また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※これは本編時空とは無関係の妄想章IFです。
裏ルート通常救済版春麗のエピソードになります。


妄想章IF後日談:通常救済版春麗は、青を選んで勝った黒執着春麗を見届ける

 

 通常救済版春麗は、棚の前に立っていた。

 

 自分の棚ではない。

 

 けれど、まったく知らない棚でもない。

 

 黒がある。

 

 青がある。

 

 どちらも畳まれている。

 

 同じ段に。

 

 少し離れた場所に。

 

 重ならないように。

 

 けれど、別々に隔離されているわけでもなく。

 

 黒は黒。

 

 青は青。

 

 どちらも、そこにある。

 

 通常救済版春麗は、その光景をしばらく見つめていた。

 

「……青で勝ったのね」

 

 言葉は、静かだった。

 

 驚きではない。

 

 羨望でもない。

 

 少しの安堵と、少しの痛み。

 

 そして、自分ではなかった道を見た時の、遠いまぶしさ。

 

 棚の中の青は、勝った青だった。

 

 黒を捨てた青ではない。

 

 黒から逃げた青でもない。

 

 昔に戻った青でもない。

 

 黒を棚に置いたまま選ばれた青。

 

 そして、リュウに勝った青。

 

 通常救済版春麗は、そっと息を吐いた。

 

「あなた、本当にそこまで行ったのね」

 

 誰に言うでもない。

 

 けれど、その言葉は確かに黒執着春麗へ向いていた。

 


 

 通常救済版春麗にも、同じ始まりがある。

 

 十連勝。

 

 そして、十一戦目の敗北。

 

 リュウが届いた日。

 

 春麗の青が、初めて止められた日。

 

 勝っていたはずの青が、勝ちきれなかった日。

 

 それから、黒ドレス。

 

 十二戦目。

 

 黒を選んだ。

 

 黒で勝てると思った。

 

 黒なら、リュウを沈められると思った。

 

 けれど、恥ずかしさを見破られた。

 

 使い切れなかった黒。

 

 見抜かれた黒。

 

 そして、ギリギリ負けた。

 

 そこまでは、同じだった。

 

 通常救済版春麗も、黒執着春麗も、始まりはかなり近い。

 

 十一戦目で負けた。

 

 黒を求めた。

 

 黒ドレスで戦った。

 

 リュウに見抜かれた。

 

 ギリギリで届かなかった。

 

 その痛みを知っている。

 

 黒を着ても足りなかった悔しさを知っている。

 

 黒で戦うために、リュウ以外とも戦った。

 

 黒ドレスの技術を磨いた。

 

 見られること。

 

 裾の流れ。

 

 半拍。

 

 間合い。

 

 黒の見せ方。

 

 黒を恥ずかしがらずに使うこと。

 

 そこまでは共通している。

 

 違うのは、その後だった。

 

 通常救済版春麗は、そこで沈まなかった。

 

 黒だけを自分にしなかった。

 

 黒を通って、戻る場所を持った。

 

 黒を否定せず、黒に飲まれず、帰還点を持つ春麗になった。

 

 一方で、黒執着春麗は違った。

 

 再戦で、またギリギリ負けた。

 

 その後も、ギリギリ負け続けた。

 

 届きそうで届かない黒。

 

 あと少しで勝てる黒。

 

 届かなかったからこそ、さらに黒を求めた。

 

 勝てなかったからこそ、黒へ深く沈んだ。

 

 通常救済版春麗は、その道を知っている。

 

 自分が行かなかった道。

 

 けれど、自分にもありえた道。

 

 ほんの少し何かが違えば、自分もそちらへ行っていたかもしれない道。

 

 だから、黒執着春麗をただ危険な別人としては見られなかった。

 

 あれは、自分ではない。

 

 でも、完全な他人でもない。

 

「……同じ裏ルートの、別の奥」

 

 通常救済版春麗は、小さく呟いた。

 

「あなたは、私よりずっと深く黒へ行った」

 

 一拍。

 

「だから、私は手を出しすぎなかった」

 


 

 黒執着春麗の救済には、黒ドレス特化救済春麗がいた。

 

 黒を否定しない春麗。

 

 黒を返させる春麗。

 

 黒を捨てさせるのではなく、預け直させる春麗。

 

 黒に特化した救済春麗。

 

 あの春麗が前に出るのは、自然だった。

 

 通常救済版春麗も、見ていた。

 

 もちろん、何も感じなかったわけではない。

 

 自分も裏ルートの春麗だ。

 

 自分も黒を知っている。

 

 自分も、十一戦目で負け、十二戦目の黒ドレスで見抜かれた。

 

 だから、何かできるのではないかと思ったことはある。

 

 でも、黒執着春麗の黒は、通常救済版春麗の黒より深かった。

 

 ギリギリ負け続けた黒。

 

 黒だけを自分にしそうになった黒。

 

 リュウに届きたいのに、届かなかった黒。

 

 勝てなかった悔しさが、黒の奥に何層も積み重なっている。

 

 そこへ、通常救済版春麗が簡単に入るべきではなかった。

 

 自分は帰還点にはなれる。

 

 迷った春麗が、戻れる場所にはなれる。

 

 けれど、黒の奥へ潜って、黒執着春麗の手を直接取る役目は、自分ではなかった。

 

 だから任せた。

 

 黒ドレス特化救済春麗に。

 

 黒の専門顧問に。

 

 黒を否定せず、黒のまま救える春麗に。

 

「……任せた、というより」

 

 通常救済版春麗は、少しだけ目を伏せた。

 

「任せるしかなかったのかもしれないわね」

 

 それは、少し悔しい言葉だった。

 

 救えなかったわけではない。

 

 見捨てたわけでもない。

 

 ただ、自分の役割ではなかった。

 

 春麗会議でも、そういうことはある。

 

 すべての春麗が、すべての春麗を救えるわけではない。

 

 議題に応じて、立つ春麗が違う。

 

 黒には、黒の春麗が必要だった。

 

 だから、通常救済版春麗は前に出すぎなかった。

 

 その代わり、見届けた。

 

 黒執着春麗が、黒を棚に置けるようになるまで。

 

 黒だけを自分にしないところまで。

 

 そして。

 

 青を選ぶところまで。

 


 

 棚の中の青は、静かだった。

 

 勝った青。

 

 青でリュウに勝った証。

 

 通常救済版春麗は、その青を見つめる。

 

「あなたが青で勝つとは、思っていなかったわ」

 

 それは、否定ではない。

 

 本音だった。

 

 黒執着春麗は、黒で進む春麗だった。

 

 黒を求め、黒に沈み、黒で届こうとした春麗。

 

 だから、救済後に黒で勝つことは分かる。

 

 黒を棚に置けるようになることも、分かる。

 

 黒を着て、沈まずに戦うことも、分かる。

 

 でも、青で勝つ。

 

 しかも、黒を捨てずに。

 

 黒を置いてきた青ではなく。

 

 黒を知った後の青で。

 

 それは、通常救済版春麗にも少し眩しかった。

 

 自分の青とは違う。

 

 通常救済版春麗の青は、戻れる場所だった。

 

 迷った時の帰還点。

 

 黒に沈みすぎないための足場。

 

 戦わない青。

 

 立て直す青。

 

 けれど、黒執着春麗の青は違った。

 

 あれは、勝ちに行く青だった。

 

 黒を持ったまま、リュウへ届きに行く青。

 

 黒で得た半拍を、青の身体に戻した青。

 

 十一戦目を弱さにせず、今日の勝ちを取りに行った青。

 

 通常救済版春麗は、少しだけ苦く笑う。

 

「私の青は、そこまでは行かなかった」

 

 一拍。

 

「でも、あなたの青は行ったのね」

 

 悔しいか。

 

 少しだけ。

 

 羨ましいか。

 

 少しだけ。

 

 でも、それ以上に。

 

 よかったと思った。

 

 黒執着春麗が、青を選んで勝てたこと。

 

 黒を棚に置いたまま、青で立てたこと。

 

 その事実が、通常救済版春麗には静かに沁みた。

 


 

 通常救済版春麗は、黒執着春麗の試合を思い返す。

 

 青い武道服で現れた黒執着春麗。

 

 リュウは黒を探した。

 

 それは当然だった。

 

 黒を知っているから。

 

 黒の春麗を見ているから。

 

 黒で勝った春麗を知っているから。

 

 そしてリュウは言った。

 

 今日の青は、黒を置いてきた青じゃない。

 

 黒を知っている青だ。

 

 通常救済版春麗は、その言葉を思い出して、少しだけ目を細める。

 

「相変わらず、危険ね」

 

 リュウは、本当に危険だ。

 

 黒執着春麗の現在地を、あまりにも自然に言い当てる。

 

 黒を捨てた青ではない。

 

 黒を知っている青。

 

 それは、黒執着春麗にとって救いであり、攻撃でもある。

 

 通常救済版春麗なら、そこで一度戻る。

 

 深呼吸する。

 

 受け止める。

 

 沈まないように足場を探す。

 

 でも、黒執着春麗はそのまま戦った。

 

 精神HPを削られながら、戦った。

 

 黒を知っている青として。

 

 通常救済版春麗は、静かに頷く。

 

「あの子は、やっぱり戦う春麗なのね」

 

 救済されたからといって、穏やかになるだけではない。

 

 戻れるようになったからといって、戦わなくなるわけではない。

 

 むしろ、選べるようになったから、戦える。

 

 黒でも。

 

 青でも。

 

 自分で選んで。

 

 リュウへ向かっていける。

 

 それが、黒執着春麗の救済後の強さだった。

 


 

 通常救済版春麗は、椅子に座った。

 

 机の上には、白い紙が一枚ある。

 

 記録を書くつもりはなかった。

 

 でも、見届けた以上、何か残したくなった。

 

 ペンを取る。

 

 少しだけ迷って、書く。

 

 黒執着春麗:青を選んで勝利。

 

 そこで止まる。

 

 それだけでは足りない。

 

 春麗は、もう一行書く。

 

 黒を捨てず、青に逃げず、昔に戻らず、青で勝利。

 

 まだ足りない。

 

 さらに書く。

 

 同じ裏ルート由来だが、通常救済版とは異なる到達点。

 

 これで、少し近い。

 

 通常救済版春麗は、紙を見つめる。

 

 自分と黒執着春麗の違い。

 

 同じ始まり。

 

 違う深度。

 

 同じ黒ドレス技術。

 

 違う戦い方。

 

 同じ裏ルート。

 

 違う救済。

 

 同じ春麗。

 

 違う青。

 

 通常救済版春麗は、ペンを置いた。

 

「私は、あなたを直接救ったわけではない」

 

 一拍。

 

「でも、あなたが青で勝てたことは、見届けた」

 

 それで十分なのか。

 

 たぶん、十分ではない。

 

 でも、今はそれでいい。

 

 救済には、前に出る春麗がいる。

 

 手を取る春麗がいる。

 

 待つ春麗がいる。

 

 記録する春麗がいる。

 

 戻れる場所として存在する春麗がいる。

 

 通常救済版春麗は、その中で、自分の役割を少しだけ理解していた。

 

 自分は、黒執着春麗を黒の奥から引き上げた春麗ではない。

 

 けれど、戻ってきた後の春麗が立てる場所を、示すことはできる。

 

 黒だけではない春麗がいる。

 

 青に戻らなくてもいい春麗がいる。

 

 黒を捨てなくても、黒だけにしなくてもいい春麗がいる。

 

 そういう帰還点として、自分はいる。

 

「……私が何もしなかったわけではないのね」

 

 小さく呟く。

 

 それは、自分への確認だった。

 


 

 扉が静かに開く気配がした。

 

 振り向くと、黒ドレス特化救済春麗が立っていた。

 

 黒ではない。

 

 けれど、黒の気配を持つ春麗。

 

 通常救済版春麗は、少しだけ笑った。

 

「来ると思ったわ」

 

「見届けていたのね」

 

「ええ」

 

「どう思った?」

 

 通常救済版春麗は、少し考えた。

 

 そして言った。

 

「悔しいくらい、良かったわ」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、わずかに目を細める。

 

「悔しい?」

 

「ええ。あの子は、私が行かなかったところまで行った」

 

「黒の奥?」

 

「それもある」

 

 一拍。

 

「でも、今回は青よ」

 

 通常救済版春麗は、棚の方を見る。

 

「黒の奥へ行った春麗が、青で勝った。そこが悔しいくらい良かった」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに頷いた。

 

「あの子は、黒を捨てなかった」

 

「ええ」

 

「青にも逃げなかった」

 

「ええ」

 

「黒を棚に置いて、青を選んだ」

 

「ええ」

 

「それで勝った」

 

 通常救済版春麗は、少しだけ息を吐く。

 

「あなたが黒を救ったからよ」

 

「私だけではないわ」

 

「でも、あなたが前に出た」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、否定しなかった。

 

 通常救済版春麗も、続ける。

 

「私は、あまり関与しなかった」

 

「見ていたでしょう」

 

「見ていただけよ」

 

「見届ける春麗も必要よ」

 

 通常救済版春麗は、少しだけ視線を下げた。

 

「それ、私がよく言う側の言葉ね」

 

「だから、返したの」

 

 少しだけ、沈黙。

 

 そして、通常救済版春麗は小さく笑った。

 

「便利ね、救済春麗同士の会話」

 

「ええ。自分に刺さるわ」

 


 

 黒ドレス特化救済春麗は、棚の黒と青を見る。

 

「同じ棚に置いたのね」

 

「ええ」

 

「重ねなかった」

 

「ええ」

 

「別の棚にも入れなかった」

 

「ええ」

 

 通常救済版春麗は、静かに言った。

 

「それが、かなり大事だったと思う」

 

 黒ドレス特化救済春麗も頷く。

 

「黒の上に青を置いたら、黒を超えたことになる」

 

「青を別の棚に入れたら、黒と青を分けすぎる」

 

「同じ棚で、少し離れた場所」

 

「黒は黒。青は青」

 

「どちらも、あの子が選んだもの」

 

 二人は、棚を見つめる。

 

 そこに黒執着春麗はいない。

 

 けれど、黒執着春麗の選択がある。

 

 勝った黒。

 

 勝った青。

 

 負けた黒。

 

 まだ重い十一戦目。

 

 それらを、同じ棚に置く。

 

 それは、簡単なことではない。

 

 通常救済版春麗は、そっと言った。

 

「あの子、もう黒だけではないのね」

 

「ええ」

 

「でも、黒を失ってもいない」

 

「ええ」

 

「青に戻ったわけでもない」

 

「ええ」

 

「選べるようになった」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに言った。

 

「それが、今回の勝利ね」

 

 通常救済版春麗は、頷いた。

 

「リュウに勝ったことより?」

 

「リュウに勝ったことも大事よ」

 

「ええ」

 

「でも、それ以上に、勝った後の棚が大事」

 

 通常救済版春麗は、少しだけ笑った。

 

「同感」

 


 

 通常救済版春麗は、紙にもう一行書き足した。

 

 勝利後、黒と青を同じ棚に置くことに成功。

 

 少し考えて、さらに書く。

 

 黒だけではない春麗へ移行。

 

 その文字を見て、通常救済版春麗は少しだけ首を傾げる。

 

「少し硬いかしら」

 

 黒ドレス特化救済春麗が覗き込む。

 

「記録板AIみたいね」

 

「それは嫌ね」

 

「でも、正確よ」

 

「正確ならいいわけではないでしょう」

 

「そこは本編春麗に似ているわね」

 

「同じ春麗だもの」

 

 二人は少しだけ笑った。

 

 通常救済版春麗は、紙を畳む。

 

 棚には入れない。

 

 これは自分の記録だ。

 

 黒執着春麗の棚に置くものではない。

 

 通常救済版春麗自身が、見届けた記録。

 

 自分は何をしたのか。

 

 何をしなかったのか。

 

 何を見届けたのか。

 

 それを忘れないための記録。

 

「私は、あの子の黒を直接救ったわけではない」

 

 通常救済版春麗は言った。

 

「でも、あの子が黒だけではなくなったことは、ちゃんと見届けた」

 

 黒ドレス特化救済春麗が頷く。

 

「それでいいわ」

 

「あなたが言うと、少し悔しいけれど」

 

「そう?」

 

「ええ」

 

 通常救済版春麗は、棚を見る。

 

 青がある。

 

 黒がある。

 

 どちらも静かに並んでいる。

 

 それを見て、少しだけ胸が軽くなった。

 


 

 夜。

 

 通常救済版春麗は、一人で窓の外を見ていた。

 

 黒執着春麗は、今頃どうしているのだろう。

 

 青で勝った余韻を噛みしめているのか。

 

 リュウの「いい青だった」にまた精神HPを削られているのか。

 

 黒と青の棚を何度も確認しているのか。

 

 たぶん、全部だ。

 

 通常救済版春麗は、少しだけ笑った。

 

「本当に、面倒なところまで来たわね」

 

 それは、黒執着春麗への言葉だった。

 

 そして、自分自身への言葉でもあった。

 

 裏ルートの春麗たちは、みんな面倒だ。

 

 十連勝して、十一戦目で負ける。

 

 黒ドレスを着る。

 

 見抜かれる。

 

 負ける。

 

 それでも黒を求める。

 

 救われる。

 

 青を選ぶ。

 

 黒を棚に置く。

 

 青で勝つ。

 

 どれも、簡単ではない。

 

 でも、その面倒さの先に、今がある。

 

 通常救済版春麗は、そっと目を閉じた。

 

「青でも、黒でも、私が選ぶ」

 

 黒執着春麗の言葉を、静かに繰り返す。

 

 それは、通常救済版春麗にとっても少し響く言葉だった。

 

 自分の青。

 

 自分の黒。

 

 自分の帰還点。

 

 自分の役割。

 

 それもまた、選ぶものだ。

 

 通常救済版春麗は、紙を机の上に置いた。

 

 そこには、最後にこう書かれている。

 

 黒執着春麗:黒と青の選択権を回復。

 

 その下に、少しだけ迷って、もう一行。

 

 通常救済版春麗:見届け役として記録。

 

 書いてから、少しだけ苦笑した。

 

「……地味ね」

 

 でも、それでいい。

 

 全員が前に出る必要はない。

 

 全員が黒の奥へ潜る必要もない。

 

 全員がリュウに勝つ必要もない。

 

 誰かが戦い。

 

 誰かが救い。

 

 誰かが待ち。

 

 誰かが見届ける。

 

 それで、春麗たちは進んでいく。

 

 通常救済版春麗は、窓の外の夜を見た。

 

 黒執着春麗は、青で勝った。

 

 黒を失わずに。

 

 青に逃げずに。

 

 自分で選んで。

 

 そのことを、通常救済版春麗は静かに受け取った。

 

「よかったわね」

 

 小さく言う。

 

 誰にも聞こえない声で。

 

「あなた、青でも勝てたのね」

 

 一拍。

 

「黒だけじゃなかったのね」

 

 その言葉は、祝福だった。

 

 少しだけ悔しくて。

 

 少しだけ眩しくて。

 

 それでも確かな、祝福だった。

 

 夜が深くなる。

 

 棚の中では、黒と青が並んでいる。

 

 通常救済版春麗は、その光景を思い浮かべながら、静かに灯りを落とした。

 




Q:今回の妄想章IF後日談について解説して?

A:

今回のエピソードは、一言で言うなら、

通常救済版春麗が、黒執着春麗の「青で勝った」という到達点を静かに見届ける回

です。

前回、黒執着春麗は青い武道服でリュウに勝ちました。

ただし、これは単なる衣装替えの勝利ではありません。

黒を捨てた青ではない。
青に戻ったわけでもない。
黒から逃げた青でもない。

黒を棚に置いたまま、青を選んだ。

そして、その青でリュウにギリギリ勝った。

ここが非常に大きな到達点でした。

今回のエピソードでは、その勝利を同じ裏ルート由来の通常救済版春麗が見届けています。

通常救済版春麗と黒執着春麗は、始まりがかなり近い存在です。

十連勝。
十一戦目でリュウに負ける。
十二戦目で黒ドレスを着る。
黒で勝とうとする。
リュウに恥ずかしさを見抜かれる。
ギリギリで負ける。

ここまではかなり共通しています。

どちらも、青で負けた春麗です。
どちらも、黒を求めた春麗です。
どちらも、黒ドレスでリュウに届こうとした春麗です。

しかし、その後の進み方が違いました。

通常救済版春麗は、黒へ行ったあと、戻れる場所を持てた春麗です。

黒を否定しない。
でも、黒だけを自分にしない。
迷った時に戻れる帰還点を持っている。

一方、黒執着春麗は、さらに黒の奥へ進んでしまった春麗です。

再戦でギリギリ負ける。
その後もギリギリ負け続ける。
届きそうで届かない。
勝てそうで勝てない。

その積み重ねによって、黒だけを自分にしそうになった春麗です。

だから、今回の通常救済版春麗は、黒執着春麗を完全な他人としては見ていません。

あれは自分ではない。
でも、完全に他人でもない。

同じ裏ルートの、別の奥。

この距離感が今回の核です。

通常救済版春麗は、黒執着春麗の救済にあまり直接関与していません。

黒執着春麗の黒へ深く潜ったのは、黒ドレス特化救済春麗です。

黒を否定せず、黒を返させる。
黒を捨てさせるのではなく、黒を預け直させる。
黒の奥にいる春麗へ手を伸ばす。

この役割は、通常救済版春麗ではなく、黒ドレス特化救済春麗の方が合っていました。

今回、通常救済版春麗はそこをきちんと認めています。

自分は直接救ったわけではない。
黒の奥へ潜ったわけではない。
黒執着春麗の手を直接取ったわけではない。

でも、見届けた。

ここが大事です。

救済には、いろいろな役割があります。

前に出る春麗。
手を取る春麗。
黒の奥へ潜る春麗。
帰還点になる春麗。
待つ春麗。
記録する春麗。
見届ける春麗。

今回の通常救済版春麗は、この「見届ける春麗」として立っています。

これは地味ですが、とても大事な役割です。

なぜなら、黒執着春麗が青で勝てたことを、同じ裏ルート由来の春麗が見届けることで、その到達点の意味がよりはっきりするからです。

黒執着春麗は、黒で勝っただけではありません。

黒を持ったまま、青でも勝った。

これは、通常救済版春麗にとってもかなり眩しい出来事です。

通常救済版春麗にとっての青は、戻れる場所です。

迷った時の帰還点。
黒に沈みすぎないための足場。
立て直すための青。

しかし、黒執着春麗の青は違います。

黒を持ったまま、リュウへ勝ちに行く青です。

黒で得た経験を、青の身体に戻す青。
十一戦目を弱さにしない青。
昔に戻るためではなく、今日の勝ちを取りに行く青。

つまり、黒執着春麗の青は、通常救済版春麗の青とは違う到達点にあります。

ここが今回かなり重要です。

同じ青でも、役割が違う。

本編春麗の青。
通常救済版春麗の青。
黒執着春麗の青。

それぞれ意味が違います。

本編春麗の青は、正式回答へ向かう青です。
話しながら進む青。
宿題や聞かれた青を抱える青。

通常救済版春麗の青は、帰還点の青です。
黒に沈みすぎないための青。
戻れる場所としての青。

黒執着春麗の青は、黒を持ったまま選ぶ青です。
黒だけではない自分を証明する青。
黒の経験を消さずに、青で勝つ青。

今回のエピソードでは、その違いを通常救済版春麗の視点から整理しています。

また、黒ドレス特化救済春麗との会話も重要です。

通常救済版春麗は、少しだけ悔しさを感じています。

あの子は、私が行かなかったところまで行った。
黒の奥へ行った。
そして、青でも勝った。

この「悔しいくらい良かった」という感情がかなり良いと思っています。

完全な祝福だけではない。
少し悔しい。
少し眩しい。
でも、ちゃんと良かったと思っている。

これは同じ春麗だからこその感情です。

黒ドレス特化救済春麗もまた、通常救済版春麗に対して「見届ける春麗も必要」と返します。

ここで、救済春麗同士の役割分担が見えます。

黒ドレス特化救済春麗は、黒の奥へ入る春麗。
通常救済版春麗は、戻れる場所として立つ春麗。

どちらが上という話ではありません。

役割が違う。

黒執着春麗を救うには、黒の奥へ入る春麗も必要だった。
でも、戻ってきた後に立てる場所を示す春麗も必要だった。

その意味で、通常救済版春麗は「何もしなかった」わけではありません。

前に出すぎなかった。
手を出しすぎなかった。
でも、見届けた。

これはかなり成熟した立ち位置です。

今回のもう一つの重要点は、棚の描写です。

黒執着春麗は、勝った青を黒の上に置きませんでした。
別の棚に隔離もしませんでした。

同じ棚。
同じ段。
でも、少し離れた場所。

黒は黒。
青は青。
どちらも、自分が選んだもの。

この配置を、通常救済版春麗と黒ドレス特化救済春麗が改めて確認しています。

ここはかなり大事です。

もし青を黒の上に置いたら、黒を超えた青になってしまいます。

もし青を別の棚に置いたら、黒と青を分けすぎてしまいます。

でも、同じ棚の少し離れた場所に置いた。

これは、黒と青が優劣ではなく、どちらも選択肢になったということです。

黒だけではない。
青に戻ったわけでもない。
どちらも選べる。

今回の黒執着春麗の勝利の本質は、リュウに勝ったことだけではありません。

勝った後に、黒と青を同じ棚に置けたこと。

ここが本当に大きいです。

通常救済版春麗は、最後に自分の記録として、

黒執着春麗:黒と青の選択権を回復。
通常救済版春麗:見届け役として記録。

と書きます。

この「見届け役」は地味です。

本人も「地味ね」と言っています。

でも、今回の回にはこの地味さが必要でした。

黒執着春麗が青で勝った直後に、また派手な戦闘や精神HPイベントを重ねるのではなく、少し離れた場所から、その到達点を受け取る。

同じ裏ルートの通常救済版春麗が、それを静かに祝福する。

それによって、黒執着春麗の青勝利が、ただの勝利イベントではなく、裏ルート全体にとって意味のある到達点になります。

今回の到達点は、

通常救済版春麗が、黒執着春麗の青勝利を「黒だけではなくなった証」として見届けた

です。

そして、もう一つ。

通常救済版春麗自身も、自分の役割を再確認しました。

自分は黒執着春麗を直接救ったわけではない。
でも、見届けることはできた。
戻れる場所として存在することはできた。
黒だけではない春麗がいることを示すことはできた。

これは、通常救済版春麗にとっても小さな進展です。

最後の、

よかったわね。
あなた、青でも勝てたのね。
黒だけじゃなかったのね。

この言葉は、かなり素直な祝福です。

少しだけ悔しくて。
少しだけ眩しくて。
それでも、確かな祝福。

今回のエピソードは、派手な回ではありません。

リュウとのバトルもありません。
精神HPノックアウトもありません。
春麗会議室全体の大きな議題でもありません。

でも、黒執着春麗が青で勝ったことを、同じ裏ルートの春麗がどう受け取るかを描く、かなり重要な後日談です。

黒を救う春麗。
戻れる場所になる春麗。
黒の奥から帰ってきた春麗。
青を選んで勝った春麗。

それぞれの春麗の役割が、少しずつ整理されてきました。

今回の一言でまとめるなら、

黒執着春麗の青勝利を、通常救済版春麗が「自分とは違うが、確かに同じ裏ルートの到達点」として祝福する回

です。

黒執着春麗は、黒だけではありませんでした。

そして通常救済版春麗は、それを静かに見届けました。
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