また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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妄想章IF後日談:救済後の黒執着春麗は、次の煽り文句を考えてしまう

 棚の中に、黒があった。

 

 その隣に、青があった。

 

 黒は畳まれている。

 

 青も畳まれている。

 

 どちらも、見える場所にある。

 

 黒ドレス。

 

 青武道服。

 

 勝った黒。

 

 勝った青。

 

 負けた黒。

 

 戻ってきた黒。

 

 選んだ黒。

 

 楽しんだ黒。

 

 そして、黒を棚に置いたまま選べた青。

 

 黒執着春麗は、その棚の前に立っていた。

 

 今日は戦う予定はない。

 

 リュウに会う予定もない。

 

 黒を着る予定もない。

 

 青を着る予定もない。

 

 ただ、棚の前に立っている。

 

 それだけのはずだった。

 

「……今日は、見るだけ」

 

 小さく言う。

 

「確認しているだけ」

 

 一拍。

 

「次にどちらを着るか決めているわけではない」

 

 その言い訳は、自分でも少し苦しかった。

 

 黒を見る。

 

 青を見る。

 

 どちらも、次の試合のことを思い出させる。

 

 黒を着たら。

 

 青を着たら。

 

 リュウは、どこを見るだろう。

 

 最初に裾を見るか。

 

 肩を見るか。

 

 青なら、踏み込みを見るか。

 

 黒なら、準備の段階から見てくるだろうか。

 

 また、余計なことを言うだろうか。

 

 春麗は、眉を寄せた。

 

「……何を考えているの、私は」

 

 自分に突っ込む。

 

 戦う予定はない。

 

 それなのに、次の煽り文句を考え始めている。

 

 黒なら。

 

 青なら。

 

 リュウの拳を半拍遅らせるなら。

 

 リュウの視線を迷わせるなら。

 

 リュウに、こちらをちゃんと見させるなら。

 

 春麗は、額に手を当てた。

 

「本当に、めんどくさい女ね」

 

 その言葉は、もう完全に自分のものだった。

 

 以前なら、リュウのせいにしていた。

 

 見たのはリュウ。

 

 迷わせたのもリュウ。

 

 残したのもリュウ。

 

 返したのもリュウ。

 

 精神HPを削ったのもリュウ。

 

 もちろん、リュウは悪い。

 

 そこは譲らない。

 

 無自覚に見る。

 

 無自覚に褒める。

 

 無自覚にこちらの整理したはずの感情を撃ち抜く。

 

 あれはかなり悪い。

 

 だが。

 

 自分も相当悪い。

 

 勝ちたい。

 

 見られたい。

 

 困らせたい。

 

 ギリギリで越えたい。

 

 その上で、褒められると困る。

 

 そして今、次に何を言えばリュウが困るかを考えている。

 

 春麗は、棚の扉に手を置いた。

 

「……考えるのをやめなさい」

 

 誰に言うでもなく。

 

 自分に言う。

 

「まだ試合は決まっていない」

 

 一拍。

 

「相手に失礼よ」

 

 さらに一拍。

 

「それに、煽り文句を事前に準備するなんて」

 

 春麗はそこで黙った。

 

 胸の奥に、黒ドレス特化救済春麗の残響がかすかに触れた。

 

 ――黒の戦いは、準備から始まるわ。

 

 春麗は目を細める。

 

「……あなたも余計なことを残したわね」

 

 残響は答えない。

 

 当然だった。

 

 けれど、その言葉はもう消えない。

 

 黒の戦いは準備から始まる。

 

 なら、煽りも準備の一部かもしれない。

 

 言葉も、間合い。

 

 視線も、間合い。

 

 歩き方も、間合い。

 

 どこで何を言うかも、相手の拳を半拍遅らせる材料になる。

 

 そこまで考えて、春麗は顔を覆った。

 

「……だから、何を真面目に考えているのよ」

 

 だが、やめられない。

 

 黒を見る。

 

 青を見る。

 

 黒なら、言えることがある。

 

 青なら、言えることが違う。

 

 同じリュウでも、見る場所が変わる。

 

 そして、リュウはたぶん、どちらも見る。

 

 黒も。

 

 青も。

 

 春麗も。

 

 そこまで考えた時点で、もう精神HPが少し削れた。

 


 

 春麗は、まず黒を見た。

 

 黒ドレス。

 

 裾。

 

 肩。

 

 視線。

 

 準備。

 

 煽り。

 

 リュウを困らせるために選べる黒。

 

 黒を着るなら、最初の一言は重要だ。

 

 ただ「行くわよ」では足りない。

 

 それでは普通すぎる。

 

 今の自分なら、もう少し踏み込める。

 

 春麗は、黒を見ながら小さく呟いた。

 

「今日の黒は、構える前から始まっているわ」

 

 言った瞬間、顔が熱くなった。

 

「……いや、これは少し説明的すぎるわね」

 

 却下。

 

 もう少し、リュウを迷わせたい。

 

 黒を見ていることを指摘する。

 

 でも、単に「見たわね」では前にも言った。

 

 春麗は、腕を組む。

 

「今日は、どこから見るつもり?」

 

 悪くない。

 

 リュウなら、たぶん正直に迷う。

 

 裾か。

 

 肩か。

 

 春麗か。

 

 あるいは全部か。

 

 そこへ、

 

「全部見ようとすると、遅れるわよ」

 

 春麗は、口にしてから固まった。

 

「……」

 

 沈黙。

 

「……今の、少し良いわね」

 

 認めてしまった。

 

 自分で。

 

 最悪だった。

 

 黒なら、これだ。

 

 リュウが全部見ようとすることを逆に取る。

 

 黒も春麗も見るリュウ。

 

 その誠実さを、半拍遅れに変える。

 

 煽りとしても戦術としても使える。

 

 春麗は、黒い袖に触れた。

 

「全部見ようとすると、遅れるわよ」

 

 もう一度言ってみる。

 

 悪くない。

 

 かなり悪くない。

 

 春麗は、頭を抱えた。

 

「何を練習しているの、私は」

 

 言ってから、また黒を見る。

 

 でも、やめられない。

 

 次。

 

 黒で勝つなら、戦闘中に言う言葉も必要だ。

 

 リュウが拳を出す直前。

 

 こちらが黒い裾を流す。

 

 リュウが見てくる。

 

 その時。

 

「迷ったわね」

 

 これは使った。

 

 まだ使える。

 

 けれど、リュウも覚えているかもしれない。

 

 なら別の言葉。

 

「見えているなら、追いついてみなさい」

 

 春麗は、口にしてから、少し目を細めた。

 

「……少し強いわね」

 

 強い。

 

 だが、言える。

 

 今なら言える。

 

 以前の黒執着春麗なら、これは叫びに近かった。

 

 届きたい。

 

 残りたい。

 

 勝ちたい。

 

 それが滲みすぎた。

 

 今なら違う。

 

 遊べる。

 

 困らせられる。

 

 勝つための言葉として使える。

 

 春麗は、黒を見たまま苦く笑った。

 

「本当に、メンタルが回復するとろくなことを考えないわね」

 


 

 次に、青を見る。

 

 青武道服。

 

 黒を棚に置いたまま選べた青。

 

 黒を捨てた青ではない。

 

 昔に戻った青でもない。

 

 黒を知った後の青。

 

 リュウにギリギリ勝った青。

 

 青の煽りは、黒とは違う。

 

 黒は、見せる。

 

 迷わせる。

 

 困らせる。

 

 青は、正面から行く。

 

 隠さない。

 

 逃げない。

 

 戻らない。

 

 だから、青の煽りもまっすぐであるべきだ。

 

 春麗は、青い袖に触れた。

 

「今日は、隠さないわ」

 

 言ってみる。

 

 悪くない。

 

 青らしい。

 

 でも、少し優しい。

 

 リュウ相手には、もう一段必要だ。

 

「黒がないから見やすいと思った?」

 

 春麗は、自分で言って固まった。

 

「……」

 

 一拍。

 

「……これも、悪くないわね」

 

 嫌になる。

 

 青なのに、黒を前提にした煽り。

 

 だが、それが救済後の青だ。

 

 黒を知らない青ではない。

 

 黒を棚に置いた青。

 

 だから、黒がないことも戦術になる。

 

 リュウが黒を探した瞬間に刺せる。

 

 黒がないから見やすいと思った?

 

 その後に続けるなら。

 

「残念ね。今日は、正面から速いわよ」

 

 春麗は、言った後に顔を覆った。

 

「……私は本当に何を考えているの」

 

 だが、これも悪くない。

 

 青の煽りとしてかなり合っている。

 

 黒を見慣れたリュウに、黒がないことを逆に使う。

 

 黒がない。

 

 だから見やすい。

 

 そう思わせる。

 

 だが、青は正面から速い。

 

 迷わせるのではなく、見えていても間に合わない。

 

 それが青。

 

 春麗は、青い袖を撫でた。

 

「黒がないから見やすいと思った? 残念ね。今日は、正面から速いわよ」

 

 言ってから、体が熱くなった。

 

「……これは駄目ね」

 

 何が駄目なのかはわからない。

 

 使えそうだから駄目なのか。

 

 恥ずかしいから駄目なのか。

 

 リュウが真面目に受け取りそうだから駄目なのか。

 

 たぶん、全部だ。

 

 リュウなら、きっと言う。

 

 黒がなくても、春麗は見える。

 

 あるいは。

 

 青の速さは、黒を知っているから深い。

 

 春麗は、顔を覆ったまましゃがみそうになった。

 

「……想像だけで削らないで」

 

 リュウ本人はここにいない。

 

 それなのに、想像上のリュウが精神HPを削ってくる。

 

 かなり重症だった。

 


 

 春麗は、椅子に座った。

 

 棚は開いたまま。

 

 黒と青が見えている。

 

 その前で、春麗は腕を組む。

 

「整理しましょう」

 

 誰もいない部屋で言う。

 

「これは、作戦会議ではない」

 

 一拍。

 

「作戦会議ではないわ」

 

 さらに一拍。

 

「ただ、自分の状態を確認しているだけ」

 

 無理がある。

 

 だが続ける。

 

「黒の場合」

 

 春麗は黒を見る。

 

「リュウに、どこを見るか迷わせる」

 

 一拍。

 

「全部見ようとすると、遅れるわよ」

 

 精神HPが少し削れる。

 

「青の場合」

 

 青を見る。

 

「リュウに、黒がないから見やすいと思わせる」

 

 一拍。

 

「黒がないから見やすいと思った? 残念ね。今日は、正面から速いわよ」

 

 精神HPがさらに削れる。

 

 春麗は、両手で顔を覆った。

 

「……なぜ自分のセリフで削られているの」

 

 それでも、考えるのをやめられない。

 

 次のリュウの顔が浮かぶ。

 

 黒の時。

 

 リュウは、たぶん少し目を細める。

 

 全部見ようとすると遅れる。

 

 そう言われても、リュウは全部見る。

 

 そして、遅れまいとする。

 

 その誠実さを、春麗は取りに行く。

 

 青の時。

 

 リュウは、たぶん一度黒を探す。

 

 そこで春麗が言う。

 

 黒がないから見やすいと思った?

 

 リュウは、いいや、と答えるかもしれない。

 

 春麗は、そこでもう一段困る。

 

 なぜなら、リュウはたぶんこう言う。

 

 黒がなくても、春麗を見る。

 

 春麗は、椅子の上で固まった。

 

「……やめましょう」

 

 想像を止める。

 

「今すぐやめましょう」

 

 止めようとする。

 

 だが、また次の場面が浮かぶ。

 

 黒で煽った後、リュウが負けた時。

 

 リュウは言うかもしれない。

 

 今日の黒は、言葉まで速かった。

 

 春麗は顔を覆う。

 

 青で煽った後、リュウが負けた時。

 

 リュウは言うかもしれない。

 

 今日の青は、まっすぐだった。

 

 春麗は、とうとう机に額をつけた。

 

「……勝っても負けるのよ、精神HPでは」

 

 わかっている。

 

 もう経験済みだ。

 

 黒で勝っても褒め殺される。

 

 青で勝っても褒め殺される。

 

 準備段階から見られる。

 

 構える前から見られる。

 

 戦っている最中も見られる。

 

 試合後も覚えられる。

 

 それがリュウだ。

 

 なのに。

 

 また考えている。

 

 どう言えば、リュウを困らせられるか。

 

 どう言えば、半拍遅れるか。

 

 どう言えば、本気の拳が返ってくるか。

 

 春麗は、机に額をつけたまま言った。

 

「……私は、本当にめんどくさい女ね」

 

 その声は、諦め半分。

 

 呆れ半分。

 

 そして、少しだけ楽しそうだった。

 


 

 夕方。

 

 春麗は、結局棚の前に戻ってきた。

 

 黒と青は、まだ見えている。

 

 どちらも、何も言わない。

 

 だが、どちらも次の試合を待っているように見える。

 

 春麗は、黒の方を見る。

 

「全部見ようとすると、遅れるわよ」

 

 一拍。

 

 青を見る。

 

「黒がないから見やすいと思った? 残念ね。今日は、正面から速いわよ」

 

 言ってから、春麗は深くため息をついた。

 

「……候補としては、悪くない」

 

 認めてしまった。

 

 もう終わりだった。

 

 完全に、次の試合の煽り文句を考えている。

 

 それも、黒用と青用で分けている。

 

 戦闘服別に、リュウへの煽り戦術を組んでいる。

 

 自分でも呆れるしかない。

 

「何をしているの、私は」

 

 一拍。

 

「でも」

 

 もう一拍。

 

「考えないで行くよりは、勝てるわよね」

 

 最悪の正当化だった。

 

 春麗は、棚に手を置く。

 

「いいわ」

 

 静かに言う。

 

「今日はここまで」

 

 黒を見る。

 

 青を見る。

 

「次にどちらを選ぶかは、その時決める」

 

 一拍。

 

「でも、言葉も戦術なら」

 

 春麗は、少しだけ口元を上げた。

 

「準備しておいて悪いことはないわ」

 

 その笑みは、完全にめんどくさい女のものだった。

 

 自分で気づいて、すぐに顔をしかめる。

 

「……本当に、救済後にろくな成長をしていないわね」

 

 それでも、悪くはなかった。

 

 黒に縋っていた頃にはできなかった。

 

 青に戻ることが怖かった頃にもできなかった。

 

 今は、どちらも選べる。

 

 だから、どちらでどうリュウを困らせるか考えられる。

 

 それは、回復の証でもある。

 

 面倒さの証でもある。

 

 春麗は、棚の扉を少しだけ閉めた。

 

 完全には閉めない。

 

 黒も青も少し見える。

 

「次に会ったら」

 

 一拍。

 

「困らせるわよ、リュウ」

 

 言ってから、すぐに顔が熱くなる。

 

「……だから、何を言っているのよ」

 

 誰も答えない。

 

 黒も青も答えない。

 

 けれど、春麗はもう考えるのをやめられなかった。

 

 次の黒。

 

 次の青。

 

 次のリュウ。

 

 次の一言。

 

 次の半拍。

 

 それらが、棚の中で静かに待っている。

 

 黒執着春麗は、救済後もめんどくさい。

 

 自覚している。

 

 それでも。

 

 次に勝つための言葉を考えるのは、やめられなかった。

 




Q:今回の妄想章IF後日談について解説して?

A:

今回の核は、「救済後の黒執着春麗が、黒も青も選べる状態になったうえで、次にリュウをどう困らせるかを考えてしまう」ことでした。

この回は、戦闘回ではありません。

リュウにも会っていません。
黒も着ていません。
青も着ていません。
試合もしていません。

ただ、棚の前に立って、黒と青を見ているだけです。

でも、その「見ているだけ」が、すでに危険です。

なぜなら、今の黒執着春麗はもう、黒に追われている春麗ではないからです。

以前の黒執着春麗にとって、黒はもっと切迫したものでした。

黒で勝たなければならない。
黒でリュウに届かなければならない。
黒をリュウに残さなければならない。
黒を返されたら空になってしまう。

そういう重さがありました。

けれど、救済後の黒執着春麗は、黒を棚に置けるようになりました。

黒を捨てたわけではない。
黒を否定したわけでもない。
でも、黒だけを自分にしなくなった。

その結果、青も選べるようになった。

今回の棚には、黒と青が並んでいます。

黒ドレス。
青武道服。
勝った黒。
勝った青。
負けた黒。
戻ってきた黒。
選んだ黒。
楽しんだ黒。
黒を棚に置いたまま選べた青。

この並びが、今の黒執着春麗の到達点です。

黒か青か、どちらかしかないのではありません。

黒もある。
青もある。
どちらも選べる。
どちらを選んでも、空にはならない。

だから今回、彼女は「今日は見るだけ」と言いながら、次の試合を考えてしまいます。

ここが非常に黒執着春麗らしいです。

回復したから穏やかになるのではない。
回復したから、より自由にめんどくさくなる。

これが今回の面白いところです。

今回、黒執着春麗は黒と青それぞれの煽り文句を考えます。

黒なら、

「全部見ようとすると、遅れるわよ」

青なら、

「黒がないから見やすいと思った? 残念ね。今日は、正面から速いわよ」

この二つは、かなり対になっています。

黒は、リュウに全部を見ようとさせる戦術です。

裾。
肩。
髪。
距離。
春麗本人。

リュウは誠実に全部を見ようとする。
そこを半拍遅らせる。

つまり黒は、リュウの「見る強さ」を逆に取る戦術です。

一方、青は正面から行きます。

黒がないから見やすい。
そう思わせる。
でも、見えていても間に合わない。
正面から速い。

これは、救済後の青としてかなり良いです。

黒を知らない青ではない。
黒を棚に置いた青。
黒がないことまで戦術にできる青です。

今回の黒執着春麗は、黒と青をただ衣装として見ていません。

それぞれの戦い方。
それぞれの見られ方。
それぞれの煽り方。
それぞれのリュウへの刺し方。

そこまで分けて考えています。

これは、彼女がかなり回復している証拠です。

以前なら、黒に縋っていた。
青に戻ることも怖かった。
黒でなければ自分ではない、という危うさがあった。

でも今は違います。

黒ならこう困らせる。
青ならこう困らせる。

そう考えられる。

つまり、黒も青も、自分の手元にある選択肢になっています。

今回、何度も「めんどくさい女」という言葉が出ます。

これはかなり大事です。

黒執着春麗は、もう自分がめんどくさい女であることを認めています。

以前なら、そのめんどくささをリュウのせいにしていたかもしれません。

見たのはリュウ。
迷わせたのもリュウ。
残したのもリュウ。
返したのもリュウ。
精神HPを削ったのもリュウ。

もちろん、リュウは悪い。

そこは春麗的には譲れません。

ですが、今回の黒執着春麗は、自分も相当悪いと認めています。

勝ちたい。
見られたい。
困らせたい。
ギリギリで越えたい。
その上で、褒められると困る。
なのに、次に何を言えばリュウが困るかを考えている。

この自覚が、救済後の黒執着春麗らしいです。

黒に呑まれているのではありません。
自分の面倒さを、自分で持てるようになっています。

しかも、少し楽しんでいる。

ここが非常に良いです。

この回は、戦闘回ではありませんが、戦闘準備回です。

黒の戦いは準備から始まる。

その考え方は、前回の黒戦術回からつながっています。

言葉も間合い。
視線も間合い。
歩き方も間合い。
どこで何を言うかも、相手の拳を半拍遅らせる材料になる。

今回の春麗は、それをかなり真面目に考えてしまっています。

そして、自分で突っ込む。

「何を真面目に考えているのよ」

でも、やめられない。

ここがこの回の良さです。

救済後の黒執着春麗は、黒を捨てていません。
青も選べます。
そして、どちらを選んでもリュウを困らせる準備をしてしまう。

これは、かなり健全にめんどくさい状態です。

今回のラストも重要です。

黒と青の棚を完全には閉めません。

少しだけ閉める。
でも、黒も青も少し見える。

これは、今の黒執着春麗の状態そのものです。

完全に閉じない。
完全に開けっぱなしにもならない。
必要なら見える。
必要なら手に取れる。
次にどちらを選ぶかは、その時決める。

この距離感が、救済後の彼女に合っています。

そして最後に、

「困らせるわよ、リュウ」

と言ってしまう。

これはかなり良い締めです。

以前なら、リュウに残りたい、リュウに黒を背負わせたい、という方向に行っていたかもしれません。

でも今は違います。

困らせたい。

勝ちたい。
迷わせたい。
本気の拳を返してほしい。
そして、次も戦いたい。

その方向に変わっています。

つまり、黒執着春麗の感情はかなり健全なライバル性に近づいています。

今回の到達点は、

黒も青も選べる。
黒なら黒の煽りがある。
青なら青の煽りがある。
どちらを選んでも、リュウを困らせる戦術を考えられる。
自分がめんどくさい女であることを自覚している。
それでも、次に勝つための言葉を考えるのをやめられない。

このあたりです。

かなり静かな回ですが、黒執着春麗の回復後の状態確認として重要な回だと思います。

救済されたから大人しくなるのではない。

救済されたからこそ、黒も青も手元に置いて、次にどちらでリュウを困らせるかを考えられる。

それが、今の黒執着春麗です。

そして、たぶん。

この春麗は、救済後の方が面倒です。

でも、その面倒さはもう崩壊ではありません。

次に勝つための、かなり前向きな面倒さです。
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