また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※これは本編時空ではなく、妄想章IFです。
黒執着春麗の後日談です。


妄想章IF後日談:救済後の黒執着春麗は、まだ持てなかった黒を棚に置く

 

 棚の中に、黒があった。

 

 その隣に、青があった。

 

 どちらも畳まれている。

 

 どちらも見える場所にある。

 

 黒。

 

 青。

 

 勝った黒。

 

 負けた黒。

 

 戻ってきた黒。

 

 選んだ黒。

 

 楽しんだ黒。

 

 準備から始まっていた黒。

 

 煽った黒。

 

 リュウに褒め殺された黒。

 

 青。

 

 黒を棚に置いたまま選べた青。

 

 黒を捨てずに勝った青。

 

 リュウにギリギリ勝った青。

 

 そのどれもが、棚の中にあった。

 

 黒執着春麗は、棚の前に立っていた。

 

 今日は、黒を着ない。

 

 青も着ない。

 

 リュウと戦う予定もない。

 

 煽り文句を考えるつもりもない。

 

 ただ、棚の前に立っている。

 

 それだけのつもりだった。

 

 けれど、棚の中には、まだ置けていないものがあった。

 

 見える場所にはない。

 

 畳まれてもいない。

 

 布紐も添えられていない。

 

 黒でも青でもない。

 

 でも、確かに自分の中に残っているもの。

 

 春麗は、棚の扉に手を置いた。

 

「……まだあるのよね」

 

 小さく呟く。

 

 勝った黒は畳めた。

 

 負けた黒も畳めた。

 

 青も棚に置けた。

 

 黒を着ても着なくても、空っぽではないと知った。

 

 黒でも青でも、リュウに勝てた。

 

 ギリギリで勝つ快感にも気づいてしまった。

 

 自分がめんどくさい女だと、改めて認めた。

 

 そこまで来た。

 

 それでも、まだ持てていないものがある。

 

 救済本編では、持てなかったもの。

 

 持とうとしたら、壊れそうだったもの。

 

 だから、端だけ持った。

 

 畳むだけにした。

 

 束ねるだけにした。

 

 全部ではなく、一部だけにした。

 

 そうやってここまで来た。

 

 けれど、今は少し違う。

 

 黒を選べる。

 

 青も選べる。

 

 勝っても負けても、棚に置ける。

 

 自分がめんどくさいと認めても、崩れない。

 

 なら。

 

 春麗は、静かに息を吐いた。

 

「今日は」

 

 一拍。

 

「もう少し、持てるかもしれない」

 

 言葉にしてから、胸が重くなった。

 

 それでも、逃げるほどではなかった。

 

 春麗は、棚の前に椅子を置いた。

 

 座る。

 

 黒と青を正面に見る。

 

 いつものように、どちらかを選ぶためではない。

 

 今日は、その奥を見る。

 

 黒の奥。

 

 青の奥。

 

 まだ棚に置いていないものを、少しずつ取り出すために。

 


 

 最初に浮かんだのは、十一戦目だった。

 

 黒を着る前。

 

 青で負けた日。

 

 十連勝の後。

 

 自分はまだ、今ほど面倒なことを考えていなかった。

 

 いや。

 

 考えていなかった、ということにしていた。

 

 強い自分。

 

 勝ってきた自分。

 

 リュウに向かえる自分。

 

 そのまま勝てると思っていた自分。

 

 そこへ、リュウの拳が来た。

 

 正面から。

 

 速く。

 

 まっすぐに。

 

 そして、自分は負けた。

 

 春麗は、青い武道服を見た。

 

 棚の中の青。

 

 救済後に選んだ青。

 

 リュウに勝った青。

 

 けれど、その奥には、十一戦目の青がまだあった。

 

 勝った青の隣に、まだ置けていない青。

 

 春麗は、小さく言う。

 

「あなたは、弱かったわけではない」

 

 以前にも、そう思った。

 

 そう決めた。

 

 だが、それはまだ言葉だけだった。

 

 弱さではない。

 

 でも、痛みだった。

 

 負けた青。

 

 止められた青。

 

 黒へ向かうきっかけになった青。

 

 その青を、勝った青の隣に置くのはまだ怖かった。

 

 勝った青で塗り潰してしまいそうだったから。

 

 リュウに勝った青があるなら、十一戦目の青はもういらない。

 

 そんなふうに扱ってしまいそうだったから。

 

 春麗は、青い武道服に触れた。

 

 布の感触。

 

 軽い。

 

 でも、重い。

 

「十一戦目の私は」

 

 一拍。

 

「負けた」

 

 言葉にする。

 

「リュウに負けた」

 

 もう一拍。

 

「でも、あの日の青がなかったら、今の青はない」

 

 胸が痛む。

 

 しかし、崩れない。

 

「あなたは、消さない」

 

 春麗は、棚の中の青を少し動かした。

 

 勝った青の隣に、少しだけ空間を作る。

 

 そこに、見えない青を置くように、指先で棚板を撫でた。

 

 十一戦目の青。

 

 まだ完全には畳めない。

 

 でも、場所だけは作る。

 

「ここにいなさい」

 

 低く言う。

 

「勝った青の下ではなく、上でもなく」

 

 一拍。

 

「隣に」

 

 言ってから、春麗は息を吐いた。

 

 重い。

 

 けれど、置けた。

 

 目に見える布はない。

 

 それでも、棚の中に一つ場所が増えた気がした。

 


 

 次に浮かんだのは、最初の黒だった。

 

 黒ドレスを初めて着た日。

 

 黒を使い切れなかった日。

 

 見られることを、まだ恥ずかしさとしてしか持てなかった日。

 

 黒を戦術にしたつもりで、心が追いついていなかった日。

 

 そして、リュウに見抜かれた日。

 

 春麗は、黒を見た。

 

 勝った黒。

 

 楽しんだ黒。

 

 準備から始めた黒。

 

 煽った黒。

 

 そのどれも、今の自分なら持てる。

 

 けれど、最初の黒は違う。

 

 未完成だった。

 

 恥ずかしかった。

 

 黒を着ているのに、黒を使い切れなかった。

 

 見せたいのに、見られると揺れた。

 

 リュウに届きたいのに、届く前に自分が揺れた。

 

 春麗は、黒い袖に触れた。

 

「……あなたも、消さない」

 

 それも以前、言った。

 

 塗り潰さないと決めた。

 

 でも、勝った黒の隣に置くには、まだ重かった。

 

 最初の黒は、綺麗ではない。

 

 強い黒でもない。

 

 煽れる黒でもない。

 

 楽しんだ黒でもない。

 

 救済後の自分が気持ちよく扱える黒ではない。

 

 だからこそ、まだ棚の奥に影のように残っていた。

 

 春麗は、指先で黒の布をなぞる。

 

「最初の黒は、下手だったわ」

 

 言った瞬間、胸が痛んだ。

 

 でも、続ける。

 

「怖かった」

 

 一拍。

 

「恥ずかしかった」

 

 一拍。

 

「見られたかったのに、見られると止まった」

 

 さらに一拍。

 

「それでも、黒を着た」

 

 そこまで言って、春麗は少しだけ目を伏せた。

 

 そうだ。

 

 最初の黒は、下手だった。

 

 でも、着た。

 

 その事実まで消す必要はない。

 

 勝った黒だけが黒ではない。

 

 楽しんだ黒だけが黒ではない。

 

 煽れる黒だけが黒ではない。

 

 最初の、下手で、怖くて、使い切れなかった黒も、自分の黒だった。

 

 春麗は、黒の棚に少しだけ空間を作った。

 

 勝った黒の隣ではない。

 

 楽しんだ黒の手前でもない。

 

 少し奥。

 

 でも、見える場所。

 

「ここ」

 

 小さく言う。

 

「奥に押し込まない」

 

 一拍。

 

「でも、まだ手前には置かない」

 

 それが、今の距離だった。

 

 春麗は、見えない最初の黒をそこへ置くように、そっと棚板に触れた。

 

「あなたは、最初に黒を着た私」

 

 一拍。

 

「下手だったけれど、逃げなかった私」

 

 その言葉は、少しだけ震えた。

 

 けれど、言えた。

 

 春麗は、静かに息を吐いた。

 

 また一つ、棚の中に場所が増えた。

 


 

 次に来たのは、もっと重かった。

 

 リュウのせいにしていた自分。

 

 春麗は、目を閉じた。

 

 これは、黒でも青でもない。

 

 布ではない。

 

 戦闘服ではない。

 

 棚に置く形がわからない。

 

 けれど、確かにある。

 

 リュウが見たから。

 

 リュウが残したから。

 

 リュウが返したから。

 

 リュウが自分を空にするから。

 

 そう思っていた自分。

 

 リュウにぶつけた自分。

 

 勝たせなさい、と言った自分。

 

 私の黒なら、私に勝たせなさい。

 

 春麗は、胸の奥が重くなるのを感じた。

 

 その言葉は、今でも痛い。

 

 リュウに言った。

 

 言ってしまった。

 

 本当は、勝たせてほしかったわけではない。

 

 手を抜かれたら怒った。

 

 譲られたら傷ついた。

 

 リュウの本気を越えたかった。

 

 なのに、負けるのが怖くて、返されるのが怖くて、空になるのが怖くて、逆のことを言った。

 

 春麗は、椅子の上で拳を握った。

 

「……最低ね」

 

 小さく言う。

 

 誰もいない。

 

 リュウもいない。

 

 責める人もいない。

 

 だから、自分で言うしかなかった。

 

「私は、あの時、リュウのせいにした」

 

 一拍。

 

「自分が怖かったことを」

 

 一拍。

 

「自分が負けたくなかったことを」

 

 一拍。

 

「自分が、リュウに本気で困ってほしかったことを」

 

 息が詰まる。

 

 それでも続ける。

 

「全部、リュウの拳の中に置こうとした」

 

 言ってから、春麗は目を閉じた。

 

 これは、救済本編では持てなかった。

 

 持ったら、自分が壊れると思っていた。

 

 リュウを責めることで、かろうじて立っていた。

 

 返されたら空になると叫ぶことで、自分の欲を見ないようにしていた。

 

 でも今は。

 

 今は、少しだけ違う。

 

 自分がめんどくさい女だと認めた。

 

 ギリギリ勝つことが好きだと認めた。

 

 リュウを困らせたいと認めた。

 

 見られたいと認めた。

 

 なら、これも持たなければならない。

 

 リュウのせいにしていた自分。

 

 自分の欲を、リュウに背負わせていた自分。

 

 春麗は、棚の中を見た。

 

 黒。

 

 青。

 

 そのどちらの場所にも置けない。

 

 これは、服ではない。

 

 勝敗でもない。

 

 自分の認めたくない形。

 

 春麗は、棚の端に小さな空間を見つけた。

 

 黒と青の間ではない。

 

 どちらかの隣でもない。

 

 棚の手前。

 

 すぐ見えてしまう場所。

 

 けれど、触れなければ落ちない場所。

 

「……ここね」

 

 春麗は呟いた。

 

「隠せない場所」

 

 一拍。

 

「でも、持ち続けられる場所」

 

 そこに、見えないものを置くように、指を置いた。

 

 リュウのせいにしていた自分。

 

 勝たせなさいと言った自分。

 

 逆のことを言った自分。

 

 春麗は、震える息を吐いた。

 

「これは」

 

 一拍。

 

「私が悪かった」

 

 言った。

 

 はっきりと。

 

 胸が痛い。

 

 でも、崩れなかった。

 

 続ける。

 

「全部ではないわ」

 

 すぐに付け足す。

 

「リュウも悪い」

 

 一拍。

 

「無自覚に見すぎるし」

 

 一拍。

 

「無自覚に褒めすぎるし」

 

 一拍。

 

「精神HPを削りすぎる」

 

 そこは譲らない。

 

 でも。

 

「でも、あの言葉は」

 

 一拍。

 

「私が悪かった」

 

 もう一度言う。

 

 今度は、少しだけ静かだった。

 

 見えないものが、棚の手前に置かれた気がした。

 

 春麗は、しばらく動けなかった。

 


 

 最後に来たのは、意外なほど熱かった。

 

 ギリギリで勝つ快感。

 

 黒でリュウに勝った時。

 

 青でリュウに勝った時。

 

 どちらも、最後は本当に一瞬だった。

 

 リュウの拳が半拍早ければ負けていた。

 

 自分の足が半拍遅れれば負けていた。

 

 痛みもあった。

 

 怖さもあった。

 

 限界だった。

 

 それでも、最後に立っていた。

 

 その瞬間の熱。

 

 春麗は、棚の前で少しだけ顔をしかめた。

 

「……これも、持つの?」

 

 持ちたくない。

 

 恥ずかしいから。

 

 あまりにめんどくさいから。

 

 勝ちたいのはいい。

 

 リュウに勝ちたいのもいい。

 

 でも、ギリギリで勝つことに快感を覚える自分は、かなり面倒だ。

 

 それを持つのは、かなり恥ずかしい。

 

 春麗は、黒を見る。

 

 青を見る。

 

 どちらにも、その熱がある。

 

 黒で勝った時も。

 

 青で勝った時も。

 

 リュウが片膝をついた。

 

 自分は立っていた。

 

 そして胸の奥で、確かに思った。

 

 楽しい。

 

 春麗は、両手で顔を覆った。

 

「……本当に、めんどくさい」

 

 でも、これはもう隠せない。

 

 救済前なら、これは勝利欲と執着の中に埋もれていた。

 

 勝たなければならない。

 

 届かなければならない。

 

 リュウに残さなければならない。

 

 その奥に隠れていた。

 

 でも今は違う。

 

 黒を着ても着なくても空ではない。

 

 勝っても負けても棚に置ける。

 

 だからこそ見えてしまった。

 

 私は、ギリギリでリュウを越えることに熱くなる。

 

 春麗は、顔から手を離した。

 

「……これは、悪いことではない」

 

 自分に言い聞かせる。

 

「たぶん」

 

 一拍。

 

「でも、かなり面倒」

 

 それは否定できない。

 

 春麗は、棚の中に目を戻す。

 

 ギリギリ勝つ快感。

 

 これは黒だけのものではない。

 

 青だけのものでもない。

 

 勝った黒と勝った青の間にあるもの。

 

 両方から見える場所。

 

 春麗は、黒と青の間に、少しだけ空間を作った。

 

 そこへ、見えない熱を置く。

 

「ここ」

 

 一拍。

 

「黒でも青でも届く場所」

 

 もう一拍。

 

「でも、どちらにも預けない場所」

 

 春麗は、静かに言った。

 

「私は、リュウに本気で来てほしい」

 

 一拍。

 

「その上で、ギリギリ勝ちたい」

 

 さらに一拍。

 

「それが、楽しい」

 

 言った瞬間、顔が熱くなった。

 

 だが、消さなかった。

 

「……本当に、めんどくさい女ね」

 

 声は、少しだけ震えていた。

 

 でも、以前より穏やかだった。

 

 恥ずかしい。

 

 重い。

 

 認めたくない。

 

 それでも、持てる。

 

 棚に置ける。

 

 それが、今の自分だった。

 


 

 棚の中は、少し変わって見えた。

 

 目に見えるものは、ほとんど変わらない。

 

 黒。

 

 青。

 

 布紐。

 

 畳まれた戦闘服。

 

 けれど、その間に見えない場所が増えている。

 

 十一戦目の青。

 

 最初の黒。

 

 リュウのせいにしていた自分。

 

 ギリギリで勝つ快感。

 

 救済本編では、まだ持てなかったもの。

 

 端だけ触れて、すぐに戻したもの。

 

 畳めずに、棚の外へ置いていたもの。

 

 それらが、少しずつ棚に入った。

 

 全部、綺麗に整理できたわけではない。

 

 まだ重い。

 

 まだ恥ずかしい。

 

 まだ痛い。

 

 でも、外に置きっぱなしではない。

 

 リュウの中に置きっぱなしでもない。

 

 勝敗の中に預けっぱなしでもない。

 

 自分の手元にある。

 

 春麗は、棚の前に立ったまま、静かに息を吐いた。

 

「……持てたのね」

 

 小さく言う。

 

 持てた。

 

 全部ではないかもしれない。

 

 でも、前よりは持てた。

 

 あの頃なら、無理だった。

 

 救済本編の途中なら、崩れていた。

 

 でも今は、持てる。

 

 黒を選べるようになったから。

 

 青も選べるようになったから。

 

 勝っても負けても棚に置けるようになったから。

 

 そして、自分がめんどくさい女だと認められたから。

 

 自分のめんどくささを認めることは、軽くなることではなかった。

 

 むしろ、重くなる。

 

 持つものが増える。

 

 言い訳できないものが増える。

 

 リュウのせいにできないものが増える。

 

 でも、その分、棚は広くなる。

 

 春麗は、苦く笑った。

 

「ひどい救済ね」

 

 一拍。

 

「でも、悪くないわ」

 

 棚の扉を、少しだけ閉める。

 

 完全には閉じない。

 

 黒も青も見える。

 

 見えないものも、そこにあるとわかる。

 

 春麗は、鏡の前に立った。

 

 黒でもない。

 

 青でもない。

 

 ただの春麗が映っている。

 

 その後ろに、棚がある。

 

 棚の中には、以前より多くのものがある。

 

 勝った黒。

 

 勝った青。

 

 負けた黒。

 

 十一戦目の青。

 

 最初の黒。

 

 リュウのせいにしていた自分。

 

 ギリギリ勝つ快感。

 

 めんどくさい女である自分。

 

 春麗は、鏡の中の自分を見た。

 

「私は、めんどくさい女ね」

 

 一拍。

 

「だから、これも持てる」

 

 言い終えて、胸が少しだけ痛んだ。

 

 でも、崩れなかった。

 

 夜が近づく。

 

 部屋の光が少しずつ変わる。

 

 春麗は、棚をもう一度見た。

 

「次にリュウと戦う時」

 

 一拍。

 

「私は、また勝ちたい」

 

 もう一拍。

 

「それも、できればギリギリで」

 

 言ってから、顔をしかめる。

 

「……本当に面倒」

 

 だが、もう消さない。

 

 その言葉も、棚に置く。

 

 春麗は部屋の灯りをつけた。

 

 黒も青も、少しだけ見える。

 

 その間に置いた見えないものたちも、今日は確かにそこにある。

 

 救済本編では持てなかったものを、今なら少し持てる。

 

 それは、軽い成長ではなかった。

 

 重い。

 

 かなり重い。

 

 でも、空ではない。

 

 黒執着春麗は、棚の前で静かに息を吐いた。

 

「今日は、ここまで」

 

 そう言って、少しだけ笑った。

 

 全部を持てたわけではない。

 

 でも、持てなかったものを、ひとつずつ棚に置いた。

 

 それで、今日は十分だった。

 




Q:今回の妄想章IF後日談について解説して?

A:

はい。今回の 「救済後の黒執着春麗は、まだ持てなかった黒を棚に置く」 は、黒執着春麗後日談の中でもかなり重要な 重めの定着回 です。

一言で言うなら、

救済本編では“触れるだけ”“端だけ持つだけ”だったものを、メンタル回復後の黒執着春麗が、ようやく自分の棚に置けるようになる回

です。

今回の核は、

軽くなったから持てるようになったのではない。
自分がめんどくさい女だと認められたから、重いものを重いまま持てるようになった。

ここです。

今回の一番大きな意味

救済本編では、黒執着春麗はかなり慎重に進んでいました。

今日の黒の袖の端だけを持つ。
負けた黒を畳む。
十一戦目を弱さにしない。
最初の黒を塗り潰さない。
返されたのではなく戻ってきたと認める。
黒を着ても着なくても空っぽではないと知る。

ただし、その時点では、まだ全部を持てていたわけではありません。

十一戦目の青。
最初の黒。
リュウのせいにしていた自分。
ギリギリ勝つ快感。

これらは、救済本編の時点ではまだ重すぎました。

持とうとすれば崩れる。
認めようとすれば壊れる。
だから、あの時は端だけでよかった。

今回の後日談では、そこからさらに進んでいます。

黒でも青でも勝った。
黒でも青でも精神HPを削られた。
自分がめんどくさい女だと認めた。
リュウのせいだけではないとわかった。

だからようやく、救済本編では持てなかったものを持てる段階に来たわけです。

「棚」がさらに拡張された回

このルートでは、棚が非常に重要な装置になっています。

最初は、黒を畳んで置く場所でした。

その後、勝った黒、負けた黒、戻ってきた黒、選んだ黒、楽しんだ黒、青武道服まで置ける場所になりました。

今回はさらに、その棚に 見えないもの が置かれます。

十一戦目の青。
最初の黒。
リュウのせいにしていた自分。
ギリギリ勝つ快感。

これらは布ではありません。

実物として畳めるものではありません。

でも、春麗はそれらにも場所を作ります。

これが今回の大きな進行です。

棚は、戦闘服をしまう場所から、春麗自身の記憶・欲・後悔・快感まで置ける場所に変わりました。

つまり、黒執着春麗の内面容量が増えた回です。

十一戦目の青を置けた意味

今回まず扱ったのは、十一戦目の青です。

これは非常に重要です。

黒執着春麗にとって、十一戦目は黒へ向かう始まりでした。

青で十連勝していた。
その青でリュウに負けた。
そこから黒へ行った。

つまり十一戦目の青は、黒執着春麗の拗れの起点です。

救済後に青でリュウに勝ったことで、青は再び選べる服になりました。

でも、そのままだと危険があります。

勝った青で、負けた青を塗り潰してしまう危険です。

だから今回、春麗は勝った青の隣に、十一戦目の青の場所を作りました。

これはかなり良いです。

勝った青が、負けた青を消すのではない。
負けた青も、今の青に繋がっている。

この整理ができたことで、青のルートも一段安定しました。

最初の黒を「下手だった」と言えた意味

次に扱ったのが、最初の黒です。

ここもかなり大きいです。

最初の黒は、救済後の黒執着春麗にとって持ちにくい黒です。

なぜなら、今の彼女は黒を使えるからです。

黒でリュウを煽れる。
黒を準備段階から戦術化できる。
黒で楽しめる。
黒で勝てる。

だからこそ、最初の黒は恥ずかしい。

下手だった。
怖かった。
見られたいのに見られると止まった。
黒を着たのに、黒を使い切れなかった。

でも今回、彼女はそこを言えました。

最初の黒は、下手だった。
でも、着た。
逃げなかった。

ここが良いです。

未熟さを否定しない。
未完成をなかったことにしない。
勝った黒で最初の黒を塗り潰さない。

これにより、黒ドレスの歴史が一本につながりました。

「リュウのせいにしていた自分」を持てたことが一番重い

今回の中で最も重いのはここです。

春麗が、

これは私が悪かった

と言えたことです。

もちろん、すぐに、

全部ではない。リュウも悪い。無自覚に見すぎるし、褒めすぎるし、精神HPを削りすぎる

と付け足します。

ここが春麗らしいです。

完全に自分だけが悪いとは言わない。

リュウも危険。

それは事実。

でも、救済前に言った、

私のものだと言うなら、私に勝たせなさい

この言葉については、ようやく自分の責任として持てました。

これは相当大きいです。

なぜなら、この言葉は黒執着春麗の中でもかなり歪んだ発言だったからです。

本当は、勝たせてほしかったわけではない。
リュウに手を抜かれたら怒ったはず。
譲られた勝利など欲しくなかったはず。
本当は、リュウの本気を越えたかった。

でも、負けるのが怖くて、返されるのが怖くて、空っぽになるのが怖くて、逆のことを言った。

今回、その矛盾を持てるようになりました。

これは救済本編では無理でした。

今だから言える。

黒でも青でも勝って、自分のめんどくささまで認めたからこそ、ようやく言えるようになった言葉です。

ギリギリ勝つ快感を棚に置けた意味

最後に置いたのが、ギリギリ勝つ快感です。

これは、一見軽く見えますが、かなり深いです。

以前の黒執着春麗は、勝利に自分の価値を預けていました。

勝たなければ意味がない。
勝たなければ黒が完成しない。
勝たなければリュウに届いたことにならない。

でも救済後の彼女は、勝たなくても空っぽではないと知っています。

その上で、なお気づいてしまう。

私は、ギリギリでリュウを越えることが楽しい。

これは勝利依存とは違います。

自分の欲を、より正確に見ています。

ただ勝ちたいのではない。
楽に勝ちたいのでもない。
譲られて勝ちたいのでもない。
リュウが最後まで本気で来て、その拳を一瞬だけ越えたい。

これを認めたのが今回です。

これもかなりめんどくさい。

でも、彼女はそれを棚に置けました。

つまり、自分の危険な快感すら、否認せずに管理できるようになったということです。

「軽くなる救済」ではなく「持てる重さが増える救済」

今回の一番美しい整理はここです。

普通、救済というと軽くなるイメージがあります。

苦しみが消える。
執着がなくなる。
過去が整理される。
楽になる。

でも黒執着春麗の救済は違います。

彼女は軽くなったのではありません。

むしろ、持つものが増えました。

十一戦目の青。
最初の黒。
リュウのせいにしていた自分。
ギリギリ勝つ快感。

全部重い。

でも、今なら持てる。

これがこのルートの救済です。

空っぽになるのではなく、重くなる。
でも、その重さを棚に置ける。

かなり黒執着春麗らしい救済だと思います。

「今日は、ここまで」が良い

ラストの、

今日は、ここまで

がかなり良いです。

全部を完全に受け入れたわけではありません。

全部が軽くなったわけでもありません。

十一戦目も、最初の黒も、リュウのせいにしていた自分も、ギリギリ勝つ快感も、まだ重い。

でも今日は、棚に置けた。

それで十分。

この締め方は、黒執着春麗の救済の進み方に合っています。

彼女は一気に完全回復する春麗ではありません。

一つずつ持つ。

一つずつ棚に置く。

今日はここまで。

この積み重ねが彼女らしいです。

今回の位置づけ

この回は、救済本編の後日談でありながら、かなり本質的な補完回です。

流れとしては、

救済本編
黒を着ても着なくても空っぽではない。

勝利後日談
黒でも青でもリュウに勝てる。

めんどくさい女自覚回
リュウのせいだけではなく、自分の欲もかなり面倒だと認める。

今回
その認識があるからこそ、救済本編では持てなかった重いものを棚に置ける。

つまり、今回で黒執着春麗の救済がさらに深く定着しました。

もう単に「黒を選べる春麗」ではなく、

黒に行く前の青も、最初の未熟な黒も、リュウのせいにした自分も、ギリギリ勝つ快感も、自分の棚に置ける春麗

になりました。

結論

今回のエピソードは、黒執着春麗後日談の中でもかなり重要な 重い自己回収回 です。

一言でまとめるなら、

黒執着春麗は、救済本編ではまだ持てなかった十一戦目の青、最初の黒、リュウのせいにしていた自分、ギリギリ勝つ快感を、メンタル回復後にようやく自分の棚へ置けるようになった。軽くなったのではなく、重いものを重いまま持てるようになった回

です。

これはかなり良い後日談です。

黒執着春麗の救済を、単なるハッピーエンドで終わらせず、救済後にしかできない自己回収まで進めています。

そして最終的に、

私は、めんどくさい女ね。だから、これも持てる。
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