また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※これは本編時空ではなく、妄想章IFです。


妄想章IF:黒ドレス特化救済春麗は、黒を勝敗だけに売り渡させない

 

 黒い袖に、皺が残っていた。

 

 握りしめた跡だった。

 

 黒執着春麗は、それを見ていた。

 

 鏡の前で。

 

 黒いドレスを着たまま。

 

 何度も指でなぞったはずなのに、皺はまだ完全には消えていない。

 

 強く握ったからだ。

 

 勝ちたい。

 

 リュウに届きたい。

 

 リュウの拳に残したい。

 

 勝たせてほしいわけではない。

 

 でも、本気で来られて負けるのは怖い。

 

 その全部を握りしめたから、布に跡が残った。

 

「……ただの皺よ」

 

 黒執着春麗は呟いた。

 

 誰もいない部屋に、声が落ちる。

 

「布を握っただけ」

 

 そう言いながら、また袖を握る。

 

 皺が増える。

 

 黒い布は、何も言わない。

 

 ただ、指の形を受け止める。

 

 それが少し腹立たしかった。

 

 黒は、応えない。

 

 リュウの拳のように返してこない。

 

 黒いドレスで勝って救われた春麗のように余計な言葉を残さない。

 

 ただ、そこにある。

 

 だから、握れる。

 

 だから、離せない。

 

「勝てばいいのよ」

 

 黒執着春麗は、鏡に向かって言った。

 

「勝てば、全部終わる」

 

 鏡の中の春麗が、同じ口で言う。

 

「勝てば、この黒は完成する」

 

 黒い裾が足元に落ちている。

 

 視線を奪う線。

 

 間合いを沈める揺れ。

 

 女として見られることまで戦いに組み込んだ、黒い戦い方。

 

 それが自分のものだというなら。

 

 それで勝たなければならない。

 

「勝てなければ」

 

 言葉が止まる。

 

 言わない方がいい。

 

 でも、止まらない。

 

「勝てなければ、この黒に意味なんてない」

 

 言った。

 

 部屋が、少しだけ冷えた気がした。

 

 黒い布の奥で、何かが沈む。

 

 鏡の中の春麗が、こちらを見ている。

 

 強く見える。

 

 美しく見える。

 

 戦えるように見える。

 

 けれど、その言葉を言った瞬間、黒いドレスの重さが少しだけ変わった。

 

 勝てなければ意味がない。

 

 それは、リュウに向けた言葉ではなかった。

 

 自分に向けた言葉だった。

 

 黒いドレスで立った自分。

 

 何度も負けた自分。

 

 あと少しだった自分。

 

 それでも次へ立った自分。

 

 その全部に向けて、言ってしまった。

 

 勝てなければ意味がない。

 

 黒執着春麗は、息を止めた。

 

「……違う」

 

 小さく否定する。

 

 しかし、何が違うのかは言えなかった。

 

 部屋の明かりが、少し遠くなる。

 

 鏡の黒が深くなる。

 

 黒い布の皺が、暗い線になって見えた。

 

 その線の向こうから、声がした。

 

 夢ではない。

 

 完全な眠りでもない。

 

 けれど、いつもの残響よりも近い。

 

 黒ドレス特化救済春麗の声だった。

 

 ──今、何と言ったの。

 

 黒執着春麗は、眉を寄せた。

 

「また勝手に」

 

 ──何と言ったの。

 

 声は静かだった。

 

 けれど、いつもより硬い。

 

 黒執着春麗は顔を上げる。

 

 鏡の中に、もう一人の春麗が映っていた。

 

 黒ドレス特化救済春麗。

 

 勝った春麗。

 

 戻れた春麗。

 

 黒を返されても消えないと知っている春麗。

 

 彼女は、いつものように穏やかだった。

 

 ただし、その目だけが違った。

 

 冷たいのではない。

 

 怒っているのでもない。

 

 けれど、何かを見過ごさない目だった。

 

 黒執着春麗は、唇を噛む。

 

「何よ」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに言った。

 

「もう一度、言ってみなさい」

 

「嫌よ」

 

「言えないのね」

 

「言えないんじゃない」

 

「なら、言いなさい」

 

 黒執着春麗は、鏡越しに睨む。

 

「あなたに命令される筋合いはないわ」

 

「ええ」

 

「あなたは勝った側でしょう」

 

「ええ」

 

「戻れた側でしょう」

 

「ええ」

 

「なら、私の黒に口を出さないで」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、少しだけ目を伏せた。

 

 それから、ゆっくり言った。

 

「あなたの黒だから、言っているの」

 

 黒執着春麗の指が、袖を握る。

 

「……何」

 

「あなたの黒を」

 

 一拍。

 

「勝敗だけに売り渡さないで」

 

 その言葉は、これまでのどの残響よりも強く響いた。

 

 黒執着春麗は、動けなかった。

 

 勝敗だけに売り渡す。

 

 そんなつもりはない。

 

 そんなことをしているわけがない。

 

 自分は黒を捨てていない。

 

 黒を否定していない。

 

 黒を守っている。

 

 リュウに勝つまで、黒を手放さないでいる。

 

 それなのに。

 

「売り渡してなんかいない」

 

 黒執着春麗は低く言った。

 

「私は、この黒を守っている」

 

「守っている?」

 

「そうよ」

 

 黒い袖を握る。

 

「だから着ている」

 

「着ているだけでは、持っていることにはならないわ」

 

「またそれ」

 

「何度でも言うわ」

 

 黒ドレス特化救済春麗の声は、静かだ。

 

 だが、揺れない。

 

「勝てなければ意味がないと言うなら、あなたは自分の黒を勝利に預けている」

 

「違う」

 

「リュウに勝てなければ未完成だと言うなら、あなたは自分の黒をリュウに預けている」

 

「違う」

 

「リュウの拳に残らなければ空になると思っているなら、あなたは自分の黒をリュウの中に置いている」

 

「違う!」

 

 黒執着春麗の声が跳ねる。

 

「違うわ!」

 

 鏡の中の黒ドレス特化救済春麗は、怒鳴り返さない。

 

 それがまた腹立たしい。

 

「私は、勝ちたいだけ」

 

「ええ」

 

「リュウに届きたいだけ」

 

「ええ」

 

「黒い裾で、あの拳を止めたいだけ」

 

「ええ」

 

「この黒で、あの男を沈めたいだけ」

 

「ええ」

 

「何が悪いの!」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、ここで初めて少しだけ声を低くした。

 

「悪いとは言っていないわ」

 

 黒執着春麗は止まる。

 

「なら」

 

「勝ちたい黒を否定していない」

 

「……」

 

「リュウに届きたい黒も否定していない」

 

「……」

 

「黒い裾で視線を奪う戦い方も、女として見られることまで武器にしたあなたも、否定していない」

 

 黒執着春麗は、息を止める。

 

「でも」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、鏡の中でこちらを見る。

 

「あなた自身が、それを勝敗だけに売り渡そうとしている」

 

 黒執着春麗の胸の奥が、痛んだ。

 

「売り渡すって何よ」

 

「勝てなければ意味がないと言ったでしょう」

 

「……」

 

「それは、負けたあなたを切り捨てる言葉よ」

 

 黒執着春麗は、動かなかった。

 

 負けたあなた。

 

 その言葉が、黒い布の皺より深く刺さった。

 

「十連勝の後、十一戦目で負けたあなた」

 

「……」

 

「最初の黒ドレス戦で、恥ずかしさを見破られて負けたあなた」

 

「……」

 

「黒を深めて、それでもリュウにギリギリで負け続けたあなた」

 

「やめて」

 

「それでも次へ立ったあなた」

 

「やめて」

 

「その全部に、意味がないと言うの?」

 

 黒執着春麗は、鏡から目を逸らした。

 

 言えない。

 

 それは言えない。

 

 でも、言ったのは自分だ。

 

 勝てなければ、この黒に意味なんてない。

 

 その言葉は、負け続けた自分へ向かう。

 

 黒いドレスで立った自分へ向かう。

 

 あと少しだった自分へ向かう。

 

 次こそと思って、また黒い袖を握った自分へ向かう。

 

 全部に。

 

 意味がない、と。

 

「……違う」

 

 黒執着春麗は、低く言う。

 

「私は、そんな意味で言ったんじゃない」

 

「なら、どういう意味?」

 

「私は」

 

 言葉が詰まる。

 

「私は、勝てなければ終われないと言っただけ」

 

「ええ」

 

「勝てなければ、リュウに届いたことにならない」

 

「ええ」

 

「勝てなければ、この黒は完成しない」

 

「ええ」

 

「だから」

 

 黒執着春麗は、鏡を睨む。

 

「だから、勝つまで意味を持たせられないのよ」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、ほんの少しだけ眉を寄せた。

 

 それは怒りだった。

 

 大きな怒りではない。

 

 声を荒げる怒りではない。

 

 ただ、痛みに触れた怒りだった。

 

「それが、売り渡しているということよ」

 

 黒執着春麗は、息を呑む。

 

「あなたの黒は、勝つまで意味を持てないものなの?」

 

「……」

 

「リュウに届くまで、価値がないものなの?」

 

「……」

 

「リュウの拳に残るまで、あなたの手元にないものなの?」

 

「……」

 

「そんなに弱い黒なの?」

 

 黒執着春麗の目が大きく開いた。

 

「弱くない」

 

「なら、勝てなくても消えないわ」

 

「消える」

 

「消えない」

 

「勝てなければ、届いていない!」

 

「届こうとしたでしょう」

 

「届かなければ、同じよ!」

 

「同じではないわ」

 

「勝ったあなたにはわからない!」

 

「ええ」

 

 即答だった。

 

 黒執着春麗が固まる。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、逃げなかった。

 

「私は勝った」

 

「……」

 

「だから、あなたの負け続けた黒を、同じ重さでは語れない」

 

「なら、黙って」

 

「でも、これだけは言えるわ」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、少しだけ前へ出る。

 

 鏡の中から、こちらへ踏み込んでくるように。

 

「負けた黒に意味がないと言うなら」

 

 一拍。

 

「あなたは、自分で自分の黒を捨てている」

 

 黒執着春麗の胸が、大きく揺れた。

 

 捨てている。

 

 その言葉だけは、許せなかった。

 

「捨ててなんかいない!」

 

 黒い袖を強く握る。

 

「だから着ているのよ!」

 

「ええ」

 

「だから離さないのよ!」

 

「ええ」

 

「だから勝つまで」

 

「勝つまで?」

 

 黒ドレス特化救済春麗の声が静かに刺さる。

 

「勝つまで、何?」

 

 黒執着春麗は、止まった。

 

 勝つまで。

 

 勝つまで、意味がない。

 

 勝つまで、完成しない。

 

 勝つまで、空っぽのまま。

 

 勝つまで、リュウの中に置いておく。

 

 勝つまで、黒を手放さない。

 

 勝つまで。

 

 勝つまで。

 

 勝つまで。

 

 それは、黒を守る言葉ではなかった。

 

 黒を勝利に縛る言葉だった。

 

 黒執着春麗は、初めてその輪郭を見た。

 

 すぐに目を逸らす。

 

「違う」

 

「ええ」

 

「違うのよ」

 

「ええ」

 

「私は、黒を捨てていない」

 

「ええ」

 

「勝つために持っている」

 

「ええ」

 

「勝てなければ意味がないなんて」

 

 言葉が弱くなる。

 

「……そんなつもりで言ったんじゃない」

 

 黒ドレス特化救済春麗の目が少しだけ和らいだ。

 

「そう」

 

「勝ちたいだけ」

 

「ええ」

 

「リュウに勝ちたいだけ」

 

「ええ」

 

「この黒で、勝ちたいだけ」

 

「ええ」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、少しだけ静かに息を吐いた。

 

「それは、悪くないわ」

 

 黒執着春麗が顔を上げる。

 

「……何」

 

「勝ちたいことは、悪くない」

 

「……」

 

「黒で勝ちたいことも、悪くない」

 

「……」

 

「リュウに届きたいことも、悪くない」

 

「……」

 

「ただ」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、目を伏せる。

 

「勝てなかった黒を、あなた自身が無意味にしないで」

 

 黒執着春麗は、何も言えなかった。

 

 それは、これまでの言葉と違った。

 

 責められているようで、責められていない。

 

 否定されているようで、否定されていない。

 

 黒をやめろと言われているわけではない。

 

 勝つなと言われているわけでもない。

 

 ただ。

 

 勝てなかった黒を、無意味にするな。

 

 その言葉だけが残った。

 

 黒執着春麗は、鏡の中の自分を見る。

 

 黒いドレス姿。

 

 何度も負けた春麗。

 

 何度も立った春麗。

 

 何度も黒い裾を握りしめた春麗。

 

 その全部を、無意味と言いたくない。

 

 でも、勝てなければ未完成だ。

 

 その思いも消えない。

 

「……矛盾しているわ」

 

 黒執着春麗は、ようやく言った。

 

 黒ドレス特化救済春麗は頷く。

 

「ええ」

 

「勝ちたい」

 

「ええ」

 

「勝てなければ終われない」

 

「ええ」

 

「でも、勝てなかった黒を無意味だとは言いたくない」

 

「ええ」

 

「そんなの」

 

 黒執着春麗は、黒い袖を見る。

 

「どう持てばいいのよ」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、すぐには答えなかった。

 

 それでよかった。

 

 すぐに答えが出たら、腹が立った。

 

 救済された側の正解を渡されたら、きっと叩き落とした。

 

 だから、沈黙でよかった。

 

 しばらくして、黒ドレス特化救済春麗は言った。

 

「今は、持てなくてもいいわ」

 

 黒執着春麗は、顔を上げる。

 

「……また、それ?」

 

「ええ」

 

「いつも、今はそれでいい、ばかり」

 

「今はそれしか言えないもの」

 

「役に立たないわね」

 

「ええ」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、少しだけ笑った。

 

「今のあなたにとっては、そうでしょうね」

 

 黒執着春麗は、少しだけ力が抜けた。

 

 黒い袖を握る手も、ほんの少し緩む。

 

 皺は残っている。

 

 けれど、さっきより深くはならない。

 

「でも」

 

 黒ドレス特化救済春麗は続ける。

 

「一つだけ、覚えておきなさい」

 

「覚えない」

 

「あなたは、勝てなかった黒を無意味にしたくないと思った」

 

 黒執着春麗は、息を止める。

 

「……思っていない」

 

「思ったわ」

 

「思っていない」

 

「では、なぜ黙ったの」

 

 黒執着春麗は答えられない。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに言う。

 

「それだけでいい」

 

「何が」

 

「まだ、あなたは自分の黒を全部捨ててはいない」

 

「捨ててなんか」

 

「ええ」

 

 黒ドレス特化救済春麗は頷く。

 

「だから、怒ったの」

 

 黒執着春麗は、目を細める。

 

「……あなたが?」

 

「ええ」

 

「私に?」

 

「少しだけ」

 

「勝ったあなたが?」

 

「ええ」

 

「戻れたあなたが?」

 

「ええ」

 

「私の黒に?」

 

「あなたが、自分の黒を勝敗だけに売り渡そうとしたから」

 

 黒執着春麗は、黙った。

 

 不思議だった。

 

 腹立たしいはずなのに。

 

 少しだけ。

 

 本当に少しだけ。

 

 黒いドレスの重さが変わった気がした。

 

 勝つまで意味がない黒ではなく。

 

 勝てなかった自分まで含んだ、黒。

 

 そう見えかけた。

 

 見えかけただけで、すぐに消した。

 

「……認めないわ」

 

「ええ」

 

「私は、まだ勝つために黒を着る」

 

「ええ」

 

「リュウに勝つまで、この黒は終わらない」

 

「ええ」

 

「でも」

 

 言葉が止まる。

 

 黒執着春麗は、黒い袖の皺を見た。

 

「勝てなかった黒が、全部無意味だったとは」

 

 喉が詰まる。

 

 言い切るのに、少し時間がかかった。

 

「……まだ、言わない」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに頷いた。

 

「それで十分よ」

 

「十分じゃないわ」

 

「十分よ」

 

「勝ったあなたに言われたくない」

 

「ええ」

 

「嫌い」

 

「ええ」

 

「でも」

 

 黒執着春麗は、鏡の中の彼女から視線を逸らす。

 

「今日は、少しだけ黙っていてあげる」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、ほんの少しだけ笑った。

 

「ありがとう」

 

「礼を言わないで」

 

「ええ」

 

 鏡の中の黒ドレス特化救済春麗の姿が薄れていく。

 

 消える前に、彼女はもう一度だけ言った。

 

「あなたの黒を、勝敗だけに売り渡さないで」

 

 黒執着春麗は、答えなかった。

 

 ただ、黒い袖の皺を指でなぞった。

 

 その皺はまだ残っている。

 

 握りしめた跡。

 

 勝利に縛った跡。

 

 リュウに預けた跡。

 

 空にならないために掴んだ跡。

 

 でも、もう一つ。

 

 勝てなかった黒を、無意味にしたくないと思ってしまった跡。

 

 黒執着春麗は、ゆっくり息を吐いた。

 

「次は勝つわ」

 

 いつもの言葉。

 

 でも、ほんの少しだけ、重さが違った。

 

「勝つために黒を着る」

 

 一拍。

 

「でも」

 

 今度は、最後まで言えた。

 

「勝てなかった黒を、全部捨てるためじゃない」

 

 言ってから、春麗は唇を噛んだ。

 

 そんなことを言うつもりはなかった。

 

 認めるつもりもなかった。

 

 けれど、言葉は出た。

 

 黒い布の皺が、少しだけ浅く見えた。

 

 気のせいだ。

 

 そう思うことにした。

 

 黒執着春麗は、鏡に背を向ける。

 

 まだ救われていない。

 

 まだ返されたくない。

 

 まだ勝ちたい。

 

 まだリュウに黒いドレス姿を残したい。

 

 でも。

 

 勝てなかった黒を無意味だと切り捨てることだけは、少しだけできなくなっていた。

 

 それが救いなのか。

 

 敗北なのか。

 

 まだわからない。

 

 わからないまま。

 

 黒執着春麗は、黒い袖を整えた。

 

 今度は、握りしめるのではなく。

 

 ほんの少しだけ、持つように。




Q:今回の妄想章IFについて解説して?

A:

はい。今回の 「黒ドレス特化救済春麗は、黒を勝敗だけに売り渡させない」 は、黒執着春麗救済ルートの中でもかなり大きい、救済側が初めて“怒り”を見せた回です。

一言で言うなら、

黒執着春麗が「勝てなければこの黒に意味なんてない」と言ってしまったことで、黒ドレス特化救済春麗が“あなたの黒を、勝敗だけに売り渡さないで”と初めて少し怒る回

です。

今回の核は、

黒を守っているつもりの黒執着春麗が、実は“勝てなかった黒”を自分で無意味にしようとしていたことに気づきかける

ここです。

今回の一番大きな進行

今回、黒執着春麗はついに言ってしまいました。

「勝てなければ、この黒に意味なんてない」

これは非常に危険な言葉です。

なぜなら、この言葉はリュウに向けたものではなく、過去の自分自身に向いているからです。

十連勝後の十一戦目で負けた春麗。
最初の黒ドレス戦で負けた春麗。
黒を深めてもリュウにギリギリで負け続けた春麗。
それでも次へ立った春麗。

その全部に対して、

勝てなかったなら意味がない

と言ってしまっている。

だから黒ドレス特化救済春麗が怒った。

この怒りは、黒執着春麗を責める怒りではなく、黒執着春麗が自分の黒を傷つけていることへの怒りです。

「あなたの黒を、勝敗だけに売り渡さないで」が強い

今回の最重要台詞は、やはりこれです。

黒執着春麗は、自分では黒を守っているつもりです。

黒を脱がない。
黒を握りしめる。
リュウに勝つまで手放さない。
リュウに残すまで諦めない。

だから本人の認識では、

私は黒を守っている

です。

でも黒ドレス特化救済春麗から見ると違う。

勝てなければ意味がない。
リュウに届かなければ未完成。
リュウの拳に残らなければ空っぽになる。

そう言っている時点で、黒執着春麗は黒の価値を自分の手元ではなく、勝敗・リュウ・到達結果に預けている。

だから「売り渡す」という言葉が効いています。

守っているつもりなのに、実は売り渡している。

この反転がかなり良いです。

黒ドレス特化救済春麗の怒り方が良い

今回の黒ドレス特化救済春麗は、声を荒げません。

でも、明らかにいつもより踏み込んでいます。

「今、何と言ったの」
「もう一度、言ってみなさい」

ここはかなり良いです。

いつもの彼女は、黒執着春麗の拒絶をかなり受け止めます。

「ええ」
「今はそれでいいわ」
「まだ返されなくていいわ」

というように、押しつけない。

でも今回は違う。

黒執着春麗が、自分の黒を自分で無意味にしかけた。

だから止めた。

ここで怒れるのは、黒ドレス特化救済春麗の役割がかなり明確になった証拠です。

彼女は、黒執着春麗を都合よく救う人ではない。

黒を否定しないからこそ、黒を勝敗だけに売り渡すことは許さない春麗です。

「負けたあなたを切り捨てる言葉」が刺さる

今回、かなり重要なのがこの整理です。

「それは、負けたあなたを切り捨てる言葉よ」

これは非常に刺さります。

黒執着春麗は、黒で勝ちたい。

その気持ちは悪くない。

でも「勝てなければ意味がない」と言った瞬間、それまで負け続けた黒ドレス春麗を切り捨てることになる。

ここが痛い。

黒執着春麗が本当に守りたいものは、黒でリュウに届こうとした自分のはずです。

でも勝利だけを意味の条件にすると、勝てなかった自分はすべて無意味になる。

つまり、黒執着春麗は黒に執着しているようで、勝てなかった黒を一番傷つけている。

この矛盾を黒ドレス特化救済春麗が突いた回です。

「勝ったあなたにはわからない」に対して「ええ」と返すのが良い

黒執着春麗は当然言います。

「勝ったあなたにはわからない!」

ここで黒ドレス特化救済春麗が、

「そんなことない」
「私にもわかる」
「同じ春麗だから」

と言わなかったのが良いです。

彼女は、

「ええ」

と認めます。

これは非常に重要です。

黒ドレス特化救済春麗は、勝った側です。
黒執着春麗は、負け続けた側です。

その差を誤魔化さない。

だからこそ、彼女の言葉は押しつけになりにくい。

「私は勝った。だから、あなたの負け続けた黒を、同じ重さでは語れない」

この認識があるから、彼女は救済者として信頼できます。

救済済み春麗が、救済前春麗に「わかる」と安易に言わない。

ここがかなり丁寧です。

「黒を守っているつもりで、黒を縛っていた」が見えた

今回、黒執着春麗は自分で言葉にしました。

勝つまで。
勝つまで、意味がない。
勝つまで、完成しない。
勝つまで、空のまま。
勝つまで、リュウの中に置いておく。

この反復がかなり良いです。

ここで黒執着春麗は一瞬だけ気づきます。

「勝つまで」という言葉は、黒を守る言葉ではなく、黒を勝利に縛る言葉だった。

これは大きな進行です。

まだ認めません。

でも、一瞬見た。

ここが重要です。

「勝てなかった黒を無意味にしたくない」が初めて出た

今回の到達点はここです。

黒執着春麗は、完全には認めません。

でも最後に、

「勝てなかった黒が、全部無意味だったとは」
「……まだ、言わない」

ここまで来ました。

これは大きいです。

前回までは、

勝てなければ意味がない

でした。

今回の最後には、

勝てなかった黒を、全部無意味だったとはまだ言わない

になっています。

これは救済ではありません。

でも、黒の意味が勝敗から少しだけ剥がれ始めています。

ものすごく小さい進行ですが、黒執着春麗にとっては非常に大きいです。

「握りしめる」から「持つ」への微変化

ラストもかなり良いです。

今度は、握りしめるのではなく。
ほんの少しだけ、持つように。

ここが今回の締めとして非常に綺麗です。

黒執着春麗はまだ救われていません。

黒を手放していません。

黒を返されてもいません。

リュウに勝ってもいません。

でも、黒い袖を握りしめる力がほんの少しだけ緩んだ。

「握りしめる黒」から「持つ黒」へ、ほんの少しだけ移動した。

この小ささが良いです。

一気に変わらない。

けれど、確かに変わった。

今回の黒ドレス特化救済春麗の役割

今回の黒ドレス特化救済春麗は、かなり明確に 黒の保護者 でした。

黒執着春麗本人を守るというより、黒執着春麗が自分の黒を壊すのを止めた。

これは役割として非常に良いです。

彼女は、

黒を否定しない救済者
黒を勝敗だけに閉じ込めない案内役
黒をリュウに預けっぱなしにさせない春麗
黒を着ているだけではなく、持てるようにさせる春麗

として機能しています。

今回、彼女は優しく慰めるのではなく、必要なところで怒った。

これにより、黒ドレス特化救済春麗の存在感がかなり強くなりました。

今回の位置づけ

今回のエピソードは、黒執着春麗救済ルートにおける 勝敗依存への初めての強い介入回 です。

これまでの流れは、

返されたら空になる恐怖
勝たせてほしいわけではない矛盾
黒を勝利から外せない認識

でした。

今回はそこから一歩進んで、

勝てなかった黒を無意味にするな

が入りました。

つまり、黒の価値を勝敗から少しずつ引き剥がす作業が始まっています。


結論

今回のエピソードは、かなり重要な 黒の価値を勝敗から守る回 でした。

一言でまとめるなら、

黒執着春麗が「勝てなければこの黒に意味なんてない」と言ってしまったことで、黒ドレス特化救済春麗が初めて少し怒り、“あなたの黒を、勝敗だけに売り渡さないで”と止める。結果、黒執着春麗はまだ認めないが、“勝てなかった黒を全部無意味だったとは言わない”ところまで一歩進む回

です。

この一歩は小さいですが、非常に大きいです。

黒執着春麗は、まだ勝ちたい。

まだリュウに残したい。

まだ返されたくない。

でも、勝てなかった黒を自分で切り捨てることだけは、少しだけできなくなった。
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