また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※これは本編時空ではなく、妄想章IFです。
黒執着春麗の後日談です。


妄想章IF後日談:救済後の黒執着春麗は、準備段階から黒でリュウを困らせる

 

 黒は、棚の中にあった。

 

 畳まれている。

 

 布紐が添えられている。

 

 勝った黒。

 

 負けた黒。

 

 戻ってきた黒。

 

 選んだ黒。

 

 楽しんだ黒。

 

 そして、青もある。

 

 黒を捨てずに選んだ青。

 

 リュウに勝った青。

 

 黒執着春麗は、棚の前に立っていた。

 

 朝の光が、黒と青の両方に触れている。

 

 今日は、黒だ。

 

 そう決めた。

 

 昨日からではない。

 

 もっと前からでもない。

 

 今、棚を見た瞬間に決めた。

 

 そういうことにした。

 

「……別に、気合いを入れているわけじゃないわ」

 

 誰もいない部屋で、春麗は言った。

 

「今日は黒を着る。それだけ」

 

 棚の中の黒は答えない。

 

 青も答えない。

 

 それが少し腹立たしい。

 

 春麗は黒に手を伸ばした。

 

 袖の端に触れる。

 

 布の重さが、指先に戻る。

 

 以前なら、この重さは胸の奥まで沈んできた。

 

 今も重い。

 

 けれど、沈まない。

 

 自分の手で持てる重さになっている。

 

 春麗は黒いドレスを取り出した。

 

 広げる。

 

 袖。

 

 肩。

 

 裾。

 

 戦闘服としての黒いドレス。

 

 自分が選んで使う黒いドレス。

 

 リュウに残るためではなく、リュウを困らせるための黒。

 

 そう思った瞬間、胸の奥で小さな声が残った。

 

 ――黒の戦いは、着てから始まるわけではないわ。

 

 春麗の手が止まった。

 

 声ではない。

 

 姿もない。

 

 夢でもない。

 

 ただ、黒い布の奥から、どこかで聞いたような言葉が残響として触れた。

 

 黒ドレス特化救済春麗。

 

 あの春麗の言葉だけは、ときどき黒の奥から残響として響いてくる。

 

 ――準備の段階から、相手はもう見ることになる。

 

 春麗は眉を寄せた。

 

「……勝手に残らないで」

 

 返事はない。

 

 残響だから当然だった。

 

 けれど、その言葉は消えない。

 

 黒の戦いは、試合場で構えた瞬間から始まるのではない。

 

 黒を選ぶか。

 

 どう畳みを解くか。

 

 どこを整えるか。

 

 どこを見せるか。

 

 どこを隠すか。

 

 最初にリュウの前へ立った時、どの角度で見られるか。

 

 その全部が、もう戦いの一部になる。

 

 春麗は、黒いドレスを見下ろした。

 

「……なるほど」

 

 一拍。

 

「そういうことを言うのね、あなたは」

 

 腹立たしい。

 

 しかし、正しい。

 

 それがまた腹立たしい。

 

 春麗は黒いドレスを持ったまま、鏡の前に立った。

 

 まだ着ていない。

 

 ただ、黒いドレスを腕にかけているだけ。

 

 鏡の中には、黒いドレスを持つ春麗が映っている。

 

 黒いドレスを着る前の春麗。

 

 黒いドレスを選んだ春麗。

 

 黒いドレスをどう見せるか考えている春麗。

 

 すでに、戦いは始まっている。

 

「……違うわ」

 

 春麗は言った。

 

「これは、ただの身支度よ」

 

 言いながら、黒い袖を丁寧に伸ばした。

 

「戦術的に皺を確認しているだけ」

 

 肩の線を整える。

 

「動きに支障がないようにしているだけ」

 

 裾を持ち上げる。

 

「蹴りの軌道を確認しているだけ」

 

 鏡の前で、一歩引く。

 

 黒い裾がどの角度で揺れるかを見る。

 

「……リュウがどこを見るか、確認しているわけではない」

 

 一拍。

 

「ないわ」

 

 言い訳が増えている。

 

 自分でもわかった。

 

 春麗は、少しだけ笑った。

 

「本当に、面倒なことを教えてくれたものね」

 

 残響は答えない。

 

 けれど、黒い布の奥に、静かな肯定が残っている気がした。

 

 春麗は袖に手を通した。

 

 黒いドレスが身体に沿う。

 

 肩を整える。

 

 裾を落とす。

 

 帯の位置を直す。

 

 髪に触れる。

 

 ほんの少しだけ、角度を変える。

 

 それは、勝つための準備。

 

 それは、リュウを困らせるための準備。

 

 それは、自分が黒を楽しむための準備。

 

 春麗は、鏡の中の自分を見た。

 

 黒いドレスを身にまとった春麗。

 

 だが、以前の黒執着春麗ではない。

 

 黒に追われていない。

 

 黒を握りしめていない。

 

 黒を使う。

 

 黒で見せる。

 

 黒で迷わせる。

 

 黒で煽る。

 

「今日は」

 

 春麗は、鏡の中の自分へ言った。

 

「試合の前から勝ちに行くわ」

 

 一拍。

 

「これは、身支度よ」

 

 そう言って、春麗は棚を少しだけ開けたまま部屋を出た。

 

 青も、黒も、そこにあるとわかるように。

 

 今日選んだ黒だけが、自分を全部連れていくわけではないとわかるように。

 


 

 リュウは、いつもの場所にいた。

 

 春麗が近づく前に、リュウは顔を上げた。

 

 少し遠い。

 

 まだ間合いの外。

 

 それでも、リュウの視線が春麗へ向いた。

 

 春麗は、その瞬間を見ていた。

 

 黒い裾。

 

 肩。

 

 髪。

 

 距離。

 

 そして、春麗。

 

 リュウの視線が、順番に春麗を読む。

 

 春麗は、胸の奥で静かに笑った。

 

 始まっている。

 

 まだ構えていない。

 

 まだ拳も出していない。

 

 それでも、リュウはもう見ている。

 

 黒の戦いは、準備から始まっている。

 

 残響の言葉は、正しかった。

 

 春麗は、わざと少しゆっくり歩いた。

 

 黒い裾が、半拍遅れて揺れる。

 

 いつもより大きくはない。

 

 けれど、見ようと思えば見える。

 

 リュウが見ている。

 

 春麗は近づいた。

 

「待たせたかしら」

 

 リュウは首を横に振る。

 

「いや」

 

「そう」

 

 一拍。

 

「でも、見ていたわね」

 

「ああ」

 

「まだ構えてもいないのに?」

 

「ああ」

 

「黒の戦いは、準備から始まるものね」

 

 リュウは少しだけ目を細めた。

 

「そうなのか」

 

「ええ」

 

 春麗は、黒い袖を軽く直した。

 

「今日の私は、もうここへ来る前からあなたを困らせる準備をしてきたわ」

 

 リュウの拳が、わずかに握られる。

 

 春麗は、それを見る。

 

 効いている。

 

 言葉が。

 

 黒が。

 

 準備が。

 

「……準備か」

 

「ええ」

 

「それも戦いなのか」

 

「今さら?」

 

 春麗は、少しだけ笑う。

 

「あなた、いつも拳だけで見ているようで、余計なところまで見ているでしょう」

 

「そうかもしれない」

 

「なら、今日は最初から見せてあげる」

 

 一歩近づく。

 

 近い。

 

 まだ試合前なのに。

 

 春麗は、黒い裾を指先で軽く払った。

 

「どこを見るか、迷いなさい」

 

 リュウは答えない。

 

 その沈黙が、少しだけ春麗の勝ちだった。

 

「春麗」

 

「あら、もう困った?」

 

「いや」

 

「そう」

 

「だが、強い」

 

 春麗の精神HPが、試合前に削れた。

 

「……まだ何もしていないわ」

 

「している」

 

 春麗は、呼吸を止めかけた。

 

 リュウは真面目な顔で言った。

 

「歩いてきた時から、もう黒だった」

 

 春麗は、顔を逸らしかけた。

 

 危ない。

 

 これは危ない。

 

 試合前からリュウが褒めてくる。

 

 黒ドレス特化救済春麗の残響によって、こちらが準備段階を戦術化した。

 

 その結果、リュウも準備段階を見てくる。

 

 そして、そのまま褒めてくる。

 

 これは予想外の反撃だった。

 

 春麗は、なんとか表情を整えた。

 

「……見るところは悪くないわね」

 

「ああ」

 

「でも、試合前から私を削るのはやめなさい」

 

「削ったのか」

 

「ええ」

 

「すまない」

 

「謝るところじゃないわ」

 

 春麗は構えた。

 

 黒い裾が静かに揺れる。

 

「いいわ。今の分も含めて勝つ」

 

「ああ」

 

「そして、覚えておきなさい」

 

 一拍。

 

「今日の黒は、構える前からあなたを見ていたのよ」

 

 リュウも構えた。

 

「見る」

 

「見なさい」

 

 春麗は、微笑んだ。

 

「そして、迷いなさい」

 

 戦いが始まった。

 


 

 最初の攻防は、言葉の続きだった。

 

 春麗は動かない。

 

 黒い裾を揺らさない。

 

 ただ、立つ。

 

 試合前から見せていた黒を、今度は静止で止める。

 

 リュウの視線が、足元へ落ちかける。

 

 春麗は言った。

 

「まだ裾?」

 

 リュウの視線が戻る。

 

 その一瞬。

 

 春麗は踏み込んだ。

 

 黒い裾が半拍遅れて追う。

 

 掌底に見せて、蹴り。

 

 リュウの防御が間に合う。

 

 だが、半歩押す。

 

 春麗は引かない。

 

 近い距離に残る。

 

「見直したわね」

 

 リュウの拳が返る。

 

 速い。

 

 春麗は肩を引く。

 

 かすめる。

 

 痛みが頬に走る。

 

 だが、避けた。

 

 そのまま肩を落とす。

 

 次は掌底か。

 

 蹴りか。

 

 リュウの判断が散る。

 

 春麗は笑う。

 

「迷った」

 

 掌底が入る。

 

 リュウの胸。

 

 浅い。

 

 しかし、届いた。

 

 リュウは下がらない。

 

 拳を返す。

 

 春麗の肩に入る。

 

 重い。

 

 身体が揺れる。

 

 けれど、春麗はその揺れを隠さない。

 

 黒い裾を流し、揺れた身体ごと間合いをずらす。

 

 蹴り。

 

 リュウの脇腹に入る。

 

 リュウの呼吸が乱れた。

 

「どう?」

 

 春麗は言った。

 

「準備した黒は」

 

 リュウは息を整えながら答える。

 

「見づらい」

 

「褒め言葉として受け取るわ」

 

「褒めている」

 

「だから、戦闘中にそういうことを言うのをやめなさい」

 

「すまない」

 

「謝るところじゃない」

 

 春麗は、黒い裾を払った。

 

 試合前から仕込んだ角度。

 

 リュウがどこを見るかを考えて整えた裾。

 

 それが、今、確かに効いている。

 

 黒は、準備から始まっていた。

 

 鏡の前での言い訳も。

 

 袖を直した時間も。

 

 裾を整えた動きも。

 

 髪の角度も。

 

 全部、今の半拍になっている。

 

 春麗は思った。

 

 これは、楽しい。

 

 そう思えた瞬間。

 

 動きが軽くなった。

 


 

 中盤。

 

 リュウは視線を変えてきた。

 

 黒い裾を追いすぎない。

 

 肩だけを見ない。

 

 春麗の中心を見る。

 

 黒を越えて、春麗を見る。

 

 それは、春麗にとって一番危険な見方だった。

 

 同時に、一番嬉しい見方でもあった。

 

 春麗は、近づく。

 

 見られる距離。

 

 黒いドレスだけではなく、春麗自身を見られる距離。

 

 そこで、あえて止まった。

 

「今度は、私を見ているのね」

 

 リュウは答える。

 

「ああ」

 

「黒は?」

 

「見ている」

 

「忙しいわね」

 

「ああ」

 

「なら」

 

 春麗は、ほんの少しだけ顎を上げた。

 

「どちらかを選んだら?」

 

 リュウの拳が、一瞬遅れた。

 

 春麗は踏み込む。

 

 掌底。

 

 深い。

 

 リュウの胸が大きく揺れる。

 

 続けて蹴り。

 

 リュウは防御する。

 

 重い音。

 

 防いだが、沈む。

 

 春麗は追う。

 

 リュウは拳を返す。

 

 春麗の脇腹に入る。

 

 息が止まる。

 

 視界が揺れる。

 

 だが、春麗は止まらない。

 

 煽れるほど回復したからといって、リュウが弱くなったわけではない。

 

 痛い。

 

 重い。

 

 ギリギリ。

 

 それでいい。

 

 リュウでなければ、困らせる意味がない。

 

 春麗は、痛みを抱えたまま笑った。

 

「いい拳ね」

 

 リュウの目がわずかに動く。

 

「春麗」

 

「あなたがよくやるでしょう」

 

 黒い裾が揺れる。

 

「褒め殺し返しよ」

 

 リュウの拳が、また一瞬だけ遅れる。

 

 効いた。

 

 ほんの少し。

 

 だが、効いた。

 

 春麗はそこへ蹴りを入れた。

 

 リュウの肩。

 

 深い。

 

 リュウの足が一歩下がる。

 

 春麗も脇腹を押さえかける。

 

 押さえない。

 

 見せる。

 

 痛いことも、揺れていることも、見せた上で立つ。

 

「見えている?」

 

「ああ」

 

「なら、もっと困りなさい」

 

 リュウは息を吐く。

 

「難しい」

 

「あなたが私にいつも言わせる言葉よ」

 

 春麗は、また踏み込んだ。

 


 

 終盤。

 

 互いに限界が近い。

 

 春麗の脇腹は重い。

 

 肩も痛む。

 

 頬も熱い。

 

 リュウも削れている。

 

 胸。

 

 脇腹。

 

 肩。

 

 春麗の黒は効いている。

 

 しかし、リュウの拳もまだ生きている。

 

 春麗は、わかっていた。

 

 ここからがリュウだ。

 

 リュウは、最後に来る。

 

 前の試合も。

 

 青の試合も。

 

 黒の試合も。

 

 いつも、最後に来る。

 

 だから、今日もそこを取る。

 

 リュウが踏み込んだ。

 

 速い。

 

 春麗は裾を流す。

 

 リュウの視線は遅れない。

 

 見ている。

 

 黒も。

 

 春麗も。

 

 準備から始まっていた黒も。

 

 試合中に煽る春麗も。

 

 全部見たうえで、拳を出してくる。

 

 春麗は、その拳を見た。

 

 避ける。

 

 完全には避けられない。

 

 肩に入る。

 

 重い。

 

 身体が崩れかける。

 

 だが、春麗はそのまま近づく。

 

 近すぎる距離。

 

 リュウの目が春麗を捉える。

 

 春麗は、低く言った。

 

「ここまで見たなら」

 

 一拍。

 

「最後まで見逃さないで」

 

 リュウの拳が動く。

 

 春麗は、その拳の内側へ入る。

 

 黒い裾が遅れてついてくる。

 

 掌底。

 

 リュウの胸。

 

 深い。

 

 リュウの膝が揺れる。

 

 だが、リュウの拳も春麗の腹に入った。

 

 重い。

 

 息が止まる。

 

 春麗の足が止まる。

 

 倒れそうになる。

 

 リュウはまだ立っている。

 

 春麗は、黒い袖を握りかけた。

 

 以前なら、ここで黒に縋った。

 

 もっと深く。

 

 もっと強く。

 

 もっと残せ。

 

 でも、今日は違う。

 

 握らない。

 

 春麗は黒を握らず、足を踏み直した。

 

 準備してきた黒。

 

 煽った黒。

 

 楽しんだ黒。

 

 それは、縋るためではない。

 

 使うためにある。

 

 春麗は、黒い裾を自分から見せた。

 

 足元。

 

 リュウは見る。

 

 防御が動く。

 

 そこではない。

 

 春麗は、肩を落とす。

 

 リュウの判断が散る。

 

 まだ終わらない。

 

 最後に、春麗は笑った。

 

「残念」

 

 一拍。

 

「そこは、準備していないわ」

 

 リュウの目がわずかに動く。

 

 読ませるために整えた黒。

 

 読ませた上で、最後だけ外す黒。

 

 春麗の蹴りが、リュウの防御の外側を抜けた。

 

 肩。

 

 深い。

 

 リュウの膝が落ちる。

 

 片膝。

 

 しかし、拳はまだ来る。

 

 最後の拳。

 

 春麗は避けない。

 

 避けきれない。

 

 腕で受ける。

 

 衝撃で腕が痺れる。

 

 だが、中心は残る。

 

 最後の掌底。

 

 春麗の掌が、リュウの胸へ入る。

 

 重く。

 

 深く。

 

 リュウの身体が、静かに沈んだ。

 

 拳が下がる。

 

 立ち上がれない。

 

 春麗は、立っていた。

 

 息は荒い。

 

 身体は痛い。

 

 黒い裾は乱れている。

 

 準備した黒も、煽った黒も、最後にはぐしゃぐしゃだった。

 

 それでも、勝った。

 

 ギリギリで。

 

 リュウを困らせて。

 

 リュウを見させて。

 

 リュウに見られて。

 

 最後に、勝った。

 


 

 しばらく、春麗は何も言えなかった。

 

 リュウは片膝をついたまま、春麗を見上げている。

 

 春麗は、息を整える。

 

 整わない。

 

 でも、口元が少しだけ上がる。

 

「……どう?」

 

 声がかすれていた。

 

「今日の黒は」

 

 リュウは、少しだけ息を吐いた。

 

「最初から、強かった」

 

 春麗の精神HPが削れた。

 

「……リュウ」

 

「ああ」

 

「試合後に、それを言うのは危険よ」

 

「そうか」

 

「そうよ」

 

 リュウは、春麗を見る。

 

 黒いドレス。

 

 乱れた裾。

 

 疲れ切った身体。

 

 それでも、目にまだ戦いの光がある。

 

「歩いてきた時から、戦っていた」

 

 春麗の精神HPがさらに削れた。

 

「追撃しないで」

 

「すまない」

 

「謝るところではないわ」

 

 リュウは続けた。

 

「構える前から、黒が春麗の中で動いていた」

 

 春麗は、完全に沈黙した。

 

 これは、駄目だった。

 

 黒ドレス特化救済春麗の残響。

 

 黒の戦いは、準備から始まる。

 

 その言葉を受けて、春麗は言い訳しながら準備した。

 

 袖を整えた。

 

 裾を見た。

 

 髪を直した。

 

 歩き方まで選んだ。

 

 それを、リュウが見ていた。

 

 見てしまっていた。

 

 そして、褒めている。

 

 無自覚に。

 

 まっすぐに。

 

 春麗の精神HPは、勝利直後にもかかわらず危険域に入った。

 

「……あなた、本当に」

 

「ああ」

 

「負けた後の褒め方が、強すぎるのよ」

 

「強いのか」

 

「強いわ」

 

 リュウは少し考える。

 

 考えなくていい。

 

 春麗はそう思ったが、間に合わなかった。

 

「今日の黒は、楽しそうだった」

 

 精神HPがさらに削れる。

 

「それは前にも聞いたわ」

 

「今日は、それより深かった」

 

 春麗は片手で顔を覆った。

 

「やめなさい」

 

「準備も、煽りも、戦いも、全部つながっていた」

 

「やめなさいと言っているでしょう」

 

「春麗が黒を使っていた」

 

 一拍。

 

「黒に使われていなかった」

 

 精神HPが、そこで完全に飛んだ。

 

 春麗は、言葉を失った。

 

 身体は立っている。

 

 試合には勝った。

 

 リュウは片膝をついている。

 

 なのに、内側では春麗が膝をついていた。

 

 黒に使われていなかった。

 

 それは、自分がずっと確かめてきたことだった。

 

 黒を選ぶ。

 

 黒を使う。

 

 黒で楽しむ。

 

 黒で煽る。

 

 黒で勝つ。

 

 それを、リュウが見ていた。

 

 準備段階から。

 

 歩いてくるところから。

 

 構える前から。

 

 春麗は、顔を覆ったまま言った。

 

「……今日は」

 

「ああ」

 

「試合は私の勝ち」

 

「ああ」

 

「精神戦は、あなたの勝ち」

 

 リュウは少しだけ目を細めた。

 

「そうか」

 

「誇らないで」

 

「誇っていない」

 

「その顔がもう危険」

 

「難しいな」

 

「本当に、難しい男ね」

 

 春麗は、どうにか顔を上げた。

 

 顔が赤い。

 

 それを見られたくない。

 

 だが、リュウは見ている。

 

 また見ている。

 

「見ないで」

 

「見ている」

 

「だから!」

 

「今日の春麗も、覚えておく」

 

 春麗は、完全に負けた。

 

 精神HPで。

 

 試合には勝った。

 

 黒で勝った。

 

 煽って勝った。

 

 準備から仕込んで勝った。

 

 でも、リュウの褒め殺しに負けた。

 

 それも、たぶん。

 

 悪くなかった。

 

 非常に腹立たしいことに。

 

「……間違えて覚えないで」

 

 春麗は、最後の抵抗のように言った。

 

 リュウは頷く。

 

「ああ」

 

「今日の黒は、あなたに残るためじゃない」

 

「ああ」

 

「準備からあなたを困らせるための黒」

 

「ああ」

 

「私が選んで、私が楽しんで、私が勝った黒」

 

「ああ」

 

「そして」

 

 一拍。

 

「あなたに褒め殺された黒」

 

 言ってしまった。

 

 春麗はすぐに顔をしかめた。

 

「……今のは忘れなさい」

 

「忘れない」

 

「でしょうね!」

 

 リュウは、静かに答えた。

 

「それも春麗の黒だ」

 

 春麗は、本当に終わった。

 

 精神HP完全ノックアウト。

 

 身体は倒れていない。

 

 だが、内部は試合後のリュウと同じく片膝だった。

 

「……帰るわ」

 

「ああ」

 

「追ってこないで」

 

「わかった」

 

「あと、次も勝つわ」

 

「ああ」

 

「精神戦は、保留」

 

「ああ」

 

「保留だから」

 

「ああ」

 

 春麗は背を向けた。

 

 黒い裾が揺れる。

 

 乱れている。

 

 汚れている。

 

 それでも、今日の黒は確かに自分の黒だった。

 

 準備から始まり。

 

 煽りで揺らし。

 

 戦いで使い。

 

 勝利で畳まれる黒。

 

 そして、リュウに褒め殺された黒。

 

 春麗は、歩きながら小さく呟いた。

 

「……本当に、余計なところまで見る男ね」

 

 けれど、声はどこか柔らかかった。

 


 

 部屋に戻ると、棚の扉は少し開いていた。

 

 青が見える。

 

 黒を置く場所も見える。

 

 春麗は、黒ドレスを脱ぎ、しばらく見た。

 

 汚れている。

 

 乱れている。

 

 袖。

 

 裾。

 

 肩。

 

 今日の戦いの跡。

 

 今日の準備の跡は、布には残っていない。

 

 鏡の前で袖を整えたこと。

 

 裾の角度を見たこと。

 

 歩き方を選んだこと。

 

 それらは布の汚れにはならない。

 

 でも、今日の黒には確かに残っている。

 

 春麗は、水を用意した。

 

 洗う。

 

 消すためではない。

 

 整えるために。

 

 今日の黒を、手元に置ける形にするために。

 

「準備から始まっていた黒」

 

 一拍。

 

「煽った黒」

 

 一拍。

 

「勝った黒」

 

 さらに一拍。

 

「褒め殺された黒」

 

 春麗は、最後の言葉で顔をしかめた。

 

「……分類がおかしいわね」

 

 でも、消さない。

 

 それも今日の黒だから。

 

 布を洗う。

 

 乾かす。

 

 畳む。

 

 袖を揃える。

 

 裾を整える。

 

 布紐を添える。

 

 棚に置く。

 

 今日の黒は、これまでの黒の隣に置いた。

 

 勝った黒の隣。

 

 楽しんだ黒の近く。

 

 青とも同じ段に見える場所。

 

 春麗は、しばらく棚を見た。

 

 黒もある。

 

 青もある。

 

 勝った黒もある。

 

 勝った青もある。

 

 楽しんだ黒もある。

 

 褒め殺された黒もある。

 

 どれも、自分が選んだもの。

 

 春麗は、鏡の前に立った。

 

 黒を脱いだ自分が映る。

 

 顔には、まだ少し熱が残っている。

 

「次も勝つわ」

 

 一拍。

 

「準備から」

 

 もう一拍。

 

「精神戦は……」

 

 春麗は、少しだけ黙った。

 

「……要対策ね」

 

 そう言って、苦く笑った。

 

 棚の扉を少しだけ開けておく。

 

 黒が見える。

 

 青も見える。

 

 今日の黒も、そこにある。

 

 救済後の黒執着春麗は、黒で煽れるようになった。

 

 黒で楽しめるようになった。

 

 黒でリュウに勝てるようになった。

 

 そして。

 

 黒を準備段階から見抜かれ、褒め殺され、精神HPを持っていかれても。

 

 その黒を棚に置けるようになった。

 

 夜が来る。

 

 明日も来る。

 

 次に黒を選ぶか、青を選ぶかは、まだ決めていない。

 

 ただ、一つだけ決めた。

 

 次に黒を着る時は。

 

 鏡の前から、もう少し用心する。

 

 リュウは、構える前から見てくる。

 

 そして、構える前から褒めてくる。

 

 それは、かなり危険だった。

 




Q:今回の妄想章IF後日談とバトル内容について解説して?

A:

今回のエピソードは、救済後の黒執着春麗が「黒を自分で使えるようになった」ことを描く回です。

一言で言うなら、今回の核は「黒に使われていた春麗が、黒を準備段階から自分で使い、リュウに勝つ回」です。

これまでの黒執着春麗にとって、黒はかなり危険なものでした。

黒に沈む。
黒だけを自分にしかける。
リュウに残るために黒へ縋る。
ギリギリ負け続ける。
黒で勝ちたくて、黒から抜けられなくなる。

そういう危険な歴史があります。

しかし、救済後の黒執着春麗は違います。

黒を捨てたわけではありません。

黒は棚の中にある。
青も棚の中にある。
勝った黒もある。
負けた黒もある。
戻ってきた黒もある。
選んだ黒もある。
楽しんだ黒もある。
黒を捨てずに選んだ青もある。

つまり、今の黒執着春麗にとって、黒は「自分を飲み込むもの」ではなく、「自分が選んで使うもの」になっています。

ここが今回かなり重要です。

今回の黒は、試合場で構えた瞬間から始まったわけではありません。

鏡の前で袖を整える。
裾を見る。
髪の角度を直す。
リュウがどこを見るかを考える。
歩き方を選ぶ。
最初に見られる角度まで考える。

つまり、黒の戦いは準備段階から始まっています。

ここで黒ドレス特化救済春麗の残響が効いています。

黒の戦いは、着てから始まるわけではない。
準備の段階から、相手はもう見ることになる。

この言葉によって、黒執着春麗は「黒を着る」だけではなく、「黒をどう見せるか」まで戦術化します。

これは、以前の黒執着春麗とはかなり違います。

以前なら、黒に縋っていた。
今回は、黒を設計している。

この差が大きいです。

しかも本人は、「ただの身支度」「戦術的に皺を確認しているだけ」「動きに支障がないようにしているだけ」と言い訳します。

でも、リュウがどこを見るかを意識している時点で、すでに戦いは始まっています。

この言い訳込みで、非常に黒執着春麗らしい回でした。

そして、リュウがその準備を見てしまうのが今回の面白いところです。

リュウは、春麗が歩いてきた時点で見ている。

黒い裾。
肩。
髪。
距離。
そして春麗。

春麗が試合前から仕込んできた黒を、リュウはちゃんと見てしまう。

だからリュウは言います。

「歩いてきた時から、もう黒だった」

これはかなり危険な発言です。

春麗は、試合前から戦術を仕込んだ。
その仕込みを、リュウが見た。
そして、それをそのまま言葉にした。

黒執着春麗としては、嬉しいけれど危険です。

なぜなら、準備段階から見られていたことを認められてしまったからです。

今回の試合では、黒執着春麗がかなりノリノリです。

黒い裾で視線を誘導する。
「まだ裾?」と煽る。
リュウの視線を戻した瞬間に踏み込む。
黒を見せて、春麗を見せて、どちらかを選ばせようとする。
リュウの判断を散らす。
褒め殺し返しまで使う。

これは、黒に飲まれていた頃にはできなかった戦い方です。

黒を楽しんでいる。
黒を使っている。
黒でリュウを困らせている。
そして、そのことを自分でも分かっている。

だから途中で春麗は思います。

これは、楽しい。

この一文はかなり重要です。

黒は危険です。

でも、今の黒執着春麗は、その危険を「楽しい」と感じられるところまで戻ってきています。

黒だけを自分にするのではなく、黒を楽しめる。

これは救済後の黒執着春麗の大きな到達点です。

バトルとしても、今回はかなり綺麗です。

序盤は準備段階からの黒が効いている。
中盤はリュウが黒だけではなく春麗自身を見始める。
終盤はリュウが黒と春麗の両方を見た上で拳を出してくる。
最後は、読ませるために整えた黒を逆手に取り、最後だけ外して勝つ。

つまり、今回の黒執着春麗は、黒をただ見せて勝ったのではありません。

見せる。
読ませる。
迷わせる。
最後に外す。

ここまでできています。

これはかなり高度な黒です。

そして、最後にリュウが言います。

「春麗が黒を使っていた」
「黒に使われていなかった」

これが今回の最大火力です。

リュウは、黒執着春麗の一番大事な変化を見抜いています。

黒に使われていた春麗が、黒を使う春麗になった。

これは黒執着春麗にとって、救済後の核心です。

そこをリュウに言われた。

だから精神HPが落ちます。

試合には勝ちました。

黒で勝った。
煽って勝った。
準備から仕込んで勝った。
リュウを困らせて勝った。

でも、試合後のリュウの褒め殺しで精神HPはノックアウトされます。

この作品らしく、戦闘勝利と精神HP敗北は別判定です。

今回の春麗は、戦闘では完全に勝っています。

ただし、精神戦ではリュウに負けています。

しかも、リュウは負けた後に褒めているだけです。

悪意はありません。

正確に見たことを言っているだけ。

だから一番危険です。

最後に春麗が黒を洗い、畳み、棚に置くところも重要です。

消すためではなく、整えるために洗う。

これは、黒を否定していないということです。

今日の黒をなかったことにしない。

準備から始まった黒。
煽った黒。
勝った黒。
褒め殺された黒。

全部、今日の黒として棚に置く。

これは、黒執着春麗が本当に戻ってきた証拠です。

黒に沈むのではなく、黒を棚に置ける。

黒を選べる。
青も選べる。
次にどちらを選ぶかはまだ決めていない。

でも、どちらも自分の棚にある。

ここが救済後の黒執着春麗の強さだと思います。

今回のエピソードは、黒執着春麗にとってかなり良い勝利回でした。

ただ勝っただけではありません。

黒を準備から使った。
黒を楽しんだ。
黒でリュウを困らせた。
リュウに勝った。
そして、リュウに「黒に使われていなかった」と見抜かれた。

ここまで来ると、黒執着春麗はもう「黒に沈んだ危険な春麗」だけではありません。

黒を使い、黒を楽しみ、黒で勝ち、黒を棚に戻せる春麗です。

それでもリュウの褒め殺しには弱い。

このバランスがとても良いと思います。

バトル内容について、HP表記ありのRPG形式で解説します。

BATTLE TITLE

救済後の黒執着春麗 vs リュウ
黒ドレス・準備段階戦術戦

BATTLE CONDITION

今回の春麗側の勝利条件は、単にリュウに勝つことではありません。

勝利条件は三つあります。

一、黒を自分で選んで使う。
二、準備段階から黒を戦術化する。
三、黒に使われるのではなく、黒を使ってリュウに勝つ。

つまり今回の戦いは、試合場で構えてから始まったものではありません。

鏡の前で袖を整えた時。
裾の角度を見た時。
髪の角度を変えた時。
歩き方を選んだ時。

その時点ですでにバトルは始まっています。

初期ステータス

春麗

HP:100 / 100
精神HP:85 / 85
状態:救済後黒執着春麗
装備:黒ドレス
特殊状態:黒を棚に置ける状態
戦術:準備段階からの視線誘導
勝利条件:黒に使われず、黒を使って勝つ

リュウ

HP:100 / 100
精神HP:100 / 100
状態:通常戦闘態勢
特殊状態:春麗の黒を観測中
危険スキル:無自覚高火力評価
備考:試合前から春麗の黒を見ている

TURN 0:準備フェーズ

春麗は黒ドレスを選びます。

袖を整える。
肩を整える。
裾の揺れを見る。
髪の角度を直す。
リュウがどこを見るかを想定する。

ここで黒ドレス特化救済春麗の残響が入ります。

「黒の戦いは、着てから始まるわけではない」

春麗はこれを受けて、準備そのものを戦術化します。

HP変動

春麗 HP:100 → 100
春麗 精神HP:85 → 82

リュウ HP:100 → 100
リュウ 精神HP:100 → 100

解説

戦闘前ですが、すでにバトルは始まっています。

春麗は「ただの身支度」と言い訳していますが、完全にリュウの視線を想定しています。

この時点で、今日の黒は「着る黒」ではなく「使う黒」になっています。

TURN 1:試合前接触

春麗がリュウの前に現れます。

リュウは、遠い距離からすでに春麗を見ています。

春麗は言います。

「今日の私は、もうここへ来る前からあなたを困らせる準備をしてきたわ」

リュウは返します。

「歩いてきた時から、もう黒だった」

HP変動

春麗 HP:100 → 100
春麗 精神HP:82 → 70

リュウ HP:100 → 100
リュウ 精神HP:100 → 94

解説

春麗の事前戦術は成功しています。

リュウは試合前から見ています。

ただし、リュウがそれをそのまま言葉にしたことで、春麗の精神HPにもダメージが入ります。

春麗は仕掛けた側なのに、見抜かれて削られている。

この時点で、今回の試合はかなり危険です。

TURN 2:序盤・裾誘導

春麗はすぐには動きません。

黒い裾を揺らさない。
ただ立つ。
リュウの視線を足元へ落とさせる。

そして言います。

「まだ裾?」

リュウの視線が戻った瞬間、春麗が踏み込みます。

掌底に見せて蹴り。

リュウは防ぎますが、半歩押されます。

HP変動

春麗 HP:100 → 92
春麗 精神HP:70 → 68

リュウ HP:100 → 86
リュウ 精神HP:94 → 88

解説

春麗の黒戦術が綺麗に機能しています。

黒い裾を見せる。
見たことを指摘する。
視線を戻した瞬間に攻撃する。

これは準備段階から仕込んだ黒が、試合中の半拍になっている場面です。

TURN 3:リュウの反撃

リュウの拳が返ります。

春麗は肩を引いてかわしますが、完全には避けきれません。

拳が頬をかすめます。

さらにリュウの重い拳が春麗の肩へ入ります。

春麗は揺れますが、黒い裾の流れを利用して間合いをずらし、蹴りを返します。

HP変動

春麗 HP:92 → 76
春麗 精神HP:68 → 66

リュウ HP:86 → 74
リュウ 精神HP:88 → 88

解説

リュウは当然強いです。

黒で煽れるようになったからといって、春麗が一方的に勝てるわけではありません。

ここで肉体HPがしっかり削られることで、勝利のギリギリ感が出ています。

TURN 4:中盤・黒と春麗の二択

リュウは裾だけを追わなくなります。

黒を見る。
春麗自身を見る。
中心を見る。

ここで春麗はあえて近づきます。

「今度は、私を見ているのね」
「黒は?」
「どちらかを選んだら?」

リュウの拳が一瞬遅れます。

春麗はその遅れを取って、深い掌底を入れます。

HP変動

春麗 HP:76 → 64
春麗 精神HP:66 → 60

リュウ HP:74 → 55
リュウ 精神HP:88 → 76

解説

ここはかなり重要です。

春麗は、黒だけを見せているのではありません。

黒と春麗自身を同時に見せています。

リュウに「黒を見るのか、春麗を見るのか」を迷わせる。

これが今の黒執着春麗の強さです。

黒だけで勝とうとしていない。

黒を使いながら、春麗自身も見せている。

TURN 5:褒め殺し返し

リュウの拳が春麗の脇腹に入ります。

春麗は痛みを受けますが、笑って返します。

「いい拳ね」
「あなたがよくやるでしょう」
「褒め殺し返しよ」

リュウの拳が一瞬遅れます。

春麗はそこへ蹴りを入れ、リュウの肩を深く削ります。

HP変動

春麗 HP:64 → 48
春麗 精神HP:60 → 58

リュウ HP:55 → 38
リュウ 精神HP:76 → 62

解説

ここで春麗は、リュウの得意技である無自覚褒め殺しを黒戦術として返しています。

ただし、春麗の褒め殺しは意図的です。

リュウの無自覚高火力とは違います。

だから戦術として効く一方、春麗自身はまだ主導権を握っています。

TURN 6:終盤・リュウの最後の踏み込み

リュウが最後の圧力で踏み込みます。

春麗は裾を流します。

しかし、リュウはもう裾だけに遅れません。

黒も見る。
春麗も見る。
準備も見る。
煽りも見る。

そのうえで拳を出してきます。

拳が春麗の肩に入ります。

春麗は崩れかけますが、黒に縋らず踏み直します。

HP変動

春麗 HP:48 → 28
春麗 精神HP:58 → 54

リュウ HP:38 → 31
リュウ 精神HP:62 → 62

解説

ここが今回の分岐点です。

以前の黒執着春麗なら、ここで黒に縋っていた可能性があります。

もっと残せ。
もっと深く。
もっと強く。

でも今回は違います。

黒を握りしめない。

黒に使われない。

自分の足で踏み直します。

ここで今回のテーマがバトルとして成立しています。

TURN 7:決着・読ませた黒を外す

春麗は、黒い裾を自分から見せます。

リュウは見る。
防御が動く。

しかし、それは読ませるための黒。

最後だけ外します。

「残念」
「そこは、準備していないわ」

春麗の蹴りがリュウの防御外側を抜け、肩に深く入ります。

リュウは片膝をつきます。

しかし最後の拳を返します。

春麗は腕で受け、痺れながらも中心を残します。

最後の掌底。

リュウの胸へ深く入る。

リュウは沈み、立ち上がれません。

HP変動

春麗 HP:28 → 12
春麗 精神HP:54 → 50

リュウ HP:31 → 0
リュウ 精神HP:62 → 62

BATTLE RESULT

WINNER:春麗

決まり手:黒で読ませ、最後だけ外した蹴りからの掌底
戦術判定:準備段階からの黒戦術成功
黒制御判定:成功
黒に使われていたか:いいえ
黒を使っていたか:はい

解説

戦闘としては、ここで春麗の勝利です。

かなりギリギリです。

春麗のHPも残り12。

リュウの最後の拳を受けており、完全な余裕勝ちではありません。

だからこそ、勝利の価値が高い。

黒を準備段階から使い、煽り、視線誘導し、最後に外して勝つ。

これは救済後の黒執着春麗のかなり完成度の高い勝利です。

TURN 8:勝利後イベント・リュウの褒め殺し開始

リュウは片膝をついたまま春麗を見上げます。

春麗が聞きます。

「今日の黒は」

リュウは答えます。

「最初から、強かった」

HP変動

春麗 HP:12 → 12
春麗 精神HP:50 → 38

リュウ HP:0
状態:敗北

解説

戦闘は終わりました。

ここから精神HPイベントです。

リュウは負けています。

しかし、精神HP攻撃はここから始まります。

「最初から、強かった」は、春麗の準備段階からの黒戦術を肯定する言葉です。

春麗にはかなり刺さります。

TURN 9:準備段階看破

リュウが続けます。

「歩いてきた時から、戦っていた」
「構える前から、黒が春麗の中で動いていた」

HP変動

春麗 HP:12 → 12
春麗 精神HP:38 → 22

解説

ここで春麗の精神HPが大きく削れます。

鏡の前で準備していた黒。

袖。
裾。
髪。
歩き方。
見られ方。

それが全部リュウに見えていた。

春麗の黒戦術は成功した。

成功したからこそ、リュウに言葉にされて精神HPが削れます。

TURN 10:最大追撃「黒に使われていなかった」

リュウが言います。

「春麗が黒を使っていた」
「黒に使われていなかった」

HP変動

春麗 HP:12 → 12
春麗 精神HP:22 → 0

MENTAL RESULT

春麗、精神HPノックアウト。

解説

これが今回の精神HP決定打です。

黒に使われていなかった。

これは、救済後の黒執着春麗にとって最重要の変化です。

黒に沈んでいた春麗。
黒に縋っていた春麗。
黒だけを自分にしかけた春麗。

そこから戻ってきた今の春麗は、黒を使っています。

それをリュウが見抜いた。

しかも、試合後に、負けた側から、まっすぐ言った。

これは精神HPが耐えられません。

FINAL RESULT

戦闘結果

WINNER:春麗

春麗 HP:100 → 12
リュウ HP:100 → 0

決まり手:
黒で読ませ、最後に外した蹴りからの掌底。

戦術評価:
準備段階からの黒戦術成功。
黒を自分で選び、自分で使い、リュウに勝利。

精神HP結果

MENTAL K.O.:春麗

春麗 精神HP:85 → 0

決まり手:
「黒に使われていなかった」

補助ダメージ:
「歩いてきた時から、もう黒だった」
「最初から、強かった」
「構える前から、黒が春麗の中で動いていた」
「今日の黒は、楽しそうだった」
「今日の春麗も、覚えておく」
「それも春麗の黒だ」

総合判定

戦闘勝利:春麗
精神HP勝者:リュウ
最終判定:黒で勝った春麗/褒め殺しで落ちた春麗

今回の新規ログ

勝った黒
準備から始まっていた黒
煽った黒
楽しんだ黒
黒に使われず、黒を使った黒
褒め殺された黒

今回の重要分類

「黒に使われていた春麗」から「黒を使う春麗」へ。

これが今回の最大到達点です。

まとめ

今回のバトルは、黒執着春麗にとってかなり大きな勝利です。

黒を準備段階から戦術化した。
リュウの視線を誘導した。
試合中に煽った。
黒を楽しんだ。
最後に黒を読ませて外した。
そして勝った。

しかし、勝った後にリュウが全部見ていたことを言葉にしてしまう。

その結果、精神HPはノックアウトされます。

この二重結果がとてもこの作品らしいです。

試合には勝った。
黒でも勝った。
でも、リュウの無自覚褒め殺しには負けた。

ただし、これは悪い敗北ではありません。

リュウに見抜かれたのは、春麗が黒に使われていなかったこと。

つまり、救済後の黒執着春麗が本当に戻ってきた証明でもあります。

だから今回の精神HPノックアウトは、ただの照れではありません。

勝利の証明を、リュウに真正面から言葉にされたことによる処理落ちです。

黒執着春麗は、黒で勝ちました。

そして、その黒を棚に置けるようになりました。

これが今回の一番大きな成果だと思います。
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