また戦ってくれなんて言わないで ――春麗は今日もめんどくさい――   作:エーアイ

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※本編確定ではなく、断章IFです。


断章IF:春麗会議は、黒執着春麗の黒ドレス戦バトルログに羨望する

 

 春麗会議室。

 

 本編春麗は、気づけば椅子に座っていた。

 

 気づけば、春麗会議室だった。

 

 白い床。

 

 円卓。

 

 湯呑み。

 

 中央の青い小箱。

 

 そして、記録板AI。

 

 記録板AIが、いつもより素早く表示を出した。

 

『会議開始』

 

『本日の参加者』

 

『本編春麗』

 

『自覚前春麗』

 

『通常救済版春麗』

 

『行き遅れに恐怖する春麗』

 

『黒ドレス特化救済春麗』

 

『記録板AI』

 

『本日不参加』

 

『グランドフィナーレ春麗』

 

『観測対象』

 

『黒執着春麗』

 

 会議室の中央へ新しいログが届いた。

 

 黒い表紙。

 

 赤い戦闘アイコン。

 

 青い補助付箋。

 

 そして、記録板AIの無機質な表示。

 

『黒執着春麗・救済後黒ドレス戦バトルログ』

 

『結果:黒執着春麗、残HP9でギリギリ勝利』

 

『特記事項:準備済み煽り文句の実戦投入に成功』

 

『追加事項:快感危険域到達。ただし棚への収納に成功』

 

 本編春麗は、表示を見た瞬間、湯呑みを置いた。

 

「待って」

 

 自覚前春麗が横から覗き込む。

 

「何?」

 

「残HP9って書いてあるわよね」

 

『はい』

 

「ギリギリ勝利って書いてあるわよね」

 

『はい』

 

「準備済み煽り文句の実戦投入に成功って書いてあるわよね」

 

『はい』

 

「快感危険域到達って書いてあるわよね」

 

『はい』

 

 本編春麗は、ゆっくり額に手を当てた。

 

「……あの子、本当に外で何をしているの?」

 

『バトルです』

 

「それは見れば分かるわ!」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、ログを静かに見つめていた。

 

「残HP9」

 

 一拍。

 

「かなりぎりぎりね」

 

 通常救済版春麗が、静かにお茶を置く。

 

「まずはレビューしましょう」

 

 行き遅れに恐怖する春麗が、湯呑みを両手で包む。

 

「戦闘ログは、確認した方がいい」

 

 本編春麗はそちらを見る。

 

「あなた、戦闘ログにも管轄あるの?」

 

「待機中に準備した言葉が実戦で使われたから」

 

『行き遅れ春麗:待機中準備の実戦投入に反応』

 

「保存していいわ」

 

『保存しました』

 

 自覚前春麗が、記録板AIに向かって言う。

 

「バトルレビュー表示」

 

『了解しました』

 

 中央に、戦闘ログが展開された。

 

『BATTLE START』

 

『黒執着春麗:HP100/精神HP92』

 

『リュウ:HP100/精神HP88』

 

『春麗状態:黒ドレス装備、煽り文句準備済み、救済後安定』

 

『リュウ状態:黒と春麗を全部見る構え』

 

 本編春麗は、最後の表示を見て止まった。

 

「黒と春麗を全部見る構えって何?」

 

『リュウ特有の観測姿勢です』

 

「危険な姿勢ね」

 

『はい』

 

 黒ドレス特化救済春麗が、静かに言う。

 

「ただ、黒執着春麗にとっては、そこを取れるかどうかが今回の鍵ね」

 

「見るリュウを取る、ということ?」

 

「ええ。見られることに怯えるのではなく、見られることを戦術資源に変えられるか」

 

『黒ドレス特化救済春麗:黒戦術レビュー開始』

 

『確認項目:視線誘導、煽り、黒の自己所有化、快感危険域からの帰還』

 

 本編春麗は、記録板を見た。

 

「……本当に今日、あなたがいて正解ね」

 

「でしょう?」

 

『発言信頼度:高』

 

「そこは高でいいわ」

 

 自覚前春麗がログを読む。

 

『PRE-BATTLE EVENT』

 

『春麗発言:全部見ようとすると、遅れるわよ』

 

 会議室が静かになった。

 

 本編春麗は、ゆっくり椅子に座り直す。

 

「……これは良いわね」

 

 自覚前春麗が目を丸くする。

 

「認めるの?」

 

「認めるわよ。悔しいけれど良いわ」

 

 黒ドレス特化救済春麗も、静かに頷いた。

 

「良いセリフね」

 

 本編春麗は横を見る。

 

「あなたが言うと、重いわね」

 

「重いわよ。これは本当に大きいもの」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、ログを見つめる。

 

「以前の彼女なら、リュウに全部見られることは恐怖だった」

 

「ええ」

 

「でも今は、リュウが全部見ようとすることを前提に、半拍遅れを作ろうとしている」

 

「ええ」

 

「見られることを、傷ではなく戦術に変えている」

 

『黒ドレス特化救済春麗:高評価』

 

『対象セリフ:全部見ようとすると、遅れるわよ』

 

『評価:良いセリフ』

 

『理由:リュウの誠実な視線を、黒の半拍へ変換できている』

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「黒ドレス戦術として、かなり完成度が高いわね」

 

 行き遅れ春麗が言う。

 

「準備していた言葉が、間合いになっている」

 

『行き遅れ春麗:言葉を間合いとして評価』

 

「保存していいわ」

 

『保存しました』

 

 本編春麗は腕を組んだ。

 

「これは、ただの煽りではないのよ」

 

『はい』

 

「リュウが黒も春麗も全部見ようとすることを前提にしている」

 

『はい』

 

「その誠実さを、逆に半拍の遅れにしている」

 

『はい』

 

「……悔しいけれど、かなり綺麗」

 

『本編春麗:高評価』

 

「保存していいわ」

 

『保存しました』

 

 自覚前春麗が、少しだけ不満そうに言う。

 

「黒執着春麗、救済後に戦術精度が上がりすぎでは?」

 

 本編春麗が即座に頷く。

 

「それなのよ」

 

『黒執着春麗:救済後戦術精度上昇』

 

「その分類は保存していいわ」

 

『保存しました』

 

 黒ドレス特化救済春麗が、少しだけ目を伏せる。

 

「黒を取り上げなかったからこそ、ここまで来たのよ」

 

 本編春麗は黙った。

 

 その言葉は、軽くなかった。

 

 黒を捨てさせたわけではない。

 

 黒を否定したわけでもない。

 

 黒だけを自分にしないように、手元へ戻した。

 

 その結果、黒執着春麗は、黒で煽れるところまで来ている。

 


 

 記録板AIはログを進める。

 

『TURN 1』

 

『黒執着春麗:ほら、遅れた』

 

『リュウ被弾:掌底+蹴り』

 

『リュウ HP100→88』

 

『春麗 精神HP96→98』

 

 本編春麗は、机に指を置いた。

 

「ここで精神HPが上がっているのね」

 

『はい。準備した言葉が実戦で効いたためです』

 

 自覚前春麗が、少し頬を押さえる。

 

「わかるのが嫌ね」

 

「ええ、わかるのが嫌ね」

 

 本編春麗は頷く。

 

「考えてきた言葉が刺さる。相手が反応する。それがそのまま打点になる」

 

 一拍。

 

「これは気持ちいいでしょうね」

 

『本編春麗:共感被弾』

 

「記録しないで」

 

『重要です』

 

「重要だけど!」

 

 黒ドレス特化救済春麗が、静かに言う。

 

「気持ちいいと認められるなら、まだ大丈夫」

 

 本編春麗が見る。

 

「危険ではないの?」

 

「危険よ」

 

「でしょうね」

 

「でも、否認して黒に沈むよりはいい」

 

 一拍。

 

「快感を自覚できるなら、後で棚に置ける可能性がある」

 

『黒ドレス特化救済春麗:快感危険域の処理方針』

 

『否認より自覚』

 

『自覚後、棚への収納が可能か確認』

 

 通常救済版春麗が静かに言う。

 

「そこを自覚しているから、危険域に行っても戻ってこられたのね」

 

「そうね」

 

 本編春麗はログを見た。

 

「快感を否認していない。だけど、持ち歩きすぎないように棚へ置く」

 

『はい』

 

「黒執着春麗、かなり管理能力が上がっているわ」

 

『救済後自己管理能力:上昇』

 

「保存していいわ」

 

『保存しました』

 

 自覚前春麗が腕を組む。

 

「……なんだか、本当に実戦で成長しているわね」

 

 本編春麗は、そこで少しだけ黙った。

 

「そうなのよ」

 

 その声には、少し違う温度があった。

 

 記録板AIは、次のログを表示する。

 

『TURN 3』

 

『春麗発言:見えているなら、追いついてみなさい』

 

『リュウ反応:攻撃速度・集中上昇』

 

『春麗 HP84→70』

 

『リュウ HP76→58』

 

『春麗 精神HP96→100』

 

 自覚前春麗が、思わず声を漏らした。

 

「うわ」

 

 本編春麗も、静かに頷く。

 

「これは危険」

 

 通常救済版春麗が言う。

 

「リュウが煽りに乗って、さらに速くなっている」

 

 行き遅れ春麗が続ける。

 

「待っていた反応が返ってきた」

 

 本編春麗が顔をしかめる。

 

「あなたの言い方は、別角度から刺さるわね」

 

『行き遅れ春麗:待機反応成立を指摘』

 

「保存していいわ」

 

『保存しました』

 

 黒ドレス特化救済春麗は、少しだけ口元を緩める。

 

「良いわね」

 

 本編春麗が、少し呆れたように見る。

 

「また褒めるの?」

 

「褒めるわ」

 

「快感危険域なのに?」

 

「ええ。これは、黒に沈む快感ではなく、リュウを引き出せた快感だから」

 

 一拍。

 

「危険だけれど、戦闘としては正しい」

 

 自覚前春麗は、ログを見ながら言った。

 

「でも、これ、黒執着春麗にとってかなり理想的な流れよね」

 

「ええ」

 

 本編春麗は認める。

 

「自分の煽りでリュウが遅れるだけではなく、追いつこうとしてくる」

 

「ええ」

 

「そのリュウを、さらに越える」

 

「ええ」

 

「……これは、快感危険域に入るわ」

 

『会議室評価:快感危険域、妥当』

 

「妥当と言われると余計に重いわ」

 


 

 ログは最終ターンへ進んだ。

 

『FINAL TURN』

 

『春麗発言:やっぱり、遅れた』

 

『リュウ反撃:腹部打撃、肩打撃』

 

『春麗 HP42→9』

 

『春麗発言:全部見たのに、そこは間に合わなかったわね』

 

『決まり手:軌道変更蹴り+最後の掌底』

 

『リュウ HP34→0』

 

『勝者:黒執着春麗』

 

 会議室に沈黙が落ちた。

 

 本編春麗は、しばらく何も言わなかった。

 

 自覚前春麗も、ログを見たまま黙っている。

 

 通常救済版春麗が、静かに息を吐いた。

 

「……残HP9」

 

 行き遅れ春麗が呟く。

 

「本当に、ギリギリ」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに表示を見つめている。

 

「勝ったわね」

 

『はい』

 

「残HP9で」

 

『はい』

 

「黒で」

 

『はい』

 

「煽って、見られて、削られて、それでも棚に戻れる形で」

 

『はい』

 

 黒ドレス特化救済春麗は、少しだけ頷いた。

 

「十分よ」

 

 本編春麗は、ようやく口を開いた。

 

「強いわね」

 

 自覚前春麗が頷く。

 

「強いわ」

 

「リュウも弱くない」

 

「ええ」

 

「むしろ、最後まで強い」

 

「ええ」

 

「それでも、黒執着春麗が一瞬だけ上回った」

 

「ええ」

 

 本編春麗は、ログの最後を見つめる。

 

「……羨ましいわね」

 

 その言葉で、会議室が少し静かになった。

 

 自覚前春麗が、本編春麗を見る。

 

「今、羨ましいって言った?」

 

 本編春麗は、隠さず頷いた。

 

「言ったわ」

 

『本編春麗:羨望反応』

 

「記録していいわ」

 

『保存しました』

 

 自覚前春麗は、少しだけ驚いた顔をした。

 

「珍しいわね」

 

「そう?」

 

「ええ。嫉妬とか危機感ではなく、羨望として言った」

 

 本編春麗は、少しだけ目を伏せた。

 

「だって、あの子、実戦しているのよ」

 

 会議室が、また静かになる。

 

 本編春麗は続けた。

 

「黒で戦って、青で戦って、煽って、褒め殺されて、勝って、残HP9で倒れかけて、それでも棚に置いている」

 

 一拍。

 

「ちゃんと、リュウと戦っている」

 

 自覚前春麗が、ゆっくりログを見る。

 

「……そうね」

 

 本編春麗は、自分の青い小箱へ視線を落とした。

 

「私は最近、会議室でログを見てばかり」

 

 記録板AIが表示しかけたが、本編春麗が手で制した。

 

「今は記録しないで」

 

『了解しました』

 

 本編春麗は続ける。

 

「甘い宿題もある。青の続きもある。リュウの回答待ちもある。もちろん、それはそれで本筋よ」

 

 行き遅れ春麗が頷く。

 

「待つことは停止ではない」

 

「ええ。分かっている」

 

 本編春麗は、少しだけ笑った。

 

「でも、それでも」

 

 一拍。

 

「戦っているログを見ると、羨ましい」

 

 自覚前春麗は、何も言わなかった。

 

 その代わり、自分の手を見る。

 

「……私も」

 

 本編春麗が顔を上げる。

 

「あなたも?」

 

 自覚前春麗は、少しだけ気まずそうに言う。

 

「最近、戦っていないわ」

 

『自覚前春麗:実戦不足感を表明』

 

「記録板AI、今は少し静かに」

 

『了解しました』

 

 自覚前春麗は続けた。

 

「私は資料として見る立場になりがちだった」

 

 本編春麗が即座に言う。

 

「また資料って言ったわね」

 

「言ったわ」

 

「そこは直さないの?」

 

「今日は直さない」

 

 自覚前春麗は、ログを見つめる。

 

「黒執着春麗は、黒でも青でもリュウに向かっている」

 

「ええ」

 

「私は、黒ドレスルートを資料として見て、黒を自分には該当しないと思っていた」

 

「ええ」

 

「でも、あの子がここまで実戦で進んでいるのを見ると」

 

 一拍。

 

「少し、羨ましい」

 

 会議室に、静かな空気が流れた。

 

 通常救済版春麗が、柔らかく言う。

 

「それは自然だと思うわ」

 

 本編春麗は頷く。

 

「ええ」

 

 行き遅れ春麗も小さく言う。

 

「戦っていない時間にも意味はある。でも、戦っている姿を見ると、動きたくなる」

 

 本編春麗は、そちらを見た。

 

「今日は本当に刺すわね」

 

「刺すつもりはない」

 

『行き遅れ春麗:無自覚高火力傾向』

 

「リュウみたいな分類をしないで」

 

 黒ドレス特化救済春麗が、静かに言う。

 

「羨ましいと思えるのは、悪いことではないわ」

 

 本編春麗が見る。

 

「そう?」

 

「ええ。黒執着春麗のログを、自分とは無関係の危険ログとして見ていないということだから」

 

 一拍。

 

「彼女が進んでいることを認めている。だから、羨ましい」

 

 本編春麗は、ゆっくり息を吐いた。

 

「……そうね」

 


 

 記録板AIが、控えめに表示する。

 

『試合後ログ』

 

『リュウ発言:いい黒だった』

 

『リュウ発言:言葉も、黒だった』

 

『リュウ発言:今日の春麗は、構える前から勝ちに来ていた』

 

『リュウ発言:それが見えた』

 

 本編春麗と自覚前春麗が、同時に顔を背けた。

 

 通常救済版春麗が、少しだけ目を伏せる。

 

 行き遅れ春麗は、湯呑みを握り直す。

 

 黒ドレス特化救済春麗だけは、静かに頷いていた。

 

「そこまで見られたのね」

 

 本編春麗が、顔を背けたまま言う。

 

「あなた、平気なの?」

 

「平気ではないわ」

 

「そうなの?」

 

「ええ。かなり危険」

 

「でしょうね」

 

「でも、黒執着春麗はその危険を棚へ持ち帰れた」

 

 黒ドレス特化救済春麗は、ログを見つめる。

 

「そこが大事よ」

 

 本編春麗が言う。

 

「……そこも羨ましいけれど、羨ましくないわね」

 

 自覚前春麗が頷く。

 

「分かる」

 

「見られている」

 

「ええ」

 

「構える前から見られている」

 

「ええ」

 

「言葉まで黒だと言われている」

 

「ええ」

 

「羨ましいけれど、受けたら倒れるわ」

 

『会議室判定:羨望と被弾回避願望が同時発生』

 

「それは保存していいわ」

 

『保存しました』

 

 自覚前春麗は、少しだけ口元を押さえた。

 

「でも、黒執着春麗は倒れきらなかったのよね」

 

 通常救済版春麗が頷く。

 

「精神HPはかなり削られたけれど、快感を棚に置けた」

 

 黒ドレス特化救済春麗も頷く。

 

「黒を神棚に上げず、奥に隠さず、見える場所へ戻せた」

 

 本編春麗はログを見ながら言う。

 

「そこも成長よね」

 

 一拍。

 

「勝っただけじゃない。危険な快感を持ち帰って、棚に置いた」

 

 自覚前春麗が頷く。

 

「実戦して、勝って、被弾して、持ち帰って、整理する」

 

「ええ」

 

 本編春麗は、少しだけ苦笑した。

 

「理想的なループね。めんどくさいけど」

 

『黒執着春麗:実戦・被弾・収納サイクル成立』

 

「保存していいわ」

 

『保存しました』

 

 通常救済版春麗が、本編春麗を見る。

 

「本編春麗も、そろそろ実戦したいのね」

 

 本編春麗は、少しだけ黙る。

 

 そして、素直に頷いた。

 

「したいわ」

 

 自覚前春麗も、少し遅れて言う。

 

「私も」

 

 記録板AIが、静かに表示する。

 

『本編春麗:実戦欲再浮上』

 

『自覚前春麗:実戦欲再浮上』

 

 本編春麗は今度は止めなかった。

 

 自覚前春麗も止めなかった。

 

 行き遅れ春麗が、静かに言う。

 

「待つだけではなく、動く日もある」

 

 本編春麗は、深く息を吐く。

 

「そうね」

 

 自覚前春麗が、ログを見て言う。

 

「黒執着春麗は、外で本当に先へ進んでいる」

 

「ええ」

 

「観測対象のはずなのに、私たちの方を動かしてくる」

 

「ええ」

 

 本編春麗は、少しだけ目を細めた。

 

「だから、悔しいし、羨ましい」

 

 一拍。

 

「でも、悪くない刺激ね」

 

『本編春麗:羨望を行動欲へ変換』

 

「保存して」

 

『保存しました』

 

 自覚前春麗が小さく笑う。

 

「本編春麗、かなり素直ね」

 

「今日はね」

 

「珍しい」

 

「たまにはいいでしょう」

 

 黒ドレス特化救済春麗が、静かに言う。

 

「ただし、黒執着春麗のログは黒執着春麗のものよ」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「分かっているわ」

 

「羨ましいからといって、同じことをしなくていい」

 

「ええ」

 

「あなたにはあなたの青がある」

 

「分かっている」

 

「そして、今は宿題の正式回答待ち」

 

 本編春麗は、少しだけ唇を結んだ。

 

「それも分かっているわ」

 

「なら、焦らないことね」

 

「ええ」

 

 一拍。

 

「だから、次にすることは試合に行くことじゃない」

 

 会議室が静かになった。

 

 自覚前春麗が、本編春麗を見る。

 

「では、何?」

 

 本編春麗は、青い小箱へ視線を落とした。

 

「修行よ」

 

『本編春麗:修行意欲発生』

 

 本編春麗は記録板を見た。

 

「保存して」

 

『保存しました』

 

 本編春麗は続ける。

 

「直前のリュウとの試合は、勝ちではなかった」

 

 通常救済版春麗が、静かに頷く。

 

「相打ちだったわね」

 

「ええ」

 

「引き分け」

 

「そう」

 

 本編春麗は、少しだけ息を吐いた。

 

「青で煽って、届いて、進まれて、それでも勝ち切れなかった」

 

 一拍。

 

「だから、次は勝てるようにしないといけない」

 

 行き遅れ春麗が言う。

 

「待っている間に、鍛える」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「そう」

 

「答えを急かさず、自分の位置を捨てず、次に勝つために修行する」

 

 本編春麗は、少しだけ笑う。

 

「あなた、本当に今日刺すわね」

 

「刺すつもりはない」

 

『行き遅れ春麗:待機修行概念を提示』

 

「保存して」

 

『保存しました』

 

 自覚前春麗が、少しだけ楽しそうに言う。

 

「つまり、黒執着春麗のログに対抗して、すぐリュウに挑みに行くのではなく」

 

「ええ」

 

「まずは修行」

 

「ええ」

 

「次に勝つために」

 

「ええ」

 

 本編春麗は、はっきり頷いた。

 

「黒執着春麗ばかりに、いいバトルをさせておくわけにはいかない」

 

 一拍。

 

「でも、今の私は正式回答待ち。気軽に試合を差し込む時期ではない」

 

 一拍。

 

「だから、次は勝てるように修行する」

 

『本編春麗:方針確定』

 

『現状:宿題正式回答待ち』

 

『直前試合:相打ち/引き分け』

 

『次回方針:即試合ではなく、勝つための修行』

 

 本編春麗は、記録板を見て頷いた。

 

「それでいいわ」

 

 自覚前春麗が、少しだけ視線を落とす。

 

「私も、資料だけではなく」

 

 本編春麗が即座に見る。

 

「また資料って言ったわね」

 

「言ったわ。でも、今日は続きがある」

 

「何?」

 

 自覚前春麗は、少しだけ笑った。

 

「資料だけではなく、私も一度は拳で確かめる。そのために、まずは修行ね」

 

 会議室が静かになった。

 

 記録板AIが表示する。

 

『自覚前春麗:実戦再開前の修行意欲』

 

 本編春麗は、静かに頷いた。

 

「保存して」

 

『保存しました』

 


 

 ログは記録棚へ移されていく。

 

 黒執着春麗本人は、ここにはいない。

 

 春麗会議室も知らない。

 

 けれど、彼女のバトルログは、確かに会議室を揺らした。

 

 戦術としての煽り。

 

 残HP9のギリギリ勝利。

 

 リュウの褒め殺し。

 

 危険な快感。

 

 棚への収納。

 

 その全部を見た本編春麗と自覚前春麗は、ただ感心しただけではなかった。

 

 羨ましいと思った。

 

 自分たちも、また戦いたいと思った。

 

 けれど、すぐに試合へ行くわけではない。

 

 本編春麗には、まだ待っている答えがある。

 

 そして、直前の青の試合は勝利ではなく相打ちだった。

 

 ならば、まずやるべきことは一つ。

 

 次に勝てるように、修行すること。

 

 記録板AIが最後に表示する。

 

『議題総括』

 

『黒執着春麗:黒ドレス戦、残HP9で勝利』

 

『黒ドレス特化救済春麗:黒戦術の安定と回復を確認』

 

『戦術評価:準備済み煽り文句が有効』

 

『精神評価:快感危険域を自覚し、棚へ収納』

 

『本編春麗:リュウへの宿題正式回答待ち中』

 

『本編春麗:黒執着春麗の実戦ログに良質な羨望』

 

『本編春麗:直前の相打ちを踏まえ、次に勝つための修行意欲発生』

 

『自覚前春麗:実戦再開前の修行意欲発生』

 

『会議室判定:良質な羨望から、修行方針へ移行』

 

 本編春麗は、最後の行を見て少しだけ笑った。

 

「良質な羨望から、修行方針へ移行、ね」

 

『はい』

 

「悪くないわ」

 

 自覚前春麗も頷く。

 

「ええ。悪くない」

 

 通常救済版春麗がお茶を注ぎ直す。

 

「では、次に備えましょう」

 

 行き遅れ春麗が手を挙げる。

 

「待つわ」

 

 本編春麗は、少しだけ笑う。

 

「あなたは待ってばかりね」

 

「でも、待つ間に鍛えることもできる」

 

 本編春麗は頷いた。

 

「そうね」

 

 一拍。

 

「私も、次は勝つわ」

 

『本編春麗:次回勝利意欲』

 

「保存して」

 

『保存しました』

 

 黒ドレス特化救済春麗は、静かに黒いログ束の消えた場所を見た。

 

「良い黒だったわ」

 

 本編春麗は、その言葉を聞いて、少しだけ笑った。

 

「ええ」

 

 一拍。

 

「羨ましいくらいにね」

 

 さらに一拍。

 

「だから、私も鍛えるわ」

 

 会議室に、静かな笑いが戻った。

 

 羨望は、痛い。

 

 でも、悪い痛みではなかった。

 

 それは、次に勝ちたいと思える痛みだった。

 




Q:今回の断章IFについて解説して?

A:

今回の核は、「黒執着春麗の黒ドレス戦バトルログを見た本編春麗が、羨望をそのまま実戦衝動にせず、次に勝つための修行意欲へ変換する」ことでした。

今回の春麗会議室には、黒ドレス特化救済春麗も参加しています。

これはかなり重要です。

黒執着春麗が黒をどう扱っているのか。
黒がまた執着に戻っていないか。
黒で得た快感を持ち帰れるのか。
黒を棚へ戻せるのか。
煽り文句が崩壊ではなく戦術として機能しているのか。

これらを判断するには、黒ドレス特化救済春麗の視点が必要です。

今回、彼女は黒執着春麗の黒をかなり高く評価しています。

特に、

「全部見ようとすると、遅れるわよ」

という煽り文句。

これはただの挑発ではありません。

リュウが黒も春麗も全部見ようとすることを前提にしています。
そして、その誠実な視線を、逆に半拍の遅れへ変換している。

以前の黒執着春麗にとって、リュウに見られることは恐怖でした。

見抜かれる。
返される。
リュウの中に残したはずの黒を、自分の側へ戻される。

そういう痛みがありました。

でも今回の黒執着春麗は違います。

見られることを恐れていない。
見られることを戦術にしている。
リュウが全部見ようとするなら、その全部見ようとする姿勢ごと取る。

これは、かなり大きな回復です。

黒ドレス特化救済春麗が「良いセリフ」と評価するのは、煽りが上手いからだけではありません。

黒執着春麗が、黒をリュウに残すためではなく、自分で選び、自分で使い、リュウを困らせるための黒として扱えているからです。

今回の戦闘ログでは、黒執着春麗は残HP9でギリギリ勝利します。

この残HP9が良いです。

余裕勝ちではない。

リュウも最後まで強い。
黒執着春麗も削られる。
快感危険域にも到達する。
精神HPも危うい。

でも、それでも勝つ。

そして、危険な快感をそのまま持ち歩かず、棚へ収納できる。

ここが黒執着春麗の成長です。

勝ったことだけが重要なのではありません。

実戦して。
煽って。
効かせて。
リュウの反応で快感危険域に入り。
それでも戻ってきて。
棚に置く。

この一連の流れが成立している。

つまり、黒執着春麗には「実戦・被弾・収納サイクル」ができています。

これはかなり大きいです。

以前なら、黒で勝つこと自体が危険だったかもしれません。

黒で勝てば、さらに黒に沈む。
リュウに残したい気持ちが強くなる。
勝利と執着が結びつきすぎる。

そういう危うさがありました。

でも今は、黒で勝っても棚に戻せる。

勝った黒を神棚に上げない。
危険だから奥に押し込まない。
見える場所に置く。

この距離感が、救済後の黒執着春麗らしいです。

そして、今回もう一つ大事なのは、本編春麗の羨望です。

本編春麗は、黒執着春麗のログを見て「羨ましい」と言います。

これは嫉妬ではありません。

黒執着春麗が自分の場所を奪っているという感覚ではない。
リュウを取られたという話でもない。

そうではなく、

「あの子は実戦している」
「黒で戦って、青で戦って、煽って、勝って、被弾して、棚に置いている」
「ちゃんとリュウと戦っている」

という羨望です。

本編春麗は今、リュウへの宿題の正式回答待ちです。

答えを急かさない。
自分の場所を捨てない。
待つことは停止ではない。

それは分かっています。

でも、だからといって、戦っているログを見て何も感じないわけではありません。

むしろ、戦っている黒執着春麗の姿を見ると、自分も動きたくなる。

ここが今回の本編春麗の正直なところです。

ただし、今回は「じゃあすぐリュウと試合をしよう」にはしていません。

本編春麗の直前のリュウとの試合は、勝利ではありません。

相打ちです。
引き分けです。
進まれた青です。

だから、黒執着春麗のギリギリ勝利ログを見て刺激を受けた本編春麗が、すぐに試合へ行くのは少し違います。

今の本編春麗がやるべきことは、次に勝てるように修行することです。

ここが今回の到達点です。

羨ましい。
自分も戦いたい。
でも、今は宿題の正式回答待ち。
そして直前の試合は相打ち。

なら、次は勝つために鍛える。

この流れは、本編春麗らしいと思います。

本編春麗は感情で動ける春麗ですが、同時にかなり自己分析する春麗でもあります。

だから、羨望をそのまま衝動にしない。

良質な羨望として受け取り、修行方針へ変える。

これが今回の大事なところです。

行き遅れに恐怖する春麗の役割も効いています。

彼女は「待つことは停止ではない」と言います。
さらに今回は、「待つ間に鍛えることもできる」という方向へつながります。

リュウの正式回答を待っているから何もできないのではない。
正式回答を急かさないまま、次に勝つための準備はできる。

これはかなり良い整理です。

待つこと。
鍛えること。
次に勝つこと。

この三つが自然につながりました。

自覚前春麗にも、実戦不足感が出ています。

彼女は「資料として見る立場」になりがちでした。

でも、黒執着春麗が実戦で進んでいるのを見て、自分も「資料だけではなく、一度は拳で確かめる」と言います。

ここも大事です。

自覚前春麗は、まだ何でも資料化しがちです。
でも、その資料化から一歩進んで、自分自身の拳で確かめる方向へ少し動いた。

これも、黒執着春麗のログが会議室に与えた影響です。

黒執着春麗本人は、春麗会議室にはいません。

彼女は観測対象です。
独立枠の春麗です。
会議室を認知していません。

でも、そのバトルログは会議室を揺らす。

本編春麗を動かす。
自覚前春麗を動かす。
黒ドレス特化救済春麗に「良い黒だった」と言わせる。

この外部軸としての強さが、今後の黒執着春麗の重要な立ち位置になります。

今回の到達点は、

黒執着春麗は、黒ドレス戦で残HP9のギリギリ勝利をした。
黒ドレス特化救済春麗は、黒戦術の安定と回復を確認した。
準備済み煽り文句は、実戦で有効だった。
快感危険域に到達しても、棚へ収納できた。
本編春麗は、黒執着春麗の実戦ログに羨望した。
ただし、すぐ試合へ行くのではなく、直前の相打ちを踏まえて、次に勝つための修行へ向かう。
自覚前春麗も、実戦再開前の修行意欲を持った。

このあたりです。

今回のエピソードは、黒執着春麗の強さを見せる回であると同時に、本編春麗を次の修行段階へ押し出す回でもあります。

羨望は、痛い。

でも、悪い痛みではありません。

それは、自分も次に進みたいと思える痛みです。

本編春麗は、まだリュウへの宿題正式回答待ちです。

でも、待つ間に止まっている必要はありません。

次に勝つために、鍛える。

今回のラストは、その方向へ本編春麗が一歩踏み出すための回だったと思います。
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