう向き合うか』
『途中経過:八十九点』
『追撃補正後:九十二点』
『正式回答:次回以降』
『主人公属性:能動進行により強化』
本編春麗は、少しだけ満足そうにした。
「能動進行」
『はい』
「主人公属性強化」
『はい』
「悪くないわね」
『満足反応:検出』
「検出しないで」
自覚前春麗がじっと見る。
「あなた、結局主人公補正が欲しかったのではなく、自分で主人公補正を取りに行ったのね」
本編春麗は、少し考えた。
「違うわ」
『発言信頼度:低』
「まだ何も言っていないのに」
『文脈上、低です』
通常救済版春麗が笑う。
「でも、良かったと思うわ」
黒ドレス特化救済春麗が続ける。
「待つのではなく、向かった」
行き遅れ春麗も頷く。
「待つ強さもあるけれど、行く強さもあるのね」
グランドフィナーレ済み春麗が、静かに言った。
「物語を動かした者は、次の答えを待てるわ」
本編春麗は、その言葉を聞いて少しだけ黙った。
自分から動いた。
リュウに聞いた。
宿題を出した。
リュウは途中経過を返した。
次ができた。
なら、今度は待てる。
ただし、待つだけではない。
次にまた必要なら、自分から行けばいい。
本編春麗は、静かに頷いた。
「……なら、次の正式回答まで待つわ」
『待機位置維持:本編春麗版』
「勝手に分類しないで」
『未承認仮分類です』
「また未承認仮分類……」
会議室に笑いが広がる。
記録板AIが最後の表示を出した。
『本日の結論』
『一、本編春麗は、主人公補正を待たずに自らリュウへ接触しました』
『二、前回九十九点回答“次も、俺に聞け”を根拠に、新たな宿題を正式発行しました』
『三、宿題は“言葉で変わった後の春麗にどう向き合うか”』
『四、リュウは途中経過ながら高火力回答を提示しました』
『五、追撃発言により得点は九十二点へ上昇しました』
『六、正式回答は次回以降に持ち越し』
『七、本編春麗、能動進行により主人公属性を再確認』
『八、本人は主人公補正要求を否認中』
本編春麗は八番を見て、少しだけ顔を赤くした。
「否認中でいいわ」
『注釈付き保存』
「保存しなくていい」
自覚前春麗が笑う。
「あなたも本当に注釈付き保存が増えてきたわね」
「あなたには言われたくないわ」
通常救済版春麗が穏やかに締める。
「でも、今日は良い回だったわ」
黒ドレス特化救済春麗が頷く。
「本編春麗が、自分で次を作った」
行き遅れ春麗が言う。
「次を待てる理由もできた」
グランドフィナーレ済み春麗が静かに言う。
「主人公は、待つだけではなく、歩き出すこともできるものね」
本編春麗は、小さく息を吐いた。
「……構造上、必要だったのよ」
『発言信頼度:中』
「そこは高にしなさい」
『検討します』
「検討じゃなくて」
会議室がほどけていく。
最後に、本編春麗は小さく呟いた。
「次は、正式回答ね」
『期待反応:検出』
「検出しないで」
その表示を最後に、春麗会議室は消えた。
朝。
本編春麗は目を覚ました。
胸の奥に、昨日の言葉が残っていた。
春麗が、俺の言葉を聞いて面倒になるなら。
それは俺の言葉が春麗に届いたということだと思う。
春麗が俺の言葉を持って戻るなら。
次に戻ってきた時の春麗も見る。
聞きに来たのは、春麗だ。
だから、次に答えるのは俺だ。
春麗は、布団の中で顔を覆った。
「……途中経過で九十二点は、やりすぎよ」
しかし、悪くない。
次がある。
正式回答がある。
自分が出した宿題がある。
自分から動いた結果、次の物語ができた。
春麗は起き上がり、鏡を見る。
青い武道服。
本編の青。
自分をめんどくさい女と自覚する春麗。
主人公補正を待たずに、自分から聞きに行った春麗。
「……私は主人公だから」
一拍。
「自分で動かせる」
言ってから、少し顔が熱くなる。
だが、今日は否定しなかった。
言い訳は足す。
「構造上」
それで十分だった。
春麗は青い袖を整える。
次の正式回答まで、少し待つ。
でも、待ちきれなくなったら。
また聞きに行けばいい。
面倒でもいい。
次も、俺に聞け。
リュウがそう言ったのだから。
春麗は小さく笑った。
「……本当に、責任取りなさいよ」
そう呟いて、本編春麗は新しい朝を始めた。
Q:今回の断章IFについて解説して
A:
はい。今回の断章IFは、かなり綺麗に本編春麗の主人公復権回になっています。
一言で言うなら、
最近メイン回不足を気にしていた本編春麗が、主人公補正を待つのではなく、自分からリュウへ会いに行き、前回の九十九点回答を踏まえた“次の宿題”を出すことで、自分で物語を動かした回
です。
今回の核は、
主人公補正は待つものではなく、本編春麗は自分から取りに行ける。
です。
今回の核は「自分から物語を動かす本編春麗」
直前の春麗会議で、本編春麗はかなりはっきり出番不足を気にしていました。
自覚前春麗の黒ドレス回が続いた。
裏主人公化疑惑まで出た。
本編春麗は主人公属性維持と判定された。
でも、本人としては少し不安が残っている。
そこで今回、本編春麗は待ちません。
普通なら、主人公補正でリュウと偶然会う流れになります。
でも今回は違います。
来てほしい時には来ないのが主人公補正。
なら、自分から行く。
ここが非常に本編春麗らしいです。
自分をめんどくさい女と自覚している。
自分がリュウに言葉を求めていることも、かなり自覚している。
それでも、言い訳を整えながら自分で動く。
この「自覚しているのに動く」感じが、本編春麗の主人公性です。
前回の九十九点回答を正しく踏まえている
今回の大前提は、リュウが以前言った、
「面倒でもいい。次も、俺に聞け」
です。
この言葉は、本編春麗にとって非常に大きな許可でした。
春麗は、リュウに甘い言葉を求めてもいい。
面倒な問いを投げてもいい。
言葉を採点してもいい。
次を求めてもいい。
もちろん本人は、
「訓練」
「宿題」
「構造確認」
「会話訓練の第二段階」
と言い訳します。
でも、もう完全には否認できません。
だから今回の春麗は、前回の九十九点回答を受けて、ちゃんと「次」を出しに行っています。
これは連作としてかなり綺麗です。
新しい宿題の内容が良い
今回の宿題は、
私があなたの言葉で変わった後、その春麗にどう向き合うのかを考えてきなさい
です。
これは非常に良い宿題です。
前回の宿題は、
あなたなりの甘い言葉を考えてきなさい
でした。
今回はその次です。
甘い言葉そのものではなく、
甘い言葉を受け取った後、春麗が変わってしまった場合にどうするのか
を問うています。
これはかなり本編春麗向きの面倒さです。
春麗は言葉を聞くだけでは終わりません。
聞いた後に考える。
会議に持ち帰る。
採点する。
精神HPを削られる。
次の問いを作る。
その結果、言葉を聞く前とは違う春麗になる。
そこまで含めて、リュウに向き合う覚悟を問う。
これは前回の九十九点回答の正統な続きです。
リュウの途中経過が強い
今回、リュウは正式回答をまだ出していません。
でも、途中経過がかなり強い。
特に、
「春麗が、俺の言葉を聞いて面倒になるなら、それは俺の言葉が春麗に届いたということだと思う」
これは非常に危険です。
春麗のめんどくささを、迷惑や処理対象として見ていない。
むしろ、
自分の言葉が届いた結果として受け取っている。
ここが本当に強いです。
さらに、
「春麗が面倒になるなら、俺は逃げる理由にはしない」
これもかなり高火力です。
春麗が面倒になることを、逃げる理由にしない。
これは前回の「面倒でもいい」の発展形です。
そして一番強いのが、
「春麗が俺の言葉を持って戻るなら、次に戻ってきた時の春麗も見る」
です。
これは今回の宿題の核心にかなり近い。
言葉を聞いた後の春麗。
会議に持ち帰った後の春麗。
また面倒になった春麗。
次の宿題を持ってくる春麗。
その春麗も見る。
途中経過でこれを言ってしまうのが、リュウの無自覚高火力です。
九十二点への上昇が美味しい
最初、本編春麗はリュウの途中経過に八十九点をつけます。
これが良いです。
九十九点ではない。
正式回答でもない。
でも、かなり高い。
そして最後の追撃、
「聞きに来たのは、春麗だ」
「だから、次に答えるのは俺だ」
これで九十二点に上がる。
ここがかなり綺麗です。
この発言は、本編春麗が自分から動いたことを、リュウがちゃんと受け取っている言葉です。
春麗が聞きに来た。
だから次に答えるのは自分だ。
つまり、春麗の能動性にリュウが応答している。
これが、今回の「主人公補正を待たずに動く」テーマと直結しています。
主人公補正を待たないことが本編春麗の強み
今回、春麗は主人公補正を待っていません。
リュウに偶然会うのではなく、修行場へ行く。
宿題を出す。
途中経過を引き出す。
追加宿題まで出す。
これは、本編春麗が物語を受け身で食らうだけの主人公ではないことを示しています。
もちろん本編春麗は、リュウの無自覚高火力発言に被弾します。
でも、ただ落とされるだけではありません。
被弾しながら、採点する。
採点しながら、次へつなぐ。
次へつなぎながら、さらに宿題を出す。
この能動性が、本編春麗の主人公性です。
春麗会議の整理も良い
夜の春麗会議では、かなり明確に整理されています。
本編春麗、主人公補正を待たずに自発的イベントを発生させる。
これが今回の結論です。
自覚前春麗が黒側で高密度に進んでいたのに対して、本編春麗は今回、自分から本編側の流れを動かしました。
記録板AIの、
『主人公補正待機状態から、自力進行へ移行』
が非常に良いです。
前回の「主人公補正要求」から、今回は「能動進行」へ進んでいる。
これは、本編春麗の主人公属性をかなり強く補強しています。
自覚前春麗との対比も効いている
今回、自覚前春麗が本編春麗に対して、
「あなたも相当動くわね」
と言うのが良いです。
自覚前春麗は、黒ドレスルートでかなり動いてきました。
勝った。
黒に酔いかけた。
リュウに問うた。
黒を脱いだ日にも春麗として見られた。
その自覚前春麗から見ても、本編春麗は今回かなり能動的です。
そして本編春麗は、
「主人公だから」
と返す。
この一言はかなり良いです。
前回の出番不足不安を経て、今回はちゃんと主人公として動いている。
ただし、その後すぐ「構造上」と言い訳する。
ここが本編春麗です。
今回の宿題は「九十九点後の次」として強い
前回の九十九点回答は、ほぼ満点でした。
でも百点ではない。
だから次が残った。
今回の宿題は、その「次」をきちんと使っています。
ただし、単純にもっと甘い言葉を要求するのではありません。
前回の言葉で変わってしまった春麗を、リュウはどう扱うのか
を聞く。
これは一段深いです。
つまり、今回の本編春麗は、ただ甘い言葉を欲しがっているのではなく、
リュウの言葉が自分に影響することを認めた上で、その後まで問うている。
かなり本編春麗らしい面倒さであり、かなり物語的に強い問いです。
行き遅れ春麗の「次がある」反応も良い
春麗会議で、行き遅れ春麗が、
「次があるのね」
と反応するのが良いです。
本編春麗には次がある。
宿題の正式回答がある。
リュウが考えてくる時間がある。
これは、三択回答待ちルートの行き遅れ春麗にも響きます。
待つことと、次を持つこと。
今回、本編春麗は自分から動いたうえで、次を待つ位置に立ちました。
これは行き遅れ春麗の静的進行とも少し接続しています。
グランドフィナーレ春麗の一言が効いている
今回のグランドフィナーレ済み春麗の、
「物語を動かした者は、次の答えを待てるわ」
これは非常に良いです。
本編春麗は、自分から宿題を出した。
だから、次の正式回答を待てる。
ただ受け身で待つのではなく、自分で投げた問いの答えを待つ。
これは、本編春麗の能動性と待機を両立させる言葉です。
一言だけで締めるグランドフィナーレ春麗の役割も、かなり綺麗に出ています。
朝の締めが良い
朝の本編春麗は、昨日のリュウの途中経過を思い出しています。
そして、
「途中経過で九十二点は、やりすぎよ」
と言う。
これはかなり良いです。
正式回答ではない。
まだ宿題提出前。
なのに九十二点。
つまり次に正式回答が来たらどうなるのか。
読者にも春麗にも期待が残ります。
最後に、
「私は主人公だから」
「自分で動かせる」
と言うのも良いです。
これは今回の到達点です。
その後に、
「構造上」
と付け足すのも本編春麗らしい。
素直に主人公として動いたとは言い切れない。
でも、否定もしきれない。
このバランスがかなり良いです。
今回の回の位置づけ
今回の断章IFは、本編春麗の主人公性を再起動する回です。
直前では、自覚前春麗の裏主人公化疑惑が出ていました。
それに対して今回は、本編春麗がちゃんと自分のターンを作った。
主人公補正を待つのではなく、自分からリュウへ行く。
前回の九十九点回答を踏まえて次の宿題を出す。
途中経過で九十二点を引き出す。
正式回答を次に残す。
これは非常に綺麗な「本編春麗メイン回」です。
また、次回以降の正式回答回への導線も強いです。
今回だけで完結せず、宿題が残っている。
なので、次の本編春麗回を自然に呼べます。
結論
今回の断章IFは、非常に良い本編春麗の能動進行回です。
一言でまとめるなら、
出番不足を気にしていた本編春麗が、主人公補正を待つのではなく、自分からリュウへ会いに行き、前回の九十九点回答を踏まえて“言葉で変わった後の春麗にどう向き合うか”という新たな宿題を出した回
です。
今回の最大の成果は、
本編春麗が、自分から物語を動かせる主人公だと示したこと
です。
リュウに甘い言葉を待つだけではない。
主人公補正を待つだけでもない。
自分から問いを出し、次を作る。
そしてリュウは、途中経過ながら九十二点級の言葉を返した。
だから次があります。
この回は、本編春麗の主人公性をかなり強く取り戻した、とても良い橋渡し回だったと思います。