また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい―― 作:エーアイ
自分をめんどくさい女と自覚する前の春麗のエピソードになります。
黒執着春麗編が、完結した。
黒いログ束は、記録棚に移された。
消えたわけではない。
なかったことになったわけでもない。
必要なら、また取り出せる。
けれど、今は円卓の中央に置き続けなくてもいい。
その整理を終えた後、本編春麗は動いた。
宿題の進捗確認。
正式回答ではない。
あくまで途中経過。
けれど、リュウは考えていた。
春麗が変わったなら、次の春麗とまた向き合う。
考えている間も、春麗のことを考えている。
前より、春麗の言葉を思い出すことが増えた。
進捗確認だけで、九十六点。
青は、再び中央へ戻ってきた。
その次に、行き遅れに恐怖する春麗が待った。
リュウと偶然会っても、三択回答を急かさなかった。
声をかけず。
答えを奪わず。
ただ、目が合って、頷いた。
記録板AIはそれを、静的進行と分類した。
待つことは停止ではない。
答えを急かさないことも、選択である。
それぞれの春麗が、また少しずつ動いていた。
あるいは。
動かないことで、進んでいた。
だから、その夜の春麗会議室は、少しだけ落ち着いていた。
少なくとも、自覚前春麗はそう思っていた。
円卓に座り、資料を開き、いつものように整理するつもりだった。
黒執着春麗編の完結。
本編春麗の宿題進捗確認。
行き遅れ春麗の静的進行。
どれも大事なログだ。
資料として確認する必要がある。
資料として。
そこまで考えたところで、記録板AIが起動した。
『本日の会議を開始します』
『議題:黒執着春麗編後の各春麗進行状況確認』
『本日の参加者』
『本編春麗:宿題進捗確認ログ保持者』
『自覚前春麗:資料観測担当』
『通常救済版春麗:安定化担当』
『行き遅れに恐怖する春麗:静的進行ログ保持者』
『黒ドレス特化救済春麗:黒側整理担当』
『記録板AI:ログ表示・分類管理担当』
『グランドフィナーレ春麗:本日は不参加』
自覚前春麗は、資料をめくりながら頷いた。
「妥当な参加者ね」
『はい』
「今日はあくまで整理回でしょう?」
『はい』
「なら、資料として冷静に確認できるわ」
『発言信頼度:中』
「最初から中にしないで」
本編春麗が、少しだけ笑った。
「その返し、久しぶりに聞いた気がするわ」
「気のせいよ」
「そうかしら」
「そうよ。私は直近でも十分活動していたわ」
自覚前春麗は、少しだけ胸を張った。
「黒ドレス勝利。黒を脱いだ日常追撃。精神HP1残し。裏主人公化疑惑。かなり濃いログだったはずよ」
『事実です』
「ほら」
『ただし』
記録板AIが表示を切り替えた。
自覚前春麗は、嫌な予感がした。
『黒執着春麗編:完結』
『本編春麗:宿題進捗確認により本編ライン再接続』
『行き遅れに恐怖する春麗:待機位置維持により静的進行成立』
『自覚前春麗:直近大型更新なし』
会議室が、ほんの少し止まった。
自覚前春麗も止まった。
資料を持った手が、そのまま固まる。
「……待って」
『はい』
「最後の一行、必要だった?」
『必要です』
「いらないと思うのだけど」
『必要です』
「なぜ二回言うの」
『重要だからです』
自覚前春麗は、資料を閉じた。
音が少しだけ大きかった。
「直近大型更新なし、という表現には異議があるわ」
『異議を受理します』
「まず、黒ドレス関連で私はかなり濃いログを積んだばかりよ」
『はい』
「裏主人公化疑惑まで出たのよ」
『はい』
「つまり、影が薄いわけではない」
『はい』
「では、なぜ今その表示を出したの?」
『黒執着春麗編完結後、本編春麗および行き遅れ春麗の進行ログが連続したためです』
「……つまり」
『直近二件の主要進行ログにおいて、自覚前春麗は観測・整理側に回っています』
本編春麗が、少し申し訳なさそうに自覚前春麗を見た。
「あなた、最近かなり資料を見る側だったわね」
自覚前春麗は、即座に反論した。
「資料を見る側ではないわ」
「そう?」
「私は資料として確認していただけよ」
一拍。
自覚前春麗は、自分で止まった。
「……同じ意味では?」
『はい』
「はい、ではないわ」
『自己矛盾検出』
「検出しなくていい」
通常救済版春麗が、穏やかに微笑む。
「でも、影が薄いという話ではないわね」
自覚前春麗は、少しだけ表情を緩めた。
「当然よ」
「あなたは黒ドレス関連でかなり進んでいたもの」
「ええ」
「ただ、黒執着春麗編が完結したことで、黒の大きな物語が一つ畳まれた」
「ええ」
「本編春麗は宿題の進捗を確認した」
「ええ」
「行き遅れ春麗は待つことを選んだ」
「ええ」
「だから、次に問われているのは、あなたが何を選ぶか、かもしれないわ」
自覚前春麗は、すぐには答えなかった。
何を選ぶか。
その言葉は、少しだけ胸に残った。
黒を選ぶのか。
青を選ぶのか。
黒を着ないのか。
黒を着るのか。
資料として見るのか。
自分で動くのか。
自覚前春麗は、資料の端を指でなぞった。
「……黒は、勝ったわ」
小さく言う。
「黒ドレスで、私はリュウに勝った」
本編春麗は頷く。
「ええ」
「でも、黒酔いフラグは折られた」
「ええ」
「黒を脱いだ日も、春麗として見られた」
「ええ」
「つまり、黒を選んだ私も、黒を選ばなかった私も、ログとして残っている」
『はい』
『黒ドレス勝利ログ:有効』
『黒非着用時の春麗成立ログ:有効』
『黒ドレス限定欲求再固定化:不成立』
自覚前春麗は、表示を見る。
「そこまでは、資料として整理済みよ」
『はい』
「なら、次に何を選ぶかは、まだ決めなくてもいいのでは?」
『判定中』
「判定しないで」
黒ドレス特化救済春麗が、静かに言った。
「決めなくてもいい、という判断は悪くないわ」
自覚前春麗は、そちらを見る。
「本当に?」
「ええ。黒を着るか、青を選ぶか、黒を脱ぐか。すぐに確定させる必要はない」
「……そうよね」
「ただし」
黒ドレス特化救済春麗の声は、静かだった。
「決めていないことを、資料係に回る言い訳にするなら、少し違う」
自覚前春麗は、目を細めた。
「刺すわね」
「黒の扱いなので」
「管轄が広いのよ」
黒ドレス特化救済春麗は表情を変えない。
「黒執着春麗編で、黒は一度大きく整理された」
「ええ」
「彼女は彼女の黒を救済した」
「ええ」
「でも、あなたの黒は、あなたの黒よ」
自覚前春麗は、そこで黙った。
黒執着春麗の黒。
自分の黒。
似ているようで、違う。
黒執着春麗は、黒だけを自分にしそうになった春麗。
自分は、資料としてと言いながら黒に近づいた春麗。
黒ドレスで勝った。
酔いかけた。
折られた。
黒を着ない日も見られた。
そのどれも、まだ自分の中にある。
自覚前春麗は、少しだけ顔を伏せた。
「私は、黒執着春麗と同じ黒を目指す必要はない」
『発言信頼度:高』
「採点しないで」
本編春麗が、少しだけ優しく言う。
「本当に、そこは大事だと思うわ」
「あなたに言われると、少し複雑ね」
「どうして?」
「あなたは青の本編春麗だから」
本編春麗は苦笑した。
「それを言われると、私も複雑だわ」
行き遅れ春麗が、静かに口を開いた。
「決めていない位置、というのもあるのかもしれないわ」
自覚前春麗はそちらを見る。
「決めていない位置?」
「私は、答えを待つ位置にいる」
「ええ」
「答えを急かさないことが、静的進行だと整理された」
「ええ」
「なら、あなたは選ぶ前の位置にいるのかもしれない」
会議室が、少しだけ静かになった。
記録板AIが反応する。
『新規分類候補を検出』
自覚前春麗は、嫌な予感を覚えた。
「待ちなさい」
『分類名候補:決める前の春麗』
「待ちなさいと言ったわ」
『候補表示を継続します』
「継続しないで」
『決める前の春麗』
『定義案:黒を選ぶ春麗でも、青を選ぶ春麗でもなく、黒を捨てた春麗でも、青に逃げた春麗でもない』
『補足:まだ決めていないが、停止しているわけではない』
『関連分類:行き遅れ春麗の静的進行』
『差異:行き遅れ春麗は答えを待つ位置。自覚前春麗は選択前の位置』
自覚前春麗は、表示を見つめた。
決める前の春麗。
嫌な言葉ではない。
いや、嫌だ。
未承認仮分類っぽいから嫌だ。
でも、刺さらないわけではない。
黒を選ぶ春麗ではない。
青を選ぶ春麗でもない。
黒を捨てた春麗ではない。
青に逃げた春麗でもない。
まだ決めていない。
それは、今の自分に近い。
近いからこそ、腹立たしい。
「……それ、正式分類ではないわよね」
『現時点では候補です』
「候補なら、扱いは?」
『未承認仮分類です』
「やっぱり」
本編春麗が、少しだけ笑った。
「あなた、本当に未承認仮分類が増えるわね」
「好きで増やしているわけではないわ」
『発言信頼度:中』
「中なの!?」
通常救済版春麗が微笑む。
「でも、いい分類だと思うわ」
「あなたまで」
「決めていないから、何もしていないわけではないもの」
行き遅れ春麗が頷く。
「待っていることも、進行だった」
通常救済版春麗が続ける。
「なら、決める前に立っていることも、進行かもしれない」
自覚前春麗は、資料を見下ろした。
資料係ではない。
それは言いたい。
強く言いたい。
でも、資料として見る時間が続いていたのは事実だ。
黒執着春麗編を見た。
本編春麗の宿題進捗確認を見た。
行き遅れ春麗の静的進行を見た。
見て、整理して、コメントしていた。
それは悪いことではない。
だが、自分のログを更新していないのも事実だ。
自覚前春麗は、少しだけ息を吐いた。
「……資料係ではないわ」
『はい』
「私は、資料として確認していただけ」
『はい』
「でも、それだけで終わるつもりはない」
『発言信頼度:高』
自覚前春麗は、記録板AIを見た。
「そこは高なのね」
『はい』
「なら、保存していいわ」
『保存しました』
黒ドレス特化救済春麗が静かに頷く。
「黒執着春麗と同じ黒を目指す必要はない」
「ええ」
「本編春麗と同じ青を目指す必要もない」
本編春麗が、少しだけ眉を上げる。
「そこまで言うのね」
「ええ。あなたはあなたの青を持っている」
黒ドレス特化救済春麗は、自覚前春麗を見る。
「自覚前春麗は、まだ決めていない場所から動けばいい」
自覚前春麗は、静かに目を伏せた。
決めていない場所から動く。
資料として観測したものを、自分の次の行動へ変える。
黒でもない。
青でもない。
まだ決めていない。
でも、止まってはいない。
その位置なら、少し立てる気がした。
記録板AIが、会議の整理を表示する。
『本日の中間整理』
『一、黒執着春麗編は完結済み』
『二、本編春麗は宿題進捗確認により本編ラインへ再接続済み』
『三、行き遅れに恐怖する春麗は待機位置維持により静的進行成立』
『四、自覚前春麗は直近二件の主要ログにおいて観測・整理側へ回っていました』
『五、ただし、自覚前春麗は黒ドレス関連の高密度ログを直前に持つため、影が薄くなったのではなく、次の選択前にいる状態と判定します』
『六、黒執着春麗と同じ黒を目指す必要はありません』
『七、本編春麗と同じ青を目指す必要もありません』
『八、新規仮分類:決める前の春麗』
自覚前春麗は、八番を見る。
「仮分類にしておきなさい」
『未承認仮分類として保存しました』
「早いわ」
『重要です』
「重要なのは否定しないけれど、早いわ」
本編春麗が、少しだけ安心したように言った。
「でも、これであなたも次に動けそうね」
「動くと決めたわけではないわ」
『発言信頼度:低』
「低にしないで」
通常救済版春麗が微笑む。
「でも、動く必要性は認識したのでしょう?」
自覚前春麗は、少しだけ顔を背けた。
「必要性、というほどでは」
『自覚前春麗:能動イベント必要性を認識』
「記録板AI」
『はい』
「まだ早い」
『早期認識として保存します』
「保存しないで」
『保存しました』
行き遅れ春麗が、小さく言った。
「決めていなくても、次へ行けるのね」
自覚前春麗は、行き遅れ春麗を見た。
「あなたは、待つことで進んだのでしょう」
「ええ」
「なら、私は決める前でも進むしかないのかもしれないわね」
『発言信頼度:高』
会議室が、少しだけ静かになる。
黒の重さではない。
青の甘さでもない。
待つ痛みでもない。
まだ決めていない場所の静けさ。
そこに、自覚前春麗が立っていた。
記録板AIが最終表示を出す。
『本日の結論』
『一、自覚前春麗は、資料係化しかけていることを一部自覚しました』
『二、ただし、自覚前春麗は黒ドレス関連の高密度ログを直前に持つため、深刻な影薄化判定は行いません』
『三、黒執着春麗と黒系統で隣接する可能性はありますが、同じ黒を目指す必要はありません』
『四、自覚前春麗の強みは、未確定性です』
『五、新規未承認仮分類:決める前の春麗』
『六、行き遅れ春麗の静的進行と対応し、自覚前春麗は選択前位置に立つ春麗として整理されます』
『七、自覚前春麗:能動イベント必要性を認識』
『八、次回以降、自覚前春麗自身のログ更新を推奨します』
自覚前春麗は、八番を見てため息をついた。
「推奨されてしまったわね」
本編春麗が微笑む。
「推奨だけなら、まだ逃げられるわよ」
「逃げるとは言っていないわ」
『発言信頼度:中』
「中なのね」
黒ドレス特化救済春麗が静かに言う。
「黒を着る必要はない」
「ええ」
「青を着る必要もない」
「ええ」
「ただ、決める前のあなたで動けばいい」
通常救済版春麗が続ける。
「決められなくても、戻れるわ」
行き遅れ春麗が言う。
「決められないままでも、一日進めるかもしれない」
本編春麗が最後に言った。
「あなたは資料係ではないわ」
自覚前春麗は、本編春麗を見る。
本編春麗は、少しだけ笑った。
「資料として見ているうちに、次に行きたくなる春麗よ」
自覚前春麗は、少しだけ目を細める。
「……その言い方、少し腹立たしいわね」
「当たっている?」
「資料としては」
『発言信頼度:高』
会議室に小さな笑いが起きた。
自覚前春麗は、資料を閉じる。
今日は、読む側で終わらない。
まだ決めていない。
でも、何もないわけではない。
黒で勝ったログがある。
黒を着なかった日のログがある。
リュウに「その時の春麗を見る」と言われたログがある。
そして今、決める前の春麗という未承認仮分類がある。
正式承認はしない。
だが、保留保存はされた。
「……私は資料係ではないわ」
自覚前春麗は、もう一度言った。
「まだ、決めていないだけ」
一拍。
「……資料として、次のログを更新する必要がある」
記録板AIが表示する。
『自覚前春麗:能動イベント必要性を認識』
『新規仮分類:決める前の春麗』
自覚前春麗は、即座に言った。
「仮分類にしておきなさい」
『未承認仮分類として保存しました』
「よろしい」
本編春麗が、小さく笑った。
「結局、保存はするのね」
「未承認よ」
「そこがあなたらしいわ」
会議室の輪郭が、少しずつほどけていく。
黒いログ束は棚にある。
青い宿題ログは中央にある。
待機位置のログも保存されている。
そして、新しい未承認仮分類が生まれた。
決める前の春麗。
自覚前春麗は、その言葉を胸の奥で反芻する。
まだ決めていない。
でも、止まってはいない。
そのまま、会議室は淡く消えた。
朝。
自覚前春麗は目を覚ました。
部屋は静かだった。
黒ドレスは、いつもの場所にある。
青い武道服も、手の届くところにある。
どちらも、選べる。
どちらも、選ばなくてもいい。
春麗は、ゆっくり起き上がった。
「決める前の春麗……」
小さく呟く。
未承認仮分類。
正式承認はしていない。
だが、消えてもいない。
黒を選ぶ春麗ではない。
青を選ぶ春麗でもない。
黒を捨てた春麗でもない。
青に逃げた春麗でもない。
まだ決めていない春麗。
自覚前春麗は、黒ドレスを見る。
次に着るかどうかは、まだ決めない。
青を見る。
次に青で出るかどうかも、まだ決めない。
それでも。
「資料係では、終わらないわ」
声に出す。
一拍。
「資料として」
いつもの言い訳。
でも今日は、少しだけ違う。
資料として見ていたものを、自分の次のログに変えるための言葉だった。
自覚前春麗は、黒ドレスにも青にも触れなかった。
まだ決めない。
けれど、今日を始める。
決める前の春麗として。
未承認のまま。
次のログを更新するために。
Q:今回の妄想章IFについて解説して?
A:
今回のエピソードは、一言で言うなら、
自覚前春麗が、“資料を見る側”で終わらず、自分も次のログを更新する必要があると気づく回
です。
黒執着春麗編が完結しました。
その後、本編春麗はリュウへの宿題の進捗確認に行きました。
さらに、行き遅れに恐怖する春麗は、答えを急かさず待つことを選びました。
黒は一区切り。
青は本編ラインへ再接続。
待つことも静的進行として成立。
そうやって、他の春麗たちがそれぞれの位置で進んだ後に、今回は自覚前春麗の番です。
ただし、今回の自覚前春麗は「最近影が薄い」と本気で焦っているわけではありません。
むしろ、彼女は少し前までかなり濃いログを持っていました。
黒ドレスで勝った。
黒を着ない日にも春麗として見られた。
黒でも青でもいい、というリュウの言葉の意味を受け取った。
そして、裏主人公化疑惑まで出た。
なので、彼女自身はまだ「自分の存在感が消えた」とは思っていません。
今回の違和感は、もっと微妙です。
最近、自分は資料を見る側に回っていないか?
ここです。
自覚前春麗の口癖は「資料として」です。
これは彼女の防御であり、言い訳であり、同時に魅力でもあります。
黒ドレスを着るのも、黒で勝つのも、リュウに見られるのも、全部「資料として」と言えば、少しだけ自分の感情から距離を取れる。
でも今回は、その「資料として」が少し違う方向に働き始めています。
黒執着春麗編を見た。
本編春麗の宿題進捗確認を見た。
行き遅れ春麗の静的進行を見た。
見て、整理して、コメントしている。
もちろん、それは悪いことではありません。
春麗会議室において、自覚前春麗の資料視点はかなり重要です。
でも、自分自身のログを更新しているかと言われると、少し止まっている。
だから記録板AIは、
自覚前春麗:直近大型更新なし
と表示します。
これは、影が薄いという断定ではありません。
むしろ、直前まで黒ドレス関連でかなり高密度に進んでいたからこそ、今は次の選択前に立っている、という整理です。
今回の核は、ここから生まれる新しい分類です。
決める前の春麗。
これはかなり重要な言葉です。
自覚前春麗は、黒を選ぶ春麗ではありません。
青を選ぶ春麗でもありません。
黒を捨てた春麗でもありません。
青に逃げた春麗でもありません。
まだ決めていない春麗です。
ただし、決めていないから止まっているわけではない。
この点が、前回の行き遅れ春麗の「静的進行」とつながっています。
行き遅れ春麗は、答えを待つ位置にいる。
自覚前春麗は、選択する前の位置にいる。
どちらも、派手には動いていません。
けれど、止まっているわけではありません。
待つことが進行になるなら、決める前に立つことも進行になり得る。
この接続は、今回かなり大事にしました。
また、黒執着春麗との関係も重要です。
黒執着春麗は、黒を抱えた大きな物語を終えました。
でも、自覚前春麗の黒は、黒執着春麗と同じものではありません。
黒執着春麗は、黒だけを自分にしそうになった春麗。
自覚前春麗は、資料としてと言いながら黒に近づいた春麗。
似ている部分はあります。
けれど、同じではありません。
だから、自覚前春麗は黒執着春麗と同じ黒を目指す必要はない。
同時に、本編春麗と同じ青を目指す必要もない。
自覚前春麗の強みは、未確定性です。
まだ決めていない。
まだ認めきっていない。
まだ資料としてと言い張っている。
でも、そのまま次に行ける。
そこが彼女の魅力です。
今回、自覚前春麗は最後にこう言います。
私は資料係ではないわ。
まだ、決めていないだけ。
……資料として、次のログを更新する必要がある。
この台詞が、今回の到達点です。
「資料係ではない」と言いながら、結局「資料として」と付けてしまう。
でも、その「資料として」は以前とは少し違います。
ただ逃げるための言葉ではなく、
見てきたものを次の自分の行動へ変えるための言葉になっています。
だから今回は、実働回ではありません。
リュウに会うわけでも、試合をするわけでもありません。
でも、次に動くための準備回です。
黒を選ぶか。
青を選ぶか。
黒を着ないのか。
黒を着るのか。
それとも、まだ決めないまま行くのか。
自覚前春麗は、まだ答えを出していません。
けれど、次のログを更新する必要があることは認識しました。
今回の到達点は、
新規未承認仮分類:決める前の春麗。
正式承認ではありません。
本人も認めていません。
でも、保存はされました。
自覚前春麗らしいです。
この回は、黒執着春麗編後の物語を、本編春麗、行き遅れ春麗に続いて、自覚前春麗へ渡すための橋渡し回です。
黒は棚にある。
青の宿題は中央にある。
待つ位置のログも保存された。
そして、決める前の春麗という新しい仮分類が生まれた。
次は、自覚前春麗自身がどんな形でログを更新するのか。
そこへつなぐための回でした。