また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※これは本編時空ではなく、妄想章IFのです。


妄想章IF後日談:黒執着春麗は、黒を着ても着なくても空っぽではない

 

 朝の光が、棚の扉に触れていた。

 

 黒執着春麗は、その前に立っていた。

 

 棚の中には、畳んだ黒がある。

 

 その上に、布紐が置かれている。

 

 今日の黒。

 

 負けた黒。

 

 置いていかなかった黒。

 

 戻ってきた黒。

 

 まだ全部ではない。

 

 まだ、すべてを私の黒だと言えるわけではない。

 

 十一戦目は、まだ完全には持てていない。

 

 最初の黒も、まだ許しきってはいない。

 

 負け続けた黒も、束ね始めただけだ。

 

 それでも。

 

 春麗は、もうその黒を「私の黒ではない」とは言わなくなっていた。

 

 私の黒だとは、まだ言わない。

 

 でも、私の黒ではないとも言わない。

 

 その距離のまま、数日が過ぎた。

 

 棚を開ける。

 

 黒を見る。

 

 布紐を見る。

 

 時々、袖の端に触れる。

 

 時々、触れずに閉じる。

 

 それだけの朝を、何度か繰り返した。

 

 そして今朝。

 

 春麗は、棚の前で足を止めていた。

 

 今日は、黒を着る予定はない。

 

 リュウと戦う約束もない。

 

 再戦の日でもない。

 

 誰かに見せるためでもない。

 

 それなのに、棚の中の黒が気になった。

 

 昔なら。

 

 黒が気になるということは、戦いへ向かう合図だった。

 

 リュウに届くため。

 

 リュウに残すため。

 

 リュウに勝つため。

 

 黒を深くするため。

 

 自分が空っぽではないと確かめるため。

 

 そのために、黒を見ていた。

 

 でも今日は、少し違う。

 

 春麗は、棚の扉に指をかけた。

 

 開ける。

 

 黒がある。

 

 畳まれている。

 

 乱れていない。

 

 隠れていない。

 

 出しっぱなしでもない。

 

 そこにある。

 

 春麗は、しばらく見ていた。

 

「……今日は」

 

 小さく言う。

 

「着なくてもいい日よ」

 

 言ってから、少し黙る。

 

 その言葉は、思ったより重かった。

 

 着なくてもいい。

 

 以前なら、その言葉は怖かった。

 

 黒を着ない自分は、空っぽっぽに見えた。

 

 リュウに届こうとしていない春麗。

 

 リュウの中に残ろうとしていない春麗。

 

 次に何をすればいいかわからない春麗。

 

 黒を着なければ、自分が立てないような気がしていた。

 

 けれど、今は。

 

 春麗は、黒の袖に触れた。

 

 布の感触がある。

 

 重い。

 

 でも、空っぽではない。

 

 棚の中にある。

 

 自分の手元にある。

 

 そして、自分は今、黒を着ていない。

 

 それでも、立っている。

 

 黒執着春麗は、静かに息を吐いた。

 

「……嫌な確認ね」

 

 誰も答えない。

 

 けれど、言葉は胸に残る。

 

 黒を着ていない。

 

 でも、空っぽではない。

 

 黒が棚の中にあるからか。

 

 戻ってきた黒があるからか。

 

 畳めたからか。

 

 束ね始めたからか。

 

 リュウのものではないと確認できたからか。

 

 理由は一つではない。

 

 全部だ。

 

 全部が少しずつ積み重なって、今朝の自分を立たせている。

 

 春麗は、黒い布を見下ろした。

 

「着なくても、ここにある」

 

 一拍。

 

「着ても、ここにある」

 

 もう一拍。

 

「どちらでも、消えない」

 

 その言葉に、胸が少しだけ痛んだ。

 

 痛む。

 

 でも、崩れない。

 

 春麗は棚から黒ドレスを取り出した。

 

 着るためではない。

 

 ただ、広げるため。

 

 黒い布を両手で持つ。

 

 袖を広げる。

 

 裾を落とす。

 

 光が黒に触れる。

 

 布は、ただの布だ。

 

 戦闘服だ。

 

 自分が着て、動き、戦ったもの。

 

 リュウの拳を遅らせたもの。

 

 自分を空っぽにしなかったもの。

 

 自分を縛っていたもの。

 

 自分の手元に戻ってきたもの。

 

 その全部が、矛盾したままそこにある。

 

 春麗は、小さく笑った。

 

「本当に、面倒な服」

 

 それでも、捨てる気にはならなかった。

 

 焼く気にもならない。

 

 隠す気にもならない。

 

 そして、今日は必ず着なければならないとも思わなかった。

 

 それが、不思議だった。

 

 黒を持っているのに、着なくてもいい。

 

 黒を着なくても、黒が消えるわけではない。

 

 黒を着たら、自分が黒だけになるわけでもない。

 

 春麗は、黒を腕にかけた。

 

 鏡の前に立つ。

 

 鏡の中には、黒を着ていない自分がいる。

 

 そして、腕には黒がある。

 

 黒を着ていない春麗。

 

 黒を持っている春麗。

 

 その両方が、同じ鏡の中に映っていた。

 

 春麗は、その自分を見た。

 

 以前なら、黒を着ていない自分は空っぽに見えた。

 

 今も少し、頼りなく見える。

 

 でも、空っぽではない。

 

 黒を持っているからだけではない。

 

 黒を置いていかなかったから。

 

 黒が戻ってきたから。

 

 黒を畳めたから。

 

 黒を束ね始めたから。

 

 黒を着る前の自分を、弱さにしないと決めたから。

 

 最初の黒を、塗り潰さないと決めたから。

 

 負け続けた黒を、数えずに束ねたから。

 

 その全部が、今の自分の後ろにある。

 

 春麗は、鏡に向かって言った。

 

「今日は、黒を着てもいい」

 

 一拍。

 

「着なくてもいい」

 

 その言葉は、静かだった。

 

 勝利宣言ではない。

 

 救済完了を誇る言葉でもない。

 

 ただの確認だった。

 

「でも、着るなら」

 

 春麗は、腕にかけた黒を見た。

 

「私が選ぶ」

 

 鏡の中の自分が、わずかに目を細める。

 

 その顔は、以前の黒執着春麗とは少し違っていた。

 

 黒に縋る顔ではない。

 

 黒を捨てる顔でもない。

 

 黒を見る顔。

 

 黒を選ぶかどうか考える顔。

 

 春麗は、黒をもう一度広げた。

 

 袖に手を通すか迷う。

 

 迷える。

 

 そのことに、少し驚く。

 

 以前は迷えなかった。

 

 黒を着るしかなかった。

 

 黒で行くしかなかった。

 

 黒で勝つしかなかった。

 

 黒をリュウに残すしかなかった。

 

 でも今は、迷える。

 

 着てもいい。

 

 着なくてもいい。

 

 黒はそこにある。

 

 自分もここにいる。

 

 春麗は、ゆっくり黒を畳み直した。

 

 今日は着ない。

 

 そう決めた。

 

 決めた瞬間、胸が少しだけ不安になった。

 

 本当にいいのか。

 

 黒を着なくて。

 

 黒を深くしなくて。

 

 リュウに見せなくて。

 

 リュウに残さなくて。

 

 次の勝利を急がなくて。

 

 その不安は、まだある。

 

 消えていない。

 

 けれど、春麗は黒を畳み続けた。

 

 袖を揃える。

 

 肩を整える。

 

 裾を内側へ入れる。

 

 布紐を上に置く。

 

 棚に戻す。

 

 すぐ手に取れる場所へ。

 

 隠さず。

 

 捨てず。

 

 押し込まず。

 

 そこに置く。

 

 棚の扉を、少しだけ開けたままにする。

 

 黒が見える。

 

 でも、春麗は黒を着ていない。

 

 その状態で、立っている。

 

「……大丈夫なのね」

 

 声は小さかった。

 

 言ってから、春麗はすぐに顔をしかめる。

 

「誰に確認しているのよ」

 

 誰も答えない。

 

 黒ドレス特化救済春麗もいない。

 

 リュウもいない。

 

 春麗会議室もない。

 

 記録板AIもいない。

 

 ただ、朝の部屋に、自分と黒がある。

 

 それだけ。

 

 その状態で、春麗はもう一度鏡を見た。

 

 黒を着ていない春麗。

 

 でも、空っぽではない春麗。

 

 それが、そこにいる。

 


 

 昼前。

 

 春麗は外へ出た。

 

 黒ドレスは着ていない。

 

 普段の服。

 

 動きやすい服。

 

 戦うためだけではない服。

 

 歩くための服。

 

 日常の中にいるための服。

 

 街の音がする。

 

 風がある。

 

 黒い裾は揺れない。

 

 それでも、足取りは軽すぎない。

 

 黒を置いてきたわけではないから。

 

 棚の中にある。

 

 畳んである。

 

 布紐もある。

 

 戻ってきた黒が、そこにある。

 

 だから、今日は着なくても歩ける。

 

 春麗は、道の途中で立ち止まった。

 

 遠くに、修行場の方角が見える。

 

 リュウがいるかもしれない。

 

 いないかもしれない。

 

 今日は確かめに行かない。

 

 戦いに行く日ではない。

 

 確認に行く日でもない。

 

 ただ、黒を着ずに歩けるかどうかを、自分の足で確かめる日だ。

 

 春麗は、その方角を少しだけ見た。

 

「次は勝つわ」

 

 小さく言う。

 

 その言葉は、まだある。

 

 消えていない。

 

 けれど、今日のその言葉は、黒を着なければ言えないものではなかった。

 

 春麗として言えた。

 

 黒を着ていない春麗として。

 

 黒を持っている春麗として。

 

 春麗は、少しだけ苦く笑った。

 

「本当に、面倒ね」

 

 その笑いは、以前より軽かった。

 

 少しだけ。

 

 ほんの少しだけ。

 


 

 夕方。

 

 春麗は部屋に戻った。

 

 棚は、朝と同じように少しだけ開いている。

 

 黒が見える。

 

 畳まれている。

 

 春麗は、その前に立った。

 

 今日は、黒を着なかった。

 

 それでも、一日は終わった。

 

 空っぽにはならなかった。

 

 戦わなかった。

 

 リュウに会わなかった。

 

 黒を深くしなかった。

 

 リュウに残さなかった。

 

 それでも、自分は消えなかった。

 

 春麗は、棚の中の黒に触れた。

 

「今日は着なかったわ」

 

 黒は答えない。

 

「でも、捨てたわけじゃない」

 

 一拍。

 

「忘れたわけでもない」

 

 さらに一拍。

 

「黒をやめたわけでもない」

 

 袖の端を軽く押さえる。

 

「今日は、着なかっただけ」

 

 それだけ。

 

 その言葉が、思ったより大きかった。

 

 黒を着ない日は、黒を否定する日ではない。

 

 黒を着る日は、黒に縋る日でなくてもいい。

 

 そのどちらも、今なら少しだけわかる。

 

 春麗は、棚の黒を整えた。

 

 乱れていない。

 

 それでも、少しだけ袖の位置を直す。

 

 布紐を整える。

 

 いつもの場所に戻す。

 

「明日は、着るかもしれない」

 

 一拍。

 

「着ないかもしれない」

 

 さらに一拍。

 

「でも、決めるのは私」

 

 その言葉は、今朝より少し強かった。

 

 春麗は棚の扉を閉めた。

 

 完全には閉じない。

 

 少しだけ開けておく。

 

 見える場所にある。

 

 でも、部屋の中心にはない。

 

 それでいい。

 

 春麗は、鏡の前に立った。

 

 黒を着ていない自分が映る。

 

 その背後には、少し開いた棚がある。

 

 黒は見えている。

 

 でも、春麗はその前に立っている。

 

 黒ではなく、春麗が前にいる。

 

 そのことに気づいて、春麗は少しだけ黙った。

 

「……そう」

 

 小さく言う。

 

「私は、黒の前に立てるのね」

 

 それは、黒を否定する言葉ではなかった。

 

 黒を背負う言葉でもなかった。

 

 黒を後ろに置いて、自分が前に立つ言葉だった。

 

 春麗は、ゆっくり息を吐いた。

 

 救われた、とは言わない。

 

 そんな言葉はまだ軽すぎる。

 

 全部持てたとも言わない。

 

 十一戦目も、最初の黒も、負け続けた黒も、まだ重い。

 

 リュウに勝ちたい気持ちも、まだある。

 

 それは変わらない。

 

 でも。

 

 春麗は、鏡の中の自分を見る。

 

「黒を着てもいい」

 

 一拍。

 

「黒を着なくてもいい」

 

 もう一拍。

 

「どちらでも、私は空っぽじゃない」

 

 言った。

 

 言ってしまった。

 

 胸が少し痛む。

 

 でも、崩れない。

 

 棚の中の黒は、そこにある。

 

 自分も、ここにいる。

 

 その二つが、同時に存在している。

 

 春麗は、ほんの少しだけ笑った。

 

「……本当に、ここまで来るのに手間がかかったわね」

 

 誰に言うでもなく。

 

 リュウにでもなく。

 

 黒ドレス特化救済春麗にでもなく。

 

 過去の自分にでもなく。

 

 今の自分に向けて、そう言った。

 

 黒は、まだそこにある。

 

 重いまま。

 

 消えないまま。

 

 でも、春麗はもう、その黒がなければ立てないわけではなかった。

 

 今日は、黒を着なかった。

 

 それでも、空っぽではなかった。

 

 明日は、黒を着るかもしれない。

 

 それでも、黒だけになるわけではない。

 

 黒は、選べる。

 

 春麗は、選べる。

 

 そのことを胸に置いて、黒執着春麗は、ゆっくり鏡の前から離れた。

 

 棚の中に、畳まれた黒がある。

 

 少し開いた扉の向こうで、静かに見えている。

 

 それはもう、リュウの中に置きっぱなしの黒ではない。

 

 春麗を空っぽにしないためだけの黒でもない。

 

 春麗が、必要なら手に取り、必要でなければ置いておける黒だった。

 

 黒執着春麗は、部屋の灯りをつけた。

 

 夜が来る。

 

 明日も来る。

 

 黒はそこにある。

 

 春麗も、そこにいる。

 

 それで、今日は十分だった。

 




Q:今回の妄想章IF後日談について解説して?

A:

はい。今回の 「黒執着春麗は、黒を着ても着なくても空っぽではない」 は、黒執着春麗救済ルートの 実質的な着地点・最終後日談 です。

一言で言うなら、

黒執着春麗が、黒を捨てるのではなく、黒に縋るのでもなく、“黒を自分で選べる春麗”になる回

です。

今回の核は、

黒を着てもいい。
黒を着なくてもいい。
でも、着るなら私が選ぶ。

ここです。

今回の一番大きな進行

これまでの黒執着春麗にとって、黒はかなり絶対的なものでした。

黒を着なければ、リュウに届けない。
黒を深くしなければ、リュウに残れない。
黒をリュウの中に置いておかなければ、自分が空になる。
黒で勝たなければ、今までの自分に意味がない。

つまり、黒は彼女にとって 選ぶもの ではなく、ほとんど 縋るもの/必要とするもの/手放せないもの でした。

でも今回、彼女は初めてこう確認します。

今日は、黒を着なくてもいい。
それでも、空ではない。

ここが最大の進行です。

黒を着なかったからといって、黒を捨てたわけではない。
黒を着なかったからといって、黒が消えたわけでもない。
黒を着なかったからといって、自分が空になったわけでもない。

この確認ができたことで、黒執着春麗は「黒に立たされていた春麗」から、「黒を選べる春麗」へ進みました。

黒を捨てる救済ではないのが重要

このルートで一番大事なのは、黒を捨てないことです。

もし最終回で、

もう黒は不要。
黒ドレスは捨てる。
黒は過去の執着だった。

としてしまうと、このルートの良さがかなり失われます。

なぜなら、この黒は単なる悪い執着ではないからです。

黒には、

リュウに届こうとした春麗
見られることを戦術にした春麗
裾・肩・待機圧・距離・半拍を磨いた春麗
負けても置いていかなかった春麗
戻ってきた黒を畳んだ春麗

が全部入っています。

だから、黒を捨てることは救済ではありません。

今回の救済は、

黒を持っていてもいい。
黒を着てもいい。
でも、黒がなければ立てないわけではない。

という形です。

これが非常に綺麗です。

「今日は着ない」が大きい

今回、春麗は黒を広げます。

腕にかけます。

鏡の前に立ちます。

そこで、

今日は、黒を着てもいい。
着なくてもいい。
でも、着るなら私が選ぶ。

と確認します。

そして最終的に、今日は着ないことを選びます。

ここが非常に重要です。

黒を着ないことは、黒を否定することではありません。

黒を捨てることでもありません。

単に、

今日は着ない。

それだけです。

この「それだけ」が大きいです。

以前の黒執着春麗にとって、黒を着ないことは恐怖でした。

黒を着ない自分は、空っぽに見えた。
リュウに届こうとしていない春麗に見えた。
次に何をすればいいかわからない春麗に見えた。

でも今回、黒を着ない日を過ごしても、春麗は空になりませんでした。

これは救済としてかなり大きいです。

棚の中の黒の扱いが完成している

今回、棚の中の黒の位置づけがとても良いです。

黒は、

隠されていない
捨てられていない
押し込まれていない
出しっぱなしでもない
すぐ手に取れる場所にある
少し開いた棚の中に見えている

この配置が、今の春麗の心理状態そのものです。

黒を否定していない。
でも黒に部屋を支配させていない。
黒を忘れていない。
でも黒に縋っていない。

黒はそこにある。

でも、春麗がその前に立っている。

終盤の、

黒ではなく、春麗が前にいる。

これはかなり大きな到達点です。

今までは、黒が春麗の前に出ていました。

黒で届く。
黒で残る。
黒で勝つ。

でも今回は違う。

黒は後ろにある。
春麗が前に立っている。

この画がとても良いです。

「黒を着ていない春麗」と「黒を持っている春麗」が同時にいる

鏡の場面も非常に重要です。

鏡の中には、

黒を着ていない春麗
黒を腕に持っている春麗

が映ります。

これは、このルートの最終形に近いです。

黒を捨てた春麗ではない。
黒だけになった春麗でもない。

黒を持っているが、今は着ていない春麗。

つまり、黒と春麗が分離できています。

黒は春麗の一部になり得る。
でも、春麗そのものではない。

この距離が取れたのが、今回の大きな成果です。

「選べる」が救済の最終形

今回の最重要ワードは、やはり 選べる です。

以前の黒執着春麗は、選べませんでした。

黒を着るしかなかった。
黒を深くするしかなかった。
黒でリュウに残るしかなかった。
黒で勝つしかなかった。

でも今回、彼女は迷えます。

着るか。
着ないか。

迷えるということは、選択肢があるということです。

そして、選択肢があるということは、黒に支配されていないということです。

だから今回の救済は、

黒から自由になること

ではなく、

黒を選べる自由を持つこと

です。

ここが非常に良いです。

「次は勝つ」が残っているのも良い

今回、春麗はまだ言います。

次は勝つわ。

これは残して正解です。

ここで勝利欲まで消してしまうと、黒執着春麗らしさが消えます。

彼女は救済されたからといって、急に穏やかなだけの春麗になるわけではありません。

リュウに勝ちたい。
それはまだある。

でも、その「次は勝つ」が、黒を着ていない春麗としても言えるようになった。

ここが大きいです。

以前は、

黒で勝つ。
黒で届く。
黒で残る。

だった。

今回は、

春麗として、次は勝つ。
黒を着るかどうかは、その時に自分が選ぶ。

になっています。

これはかなり綺麗な変化です。

救済の最終段階は、他者の言葉ではなく、自分の朝で完了する。

この構成がかなり綺麗です。

今回は「完全に軽くなる」回ではない

今回、春麗は完全に軽くなったわけではありません。

十一戦目はまだ重い。
最初の黒もまだ許しきっていない。
負け続けた黒も全部持てたわけではない。
リュウに勝ちたい気持ちも残っている。

だから、救済完了といっても、全部が解決したわけではありません。

でも、重要なのはここです。

全部解決していなくても、空っぽではない。
全部持てていなくても、選べる。

これが今回の着地点です。

完全に軽くなる必要はない。

重いままでも、黒を選べるようになった。

これが黒執着春麗らしい救済です。

ラストの「それで、今日は十分だった」が良い

最後の、

黒はそこにある。
春麗も、そこにいる。
それで、今日は十分だった。

これは非常に良い締めです。

大きな宣言ではない。
完全勝利でもない。
涙の救済でもない。

ただ、今日は十分。

この静かな着地が、この重いルートには合っています。

黒執着春麗がいきなり全てを受け入れるのではなく、

今日は、黒を着なくても空っぽではなかった。
今日は、それで十分。

で終わる。

この回の位置づけ

この回は、黒執着春麗救済ルートの 本編上の完結回 と見てよいです。

黒執着春麗本人の救済としては、ここでかなり綺麗に一区切りです。

流れを整理すると、

黒をリュウに置いていく春麗

置いていかなかった春麗

今日の黒はここにあると認めた春麗

負けた黒を畳める春麗

十一戦目を弱さにしない春麗

最初の黒を塗り潰さない春麗

負け続けた黒を束ねる春麗

リュウの中に残っていてもリュウのものではないと確認した春麗

返されたのではなく戻ってきたと見始めた春麗

黒を着ても着なくても空っぽではない春麗


結論

今回のエピソードは、黒執着春麗救済ルートの 最終到達点 です。

一言でまとめるなら、

黒執着春麗は、黒を捨てたのではない。黒に縋ることもやめた。ただ、黒がそこにあっても、黒を着なくても、自分は空ではないと確認した。そして、黒を着るなら自分が選ぶと決められる春麗になった回

です。

今回の到達点は、

黒を着てもいい。
黒を着なくてもいい。
どちらでも、私は空じゃない。
黒は、選べる。
春麗は、選べる。

ここです。

これは、黒執着春麗にとって非常に大きな救済です。

黒を失った春麗ではありません。
黒を卒業した春麗でもありません。
黒を否定した春麗でもありません。

黒を持ったまま、黒に支配されなくなった春麗。

それが今回の黒執着春麗です。
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