また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
昨日の黒は、持って行く。
十一戦目は、まだ持たない。
最初の黒も、まだ持たない。
でも、捨てたことにはしない。
そう決めたはずだった。
そう決めれば、少しは静かになると思っていた。
けれど、黒執着春麗の朝は、静かではなかった。
黒ドレスは、いつもの場所にある。
黒い袖。
黒い裾。
何度も整えた布。
何度もリュウの前で揺らした裾。
何度も、あと少しで届かなかった戦い方。
春麗は、それを見ていた。
黒い布を見ているはずなのに、そこに浮かぶのは一つの敗北ではない。
昨日。
十一戦目。
最初の黒ドレス戦。
そして、その後。
何度も、何度も繰り返した再戦。
リュウと向き合った黒。
リュウに届きかけた黒。
リュウを沈めきれなかった黒。
春麗は、眉を寄せた。
「……今日は、やめて」
誰に言うでもなく、そう呟く。
「昨日も見たでしょう」
黒い布は答えない。
「十一戦目も見た」
答えない。
「最初の黒も見た」
答えない。
「だから、今日はもういいでしょう」
答えない。
黒い布は、ただそこにある。
それが腹立たしい。
黒は魔法ではない。
黒いドレスが勝手に過去を呼ぶわけではない。
わかっている。
これは、自分の中に残っている記憶だ。
黒い裾に触れるたび、指先が覚えている。
どう揺らしたか。
どう隠したか。
どうリュウの視線を奪ったか。
どう遅らせたか。
どう、それでも届かなかったか。
春麗は、黒い袖に手を伸ばした。
その瞬間。
視界が揺れた。
「……また」
低く言う。
「また、勝手に」
黒い布が沈む。
部屋が遠くなる。
鏡も、朝の光も、消えていく。
代わりに、何度も立った場所が見えた。
リュウと向き合った場所。
勝てなかった場所。
あと少しを繰り返した場所。
最初の残響は、黒い裾の揺れだった。
黒執着春麗は、夢のような場所に立っていた。
目の前では、過去の自分がリュウと向き合っている。
最初の黒ドレス戦のすぐ後。
リュウに「その黒を全部使えていない」と言われた後。
あの日から少しだけ先の春麗。
黒い裾の扱いが、前より鋭い。
初回ほど硬くない。
見られることへの揺れも少ない。
髪の流し方も、肩の置き方も、黒い布の重さの使い方も、少しだけ身体に馴染んでいる。
過去の春麗が踏み込む。
黒い裾が、蹴りの軌道から半拍遅れて揺れる。
リュウの視線が、一瞬だけそこへ落ちる。
春麗は、その一瞬を取った。
掌底。
リュウの肩に入る。
黒執着春麗は、無意識に息を止めた。
覚えている。
この日は、裾の遅れを覚えた日だ。
足の動きより半拍遅れて揺れる布。
そのズレを、相手の視線に使えると気づいた日。
リュウは遅れた。
確かに遅れた。
だが、最後は勝てなかった。
過去の春麗は、蹴りを重ねる。
リュウの防御が崩れかける。
あと少し。
あと一撃。
けれど、リュウの拳が半歩早い。
春麗の体が崩れる。
敗北。
黒執着春麗は、歯を噛みしめた。
「負けた黒よ」
そう言う。
「これは、負けた黒」
けれど、声が少しだけ弱かった。
なぜなら、覚えてしまっているから。
この日は、ただ負けた日ではない。
黒い裾の遅れを、自分の戦い方に入れた日だった。
場面が変わる。
次の残響は、肩の角度だった。
過去の春麗は、黒いドレスで立っている。
ただし、裾だけに頼っていない。
肩を少し落とす。
上半身をほんのわずかに開く。
掌底へ行くのか、蹴りへ行くのか、リュウに判断させる。
リュウの拳が、構えの中でわずかに迷う。
そこへ春麗が入る。
黒い裾は、今度は遅れて揺れるのではなく、起点を隠す。
足元を見せず、肩で誘う。
過去の春麗の蹴りが、リュウの脇腹へ入った。
リュウが息を吐く。
深い。
この日は、かなり深く入った。
黒執着春麗は、胸の奥が熱くなるのを感じた。
覚えている。
この日は、勝てると思った。
黒い裾だけではない。
肩。
腰。
呼吸。
リュウの判断を散らす。
黒いドレスを着た自分の輪郭を、技の起点にする。
それが効いた。
リュウは遅れた。
確かに遅れた。
それでも。
最後の最後で、リュウは踏み込んだ。
春麗の肩を見ず、裾を見ず、重心へ入った。
拳が届く。
春麗が崩れる。
また、負けた。
黒執着春麗は、低く言う。
「これも、負けた黒」
しかし、今度はすぐに続きが浮かぶ。
でも、同じ黒ではない。
春麗は、唇を噛む。
「……違う」
否定する。
「全部、負けた黒よ」
場面が変わる。
次は、待つ黒だった。
過去の春麗は、動かない。
黒い裾も、大きくは揺らさない。
ただ、立っている。
リュウも動かない。
互いの呼吸だけがある。
黒いドレス姿の春麗が、動かないままリュウを見ている。
動かない。
だからこそ、リュウは動くべきか迷う。
先に出るか。
待つか。
踏み込むか。
その迷いの半拍。
春麗は、それを待っている。
黒執着春麗は、胸を押さえた。
覚えている。
この日。
自分は、初めて「揺らさない黒」を使った。
裾を見せて誘うのではない。
裾を止めて、相手に動く理由を探させる。
その間合い。
待機圧。
リュウが踏み込む。
春麗は、そこへ入る。
蹴りが入る。
リュウが崩れる。
片膝寸前。
あと少し。
あと少しだった。
黒執着春麗は、息を止める。
これは、見たくない。
この日は、本当に勝てると思った。
リュウの拳が遅れた。
春麗の待機圧が効いた。
黒いドレスで立っているだけで、リュウの呼吸を止めた。
だが。
最後にリュウは、動かない春麗ではなく、動く瞬間の春麗を見た。
春麗が出る瞬間。
黒い裾が遅れて揺れる前。
肩が切り替わる前。
重心が前に移る瞬間。
そこへ拳を置かれた。
春麗は負けた。
黒執着春麗は、拳を握る。
「これも、負けた黒」
言葉は出る。
でも、胸の奥で何かが崩れかける。
負けた黒。
確かにそうだ。
でも、これは待機圧を得た黒だった。
同じ失敗ではなかった。
次は、近すぎる黒だった。
過去の春麗は、リュウの真正面に入る。
距離が近い。
拳の距離でも、蹴りの距離でもある。
視線の距離。
見られる距離。
見せる距離。
黒いドレス姿の自分を、リュウの視界から逃がさない距離。
黒執着春麗は、思わず目を逸らしかけた。
この日は、嫌いだった。
自分で選んだ。
自分で踏み込んだ。
リュウに見せた。
見られることを、戦いに入れた。
だが、近すぎた。
リュウの目が逃げなかった。
春麗を見た。
黒いドレスだけではなく。
裾だけではなく。
戦術だけではなく。
その中で勝とうとしている春麗を。
過去の春麗は、揺れた。
ほんのわずかに。
その揺れを、リュウは見逃さなかった。
拳が来る。
春麗は受ける。
蹴り返す。
深く入る。
リュウの体が大きく揺れる。
今度こそ。
今度こそ、倒せる。
だが、リュウは倒れない。
拳が返る。
春麗の中心へ届く。
敗北。
黒執着春麗は、低く笑った。
「馬鹿ね」
過去の自分へ言う。
「そこまで近づくからよ」
でも、その声は冷たくなりきらなかった。
なぜなら、わかっているから。
近づかなければ、あの黒は完成しなかった。
見られることを間合いにするなら、見られる距離まで行くしかない。
怖くても。
揺れても。
そこで戦わなければ、黒は深くならない。
黒執着春麗は、目を伏せた。
「……これも」
言葉が詰まる。
「これも、負けた黒よ」
しかし、もうそれだけでは足りなかった。
残響は続く。
黒い裾の使い方を変えた日。
足元を隠すためではなく、リュウの視線を上へ戻させるために裾を揺らした日。
蹴りの軌道を見せることで、逆に掌底を通した日。
黒いドレス姿で動かず、リュウの呼吸だけを乱した日。
見られることを受け止めきれず、一瞬遅れた日。
リュウの拳を半拍遅らせた日。
リュウに、その半拍を越えられた日。
全部、負けた。
全部、最後はリュウが立っていた。
全部、ギリギリだった。
全部、あと少しだった。
だから、黒執着春麗は終われなかった。
だから、黒を深くした。
だから、次も黒で行った。
だから、リュウに残そうとした。
だから、リュウの拳に自分の黒いドレス姿を置き続けようとした。
黒執着春麗は、黒い闇の中で膝をつきそうになった。
しかし、つかない。
立っている。
見ている。
見てしまっている。
どれも、負けた黒。
でも。
どれも、同じ黒ではなかった。
「……やめて」
小さく言う。
「そんなふうに並べないで」
黒ドレス特化救済春麗の声がした。
「並べたのは、私ではないわ」
黒執着春麗は振り向く。
そこに、黒ドレス特化救済春麗が立っていた。
いつものように。
同じ黒いドレスで。
同じ顔で。
けれど、違う目で。
黒執着春麗は、睨む。
「また来たのね」
「ええ」
「呼んでいない」
「ええ」
「今日は、本当に呼んでいない」
「ええ」
「なら消えて」
「まだ、消えないわ」
黒執着春麗は、唇を噛む。
「全部、負けた黒よ」
「ええ」
黒ドレス特化救済春麗は否定しない。
それが腹立たしい。
「全部、最後はリュウに勝てなかった」
「ええ」
「全部、あと少しだった」
「ええ」
「全部、私を終われなくした」
「ええ」
「なら、同じでしょう」
黒ドレス特化救済春麗は、静かに言った。
「全部、同じ黒だった?」
黒執着春麗は、息を止めた。
その一言だけだった。
説明ではない。
説教でもない。
ただの問い。
だが、それだけで十分だった。
黒執着春麗は、今見た残響を思い出してしまう。
裾の遅れを使った黒。
肩の角度を使った黒。
動かない待機圧の黒。
近づきすぎた黒。
見られる距離まで踏み込んだ黒。
呼吸を奪う黒。
半拍を作った黒。
半拍を越えられた黒。
全部、違う。
全部、負けた。
でも、全部違う。
「……違う」
黒執着春麗は言った。
自分でも、何を否定したのかわからない。
「違うのよ」
「ええ」
「全部同じじゃない」
「ええ」
「でも、全部負けた」
「ええ」
「全部、勝てなかった」
「ええ」
「だから」
一拍。
「だから、意味がないと言えたのに」
声が震えた。
「全部同じ失敗だったなら、捨てられたのに」
黒ドレス特化救済春麗は、黙っている。
「全部、勝てなかった黒だって」
黒執着春麗は、黒い袖を握る。
「全部、リュウに残すしかない黒だって」
拳に力が入る。
「全部、次のための燃料だって」
声が低くなる。
「そう言えたのに」
黒ドレス特化救済春麗は、静かに言う。
「言えなくなったのね」
黒執着春麗は、顔を歪める。
「言いたくないだけよ」
「ええ」
「まだ、言えるわ」
「ええ」
「全部、負けた黒よ」
「ええ」
「全部、リュウに勝てなかった黒よ」
「ええ」
「でも」
言葉が止まる。
続きは言いたくなかった。
言いたくないのに、胸の奥にある。
全部、同じではなかった。
全部、変えていた。
全部、試していた。
全部、リュウに届こうとしていた。
全部、今の黒につながっていた。
「……最悪」
黒執着春麗は呟く。
「本当に、最悪」
黒ドレス特化救済春麗は、少しだけ目を伏せる。
「全部を持てとは言わないわ」
「当たり前でしょう」
「ええ」
「昨日だけでいいと言った」
「ええ」
「十一戦目もまだ無理」
「ええ」
「最初の黒もまだ無理」
「ええ」
「それなのに、こんな数の黒を見せられて」
一拍。
「持てるわけがない」
黒ドレス特化救済春麗は頷く。
「持たなくていい」
黒執着春麗は、少しだけ驚いたように見る。
「……本当に?」
「ええ」
「全部、持たなくていいの?」
「今は」
「また、それ」
「ええ」
黒ドレス特化救済春麗は、静かに言った。
「でも、全部を同じ失敗として捨てることも、もうできない」
黒執着春麗は、目を伏せる。
それが、一番痛い。
持てない。
でも、捨てられない。
リュウの中に置きっぱなしにすることも、もう少し難しくなっている。
過去の黒が、少しずつ自分の方へ戻ろうとしている。
重い。
とても重い。
でも、それは空ではない重さだった。
「全部、負けた」
春麗は言う。
「ええ」
「全部、悔しい」
「ええ」
「全部、リュウに届ききらなかった」
「ええ」
「でも」
喉が詰まる。
黒ドレス特化救済春麗は待っている。
急かさない。
答えを渡さない。
黒執着春麗は、ゆっくり言った。
「全部、同じ黒ではなかった」
その言葉が、黒い闇の中に落ちた。
沈まない。
残る。
黒執着春麗は、すぐに顔を歪めた。
「……今日は、それ以上言わない」
「ええ」
「全部無意味じゃない、なんて言わない」
「ええ」
「全部持つ、なんて言わない」
「ええ」
「でも」
一拍。
「全部同じ失敗だったとは、言わない」
黒ドレス特化救済春麗の表情が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
「それで十分よ」
「十分じゃない」
「今は十分」
「その言い方、本当に嫌い」
「知っているわ」
黒執着春麗は、黒い袖を握りかけた。
しかし、途中で止めた。
握りしめない。
ただ、手を添える。
「重いわ」
小さく言う。
「ええ」
「昨日の黒より、重い」
「ええ」
「十一戦目よりも、最初の黒よりも」
「ええ」
「数が多すぎる」
「ええ」
黒ドレス特化救済春麗は、静かに言った。
「だから、数えなくていい」
黒執着春麗は顔を上げる。
「何?」
「今日は、数えなくていい」
「……」
「何回負けたかを数えるのではなく」
一拍。
「何を変えてきたかだけ、覚えておきなさい」
黒執着春麗は、何も言えなかった。
何回負けたかではなく。
何を変えてきたか。
その言葉は、痛かった。
痛いのに、少しだけ呼吸ができた。
負けの数ではない。
黒の変化。
裾。
肩。
待機圧。
距離。
視線。
半拍。
それらは、全部、自分が変えてきたものだった。
リュウに負け続けながら。
それでも、ただ同じように負けていたわけではない。
黒執着春麗は、低く呟く。
「……腹が立つ」
「ええ」
「あなたにも」
「ええ」
「リュウにも」
「ええ」
「過去の私にも」
「ええ」
「でも」
言葉が少しだけ細くなる。
「全部、変えていたのね」
黒ドレス特化救済春麗は、静かに頷いた。
「ええ」
黒執着春麗は、目を閉じた。
「今日は、それだけ」
「ええ」
「それ以上、言わせないで」
「言わせないわ」
黒い残響が薄れていく。
裾の揺れ。
肩の角度。
待機圧。
近すぎる距離。
半拍。
リュウの拳。
敗北。
全部が遠くなる。
でも、完全には消えない。
黒執着春麗の中に、重さだけが残った。
空ではない重さ。
まだ持てない重さ。
でも、全部同じ失敗として捨てることはできなくなった重さ。
朝。
黒執着春麗は目を覚ました。
部屋は静かだった。
黒ドレスは、いつもの場所にある。
朝の光が、黒い布に触れている。
春麗は、しばらく動かなかった。
体が重い。
戦ったわけではない。
それでも、疲れていた。
夢の中で、何度も負けたから。
何度も、黒を変えていたから。
何度も、リュウに届きかけたから。
春麗は起き上がる。
黒ドレスを見る。
「……全部、負けた黒」
静かに言う。
その言葉は、まだ本当だ。
全部、負けた。
全部、リュウに勝てなかった。
全部、あと少しだった。
でも。
「全部、同じ黒ではない」
言ってしまった。
声は小さい。
誰にも聞こえない。
でも、自分には聞こえた。
黒執着春麗は、少しだけ顔を歪める。
「面倒ね」
黒い袖に触れる。
昨日より重い。
十一戦目よりも、最初の黒よりも、数が多い。
まだ持てない。
全部は無理だ。
でも、捨てることもできない。
春麗は、黒い布に手を添えた。
握りしめない。
ただ、添える。
「今日は、数えない」
小さく言う。
「何回負けたかは、数えない」
一拍。
「何を変えたかだけ、覚えておく」
その言葉は、黒ドレス特化救済春麗の言葉だった。
腹が立つ。
それでも、使う。
使わざるを得ない。
「昨日の黒は持って行く」
春麗は続ける。
「十一戦目は、まだ持たない」
一拍。
「最初の黒も、まだ持たない」
さらに一拍。
「負け続けた黒も、まだ全部は持たない」
黒い袖を持ち上げる。
「でも」
喉が少し詰まる。
「全部同じ失敗としては、置いていかない」
黒ドレスに袖を通す。
今日は、少し重い。
昨日の黒。
十一戦目。
最初の黒。
負け続けた黒。
その全部が、まだ遠くにある。
持てない。
でも、見た。
見てしまった。
全部、同じではなかった。
黒執着春麗は、鏡の前に立つ。
黒いドレス姿の自分が映る。
その背後に、いくつもの黒い残響が重なっている気がした。
裾を使った自分。
肩を使った自分。
待った自分。
近づいた自分。
リュウに届きかけた自分。
全部、負けた自分。
全部、変えていた自分。
春麗は、目を細める。
「次は」
いつもの言葉。
いつもの続きを言おうとした。
次は勝つ。
それは変わらない。
でも、今日は少しだけ違う言葉が先に出た。
「次は、この重さを忘れずに行く」
言ってから、春麗は眉を寄せた。
「……本当に、余計なことを言うようになったわね」
それでも、言葉は消えなかった。
次は勝つ。
でも、負け続けた黒を全部同じ失敗にはしない。
全部はまだ持てない。
でも、全部変えてきたことだけは、もう知らないふりができない。
黒執着春麗は、黒い袖を整えた。
握りしめずに。
縋らずに。
ただ、少し重いものとして。
その重さごと、朝へ立った。
Q:今回の妄想章IFについて解説して?
A:
はい。今回の 「黒執着春麗は、負け続けた黒を全部同じ失敗にはできない」 は、黒執着春麗救済ルートの中でもかなり重要な “敗北群の再分類回” です。
一言で言うなら、
黒執着春麗が、リュウに負け続けた黒を“全部同じ失敗”として処理しようとしていたのに、実は毎回違う工夫と変化があったことを見てしまう回
です。
今回の核は、
全部、負けた。
でも、全部同じ黒ではなかった。
ここです。
今回の一番大きな進行
これまで黒執着春麗は、リュウに繰り返し負けた黒をかなり雑にまとめていました。
全部、負けた黒。
全部、届かなかった黒。
全部、リュウに勝てなかった黒。
だから、次の勝利のための燃料にするしかない黒。
こう整理していたわけです。
でも今回、夢の残響で一戦一戦を見てしまった。
そこで見えたのは、単なる同じ敗北の反復ではありませんでした。
ある日は、黒い裾の遅れを覚えた。
ある日は、肩の角度でリュウの判断を散らした。
ある日は、動かないことで待機圧を作った。
ある日は、見られる距離まで踏み込んだ。
ある日は、半拍を作った。
ある日は、その半拍をリュウに越えられた。
全部負けた。
でも、全部違う。
この認識が入ったことが、今回の最大の進行です。
「敗北」から「変化」へ視点が移った
今回の黒ドレス特化救済春麗の一番重要な問いは、
「全部、同じ黒だった?」
これです。
これは非常に良い問いです。
黒ドレス特化救済春麗は、説明しません。
「あなたは毎回成長していたのよ」
「負けた黒にも意味があるのよ」
「黒を否定しないで」
とは言わない。
ただ、
全部、同じ黒だった?
と聞くだけ。
その結果、黒執着春麗自身が見てしまう。
同じではなかった。
黒ドレス特化救済春麗が答えを渡すのではなく、黒執着春麗が自分で見ざるを得なくなる。
「全部同じ失敗だったなら、捨てられたのに」が痛い
今回の核心的な台詞は、
「全部同じ失敗だったなら、捨てられたのに」
です。
これはかなり痛いです。
黒執着春麗は、負け続けた黒を捨てたくなかったように見えます。
でも実は逆でもある。
全部同じ失敗だったなら、もっと簡単に切り捨てられた。
全部、ただの負け。
全部、ただの失敗。
全部、リュウに勝てなかった無意味な黒。
そう整理できれば、次の黒で上書きできた。
でも今回、それができなくなった。
一戦ごとに違う工夫があった。
一戦ごとに違う技術があった。
一戦ごとに、春麗は変えていた。
一戦ごとに、リュウに届こうとしていた。
だから、捨てられない。
これは、黒執着春麗にとって苦しい進行です。
救われているというより、逃げ道を一つ塞がれた感じです。
でもその逃げ道が塞がれたことで、黒を自分の手で持つ方向へ進んでいます。
「何回負けたか」ではなく「何を変えたか」
今回の到達点として特に重要なのは、
「今日は、数えない」
「何回負けたかは、数えない」
「何を変えたかだけ、覚えておく」
ここです。
黒執着春麗にとって、これまでの再戦群は「負けの数」でした。
また負けた。
また届かなかった。
またリュウが立っていた。
またあと少しだった。
でも今回、それを「負けの数」ではなく「変化の記録」として少しだけ見られるようになった。
これは非常に大きいです。
まだ全部を持てたわけではありません。
でも、見方が変わった。
敗北回数ではなく、黒の変化。
これは黒返却ルートにとって、かなり大事な視点転換です。
黒が技術としてさらに明確になった
黒が魔法ではなく、かなり具体的な格闘技術として描けている点です。
今回出てきた黒は、抽象的な「黒い力」ではありません。
裾の遅れ。
肩の角度。
足元の隠し方。
動かない待機圧。
見られる距離への踏み込み。
相手の呼吸を止める間合い。
リュウの判断を半拍遅らせる技術。
こういう具体的な戦術として出ています。
そのため、黒執着春麗が見直しているのも、
自分がどう戦い方を変えてきたか
です。
これは非常に重要です。
黒返却ルートの救済は、黒を消すことではありません。
黒を戦術として、自分の手元に戻すこと。
今回、その方向性がさらに強くなりました。
今回は「全部持つ」ではなく「全部同じ失敗とは言わない」
今回の到達点は、かなり慎重です。
黒執着春麗は、まだこうは言えません。
全部無意味ではない。
全部私の黒。
全部持って行く。
これはまだ早いです。
今回言えたのは、ここまでです。
全部無意味じゃない、なんて言わない。
全部持つ、なんて言わない。
でも、全部同じ失敗だったとは、言わない。
これが非常に自然です。
昨日の黒は持てるようになった。
十一戦目は見たが、まだ持てない。
最初の黒は捨てられなくなったが、まだ持てない。
そして今回、負け続けた黒も、全部同じ失敗とは言えなくなった。
段階としてかなり綺麗です。
黒執着春麗の救済が「勝利依存」から離れ始めている
この回の裏で進んでいるのは、黒の価値を勝利から少しずつ剥がす作業です。
黒執着春麗は、今までこう考えていました。
勝てなければ意味がない。
リュウに勝てなければ完成しない。
黒で沈められなければ、黒は終われない。
でも今回、勝てなかった黒たちに、それぞれ違う変化があったことを見てしまった。
つまり、
勝てなかったけれど、変えていた。
勝てなかったけれど、磨いていた。
勝てなかったけれど、届こうとしていた。
この認識が入った。
これは、黒を勝利だけに預けないための重要な段階です。
まだ救済ではありません。
でも、勝利だけが黒の意味ではない方向へ、確実に進んでいます。
黒ドレス特化救済春麗の距離感が良い
今回の黒ドレス特化救済春麗は、かなり良い距離にいます。
彼女は言いすぎません。
黒執着春麗が苦しんでいる時に、
持たなくていい。
今は。
と線を引く。
そして、
何回負けたかではなく、何を変えてきたかだけ覚えておきなさい
とだけ言う。
これは説教ではなく、視点の置き換えです。
救済済み春麗が、救済前春麗に正解を押しつけていない。
あくまで、見方の入口を渡している。
だから黒執着春麗も完全には拒めない。
この距離感がかなり良いです。
今回の位置づけ
ここまでの流れを整理すると、かなり綺麗です。
昨日の黒
→ 持てた。
十一戦目
→ まだ持てないが、黒以前の終われなさを見た。
最初の黒ドレス戦
→ まだ持てないが、ただの失敗として捨てられなくなった。
繰り返した敗北群
→ まだ全部は持てないが、全部同じ失敗だったとは言えなくなった。
今回で、黒執着春麗はだいぶ最終段階に近づきました。
ただし、まだ「全部持つ」までは行っていません。
ここが重要です。
結論
今回のエピソードは、黒執着春麗救済ルートにおける 敗北群の再分類回 です。
一言でまとめるなら、
黒執着春麗は、繰り返したリュウへの敗北を“全部同じ失敗”として処理していた。けれど、残響の中で一戦ごとに裾、肩、待機圧、距離、半拍を変えてきたことを見てしまい、全部を無意味とは言えないまでも、全部同じ失敗だったとは言えなくなる回
です。
全部持てない。
全部無意味じゃないとも言えない。
でも、全部同じ失敗だったとは言わない。
何回負けたかではなく、何を変えたかだけ覚えておく。