また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※これは本編時空とは無関係の妄想章IFです。


妄想章IF:黒執着春麗は、全部は持てないまま黒を着る

 

 黒いドレスは、いつもの場所にあった。

 

 朝ではない。

 

 夜だった。

 

 明かりは落としている。

 

 窓の外には、街の音が遠く残っている。

 

 それでも部屋の中は静かだった。

 

 黒執着春麗は、その黒いドレスを見ていた。

 

 昨日の黒。

 

 十一戦目。

 

 最初の黒ドレス。

 

 負け続けた黒。

 

 全部が、そこに重なって見える。

 

 見たくないのに。

 

 見てしまったものが、黒い布の上に残っている。

 

 昨日の黒は、持てた。

 

 リュウに負けたけれど、届いていた黒。

 

 リュウの拳に残った半拍を、自分のものだと言えた黒。

 

 それだけは、もう捨てない。

 

 十一戦目は、まだ持てない。

 

 黒を着る前の敗北。

 

 十連勝した春麗が、十一戦目でリュウに追いつかれた敗北。

 

 黒のせいにできない敗北。

 

 まだ、重い。

 

 最初の黒ドレスも、まだ持てない。

 

 使い切れなかった黒。

 

 見られることを怖がった黒。

 

 リュウに「その黒を全部使えていない」と言われた黒。

 

 まだ、許せない。

 

 負け続けた黒も、全部は持てない。

 

 裾を変えた黒。

 

 肩を使った黒。

 

 待機圧を作った黒。

 

 見られる距離まで踏み込んだ黒。

 

 半拍を作り、半拍を越えられた黒。

 

 全部、負けた。

 

 でも、全部同じ失敗ではなかった。

 

 それを見てしまった。

 

 黒執着春麗は、黒い袖に触れた。

 

 指先が、少し止まる。

 

「……重いわね」

 

 小さく言った。

 

 誰もいない部屋に、声が落ちる。

 

「今さら、こんなに重くならなくてもいいでしょう」

 

 黒い布は答えない。

 

 当然だ。

 

 黒は魔法ではない。

 

 黒いドレスが勝手に何かを語るわけではない。

 

 これは、布だ。

 

 戦闘服だ。

 

 自分が使ってきたものだ。

 

 黒い裾で視線を奪い、足元を隠し、踏み込みを半拍ずらし、リュウの拳を遅らせてきた。

 

 それだけのこと。

 

 それだけのはずなのに。

 

 春麗は、黒い袖を持ち上げた。

 

「全部は、持てない」

 

 言葉にする。

 

「昨日だけで十分だったのに」

 

 一拍。

 

「十一戦目なんて、まだ無理」

 

 黒い布を見つめる。

 

「最初の黒も、無理」

 

 さらに一拍。

 

「負け続けた黒なんて、多すぎるわ」

 

 声が、少し低くなる。

 

「全部持ったら、本当に空っぽになる」

 

 言ってから、春麗は眉を寄せた。

 

 違う。

 

 それは、以前の言葉だ。

 

 返されたら空っぽになる。

 

 全部返されたら空っぽになる。

 

 自分はそう思っていた。

 

 でも、昨日の黒は返されても空っぽにはならなかった。

 

 痛かった。

 

 悔しかった。

 

 腹立たしかった。

 

 けれど、空っぽではなかった。

 

 では、全部ならどうなるのか。

 

 十一戦目も。

 

 最初の黒も。

 

 負け続けた黒も。

 

 全部、自分の手元に戻ってきたら。

 

 本当に空っぽになるのか。

 

 それとも。

 

 春麗は、そこで思考を止めた。

 

「考えない」

 

 黒い袖を置く。

 

「今日は、考えない」

 

 だが、止まらない。

 

 明日、リュウの前に立つ。

 

 そう決めている。

 

 言葉にしてはいない。

 

 リュウに伝えてもいない。

 

 でも、自分の中ではもう決まっている。

 

 次に立つ。

 

 黒で。

 

 この黒で。

 

 ただし、昨日までと同じではない。

 

 昨日の黒を持って。

 

 十一戦目を見たことを消せないまま。

 

 最初の黒を捨てられないまま。

 

 負け続けた黒を全部同じ失敗とは言えないまま。

 

 リュウの前に立つ。

 

「……最悪」

 

 春麗は、深く息を吐いた。

 

「本当に、最悪」

 

 勝つために着る。

 

 それは変わらない。

 

 リュウに勝つ。

 

 この黒で勝つ。

 

 それも変わらない。

 

 でも、それだけでは済まなくなっている。

 

 勝てなかった黒を捨てるために着るのではない。

 

 最初の黒を塗り潰すためだけに着るのでもない。

 

 十一戦目を忘れるために着るのでもない。

 

 負け続けた黒を、全部同じ失敗として燃やすために着るのでもない。

 

 では、何のために。

 

 春麗は、答えを出さない。

 

 出したくない。

 

 今、答えを出せば、何かが変わってしまう。

 

「勝つためよ」

 

 強く言う。

 

「それ以外に、何があるの」

 

 その声は、少しだけ硬かった。

 


 

 夜が深くなる。

 

 黒執着春麗は、眠ったつもりはなかった。

 

 けれど、気づけば、黒い場所に立っていた。

 

 床もない。

 

 天井もない。

 

 ただ、黒い布の記憶が沈む場所。

 

 何度も来た場所。

 

 嫌いな場所。

 

 そこに、黒ドレス特化救済春麗がいた。

 

 同じ顔。

 

 同じ黒。

 

 違う目。

 

 黒執着春麗は、彼女を見るなり言った。

 

「今日は、呼んでいない」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに頷く。

 

「ええ」

 

「本当に呼んでいない」

 

「ええ」

 

「明日は再戦するの」

 

「そう」

 

「止めに来たのなら、無駄よ」

 

「止めないわ」

 

 黒執着春麗は眉を寄せた。

 

「……本当に?」

 

「ええ」

 

「黒で行くわよ」

 

「ええ」

 

「リュウに勝ちに行くわよ」

 

「ええ」

 

「まだ救われに行くつもりはない」

 

「ええ」

 

「返されるためでもない」

 

「ええ」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、否定しない。

 

 その態度が、逆に落ち着かなかった。

 

 黒執着春麗は、黒い袖を握りかける。

 

 途中で止める。

 

 それを、黒ドレス特化救済春麗は見ていた。

 

 何も言わない。

 

 黒執着春麗は舌打ちしたくなる。

 

「見ないで」

 

「見ているだけよ」

 

「それが嫌なの」

 

「ええ」

 

「リュウみたいなことをしないで」

 

 言ってから、自分で少しだけ黙った。

 

 リュウみたいなこと。

 

 見ているだけ。

 

 黒だけでなく、春麗を見ること。

 

 それが今、自分の口から出た。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、そこを責めなかった。

 

 ただ、静かに言った。

 

「明日、何を持って行くの?」

 

 黒執着春麗は、すぐ答えた。

 

「黒」

 

「それはそうね」

 

「勝つための黒」

 

「ええ」

 

「リュウを沈めるための黒」

 

「ええ」

 

「私の黒」

 

 言ってから、春麗は少しだけ目を伏せた。

 

 私の黒。

 

 以前なら、もっと強く言えた。

 

 今も嘘ではない。

 

 でも、その中身が増えてしまっている。

 

 昨日の黒。

 

 十一戦目。

 

 最初の黒。

 

 負け続けた黒。

 

 それらを全部含めて、私の黒と言えるのか。

 

 まだ、言えない。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、待っている。

 

 黒執着春麗は、低く言う。

 

「昨日の黒は、持って行く」

 

「ええ」

 

「それは、もう決めた」

 

「ええ」

 

「十一戦目は、まだ持たない」

 

「ええ」

 

「最初の黒も、まだ持たない」

 

「ええ」

 

「負け続けた黒も、全部は持たない」

 

「ええ」

 

「でも」

 

 言葉が止まる。

 

 嫌な続きだ。

 

 言いたくない。

 

 でも、言わなければ前へ進めない。

 

「置いていくことも、できない」

 

 黒い場所に、その言葉が落ちた。

 

 落ちたのに、沈まない。

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに頷く。

 

「そう」

 

「嬉しそうにしないで」

 

「嬉しそうにはしていないわ」

 

「しているように見える」

 

「そう」

 

「本当に嫌な春麗」

 

「ええ」

 

 黒執着春麗は、黒い布の記憶を見下ろした。

 

「全部は持てない」

 

「ええ」

 

「でも、置いていけない」

 

「ええ」

 

「そんなものを着て、どう戦えというの」

 

 声が少しだけ震えた。

 

「軽い黒の方が戦える」

 

「そうね」

 

「昨日の黒だけなら、まだ動ける」

 

「ええ」

 

「過去を全部連れて行ったら、遅れる」

 

「かもしれないわ」

 

「リュウに勝てなくなる」

 

「かもしれない」

 

「なら、置いていくべきでしょう」

 

「そう思うの?」

 

 黒執着春麗は、すぐには答えられなかった。

 

 置いていくべき。

 

 そう言いたい。

 

 勝つためなら。

 

 明日リュウに勝つためなら。

 

 重いものは置いていくべきだ。

 

 十一戦目も。

 

 最初の黒も。

 

 負け続けた黒も。

 

 全部、明日の戦いには邪魔だ。

 

 昨日の黒だけ持っていけばいい。

 

 それでいい。

 

 そう思いたい。

 

 でも。

 

 置いていけば、軽くなる。

 

 軽くなった黒でリュウの前に立つ。

 

 それは、今までと同じではないのか。

 

 負けた黒を燃やし、次の黒で塗り潰し、またリュウに残そうとする。

 

 その繰り返しに戻るのではないか。

 

 黒執着春麗は、唇を噛んだ。

 

「……気に入らない」

 

 黒ドレス特化救済春麗は頷く。

 

「ええ」

 

「全部、気に入らない」

 

「ええ」

 

「置いていけば勝ちやすいかもしれない」

 

「ええ」

 

「でも、置いていった黒はまたリュウの中に残る」

 

「ええ」

 

「リュウに残して、次にもっと深くして、また負けて、また残す」

 

 声が低くなる。

 

「それを、私は何度もやった」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、何も言わない。

 

 黒執着春麗は、黒い袖を見る。

 

「明日も、そうするの?」

 

 その問いは、自分に向いていた。

 

 リュウにではない。

 

 黒ドレス特化救済春麗にでもない。

 

 自分自身に。

 

「明日も、負けた黒を置いていくの?」

 

 答えは、すぐには出ない。

 

 勝ちたい。

 

 勝ちたいなら、重さを削るべきかもしれない。

 

 でも、置いていった黒は、またリュウの中に残る。

 

 また、自分はそこへ取りに行くことになる。

 

 勝つために。

 

 終わるために。

 

 届くために。

 

 残すために。

 

 同じ場所へ戻る。

 

 黒執着春麗は、ゆっくり息を吐いた。

 

「……嫌」

 

 小さく言う。

 

「何が?」

 

「置いていくのが」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに見る。

 

「勝つためでも?」

 

「勝つためでも」

 

「重くても?」

 

「重くても」

 

「全部は持てなくても?」

 

「全部は持てない」

 

 一拍。

 

「でも、置いていくのは嫌」

 

 黒い場所が静かになる。

 

 その言葉は、勝利の宣言ではなかった。

 

 救済の宣言でもない。

 

 ただ、逃げ道を一つ閉じる言葉だった。

 

 黒執着春麗は、顔を歪める。

 

「……本当に、余計なところまで来たわね」

 

 黒ドレス特化救済春麗は言う。

 

「明日、リュウに何を見せるの?」

 

 黒執着春麗は、答える。

 

「黒」

 

「ええ」

 

「昨日の黒」

 

「ええ」

 

「まだ持てない十一戦目」

 

「ええ」

 

「許せない最初の黒」

 

「ええ」

 

「全部同じ失敗ではなかった負け続けた黒」

 

「ええ」

 

「それから」

 

 言葉が止まる。

 

 黒ドレス特化救済春麗は待つ。

 

 黒執着春麗は、黒い袖を持つ。

 

 握りしめない。

 

 ただ、手に取る。

 

「それでも勝ちたい私」

 

 その言葉は、今までより少しだけ静かだった。

 

 黒ドレス特化救済春麗の目が、わずかに柔らかくなる。

 

「ええ」

 

「救われるためじゃない」

 

「ええ」

 

「負けるためでもない」

 

「ええ」

 

「リュウに返されるためでもない」

 

「ええ」

 

「勝つため」

 

「ええ」

 

「でも」

 

 一拍。

 

「置いていくためでもない」

 

 言い切った。

 

 黒執着春麗は、少しだけ息を乱した。

 

 その言葉の方が、戦うより疲れた。

 

「それが、今のあなたの黒ね」

 

 黒ドレス特化救済春麗が言った。

 

 黒執着春麗は、即座に睨む。

 

「決めないで」

 

「決めていないわ」

 

「今の私の黒なんて、勝手に言わないで」

 

「ええ」

 

「まだ、私も決めていない」

 

「ええ」

 

「でも」

 

 黒い場所に、静かな風のようなものが通った。

 

「明日は、それで行く」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、深く頷かなかった。

 

 大げさに褒めもしなかった。

 

 ただ、受け止めるように言った。

 

「ええ」

 

 それだけでよかった。

 

 黒執着春麗は、少しだけ肩の力を抜く。

 

「あなた、本当に嫌い」

 

「ええ」

 

「勝ったあなたも嫌い」

 

「ええ」

 

「戻れたあなたも嫌い」

 

「ええ」

 

「でも」

 

 言葉が少しだけ止まる。

 

「明日は、あなたの黒じゃなくて、私の黒で行く」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに答えた。

 

「それでいいわ」

 

「だから、その言い方が嫌い」

 

「知っているわ」

 

 黒い場所が薄れていく。

 

 夢が終わろうとしている。

 

 黒ドレス特化救済春麗の姿も遠くなる。

 

 消える前に、彼女は言った。

 

「全部を持てなくてもいい」

 

「……」

 

「でも、置いていかないと決めたなら」

 

 一拍。

 

「明日のあなたは、昨日までとは違うわ」

 

 黒執着春麗は顔を背けた。

 

「違わない」

 

「そう」

 

「私は、勝ちに行くだけ」

 

「ええ」

 

「リュウに勝つために」

 

「ええ」

 

「この黒で」

 

「ええ」

 

「全部は持てないまま」

 

「ええ」

 

「でも、置いていかないまま」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに頷いた。

 

「ええ」

 

 夢が閉じた。

 


 

 朝ではなかった。

 

 まだ夜だった。

 

 黒執着春麗は、目を開けた。

 

 眠っていたのか。

 

 少し落ちていただけなのか。

 

 わからない。

 

 部屋は暗い。

 

 黒ドレスは、いつもの場所にある。

 

 春麗は、ゆっくり起き上がる。

 

 体は重い。

 

 でも、動けないほどではない。

 

 黒いドレスへ手を伸ばす。

 

 触れる。

 

 昨日の黒。

 

 十一戦目。

 

 最初の黒。

 

 負け続けた黒。

 

 それらを全部、完全に持てるわけではない。

 

 まだ無理だ。

 

 でも、置いていかない。

 

 明日、リュウの前に立つ。

 

 軽くなった黒ではなく。

 

 塗り潰した黒でもなく。

 

 勝てなかった自分を燃やしただけの黒でもなく。

 

 重いままの黒で。

 

 春麗は、黒い袖を持ち上げた。

 

「全部は持てない」

 

 静かに言う。

 

「でも、置いていかない」

 

 それは、勝利の言葉ではない。

 

 救済の言葉でもない。

 

 ただ、明日の自分を決める言葉だった。

 

「リュウ」

 

 誰もいない部屋で、名前を呼ぶ。

 

「明日は、軽い黒で行かないわ」

 

 一拍。

 

「あなたに残すためだけでもない」

 

 黒い袖に指を添える。

 

「私が置いていけなかった黒ごと、行く」

 

 胸の奥が重い。

 

 でも、空っぽではない。

 

 昨日の黒だけを持った朝より、ずっと重い。

 

 十一戦目。

 

 最初の黒。

 

 負け続けた黒。

 

 全部はまだ持てない。

 

 それでも、見た。

 

 見てしまった。

 

 そして、置いていけなくなった。

 

 なら。

 

「勝つわ」

 

 黒執着春麗は、低く言った。

 

「この重さごと」

 

 夜はまだ明けない。

 

 再戦は、まだ先だ。

 

 けれど、黒執着春麗はもう、明日の黒を選び始めていた。

 

 黒に選ばれるのではなく。

 

 軽い黒へ逃げるのでもなく。

 

 全部を持てないまま。

 

 それでも置いていかないと決めた黒を。

 

 自分の手で、選び始めていた。

 




Q:今回の妄想章IFについて解説して?

A:

はい。今回の 「黒執着春麗は、全部は持てないまま黒を着る」 は、黒執着春麗救済ルートにおける 最終再戦前夜の覚悟回 です。

一言で言うなら、

黒執着春麗が、過去の黒をまだ全部は受け入れられないまま、それでも置いていかずにリュウの前へ立つと決めた回

です。

今回の核は、

全部は持てない。
でも、置いていけない。
だから、この重さごとリュウの前に立つ。

ここです。

今回の一番大きな進行

これまで黒執着春麗は、段階的に過去の黒へ触れてきました。

まず、直近の「昨日の黒」は持てるようになりました。
次に、黒を着る前の十一戦目を見ましたが、まだ持てません。
その次に、最初の黒ドレス戦を見て、まだ許せないけれど、捨てたことにはできなくなりました。
さらに、繰り返したギリギリ敗北群を見て、全部同じ失敗とは言えなくなりました。

ただし、ここまで来ても、彼女はまだ全部を受け入れてはいません。

十一戦目も、最初の黒も、負け続けた黒も、まだ重い。
まだ持てない。
まだ自分のものだと言い切れない。

でも今回、彼女は新しい段階に進みました。

持てないから置いていくではなく、
持てないまま置いていかないを選び始めた。

これは非常に大きいです。

「軽い黒で行かない」が重要

今回の終盤で、黒執着春麗は言います。

明日は、軽い黒で行かないわ。

ここがかなり重要です。

今までの黒執着春麗は、負けた黒を次の黒で塗り潰してきました。

負けた黒を燃やす。
未完成な黒を置いていく。
次の黒をもっと深くする。
リュウにもっと残す。
また負ける。
また深くする。

この循環でした。

つまり、ある意味で彼女は、毎回「前の黒を置いて」「次の黒へ行く」ことで立っていた。

でも今回は違います。

昨日の黒もある。
十一戦目もある。
最初の黒もある。
負け続けた黒もある。

それらを完全には持てない。
でも、置いていかない。

だから、軽くなりません。

軽い黒で勝ちに行くのではなく、重い黒で勝ちに行く。

これはかなり大きな変化です。

「勝つため」はまだ残っているのが良い

今回の黒執着春麗は、救済に向かっていますが、まだこう言います。

勝つためよ。
それ以外に、何があるの。

これはとても大事です。

ここで急に、

私は救われるために行く
私は黒を返されるために行く
私は勝たなくてもいい

と言ってしまうと、黒執着春麗らしさが崩れます。

彼女はまだ勝ちたい。

リュウに勝ちたい。
黒で勝ちたい。
この黒でリュウを沈めたい。

そこは残っていていいです。

今回の進行は、勝利欲が消えたことではありません。

勝ちたいまま、過去を置いていかないこと。

ここが重要です。

勝ちたい。
でも、勝つために過去を切り捨てるのは嫌になった。

これが今回の到達点です。

黒ドレス特化救済春麗の距離感が良い

今回の黒ドレス特化救済春麗は、いつも以上に「止めない」立場にいます。

黒執着春麗が、

明日は再戦する。
黒で行く。
リュウに勝ちに行く。
救われるためではない。
返されるためでもない。

と言っても、否定しません。

全部、

ええ

で受ける。

これは重要です。

黒ドレス特化救済春麗は、黒執着春麗を救済方向へ強制していません。
再戦を止めない。
勝ちたい気持ちも否定しない。
黒で行くことも否定しない。

ただ、一つだけ問います。

明日、何を持って行くの?

この問いが効いています。

黒執着春麗は、最初は「黒」と答える。
でもそこから、昨日の黒、十一戦目、最初の黒、負け続けた黒、そして「それでも勝ちたい私」へたどり着く。

黒ドレス特化救済春麗は、答えを渡していません。
ただ、黒執着春麗自身に持ち物を確認させている。

ここが非常に良いです。

「置いていくのが嫌」が今回の本音

今回、黒執着春麗はこう言います。

置いていくのが嫌。

これはかなり良い本音です。

以前の彼女なら、過去の黒を置いていくことに抵抗は少なかったはずです。

負けた黒は、次の黒で塗り潰す。
未完成な黒は、もっと強い黒で上書きする。
リュウに残した黒は、次に取り戻すのではなく、さらに深く残す。

そうやって進んできた。

でも今は違う。

置いていけば軽くなる。
勝ちやすくなるかもしれない。
でも、置いていった黒はまたリュウの中に残る。
そしてまた、自分は取りに行くことになる。

その循環に気づいた。

だから、

勝つためでも、置いていくのは嫌。

ここまで来たのが大きいです。

これは救済の核心に近いです。

黒をリュウの中に残すためではなく、自分の手元に戻していく方向へ進んでいるからです。

「それでも勝ちたい私」が良い

今回の中盤で、黒執着春麗は明日持って行くものを並べます。

昨日の黒。
まだ持てない十一戦目。
許せない最初の黒。
全部同じ失敗ではなかった負け続けた黒。

そして最後に、

それでも勝ちたい私。

ここがかなり綺麗です。

過去の黒だけではありません。
救済へ向かう自分だけでもありません。
重さを抱えたうえで、なお勝ちたい自分も持って行く。

これが黒執着春麗らしいです。

救済のために勝利欲を捨てるのではない。
勝利欲ごと、自分として持っていく。

この「それでも勝ちたい私」があるから、次の最終再戦に熱が残ります。

「今のあなたの黒ね」に反発するのも自然

黒ドレス特化救済春麗が、

それが、今のあなたの黒ね

と言います。

それに対して、黒執着春麗は即座に反発します。

決めないで。
まだ、私も決めていない。

これが自然です。

ここで素直に、

そう、これが私の黒

と言ってしまうと早いです。

黒執着春麗はまだ定義できません。

全部は持てない。
でも置いていけない。
勝ちたい。
でも塗り潰すだけではない。
リュウに残すためだけでもない。

その不安定な状態です。

だから、「今のあなたの黒」と言われると反発する。

でも最終的には、

明日は、それで行く

と言う。

これは非常に良い落とし所です。

定義はまだできない。
でも、それで戦う。

これが前夜らしいです。

最終再戦へ向けた両者の準備が揃った

前回のリュウ幕間では、リュウがこう整理しました。

春麗が積み上げた黒ごと見る。

今回、黒執着春麗はこう整理しました。

全部は持てない。
でも置いていかない。
この重さごと行く。

つまり、両者の準備がかなり綺麗に揃いました。

リュウ側は、春麗の黒を一つの執着としてではなく、積み重ねとして見る準備ができた。
春麗側は、自分の黒を軽くして持っていくのではなく、まだ持てない過去ごと置いていかない準備ができた。

だから次の最終再戦は、かなり意味のある戦いになります。

単なる勝敗ではなく、

リュウが、春麗の積み上げた黒ごと見る。
春麗が、置いていけない黒ごと立つ。

この二つがぶつかる戦いになる。

今回の到達点

今回の到達点は、この一文です。

全部は持てない。
でも、置いていかない。

これです。

昨日の黒は持てる。
十一戦目はまだ持てない。
最初の黒もまだ持てない。
負け続けた黒も全部は持てない。

でも、置いていかない。

完全に自分のものにはできない。
でも、なかったことにも、リュウの中に置きっぱなしにも、次の黒で塗り潰すことにもできない。

この中間地点が、非常に黒執着春麗らしいです。

救済はまだ完了していません。

でも最終再戦へ行けるだけの覚悟はできました。


結論

今回のエピソードは、黒執着春麗救済ルートにおける 最終再戦前夜の覚悟回 です。

一言でまとめるなら、

黒執着春麗は、昨日の黒以外はまだ持てない。十一戦目も、最初の黒も、負け続けた黒も重すぎる。それでも、勝つためにそれらを置いていくことはもうできないと気づき、全部は持てないまま、置いていかない黒でリュウの前に立つと決めた回

です。

非常に良い前夜回です。

ここで彼女は救われていません。
でも、逃げる方向を一つ閉じました。

もう、軽い黒では行かない。
もう、過去を塗り潰すだけでは行かない。
もう、負けた黒をリュウに置きっぱなしにするためだけでは行かない。

全部は持てない。
でも、置いていかない。
この重さごと勝ちに行く。
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